第12回講義資料

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Transcript 第12回講義資料

法学部 1年生配当科目 民法入門
第12講
事務管理と不当利得
大阪大学大学院国際公共政策研究科
教 授
大久保 邦彦
1
財産法の基本構造
給付利得
事務管理
支出
利得
D
管理
無効
取消し
A
交換
支
配
物権法
甲
契約法
B
物権的請求権
侵害利得
支
配
乙
不法
行為
侵害
C
2
委 任
3
委 任(民643)
委任は、
委任者
受任者
当事者の一方が
法律行為をすることを相手方に委託し、
相手方がこれを承諾することによって、
その効力を生ずる。
無償が原則(民648Ⅰ)
4
保証の基本構造
債権者
G
消
費
貸
借
主たる
債務者
S
主
保証契約
た
る
債
保証債務
務
「保証人になってください」
委任契約
保
証
人
B
5
移転登記の方法
登記所
登記申請
X
司法書士
代理権授与
Z
代理権授与
Y
6
準委任(民656)
この節の規定は、
法律行為でない事務の委託
について準用する。
7
受任者の義務
出典: 潮見佳男『債権各論Ⅰ契約法・事務管理・不当利得』(新世社・2005)218-223頁
1.
2.
3.
4.
5.
6.
善管注意義務(民644)
忠実義務
委任者の指図に従う義務
自己執行義務
(経過及び顚末)報告義務(民645)
財産の分別管理義務
① 受取物などの引渡義務(民646Ⅰ)
② 取得した権利の移転義務(民646Ⅱ)
③ 金銭消費の責任(民647) 民419の特則
8
受任者の権利
1.報酬請求権(民648)
2.費用前払請求権(民649)
3.費用償還請求権(民650Ⅰ)
4.代弁済請求権(民650Ⅱ)
5.損害賠償請求権(民650Ⅲ)
9
事務管理
10
事務管理(民697Ⅰ)
義務なく他人のために事務の管理を
始めた者(以下この章において「管
理者」という。)は、
その事務の性質に従い、最も本人の
利益に適合する方法によって、その
事務の管理(以下「事務管理」とい
う。)をしなければならない。
11
DがA宅の窓を修理した
台風
D
修
A宅
理
12
第三者弁済(民474)
G
抵当権
原債権
第三者弁済
弁済による代位
D
求償権
S
13
委託なき保証(民462)
債権者
G
主
た
る
債
務
消
費
貸
借
主たる
債務者
S
保証契約
保証債務
事務管理
保
証
人
B
14
「事務管理」の意味
隣人愛? 余計なおせっかい?
「事務管理」=
フランス語の Gestion d’affaires の訳語
「事務(affaires)」=
「こと」「しごと」「用」という広い意味の言葉
「管理」=処理
ドイツ語では「委任なき事務処理」
15
事務管理の要件
① 他人の事務の処理(民697Ⅰ)
② 他人のためにする意思=管理意思
(民697Ⅰ)
③ 法律上の義務の不存在(民697Ⅰ)
④ 本人の意思に反し、又は、
本人に不利であることが
明らかでないこと(民700但)
16
民法702条
① 管理者は、本人のために有益な費用を支出した
ときは、本人に対し、その償還を請求することが
できる。
② 第650条第2項の規定は、管理者が本人のため
に有益な債務を負担した場合について準用する。
③ 管理者が本人の意思に反して事務管理をし
たときは、本人が現に利益を受けている限
度においてのみ、前2項の規定を適用する。
17
①事務の他人性
1. 客観的自己の事務
⇒他人の事務にならない。
2. 客観的他人の事務
⇒管理意思が事実上推定される。
3. 中性の事務
⇒管理意思があれば、他人の事務となる。
18
大
雨
②管理意思
甲地
(A所有)
自己のためにする意思
と併存してもよい
乙地(B所有)
19
③公法上の義務
国家
公 法
船長
船員法14条本文
(遭難船舶等の救助)
船長は、他の船舶又は航空機の
遭難を知つたときは、人命の救助に
必要な手段を尽さなければならない。
私 法
遭難者
20
④違法な意思
自殺者の救助
21
事務管理の関係者
本人
内部 関係
外部関係
管理者
契 約
相手方
22
事務管理の効果
A) 対内的効果
①違法性阻却=不法行為にならない
②管理者の義務
委任との違い
③本人の義務
B) 対外的効果⇒代理権はない
本人の名における行為=無権代理
23
A)②管理者の義務
1.
2.
3.
4.
5.
注意義務(民697-698)
通知義務(民699)
管理継続義務(民700)
報告義務(民701→645)
受取物引渡義務・権利移転義務
(民701→646)
6. 金銭消費の責任(民701→647)
24
受任者の権利
1.報酬請求権(民648)
2.費用前払請求権(民649)
3.費用償還請求権(民650Ⅰ)
4.代弁済請求権(民650Ⅱ)
5.損害賠償請求権(民650Ⅲ)
25
A)③管理者の権利
1.費用償還請求権(民702Ⅰ)
2.代弁済請求権
(民702Ⅱ→650Ⅱ)
報酬請求権はない
損害賠償請求権はない
26
商法800条
船舶又ハ積荷ノ全部又ハ一部カ
海難ニ遭遇セル場合ニ於テ
義務ナクシテ之ヲ救助シタル者ハ
其結果ニ対シテ
相当ノ救助料ヲ請求スルコトヲ得
27
警察官の職務に協力援助した
者の災害給付に関する法律2Ⅰ
職務執行中の警察官がその職務執行上の必要により援助
を求めた場合その他これに協力援助することが相当と認
められる場合に、職務によらないで当該警察官の職務遂
行に協力援助した者がそのため災害を受けたとき、又は
政令で定める場所以外の場所において、殺人、傷害、強
盗、窃盗等人の生命、身体若しくは財産に危害が及ぶ犯
罪の現行犯人がおり、かつ、警察官その他法令に基き当
該犯罪の捜査に当るべき者がその場にいない場合に、職
務によらないで自ら当該現行犯人の逮捕若しくは当該犯
罪による被害者の救助に当つた者(政令で定める者を除
く。)がそのため災害を受けたときは、国又は都道府県は、
この法律の定めるところにより、給付の責に任ずる。 28
不当利得
29
不当利得の要件・効果
民法703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務
によって利益を受け、そのために他人に
損失を及ぼした者(以下この章において
「受益者」という。)は、
その利益の存する限度において、これを
返還する義務を負う。
30
悪意の受益者(民704)
悪意の受益者は、その受け
た利益に利息を付して返還し
なければならない。
この場合において、なお損害
があるときは、その賠償の責
任を負う。
31
不当利得の要件・効果
法律上の
原因なく
(不当)
要
件
受
益
因
果
関
係
関
連
性
効
果
損
失
不
当
利
得
返
還
請
求
権
32
不当利得の本質・機能
衡平説
類型論
33
類型論
不当利得をいくつかの類型に分け、
それぞれについて、独自の要件・
効果を考えていこうとする立場。
 類型の分け方と類型の名称は、論者
によって異なり、混乱状況にある。
 今日の通説である。

