Transcript 取締役

企業法Ⅰ講義資料No.05-1
機関(2)その他の機関
「業務執行機関」
I.
II.
III.
IV.
V.
会社の業務執行機関総説
取締役
取締役会
代表取締役
取締役と会社の関係
テキスト参照ページ:167~213p
(委員会設置会社に関する部分を除く)
1
Ⅰ
会社の業務執行機関総説
(1)株式会社の業務執行機関
・取締役会不設置会社の場合(348・349)
①株主総会で選任された1名以上の「取締役」
:株主総会以外の唯一の必要的機関
②原則として各自が会社の対外的・対内的業務
執行(対外的業務執行を代表という):必要常
置の機関
③複数選任することもできる⇒原則として取締役
の過半数で意思決定を行う(348Ⅱ):一定の
事項(Ⅲ)については、各取締役に委任不可
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Ⅰ
会社の業務執行機関総説
(1)株式会社の業務執行機関
・取締役会設置会社の場合(委員会設置会社を除く)
①3名以上の取締役全員で構成する「取締役会」
(会議体)⇒業務執行の意思決定
②取締役会により選定される「代表取締役」
(1名以上:363Ⅰ①)
⇒会社の対外的・対内的業務執行:常置機関
・取締役個人は会社の機関ではないが、各種の経営
監督権限が認められている
③「業務執行取締役」:363Ⅰ②、2⑮
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Ⅰ
会社の業務執行機関総説
(1)株式会社の業務執行機関
・委員会設置会社の場合
①3名以上の取締役全員で構成する「取締役会」
(会議体)⇒重要な業務執行の意思決定・執行
役等の監督
②取締役会により選任される「執行役・代表執行
役」(1名以上、取締役に限らない:402Ⅰ)
⇒会社の対外的・対内的業務執行:常置機関
③社外取締役を中心とする各種委員会が設置され
る:監査委員会、指名委員会、報酬委員会
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取締役会と代表取締役との関係
• 「派生機関説」→取締役会は業務執行に関し
て全権を有する機関であるが、昭和25年の改
正により取締役会の業務執行権限を取締役会
から派生した代表取締役に委譲したものと考
える。
• 「並立機関説」→取締役会と代表取締役を別
個の機関として位置づけ、取締役会を業務執
行に関する意思決定機関とし、代表取締役を
執行・代表機関と考える(通説といわれる)。
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(2)業務執行に関するその他の組織
①業務担当取締役:代表取締役以外の取締役で、取締役
会決議により取締役会設置会社の業務を執行する取締
役として選定された者(363Ⅰ②)⇒担当する範囲で
会社の業務を執行する取締役
②常務会:代表取締役、業務担当取締役など上級役員か
ら構成される会議体(経営委員会など会社によって呼
称はさまざま)
⇒重要な経営方針や業務執行の大綱が決定されること
が多い→取締役の数が多い大規模企業では常務会で実
質的な決定がなされ、取締役会では形式的に承認され
るに過ぎないことが多い(取締役会の形骸化)
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③社外取締役
・株式会社の取締役のうち、現に当該株式会社ま
たは子会社の業務執行取締役、執行役または支
配人その他の使用人でない者で、かつ、過去に
当該株式会社または子会社の業務執行取締役、
執行役または支配人その他の使用人となったこ
とがない者(2⑮)
→委員会設置会社または特別取締役による議決
の定めを設ける会社では一定数の社外取締役の
選任が義務付けられる
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④執行役員制度
• 肥大化し形骸化した取締役会のスリム化によ
る取締役の受け皿として企業が自主的に設置
するようになった職名(商法上の役員ではな
く、法的には使用人=従業員)
→意思決定と業務執行の分離による経営の迅
速化・効率化を図る(上場企業の半数以上が
導入しまたは導入を検討している)
• 執行役とは呼び名は似ているが法的には別の
ものなので混同しないよう注意が必要
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Ⅱ
取締役
(1)員数、資格:株式会社は取締役を1名以
上選任しなければならない(326Ⅰ)
⇒取締役会設置会社では3名以上必要(331Ⅳ)
