生物の進化と「新興感染症」

Download Report

Transcript 生物の進化と「新興感染症」

生物の進化と「新興感染症」
鹿児島県立甲南高等学校 ブラッシュアップセミナー
鹿児島大学農学部教授(獣医公衆衛生学) 岡本嘉六
新興感染症: かつては知られていなかった、この間に新しく
認識された感染症で、局地的に、あるいは国際的に公衆衛生
上の問題となる感染症(世界保健機関 WHO の定義)。
● :人畜共通感染症
●
ライム病
クリプトスポリジウム●
レジオネラ
エボラ出血熱 ●
カンピロバクター ●
大腸菌O-157 ●
HIV(エイズ)
●
日本紅斑熱
1976
1976
1976
1977
1977
1982
1983
1984
猫ひっかき病
●
ハンタウイルス症候群 ●
●
牛海綿状脳症
高病原性鳥インフルエンザ ●
ニパウイルス
●
●
ウエストナイル熱
重症急性呼吸器症候群 ●
●
新型インフルエンザ
1992
1993
1996
1997
1998
1999
2002
2009
人畜共通感染症(動物由来感染症): 脊椎動物と人間の間で通
常の状態で伝播しうる感染症。120種以上ある。
ウイルス:狂犬病、黄熱、日本脳炎、腎症候性出血熱、ラッサ熱、 マールブルグ病
細菌:ペスト、結核、破傷風、炭疽、赤痢、野兎病、サルモネラ、ブドウ球菌
真菌:クリプトコッカス、ミクロスポラム、トリコフィートン、コクシジオイデス
リケッチア:オウム病、ツツガムシ病、Q熱、ロッキー山紅斑熱、発疹熱
寄生虫:旋毛虫(トリヒナ)症、エキノコックス症、有鉤条虫症、トキソプラズマ症
大気と水に恵まれた地球で生命が誕生し進化してきた
大
気
中
ガ
ス
濃
度
炭酸ガス
CO2
酸素
O2
46
35
地
球
誕
生
原
始
生
物
27
10
5.1
3.7
4.4
500万年前
2.1
人類の出現
ほ乳類の出現
脊椎動物の上陸
陸上植物の出現
脊椎動物の出現
緑藻類などの真核生物
光合成を行うラン藻類(シアノバクテリア)
ミラーの実験 「化学進化」
原始大気と放電でアミノ酸ができる
地球にも寿命があり、
地殻活動などの環境
変化により絶滅した
種もいる。人類は?
ダーウィンの著書 1859年
「種の起源」 進化論
パスツールの実験 1862年
「生物は生物からしか生まれない」
人類の進化
年代
(万年前)
分類
概要
類人猿 2000
猿人
500
原人
130
プロコンスル
類猿人からの分化
ホモ・エレクトス
100
50
40~25
旧人 15~4
ジャワ原人
北京原人
ホモ・サピエンス
ネアンデルタール人
新人
クロマニヨン人
4
発見年/発見場所
1948年/ビクトリア湖ルシンガ島
ミトコンドリアDNAの分析
大脳の発達(850ml)
「言語の発達・火の使用」
石器
1888年/ジャワ島/石器と火の使用
1929年/中国・周口店/石器と火の使用
古代ホモ・サピエンス
1856年/ドイツ・ネアンデル谷/中期旧石
器時代
1868年/フランス/後期旧石器時代
プロコンスル: チンパンジーと人類の共通の祖先
110万年前アフリカを出発した原人は、地球各地に広く生活
の場を求めて広がっていった。
ユーフラテス川沿岸で1万2000年前の定住村落遺跡の発
掘から、150種を超える植物の種子が発見された。9500
年前ころ農耕は西アジア各地に広がった。
約5000年前、世界各地に文明が発生する。
人類の出現から500万年の間に、何世代経たか?
20歳で子供を生むと仮定すると・・・
5,000,000年 ÷ 20年 =
250,000
世代
細菌は1年間に、何世代生まれ変わるか?
