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無機化学 I 5章
①
共有結合(covalent bond), 共有結合結晶
とカルコゲン、窒素、リン、ヒ素、炭素、ケイ
素、ボロンなどの非金属元素
復習と目標
1)共有結合の典型である水素分子の分子軌道とそ
のエネルギーを、電子間クーロン反発相互作用を無
視した1電子問題として解く。
これらの計算を厳密に解くのは非常に困難であり,解
法の流れと得られる図を重視して説明する。
共有結合で重要な混成を説明する。
2) 純粋な共有結合結晶は、ダイアモンド
(diamond)構造をもつ14(旧Ⅳ)族元素(C, Si, Ge,
Sn)の結晶のみである。Ⅱ族とⅥ(現16)族の化合
物結晶(Ⅱ-Ⅵ化合物)、Ⅲ族とⅤ(現15)族のⅢ-Ⅴ
化合物は、2種元素の電気引性度が違うことにより、
共有結合にイオン結合が加わる。
3)非金属元素のうち
カルコゲン(O, S)、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、炭
素(C)、ケイ素(Si)、ボロン(B)を紹介する
双極子能率(dipole moment)の方向の訂正
マイナスからプラスへのベクトル
極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致しない分
子。双極子能率(dipole moment)を持つ HCl, H2O
Hd+
-
Cld-
双極子能率アリ
Od- = Cd+ = Od双極子能率ナシ
IUPACの定義も調べてみました。
http://goldbook.iupac.org/E01929.html
やはり、ダイポールモーメントはマイナスからプラスへ
の矢印になるようです。
5.1) 水素分子と共有結合
5.1.1) 分子軌道(molecular orbital)の波動関数(wave
function)
●2つの水素原子H・(HA, HBとし、プロトンをa, bとし、それら
の間の距離をRとする)が1個ずつ電子(1,2とする)を出し
合い、それを共有して結合をつくり水素分子ができる(図5.1)。
● rb1
ra1
a
R
図5.1 H2+の陽子a, bと電子1
b
●電子1がHAに、電子2がHBに配置されたHA(1)••HB(2)と、
その逆のHA(2)••HB(1)の2つの中性の状態の他に、電子が
一方から他方に移ったHA+••HB(1,2)とHA(1,2)••HB+のイオ
1
ン性の状態が考えられる。しかし、後者2つのイオン性の状
態は等しい頻度で現れるので電荷が静的に偏在することは
なく、イオン結合性はない。
●2つの近似法(分子軌道法、原子価結合法)で電子軌
道、そのエネルギーが求められるが、ここでは分子軌道
法を用いる。幾つかの仮定により近似を行う。
1. 電子は分子軌道に入る。
2. 位置の定まらない2電子間に働くク-ロン斥力を考慮
するのは非常に面倒なので、無視する。すると、電子1は、
プロトンaおよびbからのクーロン引力ポテンシャル
{(e2/40)[(1/ra1)+(1/rb1)]}
のみを受け、H2+(図5.1)の電子状態となり、1電子問題
としてシュレディンガー方程式を解くことができる。ここで
ra1, rb1は電子1とプロトンa, bの距離である。電子2につ
いても同じである。
3. 分子軌道の波動関数を, 水素原子A、Bの原子軌道波
動関数a、bの線形結合で近似する(原子軌道の線形結合
linear combination of atomic orbital LCAO, 5.1式)
 = caa + cbb
(5.1)
(ca2: 電子がaに見出される確率、 cb2: 電子がbに見出さ
れる確率) 今考えているaとbは、ともに同じ電子状態の
波動関数(ここでは1s軌道)であるから、確率ca2とcb2は等し
く、5.2式が成立する。
ca = cb
(5.2)
従って、5.1式は
 1 = c a(  a +  b )
(5.3)
 2 = c a(  a   b )
(5.4)
5.3式、5.4式の係数は、規格化条件(空間の微小体積をd
として)

*

d


1

(5.5)
より求まり、 1 
2 
1
2(1  S )
1
2(1  S )
( a   b )
(5.6)
( a   b )
(5.7)
である。前者は対称分子軌道、後者は反対称分子軌道であ
る。Sは重なり積分で、原子軌道aとbの重なりを示し、aに
属す電子がbに沁み込む確率振幅である。
(5.8)
S    a *  b d
水素の1s軌道関数(=(a03)1/2 exp (r/a0)、a0 =
h2/42me2 = 0.529108 cm)と重なり積分S = exp
(R/a0)[1 + R/a0 + (R/a0)2/3]、プロトン間の距離R = 1.06 Å
を用いて1(5.6式)と電子の存在確率1*1 = |1|2を図5.2a
に、また、2(5.7式)の場合を図5.2bに示す。