• 欠格事由(331Ⅰ):旧商法254ノ2参照
• 331Ⅱ:定款をもってしても取締役が株主であ
ることを要件とすることはできない→所有と経
営の分離を徹底し、広く経営の専門的能力を有
する人材を求める
⇒公開会社でない会社を除く
• 取締役の資格要件(積極的資格)を定めておらず、
株式会社は定款で取締役の資格を定めることがで
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きる。
取締役の資格
• 取締役の欠格事由(331Ⅰ)
・破産手続開始の決定を受け復権していない者
→欠格事由から外す
・商法特例法は削除、証取法・各種倒産法制に
定める罪を加える
• 333Ⅲ①、335Ⅱ:兼任の禁止
→当該会社の監査役・会計参与を兼任できない
→親会社における監査の適正を確保するため、
取締役は親会社の監査役を兼任することはでき
ない
• 331Ⅲ:委員会設置会社の取締役は使用人を兼
務できない
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(2)取締役の選任
①選任手続:設立時を除き(38Ⅰ・88)、原
則として株主総会の普通決議によって選
任される(329Ⅰ)
→取締役選出の重要性に鑑み、取締役選任決議
の定足数は総株主の議決権の3分の1未満に下
すことができない(341)
※会社設立時には発起設立の場合は発起人が選出
し、募集設立の場合は創立総会において選出さ
れる
※決議要件は定款で加重することもできる 11
②累積投票制度(342)
• 総会で2名以上の取締役を選任する場合に、そ
の取締役全員の選任を一括し、各株主に1株
(1単元)につき選任される取締役と同数の議
決権を認め、株主はその議決権を全部候補者
の一人に集中的に投票することも、分散して
数人に投票することもでき、これにより最多
投票数を獲得した候補者から順次当選者とす
る制度
→少数派株主にも自己の代表者を取締役会に
送る機会を与える(一種の比例代表制度)
• 株主の請求(総会の日の5日前までにする)によ
り、認められるが、定款で排除することもで
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きる
③種類株主総会における選任(347Ⅰ)
• 委員会設置会社でない非公開会社に限る
(役員選任権付種類株式:108Ⅰ⑨Ⅱ
⑨)
・この場合、定款に定められた数の取締役を、
その種類の株主の総会において選任する
(例)取締役の選任について議決権のない種
類の株式と議決権を有する種類の株式が発行
されている場合や、取締役の定員を8名とし、
それぞれ4名ずつの取締役を選任できる種類の
A種株式とB種株式が発行されているような
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場合
④取締役と会社の関係
• 株主総会の取締役選任決議に基づいて、
会社と被選任者とが任用契約を締結する
⇒民法の委任契約ないし準委任契約
(330、民643以下)→善管注意義務
• 実務上は総会前に取締役候補者より就任の承諾
を得ており、選任決議成立時ないしはその総会終
結時に選任の効力が発生する。
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(3)終任
①終任:取締役は、辞任・解任(339)・死亡・
会社もしくは取締役の破産手続開始の決定に
よって終任となる(330、民651・653)
その他:任期満了(更新可)、欠格事由の発
生、定款所定の資格の喪失、会社の解散に
よってその地位を喪失する。
※累積投票によって選任された取締役の解任決
議は株主総会の特別決議による(342Ⅵ・
309Ⅱ⑦)
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②取締役の任期
• 原則として、選任後2年以内に終了する事業年度
のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の
時またはそれよりも短い期間でなければならない
(332Ⅰ)→株主の信任を問う機会を多く確保
するため(委員会設置会社では1年以内:332Ⅲ
後述)
• 委員会設置会社でない非公開会社については、
定款で最長選任後10年以内に伸長できる
(332Ⅱ)
• 委員会設置会社でない非公開会社が譲渡制限の
定款の定めを廃止する定款変更を行う場合、当
該定款変更の効力発生時に任期満了とみなす16
委員会設置会社の取締役
• 選任後1年以内の最終の決算期に関する定時総
会の終結まで(332Ⅲ)⇒定款で剰余金配当を
