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無機化学 I 5章
①
2014.Nov. 28
共有結合(covalent bond), 共有結合結晶
とカルコゲン、窒素、リン、ヒ素、炭素、ケイ
素、ボロンなどの非金属元素
復習と目標
1)共有結合の典型である水素分子の分子軌道とそ
のエネルギーを、電子間クーロン反発相互作用を無
視した1電子問題として解く。
これらの計算を厳密に解くのは非常に困難であり,解
法の流れと得られる図を重視して説明する。
共有結合で重要な混成を説明する。
2) 純粋な共有結合結晶は、ダイアモンド
(diamond)構造をもつ14(旧Ⅳ)族元素(C, Si, Ge,
Sn)の結晶のみである。Ⅱ族とⅥ(現16)族の化合
物結晶(Ⅱ-Ⅵ化合物)、Ⅲ族とⅤ(現15)族のⅢ-Ⅴ
化合物は、2種元素の電気引性度が違うことにより、
共有結合にイオン結合が加わる。
3)非金属元素のうち
カルコゲン(O, S)、窒素(N)、リン(P)、ヒ素(As)、炭
素(C)、ケイ素(Si)、ボロン(B)を紹介する
双極子能率(dipole moment)の方向の訂正
マイナスからプラスへのベクトル
極性分子:正電荷の中心と負電荷の中心が一致しない分
子。双極子能率(dipole moment)を持つ HCl, H2O
Hd+
-
Cld-
双極子能率アリ
Od- = Cd+ = Od双極子能率ナシ
IUPACの定義も調べてみました。
http://goldbook.iupac.org/E01929.html
やはり、ダイポールモーメントはマイナスからプラスへ
の矢印になるようです。
5.1) 水素分子と共有結合
5.1.1) 分子軌道(molecular orbital)の波動関数(wave
function)
●2つの水素原子H・(HA, HBとし、プロトンをa, bとし、それら
の間の距離をRとする)が1個ずつ電子(1,2とする)を出し
合い、それを共有して結合をつくり水素分子ができる(図5.1)。
● rb1
ra1
a
R
図5.1 H2+の陽子a, bと電子1
b
●電子1がHAに、電子2がHBに配置されたHA(1)••HB(2)と、
その逆のHA(2)••HB(1)の2つの中性の状態の他に、電子が
一方から他方に移ったHA+••HB(1,2)とHA(1,2)••HB+のイオ
1
ン性の状態が考えられる。しかし、後者2つのイオン性の状
態は等しい頻度で現れるので電荷が静的に偏在することは
なく、イオン結合性はない。
●2つの近似法(分子軌道法、原子価結合法)で電子軌
道、そのエネルギーが求められるが、ここでは分子軌道
法を用いる。幾つかの仮定により近似を行う。
1. 電子は分子軌道に入る。
2. 位置の定まらない2電子間に働くク-ロン斥力を考慮
するのは非常に面倒なので、無視する。すると、電子1は、
プロトンaおよびbからのクーロン引力ポテンシャル
{(e2/40)[(1/ra1)+(1/rb1)]}
のみを受け、H2+(図5.1)の電子状態となり、1電子問題
としてシュレディンガー方程式を解くことができる。ここで
ra1, rb1は電子1とプロトンa, bの距離である。電子2につ
いても同じである。
3. 分子軌道の波動関数を, 水素原子A、Bの原子軌道波
動関数a、bの線形結合で近似する(原子軌道の線形結合
linear combination of atomic orbital LCAO, 5.1式)
 = caa + cbb
(5.1)
(ca2: 電子がaに見出される確率、 cb2: 電子がbに見出さ
れる確率) 今考えているaとbは、ともに同じ電子状態の
波動関数(ここでは1s軌道)であるから、確率ca2とcb2は等し
く、5.2式が成立する。
ca = cb
(5.2)
従って、5.1式は
 1 = c a(  a +  b )
(5.3)
 2 = c a(  a   b )
(5.4)
5.3式、5.4式の係数は、規格化条件(空間の微小体積をd
として)

*

d


1

(5.5)
より求まり、  1

2 
1
2 (1  S )
1
2 (1  S )
( a   b )
(5.6)
( a   b )
(5.7)
である。前者は対称分子軌道、後者は反対称分子軌道であ
る。Sは重なり積分で、原子軌道aとbの重なりを示し、aに
属す電子がbに沁み込む確率振幅である。
(5.8)
S 

*

d

a
b

水素の1s軌道関数(=(a03)1/2 exp (r/a0)、a0 =
h2/42me2 = 0.529108 cm)と重なり積分S = exp
(R/a0)[1 + R/a0 + (R/a0)2/3]、プロトン間の距離R = 1.06 Å
を用いて1(5.6式)と電子の存在確率1*1 = |1|2を図5.2a
に、また、2(5.7式)の場合を図5.2bに示す。
図5.2. a) H2+の対称分子軌道1と電子密度|1|2、b) H2+
の非対称分子軌道2と電子密度|2|2
結論:1では2つのプロトン間の電子密度
は大きく、電子はかなりの時間にわたって2
つのプロトンから同時に引力をうけるので
結合エネルギーが増加し(結合軌道,
bonding orbital)、電子エネルギーは安定
化する。一方、2では2つのプロトン間の中
点で電子密度はゼロであり、2つのプロトン
の外側にはじき出され、電子密度は分子軌
道を作る前より減少し(反結合軌道,
antibonding orbital)、電子エネルギーは
不安定化する。
5.1.2) 分子軌道エネルギー
結合軌道1、反結合軌道2のエネルギー1, 2は波動関数
5.6式、5.7式を、シュレディンガー方程式H = Eに入れて
解けば得られる。ここでのHは5.9式であるが、実際の計算
をしなくとも、5.10-5.13式のような関数を用いるとエネル
ギー準位の状況が簡単に理解できる。
2
2
2
2
(5.9)
h
e
e
e
2
H  
8 m
2
 
4 0 ra 1

4 0 ra 2

4 0 R
ここで、以下の様にaおよびbの軌道エネルギーを
H aa  H bb 

a
* H  a d    b * H  b d
(5.10)
また、軌道間相互作用エネルギーHabを5.11式とする
H ab 

a
* H  b d
(5.11)
1, 2はHaa, Hab, Sを用いて、5.12式、5.13式となる。
1 
H aa  H ab
1 S
(5.12)
2 
H aa  H ab
1 S
(5.13)
Haaは、プロトンaとプロトンbがRの距離にあるときの、プ
ロトンaの1s軌道に存在する電子のエネルギーである。
この軌道は、図5.1の様に広がっており、また水素原子
の電子にさらに正電荷が近づいたものであるから、孤立
した水素原子1s軌道エネルギー1sより少し低い(図5.3)。
● rb1
ra1
a
R
図5.1
1s
b
図5.3
Haa
Habはaの電子がbの軌道に飛び移る確率を示し、aとbが接
近して、aとbとの重なりSが大きくなるほど大きな値となる。
1, 2は水素分子イオンの1個の電子軌道であるが、粗い近
似とし、電子が2個ある水素分子においても、2個の電子は水
素分子イオンの分子軌道にあるものと考える。図7.3は2個の
水素原子の電子(エネルギー1s)が分子軌道を形成して1, 2
に分裂し、2個の電子が結合軌道に入り水素分子を形成する
様子を示す。
2
1s
Haa
1
図5.4 1s: 孤立水素原子の軌道エネルギー
Haa:水素分子陽イオンH2+のエネルギー
1:水素分子結合軌道のエネルギー
2:水素分子反結合軌道のエネルギー
概略 2つの軌道の相互作用で、新たに結合軌道と反結合
軌道が形成される
H aa  H ab
反結合軌道
2  2 
1 S
1s
1s
1 
H aa  H ab
1 S
1
結合軌道
5.2) 混成と共有結合
5.2.1) 混成(hybridization)
●炭素原子は2s22p2の最外殻電子配置をもち、このままでは2個のp
軌道電子のみが結合に関与した水素との化合物H-C-Hを与えると予
想されるが、実際はメタンを始めとする飽和炭化水素CnH2n+2、エチレ
ンやアセチレンのような2重結合や3重結合を持つ不飽和炭化水素を
与える。これは、図5.6に示す混成軌道を用いて説明された(ポーリン
グ, スレーター)。
2p
2s

1s
図5.5 炭素原子(C)の軌道エネルギー
●1個の2s軌道電子が2pに励起され、あたかも同一のエネ
ルギー軌道(混成軌道)に4個の電子(2s12px12py12pz1)が
あり、飽和炭化水素やダイヤモンドに見られる4本の結合を
持つ化合物(sp3混成という、結合角は10928')、3個の電
子が他の3種の元素と結合するとエチレンのような3本の結
合を持つ化合物(sp2混成という)、2個の電子が他の2種の
元素と結合すると2本の結合を持つアセチレンのような化合
物(sp混成という)を与える。
sp3混成
s
2p