出典: 沢井裕『テキストブック事務管理・不当利得・不法行為〔第3版〕』27頁
34
不当利得の類型論
給付利得
特則①:非債弁済(民705-707)
特則②:不法原因給付(民708)
侵害利得
支出利得
費用利得
求償利得
35
3類型の区別
不当利得
あり
給付
なし
出捐
なし
あり
給付利得
支出利得
侵害利得
36
財産法の基本構造
給付利得
事務管理
支出
利得
D
管理
無効
取消し
A
交換
支
配
物権法
甲
契約法
B
物権的請求権
侵害利得
支
配
乙
不法
行為
侵害
C
37
支出利得
38
費用利得の具体例
台風
D
修
A宅
理
39
求償利得の具体例
G
第三者弁済
D
求償権
S
40
支出利得を支える原理
① 割当内容違反【要件面】
侵害利得と異ならない。
② 利得の押しつけ防止【効果面】
ひとは、有意的行為をなすに際し、
自己の目的を追求することによって、本人が
予定するか、社会観念上本人の支出が期待
される費用を超えてまで、返還すべき利得を
他人(受益者)に押しつけるべきでない。
出典: 四宮和夫『事務管理・不当利得』52頁注(1)
41
事務管理との関係
事務管理も成立することが多い。
 事務管理と不当利得とが
並存するときは、
請求権競合問題を生じ、結局は、
事務管理法のみが適用される。

42
事務管理の要件
① 他人の事務の処理(民697Ⅰ)
② 他人のためにする意思=管理意思
(民697Ⅰ)
③ 法律上の義務の不存在(民697Ⅰ)
④ 本人の意思に反し、又は、
本人に不利であることが
明らかでないこと(民700但)
43
給付利得
44
債 権
特定人(債権者)が、
特定の他人(債務者)に対して、
一定の行為(給付・給付行為)を請求し、
その行為(給付)のもたらす
結果ないし利益(給付結果)を、
当該債務者に対する相対的関係において、
適法に保持しうる権利
45
給付利得の機能
誤って実行された給付の巻き戻し
債
権
者
G
給付は
金銭の支払いに
給 付
限られない
債
務
者
S
46
贈与契約の無効・取消し
所 所有権移転債務
贈
与
者
S
占 引 渡 債 務
受
贈
者
G
47
給付利得の要件
法律上の
原因なく
(不当)
要
件
受
益
因
果
関
係
関
連
性
損
失
債権が
ないのに
Sの元にあるべき物が
Gのところにあることが、
Gの受益であり、
Sの損失である。
給付の実行
48
有
不当利得の効果 過
失
返還義務の対象
の
原 則:受益の原物返還
場
例 外:受益の価格返還
合
返還義務の範囲
?
 原
則:受益の全部返還