取締役会限りで確定できる旨を定めることがで
きること(459Ⅰ)との関係上、毎年の定時株
主総会で取締役の信任を問う機会を保障するた
め
• 旧商特「就任後」→会社法「選任後」
• 委員会設置会社となる旨の定款変更をした場合
または当該定款を廃止する場合
⇒取締役の任期は、当該定款変更の効力発生時
に満了したものとみなす(332Ⅳ①②)
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③解任(339)
• 原則として、株主総会の普通決議によりいつで
も解任できる(339Ⅰ、309Ⅱ⑦、なお341)
・ただし、累積投票により選任された取締役の場合は
特別決議が必要。また、正当な理由がなく任期満了前
に解任された取締役は、会社に対して損害賠償を請求
できる(339Ⅱ)
• 株式会社の役員の解任の訴え:職務執行に関し、
不正な行為や法令・定款違反等の重大な事実があった
にもかかわらず、解任決議が否決された場合(拒否権
により効力を生じない時を含む)は、6ヶ月前より引
き続き総株主の議決権の3%以上を有する株主等は、
30日以内にその解任を裁判所に請求できる(854)18
④種類株主総会選出の取締役の解任(347)
• 役員選任権付種類株式の種類株主総会で選出さ
れた取締役は、全体株主総会ではなく、当該取
締役を選出した種類の株主総会の決議によりい
つでも解任できる(手続は通常の株主総会手続
に準じる)
:定款で通常の解任手続により解任できる旨を
定めることもできる(347Ⅰ・Ⅱ中括弧書)
⇒任期満了前に種類株式が取得条項に基づいて
取得される等により種類株主が議決権を失った
場合は、全体株主総会で解任できる(同)
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(4)欠員の場合の措置(346)
• 法律または定款に定めた員数が欠ける場合
①新たに役員が就任するまで、任期満了または
辞任により退任した役員は、暫定的に役員とし
ての権利義務を有する(同Ⅰ)
②①によることが不適当な場合は、利害関係人
の請求により裁判所は一時的な仮の役員を選任
することができる(同Ⅱ)→登記事項
• 代表取締役の欠員についても同様(351)
• 会計監査人の欠員につき346Ⅳ~Ⅶ参照
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(5)取締役の職務執行停止・
職務代行者(民保23Ⅱ、352参照)
• 民保23Ⅱ:取締役の職務執行を停止し職務代行
者を選任する仮処分→登記事項(917①、民保5
6)
• 仮処分命令に特に定めがない場合、会社の
「常務」に属する行為のみなすことができる
• 特に裁判所の許可を得ればその他の業務執行
行為をなすこともできる
• 職務代行者が常務の範囲を超えて行為した場
合(法的には無効)、会社は善意の第三者に
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対抗できない(352Ⅱ)
常務とは?
• 会社の日常の業務
→会社のルーチンワークとしての業
務執行行為
(新株発行、社債の募集などの資金
調達、営業譲渡や合併などの会社の
基礎的変更は含まない)
22
Ⅲ
取締役会
(1)権限:
「業務執行に関する意思決定を行い、代表取
締役および他の取締役の職務執行を監督す
る」(362Ⅱ):委員会設置会社を除く
①業務執行に関する意思決定権限:法令または
定款で株主総会の権限とされるものを除く業
務執行一般
・取締役会は会議体であり、常時活動状態にあるわけではな
いので、効率的な経営のため必要に応じて業務執行の意思決
定について代表取締役や業務担当取締役、あるいはそれら上
級取締役らによる会議体(常務会・経営委員会などの名称で
取締役の人数の多い大規模な会社によくみられる)に委譲す
ることができる。会社の常務に関しては、黙示的・包括的に
代表取締役に意思決定権限を委譲していると解される。 23
※取締役会の専決事項
・下記の事項の他重要な業務執行の意思決定は、代表
取締役等に委譲することはできない(362Ⅳ)
1)重要な財産の処分・譲受
2)多額の借財
3)支配人その他の重要な使用人の選任・解任
4)支店その他の重要な組織の設置・変更・廃止
5)募集社債に関する事項
6)内部統制システムの構築の基本方針の決定と開示
(事業報告で開示義務)
7)定款に基づく役員等の責任の一部免除
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内部統制システム
• 会社法制定前より、一定規模以上の株式会社の取締役
