鳥インフルエンザ特論

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Transcript 鳥インフルエンザ特論

病原微生物の性状比較
原核細胞
細菌
マイコプラズマ
リケッチア
ウイルス
クラミジア
ファイトプラズマ
細胞構造
あり
なし
核酸
DNAとRNAの両方を持つ
どちらか片方
増殖様式
対数増殖(分裂や出芽)
一段階増殖
暗黒期の存在
単独で増殖
エネルギー産生
できる
できない(偏性細胞内寄生性)
できる
できない
真菌は真核細胞を持つ高等生物である。マイコプラズマは、
ペプチドグリカン細胞壁を欠くことで、真正細菌と区別される。
鳥インフルエンザ特論
螺旋状のヌクレオカプシド
一本鎖RNA直線状マイナス鎖(8分節)
エンベロープ表面には、細胞膜
レセプターとの結合性を支配す
る2種の抗原
赤血球凝集素( H1~H16 )と
ノイラミニダーゼ( N1~N9 )
子孫RNA:核内で転写と複製
ウイルス蛋白:核内でmRNAがで
き、細胞内で宿主細胞のタンパク
合成系を利用
細胞膜からの出芽により成熟
H
N
インフルエンザ流行史
1890
H2N8
1900 スペイン風邪( 1918~19年):世界の約
1910 50%(6億人)が感染し、 2,000万人以上が
H3N8
H1N1
ス
ペ
イ
ン
風
邪
1920
1930
1940
1950
1860
H2N2
1970
H3N2
1980
H1N1
香
港
風
邪
ソ
連
風
邪
1990
死亡した。日本でも半数(2,400万人)が感染
し、30万人以上の死亡者が出た。
ウイルス分離:豚で1930年、ヒトで1933年
アジア風邪(1957年):船が主な輸送機関
だった時代に、わずか7ヶ月間で世界に広
がった。
季節性インフルエンザ:香港風邪(1968年)
とソ連風邪(1977年)を指す。
高病原性鳥インフルエンザHPAI H5N1:香
港で1997年に発生し、2003から世界各地の
家禽と野鳥に広がっている。
2000 H5N1
HPAI
2010
2013
世界流行インフルエンザ H1N1
2009:メキシコで発生
H1N1
2009
H7N9 LPAI
:中国で発生
ウイルスの構造と受容体
ウイルス表面にあるヘマグルチニ
ン(赤血球凝集素、16種類)とノイ
ラミニダーゼ(9種類)の組合せで
型別する。これらの糖蛋白は変異
が大きく、インフルエンザの種類
が多い要因となっている。
ウイルス粒子成分を規定している
RNA遺伝子は8文節からなる。
100nm
トリウイルス
ヒトウイルス 受容体(レセプター)は鍵と鍵穴の
関係で、一致したウイルスだけが
細胞内に侵入し、増殖できる。不
一致であれば感染しない。
Α2-6 レセプター
Α2-3 レセプター
ヒト細胞
トリ細胞
水禽類(カモなど)
α2-3
H1~H16
(α2-3)
「種の壁」を越え
ることは、頻繁
に起きるもので
はないが・・・・
ブタ
α2-3、α2-6
ニワトリ
α2-3
ウマ
α2-3
H1、H3
(α2-3、α2-6)
H5、H7
(α2-3)
H3、H7
(α2-3)
H5N1
ヒト
α2-6
α2-6、α2-3
肺にはα2-3
が存在する
H1、H2、H3
(α2-6)
通常は同一動物種内での流行
動物細胞
αレセプター
ウイルスのH型
(αレセプター対応)
矢印の形と太さは、感染の頻度を示す
インフルエンザ・ウイルスの流行模式
スペイン風邪
2000万人以上の
死亡は、戦争によ
る死亡数をはるか
に上回る。単年当
りの死亡数は中世
のペスト以上であ
り、史上最悪の伝
染病であった。
中外製薬
年少者と高齢者の死亡率が高かった従来とは異なり、ス
ペイン風邪では20~40歳の健康成人が死亡者の半数を占
めた。働き手を失った家族は、その後も苦しい生活を強いら
