2015年5月26日(柳井真知)(1.4MB)
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ジャーナルクラブ 2015年5月26日 柳井
背景
肺塞栓症の重症度(旧ガイドライン)
どちらか一つ
あるいは両方
見られる場合を
中等度リスク
PEの重症化の機序
治療(旧ガイドライン)
中等度リスクのPE患者に対する血栓溶解療法の有効性とリスクを検討する
方法
研究デザイン
• 多施設二重盲検プラセボ無作為比較試験
• 2007年11月-2012年7月
• 13か国 76施設
対象患者の条件
•
•
•
•
18歳以上
症状発現から無作為化まで15日以内
造影CTまたは肺動脈造影でPEの確定診断
CTまたはエコーでの右室機能不全所見
• 心エコー(次の少なくとも一つ):右室拡張末期径>30㎜(傍
胸骨長軸または短軸像)、拡張末期右室径/左室径>0.9(心
尖または肋骨弓下4腔像)、右室壁運動低下、三尖弁逆流
速度>2.6m/s
• CT(エコーで評価不能なとき):右室径/左室径>0.9
• 心筋傷害の所見
• トロポニンTまたはIが陽性
患者の除外基準
• 無作為化時の時点で
• 循環不全の所見あり(心肺蘇生を要する、収縮期血圧
<90mmHg 15分以上、収縮期血圧の低下>40mmHg 15分
以上かつ臓器血流不全のサイン、収縮期血圧>90mmHgを
維持するのにカテコラミンが必要)
• 出血のリスクが高いとわかっている
• 4日以内にすでに血栓溶解薬が投与されている
• 4日以内に下大静脈フィルター挿入済み、または血栓除去療
法施行済み
• コントロールされていない高血圧(収縮期血圧>180mmHg、
かつ/または拡張期血圧>110mmHg)が存在する
• テネクテプラーゼなど血栓溶解薬へのアレルギーがある
• 妊婦
• 凝固障害(ビタミンK拮抗薬の使用、血小板<10万/mm3)
無作為化
• 右室機能不全と心筋障害の診断から2時間以内
に無作為化
• インターネットを用いた中央化システムによる無作
為化
治療
血栓溶解薬群(テネクテプラーゼ+ヘパリン)
プラセボ群(プラセボ+ヘパリン)
体重相当のテネクテプラーゼ(30-50㎎)を
5-10秒かけて1回静注
プラセボを1回静注
未分画ヘパリンの持続投与開始
無作為化後48時間までは未分画ヘパリンを使用
aPTTを正常上限の2.0-2.5倍に維持
有効性のアウトカム
• 一次アウトカム
• 7日以内の死亡+循環動態の悪化の複合アウトカム
• 循環動態の悪化:心肺蘇生を要する、収縮期血圧<90mmHg 15
分以上、収縮期血圧の低下>40mmHg 15分以上かつ臓器血流
不全のサイン、収縮期血圧>90mmHgを維持するのにカテコラミン
が必要
• 二次アウトカム
•
•
•
•
7日以内の死亡
7日以内の循環動態の悪化
7日以内の有症状の肺塞栓の再発
30日以内の死亡
安全性のアウトカム
• 安全性のアウトカム
• 7日以内の虚血または出血性脳卒中
• 7日以内の頭蓋外の重篤な出血
• 30日以内の有害事象
International Society on Thrombosis and Haemostasis(国際血栓止血学会)が定める非外科的処置時の
major bleedingの基準
●致死的な出血
●重要な部位または臓器における症候性出血(頭蓋内、髄腔内、眼内、後腹膜、関節内または心膜、
筋コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血)
●ヘモグロビン値が2g/dL(1.24mmol/L)以上低下する出血、全血または赤血球2単位以上の輸血が必要な出血
(J Thromb Haemost 2005;3:692-694)
結果
テネクテプラーゼ+ヘパリン群
患者の特徴
プラセボ群は
1人書面のICが
見つからず脱落
両群にベースラインの
差なし
すべての患者の年齢
中央値70歳
すべての患者が
正常血圧
プラセボ+ヘパリン群
診断と