2s
1s
px py pz
混成軌道
1s
sp2混成
sp混成
図5.6炭素の1s22s22p2電子配置とsp(青), sp2(赤), sp3(緑)混成軌道
炭素以外でも価数と結合の方向性から、表5.1、図5.7の
ような混成軌道が得られている。
表5.1
混成の例
混成 形
sp 直線形
sp2
sp3
sp3
d
sp3
d2
角度
180
例
BeCl2 [Be:1s22s21s22s2p],
CH  CH、CO2
平 面 三 120 ベンゼン、ポリアセチレン、黒鉛
(面内)、BF3, SO2, SO3
角形
四面体 1092 ダイヤモンド、BF4、NH3, H2O
8'
三 角 両 90,1 PCl5、SF4、I3
20
錐形
SF6, IF5, PCl6
八面体 90
図5.7
H2O
混成軌道
BeF2(sp), BF3(sp2), メタン(sp3), NH3,
非共有
電子対
BeF2(sp)
NH3(sp3)
BF3(sp2)
CH4(sp3)
H2O(sp3)
図5.7-2
混成軌道
PCl5(sp3d), SF4, I3―, SF6(sp3d2)
SF4(sp3d)
I3(sp3d)
PCl5(sp3d)
SF6(sp3d2)
A) sp3混成
s軌道とp軌道の寄与が1:3である分子軌道の形を考える。軌道の混
成を各軌道の線形結合で表し、4つの独立な(互いに直交している)規
格化された分子軌道を作り、分子軌道への各p軌道の寄与が同等とし
て、そのうちの1つの軌道の向くベクトルをxyz面内の第一象限にすると、
分子軌道は5.14式~5.17式である。
1 = (1/2)(s + px + py + pz)
(5.14)
2 = (1/2)(s – px – py + pz)
(5.15)
3 = (1/2)(s + px – py – pz)
(5.16)
4 = (1/2)(s – px + py – pz)
(5.17)
sp3混成を正四面体混成(tetrahedral hybrid)ともいう(図5.8、各軌道
の成す角は10928')。
図5.8 sp3 混成軌道
B) sp2混成
s軌道とp軌道の寄与が1:2の分子軌道で、寄与するp軌道をpx, pyと
する。3つの同等で独立な混成軌道は、エチレンやベンゼンのように平
面状で、各々が互いに120の角を成すものを考える。4はpz軌道そ
のものである。1をx軸方向の5.18式と定め、2および3軌道の中の
px, pyの係数を規格化と直交の条件より得る。
1 = s/3 + 2px/6
(5.18)
2 = s/3 – px/6 + py/2
(5.19)
3 = s/3 – px/6 – py/2
(5.20)
sp2混成軌道は3方混成(trigonal hybrid)といわれ、各軌道は互いに
120を成す(図5.9)。残りの4 = pz は、1~3が作る平面(xy面)に垂直
に延びている。
2
図5.9 sp2混成軌道(7.18~7.20式)
1
3
1
2
3
C) sp混成
p軌道としてpx軌道を選ぶと、5.21~5.24の4つ分子軌道が得られ、
1と2はxの正、および負の方向に延び、2方混成(diagonal
hybrid)をなし、残りの2つの軌道はy、z軸方向に延びる(図5.10)。
1 = (1/2)  (s + px)
(5.21)
2 = (1/2)  (s – px)
(5.22)
3 = py
(5.23)
4 = pz
(5.24)
図5.10 sp混成軌道(5.21,5.22式)
1
2
5.3) 共有結合半径
共有結合A-Bの結合距離は、A-A, B-B結合距離の算術平均で近似
される(例、C-C(1.54 Å)、Si-Si(2.34 Å)の算術平均1.94 Å 実測CSi距離1.930.03 Å)。従って、A-A, B-B結合距離の1/2がそれぞれA
およびBの共有結合半径となる。
表5.2 ポーリング(上段)メーラー(下段)の共有結合半径(Å)
H ~0.30
Li
1.23
Na
1.57
K
2.03
Rb
2.16
Cs
2.35
Cu 1.35
1.17
Be 1.06
0.89
Mg 1.40
1.36
Ca
1.74
Sr
1.91
Ba
1.98
Zn 1.31
1.25
B 0.88
0.80
Al 1.26
1.25
Ga 1.26
1.25
In 1.44
1.50
Tl 1.47
1.55
Ag 1.52
1.34
C 0.771
0.77
Si 1.17
1.17
Ge 1.22
1.22
Sn 1.40
1.40
Pb 1.46
1.46
Cd 1.48
1.41
N 0.70
0.74
P 1.10
1.10
As 1.18
1.21
Sb 1.36
1.41
Bi 1.46
1.52
Au 1.50
1.34
O 0.66
0.74
S 1.04
1.04
Se 1.14
1.14
Te 1.32
1.37
Hg 1.48
1.44
F 0.64
0.72
Cl 0.99
0.99
Br 1.11
1.14
I 1.28
1.33
2重結合
3重結合
C
0.665
0.602
N
0.60
0.547
O
0.65
0.50
F
0.54