れた。死亡者の多くは、細菌性肺炎を併発し、1週間以内に
死亡したとされる。
この時ウイルスは未だ
H3N8
発見されていなかったの
でワクチンはなく、細菌に
有効な抗生物質も発見さ
H1N1
れていなかった。これらの
ことが、社会活動を止め
られない青壮年の被害を
高めた側面がある。後年
の研究でトリウイルスに
由来することが判った。
H5N1鳥インフルエンザの誕生と世界的拡大
1997年香港 高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)H5N1の人への感染
5月に3歳男児が原因不明で死亡したのを皮切りに、年末までに18人が感染し、6
人が死亡した(致命率 33%)。 8月にトリウイルスだと判明したが、ヒト型に変異す
ることなく直接感染したことの謎が残った。それまでは、養鶏場などでヒトが稀に直
接感染することがあっても軽症で済んでいた。
2003年 HPAI H5N1の再発
11月に、中国の北京で24歳男性の死亡例
が発生した。同時期に韓国で家禽にH5N1
が初めて確認され、 発生は2004年9月まで
続いた。さらに、発生は東南アジアに広がっ
た。
現時点で、ヒト・ヒト感染は起きていない!
ヒト型H5N1ウイルスは未発生!
渡りのルート
2005年4月 HPAI H5N1の世界流行
何十万羽もの渡り鳥が集まる中国中央の青海湖で野鳥が死に始めた。その後の
数週間で様々な種の6,345羽の鳥が死亡した。これは、高病原性鳥インフルエンザ
が野鳥の大量死を引起した最初の報告事例である。水禽類はH1~H16の全ての
型に感染するが、軽症でほとんど死なないとされてきた。コブハクチョウなどの大型
水禽類が世界各地に渡り、H5N1を広げ、家禽での流行を引起すことになった。
水禽類とは、「水掻き」のある鳥類
カモ等の水禽類のインフルエンザは、一般的に消化器系感染であり、ウイルスは糞
便中に排出される。すなわち、池や湖はH5N1ウイルスで汚染されている。
マガモ
アヒル
家畜化
雁(ガン、カリ)
ガチョウ
家畜化
アジアの伝統的稲作では、水田にアヒルを放して除草作業などを手伝わせている。
アヒルが放たれている水田
地帯でHPAIが発生している。
これが野鳥の鴨や雁などと
自然交配を含めた濃厚接触
を重ねて、春には北方の繁
殖地へ渡っていく。シベリア
の繁殖地で別の集団に感染
が広がり、それらのカモ類が
秋になると日本や韓国に渡っ
てきてニワトリへの感染源と
なる。こうした生態系の営み
FAO: 鳥インフルエンザの理解
を変えられるか?
家禽における高病原性イ
ンフルエンザ発生の推移
2,000 万羽
1,800
1,600
1,400
H5N1の外に、2011年以
降はメキシコでのH7N3、
2012年以降は台湾での
H5N2、2013年にはイタリア
でのH7N7を含む。
1,200
淘汰数
1,000
800
死亡数
600
400
200
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
疫学単位が村だったり、小規模農場の場合、発見が遅く、死亡割合がきわめて
高い。死亡して見つかった割合は平均7.3%であり、鶏群全体が殺処分されるので
この9年間で7.900万羽が犠牲になった。平均すると毎年870万羽となる。
2013年1~9月の発生状況
:終息(野生動物)
:終息(家畜)
:継続中(家畜)
高病原性鳥インフルエンザH5N1
のヒト感染状況 (2013年8月10日現在)
患者数: 637名
死者数: 378名
致命率: 59%
120
死亡数
致命率はエジプト
が36.4%と最も低く、
インドネシアが83.4%
と最も高い。
生存数
100
患者数 死者数
193
161
インドネシア
173
63
エジプト
125
62
ベトナム
46
30
中国
38
29
カンボジア
25
17
タイ