例外①:善意の受益者の責任軽減(民703)
例外②:悪意の受益者の責任加重(民704)
49
善意の受益者の責任軽減
(民703)
「受益」の「法律上の原因の存在」に対する信頼保護
 肯定例:安価で売却、贈与、浪費、破壊
 効果:善意の受益者は利得消滅を援用でき、
取得した代価や「出費の節約」(例、「受益」を贈与
したことにより、別のプレゼントを買わずに済んだ)
の範囲で価格返還すればよい。
 否定例:取得した犬が受益者の絨毯を
噛みちぎった場合の損害
50
悪意の受益者の責任加重
(民704)
「受益」の全部返還義務
 善管注意義務⇒
債務不履行による損害賠償(民415)
 利息支払義務(民704前)
 損害賠償責任(民704後)

不法行為責任
51
双務契約の無効・取消し
52
物権的請求権投入の可能性もあるが・・・
具体例
所
売
主
X
所
給付利得返還請求権
占
取消し
登
給付利得返還請求権
金
買
主
Y
給付利得返還請求権
53
表見的法律関係
表見的法律関係=
給付の基礎となった法律関係
ex. 契約、物権行為、家族法上の行為・・
 給付利得の効果には、
表見的法律関係が反映する。
まずは、双務有償契約を念頭に置く。

54
契約法理
契
約
当
事
者
X
当事者間の公平を考慮する
契
約
当
事
者
Y
55
契約法理と物権法理
物権
法理
法理
契約
法理
56
物権的請求権の投入は不適切
同時履行の抗弁権
所
同
時
履
行
の
抗
弁
権
売
主
X
所
給付利得返還請求権
占
取消し
登
給付利得返還請求権
同時履行
金
給付利得返還請求権
買
主
Y
同
時
履
行
の
抗
弁
権
57
給付の本体
58
狭義の非債弁済(民705)
債務の弁済として給付をした
者は、その時において債務の
存在しないことを知っていたと
きは、その給付したものの返
還を請求することができない。
59
不法原因給付(民708)
不法な原因のために給付をし
た者は、その給付したものの返
還を請求することができない。
ただし、不法な原因が受益者に
ついてのみ存したときは、この
限りでない。
60
給付の本体
1. 給付の本体の消費・譲渡
⇒侵害利得のときと同様に考えればよい。
(権利継続効的請求権)
① 民703(利得消滅の抗弁)は不適用。
② 民121但の特則は適用されうる。
2. 給付の本体の滅失・損傷⇒後述
3. 給付の本体=労務給付のとき
⇒最初から価格返還のみが問題となる。
61
危険負担(民534Ⅰ)
所 所有権移転債務
売
主
火事 X
占 引 渡 債 務
?
買
主
Y
代金支払債務 金
62
危険負担
所
買
主
火事 Y
100万円
占 不当利得返還債務
?
不当利得返還債務 金
100万円
売
主
X
63
危険負担
(買主の債務が未履行の場合)
所
買
主
火事 Y
占 不当利得返還債務
?
価格返還義務?
金
売
主
X
64
危険負担
所
買
主
火事 Y
120万円
80万円
100万円
占 不当利得返還債務
20万円
?
不当利得返還債務 金
100万円
20万円
売
主
X
65
債務不履行
帰
責
事
由
善意のとき?
買
主
火事 Y
所
占 不当利得返還債務
損害賠償債務
売
主
X
不当利得返還債務 金
出典: 加藤雅信『財産法の体系と不当利得法の構造』(有斐閣・1986)374頁、449-450頁、磯村保・私法48号47頁
66
物権法理による解決
所
買
主
火事 Y
占
所有主が
危険を負う
売
主
X
不当利得返還債務 金
67
果実・使用利益・利息
68
果実=利息=使用利益
69
民法575条
① まだ引き渡されていない売買の目的物
が果実を生じたときは、その果実は、売
主に帰属する。
② 買主は、引渡しの日から、代金の利息
を支払う義務を負う。ただし、代金の支
払について期限があるときは、その期
限が到来するまでは、利息を支払うこと
を要しない。
70
解除の効果(民545)
① 当事者の一方がその解除権を行使したとき
は、各当事者は、その相手方を原状に復さ
せる義務を負う。ただし、第三者の権利を害
することはできない。
② 前項本文の場合において、金銭を返還する
ときは、その受領の時から利息を付さなけ
ればならない。
③ 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げな
い。
71
不当利得の要件・効果
民法703条
法律上の原因なく他人の財産又は労務
によって利益を受け、そのために他人に
損失を及ぼした者(以下この章において
「受益者」という。)は、
その利益の存する限度において、これを
返還する義務を負う。
72
悪意の受益者(民704)
悪意の受益者は、その受け
た利益に利息を付して返還し
なければならない。
この場合において、なお損害
があるときは、その賠償の責
任を負う。
73
買主Yが錯誤による
無効を主張した場合
所
占
売
主
X
登
金
買
主
Y
錯
誤
者
善
意
の
受
益
者
74
買主Yが強迫により
取り消した場合
所
占
売
主
X
登
金
買
主
Y
被
強
迫
者
悪
意
の
受
益
者
75
結 論
錯誤者より、被強迫者の方が、保護に値する。
 しかし、民703、704を文言どおり適用する
ならば、被強迫者のほうが、
重い責任を負わされる。
 したがって、表見的法律関係が有償契約の
場合は、善意・悪意で区別をすべきでない。
 果実・使用利益・利息は、
常に全額返還させるべきである。