一般的に20分で1回分裂する(対数増殖期)
60分
× 24時間 × 365日 = 26,280 世代
20分
腸炎ビブリオのように、もっと早く(10分で1回)分裂する菌もいる。
ウイルスは細菌よりさらに早い!
繁殖(世代交代)によって、生物は進化する ⇒ 雑種強勢
細菌の種類は無数にある。 ⇒ 生物の進化は誰も止められない!
数年に一度、新たな病原体が出現することは、生物の進化を考え
ると不思議ではない。
誰かが悪いことをしているから、「新興感染症」が現れる訳ではない。
生物の系統発生学的位置
病原体
高等生物: 動物界、植物界、菌界
真性細菌
古細菌
Procaryote
原核生物
寄
生
虫
Eucaryote
真核生物
ウイルスはエネルギー生産、蛋白合成に係わる酵素系を欠如しており、この図には含まれない
微生物学の父
オランダのアマチュア生物学者
1648(16歳) 織物商に奉公、28歳で羊毛店を開く
織物の品質を調べるために拡大鏡を使用
⇒ 顕微鏡を自作 ⇒ 植物や昆虫等を観察
1674(42歳) 微生物を発見
1680(48歳) ロンドン王立協会会員
オランダ科学アカデミーは「レーウェンフック・メダル」を設け、10年毎
に、微生物学分野で顕著な発見を行った科学者に授与している。
レーウェンフック
1632 - 1723
細菌分類の黎明期
現代微生物学の創始者
コーン
1828 - 1898
コーンは、細菌を植物の一部と考え、「特徴ある形態を
もち、クロロフィルを持たない細胞で、分裂によって増殖し、
単細胞、糸状細胞、あるいは集合体として生育する」と細菌
を定義した。44歳で(1872 )、形態から細菌を4 群に大別し
た。
1)球菌、2)短桿菌、3)長桿菌、4)螺旋菌
1885年 レーウェンフック・メダル受賞(二人目)
感染症研究の開祖
1876(33歳) 炭疽菌の純粋培養に成功し、炭疽の病原体で
あることを証明=伝染病の原因となる細菌を最初に証明
病原体であることの証明となる「コッホの原則」を提唱。
1882年3月24日(39歳) 結核菌を発見し、『結核の病因論』を
刊行。(これを記念して、3月24日は世界結核デー)。
1883(40歳) インドにおいて、コレラ菌を発見。
1890(47歳) 結核菌の培養上清からツベルクリンを作成。当
初は治療を目的としたが、診断に現在でも用いられている。
コッホ
Robert Koch
1843 - 1910
1905(62歳) ノーベル生理学・医学賞を受賞。
コッホの原則
1. ある一定の病気には一定の微生物が見出されること (=染色)
2. その微生物を分離できること(=純培養)
3. 分離した微生物を感受性のある動物に感染させて同じ病気を起こせること
4. そしてその病巣部から同じ微生物が分離されること
新たに結核に罹患した人数 (2007年)
結核の発生状況 (2007年)
新規感染者数
感染者数
死亡数
千人
%
10万人
当り
千人
10万人
当り
アフリカ
2,879
31
363
3,766
475
357
アメリカ
295
3
32
348
38
33
地中海
583
6
105
772
139
97
欧州
432
5
49
456
51
56
東南アジア 3,165
34
181
4,891
280
497
28
21
108
3,500
197
276
16
地域
西太平洋
1,919
千人
10万人
当り
45
3.6
17
6.3
全世界
9,273 6,668,374
100
139
13,723
206
1,316
20
インド
1,962 1,169,016
1,306 1,328,630
168
3,305
283
302
26
98
2,582
194
194
15
228
566
244
86
37
中国
インドネシア
528
231,627
新たに結核に罹患した10万人当り人数
カンボジア
495
ジンバブエ
787
南アフリカ
948
日本人の死因の推移(10万人当り死亡率)
第一位
第二位
第三位
1900