8
5
アゼルバイジャン
12
4
トルコ
17
7
その他
イラク、ラオス、パキスタン、ナイジェリア、
バングラディッシュ、ミャンマー、ジブチ
80
60
40
20
0
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
2011
2012
2013
鳥インフルエンザA(H5N1)のヒト感染例:年齢、転帰別
2010年2月8日現在、総数441例
死亡(260例)
生存(181例)
症
例
数
年齢層
死亡数
生存数
季
節
性
イ
ン
フ
ル
エ
ン
ザ
70歳
以上
世界保健機関(WHO)の勧告
病気になったか死亡した動物を調理し
たり、喫食してはいけない。それは非常
に危険である。
● 流行地においては、自宅で食用と殺し
てはならない。
鼻や喉からH1N1は感染
せず、ホコリとともに大量の
ウイルスを吸込んで肺に達
した場合にのみ感染する。
●
写真はFAO日本事務所
アジアにおけるH5N1発生の8割以上が
庭先養鶏で起きている。国内発生が起き
ても、市販の鶏肉や卵を食べることに
よって感染することはない。
発イ日
生ン本
状フに
お
況ル
エけ
ン
ザる
の鳥
2004年2月
京都府京丹波町
2007年2月
岡山県高梁市
2004年1月
山口県阿東町
2010年10月
北海道稚内市大沼
カモの糞
2008年5月
北海道佐呂間町
オオハクチョウ
2008年4月
秋田県小坂町
オオハクチョウ
2008年5月
北海道別海町
オオハクチョウ
2004年3月
京都府・大阪府
ハシブトガラス
2008年5月
青森県十和田市
オオハクチョウ
2005~2006年 H5N2
茨城県(2ヶ所)
2005~2006年 H5N2
埼玉県(1ヶ所)
2009年 H7N6
愛知県豊橋市(ウズラ)
2007年3月
20110-11年には10月の北海道に始まり
熊本県相良村
2004年2月
全国で野鳥や公園の白鳥が感染し、家
クマタカ
大分県九重町 禽では 9県 24農場(宮崎 13件、千葉、
愛知、三重で各 2件、島根、奈良、和歌
2007年1月
宮崎県(清武町・新富町・日向市) 山、大分、鹿児島で 各1件)。
改正家畜伝染病予防法に基づく手当金の減額
2010年の口蹄疫拡大に対する問題点を是正する中で、殺処分に
対する補償の充実と同時に、農家が防疫対応しなかった場合の罰則
が強化された。法改正以降に発生したH5N1について、罰則が初適
用された。
【減額割合 10割 (減額割合の適用は特別手当金のみ) 】
当該農場は、飼養鶏の死亡羽数が増加をしていたにもかかわらず、
その確認した同日及び翌日に飼養鶏を食鳥処理場へ出荷した。これ
は、周囲の農場に感染を拡大させるおそれのある非常に重大な事態
であると判断され、特別手当金を交付しないこととした。なお、飼養衛
生管理という面においても、未消毒の河川の水を鶏の飲用に供して
いたこと、防鳥ネットや鶏舎の壁に破損があったことから、管理水準
が標準より劣っていると考えられた。
【減額割合 4割 (減額割合の適用は特別手当金のみ)】
当該農場は、飼養衛生管理において、車両用の消毒設備を備えて
いなかったこと、防鳥ネット等の野鳥の鶏舎侵入防止対策が図られ
ていなかったこと、未消毒の河川の水を鶏の飲用水に供していたこと
から、不備があったと判断し、特別手当金を4割減額することとした。
世界流行インフルエンザ H1N1 2009の誕生
季節性
ヒトH3N2
古典的
ブタH1N1
97-98
×
98
×
⇒
北アメリカ地域で ヒト⇔ブタ 軽症
ユーラシア
3種混合
3種混合
H1N1
H1N2
ブタH1N1
新型
H1N1 2009
2000 -
09
⇒
PB2
PB1
PA
HA
NP
NA
MP
NS
⇒
3種混合
H3N2
×
⇒
PB2
PB1
PA
HA
NP
NA
MP
NS
トリ
H?N?
