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体罰防止研修資料
~裁判例に見る体罰~
はじめに
○ 体罰に関する裁判は、これまでに何度も行われている。
○ 体罰は違法行為であり、根絶のためには司法の判断
についても理解しておく必要がある。
○ 本資料においては、体罰に該当するか否かの判断基
準について最高裁判所が判示した裁判例及び、最近の
体罰に関する判例を紹介する。
○ 司法の場において、主にどのような点が争われ、どの
ような判断がなされているのかを中心に記載している。
【判例1】
熊本県天草市立小学校損害賠償請求事件
(平成21年4月28日最高裁上告審判決 平成20年(受)第981号)
第一審
熊本地方裁判所
体罰認定
控訴審
福岡高等裁判所
体罰認定
上告審
最高裁判所
体罰認定せず
※体罰に該当するか否かの判断基準を判示
【判例2】
奈良県生駒市立中学校損害賠償請求事件
(平成23年10月18日大阪高裁控訴審判決 平成23年(ネ)第1519号)
第一審
大阪地方裁判所
体罰認定せず
控訴審
大阪高等裁判所
体罰認定せず
上告審
最高裁判所
棄却
【判例1】 熊本県天草市立小学校損害賠償請求事件
事件の概要
●公立小学校2年生であった児童Aが、同校の3年生の担任教員から、
体罰を受けたと主張し、天草市に対し、国家賠償法1条1項に基づ
く損害賠償を請求。
●教員はだだをこねる別の3年生の児童をしゃがんでなだめていたと
ころ、Aが教員の背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。離れる
ように言っても肩をもむのをやめなかったので、上半身をひねり右
手でAを振りほどいた。
●そこに、女子児童数人が通り掛かったところ、Aは同級生とともに女
子児童らを蹴り始めた。教員はこれを制止し、このようなことをしては
いけないと注意した。
●その後、教員が職員室へ向かおうとしたところ、Aは教員のでん部付
近を2回蹴って逃げ出した。
●教員は立腹してAを追い掛けて捕まえ、胸元の洋服を右手でつかん
で壁に押し当て、大声で「もう、すんなよ」と叱った。
裁判の争点
教員の児童に対する行動の違法性
福岡高裁
最高裁
・胸元を掴むという行為は、喧嘩闘争の際にしばし
ば見られる不穏当な行為である。
・身長差、それまで面識がなかったこと等を総合す
れば、教員の行為によって被った恐怖心は相当な
ものであったと推認される。
・児童を捕まえるためであれば、手を掴むなどの穏
当な方法によることも可能であり、あえて胸元を掴
む必要はない。
熊本地裁
・女子児童への行動を注意する際は、口頭で注意
したのに止まっているが、教員のでん部を蹴った
行為に対しての行動は明らかに程度が異なる。
・教育的指導としての注意のみから出たものとはい
えず、個人的な腹立たしい感情を児童にぶつけた
ものと認められる。
・身長差、力の強さの差や行為の態様からしても、
教育的指導の範囲から逸脱しており、体罰と言わ
ざるを得ない。
逆 転
・児童の身体に対する有形力の行使
である。
・他人を蹴るという児童の一連の悪
ふざけについて、これからはそのよ
うな悪ふざけをしないように児童を
指導するために行われたものであ
り、肉体的苦痛を与えるために行わ
れたものではないことは明らかであ
る。
・教員は、自分自身も児童による悪
ふざけの対象となったことに立腹し
て本件行為を行っており、やや穏当
を欠くところがなかったとはいえな
い。
・しかし、その目的、態様、継続時間
等から判断して、教育的指導の範
囲を逸脱するものではない。
判決のポイント
①
有形力の行使
体 罰
※判決では、有形力の行使があったと認定しつつ、行為の違
法性は否定している。
②
目的
継続時間
違法性の
判断基準
態様
その他
※体罰に該当するか否かの判断基準が判示された。
【判例2】 奈良県生駒市立中学校損害賠償請求事件
事件の概要
●公立中学校2学年に在籍していた原告Aが、同校の教員から、
生徒指導と称して頭髪を黒色に染色 されるという体罰を受け
たと主張し、生駒市に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害
賠償を請求
●同校の校則によれば、「極端な段カットやカール、パーマ、染
髪脱色等はしない」とされている。
●生徒は、自宅で染色しなければ学校で行うこともあり得る旨を
告げられた。
●本件染髪行為は生徒指導の一環として生徒の同意を得て行
われたものである。
裁判の争点
染髪行為の違法性
原告(生徒)側
被告(生駒市)側
●生徒の頭髪は生まれながらにし
て茶色がかっており、人権侵害
行為である。
●染髪行為に先立ち、両親に 同意
を得るべき義務があったが、同
意を得ずに行った。
●皮膚アレルギーの有無の確認や
アレルギー反応テストを行ったり
するなど、安全に配慮すべき義
務があったのに怠った。
●接触性皮膚炎の障害を負った。
●校則に基づき、集団生活上の規
律及び規範を遵守させる目的で
行われた教育活動の一環として
の行為であり、合理的な根拠が
ある。
●生徒は自ら染髪行為を依頼した。
●両親に連絡を取ろうと試みたが
できなかった。生徒から両親に
言わない約束で染髪行為をして
欲しいと依頼された。
裁判所の見解
(原告の主張)
(裁判所の見解)
生徒の頭髪は生まれながらにして
茶色がかっており、人権侵害行為
である。
否定
・地毛の茶色とは異なり、脱色や染髪
等の外部要因によりオレンジがかっ
た明るい茶色に変化させたもので
あった。
否定
・自宅に複数回電話連絡を行ってい
る。結果的に連絡を取ることができ
なかった。
・職場に連絡をしないよう言われてい
た。
否定
・染髪行為とは無関係に発症した疑
いがある。
・因果関係が認められない以上、アレ
ルギー反応テストを実施していな
かったとしても、違法性に関する判
断を動かさない。
染髪行為に先立ち、両親に 同意
を得るべき義務があったが、同意
を得ずに行った。
・皮膚アレルギーの有無の確認や
アレルギー反応テストを行ったり
するなど、安全に配慮すべき義
務があったのに怠った。
・接触性皮膚炎の障害を負った。
判決に至るポイント
・頭髪や服装に係る指導などの生徒指導の目的は、学校教
育法等の趣旨に照らしても、もとより正当なものである。
目 的
・頭髪の脱色や染色に関する本人の自発的な改善の見込み
なく、家庭内における指導・改善にこれ以上期待することも
困難であった といわざるを得ない。
・染髪行為は相当と認められる方法(複数の教員が関与し、
制服の汚れを防止したり、耳をラップで保護するなど)で実
施されたと評価できる。
態 様
・方法や態様が身体を拘束したり、肉体的な苦痛を与えたり
するものではない。
・生徒は染髪行為に同意し、これを受け入れていたと認めら
れる。
継続時間
・1時間程度の時間をかけて行われた行為である。
判 決
○方法、態様や継続時間を見ても、社会的に相当と認められる範囲内のも
のであった。
○本件染髪行為は、教員の生徒に対する有形力の行使ではあっても、教員
が生徒に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱したものとは
いえず、学校教育法11条ただし書きにいう体罰にも当たらない。
判決に関する注意点
本件における染髪行為については、体罰に該当しないと判断されたが、染髪行為
が常に正当化されるということではない。状況によっては、逆の判断がなされる可能
性もあることに留意する必要がある。