会は、いわゆる内部統制システムを整備しなければならな
いと解されてきた(大阪地判平成12・9・20日判時172
1・3(大和銀行事件))
• 会社法において内部統制システムとは、「取締役の職務
の執行が法令および定款に適合することを確保するため
の体制その他株式会社の業務の適正を確保するために
必要なものとして法務省令で定める体制」と定義され、大
会社では、取締役会設置会社であるかどうかにかかわら
ず、内部統制システムを整備することが義務づけられる
(348Ⅳ・362Ⅴ)
• 委員会設置会社では(大会社でなくても)、内部統制シス
テムとともに、内部統制部門を通じて監査を行う監査委員
会の職務の執行のため必要なものとして法務省令で定め
る事項も、取締役会が定めなければならない(416Ⅰ①ロ、
ホ)
25
※特別取締役による決議
• 取締役の数が6人以上であり、かつ社外取締
役が1名以上いる取締役会設置会社では、上述
の取締役会の専決事項のうち1)、2)の決
定を取締役会があらかじめ選定しておいた3人以
上の取締役(特別取締役)のうち、議決に加わる
ことができる者の過半数が出席し、その過半数を
もって行うことができる旨を取締役会決議で定め
ることができる(373Ⅰ)
• 当該定めを設けたことおよび特別取締役の氏
名は登記される(911〔21〕)
→特別取締役は社外取締役である必要はない
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②監督権限
• 業務執行の意思決定権限と表裏一体のものとし
て、業務執行が法令定款に違反していないか
(適法性)、会社の利益増進の見地から妥当な
ものか(妥当性)をチェックする
• 業務状況の報告義務:取締役会による業務監督
を効果的に機能させるため、「代表取締役およ
び業務担当取締役は、少なくとも3ヶ月に1回以
上、会社の業務執行の状況を取締役会に報告し
なければならない(363Ⅱ)」
→取締役会は少なくとも年4回は開かなければ
ならない(372ⅠとⅡに注意)
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各取締役の監視義務
• 各取締役は監督権限を有する取締役会の構成員
として、代表取締役等の職務執行が適法かつ妥
当に行われているかどうかを相互に監視・監督
する義務があると解されている
• 監視義務は取締役会に上程されない事項に及ぶ
(各取締役は自ら取締役会を招集する権限を有
するから)
• 監視義務違反は任務懈怠責任(過失責任)で
あって、個々の取締役の地位や担当業務により
過失の有無ないし損害との因果関係が個別に判
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断される傾向がある
(2)招集:株主総会ほど厳格な招集手続は必要ない
①招集権者:定款または取締役会で特に招集権
者を定めた場合のほかは、各取締役が招集でき
る(366Ⅰ)→実務では代表取締役(社長)を
招集権者とすることを定款等で定めることが多
い
②招集権者を定めた場合でも、他の取締役は招集
権者に対して会議の目的とすべき事項を示して
取締役会の招集を求めることができる→招集権
者が5日以内に「請求の日から2週間以内の日」
を会日とする招集通知を発しない場合は自ら招
集できる:招集請求権・招集権(同Ⅱ~Ⅲ)29
③監査役・株主による招集
• 取締役の法令・定款違反行為等の報告(382)のため
特に必要があるときは、②に準じて監査役も招集の請
求をなし、また自ら招集できる(383Ⅱ・Ⅲ):ただ
し、特別取締役による取締役会(373Ⅱ)を招集する
ことはできない(383Ⅳ)
• 監査役設置会社および委員会設置会社を除く取締役会
設置会社(F類型中監査役を置かないか、会計監査に限
る定款の定めを置く会社)において、取締役が会社の目的
の範囲外の行為その他法令・定款に違反する行為をし、
またはこれらの行為をするおそれがあると認めるときは、
株主も、取締役会の招集請求をし、また自ら招集できる。
当該株主はそのように招集された取締役会に出席して意
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見を述べることができる(367)
④招集手続(368)
• 会日より1週間前まで(定款で短縮可能)に各
取締役および各監査役(監査役設置会社)に対
して通知する(Ⅰ:通知は口頭でも良い)
• 取締役(監査役)全員の同意があれば招集手続
を省略できる(Ⅱ)
→定例会議などあらかじめ毎回の日時と場所が
定められていれば、個別の招集手続は必要ない
• 会議の目的事項を明記しない招集通知は適法か?
