民事訴訟法 - 関西大学

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民事訴訟法 基礎研修

(4日目)

関西大学法学部教授 栗田 隆

当事者の欠席

 民事訴訟法には「出頭しない」「在廷しない」 はあるが、「欠席」という言葉はない。  言葉の定義  出頭しない 期日に当事者が出てこないこと。  在廷しない 相手方が訴訟行為をするときに現 に法廷にいないこと。  欠席 ( 闕席・懈怠 ) 出頭しないこと、または、出 頭しても当事者が期日になすべきこと(弁論・申 述)をなさないこと。

双方の欠席の場合

 当事者の弁論の余地はない。  しかし、裁判所は、  双方が不出頭の場合でも、 証拠調べ ( 183条 ) をし、  双方が不在廷の場合でも、 判決の言渡し ( 251条 2項)をす る  ことができる。

双方欠席の場合に裁判所がとりう る措置

   終局判決をなすために弁論を終結すること ( 243条 ・ 244条 ) 新期日の指定( 93条 ) 新期日を指定せずにおく

訴えの取下げの擬制(

263

条 )

   当事者双方が欠席する場合には、判決によ る紛争解決の意欲が当事者にないと考えら れる。 口頭弁論または弁論準備手続の期日を当 事者双方が懈怠し、 1 月以内に期日指定の 申立てをしないとき。または、 口頭弁論または弁論準備手続の期日を当 事者双方が連続して 2 回懈怠したとき。

一方のみの欠席

 出頭した当事者は、 弁論を行い、 証拠調べに関与し、 請求の放棄あるいは認諾をする ことができる。

初回期日における一方の欠席

 158条 最初の期日における陳述擬制  原告の欠席 頭弁論において陳述されることが必要。⇒陳述 擬制 審理裁判の対象となる請求が口  被告の欠席 当事者平等原則により陳述擬制  注意  簡裁手続きを除き、続行期日では適用なし  双方欠席の場合には、適用なし。

初回期日における被告のみの欠席

 被告が準備書面を提出していないと、擬制自 白の成立により直ちに請求認容判決(欠席判 決)をする余地が生ずる。  159条 3項  161条 3項 の制限  254条 擬制自白の原則 準備書面不記載の事実の陳述 調書判決

続行期日における一方のみの不出 頭又は欠席

 不出頭又は不在廷の場合  159条 3項  161条 3項 限 擬制自白の原則 準備書面不記載の事実の陳述の制  欠席の場合  277条  244条 簡易裁判所での陳述擬制 審理の現状に基づく裁判

その他

 弁論の更新( 249条 2項)も、出頭した当事者のみで なすことができる。  和解又は請求の放棄・認諾の成立を容易にするた めの特則。  264条 和解条項案の受諾書面を提出した 当事者の不出頭  266条 2項 請求の放棄・認諾する旨の書面を 提出した当事者の不出頭

争点整理手続に両当事者が欠席し た場合

 争点整理手続を終了または終結させることが できる。  準備的口頭弁論の終了につき、 166条 、  弁論準備手続の終結につき、 170条 6項・166条。  弁論準備手続に欠席したときは、訴え取り下 げの擬制( 263条 1文)

口頭弁論の一体性

   口頭弁論ならびに証拠調べは、複数回の期日に分 けて行われることが多い。何回に分けて行われよう とも、終結するまでに行われた口頭弁論の全体が 一体として判決の基礎となる。 前の期日で行われた弁論は、後の期日で繰り返さ れる必要はない。 当事者の弁論は、どの期日で行っても、裁判資料と しては基本的に同一の効果をもつ(口頭弁論の等 価値性。但し、157条の制限などがある)。

適時提出主義

 攻撃防御方法は、訴訟の進行状況に応じて 適切な時期に提出しなければならない(156 条) 。  157条 時機に後れた攻撃防御方法の却下  167条 ・ 174条 ・ 178条 争点整理手続の終了 または終結後に攻撃防御方法を提出する場 合の説明義務

証拠結合主義

   当事者の事実主張は、当初は、真実が何であるか よくわからない状況で、自己にできるだけ有利にな るような形でなされる。 証拠調べの結果、本当の事実関係が判明すれば、 当事者はそれにあわせて事実主張を変更・撤回し て争点が整理され、あるいは新たな事実主張をなす ことが必要になる場合がある。 そこで、証拠調べと事実主張とは並行して行うとの 原則がとられている。但し、 182条 に注意。

攻撃防御の提出に関する誠実義務

 攻撃防御方法の提出は、迅速かつ公正な裁判の実 現のために、信義に従い誠実になさなければならな い。  [ 126 ]東京地方裁判所 平成12年3月27日 民事第 29部 判決・教材判例集332頁 被告の訴訟活動の 経過を詳細に指摘して、それが、証拠提出の順序、 時期及び方法のいずれの点においても、公正さを 欠き、信義誠実に著しく反すると説示された事例。

