Transcript 講義資料
日本と東アジアの環境と貿易 アジア研究所 小山 直則 1 第7章 国際経済と日本の貿易 ●今日学ぶこと (1) 国際収支表の見方 319ページ ⇒経常収支とは何か?どのようにして決まるのか? (2) 貿易理論と経済摩擦 295ページ、309ページ ⇒自由貿易はなぜ望ましいのか? (3) 7.5. 中国の加盟とWTO体制 305ページ ⇒GATTの改変やWTOの設立の背景について。 2 基礎知識 国際収支表の見方 ●国際収支とは? ⇒国際収支表には、経常収支、資本収支、外 貨準備増減の項目があり、以下の関係が成 立する。 ①経常収支+資本収支+外貨準備増減+誤 差脱漏=0 ⇒経常収支、資本収支、外貨準備増減とは? 3 基礎知識 国際収支表の見方 ●経常収支とは? ⇒経常収支とは、財・サービスの国際取引(貿易収支)、 海外の資産保有(FDIや株式投資など)から生じる所 得の収支(所得収支)、国際賠償やODAなど対価を 伴わない一方的な資金の流れ(移転収支)の合計で ある。 ②経常収支=貿易収支+所得収支+移転収支 ⇒表7-17 日本の経常収支の推移はどうなっています か? 322ページ 4 基礎知識 国際収支表の見方 ●資本収支とは? ⇒資本収支とは、FDI(海外直接投資)や外国との資本 の貸し借りなどによる収支を記録したものである。 ⇒例 日本から資本が流出する場合 日本企業が中国企業の株式を購入すると、日本は資 本収支赤字となり、マイナスの値で記録される。 ⇒例 日本へ資本が流入する場合 中国企業が日本企業を買収した場合、日本は資本収 支黒字となり、プラスに値で記録される。 5 基礎知識 国際収支表の見方 ●表7-17 日本の資本収支は黒字ですか?赤 字ですか? 322ページ ③資本収支=投資収支+その他資本収支 *投資収支=直接投資+証券投資 *直接投資 海外の企業を取得したり、経営権 を獲得するために一定比率以上の株式を取 得するような投資。 *証券投資 日本の投資家が外国企業の株式 や債券を購入するような投資。 6 基礎知識 国際収支表の見方 ●外貨準備増減とは? ⇒外貨準備とは、政府や日銀が以下の目的の ために保有する準備資産のことである。 ①為替介入のために保有する資金 ②通貨危機などによって、他国に対して外貨建 債務の返済などが困難になった場合に保有 する資金 7 基礎知識 国際収支表の見方 ●表7-17 日本の国際収支の推移の特徴は何 ですか? 322ページ 8 基礎知識 経常収支の決定要因 ●内需とは? ⇒国内消費、国内投資、政府支出など国内の需要の 合計を内需という。 ④内需=国内消費+国内投資+政府支出 ⇒内需は国内の経済取引を表す。 ⇒ある国が外国との貿易取引をまったくしないとき、 GDP=内需 となる。 9 基礎知識 経常収支の決定要因 ●内需とGDPの関係は? ⇒しかし、経済のグローバル化が進むと、 GDP=内需とはならない。 ⇒貿易活動を考慮すると、 ⑤GDP=内需+輸出ー輸入 または、 ⑤GDP=内需+貿易収支 となる。 10 基礎知識 経常収支の決定要因 ●GNPとGDPの関係は? ⇒GNP(Gross National Product:国民総生産) ⇒GDP(Gross Domestic Product:国内総生産) ⑤GDP=内需+貿易収支 ⑥GNP=内需+経常収支 *経常収支=( )収支+( )収支+( )収支 ⑦GNP=GDP+( )収支+( )収支 *GNP=GDP+海外からの要素所得 11 基礎知識 経常収支の決定要因 ●経常収支はどのようにして決定されるのか? ⇒GNPは国内消費に使われ、残りは貯蓄される。 ⑧GNP=国内消費+国内貯蓄+政府税収 ⇒⑥式と⑧式を書き換える。 ⑥GNP=内需(国内消費+国内投資+政府支出)+経 常収支 ⇒⑧式から⑥式を差し引くと次式を得る。 304ページ ⑨経常収支=国内貯蓄ー国内投資+政府財政収支 覚える!! ⇒経常収支はISバランスで決定される。305ページ 12 基礎知識 経常収支の決定要因 ●問題意識 経常収支はどのようにして決定さ れるのか? ⇒経常収支は国内の貯蓄投資差額と政府の財 政収支によって決定される。 ⇒例 アメリカ アメリカは投資超過(国内貯蓄<国内投資)で、 かつ、政府の財政収支(政府支出>税収)は 赤字なので、アメリカは経常収支赤字国であ る。 