図5.2. a) H2+の対称分子軌道1と電子密度|1|2、b) H2+
の非対称分子軌道2と電子密度|2|2
結論:1では2つのプロトン間の電子密度
は大きく、電子はかなりの時間にわたって2
つのプロトンから同時に引力をうけるので
結合エネルギーが増加し(結合軌道,
bonding orbital)、電子エネルギーは安定
化する。一方、2では2つのプロトン間の中
点で電子密度はゼロであり、2つのプロトン
の外側にはじき出され、電子密度は分子軌
道を作る前より減少し(反結合軌道,
antibonding orbital)、電子エネルギーは
不安定化する。
5.1.2) 分子軌道エネルギー
結合軌道1、反結合軌道2のエネルギー1, 2は波動関数
5.6式、5.7式を、シュレディンガー方程式H = Eに入れて
解けば得られる。ここでのHは5.9式であるが、実際の計算
をしなくとも、5.10-5.13式のような関数を用いるとエネル
ギー準位の状況が簡単に理解できる。
2
2
2
(5.9)
h2
e
e
e
2
H 
8 m
2
 
4 0 ra1

4 0 ra 2

4 0 R
ここで、以下の様にaおよびbの軌道エネルギーを
H aa  H bb    a * H a d    b * H b d
(5.10)
また、軌道間相互作用エネルギーHabを5.11式とする
H ab    a * H b d
(5.11)
1, 2はHaa, Hab, Sを用いて、5.12式、5.13式となる。
H aa  H ab
1 
1 S
H aa  H ab


(5.13)
2
(5.12)
1 S
Haaは、プロトンaとプロトンbがRの距離にあるときの、プ
ロトンaの1s軌道に存在する電子のエネルギーである。
この軌道は、図5.1の様に広がっており、また水素原子
の電子にさらに正電荷が近づいたものであるから、孤立
した水素原子1s軌道エネルギー1sより少し低い(図5.3)。
● rb1
ra1
a
R
図5.1
1s
b
図5.3
Haa
Habはaの電子がbの軌道に飛び移る確率を示し、aとbが接
近して、aとbとの重なりSが大きくなるほど大きな値となる。
1, 2は水素分子イオンの1個の電子軌道であるが、粗い近
似とし、電子が2個ある水素分子においても、2個の電子は水
素分子イオンの分子軌道にあるものと考える。図7.3は2個の
水素原子の電子(エネルギー1s)が分子軌道を形成して1, 2
に分裂し、2個の電子が結合軌道に入り水素分子を形成する
様子を示す。
2
1s
Haa
1
図5.4 1s: 孤立水素原子の軌道エネルギー
Haa:水素分子陽イオンH2+のエネルギー
1:水素分子結合軌道のエネルギー
2:水素分子反結合軌道のエネルギー
概略 2つの軌道の相互作用で、新たに結合軌道と反結合
軌道が形成される
反結合軌道
結合軌道
5.2) 混成と共有結合
5.2.1) 混成(hybridization)
●炭素原子は2s22p2の最外殻電子配置をもち、このままでは2個のp
軌道電子のみが結合に関与した水素との化合物H-C-Hを与えると予
想されるが、実際はメタンを始めとする飽和炭化水素CnH2n+2、エチレ
ンやアセチレンのような2重結合や3重結合を持つ不飽和炭化水素を
与える。これは、図5.6に示す混成軌道を用いて説明された(ポーリン
グ, スレーター)。
2p
2s

1s
図5.5 炭素原子(C)の軌道エネルギー
●1個の2s軌道電子が2pに励起され、あたかも同一のエネ
ルギー軌道(混成軌道)に4個の電子(2s12px12py12pz1)が
あり、飽和炭化水素やダイヤモンドに見られる4本の結合を
持つ化合物(sp3混成という、結合角は10928')、3個の電
子が他の3種の元素と結合するとエチレンのような3本の結
合を持つ化合物(sp2混成という)、2個の電子が他の2種の
元素と結合すると2本の結合を持つアセチレンのような化合
物(sp混成という)を与える。
sp3混成
s
2p

2s
1s
px py pz
混成軌道
1s
sp2混成
sp混成
図5.6炭素の1s22s22p2電子配置とsp(青), sp2(赤), sp3(緑)混成軌道
炭素以外でも価数と結合の方向性から、表5.1、図5.7の
ような混成軌道が得られている。
表5.1
混成の例
混成 形
sp 直線形
sp2
sp3
sp3
d
sp3
d2
角度
180
例
BeCl2 [Be:1s22s21s22s2p],
CH  CH、CO2
平 面 三 120 ベンゼン、ポリアセチレン、黒鉛
(面内)、BF3, SO2, SO3
角形
四面体 1092 ダイヤモンド、BF4、NH3, H2O
8'
三 角 両 90,1 PCl5、SF4、I3
20
錐形
SF6, IF5, PCl6
八面体 90
図5.7
H2O
混成軌道
BeF2(sp), BF3(sp2), メタン(sp3), NH3,
非共有
電子対
BeF2(sp)
NH3(sp3)
BF3(sp2)
CH4(sp3)
H2O(sp3)
図5.7-2
混成軌道
PCl5(sp3d), SF4, I3―, SF6(sp3d2)