攻撃防御方法の却下(

157

条 )

 時機に後れた攻撃防御方法の却下(157条1項)  趣旨不明瞭の攻撃防御方法の却下(157条2項)  その他の理由による攻撃防御方法の却下  訴訟手続を不安定にし、審理の遅滞を招く場合  既判力による遮断。  信義則による主張禁止

却下の裁判

 裁判所は、相手方からの申立によりまたは職権で 却下する。  証拠の申出 証拠申出を却下する決定によりなさ れる。独立の決定で却下しない場合には、弁論終結 決定により黙示的に却下されたことになる。  事実の主張および否認 口頭弁論終結前の独立 の決定によって却下しても、判決理由中で却下して もよい。

時機に後れた攻撃防御方法の却下 の要件

   時機に後れて提出されたものであること 後れたことが当事者の故意又は重大な過 失に基づくこと その攻撃防御方法を斟酌すると訴訟の完 結が遅延すること

裁判例

 [ 157 ]大阪地方裁判所 平成14年1月29日 第21民事部 判決・教材判例集441頁  東京高等裁判所 平成13年12月19日 第2 0民事部 判決  [ 115 ]東京地方裁判所 平成12年1月28日 民事第47部 判決・教材判例集275頁

裁判例(続)

 [ 107 ]東京地方裁判所 平成11年12月21日 民事第46部 判決・教材判例集234頁  [ 90 ]最高裁判所平成10年4月30日第1小法 廷判決・教材判例集183頁

裁判例 信義則による主張禁止

 [ 106 ]東京高等裁判所平成11年12月16日 第6民事部判決・教材判例集230頁

証拠調べ

 証拠方法から証拠資料を獲得すること  証拠方法=証拠調べの対象  証人  当事者本人、代表者本人、代理人本人  鑑定人  文書、準文書  物、人、状況(現場)

証拠

 証拠調べの対象、または、証拠調べにより得 られる事実の認定の資料  証拠方法  証拠資料  証拠調べ  証拠原因  当事者の立証行為

証拠の種類(分類)

 直接証拠と間接証拠  人証と物証  本証と反証  間接本証と間接反証

直接証拠と間接証拠

 間接事実---経験則--->主要事実 ↑ 間接証拠 ↑ 直接証拠 ↑ ↑

-----補助事実----

↑ 間接証拠

間接反証

 間接反証は、ある主要事実について証明責 任を負う者がこれを推認させるのに十分な間 接事実を一応証明した場合に、相手方がそ の間接事実とは別個のしかもこれと両立しう る間接事実を立証することにより、主要事実 の推認を妨げる立証活動である。

間接反証の例

  要証事実=原告被告間に父子関係が存在する。 原告の主張(本証のための間接事実)    原告の母か懐妊した当時、被告はしばしば原告の母の家を訪れ た。 原告と被告の血液型は、両者間に父子関係があることに反しな い。 原告と被告とは身体的特徴が類似している 被告の主張(反証のための間接事実)   原告の母は懐妊の事実を告げなかったし、また原告の出生に別 の男性が立ち会った。 その男性が原告の父親として相応の態度を示した。

間接反証

証明責任者 相手方 主張の 主張の 間接事実- - ↑ 間接証拠 間接本証 → 主要事実 ← --間接事実 ↑ 間接証拠 間接反証

証明

 裁判官が要証事実の存在につき「通常人 として合理的な疑いを差し挟まない程度に 真実性の確信を持った状態」を証明という。  裁判官がこのような心証(心理状態)をもつ ように、当事者が資料を提出することも証 明という。挙証ともいう。  「挙証者」( 220 条 2 号 3 号・ 229 条 4 項)

裁判例

 最高裁判所 昭和50年10月24日 第2小法 廷 判決 (昭和48年(オ)第517号)  [ 132 ]最高裁判所 平成12年7月18日 第3小 法廷 判決・教材判例集367頁

証明の対象

 事実  経験則  法規

証明を要しない事実(

179

条 )

 自白された事実(当事者間に争いのない事 実)  裁判所に顕著な事実  公知の事実  裁判所が職務上知りえた事実

裁判上の自白

 口頭弁論において相手方の主張する自己に 不利な ( 相手方が証明責任を負う ) 主要事実 の陳述。  先行自白  制限自白 ( 抗弁付自白 )  権利自白  擬制自白

