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免許更新講習(必修)
教職についての省察②
担当:前原健二
[email protected]
講師の自己紹介
前原健二 [email protected]
(東京学芸大学・教員養成カリキュラム開発研究センター、准教
授)
専門は教員研修、学校経営、ドイツと日本の比較教育制度研
究など。
コメント、質問、研修企画の相談などいつでも大歓迎です。
教員としての子ども観、
教育観等についての省察
• 取り上げる話題は「学校と教師の役割」
• 格差論議と家庭の影響力
• 学校にできること、できないこと
• なぜ学校が叩かれるのか?
• 社会の中での学校の役割を考え直す
前時の話題から
• 学力論議は「格差」論議と接続する
• 学力格差=地域格差
• 学力格差=努力格差、「やる気」格差、希望格差
• 学力格差=・・・・・・
• 学力格差=「経済力」格差
• 学力格差=「家庭」格差
家庭格差のメカニズム(1)
• 経済資本による説明
• 裕福な家庭は子育てにお金をかけることができる
• 私学、塾・予備校、参考書、情報など学力を形成するための有利な条件
を購入できる
• 母親が専業主婦として子育てに専念できる割合が高い
家庭格差のメカニズム(2)
• 文化資本による説明
• 各家庭が自然と形成している文化的環境がある
• 根本的には生活規範、価値観、言語と行動の様式
• 具体的には毎日の暮らし方、話し方、ほめ方、しかり方、、、 それらの
すべてが「文化資本」
• 学校教育の過程で優秀な成績を得るために有利な「文化資本」がある
学力格差への対処
• 要因が経済資本であれば
• 経済的ハンデを直接補償する
• 公的な就学前教育、放課後の学校外教育の拡充
• 要因が文化資本であれば
• 各家庭の規範や価値観、言語や行動の様式に介入する
← 近代民主主義国家においては不可能
学校への期待
• 学力の全体的水準を上げてほしい
• 学力の格差を縮小してほしい
• トップレベルの学力を伸ばしてほしい
• 人間性も正しく育ててほしい
• ……
「いじめ」言説
キャスター「どうしたら、いじめを根絶することができるとお考え
でしょうか?」
識者「(少し言葉に詰まって)、、、まず教師がしっかりと…」
日本の学校の特質
• 「学習学校」
• 学校の役割は「知育」に限られる
• 道徳(特に宗教的道徳)、特別活動的な領域は学校教育に含めない
• 「生活学校」
• 学校の役割は「知育・徳育・体育」を含む生活全体に及ぶ
• 教師は、ときには「親代わり」の立場で教育する
学習学校の例:ドイツ
• 義務教育段階の学校は、ほぼ午前8時から午後1時まで
• 給食、清掃、部活動なし
• 教師の勤務は「授業のコマ数」で規定。授業以外は学校にい
ない。
• 学校教育が地域社会と家庭における子どもの生活を侵食す
ることを認めない
生活学校の例:日本
• 小学校でも午後3時過ぎまで
• 中学校では部活を含めると午後6時
• 高校は(地域差、学校差が大きいが)在校時間12時間もありう
る
• 教師の勤務は法定週40時間弱、実際は毎日2時間以上の残
業(+持ち帰り仕事も)
• 心の教育、食育、清掃教育、防災教育・・・
学校・教師の関わりの根拠
• なぜ教師は(知識の伝達、学習の援助だけでなく)生徒の人
格や行動に介入できるのだろうか?
• あるいは、なぜその介入を「当然」と感じたり、「不十分」「行き
過ぎ」を感じたりするのだろうか?
→ 思想的根拠を確認していく
①学校内外原則
• 学校や教師が生徒の人格や行動の介入できるのは、空間的、
時間的に学校の「内側」に生徒が存在しているときに限定され
る、と考える
• したがって学校外での行動、学校が担当している時間外の行
動には、学校はタッチしなくてよい
例題)駅前のゲームセンター、校区内の夏祭り
②侵害原則
• 学校や教師が生徒の行動に介入できるのは権利の侵害が起
こってから、事後的な調整としてのみ。
• 予防的介入(侵害の恐れがあるから)、主観的侵害(自分は迷
惑と感じている)との線引きは難しい
例題)漫画の持ち込み、「悪ふざけ」的行為
学校内外原則と侵害原則のわかりやすさ
• ①と②は近代民主主義社会のルールに沿っているので、承認
されやすい
• ①と②だけでは、現在の日本の学校が行っている生活指導的
な仕事のほとんどすべてが説明できない
③モラリズム
• 社会の中の「部分社会」はそれぞれに歴史的形成され継承さ
れてきた「モラル」を持っている。
• 「部分社会」は、新たに参入してきたメンバーに対して、既存の
「モラル」を強制できる。
例題)あいさつ、制服
モラリズムの意義
• 「社会への同化」として捉えた場合の「教育活動」の本質に合
致している
例)言語などの対人コミュニケーション、「道徳」
• 「根拠」を説明する必要のない強力な信念
• 規範の変動の激しい時代においては無力
④パターナリズム
• 「温情的家父長主義」(この訳語はあまり使われない)
• 判断力の未熟な主体が下す判断は、その主体の利益を損な
う可能性があるから、成熟した主体が代わりに判断を下し、強
制してよい。
例題)男女交際、化粧、オートバイ、アルバイト
パターナリズムの意義
• 「未熟な主体の発達の支援」として捉えた場合の「教育活動」
の本質に合致している
例)就学、時間割、すべての生活指導的関わり
• 「根拠」を問うことこそが「未熟」の証明となる、と言うことので
きる極めて強力な信念
• 「本人の利益」の判定は原理的に不可能
変動する日本社会
• 内外原則 → あまり考慮せず
• 侵害原則 → むしろ予防的介入に好意的
• モラリズム → 支持、ただし変動期において「部分社会」自体
が変容
• パターナリズム → 支持、ただし「利益」の判定主体が動揺
→ 価値観の多様化、主体の多元化
価値観の多様化
• 「正しい生き方」
• 「望ましい子どものあり方」
• 「将来の生活と、今この瞬間の生活」
例)親子の関係、男女の関係、働き方
主体の多元化
• いわゆる「モンスター・ペアレント」問題
• 「ペアレント」側からみると「無理解な学校」問題
• 選択の拡大=主体意識の拡大
• 私学選択、公立学校選択
• 私立はもちろん、公立も学校の自律(自立)性重視
• 主体としての地方自治体
• とらえどころのない「教育意思」
「生活学校」の条件
• 学校には多くの期待が寄せられる
• 学校・教師は期待を背負い込みやすい
• 期待を根拠づける信念が存在していた
→ 日本独特の「生活学校」スタイルが機能する条件があった
→ 今日、その条件が失われている
権限と責任のバランス
• 権限
• 警察権力のような強制力はない
• 親子関係のような「法外」の領域ではない
• 責任
• 高度な洞察力、調査力、指導力が求められることもある
• 「まず教師がしっかりと…」
バランスを回復する①
• 権限を強化する
• 求められている責任を
責任
十分に果たせるように、
今以上に強力に教育活
動を進めることができる
ようにする
権限
バランスを回復する②
• 責任を縮小する
• 与えられている権限に
責任
よって当然に果たせるレ
ベル以上の責任を学校・
教師に対して求めないこ
とにする
権限
教師と教育を信じる
親・メディア
学校・
教師
行政・政治
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前原健二 [email protected]
(東京学芸大学・教員養成カリキュラム開発研究センター)
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