• 会議の目的を定めて開催された取締役会で、それ以外
の事項について決議することはできるか?
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(3)決議(369)
①定足数・決議要件:議決に加わることができる
取締役の過半数が出席し、その出席取締役の過
半数をもって行う(頭数多数決:369Ⅰ)→定款で要
件を加重することはできるが、軽減することは
できない。
※取締役会の省略(書面決議)⇒決議の目的事
項に関する提案について、各取締役が書面また
は電磁的方法で同意の意思表示をした場合、当
該提案を可決する決議あったとみなす旨を定款
に定めることができる。ただし、監査役設置会
社においては、監査役が当該提案について異議
を述べたときは認められない(370)
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②特別利害関係人(369Ⅱ)
• 「決議について特別な利害関係(取締役とし
ての任務と矛盾する個人的利害対立関係)を
有する者は、当該議決に加わることができな
い」(定足数算定における取締役の総数から
も除外される)
例)競業取引や利益相反取引の承認決議にお
ける対象取引を行おうとする取締役など
• 代表取締役の解職決議における当該代表取締役が特
別利害関係人に当たるか否かについては議論がある
⇒判例は特別利害関係人にあたるとする(百選40)
cf.株主総会の特別利害関係人は議決権の行使は可能
33
③監査役の出席・意見陳述義務
• 監査役は、取締役会において議決権を有しな
いが、取締役会に出席し、必要があれば意見
を述べる義務を負う(383Ⅰ本文)
• 従来から出席権、意見陳述権は認められてい
たが、監査役の権限強化のためH13改正で義務
とされた
• 特別取締役による取締役会にも出席しなけれ
ばならないが、監査役が二人以上いる場合は、
互選によって出席する監査役をさだめること
ができる(同但書)
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④取締役会決議の瑕疵
• 会社法に取締役会決議の瑕疵に関する特
別な規定はなく、招集手続、決議方法の
法令定款違反、決議内容の法令定款違反
があった場合、決議は一般原則にしたが
い当然無効と解される(いつでも、誰からでも、
どんな方法でも主張できる)
→訴えによって確定させる必要はなく、
抗弁として決議の無効を主張することが
できる
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無効な取締役会決議に基づく行為の効力
• 決議が無効とされる場合であっても、当該無
効の決議に基づいてなされた対外的な取引の
私法上の効果については、取引の安全に対す
る配慮が必要である
• 同様に会社法上取締役会の決議が必要とされ
る取引を決議なしに代表取締役が独断で行っ
た場合(代表権の濫用)の効力についても取
引の安全との関係でさまざまな見解が主張さ
れている
• 判例は一貫して心裡留保説 (後述)
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(4)議事録等(371)
取締役会の議事録等の作成・署名と備え置き
議事の経過の要領および結果を議事録に記載または
記録し、出席取締役(監査役)が署名(または記名
押印・電子署名)(369Ⅲ・Ⅳ)
決議に参加した取締役で議事録に異議をとどめない
者は、決議に賛成したものと推定される(369Ⅴ)
取締役会の書面決議(みなし取締役会決議ともい
う:後述)に関する定款の定めのある会社(370)
における「同意の意思表示」を記載・記録した書
面・電磁的記録を含めて「議事録等」とよぶ
議事録等は取締役会の日から10年間、本店に備え置
37
かれる(371Ⅰ)
※株主の閲覧・謄写請求権
株主は権利行使のために必要がある
ときは、取締役会議事録の閲覧・謄
写の請求ができる(371Ⅱ)
監査役設置会社・委員会設置会社で
は裁判所の許可を要する(371Ⅲ)
監査役を設置しているが、監査役の監査権限
を会計に関するものに限る旨の定款の定めの
ある取締役会設置会社の場合、閲覧・謄写請
求の要件は何か?