5章 共有結合 ②
Dec. 05,2014
5.4) 結晶
5.4.1) 14族 C, Si, Ge, Sn, Pb : C, Siが非金属元素に分
類されるが、Ge、aSnは半導体(金属でない)
●C(carbon, 地殻濃度480ppm)より成るダイヤモンドは典
型的なsp3共有結合結晶であり、巨大分子とも言える。結晶
構造は閃亜鉛鉱型(CuCl型)で2種の元素を単組にしたもの。
充填率は0.340であり、高価な割に隙間だらけの物質であ
る。
O
Q
P
L
●重要な課題ダイヤモンドの大量・大型サイズ結晶の人工
合成と、ダイヤモンドに導電性を付与できる手法の開発、新
たな半導体素子
●黒鉛、グラフェン、フラーレン、ナノチューブはp電子を含
む炭素化合物である。
C70
黒鉛
フラーレン
ナノチューブ
C60-C60
C60
●Si(silicon,半導体・太陽電池の原材料、濃暗灰色結晶、
地殻濃度277100ppm)。SiO2(二酸化ケイ素、シリカ、石英)
として地殻に存在, 還元(電気的に)して99.999999999%
(11N)とし半導体の基板に使用する。 バンドギャップが常温
付近で利用するために適当な大きさであること、BやPなどの
不純物を微量添加させることにより、p型半導体、n型半導体
のいずれにもなることなどから、電子工学上重要な元素であ
る。半導体部品として利用するためには高純度である必要
があり、このため精製技術が盛んに研究されてきた。現在、
ケイ素は15Nまで純度を高められる。
●重要課題:SiO2→高純度Siの安価な精製技術
シリカ
シリコン単結晶
14族、15族、16族の金属:Ge, Sn, Pb, Bi, Po
●Ge(germanium, 灰白色結晶、1.8ppm)はダイヤモンド構
造の元素。初期のトランジスタに使われ、安定性に優れるケ
イ素(シリコン)が登場するまでは主流だった。石英を用いた
レンズに添加すると屈折率が上がり、また赤外線を透過す
るようになるので、光学用途にも多用される。
●Sn(tin, 地殻濃度2.2ppm)はaスズ(灰色スズ)⇌スズ(白
色スズ)⇌スズの3種の同素体があり、普通の金属スズは
で13.2℃でaに極めてゆっくり転移。金属スズを曲げると独
特の音がするが、これはスズ鳴き (tin cry) と呼ばれる。結晶
構造が変化することにより起こる。同様の現象は、ニオブや
インジウムでもある。 aスズはダイヤモンド構造の非金属で、
Sn-Snの結合エネルギーは小さく、脆い。 →aの転移速
度は30℃以下で急速に進み、腫物状に膨張しボロボロに
なる(スズペストとナポレオンのロシア遠征の敗退)。
●四塩化スズ(SnCl4 爆発性、水との反応でHCl発生)は常温
で発煙性の液体(融点33.3℃)でありSn4+と塩素原子との
結合はイオン的でなく共有結合。
●銅との合金:青銅(ブロンズ)、鉛との合金は半田として利
用、鉄板にメッキするとブリキ
●重要課題 毒性のない(鉛フリー)はんだの開発
ITO(indium tin oxide): 酸化インジウムと酸化スズの混合
物で、透明な電導膜であり、液晶、有機ELの透明電極材料
である。インジウム(地殻濃度0.049ppm)は中国のレアメタ
ル戦略物質。
●重要課題Inを含まない透明電極の開発
●Pb(lead, 地殻濃度14ppm)は金属、共有結合性はない。
軟らかい金属で紙などに擦り付けると文字が書けるため、古
代ローマ人は羊皮紙に鉛で線および文字を書き、これが鉛
筆 (lead pencil) の名称の起源。
鉛蓄電池(自動車バッテリー)、放射線遮蔽材、
毒性:テトラエチル鉛(アンチノック剤)のような脂溶性の有
機物質は細胞膜を通過して直接取り込まれるため、非常に
危険である→ローマの滅亡。
表5.3 解離熱(kJ mol1)、単結合の結合エネルギー(kJ
mol1)
共有結合
結晶
ダイヤモ
ンド
Si
Ge
Sn
解 離 結合
熱
715 C-C
456
377
305
結 合 エ ネ 結合 結 合 エ ネ ル
ルギー
ギー
347
O-O 138
Si-Si 176
Ge-Ge 159
P-P
213
S-S
213
Te-Te 138
Au-S* 10の桁
*: Au-S結合は金の表面にチオール基の付いた分子を反応させて合成されるSAMs(自己
組織化膜, 4章囲み6参照)に見られる。10 kJ/molの桁は実験より推定されたもの(H.
Skulason et al., J. Am. Chem. Soc., 122、9750(2000)), 他に40 kJ/mol(計算: K. M. Beardmore
et al., Chem. Phys. Lett. 286, 40(1998), 120 kJ/mol, 実験: R. G. Nuzzo et al., J. Am. Chem.
Soc., 109, 733-740(1987))、209 kJ/molの報告もある。
半導体(semiconductor), 絶縁体(insulator)
2
伝導帯
ギャップ
g
価電子
帯
1
結晶
1原子
(分子)
2原子
(分子)
4原子
(分子)
表5.4 ダイヤモンド構造の炭素、ケイ素、Ge、Snの諸性質
融点 C
沸点 C
比重
硬度
比誘電率
屈折率
比 抵 抗
/Ωcm
g /eV (0 K)
電子移動度
/cm2V1s1
正孔移動度
/cm2V1s1
ダイヤモン
ド
3572
4800
3.515
10
5.5
2.417
ケイ素
Ge
1410
2360
2.33(18C)
7.0
11.9
3.35
937.4
2830
5.32(25C)
6.5
16.1
4
0.61013(15 2.3105
C)
5.4
1.17
1800
1350
46
1200
1800
480
0.744
3600
Sn(* は 灰 色
スズ)
231.97
2270
5.80(20C)*
1.5
4.70(
=
1000 nm)
11106
(20ºC) 相
金属
宝石ダイヤモンド
●大部分のダイヤモンドは有色であり、特に黄色(窒素が
入ることによる)のものが多い。色がごく薄いもの(約10 %)
が宝石となる。ただし、有色ダイヤモンドのうち青色や桃
色の石は珍しく高価である。
スミソニアン博物館にあるホープのダイヤモンドはブルー
ダイヤモンド(結晶としてⅡ型B: 天然のダイヤモンドでは百
万個に1個の割合)で、半導体の性質がある。青色は炭素
にホウ素が入ることによる。
●ブリリアンカットは58面カットをいう(屈折率2.4のダイヤ
モンドをもっとも美しく見せるための設計なので他の石に
は通用しない:合成ルチル、チタン酸
ストロンチウム、ジルコニアなど屈折率
がダイヤモンドに近いものは、ブリリア
ンカットで美しい輝きを示す)
ジルコニア
宝石ダイヤモンド
●モアッサンはフッ素の単離、電気炉の開発で1906年ノー
ベル化学賞を得た。他に、黄色のダイヤモンドの脱色やダ
イヤモンドの合成研究を行った。それは、熔融鉄に多量の
炭素を溶かし込み急冷する方法で、ダイヤモンドの合成に
成功したとされたが、その成功は助手の偽造による。ゼネ
ラル電気の合成ダイヤモンドは、熔融したニッケルを溶媒
に用いており、発想は類似である。
●産地はロシア、ボツワナ、コンゴ、オーストラリア、南ア、
カナダで全産出量15600万カラットの90%である(2004年)。
人工ダイヤは1億カラット以上生産されている。
ダイヤモンドの導電性
SF小説「アンドロメダ病原体」、「ジュラシック パーク」で著名
な作家マイケル クライトンの作品に「コンゴ」がある。
コンゴの鉱山で青色のⅡ型Bダイヤモンドが発見される。ボ
ロンを含む青色ダイヤモンドは102 cmの桁の半導体で、光
を通し、融点が極めて高いことから、超高密度にトランジス
ターを搭載しても、発生する熱で融解することがない超LSIの
基板として、シリコンに置き換わるものと判断した米国の半
導体開発会社が、探索隊を派遣する所が序となる。
小説の中では、それまでに行われたダイヤモンドへのホウ
素のドーピングは(p型ダイヤモンド)全て不成功であったと記
してあるが、最近ドーピングが成功し、得られたダイヤモンド
が超伝導を示すと報告された。次は、 n 型ダイヤモンドの開
発が必要である。
ジョン・マイケル・クライトン(John
Michael Crichton、1942年10月23
日 - 2008年11月4日)
アンドロメダ病原体
失われた黄金都市
ジュラシック・パーク
5.4.2) 共有結合+イオン結合
原子の電気陰性度(electronegativity)の違いにより、異種原子
より成る共有結合結晶には何らかのイオン性が混入する。電気陰
性度は、ポーリングおよびマリケンにより定義された2種がある。