明治33
肺炎および気管支炎
226.1
結核
163.7
脳血管疾患
159.2
1925
大正14
肺炎および気管支炎
275.6
胃腸炎
238.2
結核
194.1
1940
昭和15
結核
212.9
肺炎および気管支炎
185.8
脳血管疾患
177.7
1950
昭和25
結核
146.4
脳血管疾患
127.1
肺炎および気管支炎
93.2
1960
昭和35
脳血管疾患
160.7
悪性新生物
100.4
心疾患
73.2
1985
昭和60
悪性新生物
156.1
心疾患
117.3
脳血管疾患
112.2
2006
平成18
悪性新生物
208.9
心疾患
90.8
脳血管疾患
71.4
罹患率
600
500
400
300
200
100
国
名
アメリカ
カナダ
スウェーデン
オーストラリア
オランダ
ドイツ
デンマーク
イタリア
フランス
イギリス
日 本
罹 患 率
4.3
4.7
5.4
5.5
5.8
6.1
7.2
7.7
8.1
13.9
19.4
死亡率
40
30
20
10
0
0
日本における結核症の推移
BCG: ウシ型結核菌を13年間、230
代継代していたら、ヒトに対してほとんど
病原性を示さない弱毒株が得られ、ワク
チンとして使われるようになった。
人畜共通性のウシ結核があったから
こそ、ヒト型結核が制圧できた!
近代細菌学の開祖
1822年 皮なめし職人の息子として生まれた
1846(24歳) 高等師範学校で博士号を取得
1849(27歳) 酒石酸の性質の解明
1861(39歳) 『自然発生説の検討』を著し、従来の「生命の自然発生
説」を否定
1862(40歳) 発酵の研究: 低温殺菌法(パストリゼーション)の実験
1865(43歳) 蚕の「微粒子病(ノゼマ病)」 の原因として原生生物を特定
1885(63歳) 狂犬病ワクチン開発: 狂犬病を発病したウサギの脊髄を
摘出し、石炭酸に浸してウイルスを不活化する
1895(73歳) レーウェンフック・メダルを受賞
生命は生命から生まれる
パスツール
Louis Pasteur
1822 - 1895
自然発生説: アリストテレスの『動物誌』や『動物発生論』
1665年 フランチェスコ・レディの実験: 密閉容器ではウ
ジが湧かない。
レーウェンフックによる微生物の発見は、自然発生説を蘇
らせた。レディの実験は、空気を遮断したことによるので
はないか・・・
白鳥の首フラスコ
空気が通じている状態で、腐敗しないことを証明!
狂犬病
唾液(排泄物)
中にウイルス
咬傷(吸入)
人を含めた全ての哺乳類が感染し、発
病すると治療方法がなく、悲惨な神経
症状を示してほぼ100%死亡する。
ウイルスが感染した細胞
電子顕微鏡写真
2006年11月に、フィリピンから帰国した日本
人の狂犬病患者(横浜と京都の60歳代男性)。
イヌに咬まれたが治療しなかった。
アジアにおける狂犬病による死亡者数(WHO)
インド
中国
バングラ パキスタ ベトナム
デシュ
ン
ミャン
マー
フィリピ
ン
1995
30004
400
2000
n/a
395
34
230
1996
35
159
2000
100
260
6
337
1997
30000
230
2000
57
181
56
323
1998
30000
234
2000
n/a
130
55
362
1999
30000
373
2000
188
94
3
398
2000
30000
505
1400
2490
65
114
359
2001
30000
899
1400
ー
1550
156
293
2002
ー
1532
n/a
ー
60
153
269
2003
17000
2009
1550
ー
30
1100
258
2004
17000
5302
1550
ー
ー
ー
248
ー : 報告なし
報告がない、報告数が揃い過ぎている(概数でしかない)のは、狂犬
病以外にマラリアなど多数の病気があり、手が回らない状況・・・
狂犬病はワクチンで防げる病気である!