38
※債権者・親会社社員の閲覧・謄写請
求権
• 債権者が役員・執行役の責任を追及する
ため必要なとき、または親会社の社員が
権利行使に必要なときは、裁判所の許可
を得て閲覧・謄写請求をすることができ
る(371Ⅳ・Ⅴ)
• 但し、閲覧・謄写によって当該会社また
はその親会社・子会社に著しい損害を生
じるおそれがあるときは、裁判所は許可
を与えてはならない(371Ⅵ)
39
Ⅳ
代表取締役
(1)意義
「対外的に会社を代表する取締役であ
るとともに、対内的な業務執行を担
当する株式会社の機関
:取締役会設置会社では必要常置の
機関」
40
(2)代表取締役の選定・解職
• 取締役会不設置会社:定款、定款の定めに基づく
取締役の互選または株主総会の決議によって、
取締役の中から代表取締役を定めることができる
(349Ⅲ)
• 取締役会設置会社:取締役会が、取締役の中か
ら代表取締役を選定する(362Ⅲ)
• 員数:定めがないので、1人以上であればよい
– 定款で定員を定めることはできる(351Ⅰ参照)
• 取締役会設置会社では、代表取締役の解職も取
締役会で行う(362Ⅱ③)
41
(3)代表取締役の権限
①代表権限:会社の業務に関する一切の裁判上・裁判外
の行為に及ぶ
・代表権に対する内部的制限(定款や取締役会決議等
による制限)は、善意の第三者に対抗することができ
ない(349Ⅳ・Ⅴ)⇒「包括的かつ不可制限的代表権」
※取締役対会社間の訴訟については、訴訟追行の公正性
確保のため他の代表者が会社を代表する(353、364、
386Ⅰ:委員会設置会社について408Ⅰ参照)
・監査役設置会社:監査役
・それ以外:株主総会の定める者(取締役会設置会社で
株主総会が代表者を定めない時は取締役会の定める
42
者)
論点 代表取締役の専断的行為・権
限濫用行為の効力
• 会社法により取締役会決議が要求されている取引
行為(362Ⅳ柱書①②参照)を、代表取締役が必要
な決議なしに行った場合(専断的行為)、右取引の
効力について様々な見解が主張されている。
• 代表取締役が客観的にその代表権の範囲に属す
る行為を、会社を代表して、しかし自己または第三
者の利益のために行った場合、そのような権限濫
用行為の効力についても、専断的行為の効力と同
じような見解の対立が見られる。
• 参考文献:争点Ⅰ70、会社法百選71事件参照43
心裡留保説(判例)
• 必要な取締役会決議を経ていないことは会社の内部的意
思決定を欠くにとどまるから、取引行為は原則として有効
だが、取引の相手が決議を経ていないことを知りまたは知
りうべかりし場合は、民法93条但書を類推して無効となる、
と解する。
• 最判昭40・9・22民集19・6・1656、大阪高判平6・9.2
8判時1515・158など
• 但し、東京地判平18・4・26(判時1930・147)は、悪意・過失
ある相手方には無効の主張ができるという一般論に立ち
つつ、「相手方法人の社内手続を確認すべき注意義務を
課すことは相当ではない」とし、相手方の悪意・過失の立
証責任を無効主張をする側に負わせたと読める判示をし
44
ている。
その他の学説
• 内部的制限説:取締役会決議を要することを代表
権に加えた内部的制限と捉え(349Ⅴ)、相手方が
悪意の場合には会社は取引の無効を主張できる
• 一般悪意の抗弁説:取締役会決議を欠いても取
引は有効であり、ただ相手方が必要な決議を経て
いないことにつき悪意の場合は、相手方の権利主
張は信義則違反または権利濫用にあたり、会社
は一般悪意の抗弁によりこれを拒むことができる
(近時の有力説)
45
