Transcript kato_13.

2007年2月4日(土) 早稲田大学国際会議場
井深大記念ホール
双極性障害の原因
理化学研究所 脳科学総合研究センター
精神疾患動態研究チーム
加藤 忠史
1
本日のテーマ
1)
2)
3)
4)
5)
双極性障害の研究目標
ミトコンドリア仮説のいきさつ
ミトコンドリア仮説の検証
一卵性双生児における研究
双極性障害における脳の異常とは?
2
双極性障害の研究目標
1)
2)
3)
4)
5)
難治性患者
→新たな治療法の開発
副作用
→作用メカニズム解明
診断・治療の遅れ→予後悪化→診断検査
治療反応の予測
→治療反応性検査
偏見
→病因解明、治療、検査
3
双極性障害の謎
1) 双生児研究から遺伝子の関与が明らか
なのに、原因遺伝子がつかまらない
2) 一晩で、全く動けないうつ状態から、一睡
もせずに動き回る躁状態に、突然変わる
3) 遺伝子の組み合わせという一方向の異
常が躁とうつという二方向の変化を生む
4) リチウムという健康な人には作用しない
イオンに何故か予防効果がある
5) 再発するほど次の再発が起きやすくなる
4
双極性障害でわかっていること
死後脳
遺伝学
明らかな異常なし
遺伝子が関係
5
双極性障害における遺伝子の関与
6
双極性障害でわかっていること
死後脳
遺伝学
脳画像
明らかな異常なし
遺伝子が関係
MRIで軽い脳梗塞の所見
7
双極性障害における「白質高信号」
• Dupont ら(1987)以後、12の報告で関連あり。
(4つの報告は否定的)
• 加齢により誰でも見られる非特異的な所見
• 虚血に対する脆弱性を反映?
8
双極性障害でわかっていること
遺伝学
死後脳
脳画像
遺伝子が関係
明らかな異常なし
MRIで軽い脳梗塞の所見
(歳と共に誰でも増加)
血液細胞 細胞内カルシウム濃度変化
9
• 小胞体カルシウム
ポンプ阻害薬
(Thapsigargin)で刺激
• 患者
13名
• 対照群 11名
カルシウム濃度
双極性障害患者の
培養リンパ芽球では
カルシウム反応亢進
(Kato T et al: Int J Neuropsychopharmacol
6: 379-89, 2003)
10
細胞内におけるカルシウムの役割
受容体
Ca2+チャネル
シナプス可塑性
分泌
細胞死
Ca2+
小胞体
受容体
ミトコンドリア
細胞内外には1万倍
のCa2+濃度差
11
双極性障害でわかっていること
遺伝学
死後脳
脳画像
遺伝子が関係
明らかな異常なし
MRIで軽い脳梗塞の所見
(歳と共に誰でも増加)
血液細胞 細胞内カルシウム濃度変化
薬理学 気分安定薬の神経細胞保護作用
12
生理食塩水
リチウム
リチウムの神経細胞死
抑制効果
•
•
•
•
ラット左中大脳動脈結紮
リチウム16日間投与
脳梗塞による症状軽減
梗塞サイズが56%減少
Nonaka S, Chuang DM:
Neuroreport 9: 2081-4, 1998
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双極性障害でわかっていること
遺伝学
死後脳
脳画像
遺伝子が関係
明らかな異常なし
MRIで軽い脳梗塞の所見
(歳と共に誰でも増加)
血液細胞 細胞内カルシウム濃度変化
薬理学 気分安定薬の神経細胞保護作用
双極性障害では神経細胞が死にやすい?
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本日のテーマ
1)
2)
3)
4)
5)
双極性障害の研究目標
ミトコンドリア仮説のいきさつ
ミトコンドリア仮説の検証
一卵性双生児における研究
双極性障害における脳の異常とは?
15
31P-MRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)
• 臨床用MRI装置で化学分析
• 1H、 31P、7Li、19Fなどが測定可能
• 31P: エネルギー関連物質(ATPなど)、細胞
膜関連物質(イノシトールリン酸)、細胞内pH
16
双極性障害患者におけ
る31P-MRS
Depressive
寛解期に細胞内pH低下
7.00 vs 7.05
躁・うつでは正常化
未服薬患者で確認
脳全体で見られる
うつでクレアチンリン酸↓
光刺激反応亢進
→ミトコンドリア病(CPEO)
と同じ
17
ミトコンドリアDNA (mtDNA)
•
•
•
•
•
染色体DNAと別にミトコンドリアに多数存在
ミトコンドリア蛋白質の一部をコード
16kbの環状 DNA
母系遺伝
体細胞変異がおきやすい
• ヒトゲノムのアキレス腱
→ さまざまな病気に関係?
染色体
DNA
ミトコンドリア病
mtDNA変異
核遺伝子変異による二次的
mtDNA変異(多重欠失)
MELAS
母系遺伝
mtDNA変異
(ヘテロプラスミー)
脳症(意識障害等)
CPEO (慢性進行性外眼筋麻痺)
常染色体優性(劣性)遺伝
核遺伝子変異
(POLG, ANT1, Twinkle)
外眼筋麻痺
うつ病、躁うつ病
双極性障害患者脳で欠失?