SF4(sp3d)
I3(sp3d)
PCl5(sp3d)
SF6(sp3d2)
A) sp3混成
s軌道とp軌道の寄与が1:3である分子軌道の形を考える。軌道の混
成を各軌道の線形結合で表し、4つの独立な(互いに直交している)規
格化された分子軌道を作り、分子軌道への各p軌道の寄与が同等とし
て、そのうちの1つの軌道の向くベクトルをxyz面内の第一象限にすると、
分子軌道は5.14式~5.17式である。
1 = (1/2)(s + px + py + pz)
(5.14)
2 = (1/2)(s – px – py + pz)
(5.15)
3 = (1/2)(s + px – py – pz)
(5.16)
4 = (1/2)(s – px + py – pz)
(5.17)
sp3混成を正四面体混成(tetrahedral hybrid)ともいう(図5.8、各軌道
の成す角は10928')。
図5.8 sp3 混成軌道
B) sp2混成
s軌道とp軌道の寄与が1:2の分子軌道で、寄与するp軌道をpx, pyと
する。3つの同等で独立な混成軌道は、エチレンやベンゼンのように平
面状で、各々が互いに120の角を成すものを考える。4はpz軌道そ
のものである。1をx軸方向の5.18式と定め、2および3軌道の中の
px, pyの係数を規格化と直交の条件より得る。
1 = s/3 + 2px/6
(5.18)
2 = s/3 – px/6 + py/2
(5.19)
3 = s/3 – px/6 – py/2
(5.20)
sp2混成軌道は3方混成(trigonal hybrid)といわれ、各軌道は互いに
120を成す(図5.9)。残りの4 = pz は、1~3が作る平面(xy面)に垂直
に延びている。
2
図5.9 sp2混成軌道(7.18~7.20式)
1
3
1
2
3
C) sp混成
p軌道としてpx軌道を選ぶと、5.21~5.24の4つ分子軌道が得られ、
1と2はxの正、および負の方向に延び、2方混成(diagonal
hybrid)をなし、残りの2つの軌道はy、z軸方向に延びる(図5.10)。
1 = (1/2)  (s + px)
(5.21)
2 = (1/2)  (s – px)
(5.22)
3 = py
(5.23)
4 = pz
(5.24)
図5.10 sp混成軌道(5.21,5.22式)
1
2
5.3) 共有結合半径
共有結合A-Bの結合距離は、A-A, B-B結合距離の算術平均で近似
される(例、C-C(1.54 Å)、Si-Si(2.34 Å)の算術平均1.94 Å 実測CSi距離1.930.03 Å)。従って、A-A, B-B結合距離の1/2がそれぞれA
およびBの共有結合半径となる。
表5.2 ポーリング(上段)メーラー(下段)の共有結合半径(Å)
H ~0.30
Li
1.23
Na
1.57
K
2.03
Rb
2.16
Cs
2.35
Cu 1.35
1.17
Be 1.06
0.89
Mg 1.40
1.36
Ca
1.74
Sr
1.91
Ba
1.98
Zn 1.31
1.25
B 0.88
0.80
Al 1.26
1.25
Ga 1.26
1.25
In 1.44
1.50
Tl 1.47
1.55
Ag 1.52
1.34
C 0.771
0.77
Si 1.17
1.17
Ge 1.22
1.22
Sn 1.40
1.40
Pb 1.46
1.46
Cd 1.48
1.41
N 0.70
0.74
P 1.10
1.10
As 1.18
1.21
Sb 1.36
1.41
Bi 1.46
1.52
Au 1.50
1.34
O 0.66
0.74
S 1.04
1.04
Se 1.14
1.14
Te 1.32
1.37
Hg 1.48
1.44
F 0.64
0.72
Cl 0.99
0.99
Br 1.11
1.14
I 1.28
1.33
2重結合
3重結合
C
0.665
0.602
N
0.60
0.547
O
0.65
0.50
F
0.54

5章 共有結合 ②
5.4) 結晶
5.4.1) 14族 C, Si, Ge, Sn, Pb : C, Siが非金属元素に分
類されるが、Ge、aSnは半導体(金属でない)
●C(carbon, 地殻濃度480ppm)より成るダイヤモンドは典
型的なsp3共有結合結晶であり、巨大分子とも言える。結晶
構造は閃亜鉛鉱型(CuCl型)で2種の元素を炭素にしたもの。
充填率は0.340であり、高価な割に隙間だらけの物質であ
る。
O
Q
P
L
●重要な課題ダイヤモンドの大量・大型サイズ結晶の人工
合成と、ダイヤモンドに導電性を付与できる手法の開発、新
たな半導体素子
●黒鉛、グラフェン、フラーレン、ナノチューブはp電子を含
む炭素化合物である。
C70
黒鉛
フラーレン
ナノチューブ
C60-C60
C60
●Si(silicon,半導体・太陽電池の原材料、濃暗灰色結晶、
地殻濃度277100ppm)。SiO2(二酸化ケイ素、シリカ、石英)
