心理療法の初期

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Transcript 心理療法の初期

1.前回のまとめ
• 心理療法は治療契約に基づく対人関係である
• 治療契約とは,治療開始時にセラピストとクライエントの間で
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治療目的や方法,ルールを決定することである
治療契約は治療を成立させ,互いを守る上で欠かせない
人間の精神を認知/感情/行動/身体感覚に区別する
認知/感情/行動/身体感覚は互いに影響する
主訴:クライエント自身が苦痛を訴えている問題
認知/感情/行動/身体感覚が症状や問題の形成に影響する
場合があるため,それらを変容させることで,解決する
現実問題が主訴となったり,問題解決の対象となることも多い
心理療法とはなにか
治療者との治療契約に基づく対人関係を介して,
患者の認知/感情/行動/身体感覚に変化を起こさせ,
症状や問題行動を消去もしくは軽減すること。
心理的・行動的な問題を抱えた
人に対する援助方法の一つです
2.心理療法の目的
☆個人が抱える様々な心理的・行動的・感情的問題
☆どうやってそれを改善していく?
心理療法の目指すこと
心理療法
何らかの苦しみを
抱えた人
行動の変容
症状の軽減
どんな人を相手にするのか?
☆サービスを受ける人をどのように呼ぶか
・医療:患者 patient
・心理:クライエント client → 顧客
☆患者:「患う者」 →
顧客:「依頼者」 →
☆医療:
心理:
☆とはいえ,医療現場の心理士は患者とも呼ぶ
→この授業でも,両方使うと思います。
3.心理療法のプロセス
初期
心理査定
治療契約
中期
後期
介入
再発予防
終結
行きつ戻りつ,概ねこのように進む
主治医との会話
Th「先生,Aさんのカウンセリング予約が入っていました。
どういう患者さんなんですか?」
Dr「2ヶ月前から会社を休職していてね。診断は大うつ病
なんだけど,クスリにもあんまり反応しないんだ」
Th「なるほど。どういう目的でカウンセリングを?」
Dr「一つは,治療の足がかりが欲しいってところかな。
もう少し丁寧に問題を見たほうがいいかもしれないか
ら,しっかり査定をして下さい」
Th「わかりました。まずはお会いしてみますね」
主治医はClの情報も求めている。
こまめに報告し,打合せながら進めていく。
心理療法の始まり
・心療内科クリニックに通院している47歳男性
・主治医からの勧めで,心理療法を開始することに
自発的な始まり
心理療法の
始まり方
勧められた始まり
望まない始まり
→どのように始まったか:動機づけに直結
・病院なら,事前にカルテを読み,主治医と打合せ
問題の概要,心理療法の意図,Clの動機づけ等を確認
心理療法の初期:初回面接
☆初回面接:はじめての面接。インテーク面接とも。
☆初回面接から数回の面接ですること
・システムの説明(料金や面接時間等)
・心理療法に対する動機づけを確認する
・主訴とニーズを確認する
・主訴に関する情報を収集する
・会話の特徴を観察しておく
・関係づくりをはじめる
・初回面接で分かったことをまとめて,共有する
→まだ「治療」は始めない。
心理療法の初期
Th「はじめまして,岩佐です。O先生からは,何かカウンセ
リングについての説明を受けていますか?」
Cl「はじめまして。Aです。説明はあんまりないですね」
料金や面接時間,面接間隔などを説明する
Th「今回カウンセリングを受けてみようと思われたのは?」
Cl「もう休職して2ヶ月で,薬もあんまり効いてないので,
なにかキッカケになればと思って,です(淡々と)」
心理療法に対する動機づけを確認しておく
話し方や表情なども,特に重要な情報となる
心理療法の初期:主訴の確認
Th「O先生からもザッと聞いていますが,改めて,今どのよ
うなことに困っているか,教えて下さいますか」
Cl「はい。2ヶ月前に会社を休職したんですが,会社にも行き
たくない状態です。でも,もう2ヶ月ですし,なんとかし
ないとなと思うんですが,思うようにいかなくて」
Th「思うように行かないというのは?」
Cl「会社に行くことを考えると,お腹が痛くなったり,実
際用事があって会社に出向く時なんかは,会社が近づく
に連れて頭痛が激しくなるんです。それで,やっぱり行
けなくて,どうしたら良いのかわからないんです」
主訴:抑うつ症状や身体症状で職場復帰できない
心理療法の初期:ニーズの確認
Th「カウンセリングを受けることで,どうなれば良いと?」
Cl「やる気が出ないので,これをなんとかしたいです。後は
まぁ職場復帰できたら良いかなとも思うんですが,正
直,もう戻りたくない気持ちもあるので,その辺も含め
て自分の考えを整理して,次の一歩に進めたらと」
ニーズ:①やる気が出るようになりたい
②職場復帰のことも含めて,先のことを考えたい
Th「もう戻りたくない気持ちもあるんですね」
Cl「そうなんです。戻っても仕方ないかなって」
ニーズを掘り下げることで,問題の在り処を探っていく
→ただし,ひとまずは主訴周辺の情報収集を優先する
心理療法の初期:主訴周辺の情報
☆まずは「現在」どのような問題を抱えているか調べていく
→現在のことをある程度聞けてから,経緯を聞いていく
Th「まずは,今まさに困ってらっしゃることについて,詳し
く質問させていただきたいのですが,よろしいですか」
「やる気がでないとは具体的にはどういうことですか」
「頭痛や腹痛の強さはどの程度でしょうか」
「やる気や身体症状で,不便になっていることは?」
現在
の
問題
Clによる表現の「中身」
具体化
症状の強さ,頻度,条件
生活上,何が不便か
主訴周辺の情報から分かったこと
☆やる気について
・家でぼんやり過ごす時間が長く,外出する用事が無い
・外出する用事も無いので,身支度するのが面倒になる
・仕事のことを考えると気が重くなるので,考えたくない
・一方で,「やらねば」と考え,焦っている
・特にぼんやり過ごしている時間が一番焦っている
☆頭痛・腹痛について
・腹痛は,すぐにトイレに駆けこみたくなるくらいの強さ
・頭痛はズキズキ激しく,息苦しくなり汗が沢山出る
・仕事に行く準備をし始めると,症状が始まる
・職場に行くのを諦めたり,遠ざかると,直に治る
・薬はほとんど効かない。
主訴周辺の情報から分かったこと
☆生活上の不便さ
・家にこもりがちなので,退屈に感じている
・とにかく,職場に戻れないことが不便である
☆分かったことをまとめてみる:「やる気」の問題
テレビ等で
気を紛らす
「考えたくない」
焦り,不安
気が重い
身支度しない
ぼんやりする
予定がない
外出しない
抑うつ的な悪循環
「復職せねば」
主訴周辺の情報から分かったこと
☆職場に行けないことと,頭痛腹痛の問題
職場に近づく
職場のことを
考える
問題の維持
頭痛
腹痛
職場から離れる
職場のことを
考えない
症状消失
恐怖症的な悪循環:回避行動による問題の維持
どのような経緯で,こういう状態になったのか?
