Transcript 目的志向
論文タイトル 『目的志向型行財政運営の確立に 向けた行政評価システムの導入効果』 東京工業大学 2001年2月25日 湯下 健一 坂野 達郎 研究の背景 <1.地方分権> <2.深刻な財政危機> * 環境変化の速度が加速化 * 市民ニーズの多様化・個別化 * マクロ経済の低成長 目的手段合理性 アカウンタビリティ スピード感覚 柔 軟 性 … 顧客志向 効率的な行政経営 ・・・ 目的志向,コスト意識 『行財政運営のあり方が問われている』 ・・・ 行政評価システムへの期待 研究の目的 <1.地方自治体の現状に対する懸念> 1)評価の導入が一過性の取組みに終わる 2)導入目的が事務事業の整理削減に特化 『行政評価システム を実証的に検証する必要性』 <2.学術研究の現状> 1)評価に関する理論研究,方法論 2)先進的事例の紹介・分析 * 既存の行財政制度は変化したか * 職員個々の意識は変化したのか 行政評価の定義 地方自治体の政策・施策・事務事業について, * * 目標となる一定の指標・基準を設定 妥当性,達成度や成果を測定 一連の行財政運営の改善につなげる。 <行政評価システムのタイプ> 政策評価…戦略的政策判断を可能にする 行政評価 システム システム 執行評価…事務事業の改善に主眼を置く システム 既存の実態調査の概要 <既存調査の概要> 調査主体 行政経営フォーラム, ㈱三菱総合研究所 (財)日本都市センター 時事通信社 調査対象 都道府県・全市区 都道府県・全市区 都道府県・23区・都市 自治体 1999年4月~5月 1999年2月~3月 調査時期 1999年11月~12月 調査目的 ・ 実務上のノウハウ支援の あり方を検討 ・ 各自治体が直面している 悩 みや疑問点を把握 ・ 自治体の取り組みに ・ 行政評価への意向と関 関する実態調査( 情報 心,さらに現状と課題を把 公開に重点) 握(既存システムとの整合 性に重点) <明らかになった論点> ①行政評価システムの導入… 都道府県が先行 ②最も重視している導入目的 … 事業や補助金の削減 ③導入による成果 … 予算への反映 職員が目的・問題点を把握 <参考:千葉県ヒアリング結果> ①システムベンダーから売込み=実践段階 ②他県からの照会「結果の反映・活用」が多 =導入方法から活用方法へ ③企画主導=総合計画進行管理の延長線上 行政評価システムの導入効果を検証する枠組み 目的志向型行財政改革を構成する2大要素 静的要素: ≪組織の仕組み≫ 動的要素: ≪職員の行動≫ 行財政運営上の 日常的な仕事の 中核システム の改革 取組み方を改善 (人事・予算・総合計画) …自治体アンケート調査 意識や日常的取組み に影響を与える要素 ・組織風土 ・首長の姿勢 ・職員の研修 <インセンティブ> 職員意識 の変革 役割の明確化 緊張感・危機感 成果主義 《構造改革》 意識+日常的取組み = 継続的な改善運動 … 職員意識調査 行政評価システム導入の現状 調査対象:都道府県及び政令市の行政改革担当課 (回収数 51団体:86.4%) <導入状況> 図4 都道府県の導入状況 (1999年データは,三菱総研調査による) 導入済み 2000年8月 試行中 1999年4月 検討中 0% 20% 40% 60% 80% 100% 予定なし (1)導入が進展 (2)数量化された 指標設定が増加 <指標設定状況> 図5 都道府県における指標設定状況 (1999年データは,都市センター調査による) 2000年8月 定量的 1999年2月 定性的 設定なし 0% 20% 40% 60% 80% *都道府県において 100% 事務事業は整理削減されたか *制度の形式的な導入は進展した 表5 行政効果(定性・定量)に関する資料の提出状況 求めている 導入済 試行中 検討中 全体 13 2 3 18 求めていない 54.2% 11 20.0% 8 17.6% 14 35.3% 33 45.8% 80.0% 82.4% 64.7% 表5-2 予算資料に求める行政効果 