裁判上の自白の効果

 裁判上の自白は、裁判所を拘束する(弁論主 義の第 3 命題)。  裁判上の自白が明示的になされると、自白者 は任意撤回できない。撤回の要件:  反真実・錯誤  刑事上罰すべき他人の行為  相手方の同意

自白の撤回の制限と証明責任

  [ 10 ]最高裁判所 昭和35年2月12日 第2小法廷 判決・教材判例集18頁 所有権に基く家屋明渡請求訴訟において、被告が、 占有権原として、はじめ使用貸借の存在を主張し、 原告がこれを認めた後に右主張を撤回して、家屋 の前所有者との間に期間の定めのない賃貸借契約 が成立していて、原告は賃貸人の地位を承継したと 主張するにいたったとしても、これを自白の取消とい うことはできない。

当事者間に争いのない事実

効果 当事者に対する拘 束力 裁判所に対する拘 束力 証拠によらずに事 実を認定できる 要件 相手方が証明責任を負う主要 事実について相手方と同じ主張 をする 主要事実について当事者間に 争いなし 主要事実又はその他の事実に ついて争いなし。(179条により または247条の弁論の全趣旨に より認定する)

公知の事実の裁判例

 最高裁判所 平成12年11月10日 第2小法 廷 判決 (平成11年(行ツ)第16号)  東京高等裁判所 平成11年12月16日 第6 民事部 判決 (平成11年(行ケ)第290号)  東京高等裁判所 平成11年10月29日 第1 3民事部 判決 (平成10年(ネ)第3707号)

 東京高等裁判所 平成11年11月16日 第6 民事部 判決 (平成11年(行ケ)第197号)  東京高等裁判所 平成11年11月24日 第1 3民事部 判決 (平成10年(行ケ)第413号)  [ 155 ] 名古屋地方裁判所 平成14年1月29日 民事第1部 判決・教材判例集 430 頁

自由心証主義(

247

条 )

 裁判官は、審理に現れた全ての資料・ 状況に基づいて自由な判断によって事 実を認定することができるという建て前 を自由心証主義という。

自由心証主義の内容

 証明の必要  間接事実による主要事実の推認  弁論の全趣旨の斟酌  証拠調べの結果の斟酌  証拠力の自由評価

証拠調べ

  証拠方法から証拠資料を獲得すること 証拠調べの方法。法律および規則であらかじめ規 定されている。  証人尋問  当事者尋問  鑑定  書証  検証  調査の嘱託

証拠調べ通則

         証拠の申出( 180条 ) 証拠の採否( 181条 ) 証人・当事者本人の集中証拠調べ( 182条 ) 当事者の立会権と不出頭の場合の取扱い( 183条 ) 外国における証拠調べ( 184条 ) 裁判所外における証拠調べ( 185条 ) 調査の嘱託( 186条 ) 参考人等の審尋( 187条 ) 疎明( 188条 )

証人尋問

 自己の経験によって知った事実を訴訟におい て供述する第三者をいう。  証人尋問は、質問に答える形で証人に供述 させる取調べの方法である。  専門的学識経験をもっていたが故に認識しえ た具体的事実について供述する者も証人の 一種であるが、特に鑑定証人( 217条 )という (例:特定の患者を診察・治療した医師)。

証人義務

 日本の裁判権に服する者はすべて証人義務 を有する(190条)。義務の内容:  出頭義務(192条-194条)  証言義務( 200条 )。後述の例外(196条・197条) がある。  宣誓義務(201条1項・5項、規則112条) (201条2項-4項) 例外

証人尋問の主体と場所

  証人尋問は、受訴裁判所(合議体の場合は構成 員全員)が裁判所内の法廷で行うことが原則であ る。例外: 受命裁判官による裁判所内での証人尋問( 268 条 )   受命裁判官・受託裁判官による裁判所外での 証人尋問( 195条 ) 受訴裁判所による裁判所外での証人尋問( 185 条 )

宣誓(

201

条 )

 宣誓は、偽証罪(刑169条)の構成要件の一つと なる重みのある行為である。

期日における質問と陳述( 202条 ・ 203条)

 人定尋問  証明主題についての尋問(202条1項、 規則 113条 ・114条)  尋問を申し出た当事者による主尋問  相手方当事者による反対尋問  尋問を申し出た当事者による再主尋問  裁判長による補充尋問(202条1項)・介入尋問  陪席裁判官による尋問(規則113条4項)

証人尋問の方法

 質問と証言は、口頭でなされるのが原則であ る( 203条 )。  証人尋問の制限( 規則114条 ・115条)  尋問者の最大の武器は、「質問に答えなさい」の 一言。  対質( 規118条 )。  映像等の送受信による通話の方法による尋 問( 204条 、 規123条1項 )。