13 (2) 貿易理論と経済摩擦 ●貿易理論 (1) Ricardo(リカード)モデル (2) H-O-S(ヘクシャー=オリーン=サミュエルソ ン)モデル ⇒来週以降学びます (3) プロダクトサイクル・モデル (4) 新しい貿易理論 ⇒来週以降学びます 14 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●例 (1) フランスとドイツは、二つ の財を生産している。 (2) 生産費用が高い国は、販 売価格も高い。ここでは、 販売価格=生産費用と考 える。 (3) フランスは、ドイツよりいず れの財も安く生産できる。 ⇒フランスは両方の財を輸出 しますか? 15 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●絶対優位 ⇒いずれの財もフランス の方が安く生産され、 販売されていることが わかります。いずれの 財も安く生産できること を絶対優位と言います。 ⇒合理的なフランス人の 消費者はX財(orY財) をフランスとドイツのど ちらで買いますか? 16 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●比較優位 ⇒相対的な生産費用のことを 比較生産費という。 ⇒相対的な生産費用が安いこ とを比較優位という。 ●例 フランス ⇒X財の生産費用で測ったY 財の生産費用を考えよう。 Y財の比較生産費=Y財の生 産費用/X財の生産費用 ⇒フランスでは、Y財の比較生 産費は、2/1ドル 17 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●例 ドイツ ⇒Y財の比較生産費=Y財の 生産費用/X財の生産費用 ⇒ドイツでは、Y財の比較生産 費は、4/3ドル ●フランスとドイツの比較 ⇒2/1>4/3だから、ドイツの方 がY財を相対的に安く生産 できる。 ⇒すなわち、ドイツはY財の生 産に比較優位を持っている。 18 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●問題意識 なぜ貿易をするのか? ⇒貿易の利益=交換の利益+特化の利益 ⇒交換によって消費者がより多くの消費財を消費でき ることを交換の利益という。 ⇒比較優位を持つ財に生産を特化することによって世 界規模でより多くの財を生産できることを特化の利 益という。 ⇒ドイツはY財の生産に比較優位をもっているから、ド イツはY財の生産に、フランスはX財の生産に特化 した方がより多くの財を生産できる。 19 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●合理的なフランス人の消費者はX財(orY財)をフラ ンスとドイツのどちらで買いますか? ⇒フランス人がX財を国内で生産、販売したら1ドル儲 かる。 ⇒この1ドルでY財を国内でいくつ購入できますか? ⇒フランス人がX財をドイツに輸出して販売したら、3ド ル儲かる。 ⇒この3ドルでドイツからY財をいくつ輸入できます か? ⇒フランス人は、X財を輸出し、Y財を輸入した方がた くさんのY財を手に入れることができる。 ⇒これを交換の利益という。 20 基礎知識 Ricardo(リカード)モデル ●合理的なドイツ人の消費者はX財(orY財)をフランス とドイツのどちらで買いますか? ⇒ドイツ人がY財を国内で生産、販売したら4ドル儲か る。 ⇒この4ドルでX財を国内でいくつ購入できますか? ⇒ドイツ人がY財をフランスに輸出して販売したら、2ド ル儲かる。 ⇒この2ドルでフランスからX財をいくつ輸入できます か? ⇒ドイツは、X財を輸入し、Y財を輸出した方がたくさん のX財を手に入れることができる。 ⇒これを交換の利益という。 21 基礎知識 プロダクトサイクル・モデル ●問題意識 アメリカでテレビが開発された。それが 時間を経て、日本やヨーロッパで生産、輸出される ようになった。今では、中国が生産拠点となっている。 このように生産拠点が時間を通じて変化するのはな ぜか? ⇒プロダクト サイクルモデルは、生産技術の移転とそ れに伴う商品の性質の変化によって貿易パターン が決まるという考え方である。 *貿易パターン ある国が何を輸出し、何を輸入する かという貿易構造のこと。 22 基礎知識 プロダクトサイクル・モデル ●図7-3 317ページ ⇒第一段階 新製品が開発される段階。 (1) アメリカがテレビを開発、生産し始める。 ⇒第二段階 成長期 (2) テレビの需要が海外に広まり、アメリカから輸出され始める。 (3) 大量生産の必要性から、製品の標準化も始まる。 (4) 貿易によって生産技術の移転も始まり、日本やヨーロッパ でも生産が始まる。 ⇒第三段階 成熟期 (5) テレビの生産技術が完全に標準化され、アメリカは日本や ヨーロッパから輸入を始める 23 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●GATTの改変やWTOの設立の背景について ⇒GATT(関税および貿易に関する一般協定、 General Agreement on Tariffs and Trade ) ⇒WTO(世界貿易機関、World Trade Organization、1995年) 24 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●WTO体制への移行の背景 (1) モノだけではなくサービス貿易の比重が拡 大したこと。 (2) 情報技術の発展により、国際間の金融サー ビス取引が活発化したこと。 (3) FDIの増加とともに、特許権紛争が頻発。 25 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●GATTとWTOの違い (1) GATTは財貿易の自由化を主に対象。 ⇒サービス貿易の拡大とともにこれに関するルールを 策定する必要が生じてきた。 (2) WTOは、金融、知的所有権保護、サービス貿易に 関するルールを策定。 (3) GATTは単なる「協定」だったのに対し、WTOは正 式な国際「機関」。 (4) 紛争処理手続きが強化され、ルール違反への対 応が迅速化。 26 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●WTOのサービスに関する協定 ⇒サービスについて、金融、通信、流通、建設、エンジニアリン グ、教育、観光などに分類。 ⇒これらを以下の四つに分類。 ①国境を越える取引 例 電話で外国のサービスを利用。 ②海外における消費 例 外国で飛行機を修理。 ③業務上の拠点を通じたサービス提供 例 現地の銀行支店が外国の企業に金融サービスを提供。 ④人の移動によるサービス提供 例 スマップの台湾公演。 27 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●紛争処理手続きの違い (1) Positive Consensus System ⇒GATTは、紛争処理手続きに関する採択が加盟国 の全会一致が必要。 (2) Negative Consensus System ⇒WTOでは、紛争処理手続きに関する採択は、すべ ての加盟国が反対しない限り採択する。 ⇒ルール違反への対応が迅速化した。 ●「一方的措置」の禁止 302ページ ⇒WTO設立以降、GATT時代にアメリカがとってきた 「一方的措置」は明確に禁止された。 28 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●WTOの基本原則 (1) 最恵国待遇の原則 ⇒ある国に、低い関税を設定したら、他の国にも同じ条件を適 用しなければならない。 (2) 内国民待遇の原則 ⇒国内製品に5%の消費税を設定しているのに、輸入品にそれ 以上の不利な消費税を設定してはならない。 (3) 数量制限禁止の原則 ⇒貿易量を直接数量で制限してはならない。 (4) 補助金、相殺措置 ⇒GATT16条で外国製品に不利な補助金を禁止。 ⇒GATT8条で補助金額を限度に損害を埋め合わせる相殺関 税を許可。 29 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●GATT体制の成果 306ページ ⇒A. Maddison(1991)の主張 50年代から73年までの期間は、Productivity Miracleの時代 であり、この要因の一つは、国際間の貿易障壁の低下にあ る ⇒その根拠は? (1) 1950年代、60年代の世界経済の成長。 (2) 1947年のGATT体制以降の貿易障壁の低下。 (3) 貿易量の拡大。 50年代から73年までの貿易量の対GDP比の拡大(年率平均) 日本 ドイツ アメリカ 30 7.5. 中国の加盟とWTO体制 ●中国のWTO加盟 ⇒2001年に中国の加盟が承認される。 ⇒同時に台湾の加盟が認められた。 ⇒加盟国はこの時点で、144カ国。 ●中国の成長 ⇒金融危機以前は、年率10%の成長。 ⇒広東省珠江デルタ地帯に外資系のIT関連製 造業の集積。世界最大規模。 31 図. 製造業の輸出額の世界シェア 32