として地殻に存在, 還元(電気的に)して99.999999999%
(11N)とし半導体の基板に使用する。 バンドギャップが常温
付近で利用するために適当な大きさであること、BやPなどの
不純物を微量添加させることにより、p型半導体、n型半導体
のいずれにもなることなどから、電子工学上重要な元素であ
る。半導体部品として利用するためには高純度である必要
があり、このため精製技術が盛んに研究されてきた。現在、
ケイ素は15Nまで純度を高められる。
●重要課題:SiO2→高純度Siの安価な精製技術
シリカ
シリコン単結晶
14族、15族、16族の金属:Ge, Sn, Pb, Bi, Po
●Ge(germanium, 灰白色結晶、1.8ppm)はダイヤモンド構
造の元素。初期のトランジスタに使われ、安定性に優れるケ
イ素(シリコン)が登場するまでは主流だった。石英を用いた
レンズに添加すると屈折率が上がり、また赤外線を透過す
るようになるので、光学用途にも多用される。
●Sn(tin, 地殻濃度2.2ppm)はaスズ(灰色スズ)⇌スズ(白
色スズ)⇌スズの3種の同素体があり、普通の金属スズは
で13.2℃でaに極めてゆっくり転移。金属スズを曲げると独
特の音がするが、これはスズ鳴き (tin cry) と呼ばれる。結晶
構造が変化することにより起こる。同様の現象は、ニオブや
インジウムでもある。 aスズはダイヤモンド構造の非金属で、
Sn-Snの結合エネルギーは小さく、脆い。 →aの転移速
度は30℃以下で急速に進み、腫物状に膨張しボロボロに
なる(スズペストとナポレオンのロシア遠征の敗退)。
●四塩化スズ(SnCl4 爆発性、水との反応でHCl発生)は常温
で発煙性の液体(融点33.3℃)でありSn4+と塩素原子との
結合はイオン的でなく共有結合。
●銅との合金:青銅(ブロンズ)、鉛との合金は半田として利
用、鉄板にメッキするとブリキ
●重要課題 毒性のない(鉛フリー)はんだの開発
ITO(indium tin oxide): 酸化インジウムと酸化スズの混合
物で、透明な電導膜であり、液晶、有機ELの透明電極材料
である。インジウム(地殻濃度0.049ppm)は中国のレアメタ
ル戦略物質。
●重要課題Inを含まない透明電極の開発
●Pb(lead, 地殻濃度14ppm)は金属、共有結合性はない。
軟らかい金属で紙などに擦り付けると文字が書けるため、古
代ローマ人は羊皮紙に鉛で線および文字を書き、これが鉛
筆 (lead pencil) の名称の起源。
鉛蓄電池(自動車バッテリー)、放射線遮蔽材、
毒性:テトラエチル鉛(アンチノック剤)のような脂溶性の有
機物質は細胞膜を通過して直接取り込まれるため、非常に
危険である→ローマの滅亡。
表5.3 解離熱(kJ mol1)、単結合の結合エネルギー(kJ
mol1)
共有結合
結晶
ダイヤモ
ンド
Si
Ge
Sn
解 離 結合
熱
715 C-C
456
377
305
結 合 エ ネ 結合 結 合 エ ネ ル
ルギー
ギー
347
O-O 138
Si-Si 176
Ge-Ge 159
P-P
213
S-S
213
Te-Te 138
Au-S* 10の桁
*: Au-S結合は金の表面にチオール基の付いた分子を反応させて合成されるSAMs(自己
組織化膜, 4章囲み6参照)に見られる。10 kJ/molの桁は実験より推定されたもの(H.
Skulason et al., J. Am. Chem. Soc., 122、9750(2000)), 他に40 kJ/mol(計算: K. M. Beardmore
et al., Chem. Phys. Lett. 286, 40(1998), 120 kJ/mol, 実験: R. G. Nuzzo et al., J. Am. Chem.
Soc., 109, 733-740(1987))、209 kJ/molの報告もある。
表5.4 ダイヤモンド構造の炭素、ケイ素、Ge、Snの諸性質
融点 C
沸点 C
比重
硬度
比誘電率
屈折率
比 抵 抗
/Ωcm
g /eV (0 K)
電子移動度
/cm2V1s1
正孔移動度
/cm2V1s1
ダイヤモン
ド
3572
4800
3.515
10
5.5
2.417
ケイ素
Ge
1410
2360
2.33(18C)
7.0
11.9
3.35
937.4
2830
5.32(25C)
6.5
16.1
4
0.61013(15 2.3105
C)
5.4
1.17
1800
1350
46
1200
1800
480
0.744
3600
Sn(* は 灰 色
スズ)
231.97
2270
5.80(20C)*
1.5
4.70(
=
1000 nm)
11106
(20ºC) 相
金属
半導体(semiconductor), 絶縁体(insulator)
2
伝導帯
ギャップ
g
価電子
帯
1
結晶
1原子
(分子)
2原子
(分子)
4原子
(分子)
宝石ダイヤモンド
●大部分のダイヤモンドは有色であり、特に黄色(窒素が
入ることによる)のものが多い。色がごく薄いもの(約10 %)