評価の方法
ほとんどが
CTでPEの診断
有効性のアウトカム
テネクテプラーゼ+ヘパリン群
プラセボ+ヘパリン群
テネクテプラーゼ群での
一次アウトカムには
死亡率改善よりは
循環動態悪化の
予防効果が寄与
安全性のアウトカム
頭蓋内、外、重症、軽傷を問わずテネクテプラーゼ群で出血が多い
サブグループ解析:75歳以上と未満、男性と女性
7日以内の死亡または循環動態の悪化(一次アウトカム)
75歳未満のほうがテネクテプラーゼの効果が高そうに見えるが有意差はない
性差なし
重篤な頭蓋外の出血(安全性のアウトカム)
75歳以上のほうがテネクテプラーゼによる出血イベントが多そうに見えるが有意差なし 性差なし
考察
本研究の意義
• 中等度リスクの患者(血圧は正常範囲だが右心不
全や心筋傷害を伴う患者)に対する血栓溶解療法
の効果を検討した過去の研究は規模が小さかっ
た
• 今回の大規模試験で中等度リスク患者に対する
血栓溶解療法は主として循環動態の悪化を防ぐこ
とにより一週間での死亡と循環動態悪化の複合ア
ウトカムを改善させた
効果のアウトカムについて
• 死亡率には影響を与えなかった(1.2、1.8%)
• ただし、プラセボ群では5人がCPRを受け蘇生して
いる→これらの患者は「死亡」となっていた可能性
もある(プラセボ群の死亡率は高くなった可能性も
ある)
安全性のアウトカムについて
• テネクテプラーゼにより出血性脳卒中発症率
(2.0、0.2%)や重篤な頭蓋外出血(6.3、1.2%)が
増加
• 75歳以上で出血イベントが増加する傾向
• 心筋梗塞の研究で行われているように75歳以上ではテ
ネクテプラーゼの投与量を半量に減らしてもよいかもし
れない
• 少量のテネクテプラーゼのエコーガイド下局所注入を
検討した研究も進行中(ClinicalTrials.gov number,
NCT01513759)
結論
• 中等度リスクのPE患者では1回のテネクテプラーゼ
静注が早期の死亡と循環動態の悪化を合わせた
複合アウトカムを改善させた
• 一方で頭蓋内外の重篤な出血のリスクは増加した
• 循環動態は安定しているが右心不全と心筋傷害
所見を示すPE患者に対する血栓溶解療法の適応
は非常に慎重に判断する必要がある
新ガイドライン(2014):重症度の初期判断①
新ガイドライン(2014):重症度の初期判断②
b:拡張末期の右室径/左室径 > 0.9-1.0
c:トロポニンT、Iの上昇、または右心不全の結果としてのBNP上昇
いずれかあるいはどちらも認める場合を中等度リスク
新ガイドライン
(2014):
重症度に応じた
PEの治療
ハイリスクPE(ショック)では
血栓溶解療法を推奨(class I)
中等度リスクではルーチンの
血栓溶解療法は
推奨しない
旧ガイドラインと比べ
大きな治療方針の変更なし
A/C: anticoagulation
日本での臨床現場を考慮しての考察(私見)
• テネクテプラーゼ(日本未承認):遺伝子組み換え
型tPA
• アルテプラーゼよりも血栓溶解効果が高く、半減期が
長く、出血合併症が少ない
• 虚血性脳卒中に対するテネクテプラーゼの効果はアル
テプラーゼに勝り出血も増加させないとの報告
N Engl J Med 2012; 366:1099-1107
• 日本での肺塞栓への適応薬剤は日本独自の薬
モンテプラーゼ(クリアクター®、エーザイ のみ)
• テネクテプラーゼを使用した研究の結果を日本の
臨床にそのまま当てはめるのは難しい
• 今回のPEITHO study を含む16の研究を対象とした
PEのメタアナリシス(うち8つは中等度リスク患者対
象)では血栓溶解療法は死亡率を改善させるが出
血イベントは増加させるとの結論
JAMA. 2014;311:2414-2421
• 改良が重ねられていてもtPAはいまだ「諸刃の剣」
• ショックを伴わないPE患者の血栓溶解療法の適応
は出血リスクを考慮しながら現場で個別に判断す
るしかない
• ガイドライン上のtPAの禁忌事項を把握しておくことは必
要