ポーリングの電気陰性度:結合A-Bの解離エネルギー(eV単位)を
D(A-B)とすると、結合A-B中のイオン構造A+Bの寄与は5.25式で
ある。ポーリングはΔABの平方根を結合A、B原子の電気陰性度の
差とし、この関係が多くの結合で満足するように各原子の電気陰性
度の値xを決めた(表5.5)。金属の仕事関数 と5.27式で関係する
とされたが、きわめて粗い近似である。
ΔAB=
D (A  B) 
xA  xB 
1
[ D (A  A)  D (B  B )]
2
ΔAB
 = 2.27x + 0.34 eV
(5.25)
(5.26)
(5.27)
表5.5 ポーリングによる原子の電気陰性度
H
Li
Na
K
Rb
Cs
2.20
0.98
0.93
0.82
0.82
0.79
Be 1.57
Mg 1.31
Ca 1.00
Sr 0.95
Ba 0.89
B 2.04
Al 1.61
Ga 1.81
In 1.78
Tl 2.04
C
Si
Ge
Sn
Pb
2.55
1.90
2.01
1.96
2.33
N
P
As
Sb
Bi
3.04
2.19
2.18
2.05
2.02
O
S
Se
Te
Po
3.44
2.58
2.55
2.10
2.00
F
Cl
Br
I
At
3.98
3.16
2.96
2.66
2.20
色をつけた原子は、水素より電気陰性度の高いもので、水
素結合を形成する。
マリケンの電気陰性度:各原子のイオン化ポテンシャルと
電子親和力との和を電気陰性度とした。
x 
1
2
(I P  EA )
(5.28)
5.5 Ⅱ-Ⅵ、Ⅲ-Ⅴ化合物
●Ⅱ-Ⅵ化合物、Ⅲ-Ⅴ化合物はイオン性と共有結合性の両
者を持つ。
●Ⅱ-Ⅵ化合物の例としてZn-Sを考える。Zn(4s2)とS(3s23p4)
のイオン結合ではZn2+(3s23p63d10)S2-(3s23p6)の電子配置で
あり、共有結合ではsp3結合を考えZn2-(4s4p3)S2+(3s3p3)であ
る。ポーリングの電気陰性度を用いイオン性を計算すると
17~18%のイオン性が予測される。一方、誘電性結晶の結
合のイオン性度が半経験的理論により得られ、その値は
62%である(表5.6)。 閃亜鉛鉱:蛍光体
●II-VI化合物のCd-Teは薄膜太陽電池、巨大磁気抵抗
(GMR:強磁性体と金属を交互に張り合わせたデバイスで、
強磁性体の揃ったスピンと同一方向に金属内に電流が流
れるときは電気抵抗が小さく、反対方向に流れるときは大
きな電気抵抗となることを利用している)に利用される。
●Ⅲ-Ⅴ化合物の例としてIn-Sbを考える。In(5s25p)と
Sb(5s25p3)のイオン結合では、In3+とSb3–(5s25p6)の電子配
置であり、共有結合ではsp3結合を考えIn(5s5p3)と
Sb+(5s5p3)である。ポーリングの電気陰性度を用いイオン性
を計算すると1~3%のイオン性が予測される。表5.6による
とイオン性は32%である。
●III-V化合物のGa-Asは発光ダイオード、固体レーザー、
光電池、携帯電話に、Ga-N(g = 3.39 eV)は高輝度青色
発光ダイオードに用いられている。
赤崎、天野、中村 ノーベル物理学賞
●重要課題可視光を用いた太陽電池、可視光の全領域で
の光伝導体素子には、可視光の全領域(1.05~3.25 eV)
か少し小さめのバンドギャップを必要とする。
表5.6 2原子結晶の結合のイオン性dとエネルギーギャッ
プg (eV)
II-VI
ZnO
ZnS
ZnSe
ZnTe
CdO
CdS
CdSe
CdTe
d
0.79
0.62
0.63
0.61
0.79
0.69
0.70
0.67
g
3.2
3.6
2.7
2.35
2.32
2.42
1.74
1.45
II-VI
MgO
MgS
MgSe
d
0.84
0.79
0.79
g
7.83
4.5
4.05
III-V
InP
InAs
InSb
GaP
GaAs
GaSb
d
0.42
0.36
0.32
0.38
0.31
0.26
g
1.35
0.35
0.18
2.26
1.43
0.78
5.6)15族元素(窒素族元素)N, P, As, Sb, Bi 非金属元素
はN, P、
●窒素N(nitrogen, N2) 空気中の78%, 沸点77K
反応性低い(NN), 寒剤(食品、急速冷凍、受精卵保存)
●生物にとっては非常に重要でアミノ酸やタンパク質、核
酸塩基など。これらを分解すると生体に有害なNH3となる
が、動物(特に哺乳類)は窒素を無害で水溶性の尿素とし
て代謝する。しかし、貯蔵はできないためそのほとんどは
尿として体外に排泄する。そのため、アミノ酸合成に必要な
窒素は再利用ができず、持続的に摂取する必要がある。
●多くの生物は大気中の窒素分子を利用できず、微生物
などが窒素固定によって作り出す窒素化合物を摂取するこ
とで体内に窒素原子を取り込んでいる。
●重要課題:N2の容易な解離法の開発、NOxの無害化
非共有(孤立)電子対
N
不対電子
2p
sp3
2s
1s
1s
NH3
NOx
+4
+3
+2
価数 +5
化合 N2O5 NO2 N2O3 NO
N2O4
物
ヒドラジン
笑気
+1
N2O
0
N2
-1
NH2OH
-2
-3
N2H4 NH3
●リンP (phosphorus,地殻濃度1000ppm):リンの用途
の7割は肥料。最も一般的な白リン(毒性強い、P4型正四面
体、透明なロウ状固体で発火しやすい)を空気のない状態
で300℃に加熱すると赤リン(毒性弱い、マッチの摩擦面)と
なる。白リンを燃やすと五酸化二リン(P2O5)を与える。
●P2O5は極めて優れた乾燥・脱水剤である。P2O5を水中で
加熱するとオルトリン酸(H3PO4)となり、H3PO4は金属表面
に金属腐食を守る不溶性薄膜を形成するので、自動車車
体塗装前の車体のリン酸処理に用いられる。
●リン酸のCa塩のCa(H2PO4)2は水に可溶で肥料やガラス
の製造原料である。さらにCaHPO4となると、不溶性で歯磨
き粉の研磨剤となる。Ca5(PO4)3(OH)はハイドロキシアパタ
イトと言い、脊椎動物の歯や骨を校正する主成分で、虫歯
の治療や人工骨など外科医療などに利用される。
●生体内では、遺伝情報の要である DNA や RNA のポリリ
ン酸エステル鎖として存在するほか、生体エネルギー代謝
に欠かせない ATP(次頁)、細胞膜の主要な構成要素である
リン脂質など、重要な働きを担う化合物中に存在している。
また、脊椎動物ではリン酸カルシウムが骨格の主要構成要
素としての役割も持つ。このため、あらゆる生物にとっての
必須元素であり、農業においてはリン酸が、カリウム・窒素
などとともに肥料の主要成分である。
アデノシン三リン酸とは生物体で用いられるエネルギー保存
および利用に関与するヌクレオチドであり、すべての真核生
物がこれを直接利用する。生物体内の存在量や物質代謝
における重要性から「生体のエネルギー通貨」とされている。
略記として ATP (Adenosine Triphosphate) が一般的に用いら
れる
ATP
●無機As(arsenic)は有毒(しかし、形状依存が大きく三
酸化二ヒ素は毒性をもちながら急性骨髄性白血病治療薬
である。有機ヒ素化合物は毒性が弱くサルバルサンは薬と
して、かって使われた)。ファンデルワールス半径や電気陰
性度等さまざまな点でリンに似た物理化学的性質を示し、
それが生物への毒性の由来になっている。
●Sb(antimony)は非常に毒性が強い。俗説に「ある修道
会で豚にアンチモンを与えたら(駆虫薬として働き)豚は
丸々と太った。そこで栄養失調の修道士に与えたところ、
太るどころではなく死んでしまった。それゆえアンチ・モンク
(修道士に抗する)という名が与えられた」というものである。
●AS, Sb, Biは半金属である。
●Bi(bismuth)常温で安定に存在し、凝固すると体積が増加
する。ビスマス化合物には医薬品の材料となるものがあり、
他の窒素族元素(As, Sb)の化合物に毒性が強いものが多い
ことと対照的である。医薬品(整腸剤)の原料として、日本薬
局方に収載されている。単体のBiと他の金属(Cd、Sn、Pb、In
など)との合金は、それぞれの金属単体より低い融点となる。
このため、鉛フリーはんだに添加されたり、あるいはより低温
で溶けるウッド合金のような低融点合金に使われる。
●Biは大きな熱電効果を示す物質であり、特にTeとの合金
は熱電変換素子として実用化されている。化合物としては、
銅酸化物高温超伝導体の1成分としても用いられ、Biを含む
超伝導物質はしばしばビスマス系高温超伝導物質または単
にビスマス系と呼ばれる。
