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グローバル・ガヴァナンス概念に
関する一考察
青山学院大学国際政治経済学部
太田 宏
1
21世紀という時代の特徴
不確実性が支配している時代
国家権力が変化している時代
より大規模な相互依存性が起こっている時代
紛争、貧困、環境の劣悪化、伝染病や人間の安全に対
する脅威が広まっている時代
大災害へ対応する現存のメカニズムが危機的状況にあ
る時代
新たの権威の源泉や新規の統治様式が現れている時代
透明性と民主的な説明責任に対する要求がますます大
きくなっている時代
2
「グローバル・ガバナンス」(GG)概念を必要
とする現代世界の状況—その1
国家の統治能力にたいする制約
人権の擁護と世界の平和と安全の促進の
ための現存する国際機関の有効性に対す
る懐疑
グローバライゼーションの利益の不平等は
分配と国際的機関の統治能力の不十分さ
3
GG概念を必要とする現代世界の状況—その2
増大する相互依存関係と国際・政府間機関の
伝染病への対応の不十分さ
現存の国際・政府間機関による地球環境問題
への対応の不十分さ
世界の出来事の統治に関わる多くの新しい行
為主体の出現
グローバルな経済機関の透明性、説明責任
そして正当性に関する大衆のデモ
4
国際関係論と世界秩序
ネオ・リアリストの見方・考え方
「国際社会論」の見方・考え方
5
ネオ・リアリストの構造主義的見方・考え方
国内の政治構造
秩序原則
中央集権的で
序列的
構造単位の特徴 機能分化あるいは
分業
構造的属性
能力の配分
国際的政治構造
分権的で
無秩序(anarchic)
不適用
能力の配分
Kenneth Waltz, The Theory of International Politics
その他の参考文献: 進藤榮一『現代国際関係学―歴史・思想・理論』(有斐閣、2001年)
6
「国際社会論の見方・考え方」
ヘドリー・ブル『国際社会論ーアナーキカル・ソサエティ』
1. 社会政治秩序の維持
•
共通利益意識
例)暴力を制限すること、合意の尊重の確保、所有の安定化
•
規則=定められた方法で行動することを要求したり認可したりす
る一般的命令原則、秩序ある行動の種類を明確化する。
例)安全保障←暴力の行使を制限する規則
合意の安定性←合意は遵守されなければならないという規則
所有の安定化←財産権の尊重という規則
規則の地位:法、道徳、慣習、儀礼、実施手続、ゲームの規則
•
制度
制度は規則の実効性を保証する。
制度の役割(1)規則の「制定」、(2)規則の「伝達」、(3)規則の「執行」(規則の
実行)、(4)規則の「解釈」、(5)規則の「強制」、(6)規則の「合法化」、(7)規則
の「適応可能性」、(8)規則の「保護」
7
ヘドリー・ブルの国際社会論
2. 国際社会秩序
共通利益意識
国家の共通利益意識は、無制限の暴力、合意の不安定性、国家の主権・
独立の確保の不確実性に対する危惧に由来する。
規則
規則の地位:国際法、道義的規則、慣習もしくは確立した慣行、行動原則、
ゲームの規則
国際秩序の維持にかかわる三つの規則複合体
(1)世界政治の根本的・公正的規範原則を明らかにする規則複合体;
(2)「共存の規則」(a. 世界政治における暴力の地位を制限する複合体; b. 「合意は
拘束する」;c. 主権の相互尊重、内政不干渉);
(3)「協力の規則」―政治的・戦略的性質のものにとどまらず、社会的・経済的なもの
を含む。
制度:「主権国家からなる社会」の主要な制度=国家
前述の八つの制度の機能を果す際、国家は、国際社会の諸制度(勢力均衡、
国際法、外交のしくみ、大国による管理システム、戦争など)において協力する。
8
グローバル・ガバナンスへの異なる
アプローチ
国際ガバナンス―レジーム論/制度論
国際機関の強化
グローバル化とガバナンスの変容論
グローバル・ガバナンスの変革
Rorden Wilkinson ed., The Global Governance Reader.
