OASDIの財政 - 日本アクチュアリー会

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2007年3月28日
平成18年度年金基礎研究会
海外年金制度班資料
大河内 智之
窪田 澄博
須藤 健次郎
武藤 憲真
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海外年金制度班の活動内容
• 諸外国の公的年金財政見通しを調査した。
• 対象国は、アメリカ、イギリス、スウェーデン、
フランス、ドイツ、韓国、日本?
• 平成5~8年頃、総理府社会保障制度審議
会事務局年金数理部会担当において調査さ
れているが、その後大きな改革等が行われ
た国もあり、最近の動向も踏まえた結果を調
査した。
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アメリカの公的年金(OASDI)の
財政見通しについて
「A SUMMARY OF THE 2006 ANNUAL SOCIAL SECURITY
AND MEDICARE TRUST FUND REPORTS」等より
• 連邦信託理事会の年次報告
OASDI、メディケア(高齢者医療保険)の財政を監督するために信託理事会が設置され
ており、毎年、財政の現状と見通しを議会に(下院・上院の議長あて)報告することが法律
で義務付けられている(社会保障法に基づく)。職務上定められた理事は、財務長官、労働
長官、保健福祉長官、社会保障庁長官の4名で、これに2名の一般代表理事が加わる。
• 信託基金財政の現状、見通し及びその前提
アメリカ財務省に作られている信託基金の収支状況(社会保障税、メディケア保険料、そ
の他の収入と給付費、運営コスト)等である。収支差は国債で運用している。
財政見通しは、10年見通し(短期)と75年見通し(長期)の2とおりがある。また、3つの前
提があり、以下の結果は、主として中位の前提に基づいている。
• 4種類の区分された信託基金
(老齢・遺族保険(OASI( Old-Age and Survivors Insurance))、
障害保険(DI( Disability Insurance)))
メディケア(病院保険(HI( Hospital Insurance))、
補足的医療保険(SMI( Supplementary Medical Insurance)))
OASDI
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2005年の財政状況等
• 受給者数(2005年12月) OASI 4,010万人、DI 830万人
• 拠出者数(2005年) OASDI 1.59億人(拠出上限$94,200(2006))
保険料率
(%)
• OASDIとHIの主たる財源は、社会保障税
単年度収支
(10億ドル)
財源
(10億ドル)
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信託基金の将来の財政見通しの方法
• 全ての基金の短期(10年)と長期(75年)の見通しを作成。
• 見通しは、現行法と、収支に影響する要素の前提に基づく。
• 前提は、経済成長率、賃金上昇率、インフレ率、失業率、出生
率、移民率、死亡率、障害発生率、医療費増加率など。
• 将来は、本来不確実なものであり、経済的・人口学的前提の3
種類の組合せが、あり得る範囲を示すために用いられる。
• 前提は、最近の実績と、将来動向についての新しい情報によ
り、毎年再検討され、正当化されると修正。
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短期(2006-2015年)見通し
• 短期見通しにおいては、「積立比率(=年始資産/年間費用)」により適性
が測られる。
• 給付支払の少なくとも1年分以上の資産があると、短期で妥当であると考
えられているが、これは、仮に支出が収入を上回ることとなっても、信託
基金準備金と税収により、数年間の給付支払には十分であり、その間に
財政を回復させるための制度改正が可能であるためである。
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• 前述のような基準からは、OASDIは2015年まで資産が支出の1年分を
上回っており妥当と考えられているが、HIは2012年に下回ることとなり、
妥当ではない。
• SMIは、「危険準備金」資産としてのテストはそれほど厳しくはないが、こ
れは、財源が受給者の保険料や連邦一般歳入によって、毎年費用に自
動的に調整されるからである (ただし、支払能力について、大きく増加
する費用に対する懸念は取り除かれてはいない)。
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長期(2006-2080年)見通し
• 公的年金、メディケアの予測費用を考察するための有用な方法は、実質
的な必要財源をGDPと比較すること。
• どちらの費用も2010~2030年に急上昇するのは、ベビーブーム世代の
引退に伴い、受給者数が急増するためであり、特に、医療費の増などに
よるメディケア費用の伸びが速い。
• 2030年以降は、公的年金の費用は平均余命の伸びによりゆっくり伸び
続けるが、メディケアの費用は医療費の伸びのため急速に増加し続ける
だろう(技術進歩等により、経済全体の伸びを上まわり続けるだろう)。
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• 費用の対GDP比
2005年
公的年金+メディケア 約7%
公的年金
4.2%
メディケア
2.7%
2080年
17.3%(2005年の連邦の全収入が17.5%)
6.3%
11.0%(2005年の4倍、公的年金の75%増)
(昨年の報告書では13.6%)
• 75年見通しの数理的欠損は、課税所得の2.02%(昨年1.92%)
(見通し期間が1年進んだことと、長期の実利回りの前提が3.0%から2.9%
へ低下したこと)
※ 数理的欠損(Actuarial Deficit) : 与えられた評価期間における平準
化された収入率と費用率の差がマイナスである場合の赤字分