海外からの狂犬病侵入の防止
狂犬病の発生がない国
1. 外国船に乗ってきたイヌの上陸 日本、オーストラリア、英国、アイルランド、
スウェーデン、ノルウェー、アイスランド
2. 密入国、密輸入
侵入に備えて、「狂犬病予防法」によるイヌの登録と予防接種
日本国内では50年以上発生がないのだから、イヌの狂犬病予防接種は
不必要だとする方がいるが、何時、侵入があっても不思議でない状況にある。
さらに、日本国内ではペットとして購入したアライグマを飼育放棄し、野生化し
たアライグマが全国的に増えている(数万頭)。
海外でイヌや野生動物に咬まれたら・・・
できるだけ早く、必ず病院に行く。狂犬病ウイルスが神経細胞に入ったら、
治療方法はない。
暴露状態
Ⅰ. 健康な皮膚でイヌに触れた
Ⅱ. 軽く咬まれた
Ⅲ. 深く咬まれた、粘膜をなめられた
動物の状態
狂犬病
狂犬病または不明
狂犬病または不明
治療方法
治療を要しない
狂犬病ワクチン
免疫グロブリン+ワクチン
インフルエンザ世界流行の歴史
H2N2
高病原性鳥インフルエンザH5N1
1997香港、 2003~世界各地
H2N2
H1N1
H1N1
H3N8
1895 1905
1889
旧ロシ
ア風邪
1915
1900
旧香港
風邪
H1N1v
2000万人
以上死亡
1925
1918
スペイン
風邪
H3N2
1955 1965
1957
アジア風
邪
1975 1985
1968
香港風
邪
1995 2005
1977
ロシア
風邪
2010
2009
新型インフル
エンザ
10~40年毎に新型が登場している。 中世の暗黒時代を
もたらした ペスト(人畜共通感染症) は、欧州の人口の
半分約2500万人を殺したが、短期間に多数を死亡に至ら
せたスペイン風邪は、ペスト以上の脅威であった。
ヒト
豚
鳥
馬
H
1,2,3
1,3
1-16
3,7
N
1,2
1,2
1-9
7,8
H:ヘム・アグルチニン
N:ノイラミニダーゼ
遺伝子
インフルエンザウイルスの模式構造
★
ノイラミニダーゼ遺伝
子解析による系統樹
種々の動物から分
離されたインフルエン
ザ・ウイルスの遺伝子
配列を基に系統樹解
析すると、A型インフル
エンザ・ウイルスは、発
生学的に全てその起
源を鳥インフルエンザ・
ウイルスに持つと考え
られている。
ヒト型インフルエン
ザ・ウイルスは、ブタ型
インフルエンザ・ウイル
スと近縁である。
JRA競走馬総合研究所
「馬インフルエンザ」より
インフルエンザの感染機序、ウイルスの再集合
浸入門戸となる細胞のレセプターは、ヒトとブタは共通するが、鳥を
含むその他の動物のレセプター(α2-3)はヒト(α2-6)と異なる。鳥
型ウイルスはヒトのレセプターから原則として入れない。
鳥型ウイルスがブタに感染してブタ型ウイルスと遺伝子交雑(再集
合)することによって、ヒトに感染し得る新型ウイルスができると考え
られてきた。
水禽類(カモなど)
α2-3
H1~H15
(α2-3)
「種の壁」を越え
ることは、頻繁
に起きるもので
はないが・・・・
ブタ
α2-3、α2-6
ニワトリ
α2-3
ウマ
α2-3
H1、H3
(α2-3、α2-6)
H5、H7
(α2-3)
H3、H7
(α2-3)
1997 香港
ヒト
α2-6
H1、H2、H3
(α2-6)
通常は同一動物種内での流行
動物種
αレセプター
ウイルスのH型
(αレセプター対応)
矢印の形と太さは、感染の頻度を示す
インフルエンザ・ウイルスの流行模式
鳥の新型インフルエンザ
高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)
1955
1965
H9* 1999
H5 1997 2003
H7 1980
1975
1985
1996 2002
1995
2005
1997年5月 香港においてヒトへの初めての感染が起きた
高病原性鳥インフルエンザH5N1のヒト感染(2003年~2009年)
国名
累積患者数
累積死亡数
致命率
本年患者数
本年死亡数
インドネシア
141
115
81.6
ベトナム
111
56
50.5
4
4
エジプト
83
27
32.5
36
4
中国
38
25
65.8
7
4
タイ
25
17
68.0
カンボジア
8
7
87.5
アゼルバイジャン
8
5
62.5
トルコ
12
4
33.3
イラク
3
2
66.7
ラオス
2
2
100.0
パキスタン
3
1
33.3
ナイジェリア
1
1
100.0
ミャンマー
1
0
0.0
バングラデシュ
1
0
0.0
ジブチ
1
0
0.0
計
438
262
59.8
2003年に始まった
H5N1のヒト感染は6
年余でわずか500名
余り。
しかし、致命率は
60%と驚異的!