尋問に代わる書面の提出

 裁判所は、相当と認める場合において、当事者に異 議がないときは、証人の尋問に代え、書面(回答書) の提出をさせることができる。これを書面尋問とも呼 ぶ( 205条 ) 。  例えば、交通事故の実況見分をした警察官に事故 の状況について書面で尋問することがある。  裁判所は、相手方当事者にも回答事項の希望を書 面で提出させることができる( 規則124条 )。

当事者尋問(

207

条 - 211 条)

 当事者を証拠方法として、その経験した事実 について質問し、その供述を証拠資料とする 証拠調べの方法。

当事者尋問の特徴

 補充性 証人と当事者とを尋問する場合に は、証人を先に尋問するのが原則である。し かし、適当と認められる場合には、当事者か ら尋問できる( 207条 2項)。  職権での尋問も可能(207条1項)。  証言を命ぜられた当事者は、出頭・供述義務 を負う。宣誓させるか否かは、裁判所が裁量 により決める(207条1項2文)。

当事者の弁論と当事者尋問におけ る陳述の違い

 当事者の弁論における主張も、弁論の全趣 旨の一部として事実認定の資料となるが、し かし、事実認定の資料としては、当事者尋問 における陳述の方がはるかに重みがある。

不出頭・陳述拒絶等に対する制裁 ( 208条 )

 当事者本人を尋問する場合に、正当な理由 なしに出頭しないとき、又は宣誓もしくは陳述 を拒むときは、尋問事項に関する相手方の主 張を裁判所が真実と認めることができる。  過料等の制裁を科すより効果的であり、また 無駄がない

虚偽の陳述に対する制裁(

209

条 )

 当事者本人は、たとえ宣誓していても証人で はなく、虚偽の陳述をしても偽証罪(刑法169 条)に問われない。より緩やかな制裁として、 過料の制裁が用意されている。  当事者本人により多くの真実を語らせるのは、 こうした制裁というより、相手方からの厳しい 質問であろう。

証人尋問の規定の準用(

210

条 )

 195条(受命裁判官等による証人尋問)  201条2項(宣誓無能力者)  202条(尋問の順序)  203条(書類に基づく陳述の禁止)  204条(映像等の送受信による通話の方法に よる尋問)  206条(受命裁判官等の権限)

次の規定は、準用されない

 192条-194条(不出頭に対する制裁)  196条・197条(証言拒絶権)  201条1項・3項-5項(宣誓)  205条(尋問に代わる書面の提出)

対質

 裁判長は、必要があると認めるときは、当事 者本人と、他の当事者本人又は証人との対 質を命ずることができる( 規則 126 条 )。

法定代理人・法人等の代表者

 当事者を代表する法定代理人も、当事者尋問の 方法により尋問される( 211条 )。  訴訟において法人を代表する者も、法定代理人 に関する規定が準用されるので( 37条 )、証人尋 問ではなく当事者尋問の方法により尋問される (代表者尋問という)。

鑑定( 212条 -218条)

 鑑定人とは、裁判所の命令により専門的知 識を報告する者である。  鑑定人からの報告を得るための証拠調べを 鑑定という。

鑑定の対象事項

    法規についての専門的知識 る対象である。 経験則についての専門的知識 外国の法規が主た 経験則を具体的事実関係に適用して得られる事実 判断 その他、証人尋問等の方法で得るのに適さない知 識。例:最近の地価の状況のように調査の必要な事 実に関する知識、有体物から情報を得るのに専門 的技術・知識が必要な場合に、それを用いて得られ た情報( 233条 の検証の際の鑑定)など。

鑑定人となるのは自然人である

 宣誓のうえ鑑定させることにより、虚偽鑑定 罪(刑 171 条)の威嚇の下、虚偽鑑定を防止 することができるからである。

証人と鑑定人との区別

証人 忌避 × 鑑定人 ○(214条1項) 報酬 指定する者 日当(費用法18条1 項) 鑑定料(費用法18条2 項) 当事者( 規106条 ) 裁判所( 213条 ) 勾引 ○( 194条 ) ×( 216条 )

鑑定義務(

212

条 ・

214

条 )

 証人義務が日本の裁判権に服するすべての 者が負う一般的義務であるのに対し、鑑定義 務は、鑑定をなすに必要な学識を有する者が 負う義務である(212条)。  この抽象的義務は、鑑定命令により具体的 義務となる。

手続

      鑑定人の指定( 213 条 ) 鑑定事項の決定と告知 呼出し 宣誓 資料収集 鑑定意見の報告( 215 条 )

証人尋問の規定の準用( 216条 )