が宝石となる。ただし、有色ダイヤモンドのうち青色や桃
色の石は珍しく高価である。
スミソニアン博物館にあるホープのダイヤモンドはブルー
ダイヤモンド(結晶としてⅡ型B: 天然のダイヤモンドでは百
万個に1個の割合)で、半導体の性質がある。青色は炭素
にホウ素が入ることによる。
●ブリリアンカットは58面カットをいう(屈折率2.4のダイヤ
モンドをもっとも美しく見せるための設計なので他の石に
は通用しない:合成ルチル、チタン酸
ストロンチウム、ジルコニアなど屈折率
がダイヤモンドに近いものは、ブリリア
ンカットで美しい輝きを示す)
ジルコニア
宝石ダイヤモンド
●モアッサンはフッ素の単離、電気炉の開発で1906年ノー
ベル化学賞を得た。他に、黄色のダイヤモンドの脱色やダ
イヤモンドの合成研究を行った。それは、熔融鉄に多量の
炭素を溶かし込み急冷する方法で、ダイヤモンドの合成に
成功したとされたが、その成功は助手の偽造による。ゼネ
ラル電気の合成ダイヤモンドは、熔融したニッケルを溶媒
に用いており、発想は類似である。
●産地はロシア、ボツワナ、コンゴ、オーストラリア、南ア、
カナダで全産出量15600万カラットの90%である(2004年)。
人工ダイヤは1億カラット以上生産されている。
ダイヤモンドの導電性
SF小説「アンドロメダ病原体」、「ジュラシック パーク」で著名
な作家マイケル クライトンの作品に「コンゴ」がある。
コンゴの鉱山で青色のⅡ型Bダイヤモンドが発見される。ボ
ロンを含む青色ダイヤモンドは102 cmの桁の半導体で、光
を通し、融点が極めて高いことから、超高密度にトランジス
ターを搭載しても、発生する熱で融解することがない超LSIの
基板として、シリコンに置き換わるものと判断した米国の半
導体開発会社が、探索隊を派遣する所が序となる。
小説の中では、それまでに行われたダイヤモンドへのホウ
素のドーピングは(p型ダイヤモンド)全て不成功であったと記
してあるが、最近ドーピングが成功し、得られたダイヤモンド
が超伝導を示すと報告された。次は、 n 型ダイヤモンドの開
発が必要である。
ジョン・マイケル・クライトン(John
Michael Crichton、1942年10月23
日 - 2008年11月4日)
アンドロメダ病原体
失われた黄金都市
ジュラシック・パーク
5.4.2) 共有結合+イオン結合
原子の電気陰性度(electronegativity)の違いにより、異種原子
より成る共有結合結晶には何らかのイオン性が混入する。電気陰
性度は、ポーリングおよびマリケンにより定義された2種がある。
ポーリングの電気陰性度:結合A-Bの解離エネルギー(eV単位)を
D(A-B)とすると、結合A-B中のイオン構造A+Bの寄与は5.25式で
ある。ポーリングはΔABの平方根を結合A、B原子の電気陰性度の
差とし、この関係が多くの結合で満足するように各原子の電気陰性
度の値xを決めた(表5.5)。金属の仕事関数 と5.27式で関係する
とされたが、きわめて粗い近似である。
1
ΔAB= D(A  B)  [ D(A  A)  D(B  B)]
2
xA  xB  ΔAB
 = 2.27x + 0.34 eV
(5.25)
(5.26)
(5.27)
表5.5 ポーリングによる原子の電気陰性度
H
Li
Na
K
Rb
Cs
2.20
0.98
0.93
0.82
0.82
0.79
Be 1.57
Mg 1.31
Ca 1.00
Sr 0.95
Ba 0.89
B 2.04
Al 1.61
Ga 1.81
In 1.78
Tl 2.04
C
Si
Ge
Sn
Pb
2.55
1.90
2.01
1.96
2.33
N
P
As
Sb
Bi
3.04
2.19
2.18
2.05
2.02
O
S
Se
Te
Po
3.44
2.58
2.55
2.10
2.00
F
Cl
Br
I
At
3.98
3.16
2.96
2.66
2.20
色をつけた原子は、水素より電気陰性度の高いもので、水
素結合を形成する。
マリケンの電気陰性度:各原子のイオン化ポテンシャルと
電子親和力との和を電気陰性度とした。
1
x  (I P  EA )
2
(5.28)
5.5 Ⅱ-Ⅵ、Ⅲ-Ⅴ化合物
●Ⅱ-Ⅵ化合物、Ⅲ-Ⅴ化合物はイオン性と共有結合性の両
者を持つ。
●Ⅱ-Ⅵ化合物の例としてZn-Sを考える。Zn(4s2)とS(3s23p4)
のイオン結合ではZn2+(3s23p63d10)S2-(3s23p6)の電子配置で
あり、共有結合ではsp3結合を考えZn2-(4s4p3)S2+(3s3p3)であ
る。ポーリングの電気陰性度を用いイオン性を計算すると
17~18%のイオン性が予測される。一方、誘電性結晶の結
合のイオン性度が半経験的理論により得られ、その値は
62%である(表5.6)。 閃亜鉛鉱:蛍光体
●II-VI化合物のCd-Teは薄膜太陽電池、巨大磁気抵抗
(GMR:強磁性体と金属を交互に張り合わせたデバイスで、
強磁性体の揃ったスピンと同一方向に金属内に電流が流