WHOはこのH5N1
がヒトからヒトへと感
染する能力を得て世
界流行することを恐れ
た!
47
12
FAO: Safe poultry production
たで ト
トも リ
リ半 か
か世 ら
ら紀 ヒ
順前 ト
番行 へ
の
にわ 感
食れ 染
べて は
るい
。た 、
羽よ 庭
をう 先
むに (
裏
し、 庭
る弱 )
際っ 養
のて 鶏
大卵 で
量を 起
の産 き
埃ま て
ない
・
・
くる
・
・な 。
日
っ本
生鳥市場
鶏肉はpHが下がる死後硬直
の期間が短く腐敗し易い。熱帯
で冷蔵庫がない田舎では、生き
たまま販売されている。零細な
庭先養鶏から出荷される中には、
病気のものも含まれている。
市場の中で解体作業が
行われている場合もあり、
羽をむしる際に大量の埃
が辺りに満ちる。その埃を
吸い込んだことで、H5N1
に感染する。
子供達がその近くで遊
んでいる場合もある。
ブタ型ウイルス
水禽類ウイルス
H1、H3
(α2-3、α2-6)
H1~H15
(α2-3)
α2-6
レセプター
α2-3
レセプター
細胞質
核
細胞膜
:H(ヘマグルチニン)
:N(ノイラミニダーゼ)
ブタ鼻粘膜細胞
新型ウイルス誕生までのステップー1
2種類のウイルスが、1個の細胞内に同時に侵入する
ブタ鼻粘膜細胞
核
細胞質
新型ウイルス誕生までのステップー2
エンベロープが溶けて、それぞれ8分節のRNAが細胞質に出てくる
ウイルスRNAを基に、
逆転写酵素により、一旦DNAができる
分節の交換など
遺伝子組み換えは
この過程で起きる
このDNAを基に、ウイルスRNAが複製され
るが、多くの変異株は生活能力を欠如し、生
き延びるのはごく一部
新型ウイルス誕生までのステップー3
ブタ細胞の成分と酵素を利用して、ウイルス複製が同時進行する
ヒト型ウイルス
トリ型ウイルス
H1、H2、H3
(α2-6)
H1~H15
(α2-3)
α2-3レセプターのない
ヒトの細胞に
無理やり侵入する
α2-6
レセプター
細胞質
核
ヒト呼吸器系細胞
ヒトで新型ウイルスが誕生する可能性
どの程度の確率で起きるか分からないが、
ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである
ヒトにおけるインフル
エンザ・ウイルスのレセ
プターの検索を行った。
上部気道にはヒト型
(α2-6)のみだったが、
呼吸器の深部(呼吸細
気管支と肺胞細胞の一
部) にはトリ型(α2-3 )
が豊富に存在していた。
トリ型ウイルスも肺に
達すればヒトに感染で
きることが判明した!
新矢恭子,河岡義裕:ヒト体内におけるインフルエンザウイルスのレセプター分布
ウイルス 第56 巻(2006)
ヒト型ウイルス
水禽類ウイルス
H1、H2、H3
(α2-6)
H1~H15
(α2-3)
α2-3レセプターのない
ヒトの肺細胞にα2-3レ
ヒトの細胞に
セプターが分布してい
無理やり侵入する
ることが判明!