2種混合
H3N2
×
古典的
ブタH1N1
新型インフルエンザ 2009 に
よる日本の年齢別死亡数
35
30
25
死亡数は198
名で、季節性イン
フルエンザの約
1000名(基礎疾患
者を含めると約1
万名)を下回っ
た。
:基礎疾患あり
:基礎疾患なし
20
新型インフルエンザによる
年齢別死亡率(対10万)
10歳未満の健康な子
供達の死亡率が際立っ
て高かったが、ワクチン
接種は基礎疾患のある
高齢者が優先された。
そして、重度の基礎疾
患のある高齢者がワク
チン接種後に死亡した。
4
3.5
3
2.5
2
15
1.5
10
1
5
0
0.5
0 ~ 4 5 ~ 9 10 ~ 15 ~ 20 ~ 30 ~ 40 ~ 50 ~ 60 ~ 70 ~ 80 ~
14
19
29
39
49
59
69
79
5歳階級
10歳階級
0
0 ~ 4 5 ~ 9 10 ~ 15 ~ 20 ~ 30 ~ 40 ~ 50 ~ 60 ~ 70 ~ 80 ~
14
19
29
39
49
59
69
79
5歳階級
10歳階級
2013年中国でのH7N9鳥インフルエンザの誕生
3月31日 H7N9 鳥インフルエンザに感染した3症例を発表。
上海市:87歳男性2月19日発症 3月4日死亡、27歳男性2月27日発症 3月10日死亡、安徽
省:35歳の女性3月15日発症( 4月9日死亡)
4月2日 さらに江蘇省東部における4症例を発表。
45歳女性3月19日発症 、 48歳女性3月19日発症 、 83歳男性3月20日発症 、 32
歳女性3月21日発症
4月3日 さらに浙江省における2症例を発表。
38歳男性3月7日発症 3月27日死亡、67歳男性3月25日発症
4月3日 さらに江蘇省における1症例を発表。
48歳男性3月28日発症 4月3日死亡
4月3日 上海市生鳥市場の鳩からH7N9ウイルスを検出。
4月5日 上海市の生鳥市場を閉鎖、2万羽以上が廃棄処分。
20,536羽の鶏、アヒル、ガチョウおよびハトが殺処分された。
上海6名、江蘇省4名、浙江省3名および安徽省1名の計14名のH7N9症例を確認
4月5日 FAOは強力な生物学的安全確保措置を呼掛け
動物の生息域と人々の生活領域を離すことが鍵となる。
4月6日 杭州市、南京市は生きている家禽の取引を一時停止
ただし、この時点の公式見解では感染源不明
3月下旬から4月中旬に発
症した患者が次々と報告された
が、生鳥市場の閉鎖が進むに
つれ発生数は減少し、5月には
3例、6月はなく、7月に2例と散
発的発生になった。ただし、中
国でウイルスが夏越しており、
秋の再流行が懸念される。
8月12日現在のWHO集計
で、患者135名(内台湾1名)、
死亡45名となっている。軽症お
よび無症状の患者が見逃され
ていると考えられ、実際の致命
率は数%から1%以下と考えら
れている。
生長
鳥江
市デ
場ル
タ
あひる
H7N3
カモ
H7N9
鶏 H9N2
アヒルと鶏などが
多数飼育されてい
る農村部にカモが
飛来し、ウイルス
の再集合が起き
た。それが生鳥市
場に運ばれて・・・
HA
PB2
PA
M
NA
PB1
NP
NS
鳥インフルエンザの病原性による分類
ウイルスの亜型
H5、H7
H5、H7以外
低
病 い
原
性
高
い
低病原性鳥インフルエンザ
(LPAI)
対象種:鶏、あひる、うずら、きじ、だ
ちょう、ほろほろ鳥、七面鳥
鳥インフルエンザ
対象種:鶏、あひる、う
ずら、七面鳥
高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)
対象種:鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥
OIEの診断基準のいずれかを満たした場合に、病原性が高いと判定