●高比重・低融点で比較的柔らかく無害である事から鉛の代
替として注目され、散弾や釣り用の錘、鉛・Cdの代替として黄
銅への添加剤、ガラスの材料などとして用いられている
5.7) 13族元素 ホウ素(B boron)
●単体は黒みがかっていて、非常に硬く、単体元素として
はダイヤモンドに次ぐ硬度9.3を示す。半導体の性質を持つ。
ケイ素にドープしp型半導体。
●身近な用途で使用される場合は、ホウ砂やホウ酸の状
態であることが多い。
ホウ酸(boric acid)はホウ素のオキソ酸であり、殺菌剤、殺
虫剤(ホウ酸団子としてゴキブリ駆除) 、医薬品(眼科領域)、
難燃剤、原子力発電におけるウランの核分裂反応の制御、
そして他の化合物の合成に使われる弱酸の無機化合物で
ある。化学式はH3BO3、時にB(OH)3とも書く。常温常圧では
無色の結晶または白色粉末で、水溶液では弱い酸性を示
す。
ホウ砂:塩湖が乾燥した跡地で産出することが多い。古くは
チベットの干湖からヨーロッパへもたらされ、特殊ガラスやエ
ナメル塗料の原料だった。19世紀から20世紀にかけてはア
メリカ大陸西部においてデスヴァレーなどの産出地が相次い
で発見された。今日では、アメリカ・ロシア・トルコ・アルゼン
チンのほか、イタリアのトスカーナ地方やドイツなどでも産出
される。日本ではほとんど産出されない。
ホウ砂の利用
陶芸用の釉薬溶解剤、ガラスに混ぜると熱衝撃や化学的浸
食に強いホウケイ酸ガラス(ビーカー、フラスコなど)となる、
耐熱ガラスなどの原料、水溶液は弱アルカリ性となり、洗浄
作用・消毒作用があるため洗剤や防腐剤、目の洗浄・消毒、
銀塩写真の現像液のアルカリ調整剤、ホウ素がポリマーを
架橋しゲル化する反応を利用し理科の実験でのスライム、
植物の必須微量要素であるホウ素の肥料。
ホウ砂の利用(続)
原子炉の放射線遮蔽材として。原子力船むつが遮蔽リング
の設計ミスにより放射線漏れを起こしたとき、応急処置とし
てホウ素を含むホウ砂を混ぜ込んだ米を貼り付けることで
漏れを防いだ。
アリ、ゴキブリ、ノミなどの昆虫の駆除に(日本ではゴキブリ
にはホウ酸のほうがよく使われている)。
ボラン: モノボラン(BH3)、ジボラン(B2H6)
モノボランは不安定でジボラン(爆発性、毒性ある)として存在
B
2p
不対電子
sp3
2s
1s
1s
BH3
空軌道
窒化ホウ素(BN)xは、ジボランB2H6と過剰のアンモニアの高温反応で
得られる無機ベンゼン(ボラジン)と言われるボラゾールB3N3H6を
縮合するか、ホウ砂と塩化アンモニウムを過熱すると得られる白色
脂肪状難溶性の粉末で、常圧では3000Cで昇華し、加圧下では
3000Cで融解する。六方晶系グラファイト構造に似て(h-BNと云われ
る)、面内でのB-N間距離は1.45 Åで2重結合性がある(B-N単結合は
1.60 Å)。面間は3.30 Åである。結合にはB+••Nのイオン結合性を持
つ。良い絶縁体で耐酸化性に優れ空気中1000℃の使用に耐えるの
で良質のルツボとなる。他に、立方晶系閃亜鉛鉱型構造のc-BN(ボ
ラゾン)、六方晶系ウルツ鉱型構造のw-BNがあり、c-BNはダイヤモ
ンドに次ぐ硬さをもち研磨剤や工具に使用される。
H
B
H
B
B
HN
NH
HN
NH
HB
BH
HB
BH
N
H
N
H
縮合
N
B
N
B
N
B
N
B
B
N
B
B
N
B
N
N
B
N
(B N ) x
ボラゾールと窒
化ホウ素h-BN
5.8) 16族元素(酸素族元素、カルコゲン元素)
O, Sが非金属元素
●酸素O(oxygen, O2) 空気中の21%、沸点90K, 融点56K,
100万気圧を超えた高圧下では金属光沢を持ち、125万気
圧、0.6 K では超伝導金属となる。
●オゾン (ozone) は、3つの酸素原子からなる酸素の同素
体である。分子式は O3 で、折れ線型の構造を持つ。腐食
性が高く、生臭く特徴的な刺激臭を持つ有毒物質である。
大気中にもごく低い濃度で存在している
紫外線
●オゾンの破壊 CF3Cl → CF3・ + Cl・
O3 +Cl・ → O2 + ClO・
連鎖反応
・
・
2ClO → O2 + 2Cl
● 2O(1s22s22p4)→O2 基底状態の三重項(triplet)状態
では不対電子を持つため常磁性体である。また活性酸
素の一種で反磁性である励起状態の一重項(singlet)酸
素も存在する。
三重項酸素
一重項酸素(2種)
生体内においても、紫外線を浴びたりすることにより体内の色素が増感剤の役目を
して一重項酸素が発生することがある。一重項酸素は生体分子と反応して破壊して
しまうので、生体はこれを除去する機構を備えている。生体内から一重項酸素を除
去する物質にはβ-カロテン、ビタミンB2、ビタミンC、ビタミンE、尿酸などがある。
活性酸素(reactive oxygen species)は、大気中に含まれる
酸素分子がより反応性の高い化合物に変化したものの総
称。一般的にスーパーオキシドアニオンラジカル(通称スー
パーオキシドO2 - )、ヒドロキシルラジカル(OH )、過酸化水
素(H2O2)、一重項酸素の4種類とされる。活性酸素は、酸素
分子が不対電子を捕獲することによってスーパーオキシド、
ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、という順に生成する。
スーパーオキシドは酸素分子から生成される最初の還元
体であり、他の活性酸素の前駆体であり、生体にとって重
要な役割を持つ一酸化窒素(NO 血管拡張作用)と反応し
てその作用を消滅させる。活性酸素による多くの生体損傷
はヒドロキシルラジカルによるものとされている。活性酸素
を除去する酵素はスーパーオキシドジスムターゼ(SOD、銅、
亜鉛、マンガンを含む)、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ:。
スーパーオキシドアニオンは、まずSODによってH2O2に変
換され、ペルオキシダーゼによって無害な水に分解される。
●
●
●硫黄S(sulfur, sulphur S8) 30 種以上の同素体
H2O(液体)→H2S(気体猛毒)→H2Se(気体猛毒)→H2Te
硫酸(化学工業上、最も重要な酸), 黒色火薬の原料、合成
繊維、医薬品や農薬、また抜染剤などの重要な原料、さま
ざまな分野で硫化物や各種の化合物が構成されている。
農家における干し柿、干しイチジクなどの漂白剤には、硫
黄を燃やして得る二酸化硫黄(SO2)が用いられる(燻蒸して
行われる)。
ゴムに数%の硫黄を加えて加熱すると(架橋により)弾性が
増し、さらに添加量を増やすと硬さを増して行き、最終的に
はエボナイトとなる。
また、金属の硫化鉱物は半導体の性質を示すものが多い。
●セレンSe(selenium)
金属セレンは、半導体性、光伝導性がある。これを利用し
てコピー機の感光ドラムに用いられる。またセレンは整流
器(セレン整流器)に使われたり、光起電効果によりカメラ
の露出計やガラスの着色剤、脱色剤に使われる。毒性が
ある為、現在は使用が制限され多くの用途において代替物
質が使用されている。
セレンは自然界に広く存在し、微量レベルであれば人体
にとって必須元素であり、抗酸化作用(抗酸化酵素の合成
に必要)があるが、必要レベルの倍程度以上で毒性があり
摂取し過ぎると危険であり、水質汚濁、土壌汚染に係る環
境基準指定項目となっている。これはセレンの性質が硫黄
にきわめてよく似るため、高濃度のセレン中では含硫化合
物中の硫黄原子が無作為にセレンに置換され、その機能
を阻害されるためである。
セレン 月、 テルル 地球
●テルルTe(tellurium)
金属テルルと無定形テルルがあり、金属テルルは銀白色
の結晶(半金属)で、六方晶構造である。にんにく臭がある。
化学的性質はセレンや硫黄に似ている。燃やすと二酸化テ
ルルになる。天然に元素鉱物として単体で存在することが
ある。テルル単体及びその化合物には毒性があることが知
られている。また、これらが体内に取り込まれると、代謝さ
れることによってジメチルテルリドになり、呼気がニンニクに
似た悪臭(テルル呼気)を帯びるようになる。
●ポロニウムPo(polonium)
銀白色の金属(半金属), 放射性(a線)
リトベンコ、アラファト暗殺?
無機化学I 5章 ③
鉱物、宝石など
堀 秀道
「鉱物」と「宝石」を楽しむ本 PHP文庫 2009
松原聡
日本の鉱物 GAKKEN
増補改訂フィールドベスト図鑑 vol14, 2011
中井 泉
元素図鑑 ベスト新書, 2013
③-1 モース硬度(絶対値でない、比較)
1.滑石 (talc)
2.石膏(gypsum), 岩塩(rock salt)