       191条 192条・193条(不出頭に対する制裁-過料と罰金) 195条(受命裁判官等による尋問) 197条-200条(証言拒絶理由、理由の疎明、当否の 裁判、制裁) 201条1項・5項(宣誓、宣誓拒絶に対する制裁) 202 条(尋問の順序) 203条(書類に基づく陳述の禁止) 204条(映像等の送受信による通話の方法による尋 問)

次の規定は、準用されない

 194条(勾引) 鑑定人の不出頭に対する制 裁としては過料・罰金で足り、勾引してまで鑑 定させる必要はない。  205条(尋問に代わる書面の提出)

鑑定の嘱託(

218

条 )

 鑑定は、内外の官庁・公署または相当の設 備を有する法人に依頼することもできる。  裁判所が職権で嘱託する事ができ、弁論主 義の例外となる。

専門訴訟

 医療・建築・特許のような分野の訴訟は、専 門的知識が必要となるのが通常であり、その ような専門知識を必要とする民事訴訟を「専 門訴訟」という。  最高裁判所:広報テーマ・ 専門訴訟の円滑で適 正な解決のために

特許庁への鑑定の嘱託

 特許法等で規定されている。  特許発明の技術的範囲についての鑑定(特許法 71条の2)  特許庁は判定請求の料金と同額を裁判所に 請求する。

書 証(

219

条 - 231 条)

 書証とは、裁判官が文書を閲読し、そこに表現され ている作成者の意思を係争事実の認定資料とする 証拠調べをいう。  書証の本来の意味は、証拠調べの方法であり、対 象物ではない。対象物は、文書(証書や日記など人 の思想が記載されたもの)である。  「取調べの対象物」の意味で書証ということもある (例えば、 民執法85条 3項、 民訴規則139条 [ 3 ])。

文書と準文書

 固有の意味での文書は、  ( α )作成者の思想(意思、認識、感情など)が、   ( β )裁判官が直接閲読可能な形態で、 ( γ )文字またはこれに準ずる符号によって表現されている ものをいう。  情報を表すために作成された物件でこれらの要件 を満たさないものは、すべて準文書( 231 条 )として 扱われる 。

文書の区別

 処分証書と報告証書  公文書と私文書( 228条 参照)  原本・正本・謄本・抄本・写し( 規143条 との関 係で重要である)

書証の手続の概略

 準備的申出 文書の入手の申立て  文書送付嘱託の申立て(226条本文)  本申出  証拠調べ

文書提出義務(

220

条 )

 相手方の引用文書( 1 号)  申立人が引渡・閲覧請求権を有する文書( 2 号)  挙証者の利益文書( 3 号前段)・法律関係文 書( 3 号後段)  その他の文書-一般的提出義務( 4 号)

自己利用文書(4号二)

 個人のプライバシーや個人・団体の意思形成 の自由を保護するために提出命令の対象外 とされている。  (

α

)非開示目的で作成され、(

β

)開示される と看過しがたい不利益が生ずる文書である

「開示による看過しがたい不利 益」

   不利益の内容に応じてその認定の具体性も異なる。 銀行の貸出稟議書については、個々の事件の具体 的事情に依存しない理由で、自己利用文書に当た るとされている。 他方、開示による不利益が個人のプライバシーの 侵害や企業の秘密の漏洩である場合には、個々の 事件の具体的事情を考慮して具体的に認定するこ とが必要である。

貸出稟議書

 [104] 最高裁判所 平成 11 年 11 月 12 日 第 2 小法廷決 定 (平成 11 年(許)第 2 号)・教材判例集 227 頁   [137] 最高裁判所 平成12年12月14日 第1小法廷 決定 (平成11年(許)第35号)・教材判例集 382 頁 [150] 最高裁判所 平成13年12月7日 第2小法廷 決定 (平成13年(許)第15号) ・教材判例集 416 頁

技術文書

 [123] 最高裁判所 平成12年3月10日 第1小 法廷 決定 (平成11年(許)第20号)・教材判 例集326頁

文書提出命令の手続( 221条 -223 条、 規則140条 -141条)

 書面で申し立てる  相手方の意見陳述  裁判所の判断  不服申立て( 223条 7項)

不服申し立てに関する判例

 [123] 最高裁判所 平成12年3月10日 第1小法廷 判決 (平成11年(許)第20号) ・教材判例集326頁  [138] 最高裁判所 平成12年12月14日 第1小法廷 決定 (平成11年(許)第36号) ・教材判例集436頁・ 教材判例集384頁  [145] 最高裁判所 平成13年4月26日 第1小法廷 決定 (平成13年(許)第2号) ・教材判例集395頁

文書提出命令の利用の実例

 大阪地方裁判所 平成13年10月11日 第2 1民事部 判決 (平成9年(ワ)第12402号)