76
特殊の給付利得
77
給付利得の要件
法律上の
原因なく
(不当)
要
件
受
益
因
果
関
係
関
連
性
損
失
債権が
ないのに
Sの元にあるべき物が
Gのところにあることが、
Gの受益であり、
Sの損失である。
給付の実行
78
非債弁済
79
「非債弁済」の意義
①弁済のために
給付が行われたが
債務が存在しなかった場合
②民705-707の場合
③民705の場合
80
狭義の非債弁済(民705)
債務の弁済として給付をした
者は、その時において債務の
存在しないことを知っていたと
きは、その給付したものの返
還を請求することができない。
81
立法趣旨


信義則(1Ⅱ)により「自己の行為に矛盾した
態度をとることは許されない」から、給付者の
要保護性が欠けることに求められ、受領者の
給付保持に対する信頼は要求されない。
給付者の受領者に対する贈与という構成も
一部で主張されているが、請求権の排除の
ために受領者の受諾は必要ない。
82
民705の不適用


知って弁済したことを正当と是認し
うるような事情が存在する場合
地代家賃統制令による統制額を超
過する家賃であることを知りながら、
借家人が債務不履行による責任を
問われるのを避けるためにやむな
く請求額を支払ったとき
83
不法原因給付
84
不法原因給付(民708)
不法な原因のために給付をした
者は、その給付したものの
返還を請求することができない。
ただし、不法な原因が受益者に
ついてのみ存したときは、
この限りでない。
85
具体例
公序良俗違反
賭
博
の
敗
者
金
X
X
不法原因給付
賭
博
の
勝
者
86
不法原因給付(民708)
給付利得の特則
不法な行為に手を染めた者は、
法的救済を求めることができないという
クリーン・ハンズの原則に基づく。
但書に注意!
87
二面的正当化原理
X
権利
義務
利益
負担
機会
危険
Xに
有利な効果が
帰属する理由
Y
Yに
不利な効果が
帰属する理由88
不法原因給付の要件
「不法」=公序良俗違反との関係?
「給付」(建物贈与に関する)
建物が未登記のとき⇒引渡しで足りる
建物が既登記のとき⇒登記移転も必要
但書:受益者の不法>給付者の不法
ならば、返還請求が認められる。
89
公序良俗違反
取締法規違反
最判S37・3・8
民法708条にいう不法の原因のための給付とは、
その原因となる行為が、強行法規に違反した不適
法なものであるのみならず、更にそれが、
その社会において要求せられる倫理、道徳を無視
した醜悪なものであることを必要とし、
そして、その行為が不法原因給付に当るかどうか
は、その行為の実質に即し、当時の社会生活およ
び社会感情に照らし、真に倫理、道徳に反する醜
悪なものと認められるか否かによつて決せらるべ
きものといわなければならない。
90
公序良俗違反
不 法
91
妾関係維持のため、Aが
未登記建物を妾Bに贈与した
公序良俗違反
所
A
男
X
X
所
妾
B
不法原因給付
92
不法原因給付の効果
(最判S45・10・21)
給付物の所有権の所在
⇒給付物の返還請求ができなく
なったことの反射的効果として、
所有権は受益者に帰属する。
93