代表取締役に関する登記
• 代表取締役の就任・退任は登記事項とされる(911Ⅲ
⑭・909)
• ※代表取締役退任登記後に、当該元代表取締役が会社
を代表して行った行為については、908Ⅰにより善意
の第三者にも対抗することができ、民112条の類推適
用の余地はないとするのが判例(最判昭49・3・22)
• 他方で、取締役が、退任後も会社を代表すべき名称を付
与されていれば、後述の表見代表取締役となり(421)、退
任登記があっても会社は善意の第三者に対して責任を負
う。従来の通説は421を908Ⅰの例外規定と解する。こ
れに対して、近時「異次元説」と呼ばれる見解が有力
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②業務執行権
• 代表取締役は、取締役の過半数により決
すべき事項(法定協議事項)または取締
役会の法定決議事項(348Ⅲ・362Ⅳ参照)
を除き、日常的業務(常務)および取締
役の過半数(取締役会設置会社では取締
役会)から特に決定を委任された業務執
行事項について、みずから意思決定し、
執行する。
47
(4)表見代表取締役(354)
取引の安全の要請に基づく規定
• 意義「会社が代表取締役でない取締役に代表権限があ
ると一般的に認められる名称を付した場合、その者
(表見代表取締役)が行った行為について、会社は善
意の第三者に対して責任を負う」
• 代表権限があると一般的に認められる名称とは?
⇒社長・副社長(例示列挙)その他、専務取締役・常
務取締役(取締役会不設置会社)、代表取締役代行者、
取締役会長等
• 黙示の名称付与:代表権のない取締役が表見代表的名
称を僭称していることを知りながら会社としてこれを
放置している場合は、名称付与を行ったものと同視さ
48
れる。
Ⅴ
取締役と会社の関係
(1)一般的義務:会社と取締役の関係
=委任または準委任(330)
→取締役は会社に対して善管注意義務を負う
(民644)
・さらに355は、「取締役は法令定款および株
主総会決議を遵守し、会社のため忠実にその職
務を遂行する義務」を負うと規定する
→「忠実義務」
※両義務の関係
→通説・判例(同質説)は、忠実義務は善管注
意義務を取締役の職務遂行に適合するよう具体
的かつ注意的に規定したものと解する
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(2)取締役の報酬等①
• 民法上、委任契約は無償(無報酬)が原則(民
648Ⅰ):報酬に関する特約があれば有償
• 実務上、取締役に任用する際に報酬を支払うべきこと
が明示的または黙示的に合意される
→報酬額の決定は、任用契約の内容であり、取締役と
任用契約を締結することは会社の業務執行である。し
たがって、報酬額を定めるのは(代表)取締役あるい
は取締役会の権限となりそうである
⇒しかしながら、取締役自身がみずからの報酬を決定
できることにすると、不当に高額の報酬を定めて株主
の利益を害する危険がある(いわゆるお手盛り)。そ
のため、取締役の報酬等については、定款で定める
か、株主総会において定めなければならない
(361Ⅰ)
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(2)取締役の報酬②
①確定額の報酬等:定款または株主総会決議で取締
役全員の報酬等の額を一括し、その最高限度額を定
め、その具体的配分については取締役会に一任する
ことが認められている(361Ⅰ①)
②取締役退任後に支給される退職慰労金が同条
の「報酬等」にあたるか?