① 6週齢鶏の静脈内接種試験で病原性指標(IVPI)が1.2以上又は4
~8週齢鶏の静脈内接種試験で75%以上の致死率を示す。
② H5又はH7亜型のウイルスで、特定部位のアミノ酸配列が既知の
HPAIウイルスと類似している。
H5、H7は、高病原性に変異する可能性がある。
米国における低病原性鳥インフルエンザH7N9発生例
発生時期
2011/6
2009/4-5
2009/4-5
2009/4-5
2009/5-9
2007/6
場所
Minnesota
Kentucky
Tennessee
Illinois
Minnesota
Nebraska
概要
5,500羽の七面鳥、抗体陽性、未発症
ブロイラー種鶏、2棟2万羽、産卵率が10-20%低下
ブロイラー種鶏、2群32,600羽、抗体陽性、未発症
肉用七面鳥、10,000羽、抗体陽性、未発症
8施設89群約100万羽の七面鳥、抗体陽性、未発症
145,000羽の七面鳥、抗体陽性、未発症
① 中国で発生したH7N9は、野鳥のみならず家禽も発症しないので
低病原性ウイルスである。
② ヒトの感染は、生鳥市場と関連していることが、市場閉鎖で患者
発生が止まったことから考えられている。ヒト・ヒト感染はなかった。
③ 新型H7N9ウイルスは無症状なので、野鳥や家禽における広がり
の調査は正確さを欠く。
④ 日本に飛来したカモの糞便から検出された場合、養鶏場の
警戒を高め、サンプル調査を行う。
⑤ 新型H7N9ウイルスがさらに変異してヒト・ヒト感染し易くなり、世
界流行を引起す可能性は否定できない。
インフルエンザの予防
ワクチン接種: 糖尿病や免疫低下のある方は、流行期の前に毎
年接種する。 ウイルスが毎年変化するので、それに合わせてワクチ
ンは毎年作り変えている。100%防ぐことはできなくとも、症状を軽くし
てくれる。
人混みを避ける: 自覚症状が出る前から呼気中にウイルスが排
出される。流行情報を把握し、不可欠な外出も迂回路などで対処。マ
スクの着用は完全に防がないけれども、乾燥した空気に湿り気を与
え、喉を保護してくれる(室内の加湿器と同じ効果)。
手洗い、うがい、洗顔: ウイルスで汚れた手で目や鼻をこすると
粘膜からウイルスが侵入する。うがいと同時に、洗顔によって付着し
たウイルスを取り除く。
十分な栄養と休養: 基礎体力を保持する。徹夜などで疲れた時
は感染し易い。
咳エチケット: 周囲のヒトにウイルスをまきちらさない。
早めの受診: 高熱が出始めたら、抗ウイルス薬治療(タミフルな
ど)を含めて医師の適切な判断を仰ぐ。
高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザ
に関する特定家畜伝染病防疫指針(2011年10月1日)
前文
1 鳥類のインフルエンザは、A型インフルエンザウイルスの感染による疾病であり、
家畜伝染病予防法では、そのうち、次の3つを規定している
(1) OIE診断基準による指定家畜の鳥インフルエンザ(HPAI)感染
(2) H5又はH7亜型の低病原性鳥インフルエンザ(LPAI)感染
(3) HPAIおよびLPAI以外のA型ウイルス感染
2 HPAIは、FAOなどの国際機関が「国境を越えてまん延し、発生国の経済、貿易及
び食料の安全保障に関わる重要性を持ち、その防疫には多国間の協力が必要とな
る疾病」と定義する「越境性動物疾病」の代表例である。
3 HPAIは、その伝播力の強さ及び高致死性から、ひとたびまん延すれば、
① 養鶏産業に及ぼす影響が甚大であるほか、
② 国民への鶏肉・鶏卵の安定供給を脅かし、
③ 国際的にも、 HPAI非清浄国として信用を失うおそれがある。
4 LPAIは、 HPAIと同様に伝播力が強いものの、ほとんど臨床症状を示さず、発見
が遅れるおそれがあり、また、海外では、 HPAIに変異した事例も確認されている。