れるときは電気抵抗が小さく、反対方向に流れるときは大
きな電気抵抗となることを利用している)に利用される。
●Ⅲ-Ⅴ化合物の例としてIn-Sbを考える。In(5s25p)と
Sb(5s25p3)のイオン結合では、In3+とSb3–(5s25p6)の電子配
置であり、共有結合ではsp3結合を考えIn(5s5p3)と
Sb+(5s5p3)である。ポーリングの電気陰性度を用いイオン性
を計算すると1~3%のイオン性が予測される。表5.6による
とイオン性は32%である。
●III-V化合物のGa-Asは発光ダイオード、固体レーザー、
光電池、携帯電話に、Ga-N(g = 3.39 eV)は高輝度青色
発光ダイオードに用いられている。
●重要課題可視光を用いた太陽電池、可視光の全領域で
の光伝導体素子には、可視光の全領域(1.05~3.25 eV)
か少し小さめのバンドギャップを必要とする。
表5.6 2原子結晶の結合のイオン性dとエネルギーギャッ
プg (eV)
II-VI
ZnO
ZnS
ZnSe
ZnTe
CdO
CdS
CdSe
CdTe
d
0.79
0.62
0.63
0.61
0.79
0.69
0.70
0.67
g
3.2
3.6
2.7
2.35
2.32
2.42
1.74
1.45
II-VI
MgO
MgS
MgSe
d
0.84
0.79
0.79
g
7.83
4.5
4.05
III-V
InP
InAs
InSb
GaP
GaAs
GaSb
d
0.42
0.36
0.32
0.38
0.31
0.26
g
1.35
0.35
0.18
2.26
1.43
0.78
5.6)15族元素(窒素族元素)N, P, As, Sb, Bi 非金属元素
はN, P、
●窒素N(nitrogen, N2) 空気中の78%, 沸点77K
反応性低い(NN), 寒剤(食品、急速冷凍、受精卵保存)
●生物にとっては非常に重要でアミノ酸やタンパク質、核
酸塩基など。これらを分解すると生体に有害なNH3となる
が、動物(特に哺乳類)は窒素を無害で水溶性の尿素とし
て代謝する。しかし、貯蔵はできないためそのほとんどは
尿として体外に排泄する。そのため、アミノ酸合成に必要な
窒素は再利用ができず、持続的に摂取する必要がある。
●多くの生物は大気中の窒素分子を利用できず、微生物
などが窒素固定によって作り出す窒素化合物を摂取するこ
とで体内に窒素原子を取り込んでいる。
●重要課題:N2の容易な解離法の開発、NOxの無害化
非共有(孤立)電子対
N
不対電子
2p
sp3
2s
1s
1s
NH3
NOx
+4
+3
+2
価数 +5
化合 N2O5 NO2 N2O3 NO
N2O4
物
ヒドラジン
笑気
+1
N2O
0
N2
-1
NH2OH
-2
-3
N2H4 NH3
●リンP (phosphorus,地殻濃度1000ppm):リンの用途
の7割は肥料。最も一般的な白リン(毒性強い、P4型正四面
体、透明なロウ状固体で発火しやすい)を空気のない状態
で300℃に加熱すると赤リン(毒性弱い、マッチの摩擦面)と
なる。白リンを燃やすと五酸化二リン(P2O5)を与える。
●P2O5は極めて優れた乾燥・脱水剤である。P2O5を水中で
加熱するとオルトリン酸(H3PO4)となり、H3PO4は金属表面
に金属腐食を守る不溶性薄膜を形成するので、自動車車
体塗装前の車体のリン酸処理に用いられる。
●リン酸のCa塩のCa(H2PO4)2は水に可溶で肥料やガラス
の製造原料である。さらにCaHPO4となると、不溶性で歯磨
き粉の研磨剤となる。Ca5(PO4)3(OH)はハイドロキシアパタ
イトと言い、脊椎動物の歯や骨を校正する主成分で、虫歯
の治療や人工骨など外科医療などに利用される。
●生体内では、遺伝情報の要である DNA や RNA のポリリ
ン酸エステル鎖として存在するほか、生体エネルギー代謝
に欠かせない ATP(次頁)、細胞膜の主要な構成要素である
リン脂質など、重要な働きを担う化合物中に存在している。
また、脊椎動物ではリン酸カルシウムが骨格の主要構成要
素としての役割も持つ。このため、あらゆる生物にとっての
必須元素であり、農業においてはリン酸が、カリウム・窒素
などとともに肥料の主要成分である。
アデノシン三リン酸とは生物体で用いられるエネルギー保存
および利用に関与するヌクレオチドであり、すべての真核生
物がこれを直接利用する。生物体内の存在量や物質代謝
における重要性から「生体のエネルギー通貨」とされている。
略記として ATP (Adenosine Triphosphate) が一般的に用いら
れる
ATP
●無機As(arsenic)は有毒(しかし、形状依存が大きく三
酸化二ヒ素は毒性をもちながら急性骨髄性白血病治療薬
である。有機ヒ素化合物は毒性が弱くサルバルサンは薬と
して、かって使われた)。ファンデルワールス半径や電気陰
性度等さまざまな点でリンに似た物理化学的性質を示し、
それが生物への毒性の由来になっている。
●Sb(antimony)は非常に毒性が強い。俗説に「ある修道