文書提出命令違反の効果

 第三者が文書提出命令に従わない場合には、 20万円以下の過料の制裁が科される( 225 条 )。  当事者が提出命令に従わない場合には、過 料等の制裁を科すより、敗訴の危険の負担を 負わせる方が合理的である。 ( 224条 )

不提出の実例

 [156] 東京地方裁判所 平成14年1月29日 民事第 47部 判決・教材判例集436頁  [133] 大阪地方裁判所 平成12年7月27日 第21民 事部 判決・教材判例集370頁 被告が文書提出 命令に従わなかったが、原告の調査結果から要証 事実を推認することができるとして、民訴法224条 3項が適用されなかった事例。

文書送付の嘱託(

226

条 )

 文書提出命令よりも命令性(権力性)の弱い 平和的な文書入手方法 。

書証の本申出

 書証の本申出は、口頭弁論期日に行う。  書証の申出をする時までに次のものを裁判 所に提出する(裁判所のために ることもできる 1 通、相手方 のためにその数の通数) 。相手方に直送す  文書の写し  証拠説明書  外国語の文書については、訳文

文書の留置(

227

条 )

 当事者が提出した文書、文書提出命令により 提出された文書、送付嘱託により送付された 文書は、裁判所が閲読した後、提出者あるい は送付者に返還し、訴訟記録には当事者が 提出した写しを編綴する。  証拠調べのために必要がある場合には、裁 判所は提出・送付に係る文書を留め置くこと ができる。

文書の証拠力

 文書の成立の真正 文書が作成者の意思 に基づいて作成されたこと  形式的証拠力 文書に表明された思想が、 作成者であると主張されている者の思想であ ること。  実質的証拠力 認定に役立つこと 文書の内容が要証事実の

成立の真正の証明

 挙証者は、作成者を特定して、その者の意思 に基づいて作成されたこと(成立の真正)を主 張し、相手方が争う場合にはそのことを証明す る責任を負う。  作成者が異なることが判明した場合には、挙 証者は、その文書を証拠とするためには、再 度、作成者を特定し、その者が作成した文書と して証拠申出をしなければならない。

作成者を特定できない文書

 ≪ 文書の作成者を特定できない場合には、文 書としての証拠価値はなく、検証により取り調 べるべきである ≫ と言われることがあるが、こ れは行き過ぎである。  作成者を特定できない文書でも、文書に表示 された思想が要証事実の証明に役立つ限り 書証の対象となるとすべきである。

成立の真正の証明

   推定規定が置かれている。いずれも補助事 実についての推定であり、挙証者の相手方 は反証をもってこれを動揺させれば足りる(通 説)。 文書の成立の真否は、筆跡の対照によって も証明することができる( 229条 )。 文書の成立の真正を挙証者の相手方が否認 する場合には、彼はその理由を明らかにしな ければならない( 規145条 )。

陳述書

 訴訟代理人が事案を把握するために、関係 者に陳述書の作成を依頼し、これを基礎にし て準備書面等を作成する。  そのうちの一部が、裁判所に提出される。裁 判所が事案を把握し、証人尋問数の減少あ るいはその実施を簡素にして、審理の負担を 軽減することが目指されている。

陳述書の証拠価値

 陳述書作成者を証人尋問することが可能な 場合でも、その陳述書を証拠とすることがで きる。  どのように評価するかは、自由心証主義の範 囲内の問題である。実質的証拠力は低く評 価されることが多いが、証拠原因となることも ある。

陳述書が証拠原因となった事例

 東京地方裁判所 平成13年12月25日 民事第48 部 判決 (平成10年(ワ)第1182号) 書籍の出版 による名誉毀損事件において、被告の編集部の社 員の陳述書に基づき出版部数が認定された事例  [ 165 ]東京高等裁判所 平成14年5月31日 第13民 事部 判決・教材判例集470頁 被告製品の大手 ホームセンターにおける販売状況に関する原告従 業員作成の上申書が証拠原因となった事例。

原本提出の原則( 規

143

条 )

 証拠に用いる文書の提出又は送付は、原本、 正本又は認証謄本でしなければならない。文 書の成立の真正を迅速に認定し、作成者の 意思を確実に読み取るためである。  文書の原本は滅失しているがその写しは存 在する場合に、その写しを証拠調べの対象 文書とすることを禁止する趣旨ではない。

原本でない文書の形式的証拠力

 「裁判官が閲読する写しに作成者の思想が 正しく表明されていること」である。  原本の存在に意味がある文書については、 (

α

) 原本が存在することあるいは存在したこと、 (

β

)原本が真正に成立したこと、 (

γ

)写しが原本を正写したものであることの 証明が必要である。

準文書(

231

条 )

