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日本と東アジア経済専題研究(一) 日本與東亞經濟專題(一) 1 今日の内容 第4章 物価と市場経済 Ⅰ.2. 資産価格の激動 Ⅰ.4. デフレ、インフレの経済学 Ⅰ.5. 価格政策の再構築 2 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●フロー(flow)の価格とストック(stock)の価格 (1) 財やサービスなどの価格(消費者物価や卸売 物価など)をフローの価格という。 (2) 株価、債券、土地などの資産価格をストックの 価格という。 ⇒フローの価格とストックの価格を区別する理由 は? ⇒これらの価格の決定メカニズムが異なるから。 3 予備知識 ●価格と物価の違い (1) ここの財、サービスの市場取引価値を価格という。 (2) 物価とは、一国の支出額=価格×取引量の各年にお ける変化を表す指標である。 (3) 09年の消費者物価指数(基準年:2000年) =(Σ(09年の価格×00年の消費量)) / (Σ(00年の価格×00年の消費量))×100 ⇒09年の消費者物価指数は、基準年(00年)と同じ消費量 を消費するためにどれだけ余分にお金を出さなけれ ばならないかを示す。 4 予備知識 ●練習問題 基準年の00年のりんごの価格は、80円、 消費量は40個、みかんの価格は70円、消費量は 160個とする。09年のりんごの価格を120円、みか んの価格を100円とする。 09年における消費者物価指数を計算してください。 ⇒消費者物価指数が100より大きければ、基準年より も多くのお金を出さなければ、00年と同じ量を消費 できないということになる。すなわち、インフレ。 ⇒消費者物価指数が100より小さければ、基準年より も少ない金額で、00年と同じ量を消費できる。すな わち、デフレ。 5 予備知識 ●信用創造のメカニズム (1) マネーサプライとは、民間部門(企業、家計)が持 つ現金、金融機関が持つ日銀当座預金の合計。 (2) 日銀が金融政策によってマネーサプライを増やす と、金融機関は日銀当座預金から引き出して民間 部門に貸し出す。 (3) すると、民間部門から預金として資金が還流してく る。 (4) 一部を法定準備金として日銀口座に残して、残り を再び民間部門に貸し出すことができる。 (5) このような過程を繰り返すことによって、当初のマ ネーサプライの何倍もの信用(債権債務の関係)が 創造されて行く。 (6) これを信用創造のメカニズムという。 6 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●フロー(flow)の価格の決定メカニズム 個々の消費財の価格は、需要と供給が一致するところ で決まる。 ●デフレの要因 (1) 供給面の要因 安価な輸入財の流入や企業の技術革新、流通の合理 化等による物価の下落。 (2) 需要面の要因 不景気で需要が低迷すると物価が下落する。 (3) 金融的要因 ⇒8頁 7 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●デフレの要因 (3) 金融的要因 ①企業や個人が持つ現金や金融機関が持つ預金の合計をマ ネーサプライという。マネーサプライが減少すると、物価は下 落する。 ②景気が悪いとき、銀行が不良債権を抱えるため、企業への 貸し出しが減少し、信用創造のメカニズムが働かず、マネー サプライが減少する。この結果、物価が下落する。 ③景気が悪いと、企業は設備投資を控えるので、資金の借入 が減少し、信用創造のメカニズムが働かず、マネーサプライ が減少する。この結果、物価が下落する。 8 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●資産価格の決定メカニズム (1) 消費者物価などのフローの価格と株価、地価 などのストックの価格を区別する理由は、それ らの決定メカニズムが異なるから。 (2) 経済学では、資産価格は資産から得られる資 産収益(Income Gain)の割引現在価値に等し いと考える。 ⇒資産価格=各期の資産収入の割引現在価値 9 予備知識 ●割引現在価値 (1) 10000円持っているとしよう。預金金利は1%であ る。このとき、一年後の貨幣価値は、10,100円と なる。 (2) このように現在の貨幣額から将来の貨幣価値を 計算することを複利計算という。 (3) では、一年後に10,000円を手に入れるためには、 現在いくら預金すればいいでしょうか? ⇒10,000円/(1+0.01)≒9,900円 (4) このように将来の貨幣額から現在の貨幣価値を計 算することを割引計算という。 10 予備知識 ●資産価格の計算 ⇒資産価格=各期の資産収入の割引現在価値 ⇒P=d/(1+r) P:資産価格、d:資産収入、r:利子率 ●資産価格の決定 (1) 金利がrの資産を購入し、一年後にd円の資産 収入を得るためには、P円の支払って資産を購 入しなければならない。 (2) このように資産価格が決まると考える。 11 予備知識 ●財価格で評価した資産価格の計算 (1) 金利で計算した資産価格は、P=d/(1+r)によって 決まる。 (2) 現在購入する財を現在財、将来購入する財を将 来財という。 (3) 現在財の価格をp、将来財の価格をqとすると、資 産収入を将来の価値で評価すると、q×dとなる。 (4) これを現在財の価格を測定単位として現在の価 値で評価すると、(q×d)/pとなる。 (5) これより、財価格で評価した資産価格は、 P=d/(p/q)となる。 12 予備知識 ●金利の決定 (1) Keynesの流動性選好説によると、金利は、貨幣市場の需 要と供給が一致するように決まる。 (2) ここでは、異時点間の金利決定メカニズムを考える。 金利で計算した資産価格:P=d/(1+r) 財価格で評価した資産価格:P=d/(p/q) (3) これより、1+r= p/qとなる。 (4) すなわち、金利は現在財と将来財の相対価格で決まる。 (5) 現在財の価格が上昇し、将来財の価格が下落するとき、金 利が上昇し、資産価格が下落する。 (6)現在財の価格が下落し、将来財の価格が上昇するとき、金 利が下落し、資産価格が上昇する。 13 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●フローの価格とストックの価格の乖離 (1) 1981年の日経平均株価(225種)の平均は、7511 円。 (2) 89年には、3万4043円となり、4.53倍にも膨らん だ。 (3) 90年を基準年(100)とすると、81年の卸売物価指 数は、112.4であった。 (4) 89年には、98.0へと下落した。 ⇒第二次オイルショック以降、ストックの価格は上昇す る一方、フローの価格は下落した。 ⇒1980年代の日本の物価問題の特徴。 14 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●資産インフレから資産デフレへ 教科書138頁 図4-3 (1) 1987年10月19日の月曜日(ブラックマンデー)に 世界の株価が暴落。 (2) 翌20日には、一日で3836円下落。率にして 14.9%も下落。当時史上最大の下落。 (3) 88年3月には、ブラックマンデー直前の水準まで 回復。年末には3万円台に。 (4) 89年も株価は上昇傾向となる。 (5) 90年のイラクのクウェート侵攻以降、株価が下落。 15 予備知識 ●通貨の分類 (1) 通貨は、現金通貨、預金通貨、準通貨(定 期性預金、外貨預金など)、譲渡性預金 (CD:Certificate of Deposit)などからなる。 (2) M1=現金通貨+預金通貨 (3) M2=M1+準通貨 (4) M2+CD=M2+譲渡性預金 16 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●過剰流動性インフレ (1) マーシャルのk M2を名目GDPで割った値をマーシャルのkという。 (2) 83年度末のM2は約267兆円、同年度の名目GDP は約286兆円。 (3) マーシャルのkはいくらですか? ⇒k=267/286=0.93 (4) 資産インフレのピークにあたる89年度には、 k=472/415≒1.13。 (5) M2と名目GDPの成長率が等しいとき、適正な貨 幣成長と考える。 17 Ⅰ.2. 資産価格の激動 ●過剰流動性インフレ(続き) (6) 83年度から89年度までの名目GDPの成長率は、 (415-286)/286×100≒45%。 (7) 83年度のM2は、267兆円であるから、これが89年 度まで45%の成長率で成長したら貨幣量は適正で あるといえる。 (8) 適正な貨幣量はいくらですか? ⇒267兆円×(1+0.45)≒387兆円 ⇒したがって、89年度のM2は、その約85兆円が過剰 流動性であったことになる。 18 Ⅰ.4. デフレ、インフレの経済学 ●インフレの要因 (1) 供給面の要因 原油などの資源価格や中国の賃金率の上昇に よる輸入財の高騰による物価の上昇。 (2) 需要面の要因 景気の過熱で需要が拡大すると物価が上昇す る。 (3) 金融的要因 19 Ⅰ.4. デフレ、インフレの経済学 ●インフレの要因 ⇒(続き) (3) 金融的要因 ①名目GDPの成長率よりも貨幣の成長率が高 いとき、過剰流動性インフレが発生する。 ②貨幣が適正な量を超えると、物の価値が貨 幣よりも高くなり、物価が上昇する。 20 Ⅰ.5. 価格政策の再構築 ●調整インフレ論 (1) マネーサプライ(通貨供給量)を増やしても金利が 低下しない状態を流動性の罠という。 (2) 経済が流動性の罠にあるとき、金融政策を行って も金利低下による投資拡大を望めない。 (3) Krugman(1998)は、物価を上昇させることによっ て実質金利を下落させ、流動性の罠からの脱却を 提案した。 ⇒実質金利↓=名目金利ーインフレ率↑ 21 Ⅰ.5. 価格政策の再構築 ●調整インフレ論 (1) Krugmanが主張するような調整インフレは実行さ れなかった。 (2) 調整インフレのメリットは、債務者の債務負担を軽 減させ、不良債権処理を促進させること。 (3) また、実質金利の下落によって、企業の借入費用 を軽減させること (4) さらに、通貨価値の下落によって円安となり、外貨 建てでの生産費用が安くなるなどがある。 22