会で豚にアンチモンを与えたら(駆虫薬として働き)豚は
丸々と太った。そこで栄養失調の修道士に与えたところ、
太るどころではなく死んでしまった。それゆえアンチ・モンク
(修道士に抗する)という名が与えられた」というものである。
●AS, Sb, Biは半金属である。
●Bi(bismuth)常温で安定に存在し、凝固すると体積が増加
する。ビスマス化合物には医薬品の材料となるものがあり、
他の窒素族元素(As, Sb)の化合物に毒性が強いものが多い
ことと対照的である。医薬品(整腸剤)の原料として、日本薬
局方に収載されている。単体のBiと他の金属(Cd、Sn、Pb、In
など)との合金は、それぞれの金属単体より低い融点となる。
このため、鉛フリーはんだに添加されたり、あるいはより低温
で溶けるウッド合金のような低融点合金に使われる。
●Biは大きな熱電効果を示す物質であり、特にTeとの合金
は熱電変換素子として実用化されている。化合物としては、
銅酸化物高温超伝導体の1成分としても用いられ、Biを含む
超伝導物質はしばしばビスマス系高温超伝導物質または単
にビスマス系と呼ばれる。
●高比重・低融点で比較的柔らかく無害である事から鉛の代
替として注目され、散弾や釣り用の錘、鉛・Cdの代替として黄
銅への添加剤、ガラスの材料などとして用いられている
5.7) 13族元素 ホウ素(B boron)
●単体は黒みがかっていて、非常に硬く、単体元素として
はダイヤモンドに次ぐ硬度9.3を示す。半導体の性質を持つ。
ケイ素にドープしp型半導体。
●身近な用途で使用される場合は、ホウ砂やホウ酸の状
態であることが多い。
ホウ酸(boric acid)はホウ素のオキソ酸であり、殺菌剤、殺
虫剤(ホウ酸団子としてゴキブリ駆除) 、医薬品(眼科領域)、
難燃剤、原子力発電におけるウランの核分裂反応の制御、
そして他の化合物の合成に使われる弱酸の無機化合物で
ある。化学式はH3BO3、時にB(OH)3とも書く。常温常圧では
無色の結晶または白色粉末で、水溶液では弱い酸性を示
す。
ホウ砂:塩湖が乾燥した跡地で産出することが多い。古くは
チベットの干湖からヨーロッパへもたらされ、特殊ガラスやエ
ナメル塗料の原料だった。19世紀から20世紀にかけてはア
メリカ大陸西部においてデスヴァレーなどの産出地が相次い
で発見された。今日では、アメリカ・ロシア・トルコ・アルゼン
チンのほか、イタリアのトスカーナ地方やドイツなどでも産出
される。日本ではほとんど産出されない。
ホウ砂の利用
陶芸用の釉薬溶解剤、ガラスに混ぜると熱衝撃や化学的浸
食に強いホウケイ酸ガラス(ビーカー、フラスコなど)となる、
耐熱ガラスなどの原料、水溶液は弱アルカリ性となり、洗浄
作用・消毒作用があるため洗剤や防腐剤、目の洗浄・消毒、
銀塩写真の現像液のアルカリ調整剤、ホウ素がポリマーを
架橋しゲル化する反応を利用し理科の実験でのスライム、
植物の必須微量要素であるホウ素の肥料。
ホウ砂の利用(続)
原子炉の放射線遮蔽材として。原子力船むつが遮蔽リング
の設計ミスにより放射線漏れを起こしたとき、応急処置とし
てホウ素を含むホウ砂を混ぜ込んだ米を貼り付けることで
漏れを防いだ。
アリ、ゴキブリ、ノミなどの昆虫の駆除に(日本ではゴキブリ
にはホウ酸のほうがよく使われている)。
ボラン: モノボラン(BH3)、ジボラン(B2H6)
モノボランは不安定でジボラン(爆発性、毒性ある)として存在
B
2p
不対電子
sp3
2s
1s
1s
BH3
空軌道
窒化ホウ素(BN)xは、ジボランB2H6と過剰のアンモニアの高温反応で
得られる無機ベンゼン(ボラジン)と言われるボラゾールB3N3H6を
縮合するか、ホウ砂と塩化アンモニウムを過熱すると得られる白色
脂肪状難溶性の粉末で、常圧では3000Cで昇華し、加圧下では
3000Cで融解する。六方晶系グラファイト構造に似て(h-BNと云われ
る)、面内でのB-N間距離は1.45 Åで2重結合性がある(B-N単結合は
1.60 Å)。面間は3.30 Åである。結合にはB+••Nのイオン結合性を持
つ。良い絶縁体で耐酸化性に優れ空気中1000℃の使用に耐えるの
で良質のルツボとなる。他に、立方晶系閃亜鉛鉱型構造のc-BN(ボ
ラゾン)、六方晶系ウルツ鉱型構造のw-BNがあり、c-BNはダイヤモ
ンドに次ぐ硬さをもち研磨剤や工具に使用される。
H
B
H
B
B
HN
NH
HN
NH 縮合
HB
BH
HB
BH
N
H
N
H
N
B
N
B
N
B
N
B
B
N
B
B
N
B
N
N
B
N
(BN)x
ボラゾールと窒
化ホウ素h-BN
5.8) 16族元素(酸素族元素、カルコゲン元素)
O, Sが非金属元素
●酸素O(oxygen, O2) 空気中の21%、沸点90K, 融点56K,
100万気圧を超えた高圧下では金属光沢を持ち、125万気
圧、0.6 K では超伝導金属となる。
●オゾン (ozone) は、3つの酸素原子からなる酸素の同素
体である。分子式は O3 で、折れ線型の構造を持つ。腐食