 情報を表すために作成された物件で、文書の 要件の一部または全部を欠くものは、準文書 として書証の対象となる。

準文書の例

 文字またはこれに準ずる符号によって表現されてい ないもの 図面、写真、録音テープ、ビデオテープ、 グラフ。   直接閲読可能な形態で表現されていないもの イクロフィッシュや磁気ディスク内に収録されている 言語表現物。 マ 特定の人の思想を表現しているとは言えないもの 作成者不明の言語表現物、機械的に記録される文 字情報(Webサーバーのアクセスログ)など。

準文書の証拠申出( 規148条 以下)

   証拠申出をする時までに、次のものを裁判所に提 出しなければならない。 証拠説明書 一般の記載事項(準文書の標目、作 成者、立証趣旨。規137条1項)のほかに、記録物に あっては、記録(撮影、録音、録画等)の対象・日時・ 場所(規則148条)。 録音テープ等については、裁判所または相手方の 求めがあるときは、内容説明文書・反訳書面を提 出・直送しなければならない(規則149条1項・2項)。

検 証( 232条 ・233条)

 事物や人体の形状・性質につき裁判官の五 感作用により直接に事実認識を行う証拠調 べを検証という。検証の対象となる物を検証 物という。

検証物提示義務

 国民に課せられた一般的義務であり、何人も 正当な理由ある場合を除き、この義務を負う (通説)。 232条 で文書提出義務に関する220 条が準用されていないことは、その現れであ る。

訴訟要件

 原告が訴えをもって主張した法律関係の存否を 判断して、請求を認容あるいは棄却する判決を 本案判決という。  本案判決をするために必要な訴訟法の観点から 定められた要件が訴訟要件である。訴訟要件が 具備されていない場合には、訴え却下判決がな されるのが原則である(この判決は、本案判決と 対比させて、訴訟判決と呼ばれる)。管轄につい て例外あり。

訴訟要件の種類 1

 訴訟係属の発生に関するもの  適式な訴え提起行為  有効な訴え提起行為  被告への訴状の有効な送達  裁判所に関するもの  国際的な裁判管轄権  国内的な管轄権 ( 16条 1項) 管轄違いの場合には移送

訴訟要件の種類 2

 当事者に関するもの  当事者の実在  当事者能力  当事者適格(訴えの主観的利益) その訴訟の 原告・被告間で本案判決をすることが紛争の解 決に適当であるとするだけの権能・適格を当事者 が有していること。

訴訟要件の種類 3

 訴訟物に関するもの  請求適格  権利保護の利益  訴え提起の態様に関する規定の遵守  訴え提起が信義則に反しないこと。  その他  訴訟費用の担保の提供が必要な場合に、担保の 提供がなされていること。

訴訟要件の調査

  職権調査事項 訴訟要件の多くはこれに該当する。  裁判権、管轄権[ 14 ]、当事者の実在、当事者能 力、訴えの利益など。 抗弁事項 次の訴訟要件は、もっぱら当事者の処 分に委ねてよい利益に関わり、当事者からの申立 てないし指摘をまって調査すれば足りる。  仲裁契約の存在(公催仲裁法786条)  不起訴の合意の存在  訴訟費用の担保の提供( 75 条・78条)

判断資料の収集(通説の立場 )

 職権探知事項(裁判所の責任で収集すべき事項)  裁判権、専属管轄、当事者能力、訴えの有効な提起に必 要な訴訟能力・代理権、判決が対世効を有する場合の当 事者適格など。  弁論主義に服する事項(当事者の責任で収集すべ き事項)  抗弁事項の全部  職権調査事項の一部 任意管轄、訴えの客観的利益、 当事者適格(対世効のある判決の場合を除く)

本案の判断との順序 1

  原告の請求を認容するためには、訴訟要件 が具備されていることが必要である。 しかし、訴訟要件が具備されているか否か が明確になる前に請求に理由がないことが 明らかになった場合に、請求棄却判決をな すことができるかについては、見解が分か れている。

本案の判断との順序 2

 通説 訴訟要件の具備が本案判決の要件であり、 要件具備を確認した上でなければ請求棄却判決も 許されない。  訴訟要件分類説 被告の利益保護を目的とする 訴訟要件については、その要件の具備の判断前に 請求に理由のないことが明らかになれば、その要件 の具備を調査することなく請求棄却判決を下すこと ができるとする有力説

訴訟要件を欠く訴えに対する対応

 訴訟要件を欠く訴えは、不適法な訴えとして却下さ れるべきである。但し、  補正可能な場合には、裁判所は、期間を定めて 補正を命ずるべきである(訴え提起行為に瑕疵 がある場合については、34条がある)。口頭弁論 を開く前に命じてもよい。  補正が不能な場合、あるいは補正命令に応じな かった場合には、訴えを却下する。口頭弁論を経 る必要はない( 140条 )。