5 HPAIとLPAIは常に国内侵入する可能性があり、家禽の所有者、行政および関係
団体は緊密に連携し、実効ある防疫体制を構築する必要がある。
第1 基本方針
1 防疫対策上最も重要なのは、「発生の予防」と「早期の発見・通報」、さらには「初
動対応」である。
2 家禽の所有者が、飼養衛生管理基準を遵守するとともに、 HPAI又はLPAIが疑
われる場合に、直ちに都道府県に確実に通報することが何よりも重要である。
① 国は、全都道府県の防疫レベルを高位平準化のため指導・助言を行う。
② 都道府県は、家禽所有者の指導を徹底し、発生時に備える。
③ 市町村・関係団体は、家禽所有者への指導や発生時準備に協力する
3 発生時には、迅速・的確な初動対応により、まん延防止・早期収束を図ることが重
要である。防疫対応の経費については、国が負担することとなっている。
第2 発生の予防及び発生時に備えた事前の準備
第3 発生予察のための監視
第4 異常家きん等の発見及び検査の実施
第5 病性の判定
第6 病性判定時の措置
第7 発生農場における防疫措置
第8 通行の制限(法第15条)
第9 移動制限区域及び搬出制限区域の設定(法第32条)
第10 家きん集合施設の開催等の制限(法第33条・第34条)
第11 消毒ポイントの設置(法第28条の2)
第12 ウイルスの浸潤状況の確認
第13 ワクチン(法第31条)
第14 家きんの再導入
第15 農場監視プログラム
第16 発生の原因究明
第17 その他:方法、取りまとめ方、報告など
「家畜伝染病予防法」に基づく防疫措置が、想定される様々な事態
について具体的に規定されている。このような実施要領を事前に定め
ておくことが、迅速な対応において不可欠であり、この実施要領に基
づく防疫演習が県段階で定期的(少なくとも毎年)行われている。
防疫演習には、獣医療、畜産農家・団体・食鳥処理場、飼料・薬業・
化製場などの直接的関係者だけではなく、運送業、土木業、警察、自
衛隊、報道、ならびに県の主な部局が参加する。それは、発生時の社
会的協力を得るために必要だからである。
ブタ
α2-3、α2-6
豚インフルエンザ
世界流行インフルエンザ H1N1 2009
H1、H3
が誕生するまでに、豚、ヒト、鳥のウイル
(α2-3、α2-6)
スが豚で再集合を繰返したことが米国
で明らかにされており、豚の溶鉱炉の役
割は実証されている。
世界流行が始まって間もなくの
H1、H2、H3
ヒト
5月初旬に、メキシコからカナダ
(α2-6)
α2-6
α2-6、α2-3
に帰国した大工職人が養豚場の
修理に立入ったため新型インフ
肺にはα2-3が存在する
ルエンザが豚に感染した。その
後、米国、メキシコ、英国、日本、
豚はヒトと同じα2-6レセプターを
持つことから、鳥型ウイルスとヒト 台湾、韓国など多くの国から豚へ
の感染が報告された。
型ウイルスとの遺伝子が再集合
こうしたことから、致命率の高
してヒトに感染し得る新型インフ
いH5N1が家禽や野鳥から豚に
ルエンザウイルスが誕生する溶
入るのを警戒している。
鉱炉の役割を果たす。
豚と家禽のウイルスの再集合と関連する要因
Lina AWADA
2011
豚と野生水禽類のウイルスの再集合と関連する要因
;高い
:低い
:豚飼養頭数が少ない
豚と家禽が多数飼
養されている日本を
含めた先進諸国は、
家禽における流行が
豚に波及する恐れが
あり、H5N1が豚に感
染することでヒト・ヒト
感染を起し得る新型
H5N1となって世界流
行する可能性がある。
インドとベトナムは、
豚の飼養頭数および
野生水禽類の飛来が
多く、接触の機会も多
いことから、水禽類の
ウイルスが豚に感染
することで再集合のリ
スクが高い。
インフルエンザウイルスは、1918年のスペイン風邪(H1N1)から12