→取締役の在職中の職務遂行行為の対価として報酬
の後払い的性質を有するが、その額の決定に慰労金
を受ける者は参加しないため、直接的には「お手盛
り」の弊害はない。しかし、残存取締役との関係に
かんがみるとお手盛りに準じた弊害が生じうる⇒同
条の規制を受ける(通説・判例)
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(2)取締役の報酬③
③不確定金額の報酬:具体的算定方法を決議
④金銭以外の報酬:社宅の提供等具体的内容を決
議
⑤ストック・オプション(業績連動型報酬):取
締役に自社の新株予約権を無償で交付しておき、
取締役が経営で業績をあげ、自社の株価が値上
がりしたときに権利行使し、あらかじめ定めた
価格で新株を購入し、市場で売却することで差
額(キャピタルゲイン)を得ることができる
⇒新株予約権の無償発行の規定に従う(238Ⅰ
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②Ⅱ・Ⅲ①・239Ⅰ②Ⅱ①・240Ⅰ)
(2)取締役の報酬③
⑤ストック・オプションに関する立法担当者の見
解(国際会計基準の動向に応じた規制の変更)
・ストック・オプションは「報酬等」(361Ⅰ
①・③)に該当する
・株主総会で「その具体的な価額及びその内容」
を決議(普通決議)しなければならない
・ストック・オプションの付与には、取締役の報
酬決定手続と新株予約権の交付手続の双方を備
えることが必要:ただし、常に「有利発行」と
なるとは限らない(238Ⅲ①②)
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(3)利益相反行為の制限
• 会社の経営に携わり会社の利益のために職務を
遂行すべき立場にある取締役が、会社外で会社の
利益と相反する行為を行おうとするとき、会社にお
ける地位や会社の情報等を利用して私利をはかり
それによって会社の利益が害されるおそれがある。
• そこで、会社法は、取締役・会社間の利益が相反
する典型的な場合を類型化して、取締役の行為を
規制する。
• なお、明文で禁止されない行為であっても取締役
が会社の利益を犠牲にして自己または第三者の
利益を図れば、善管注意義務ないし忠実義務の違
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反になる可能性がある
①競業避止義務(356Ⅰ①、365Ⅰ)
• 取締役は、自己または第三者のために、会社の
事業の部類に属する取引をするには、株主総会
(取締役会)においてその取引につき重要な事
実を開示し、承認を受けなければならない。
• 取締役会設置会社の取締役は、取引後、遅滞な
く重要な事実を取締役会に報告しなければなら
ない(365Ⅱ)
• 違反した場合⇒損害賠償(過失責任)、損害額
の推定(423Ⅰ・Ⅱ)
• 「事業の部類に属する取引(競業取引)」
:会社が実際に行う事業と市場が競合し、会社
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と取締役との間に利益衝突の可能性がある取引
次の各行為が、甲会社において、競
業取引についての承認を要する場合
に当たるか?
1. 甲会社の取締役が同種の事業を行う乙会
社(取締役会設置会社)の取締役に就任
すること
2. 甲会社の取締役が同種の事業を行う乙会
社の代表取締役あるいは乙会社A支店の
支配人に就任すること
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※介入権の廃止
• 必要な承認なく行われた競業取引も法的には有
効である。
• 旧商法は、会社が「取締役が自己のためになし
た競業取引」を、取締役会決議をもって会社の
ためになしたものとみなすことができる、とい
う「介入権」を認めていた。
• 介入権の効果は債権的効果(会社が取締役に対
して権利の移転を要求できる)に過ぎず、第三
者に対して物権的効力を生じないとするのが通
説・判例であり、損害賠償・損害額の推定と実
質的には変わりないため、廃止された。
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②利益相反取引規制(356Ⅰ②③)
• 直接取引:取締役が会社の製品その他の財産を
譲り受け、また会社に対して自己の製品その他
の財産を譲渡し、会社より金銭の貸付を受け、
その他自己または第三者のために会社を相手に
取引すること(356Ⅰ②)
• 間接取引:取締役の債務について会社が取締役
の債権者に対して保証や債務引受をする場合な
ど会社と第三者の取引ではあるが、実質的に取
締役と会社の利益が相反する場合(同③)
⇒直接取引・間接取引いずれの場合も「株主総
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会(取締役会)の承認」が必要
利益相反取引についての承認
を要するか?
• 一人会社の株主である取締役が、当該
会社(取締役会設置会社)に対して、利息
付で経営資金を貸し付ける行為。
• 株主全員の同意があるケースについて
百選63事件参照
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違法な利益相反取引の効力
※承認なしに行われた利益相反取引
:相対的無効(通説・判例)
・当事者間(会社と取締役、執行役)では
無効であるが、善意の第三者には取引の
無効を対抗できない(百選64事件)
⇒会社は第三者の悪意を立証しなければ
無効を主張できない。
※会社に損害が生じた場合、任務懈怠が推
定される(423Ⅲ)
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