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抑止論(Deterrence)と
拡大抑止(Extended Deterrence)
安全保障論
(第3回)
担当:神保 謙
休講・補講のお知らせ
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休講①: 5月2日(火) 第2限
補講①: 5月13日(土) 第2限 (予定)
休講②: 6月27日(火)
補講②: 日程は追ってお知らせいたします
中間レポート出題
以下5つの設問から、1つを任意選択し、下記の要領にしたがって最終レポー
トを作成してください。またレポートの末尾にどのような参考文献・論文・資料を
使用したのかを列記してください。
【課題】
1.9.11事件は安全保障の概念にどのような変質をもたらしたのか?
2.現代の安全保障における集団的自衛と集団安全保障の役割をどの
ように評価すべきか?
3.現代の安全保障における核兵器と核抑止論をどのように評価すべきか?
4.現代の安全保障における国連の役割とは何か?また安全保障理事
会の改革は、国際安全保障にどのような影響を与えるのか?
5.現代の安全保障において、地域的安全保障枠組みが果たす役割を
どのように評価すべきか?
【要領】
締め切り : 2005年5月31日(水)
言 語
: 日本語または英語
文字数
: 2000 字以上 無制限(日本語)
1000 word以上 無制限(英語)
使用ソフト : Microsoft Word
注意事項 : 本文冒頭に必ず選択課題、所属、氏名を
明記すること
【提出方法】
Word添付ファイルにてレポート・システム(https://report.sfc.keio.ac.jp/)
に提出してください。ファイル名(の1部)には提出者名をフル
ネームで記述してください(例:Ken Jimbo-security.doc)。
抑止理論を学ぶ
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「わが国は米国に対する抑止力を増大するために
核兵器の製造を行う」
-北朝鮮・韓成烈国連次席大使
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「米国はアジア太平洋地域であらゆる抑止力を維
持している」
-米国・ライス国務長官
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「沖縄などの負担軽減と抑止力の維持を早期に実
現する」
―日本・安倍官房長官
*互いの主張する「抑止力」とは何か?
抑止理論の基礎
定義 I
相手がこちらに害を与えるような行動にで
るならば、相手に重大な打撃を与える意思
と能力を持っていることを、予め相手に明
示し、相手が有害な行動にでることを思い
とどまらせること。
Deter ⇒ De (from) + Terrere (frighten)
抑止(定義1)の成立条件
1) 十分な報復力
(能力)
2) 報復意志の明示 (意思)
3) 相手側の理性
(相互理解)
基本抑止・相互抑止・拡大抑止
拡大抑止
Extended Deterrence
B
C
相互抑止
Mutual Deterrence
基本抑止
Basic Deterrence
A
参考:個別的自衛と集団的自衛
(第2回講義)
集団的自衛
Collective Defense
B
個別的自衛
Individual Defense
C
A
相互抑止関係
BのAに対する
抑止レベル
相互確証破壊
(MAD)
抑止関係
AのBに対する
脅威認知度
BのAに対する
脅威認知度
エスカレーション
相互抑止関係
AのBに対する
抑止レベル
拡大抑止の基本構造
しかし、仮にBからCに
報復能力がある場合
核拡大抑止(核の傘)
通常戦力による拡大抑止
B
CがAを守るために・・・
1) 十分な報復力
(能力)
2) 報復意志の明示 (意思)
3) 相手側の理性
(相互理解)
の政治的コミットメントを明確化する
C
A
Cは自らを危険にしてまで
Aを守るのかな?