3.方解石(calcite)
4.蛍石(fluorite)
5.燐灰石(apatite)
6.正長石(orthoclase)
7.石英(quartz)
8.トパーズ(topaz)
9.コランダム(corundum)
10.ダイヤモンド(diamond)
モース硬度 1
滑石 Mg3Si4O10(OH)2 talc、タルク 粘土鉱石の
一つ。これを主成分とする岩石はろう石。◎粉末にし
て黒板用のチョーク、玩具、工事現場などでのマーキ
ング用、ベビーパウダーなど化粧品類、医薬品や上
質紙の混ぜ物など。ベビーパウダーをタルカムパウ
ダーと呼ぶ事があるのは、滑石の英語名 talc に由来
する。
モース硬度2
石膏、硫酸カルシウム・2水和物(CaSO4・2H2O)を二
水石膏、軟石膏、または単に石膏(gypsum)という。
ギプス、豆腐の凝固剤(絹ごし豆腐)。
無水物CaSO4は硬石膏で、
解熱作用がある
モース硬度 3
方解石、CaCO3, calcite。鉱石として扱われる場合は
石灰石(コンクリート原料、骨材、アスファルト舗装、
ブロック、建築用塗料)、石材として扱われる場合は
大理石(壁、建築石材、墓、配電盤)と呼ばれる。
熱を上げる作用がある。多形に鍾乳石、霰石、サン
ゴがある。
複屈折
モース硬度 4
蛍石 CaF2 fluorite, 色は無色、または内部の不純
物により黄、緑、青、紫、灰色、褐色などを帯びる。
加熱すると発光する。不純物として希土類元素を
含むものは、紫外線を照射すると紫色の蛍光を発
する。製鉄の溶剤として溶鉱炉に入れられる(flux)。
濃硫酸に入れて加熱するとフッ化水素が発生する。
望遠鏡や写真レンズ(蛍石レンズ、
望遠、直径20cmの凸レンズで100万
円以上の高値)
イギリスのダラムで産出
した蛍石。下は蛍光を発
している様子。
モース硬度5
燐灰石、apatite、Ca5(PO4)3(F,Cl,OH)2 単に燐灰石
といった場合はフッ素燐灰石をさすことが多い。燐
灰石の用途として重要なのは、化学肥料(リン酸
塩)の原料。水酸燐灰石は歯科医療でのデンタル
インプラントの原料、人工骨の原料としても使用さ
れている。
モース硬度6
正長石、orthoclase、KAlSi3O8
火成岩や変成岩に普通に含
まれる造岩鉱物。
モース硬度7・・・7以上が宝石
石英、独: Quarz、英: quartz SiO2。無色透明なもの
を水晶(rock crystal)と呼び、古くは玻璃(はり)と呼
ばれた。水晶の発色原因は、主に不純物の混入と
放射線による結晶格子欠陥による。紫水晶、黄水
晶、煙水晶、黒水晶の発色原因はいずれも、不純
物欠陥に電子(または正孔)が捕獲され特定のエネ
ルギー準位をもつもの(色中心、カラーセンターとい
う)で、紫水晶、黄水晶は鉄イオン、煙水晶、黒水
晶はアルミニウムイオンが関連して
いる。
◎水晶振動子
紫水晶(amethyst、アメシスト)
煙(アルミニウム)
有色水晶中で最も多い
黄・シトリン
(鉄)
緑
茶・黒水晶:数珠
針入り水晶(ルチル 金紅石)
モース硬度8
トパーズ、topaz
Al2SiO4(F,OH)2
黄玉
モース硬度9
コランダム、corundum、酸化アルミニウム (Al2O3)
の結晶からなる鉱物。鋼玉。純粋な結晶は無色透
明。不純物イオンにより色がつき、ルビー(赤色、
Cr)、サファイア(青色などの赤色以外のもの、Ti)
など。
融点2030-2050℃
現在では容易に人造でき、単結晶は、固体レー
ザー、精密器械の軸受などに使われ、大規模に作
られる多結晶の塊は研磨材、耐火物原料などに
使われる。なお、磁鉄鉱、赤鉄鉱、スピネルなどが
混ざる粒状の不純なコランダムは、エメリーと呼ば
れ、天然の研磨材であった。
Ruby(紅玉)
サファイア(Sapphire、蒼玉(青玉))
モース硬度10
ダイヤモンド diamond 金剛石 屈折率は2.42。ロ
シア (22.8%)、ボツワナ (19.9%)、コンゴ民主共和国
(18.0%)、オーストラリア (13.2%)、南アフリカ共和国
(9.3%)、カナダ (8.1%) だけで、世界シェアの90%を
占める。1867年にオレンジ自由国と英領ケープ植
民地との国境付近でダイヤモンドが発見され、その
東隣にダイヤモンドの鉱床たる母岩があると地質学
者が突き止めた。その母岩のある地域はキンバ
リーと名付けられ、キンバリーの最初の鉱床には、
現在ビッグ・ホールと呼ばれる大穴があいており、
観光地となっている。このキンバリーの鉱床の中か
らデ・ビアス社が産声を上げ、ダイヤモンドの世界
市場を支配することとなった。
1967年には独立したばかりのボツワナ共和国北部
のオラパ鉱山において大鉱床が発見され、その後も
次々と鉱床が発見されたことでボツワナが世界2位
のダイヤモンド生産国となり、その利益によってボツ
ワナは「アフリカの奇跡」と呼ばれる経済成長を遂げ
ることに成功した。
ホープダイアモンド 45.50カラットのブルー・ダイヤモンド(最初112と
3/16カラット)。紫外線を当てると、1分以上に渡って赤い燐光を発する。
持ち主を次々と破滅させながら、人手を転々としていく『呪いの宝石』」
③-2 誕生石(青字は、モース硬度の部分で記述)
1月 ガーネット
2月 アメシスト
3月 アクアマリン、サンゴ
4月 ダイヤモンド
5月 エメラルド、翡翠
6月 真珠、ムーンストーン、アレクサンドライ
ト
7月 ルビー
8月 ペリドット
9月 サファイア
10月 オパール、トルマリン(電気石)
11月 トパーズ
12月 トルコ石、ラピスラズリ
1月 ガーネット, 柘榴石(石榴石、garnet)
ケイ酸塩鉱物一般式はA3B2(SiO4)3または、A3B2C3O12
と表される。主成分は、Aとしてカルシウム・マグネシ
ウム・鉄(二価)・マンガンなど、Bとして鉄(三価)・ア
ルミニウム・クロム・チタンなど、Cと
してケイ素・アルミニウム・鉄(三価)
などが入る。一般的なものは鉄ばん
ざくろ石(ばん:Al)
モース硬度は 7.5
◎茶色の紙やすり
◎ボヘミアングラス
の原点
3月 アクアマリン, サンゴ
アクアマリン(Aquamarine),青色の
ベリル(緑柱石),緑柱石のうち透明
でスカイブルーの色調のものの宝
石名。和名は藍玉。モース硬度は
7と1/2。「勇敢・沈着・聡明」
サンゴ 刺胞動物門花虫綱に属す
る動物(サンゴ虫)のうち、固い骨格
を発達させるものである。宝石になるものや、サンゴ
礁を形成するものなどがある。英語からコーラル
(coral) とも。鉱物ではない。
5月 翡翠
翡翠 jade NaAlSi2O6、白、緑(Fe, Cr)。古くは玉と呼
ばれた。翡:カワセミの雄、翠:カワセミの雌。化学組
成の違いから「硬玉(ヒスイ輝石Jadeite)」と「軟玉(ネ
フライトNephrite : 透閃石-緑閃石系角閃石)」に分か
れ、両者はまったく別の鉱物である。見た目では区
別がつきにくいことからどちらも「翡翠」とよんでいる。
硬玉・・翠玉白菜 故宮博物院(台湾)
軟玉・・玉琴
6月 真珠、ムーンストーン、アレクサンドライト
真珠(Pearl):貝から採れる宝石の一種。鉱物でない。
石言葉は「健康・富・長寿・純潔」
ムーンストーン(moonstone)月長石、「純粋な恋」珪
酸塩鉱物
アレクサンドライト、alexandrite、金緑石(クリソ
ベリル、BeAl2O4)の変種。昼の太陽光下では青緑、
夜の人工照明下では赤へと色変化をおこす他の
宝石には見られない性質を示す。「秘めた思い」。産
出量が少なく、非常に高価で、発見されてからまだ
日が浅いのだが、はるか古代から貴石として扱われ
てきた四大宝石(ダイヤモンド、ルビー、サファイア、
エメラルド)にこの石を加え、五大宝石として扱われ
たり、「宝石の王様」と呼ばれることがある。
8月 ペリドット、peridot,カンラン石(オリヴィン)の変
種。屈折率が高いため、明るい緑色が映えることが
特徴の宝石である。モース硬度:6.5-7.0、「夫婦の幸
福・平和 ・安心 ・幸福 」。オリーブ・グリーンといわれ
る黄緑色が代表色である。北海道でも掘られ、耐火
材(1000℃でも溶けない)・・鋳物制作に使う砂。200
カラット以上ある大きなペリドットが、ケルン大聖堂に
ある東方の三博士の3つの聖堂を飾っている。
10月 オパール(opal)、蛋白石、SiO2・nH2Oで、成分
中に10%ぐらいまでの水分を含む。モース硬度 5 - 6。
珪酸の玉が規則的に配列し、光を回折し、赤、緑色
を示す。成分中の水がなくなるとひび割れ、色も消え
る。石言葉は希望、無邪気、潔白
10月 トルマリン(tourmaline)、ケイ酸塩鉱物のグ