9
(1)国際ガバナンス―レジーム論/制度論の
アプローチ
このアプローチの関心事
国家間の協力関係の形成やその在り方
中心的な行為主体は「国家」であるとみなす、
あるいは、国家の中心的な役割を認識する。
国際的な制度やレジーム(regime)の安定した発
展が、国際的な規範、条約や慣習あるいは協定
網の出現を導き、国家間の持続的な協力を促進
し、そうすることによって、国際的なガバナンスの
手段をうみだす。
10
制度とは
社会におけるゲームの規則あるいは各個人間の相互関係
を定めるために人為的に考案された諸制約である。
公式なもの非公式なものあり、社会制度とも言われる。
例)私有財産制度
社会制度とは、社会的慣行を規定し、そのような社会的慣行に関与
する行為者の相互作用に指針を与えるのに役立つ規則、意志決定
手続き、そして実際の活動の総体である。
政治に関する制度は、社会的な紛争を解決したり、異なっ
た動機に基づいている諸機関の協力を助長したり、また、
より一般的に、相互依存関係にあるアクター間の集合行為
問題を緩和することを意図する取り決めである。
11
国際制度論/国際レジーム論
国家間関係において、制度によって国家の行動
が緩和する(国家間の利害対立が和らぐ)と論じ
る。「制度」の定義:「公式・非公式の持続的で、
行動の役割を規定し、活動を制約し、期待を形
成する」(ロバート・コヘーン)
レジームの定義:特定の問題領域における行為
者の相互作用を律する(govern)合意された原理、
規範、規則、意思決定過程そして(行動)計画か
らなる社会制度(オラン・ヤング)
12
制度、ガバナンス・システム、レジーム、組織そして政府
制度とは、公式・非公式の規則あるいは慣習の集合で、社
会慣行を明確にし、慣行に参与する個人の役割を割り当
て、役割を担う者の間の相互作用の舵を取るものである。
ガバナンス・システムとは、明確に区別できる社会グルー
プのメンバーに共通する関心事について集団の選択を行
うことに特化した制度である。
レジームとは、より限定された問題群あるいは一つの問題
領域に対処することを意図したガバナンス・システムである。
組織とは、予算、職員、事務所、設備、そして法人格をもつ
有形の実体である。
政府とは、特定の社会状況における集団の選択を行いか
つ実施するために設立された組織である。
O. Young, International Governance, p. 26.
13
国際自由貿易制度
NAFTA
EU
WTO
(ガバナンス・システム)
LAFTA
ASEAN
14
国際レジーム
オゾン層保護レジーム
ウィーン条約
モントリオール議定書
・成層圏のオゾン層破壊物
質の規制
気候変動(緩和)レジーム
代
替
フ
ロ
ン
国連気候変動枠
組み条約
京都議定書
・温室効果ガス
排出規制
15
組織
国際機関
政府
多国籍企業
国際NGO
企業
NGO
国際的犯罪組織等
16
ガバナンスの主体と領域
民間セクター
公共セクター
第3セクター*
多国籍企業
政府間機関
国際的NGO
企業
中央政府
非営利団体
(NGO/NPO)
地元企業
地方政府
草の根団体
超国家的
国家
/全国規模
国家より下位
/地方
*ここでは,政府からも民間企業からも独立したセクターを意味する.
Joseph S. Nye and John D. Donahue, Governance in a Globalizing World (Washington, D.C.: Brookings, 2000), p.13の表を
8
一部変更.
17
(2)グローバル・ガバナンス強化のアプローチ
国連システムを支える原理や価値を信じそれを積極的に支
持し、その改革および能力強化を求める。
専門家や民間団体への権限委譲の利点
①
②
③
④
⑤
国連を悩ませている過度の事業拡大を克服できる;
運営上の問題によりうまくかつ適切に処理できる;
限られる資源をより良くしかも効率よく使用できる;
権威の異なる行為者間に秩序を形成す(それによって統一の手段
を生み出す)
国連の普遍性から正当性を引き出すことができる。
国際機関のパートナーとしての企業や市民社会団体の重
要性の強調
国連グローバル・コンパクト
グローバル・ガバナンス委員会
透明性や説明責任を通した既存の政府間機関構造の改革や強化
18
(3)グローバル化とガバナンスの変容論のアプローチ
ガバナンス変容論
ジェームズ・ロズノウ
• 権威の特徴は根本的に変化し、国際と国内政治の区別はもはや
妥当ではない。
• 地球政治の構造は流動的であり、GGは国連と各国政府の世界に
限ったものではなく、むしろより広範囲な関係からなる。
批判的見方・考え方
ロバート・コックス
• グラムシの批判論に立脚した見方・考え方
• マルクス主義的経済決定論に基づいた国際機関の役割の分析
– ポール・カマック:IMFや世銀は米国や主要工業国の要望に
よってというよりむしろ、地球規模における資本主義の論理の
促進を求める、と論じる。
19
(4)グローバル・ガバナンスの変革要求
現在の支配的なGGのパターンや体制に対する批判と代替的なGG形
態の可能性、方法そして機能を探る。
地球規模の社会運動(Global Social Movement: GSM )vs. 多国間経
済機関(Multilateral Economic Institutions: MEIs=WB, IMF &
GATT/WTO) [GSM vs. ブレトン・ウッズ体制(Bretton Woods System)]
下からのGG構築を求める。つまり、民主的、代議制的、説明責任のともなう
統治システムの方法として成長する市民社会の潜在能力の活用
NGOと市民社会
国連の世界環境会議、人権、そして女性問題でのNGOの役割について
積極的な点
グローバルNGOの社会の深化が起こっている。
NGO間のネットワークがある共通のアジェンダの進展を導いている。
限界と疑問
国家や政府間機関のアジェンダに影響を与えNGOの能力は一様ではなくて
限界もある。
「グローバル市民社会」と認められるものが存在しているのか;市民社会は
期待されてものを実現できるのか;継続する北と南の分裂。
20
グローバル・ガヴァナンス委員会の定義
ガヴァナンスというのは,個人と機関,私と公とが,共通の問題
に取り組む多くの方法の集まりである.相反する,あるいは多様
な利害関係の調整をしたり,協力的な行動をとる継続的なプロセ
スのことである.承諾を強いる権限を与えられた公的な機関や
制度に加えて,人々や機関が同意する,あるいは自らの利益に
適うと認識するような,非公式の申し合わせもそこに含まれる.