デカップリング(切り離し)
拡大抑止の不安定化
BのAに対する攻撃誘因増大
への懸念
抑止理論の発展形
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抑止理論の基本
懲罰的抑止
「もし~したら、~するぞ」
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抑止理論の発展形
拒否的抑止
「もし~しても、(自らの損害限定能力により)目的は達
成できない」
報償的抑止
「もし~しなかったら、~を与えよう」
抑止理論の発展形
定義II
相手に複雑な計算を強いることによって、相
手の有害な行動を思いとどまらせること。
定義IIから導かれる抑止戦略(小国が採用しがち)
1)情報の秘匿 (もしかすると~かもしれない)
2)情報の撹乱 (あるかもしれないし、ないかもしれない)
抑止論の課題と問題点
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抑止論は第二次大戦後の安全保障論の柱をな
してきたが・・・
– 抑止の「均衡状態」は、認識レベルに依存するため、
「安全保障のジレンマ」を生みやすい
– 国際関係のアクターにおける「合理性」に依存するあ
まり、政策過程の非合理性を見落としやすい
– 「抑止の不安」は、過剰防衛・先制攻撃への誘因につ
ながりやすい
Case Study A:台湾海峡
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現状変更に関する非平和的方式(武力行使)の可能性
– 「台湾は中国の一部分であり、国家は「台湾独立」を掲げる分裂勢力が
いかなる名目、いかなる形で台湾を中国から分裂させることも決して許
さない」
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非平和的方式の実行条件
– 「台湾独立」を掲げる分裂勢力が名目、形式を問わず台湾を中国から
分裂させる事実を引き起こした場合
– 台湾が中国から分裂することにつながる重大な事変が起こる場合
– 平和統一の条件が完全に失われた場合
反国家分裂法(第8条)
【非平和的手段の行使】
どちらか一方が「台独分裂勢力がいかなる名義、いかなる方式であ
れ、台湾を中国から分裂させようとする事実をもたらすか、或いは将
来台湾を中国から分裂させるような重大な事変が発生、または平和
統一の可能性が完全に喪失した」とみなした場合、台湾に対し非平
和的方式およびその他の必要な措置を採り、この権限は中国国務
院および中央軍事委員会に授権され、決定および組織的に実施さ
れる。
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米軍の台湾防衛コミットメント
「台湾関係法」(1979年)
第2条
(4)平和手段以外によって台湾の将来を決定しようとする試みは、
ボイコット、封鎖を含むいかなるものであれ、西太平洋地域の
平和と安全に対する脅威であり、合衆国の重大関心事と考え
る。
(5)防御的な性格の兵器を台湾に供給する。
(6)台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるい
かなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆
国の能力を維持する。
第3条
A項 本法律の第二条に定められた政策を促進するため、合衆
国は、十分な自衛能力の維持を可能ならしめるに必要な数
量の防御的な器材および役務を台湾に供与する。
中台軍事関係の政治分析
台湾を独立させず、
米国に軍事介入を
させない攻撃の可
能性?
全面制圧
米国介入誘因
限定攻撃 II
限定攻撃 I
台湾独立誘因
政治的威嚇
何もしない
非対称的アクターは抑止できるか?
1) 十分な報復力
(能力)
2) 報復意志の明示 (意思)
3) 相手側の理性
(相互理解)
ケースB: 北朝鮮
1)非合理性的な政治決断の可能性
2)暴発シナリオの可能性
ケースC: テロリスト
1)領土を持たず高い匿名性
2)殉教的な攻撃手段
ケースB:北朝鮮への対応
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懲罰的拡大抑止力+拒否的抑止力
– ミサイル防衛の導入
– 損害防衛手段としての危機管理
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独自の懲罰的抑止?
– 「拡大抑止」+「拒否的抑止」が十分な信頼性を保ち
得ない場合の、独自の懲罰的能力の整備(例:敵地
攻撃能力)
ケースC:テロリストへの抑止戦略
米国『国家安全保障戦略』
It has taken almost a decade for us to comprehend the true
nature of this new threat. Given the goals of rogue states
and terrorists, the United States can no longer solely rely on
a reactive posture as we have in the past. The inability to
deter a potential attacker, the immediacy of today’s threats,
and the magnitude of potential harm that could be caused
by our adversaries’ choice of weapons, do not permit that
option. We cannot let our enemies strike first.
(米ホワイトハウス『国家安全保障戦略』(2002年9月)より)
テロリストに抑止は通用するか?(I)
テロ組織のタイプごとの抑止可能性
認識ギャップ防止
(懲罰抑止)
認識ギャップ防止
(拒否抑止)
利益の調和可能性
分離主義
△/○
○
△
社会革命
△
○
×
宗教主義
△/×
○
×
右翼暴力主義
△
○
×
単一争点
△
○
×/△
出展:神保謙・高橋杉雄・古賀慶『日本の対テロ抑止戦略』
(2004年度東京財団委託研究報告書)
テロリストに抑止は通用するか? (II)
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「拒否的抑止」の重要性
– 国内体制
• 重要施設・インフラの防護
• バイオテロ・化学兵器テロに対する防護体制
– 国際体制
• 大量破壊兵器・通常兵器の移転阻止
• テロリスト資金の凍結
• ヒト・モノ・カネの移動の管理強化
①テロリストに対し「テロ攻撃はあまり効果ない」と思わせるだけの
防衛手段(損害限定)と
②テロリストの能力を未然に削ぐ攻勢的防衛手段を高め、けん欠の
無いグローバルな体制をつくることが重要