補正不能であることが明らかな訴 え

 裁判所は、被告への訴状送達前に、判決に より却下することができる( [ 79 ] 最高裁判所 平成8年5月28日 第3小法廷判決・教材判 例集 156 頁)。  訴状送達前に訴えを却下する場合には、却 下判決を被告に送達する必要はない(前掲 最判)。

請求適格・法律上の争訟

 個々の事件を離れて一般的に、裁判所が裁 判をなすに適する請求であることを請求適格 (または、権利保護の資格)という。

請求適格の要件

 請求が具体的な権利または法律関係に関す るものであること 。  訴訟による救済を必要とする利益が問題と なっていること  憲法により保障された重要な利益の尊重ある いは制度枠組みの維持のために、裁判権の 行使を自制すべき場合でないこと

権利保護の利益

 個々の事件において判決によって解決する具体 的必要性を意味する。

権利保護の利益を欠く場合の例示

     相手方が争っているとは認められない場合 既に確定判決があり、新たな確定判決の取得が必 要ない場合 既に開始されている手続において審理されている請 求と同一であり、あるいは密接に関連していて、重 ねて裁判する必要がない場合 個々の事件において訴訟以外の手続で権利を行使 すべきものとされている場合。 訴え提起が権利濫用あるいは信義則違反にあたる 場合

裁判例

 東京地方裁判所 平成11年12月20日 民事 第29部 判決 (平成10年(ワ)第18411号)  原告が確認の対象としている著作権の帰属を被 告が争っているとは認められないため、著作権確 認請求に係る訴えが却下された事例。  原告が被告に対して差止を求めている著作物 利用行為等をしているとは認められないため、著 作物利用差止請求が棄却された事例。

紛争の蒸返しの禁止の法理

 最高裁は、紛争解決の実効性を高めるために、 「実質的には敗訴に終わった前訴の請求及び主 張の蒸返しに当たる」後訴の提起は、信義則に 反して許されない、との法理を定立している。

裁判例

 [ 91 ]最高裁判所平成10年6月12日第2小法 廷判決 ・教材判例集185頁  [ 129 ]東京高等裁判所 平成12年7月4日 第 18民事部 判決・教材判例集353頁

確認請求についての正当な利益

 即時確定の利益(即時確定の必要性)  確認対象の適切性  訴訟形式の適切性

証書真否確認の訴え( 134条 )

 証書の成立の真否が確定されると法律関係 も確定され、紛争が解決されることがあるの で、そのことのために例外的に許される事実 の確認の訴え

給付請求についての正当な利益

 現在給付の訴えは、 (α)給付請求権の存否に関する争いを解決し、 (β)強制執行の基礎となる債務名義を得る ことを目的とするものである。  いずれか一方の目的を達成する必要があれ ば、訴えの利益がある

将来給付の訴え( 135条 )

 履行すべき状態にまだなっていない給付義 務を主張し、予めこれについて給付判決を得 ることを目的とする訴えを将来給付の訴えと いう。  予め判決を請求する(判決を得ておく)必要の あることが要件として追加される。

将来給付の訴えが許されるための要件

  請求適格のレベル おける存在について明確な予測が可能であること が必要である。 訴訟物たる請求権の将来に 権利保護の利益のレベル 「あらかじめ請求を なす必要」のあることが必要である( における請求権の存在について明確な予測が可 能な場合であっても、(a)債務者がその権利を認め、 履行期に履行すると言い、(b)履行が遅れても債 権者に生ずる損害が重大でない場合には、将来 給付の訴えを許す必要性はない)。 135条 )(将来

権利保護の利益のレベル-事前請求の 必要性

 履行期における任意の履行を合理的に期待 できない事情が存在する場合。  一定の日時または期間内に履行がないと契 約の目的を達することができない場合、ある いは原告に著しい損害が生ずる虞のある場 合。

裁判例

 最判昭和 56 年 12 月 16 日民集 35-10-1369 頁  [65] 最高裁判所 昭和63年3月31日 第1小 法廷 判決(昭和59年(オ)第1293号)・教材 判例集123頁  [ 96 ] 最判平成 11 年 1 月 21 日第 1 小法廷判決・ 教材判例集197頁

形成請求についての正当な利益

 形成の訴えは、それを許す規定がある場合 にのみ許され、所定の要件を満たす場合に は訴えの利益が原則的に肯定される。した がって、形成訴訟にあっては訴えの利益が問 題にされることは多くない。  しかし、問題になる場合もある。