年経た1930年に豚で初めて発見された。ヒトでも1933年にウイルスが
分離され、スペイン風邪が豚由来ウイルスと長年信じられてきた。
1976年2月にニュージャージー州フォートディクスのアメリカ陸軍訓
練基地(Fort Dix)で、少なくとも4人の兵士がウイルス性肺炎に罹り、
1名が死亡した。分離株はスペイン風邪と同じH1だったため大流行の
懸念ありとされ、緊急予防接種が行われた。 4000万の米国人が予防
接種を受け、麻痺を伴う神経疾患であるギラン・バレー症候群の副作
用が500人に現れ、30人以上が死亡した。
この件は、分離株の病原性に関する判断ミスの例とされ、その後の
研究でスペイン風邪もその元は鳥に由来したことが判っている。
豚のインフルエンザ感染は、一般的には症状が現れないか、ある
いは非常に軽微(呼吸器症状、発熱、食欲不振、体重減少等)であ
り、細菌の混合感染がない限り、死亡することはない。家畜伝染病に
は含まれず、調査研究は進んでいない。日本ではH1N1亜型とH3N2
亜型が検出されており、豚のインフルエンザワクチンが承認されてい
るものの、流行株に応じた株に迅速に対応できない状況である。農家
の豚インフルエンザに対する関心も低い。
北米における三種再集合体豚由来インフルエンザA(H3N2)ウイルス
2011年11月 ECDCリスク査定:結論と勧告
世界流行2009ウイルスの遺伝子要素を含む豚由来の三種再集合
体インフルエンザでヒト・ヒト感染の恐れがあるA(H3N2)ウイルスによ
る北米における子供達の最近の感染を受けて、ECDCは次の暫定的
意見に達した。
● このウイルスは、北米において豚で見つかったが、欧州(EU/EEA
諸国)の豚では見つかっていない。しかし、豚においけるインフル発
生動向調査は北米と欧州の両方とも低調で、豚と密接に接触するヒ
トの感染調査は欧州で著しく低調である。したがって、豚インフルエ
ンザの疫学に関する上記の声明は、注意深く取り扱う必要がある。
● 米国の症例のほとんどは、軽症例のみであった。入院した患者に
は基礎疾患があったが、全ての患者は完全に回復した。
● それらのウイルスは、現在のA(H3N2) 成分からなる季節性インフ
ルエンザワクチンでは防護されないが、ノイラミニダーゼ阻害薬(オ
セルタミビルとザナミビル)には感受性がある。年長者は、以前のワ
クチン接種による何がしかの防護を持っている。
豚インフルエンザ発生動向調査世界連携網の始動
OFFLU: 14 April 2011
豚におけるインフルエンザの世界一体となった発生動向調査は、
動物のインフルエンザに関する専門家のOIE/FAO連携網である
OFFLUによって着手され、全世界の豚集団において循環しているイン
フルエンザウイルスについてのデータを収集、共有および解析する
国際的受皿についての科学界からの呼び掛けに応じたものである。
豚群の健康と生産性の向上に関して発生動向調査への参加が利
益をもたらすことを豚の所有者が理解するために、効果的なコミュニ
ケーションは重要である。一般市民と政策立案者は、豚インフルエン
ザ感染は、通常、公衆衛生上のリスクではなく、食品安全上のリスク
でもないという科学的見解を理解しなければならず、貿易や経済の
制裁をもたらしてはならない。
ヒトの世界流行は、異なるウイルスがその遺伝子を交換した時に
起きることがある。しかしながら、誰も、たとえ専門家であっても、な
ぜ、どのようにして、いつ、どこでそれが起こるかを正確に予測する
ことができない。
WHO
世界流行インフルエンザのリスク管理
ウイルスの進化により新型インフルエンザが誕生して世界流行 を
繰返してきた歴史は、現在の科学技術で止めることはできない。しか
し、その誕生を遅らせ、事前準備することで被害を最小限にする。