ループ名。 Na(Li, Al)3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4, 熱すると
電気を帯びる(電気石)。モース硬度は 7 - 7.5。弱い
圧電体の一つで、圧電効果と焦電効果をもっている。
また、吸光型偏光子としての性質も持つ。石言葉は
「希望・潔白・寛大・忍耐」
12月 トルコ石(turquoise ターコイズ)、水酸化銅ア
ルミニウム燐酸塩CuAl6(PO4)4(OH)8·4H2O、青色から
緑色の色を持つ不透明な鉱物。モース硬度5.5-6。質
の良いものは鮮やかな青色だが、不純物に鉄を含
むと緑色に近くなる。銅やアルミニウムを含むリン酸
塩の岩石に水の作用が働いたときにできる。鉱床は、
乾燥地帯で発見されることが多い。熱と日光に弱い
ため屋外に放置しない。
12月 ラピスラズリ(lapis lazuli)、瑠璃、青い部分が
青金石(lazurite)。金色のつぶつぶは黄鉄鉱。ウルト
ラマリン・・群青色。モース硬度: 5 - 5.5。石言葉は「尊
厳・崇高」。傷つきやすく、薬品にも弱い
塩酸と反応して硫化水素を出し、ゼラチン化する
頭巾の青縞:
銅を含むコバ
ルトガラス
黒目:黒曜石
白目:マグネ
サイト(炭酸
マグネシウ
ム)
アイライン:ラ
ピスラズリ
③-3 他の鉱物
黄鉄鉱(pyrite、パイライト、FeS2)は硫化鉱物の一
種。「パイライト」は、ギリシャ語の「火」を意味する
「pyr」に由来する。これは、黄鉄鉱をハンマーなどで
叩くと火花を散らすことから名付けられた。淡黄色
の色調により金と間違えられることが多いことから、
「愚者の黄金」(fool's gold)とも呼ばれる
孔雀石(malachite Cu2(OH)2(CO3)):黄銅鉱(一次鉱
物)が溶け空気中の炭酸ガスや水と結合してできる
鉱物(二次鉱物)。銅製品にできるサビの緑青の主
成分と同じである.モース硬度3.5-4。松葉緑青(岩絵
の具) 青丹は古名、クレオパトラのアイシャドー
藍銅鉱(azurite、アズライト、Cu3(OH)2(CO3)2)は炭酸
塩鉱物の一種。ブルー・マラカイトと呼ばれる宝石、
岩群青(岩絵の具):孔雀石からとれる緑青の10倍
の値段
瑪瑙(めのう、agate, SiO2):石英の結晶の塊(玉髄)
で色が付き縞模様をなしたもの(馬の脳)。モース硬
度は6.5-7。仏舎利中の骨の代替、カメオ
カメオとは、瑪瑙、大理石、貝殻などに浮き彫りを施
した装飾品・工芸品。日本では主にマンボウガイ等
の厚い貝殻に浮き彫りを施したシェルカメオを指し、
瑪瑙などの石に浮き彫りを施した物はストーンカメ
オ、アクリル樹脂をカメオ風に成形した物はアクリル
カメオ、金属をカメオ風に成形した物はメタルカメオ
と素材ごとに呼び分けている。
雲母(mica),ケイ酸塩鉱物のグループ名。きらら、きら、マイ
カとも呼ばれる。耐熱性絶縁体で半田ごて等に利用。誘電
体(電荷をためる物質)に利用したコンデンサをマイカコンデ
ンサという。近年、自動車や建築物等の塗料の材料の一部
として使われることがある。風化した雲母類鉱物は、放射性
セシウムの134Cs、137Cs を吸着する。風化した黒雲母はバー
ミキュライトとして農業や園芸用に利用される。
バーミキュライトは、農業や園芸に使われる土壌改良用の
土。建設資材としても使われている。中国、南アフリカ、オー
ストラリア、ジンバブエ、米国などに産出す
る原鉱石の蛭石(vermiculite 雲母の一種)
を800℃ほどで加熱風化処理し、10倍以上
に膨張させたもの。
「吉良」氏 の語源は、三河国守護足利義氏の末裔
の氏族が支配した吉良荘(愛知県西尾市及び幡豆
郡)から「きら(雲母) 」が採れた事である、とされる。
氷晶石(cryolite)Na3AlF6、1799年に西
グリーンランドのイビクドゥト(現在のイヒドゥ
ート(Ivittuut))で発見された。最初は「解け
ない氷」と考えられ、外観があまりにも氷に
似ていることからこの名前がついた。他の国でも産出が報告
されているが、現在でも、結晶としてまとまって産出するのは
グリーンランドだけである。モース硬度は2.5から3。色は、半
透明の無色または白色。屈折率が低く1.338で水とほぼ同
程度で、透明な結晶を水の中に入れるとほとんど見えなくな
る。1886年、アルミニウムの製錬法であるホール・エルー法
における融剤(融点1012℃)としての用途が開拓され、グ
リーンランドは氷晶石の輸出で莫大な富を得た。現在、より
安価な蛍石から製造される合成品が用いられ、また埋蔵量
が底を突いたため1987年にイヒドゥートの鉱山は閉山して町
はゴーストタウンと化した。
珪孔雀石(chrysocolla、クリソコラ)とは、ケイ酸塩鉱物の
一種。孔雀石(Cu2(CO3)(OH)2)の炭酸がフィロケイ酸に
置き換わったような組成であり、孔雀石と同時に産出され
ることも多い。ただし、孔雀石と違って塩酸では発泡しない
点から区別できる。化学組成は(Cu,Al)2H2Si2O5(OH)4·nH2O。
モース硬度は2.5~3.5で不純物として含まれるケイ素の量
が多いほど硬度は高くなる。
銅を含む鉱物が風化することによって生成するため、銅
鉱床付近で産出される。宝石としてはモース硬度が低く扱
いにくい。そのため、宝石として使う場合は樹脂を浸透させ
るなどの処置が必要となる。また、樹脂の代わりに石英が
浸透したものはジェムシリカと呼ばれている。
ルチル(金紅石、rutile)は、二酸化チタン(TiO2)の結晶のひ
とつ。正方晶系の鉱物である。同様の組成式で表される鉱
物に鋭錐石(アナテース)、板チタン石(ブルカイト)がある。
チタンの重要な鉱石鉱物。火成岩や変成岩などに広く産す
る。石英(水晶)の中に針状結晶が入ることがあり、「針入り
水晶」などと呼ばれる。
金緑石(きんりょくせき、chrysoberyl、クリソベリル、 BeAl2O4)。色は
黄色、帯黄緑色、緑色、褐色(稀に無色透明なものもある)など様々で
あるが、黄色~帯黄緑色が最も多い。斜方晶系、モース硬度8.5。金
緑石の変種には変わったものがあり、研磨により明るい光の筋が見え
るキャッツアイ(猫目石)や、光源により色の変わるアレキサンドライト
なども金緑石の変種である。この2つが同じ鉱物であることはあまり知
られていない。金緑石以外にもキャッツアイ効果を示す鉱物があるが、
単にキャッツアイという場合はクリソベリルキャッツアイのことである。
その他のキャッツアイ効果を示す宝石は、宝石名と併せて表記または
呼称される(トルマリンキャッツアイなど)。また、金緑石の中には変色
効果とキャッツアイ効果を併せ持つ、アレキサンドライトキャッツアイと
呼ばれるものもある。淡緑色~黄緑色の金緑石はクリソライトと呼ば
れる。 キャッツアイ効果、スター効果は針状のインクルージョンか、
鉱物自体が針状結晶集合体になって
いるために起こる。
キャッツアイ効果を持つ鉱物に、クリソベリル、トルマリン、アパタイト、
オパール、ウレキサイト、などがあり、ほとんどの場合、「クリソベリ
ル・キャッツアイ」など、宝石名のあとに「キャッツアイ」をつけて呼ぶ。
宝石の名称として単に「キャッツアイ」と呼ばれている場合は「クリソ
ベリル・キャッツアイ(水がインクルージョン)」のことを指すことが多
い。他に石綿の繊維組織が平行に層状をなして混入しているため
に、光の反射効果に差が生じて現れるものに、クオーツ・キャッツア
イ、タイガーズアイ、ホークスアイ、などがある。この効果を人工的に
再現した「キャッツアイガラス」というものもある
キャツアイ
タイガーズアイ
ホークスアイ
スター効果(asterism)は、宝石に見られる光の効果のひとつ。「ア
ステリズム効果」、「星彩効果」ともいう。スター効果は特定の宝石
を定まった方法でカットしないと現れない。スター効果を得るために
は、まず、2方向から3方向の平行に並んだ金紅石(ルチル)という
針状結晶のインクルージョンを持つ宝石を用意しなければならない。
次に宝石を半球形のカボション・カットに加工する。このとき底面が
インクルージョンの伸びる方向に平行になるようにカットすると、半
球形の表面がレンズの働きをして、石に入ってきた光がルチルに反
射して焦点を結ぶようになり、光の筋が発生する。これを「スター効
果」と呼ぶ。2方向のルチルが交差していると4条のスター効果を示
す。3方向の時には6条、4方向の時には12条の
スター効果が現れる。スター効果を見せやすい
宝石はルビーとサファイアで、ローズクォーツ、
スピネル、ガーネットなどにも現れることがある。
スピネルとガーネットの場合、インクルージョンは
輝石や角閃石で、十字架の形のスターが出現する