…グローバルなレベルでは,ガヴァナンスはこれまで基本的に
は政府間の関係とみなされてきたが,現在ではNGOs,市民運
動,多国籍企業および地球規模の資本市場まで含むべきものと
考えるべきである.これらと双方向に作用し合うのが,急激に影
響力を拡大している全世界的なマスメディアである.…グローバ
ル・ガヴァナンスには,一つの決まったモデルや形式があるわけ
ではなく,また,特定の制度,あるいは一連の決まった制度があ
るわけでもない.…変化を続ける状況に対して,常に発展し反応
する,広範で,ダイナミックで複雑な相互作用による意思決定の
プロセスである.
グローバル・ガヴァナンス委員会『地球リーダーシップ』
21
ゲーム論と集合行為の問題
囚人のジレンマ(Prisoners’ Dilemma)
DC>CC>DD>CD (the preference ordering or the
structure of payoffs)
チキンゲーム(Chicken)
DC>CC>CD>DD
鹿狩りゲーム(Stag Hunt)
CC>DC>DD>CD
調整ゲーム(Coordination Game)
Strategy 1 or Strategy 2
22
Prisoners’ Dilemma
B
Cooperate
3
Cooperate
A
1
3
4
Defect
Defect
4
2
1
2
* DC>CC>DD>CD: The figure in the matrix indicates each player’s preference in
an descending order from 4 to 1.
23
Chicken
B
Cooperate
3
Cooperate
A
2
3
4
Defect
DC>CC>CD>DD
Defect
4
1
2
1
24
Stag Hunt
B
Cooperate
4
Cooperate
A
1
4
3
Defect
CC>DC>DD>CD
Defect
3
2
1
2
25
The Coordination Game
B
Strategy-1
4
Strategy-1
Strategy-2
0
4
0
A
0
Strategy-2
4
0
4
26
公共財と集合行為の問題
(Public Goods and the Problem of Collective Action)
公共財[Public Goods(例:灯台)]の特徴
非競合性(Jointness of Supply)
非排除性(Non-excludability)
集合行為問題/タダ乗りの問題(Collective action
problem/free-rider problem)
Mancur Olson, The Logic of Collective Action.
27
国際レジーム
レジームとは、国際関係の特定の分野における明示的(explicit)
な、あるいは暗示的(implicit)な、原理、規範、ルール、そして意
思決定の手続きのセットであり、それを中心として行為者の期待
が収斂していくものである。
原理(principle)とは、(当該の問題領域に関する)事実、因
果関係、(判断・方法の)正しさ(rectitude)についての信条
(体系)である。
規範(norm)とは、権利と義務という観点から定義された行動
の準則(standards)である。
ルールとは、行為に対する特定に許可(推奨)なり禁止の具
体的な条項である。
意思決定の手続きとは、集団的選択の決定そしてその実施
の際にとられる支配的な形式・慣行である。
Stephan Krasner ed., International Regime, p. 2.
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参考文献
Bull, Hedley. The Anarchical Society: A Study of Order in World Politics.
New York: Columbia University Press, 1977.
Krasner, Stephan ed. International Regime. Ithaca: Cornell University Press,
1982.
Olson, Mancur. The Logic of Collective Action: Public Goods and the
Theory of Groups . Cambridge, Mass: Harvard University Press, 1965.
Waltz, Kenneth.The Theory of International Politics. Reading, Mass.:
Addison-Wesley, 1979.
Wilkinson, Rorden ed. The Global Governance Reader. London: Routledge,
2005.
Young, Oran R. International Governance: Protecting the Environment in a
Stateless Society. Ithaca: Cornell University Press, 1994.
太田 宏「地球環境問題―グローバル・ガヴァナンスの概念化」(渡辺昭
夫・土山實男編『グローバル・ガヴァナンス―政府なき秩序の模索―』東
京大学出版会、2001年)、pp. 286-310.
グローバル・ガヴァナンス委員会『地球リーダーシップ』(NHK出版会、
1995年)[Commission on Global Governance, Our Global Neighbourhood
(Oxford: Oxford University Press, 1995)].
ヤング、オラン「グローバル・ガヴァナンスの理論―レジーム理論的アプ
ローチ」渡辺・土山、前掲書、pp.18-44.
29