性が高く、生臭く特徴的な刺激臭を持つ有毒物質である。
大気中にもごく低い濃度で存在している
紫外線
●オゾンの破壊 CF3Cl → CF3・ + Cl・
O3 +Cl・ → O2 + ClO・
連鎖反応
・
・
2ClO → O2 + 2Cl
● 2O(1s22s22p4)→O2 基底状態の三重項(triplet)状態
では不対電子を持つため常磁性体である。また活性酸
素の一種で反磁性である励起状態の一重項(singlet)酸
素も存在する。
三重項酸素
一重項酸素(2種)
活性酸素(reactive oxygen species)は、大気中に含ま
れる酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したも
のの総称。一般的にスーパーオキシドアニオンラジカ
ル(通称スーパーオキシドO2 - )、ヒドロキシルラジカル
(OH )、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素の4種類とされる。
活性酸素は、酸素分子が不対電子を捕獲することに
よってスーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、過酸化
水素、という順に生成する。スーパーオキシドは酸素分
子から生成される最初の還元体であり、他の活性酸素
の前駆体であり、生体にとって重要な役割を持つ一酸
化窒素(NO 血管拡張作用)と反応してその作用を消
滅させる。
活性酸素による多くの生体損傷はヒドロキシルラジカル
によるものとされている。
●
●
酸素分子の基底状態は
三重項状態
酸素原子
(He)2s2, 2p4
O2
酸素分子の励起一重項状態
酸素の一重項状態と三重項励起状態のエネルギー差は
大きすぎるため熱・光で励起できない。一重項酸素を発
生させるには、ローズベンガルやメチレンブルーのような
色素を使用する。これらの色素分子の三重項状態は、一
重項酸素と三重項酸素とのエネルギー差とほぼ等しい励
起エネルギーを持っている。そこでこれらの色素を光励
起し、三重項状態に移行させる。この三重項状態の色素
酸素原子
が三重項酸素と衝突すると電子とエネルギーの交換が
(He)2s2, 2p4 起こり、色素が基底状態に戻ると同時に、三重項酸素が
一重項酸素に遷移する(光増感法)。
生体内においても、紫外線を浴びたりすることにより体内の色素が増感剤の役目をして一重
項酸素が発生することがある。一重項酸素は生体分子と反応して破壊してしまうので、生体
はこれを除去する機構を備えている。生体内から一重項酸素を除去する物質にはβ-カロテン、
ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、尿酸などがある。
●硫黄S(sulfur, sulphur S8) 30 種以上の同素体
H2O(液体)→H2S(気体猛毒)→H2Se(気体猛毒)→H2Te
硫酸(化学工業上、最も重要な酸), 黒色火薬の原料、合成
繊維、医薬品や農薬、また抜染剤などの重要な原料、さま
ざまな分野で硫化物や各種の化合物が構成されている。
農家における干し柿、干しイチジクなどの漂白剤には、硫
黄を燃やして得る二酸化硫黄(SO2)が用いられる(燻蒸して
行われる)。
ゴムに数%の硫黄を加えて加熱すると(架橋により)弾性が
増し、さらに添加量を増やすと硬さを増して行き、最終的に
はエボナイトとなる。
また、金属の硫化鉱物は半導体の性質を示すものが多い。
●セレンSe(selenium)
金属セレンは、半導体性、光伝導性がある。これを利用し
てコピー機の感光ドラムに用いられる。またセレンは整流
器(セレン整流器)に使われたり、光起電効果によりカメラ
の露出計やガラスの着色剤、脱色剤に使われる。毒性が
ある為、現在は使用が制限され多くの用途において代替物
質が使用されている。
セレンは自然界に広く存在し、微量レベルであれば人体に
とって必須元素であり、抗酸化作用(抗酸化酵素の合成に
必要)があるが、必要レベルの倍程度以上で毒性があり摂
取し過ぎると危険であり、水質汚濁、土壌汚染に係る環境
基準指定項目となっている。これはセレンの性質が硫黄に
きわめてよく似るため、高濃度のセレン中では含硫化合物
中の硫黄原子が無作為にセレンに置換され、その機能を
阻害されるためである。
セレン 月、 テルル 地球
●テルルTe(tellurium)
金属テルルと無定形テルルがあり、金属テルルは銀白色
の結晶(半金属)で、六方晶構造である。にんにく臭がある。
化学的性質はセレンや硫黄に似ている。燃やすと二酸化テ
ルルになる。天然に元素鉱物として単体で存在することが
ある。テルル単体及びその化合物には毒性があることが知
られている。また、これらが体内に取り込まれると、代謝さ
れることによってジメチルテルリドになり、呼気がニンニクに
似た悪臭(テルル呼気)を帯びるようになる。
●ポロニウムPo(polonium)
銀白色の金属(半金属), 放射性(a線)
リトベンコ、アラファト暗殺?