スターサファイア(スター効果が現れているサ
ファイア)。6条の光の筋が見える。
宝石とは、希少性が高く美しい外観を有する固形物のこと。一般的
に外観が美しく、アクセサリーなどに使用される鉱物を言う。主に天
然鉱物としての無機物結晶を指すが、ラピスラズリ、ガーネットのよう
な数種の無機物の固溶体、オパール、黒曜石、モルダバイトといっ
た非晶質、サンゴや真珠のように生物に起源するもの、コハクのよう
に有機物であるもの、キュービックジルコニアを代表とする安定化剤
という名の添加物を混合した人工合成物質など様々である。
宝石としての必須条件は何よりその外観が美しいこと、次に希にし
か産しないこと(希少性)であるが、第三の重要な条件として、耐久性、
とりわけ硬度が高いことが挙げられる。これは、硬度が低い鉱物の
場合、時とともに砂埃(環境に遍在する石英など)による摩擦風化・劣
化のために表面が傷ついたりファセットの稜が丸みを帯びたりして、
観賞価値が失われてしまうためである。例としてダイヤモンドはモー
ス硬度10、ルビー・サファイアはモース硬度9である。石英のモース
硬度は7であり、これらの宝石の硬度は石英のそれより高いことに注
意されたい。例外的に硬度が7以下であってもオパール、真珠、サン
ゴなどはその美しさと希少性から宝石として扱われる。
表面を研磨したカット前の様々な
宝石や鉱物: 左上から右へ➀ター
コイズ(トルコ石)、➁ヘマタイト(赤
鉄鉱)、③クリソコラ(珪孔雀石)、
④タイガーズアイ(虎目石)。2段目
は⑤水晶(石英)、⑥トルマリン(電
気石)、⑦カーネリアン(紅玉髄)、
⑧パイライト(黄鉄鉱)、⑨スギライ
ト(杉石)。3段目は⑩マラカイト(孔
雀石)、⑪ローズクォーツ(紅水
晶)、⑫スノーフレークオブシディ
アン(黒曜石)、⑬ルビー(紅玉)、
⑭モスアゲート(苔瑪瑙)。4段目
は⑮ジャスパー(碧玉)、⑯アメシ
スト(紫水晶)、 ⑰ブルーレース、
⑱ラピスラズリ(瑠璃)。
➁
➀
⑤
⑥
⑩
⑮
③
⑦
⑪
⑯
④
⑨
⑧
⑫
⑰
⑬
⑭
⑱
石綿(asbestos(アスベストス)、オランダ語: asbest(アスベスト))は、
蛇紋石や角閃石が繊維状に変形した天然の鉱石で無機繊維状鉱物
の総称。蛇紋石系(クリソタイル)と角閃石系(クロシドライト、アモサイ
トなど)に大別される。
石綿の繊維1本は直径0.020.35 μm(髪の毛の5,000分の
1)程度である。耐久性、耐熱
性、耐薬品性、電気絶縁性な
どの特性に非常に優れ、安価
であるため、「奇跡の鉱物」として重宝され、建設資材、電気製品、自動
車、家庭用品等、様々な用途に広く使用されてきた。しかし、空中に飛
散した石綿繊維を長期間大量に吸入すると肺癌や中皮腫の誘因となる
ことが指摘されるようになり「静かな時限爆弾」と呼ばれるようになった。
石綿➁
蛇紋石系(クリソタイル、温石綿、白石綿➀)
組成式はMg3Si2O5(OH)4。暗緑色の蛇紋岩の割れ目に生成したもの。クリソタイル
から作られる石綿を温石綿と呼ぶ。文字通り、綿のように柔らかい。日本では2004
年10月に使用が禁止
角閃石系
クロシドライト(青石綿➁):石綿状のリーベック閃石(Na2(Fe2+3Fe3+2Si8O22
(OH)2)) のこと。針状に尖った繊維で、クリソタイルのような柔らかさは無い。最も毒
性が強いとされ、1995年から使用も製造も禁止。
アモサイト(茶石綿):カミントン閃石(Mg7Si8O22(OH)2) - グニュネル閃石
(Fe2+7Si8O22(OH)2) 系列。1995年から使用も製造も禁止。
他種の石綿もある。
➀
➁
石綿③
古代エジプトでは、ミイラを包む布として、古代ローマでは、ランプの
芯として使われていた。
日本では、『竹取物語』に登場する、火にくべても燃えない「火鼠の
皮衣」も、当時そういうものが実在したとすれば、正体はこの石綿で
あったろうと言われている。平賀源内が秩父山中で石綿を発見し、
1764年(明和元年)にこれを布にしたものを中国にならい「火浣布」と
名付けて幕府に献上している。この源内の火浣布は京都大学の図書
館に保存されている。
20世紀に入ると、建物などの断熱材や防火材、機械などの摩擦防
止用などに大量に使用されるが、1970年代に入ると、人体や環境へ
の有害性が問題になった。発ガン性などが問題となり、日本では2006
年9月から、化学工業プラントで配管同士の接続に使用される「シール
材」などの5製品を除き、原則禁止になった。しかし、厚生労働省は、
2008年4月に、例外的に認められていた5製品についても2011年度を
目途に全廃することとし、同年度以降は、新たな石綿製品は日本では
製造されないことになった。
石綿④ 石綿の使用内容
•防音・断熱用(学校、各建築物、船舶、鉄道車両)
・理科の実験(ビーカーなどを火に掛ける際に使う石綿付き金網(石綿
金網、金網の中央にある円形の白っぽい部分が温石綿)。上記の問
題から、現在はセラミックやセラミックファイバーを利用したセラミック
付金網が使用されている。ただし、一部のセラミックファイバーについ
ても、発癌性が疑われている。
•絶縁材料
•自動車(アンダーコート)、鉄道車両(内側の吹付け剤の他ブレーキ
パッド、クラッチ板)
•屋根瓦、屋根用波板、石膏板、天井用化粧板、石綿セメント管
•ガスケット、水道用パッキン、シーリング材、パッキングなど
•モルタルに適量混和してこね具合を良くしたり、アスファルトに混和し
て舗装の凍結やひび割れを防いだりしたりするのに使用した。
日本では1975年9月に吹き付けアスベストの使用が禁止。2004年に
石綿を1%以上含む製品の出荷が原則禁止、2006年には同基準が
0.1%以上へと改定された。個人でも、1960年代まで製造されていた電
気火鉢の石綿灰を廃棄する際には注意が必要。
石綿⑤ 環境省では建築物の解体によるアスベストの排出量が
2020年から2040年頃にピークを迎えると予測している。年間10万ト
ン前後のアスベストが排出されると見込まれ、今後の解体にあたっ
て建築物周辺の住民の健康への影響が懸念されている。
韓国におけるアスベスト・ショック
2009年4月1日には韓国食品医薬品安全庁が
韓国のベビーパウダーなどにアスベストが混入
していることを発表した。4月6日には、アスベス
クリソタイル
トが混入した原料を供給された社が304に上ること
を発表した。また、化粧品・製薬・食品メーカーが約300社に達するこ
とが分かり、ベビーパウダーに端を発したアスベスト・ショックが食
品・製薬分野にまで拡大した。食品医薬品安全庁はこれらメーカー
にタルクが流通した経路を確認した後、すぐに自主的回収などの措
置を取るとしている。なお、食品医薬品安全庁の専門家諮問会議は
「アスベストに汚染したタルクによる人体への有害性が立証されたも
のはない」という意見をまとめている。
琥珀(コハク、アンバー Amber)。木の樹脂(ヤニ)が地中
に埋没し、長い年月により固化した宝石である。半化石樹
脂や半化石の琥珀は、コーパル(Copal)という。「琥」の文
字は、中国において虎が死後に石になったものだと信じら
れていたことに由来する。 鉱物ではないが、硬度は鉱物
に匹敵する。色は、黄色を帯びたあめ色のものが多い。
バルト海沿岸で多く産出するため、ヨーロッパでは古くから
知られ、宝飾品として珍重されてきた。ローマでは活力石
(succinum)、 古代ギリシャではエレクトロン (elektron) と呼
んでいた。英語の
electricity(電気)は擦る
と静電気を生じることに
由来している。
琥珀➁ 琥珀は樹脂が地中で固化してできるものであるた
め、石の内部に昆虫(ハエ、アブ、アリ、クモなど)や植物の
葉などが混入していることがある。こうしたものを一般に
「虫入り琥珀」と呼ぶ。小説『ジュラシックパーク』の設定の
ように、数千万年前に琥珀に閉じ込められた生体片の
DNAを復元することは実際には不可能である。市販の「虫
入り琥珀」については、コーパルなどを溶解させ現生の昆
虫の死骸などを封入した、いわば「人造虫入り琥珀」である
場合がある。
ポーランドのグダンスク沿岸と、ロシア連邦のカリーニン
グラード州で、ポーランド・グダンスク沿岸とカリーニング
ラード州だけで世界の琥珀の85%を産出[9]し、そのほか
でも、リトアニア共和国、ラトビア共和国など大半がバル
ト海の南岸・東岸地域である。ポーランドは琥珀の生産
において圧倒的な世界一を誇り、世界の琥珀産業の
80%がグダンスク市にあり、世界の純正琥珀製品のほと
んどがこのグダンスク地方で製造される。
日本においては岩手県久慈市近辺や千葉県銚子市。
2003年に再建された、サンクトペテルブルク・エカテリーナ宮殿の「琥珀の間」