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費用と税収の見通し
• メディケアと公的年金の費用の伸びは、今後数十年間は経済の伸びより
もかなり速くなっているが、信託基金の税収の伸びはそうではない。
• HIとOASDIの主たる収入源は社会保障税であり、通常、収入と費用の
課税総所得に対する割合で比較する(下図)。
• 収入率は、長期では実質的に上昇していないが、これは、社会保障税率
の変更が予定されておらず、 その他OASDI受給者への課税による税収
も、将来の受給者数の増により徐々に上昇するのみであるためである。
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長期の数理的収支バランス
• 信託基金の財源である社会保障税の見通しを検査するための伝統的手
法は、75年を評価期間とする数理的収支バランスに換算することである。
本質的には、75年間の予測期間にわたり、毎年の収支差が課税総所得
に対する%で表現されたものである。
• なお、SMIは毎年の保険料の引き上げや一般財源からの移転によりバラ
ンスさせられるため、数理的収支バランスの概念は有用ではない。
• 下表のそれぞれの数理的欠損は、その%ポイントを、数理的収支バラン
スを保つために、75年間にわたり、現行法の収入率に加えるか、費用率
から減じるものである。数理的収支バランスは、最終年の資産がその翌
年の支出と等しくなるものと定義される。
• 上記の一様な変更は、この期間全体にとって適切ではあるが、2080年
の収入率と費用率の差の半分以下である。
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長期財政運営において重要な年
• 費用が、利息を除く収入を超える時、信託基金が活用され始める。
• HIにおいては、その年は2006年と予測されている(そのような年は過去
にもあったが、2005年は逆転している)。費用が、利息を含む収入を超え
るのは2010年、信託基金が枯渇するのは2018年と予測されている(こ
れは、昨年報告書より2年早まっている)。社会保障税収のHI費用に対す
る割合は、2018年では80%、2080年では29%にすぎない、と見通され
ている。
• OASDIにおいては、費用が、利息を除く収入を超えるのは2017年、費用
が、利息を含む収入を超えるのは2027年、信託基金が枯渇するのは
2040年と予測されている(これは、昨年報告書より1年早まっている)。社
会保障税収の費用に対する割合は、 2040年では74%、2080年では
70%と見通されている。
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財政バランスを改善する改革の必要性
• 財政状況の議論は、信託基金の枯渇する年に焦点が当てられるようになってきた
が、根本的な理由は、枯渇前に連邦一般歳入にたよるようになるためである。
• 2006年には、公的年金の税収の余剰がメディケアの税、保険料収入の不足を上
回っているが、将来は、税収増、一般歳入増、支出削減等により財源確保されな
ければならない。SMIの75%分の一般歳入拠出も、通常の認識よりはやく連邦一
般財源への大きな圧力になるだろう。
• 社会保障税収と保険料の不足は、ベビーブーム世代の退職到達に伴い、20102030年に急増するが、2030年の後も、医療費がGDPより早く増加したり、平均余
命の伸長により急増し続ける。総費用は、GDP比で7%(2005)→14 %(2040)→
17%(2080)となる。(過去40年平均の連邦総歳入が18%で、21%を超えた年はな
い)
HIとOASDIの税収
と給付費の差に、
SMIへの一般歳入
拠出( 75%分)を加
えたもの
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確率的予測(2003年報告書からスタート)
• 伝統的に、不確実性を表すため、低コストと高コストの前提を用いて、追加
的な見通しにより、起こりうる結果の範囲を示すことが行われてきた。しかし、
実際の将来の経験が、これらの範囲の内になるか、外になるかの確率を示
しているわけではない。よって、現在では、将来の財政状況の確率分布を
見通す確率的モデルテクニックに基づく結果が示されている。
• 従来からの決定論的モデルは、各変数の水準に一定の前提がおかれ、長
期見通し期間の特定時期に最終仮定値に到達し、残りの期間その値が維
持されるとされている。
• それに比べて、確率的モデルでは、5千の独立した確率シミュレーションの
結果が示されている。各変数の変動幅は、標準時系列モデルを用いて予測
されている。それは、過去データに基づき推測が行えるように意図されてい
る手法である。一般的に、各変数は方程式によりモデル化されているが、そ
れには、現在と過去数年の変数値の間の関係をとらえ、過去期間を反映し
た毎年の確率変動が導入されている。いくつかの変数は、追加的な方程式
により、他の変数との関係が反映されている。方程式のパラメータは、20年
~110年の過去データを用いて見通されており、その期間は入手できる
データの性質による。各時系列方程式は、確率変動がなければ、変数値が
中位の前提による値と一致するように設計されている。
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• モデル中の各シミュレーションにおいて、変数値はモンテカルロ法を用い
て決定されており、毎年の変動はランダムに設定されている。
• このモデルによる結果は、注意して、かつ固有の限界を十分理解して、
解釈されるべきである。結果は、方程式の設計、変数間の相互依存の程
度、用いられる過去の期間、に敏感に反応する。
(例)
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最後に
• 今年の信託レポートでは、公的年金と特にメ
ディケアの大きな長期的財政不均衡が示され
ており、時宜を得た効果的な行動の必要があ
る。
• 解決策が早く採用されれば、それだけ変化に
富み、徐々に対応することが可能である。
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