α2-6
レセプター
細胞質
核
ヒト呼吸器系細胞
ヒト肺胞細胞
ヒトで新型ウイルスが誕生する可能性
季節性インフルエンザ(香港型、ソ連型)に感染した患者が、H5N1に
どの程度の確率で起きるか分からないが、
重複感染することで遺伝子組換えが起きる可能性が高い!
ブタでの確率よりはるかに低いことだけは確かである
くしゃみ: 上部気道(鼻)の炎症・
刺激による ⇒ 遠くへ飛ぶ
咳: 気管支や肺の炎症・刺激に
よる ⇒ 遠くへ飛ばない
H5N1は季節性インフルエン
ザほどヒトに感染しない
季節性
新型
肺炎を起こして
も、くしゃみは出
ない。
高病原性鳥インフルエ
ンザ(H5N1)に感染し
た場合致命率が高い
のは、上部気道症状な
しで、突然、肺炎から
始まることによる。
新矢恭子,河岡義裕:ヒト体内におけるイ
ンフルエンザウイルスのレセプター分布
ウイルス 第56 巻(2006)
吸入した粒子は、鼻咽頭の複雑な気流
のために粘膜面に衝突・沈着するが、小
さなものはカーブを回りきって肺に達する。
ウイルス粒子は微小であるが、剥き出
し状態で空中にあるのではなく、水滴や
塵埃の中に含まれている。咳やクシャミの
水滴は蒸発により粒径が小さくなるが、塵
埃はそのようなことはない。
空中に漂っている鶏糞が吸入されても、
その大半は鼻咽頭に沈着し、肺に達する機会
は少ないと考えられ、これがH5N1で濃厚感染
が必要とされる根拠である。
世界流行インフルエンザ H1N1 2009の誕生
季節性
ヒトH3N2
古典的
ブタH1N1
97-98
×
新型
H1N1 2009
98
×
⇒
北アメリカ地域で ヒト⇔ブタ 軽症
ユーラシア
3種混合
3種混合
H1N1
H1N2
ブタH1N1
2000 -
09
⇒
PB2
PB1
PA
HA
NP
NA
MP
NS
⇒
3種混合
H3N2
×
⇒
PB2
PB1
PA
HA
NP
NA
MP
NS
トリ
H?N?
2種混合
H3N2
×
古典的
ブタH1N1
~
5/
~ 2
5/
1
~ 6
5/
3
~ 0
6/
1
~ 3
6/
2
~ 7
7/
1
~ 1
7/
25
~
8/
~ 8
8/
22
~
9/
~ 5
9/
1
~ 9
10
~ /3
10
/1
~ 7
11
~ /2
11
/1
6
~
5/
~ 2
5/
1
~ 6
5/
3
~ 0
6/
1
~ 3
6/
2
~ 7
7/
1
~ 1
7/
25
~
8/
~ 8
8/
22
~
9/
~ 5
9/
1
~ 9
10
~ /3
10
/1
~ 7
11
~ /2
11
/1
6
800
700
600
500
400
300
200
100
0
週間死亡数
WHOへの届出日別
7000
累積死亡数
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
新型インフルエンザH1N1 2009 の流行状況
WHO発表(10月30日発表、10月25日現在、update 72)
アフリカ地域(AFRO)
症例数
13,536
死亡数
75
アメリカ地域(AMRO)
東地中海地域(EMRO)
ヨーロッパ地域(EURO)
南東アジア地域(SEARO)
174,565
17,150
>64,000
42,901
4,175
111
>281
605
WHO地域
粗致命率
0.55
2.39
0.65
0.44
1.41
129,509
465
0.36
西太平洋地域(WPRO)
5,712
1.29
世界全体 441,661
4,999
1.20
前週 414,945
アメリカ地域(南北アメリカ)は、患者数で40%、死亡数
患
713
2.67
追加数 26,716
者
数
死亡数
で73%を占めている。日本を含む西太平洋地域は、患者
数は約30%だが死亡数は8.1%と、粗致命率は低い。
実際の感染者数はこの100~1000倍であり、致命率は
0.1%以下とされている。
リスクは?