心理療法の初期:問題の経過
☆どのようにして,職場への恐怖症的なパターンができたか
Th「頭痛や腹痛が始まったのはいつ頃ですか」
Cl「ちょうど半年前くらいからですね」
「職場での仕事内容が変わったんですよね。それでやる気
を失ってしまって。すると仕事の出来も悪くなり,よく
上司から怒鳴られるようになったんです」
「どんどん症状は強くなって行きましたね」
「正直戻っても,あの仕事内容では意味が無いというか」
Th「虚しさ,みたいなものがあるんですね」
Cl「はい…なので,復職するかも考えたいんです」
問題の現状や仕組と,ニーズを明らかにする
心理査定とは
☆援助を必要とする人の情報を集め,問題がどのような
もので,その問題を解決するには何が必要か検討する事
☆心理査定の方法
・
:話しあいで情報を収集する
・
:ある条件下での行動を観察する
・
:知能検査や人格検査を行う
☆心理査定の内容
・症状や問題の,発生・維持・悪化のメカニズム
・その人の性格,話し方の特徴,感情的な傾向
・知能等の条件,現実的な生活の様子
等
心理療法の初期:その他の情報
・性格の傾向
→真面目。しかしユーモアもある。職人気質。
「昔から,理想を追い求めたい方でした」
・話し方や感情的な傾向
→淡々としていて,理路整然。感情的な表現は控えめ。
・知的な水準
→検査はおこなっていないが,おそらく高い
・経済的な状況
→十分な貯金があり,かなり余裕がある
・症状の検査:抑うつの検査BDI-II → 中等度の抑うつ状態
心理療法の初期:治療契約
☆問題の共有
Th「ここまでで,やる気に関する悪循環,職場に近づく
ことで生じる身体症状とその背景,仕事に対する虚し
さと意思決定の必要性,などが話されました」
Cl「そうですね。話しているうちにまとまってきました」
☆目標と方法の検討,共有
Th「やる気や身体症状といった問題からも取り組めますし,
それよりもまず意思決定していくこともできそう」
Cl「そうですね。まず先のことを決めたいです」
Th「わかりました。では,次回から始めましょう」
「面接の間隔はどのようにしましょうか」…
何について,どのように取り組むか,可能な限り共有する
心理療法の初期:「治療同盟」
☆効果的な心理療法を行うために,望ましい「関係性」
☆Bordin(1975)による
・
・
・
.
この3つができていると
心理療法の効果が高まる
という研究が数多くある
☆情緒的な絆
→ThとClの間に,温かな信頼関係が築かれていること
→ラポールとも呼ばれる。ある程度信用できる人で
ないと話したくないし,言うことも聞きたくない。
どんなに有効な方法でも,良好な関係が前提
良好な関係を築けることが,心理療法家の条件
治療同盟:良好な治療関係
問
題
パートナーとして
問題と目標を共有し
共に解決に取り組む
問
題
情緒的絆
問題と
目標の
共有
4.今日のまとめ
☆心理療法の目的と対象
・行動変容や症状軽減を通して問題を解決することを援助する
・心理療法では,相手を「患者」でなく「クライエント」として扱う
☆心理療法のプロセス
・初期:心理査定と治療契約 ・中期:介入 ・後期:再発予防と終結
☆心理療法の初期
・システムの説明 ・動機付けの確認 ・主訴とニーズの確認
・主訴周辺の情報収集 ・会話の特徴を調べる ・関係づくりを始める
☆心理査定の方法:①面接法
②観察法 ③検査法
・現在の問題を具体的に聞き,現状を把握する
・問題の経過,維持・悪化メカニズム,性格,生活の様子等を把握する
☆治療同盟:①問題の共有
②目標の共有
③情緒的な絆
→心理療法的な関係性。治療同盟の質が,心理療法の効果を左右する。
☆主訴周辺の具体的情報から問題を図式化して共有する