合 計 24 10 17 51 100% 100% 100% 100% 導入が進展 ⇒ 資料提出 定性的効果 定量的効果 合 計 導入済 試行中 検討中 全体 6 1 3 10 35.3% 11 50.0% 1 75.0% 1 43.5% 13 64.7% 50.0% 25.0% 56.5% 17 2 4 23 100% 100% 100% 100% 導入が進展 ⇒ 定量的効果 事務事業は整理削減されたか *予算編成の実態に変化はない 表6 事務事業の費用対効果の比較検証状況 経年変化 導入済 試行中 検討中 全体 4 2 2 8 担当課事業内 16.7% 4 20.0% 2 11.8% 4 15.7% 10 横断的検証 16.7% 20.0% 23.5% 19.6% 検証していない その他 0 0.0% 14 1 10.0% 4 1 5.9% 8 2 3.9% 26 58.3% 40.0% 47.1% 51.0% 4 2 3 9 対象団体数 16.7% 20.0% 17.6% 17.6% 24 10 17 51 100% 100% 100% 100% 「検証していない」・・・「導入済」が最大値 表6-2 予算編成におけるシーリングの設定状況 一律設定 設定に差 設定なし その他 対象団体数 導入済 12 50.0% 8 33.3% 3 12.5% 5 20.8% 24 100% 試行中 7 70.0% 3 30.0% 0 0.0% 0 0.0% 10 100% 検討中 7 41.2% 7 41.2% 2 11.8% 3 17.6% 17 100% 26 51.0% 18 35.3% 5 8 15.7% 51 100% 全体 9.8% 「一律に設定」・・・試行中>導入済>検討中 組織体制と導入効果の相関関係 <シーリングの設定> 表 主導する組織の違いによるシーリングの設定状況 一律設定 7 企画主導 12 財政・企画 2 独立組織 6 全 体 27 財政主導 設定に差 設定なし 36.8% 10 52.6% 70.6% 4 23.5% 66.7% 0 0.0% 46.2% 4 30.8% 51.9% 18 34.6% その他 3 15.8% 0 0.0% 0 0.0% 2 15.4% 5 9.6% 2 1 1 4 8 対象団体数 10.5% 5.9% 33.3% 30.8% 15.4% 19 17 3 13 52 100% 100% 100% 100% 100% 財政主導:シーリングに差 企画主導:アウトカム管理 注:埼玉県は執行評価・政策評価を別組織で実施 独立組織:シーリング工夫 <総合計画の進行管理> 組織と効果の関係 表 総合計画の進行管理基準 予算の執行 作業スケジュール アウトプット その他 対象団体数 財政主導 9 47.4% 7 36.8% 5 26.3% 6 31.6% 19 100% 企画主導 5 29.4% 6 35.3% 10 58.8% 11 64.7% 2 11.8% 17 100% 財政・企画 0 0.0% 1 33.3% 1 33.3% 2 66.7% 0 0.0% 独立組織 6 46.2% 7 53.8% 5 38.5% 1 1 7.7% 13 100% 全 体 4 21.1% アウトカム 7.7% 20 38.5% 21 40.4% 20 38.5% 19 36.5% 3 100% 9 17.3% 52 100% =互いにトレードオフ 職員意識アンケート調査票の設計 *調査対象 ・・・ 三重県職員100名 *導入効果として 期待される職員意識 1 目的志向 ・・・ 2 顧客志向 3 コスト意識 <3つの意識の主な確認方法> 1 目的志向・・・業務の進捗管理等 2 顧客志向・・・市民ニーズの把握・事業への反映状況 3 コスト意識・・・予算管理上の留意点 調査目的 目的1 導入効果として期待される3つの意識の浸透度 を検証する。 ・・・ 最も浸透した意識は何か? 目的2 意識変革を促す要因は何かを検証する。 *想定される意識変革要因 ・・・ 1 研修経験 2 所属する部門 3 役職 調査方法 <サンプリング方法> 調査対象 三重県職員 調査時期 2000年12月~2001年1月 サンプル数:100名 行革 課長 課長補佐 係長(班長) 主任 係員 合計 回収数 回収率 1 1 2 2 4 10 8 80% 管 理 部 門 財務 企画 広報 1 1 1 1 2 2 2 2 4 4 10 10 8 10 80% 100% 事業部門 政策 執行 1 1 1 1 1 1 2 2 2 2 2 2 4 4 4 10 10 10 7 10 10 70% 100% 100% 公共事業部門 土木 農林 合計 2 2 4 4 8 20 20 100% 2 10 2 10 4 20 4 20 8 40 20 100 20 93 100% 93% <調査方法> 1)事務事業評価システムを主管する政策評価推進課から 各課庶務担当者へ配布。(管理部門=5課,執行部門=5課) 2)各課庶務担当者から上記該当職員へ配布。 なお,係長以下の職員は各課にてランダムサンプリング 職員意識の全体的特徴 <単純集計結果> *目的志向 表 担当業務の進捗管理 予算 人数 (%) 作業スケジュール 23 24.7% 55 59.1% アウトプット アウトカム 15 16.1% 19 20.4% 目標状態 36 38.7% 管理なし 6 6.5% その他 回答者数 0 93 0.0% 100.0% :浸透が遅れる 表 市民ニーズの事業への反映状況 事業へ反映 情報源 人数 (%) 14 15.1% 政策体系 18 19.4% 反映ない その他 回答者数 概ね把握 23 24.7% 11 11.8% 7 93 7.5% 100.0% *コスト意識 表 予算管理上の留意点 全額消化 人数 (%) 7 7.8% 作業スケジュール 21 23.3% *顧客志向 前年実績 7 7.8% 効率執行 63 70.0% 成果目標 53 58.9% 留意ない 6 6.7% その他 回答者数 4 90 4.4% 100.0% :浸透が進む 意識変革の要因分析1 ~ロジスティック回帰分析(単独効果を確認)~ <担当業務の進捗管理> モデル:log p(X) = β 1x 1+β2x 2+β3x 3+β4x 4+β0 ,p(X) = p/1-p x1:研修…1=あり,0=なし , x2:所属…1=管理,0=執行 役職のダミー変数作成法:partial法を採用… 課長=[10],中堅=[01] アウトプットのみ… 課長=[10],一般=[01] 表9 ロジスティック回帰分析によるパラメータの推定結果 p 研修(β1 ) アウトプット p アウトカム 注: *** 2.176 * 所属(β2 ) 2.414 課長(β3 ) *** 3.006 *** 研修(β1 ) 所属(β2 ) 課長(β3 ) 0.821 -0.284 1.676 ** 一般(β4 ) 2.521 中堅(β4 ) 0.025 有意確率 <0.01, ** 有意確率 <0.05, * 有意確率 <0.10 ** 切片(β0 ) R2 -3.376 0.270 切片(β0 ) R2 0.155 0.103 モデル適合 0.000 *** モデル適合 0.048 ** 疑似R2:Cox-Snell *目的志向を確認する選択肢=「アウトカム」「アウトプット」 1)目的志向は,管理部門に浸透している 2)目的志向は,特に課長級職員に浸透している 意識変革の要因分析2 <市民ニーズを把握する手段・事業への反映状況 > 表9‐2 ロジスティック回帰分析によるパラメータの推定結果 p 研修(β1 ) 複数手段 0.512 0.931 ニーズ反映 0.522 -1.159 注: *** 課長(β3 ) 中堅(β4 ) 切片(β0 ) R2 * 1.106 0.092 -1.091 0.107 0.041 ** 0.388 -0.289 1.272 0.072 0.160 所属(β2 ) 有意確率 <0.01, ** 有意確率 <0.05, * 有意確率 <0.10 モデル適合 ** 疑似R2:Cox-Snell *多様な「複数の手段」を活用している職員=顧客志向 *把握した市民ニーズを整理し事業へ反映=顧客志向 1)執行部門は,顧客志向の浸透が遅れている 2)「ニーズ反映」のR2が低い ⇒顧客志向の全体的遅れ 意識変革の要因分析3 <予算管理の留意点> 表9‐3 ロジスティック回帰分析によるパラメータの推定結果 p 研修(β1 ) 効率執行 成果目標 注: *** 1.066 0.671 ** 所属(β2 ) 課長(β3 ) 中堅(β4 ) 切片(β0 ) R2 -0.568 0.470 0.361 -1.529 0.075 0.159 0.805 -3.641 0.170 0.003 0.233 2.847 ** 有意確率 <0.01, ** 有意確率 <0.05, * 有意確率 <0.10 モデル適合 *** 疑似R2:Cox-Snell *コスト意識を確認する選択肢=「効率執行」 *予算管理上の目的志向=「成果目標」 1)予算管理上も課長級職員は,目的志向が高い 2)コスト意識の高さは,このモデルでは説明できない 課長級職員の意識の高さ <役職別クロス集計結果> *要因分析で取り上げた6項目中 「効率執行」以外の5項目で最高値 行政評価システム の導入 <権限委譲> *事業の整理削減 *特に予算管理を「成果目 標」 ・・・ 92. 9% = 課長級職員 の判断 *課長の意識変革 コスト意識の高さはなぜか <予算編成における権限委譲> 1)各部局に事務的経費を総額配分 2)経費削減額の1/2を新規事業枠へ 執行部門・中堅職員を含 ・全職員へコスト削減 のインセンティブ <役職別 予算管理の留意点> 表5-23 役職別 予算管理上の留意点 全額消化 作業スケジュール 前年実績 効率執行 課長 (%) 補佐 (%) 係長 (%) 一般 (%) NA (%) 全体 (%) 1 7.1% 2 10.0% 2 7.7% 2 7.1% 0 0.0% 7 7.8% 4 28.6% 6 30.0% 4 15.4% 6 21.4% 1 50.0% 21 23.3% 成果目標 留意ない その他 対象者 2 11 13 0 0 14 14.3% 78.6% 92.9% 0.0% 0.0% 100.0% 0 16 13 0 0 20 0.0% 80.0% 65.0% 0.0% 0.0% 100.0% 3 18 15 2 1 26 11.5% 69.2% 57.7% 7.7% 3.8% 100.0% 1 16 10 4 3 28 3.6% 57.1% 35.7% 14.3% 10.7% 100.0% 1 2 2 0 0 2 50.0% 100.0% 100.0% 0.0% 0.0% 100.0% 7 63 53 6 4 90 7.8% 70.0% 58.9% 6.7% 4.4% 100.0% 《有効な行革メカニズ ム》 評価+権限委譲 =インセンティブ 行政評価システムと権限委譲 *「従来の考え方」 ・・・ 行政は評価機能が欠如 ⇒ 評価を導入すれば上手くいく <本研究の知見> *権限委譲+評価なし ・・・ アカウンタビリティの欠如 *権限なし+評価導入 ・・・ 職員の負担増=不満 ⇒ 一過性 *権限委譲+評価導入 ・・・ 職員のインセンティブ コストパフォーマンスの改善 結 論 <職員全体にコスト意識+課長に目的志向> *行政評価システムの導入と同時に,権限委譲 をセットにした行財政改革を進めたことによる <導入手法に関する政策的含意> 1)職員のインセンティブに十分配慮できる組織体制 の構築が求められる(現状:財政主導型) 2)行政評価システムの導入によって,戦略的な政 策展開が可能になった場合,総合計画制度を見直 す必要がある 今後の課題 *「顧客志向」の遅れ ・・・ 有効な解決策が見出せなかった *職員意識の調査対象 ・・・ 1団体(三重県) <今後の課題> 1)都道府県のように財政規模が大きい自治体におい て,市民との協働関係を構築する方法論を確立する。 2)三重県以外の自治体を調査対象に加え,意識変革 の要因について再検証する。