これまで、季節性インフルエ
ンザで、何人死亡しているか、
知っていますか?
リスクは、相対的に評価する
ものであって、個々の健康危
害要因を「危険か 安全か」と
いう二者択一の物差しで計る
ものではない。
現段階で、新型インフルエン
ザの死亡数は、季節性インフ
ルエンザに比べてかなり少な
い。
しかし、感染が広がり、強毒
化する可能性は排除できない。
確認または擬似患者の
年齢別罹患率(10万人当り)
年齢別入院率(10万人当り)
米国で7月24日までに医療機関に
掛った43,771名を年齢別罹患率にま
とめた。一般的に考えて、幼児が外出
する機会はそれほど多くなく、学校で
感染した兄姉が家庭に持込んでいる
ものと推定される。
青壮年の死亡が多いことが、
新型インフルエンザをより深刻
なものとしている。
年齢別死亡数(全268名中)
2500
年齢別入院数
(11月4日時点)
2000
1500
基礎疾患なし:4240名
基礎疾患あり:1832名
1000
500
1歳
未
満
1~
5歳
未
満
5~
9歳
10
~
14
歳
15
~
19
歳
20
~
39
歳
40
~
59
歳
60
~
79
歳
80
歳
以
上
0
年齢別死亡数
(11月4日時点)
14
12
:基礎疾患なし(15名)
:基礎疾患あり(32名)
10
8
6
4
2
以
上
歳
80
79
歳
~
60
59
歳
~
40
39
歳
~
20
19
歳
~
15
10
~
14
歳
9歳
5~
1歳
未
満
1~
5歳
未
満
0
1200
基礎疾患別入院数
(11月3日時点)
1000
800
600
400
200
0
その他
免疫抑制
慢性腎疾患
慢性心疾患
慢性呼吸器疾患
妊婦
デンマークがインフルエンザA (H3N2)ウイルスの
ミンクへの感染を世界獣疫局(OIE)に報告
10月23日: 当該施設は毛皮生産用ミンク農場である。クシャミや咳
などの上部気道の臨床徴候があった後、肺炎に進行した。 15,000
頭の内200頭が発症し、80頭が死亡した。
10月30日: 同じく毛皮生産用ミンク5農場で、74,000頭の内673頭
インフルエンザA (H3N2)は、季節性イ
が死亡した。
ウイルスの塩基配列から、このウ
イルスが新たなヒト・動物再集合体と
推定された。HAとNA遺伝子はヒト型
に類似した配列である。それ以外の6
個の分節はブタ型の遺伝子に最も近
い。このことから、新型のブタ・インフ
ルエンザ・ウイルスがミンクに感染し
た可能性が高い。ヒトへの感染性は
不明だが、ヒト型様の表面抗原を
持っている可能性は排除できない。
ンフルエンザ(香港型)でもある。
デンマークは養豚先進国である。
生物は絶えず進化している!
世代交代の際に遺伝子交雑が行われることで、生物
は進化する(雑種強勢)。
微生物の世代交代時間は短く、数年で人類誕生から
の世代数を超えてしまう。
今後も新たな感染症(新興感染症)が数年毎に発生
するだろう。
新興感染症の大半は、ヒトと動物の両方が感染する
(人畜共通感染症)。
人畜共通感染症は、動物・人間・生態系の
接点で誕生する!
これまで人間が余り入らなかった熱帯雨林が伐採されて耕地化し、
野生動物・人間・家畜の接点が増えることで、野生動物に潜んでい
る微生物が新たな遺伝子交雑を遂げるチャンスが巡ってくる。
生命科学: いのちを科学する
「何処から来て、何処へ行くのか?」
この答えを出すために生きている・・・
カオス(古典ギリシア語:Χάος、英語:Chaos)とは、ギリシア神話
に登場する原初神である。英語の読み方で、ケイオスとも言う。
この世が始まったとき最初に無の空間に誕生した神で、混沌を神
格化したもの。一人でガイア(大地)、タルタロス(奈落)、エロース
(愛)、エレボス(暗黒)、ニュクス(夜)といった神々を生んだ。
混沌(カオス)から、進歩が芽生える。
宇宙 ⇒ 銀河系 ⇒ 太陽系 ⇒ 地球 ⇒ 日本 ⇒ 鹿児島 ⇒ そこに生きる自分は?
宇宙
銀河系
安心立命
科学と宗教は
車の両輪
安全性
仏教
仏陀釈迦牟尼の教え
キリスト教
イエスの教え
自然科学
宗教
生物学、医学、農学、工学、・・・
社会科学
イスラム教
科学
マホメットの教え
法学、経済学、・・・
人文科学
現実によって動く心の世界の解明と導き
歴史、心理学、文学、・・・
2000年変わらぬ世界
現実にある事象の解析と解決方法の提示
日進月歩の世界
世界観
生命観
動物界
菌界
植物界
消
化
吸
収
光
合
成
分類学に基づいて動物界と植
物界に大別したのはリンネ
(1707 - 1778)であったが、ヘッ
ケルが原生生物界を加えた系
統発生図を描き(3界説) 、ホイ
タッカー(1920 - 1980)は原生生
物界にモネラ界を、植物界に菌
界を付け加えて「5界説」を唱え
た(1959)。
真核生物、多細胞
原生生物界 真核生物、単細胞
モネラ界
生物の分類
原核生物、単細胞
生物の系統発生図
微生物の菌類・細菌類
などが中心。生産者や
消費者の遺体や排出物
の有機物を無機物に分
解し、もとの環境に返す。
菌界
太陽
一次消費者を食べる生物
肉食動物
二次消費者
動物界
分解者
一次消費者
植物界
生産者を直接食べる生物
草食動物
生産者
大地・大気・水
エネルギー(生態)ピラミッド
自分で栄養素を作る
光合成植物
生命の起源
生命の起源
最初の生命は宇宙からやってきたとするパンスペルミア仮説もあるが、原始地球で最初の生
命が誕生したとするならば・・・・
DNA World 説
ポリヌクレオチドの合成にはポリペプチドが必要であり、ポリペプチドの合成にはポリヌクレオ
チドが必要だという問題点がある。
RNA World 説
RNAワールド
「RNA からなる自己複製系」が最初に誕生し、それが現生生物へと進化したという仮説。RNA
が遺伝情報と酵素活性の両方を持ちうることがその根拠。
● RNAは自己スプライシングやrRNAの例もあり、自ら触媒作用を有している
● RNAはRNAウイルスにおいては遺伝情報の保存に役割を果たしている
● RNAはDNAに比べて変異導入率が高く、進化速度は速い
Protein World 説
● タンパク質は生命反応のあらゆる触媒を担っており、代謝系を有する生命には必須である
● 20種類のアミノ酸から構成されており、多様性に富んでいる
● セントラルドグマのあらゆる反応に酵素の触媒は関与している
● ユーリー - ミラーの実験で生じた、4種のアミノ酸(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バ
リン)を重合させたペプチドは触媒活性を有している(GADV仮説)。
● さらにそれらのアミノ酸の対応コドンはいずれもGからはじまるものであり、アミノ酸配列か
らDNA、RNAに情報が伝達された痕跡であると考えられる(GNC仮説)。
二種の生物の関係
影響
+
+
相利
(
B 人 0
種 間
) ー
A種
0
偏利
中立
捕食・寄生
偏害
ー
競争
生物は生物を食べることによって生きている。病気を起す各種の
病原体も、我々が食事をするのと同じように、我々の体に住着き、栄
養素を奪い、我々の体調を崩す。
しかし、病原性大腸菌はごく一部の種であり、我々の大腸に住着
いている大腸菌の多くは無害である。二種の関係は、長い時間をか
けて、「競争」⇒「中立」⇒「相利」へと進んできた。