16kb mtDNA
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双極性障害のミトコンドリア仮説
ミトコンドリア関連核遺伝子変異・多型
mtDNA多型・変異
mtDNA欠失蓄積
ミトコンドリアCa2+ 制御障害
細胞内Ca2+シグナリング異常
シナプス可塑性の変化
双極性障害
(Kato & Kato, Bipolar Disorder 2000)
20
本日のテーマ
1)
2)
3)
4)
5)
双極性障害の研究目標
ミトコンドリア仮説のいきさつ
ミトコンドリア仮説の検証
一卵性双生児における研究
双極性障害における脳の異常とは?
21
研究戦略
仮説に基づく研究 Hypothesis-Driven Approach
・ 遺伝学
・ 死後脳、患者由来培養細胞
・ モデル動物作成
発見的手法 Heuristic Approach
遺伝子発現解析・網羅的エピジェネティクス解析
・ 一卵性双生児不一致例
・ 死後脳
研究戦略
仮説に基づく研究 Hypothesis-Driven Approach
・ 遺伝学
・ 死後脳、患者由来培養細胞
・ モデル動物作成
発見的手法 Heuristic Approach
遺伝子発現解析・網羅的エピジェネティクス解析
・ 一卵性双生児不一致例
・ 死後脳
双極性障害の遺伝研究
1) CVCD (common variant common disease)仮説
方法:
問題点:
対策:
SNP解析(関連研究)
ほとんどの研究がこの仮説を採用
再現性乏しい (166遺伝子中6個のみ)
中間表現型との関連 (例:BDNF)
2) MRVCD (multiple rare variants common disease)仮説
方法:
問題点:
対策:
まれな大家系の解析
動物モデル作成に有用
表現型定義により結果が変動
機能障害が確実な変異に注目(例:DISC1)
24
双極性障害とmtDNAの研究戦略
1) CVCD仮説
・中間表現型(Ca2+)に影響する
機能的mtDNA多型の探索
2) MRVCD仮説
・ミトコンドリア病との関連に着目し
病的変異を探索
25
Ca2+制御に影響するmtDNA多型の検索
mtDNAを失った細胞(ローゼロ細胞)
蛍光色素の遺伝子を導入
単一細胞クローニング
細胞融合
35名の被験者
由来の血小板
ハイブリッド細胞
mtDNA全周配列
(Kazuno A et al, PLoS Genetics, 2006)
26
10398A型ではG型よりミトコンドリア内
Ca2+濃度が高い
・35名で216ヶ所の多型→ミトコンドリア
Ca2+濃度と関係する多型を探索
10398A 10398G
- 10398Aが双極性障害で多い傾向 (McMahon et al, 2000)
- 10398Aが双極性障害と関連 (Kato et al, 2001)
27
身体症状を合併する双極性障害患者
におけるミトコンドリアDNA解析
• 眼瞼下垂、筋力低下、糖尿病、脳梗塞等を伴
う双極性障害患者6名を調べた
• うち1名でmtDNA 3644T>C変異を発見
• Complex I活性低下、ミトコンドリア膜電位の
低下を来すまれな変異
• 双極性障害: 9/621 [1.4%]
対照群:
1/733 [0.1%]
28
コンストラクト
神経細胞に異常なmtDNA合成酵素が産生
される遺伝子改変マウスを作製
組み込んだ人工遺伝子
神経細胞のみで発現させる
配列
DNA合成時にミスするよう配
列を異常にした酵素の遺伝子
29
POLG変異マウスにおける
サーカディアンリズムの異常
30
オス
メス
オスTGマウス:
全体に行動量低下
特に周期的な行動
量変化なし
オスTGマウス:
抗うつ薬投与後
躁転に似た
行動変化
メスTGマウス:
通常では見ら
れない性周期
に伴う行動量
変化
31
• リチウムにより
行動量の変動
は改善
(Kasahara et al,
Molecular Psychiatry,
2006)
輪回し量のばらつき
リチウムの効果
32
CPEO
遺伝性CPEOと気分障害の併発例
POLG: ミトコンドリアDNA合成酵素
33
双極性障害のミトコンドリア仮説の歩み
1992
95
脳エネルギー
代謝異常
(Katoら)
2000
ミトコンドリア機能
障害仮説を提唱
(Katoら)
2005 2006
脳でミトコンドリ
ア関連遺伝子
低下(Konradi,
Harvard大)
脳内乳酸蓄積
(Dagerら、
Washington大)
米国RepliGen社が
RG2417が有効と発表
mtDNA異常マ
ウスが双極性
障害様の行動
異常
国際学会(CINP、BP)でミト
コンドリアシンポジウム
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本日のテーマ
1)
2)
3)
4)
5)
双極性障害の研究目標
ミトコンドリア仮説のいきさつ
ミトコンドリア仮説の検証
一卵性双生児における研究
双極性障害における脳の異常とは?
35
DNAマイクロアレイ(GeneChip)
・小さなガラスの上に短いDNA断片を配置
・細胞からRNAを取り出して増幅し蛍光標識
・結合したcRNAの蛍光をスキャナーで解析
・数万の遺伝子の発現量を同時に測定
36
一卵性双生児間の遺伝子発現差異に
よる双極性障害関連遺伝子の同定
0.8%
健常双生児
XBP1
4.0% GRP78
4.8%
不一致双生児
(Kakiuchi et al, Nature Genetics 2003)
37
XBP1の「小胞体ストレス反応」における意義
Yoshida H, Matsui T, Yamamoto
A, Okada T, Mori K: Cell (2001)
38
双極性障害における小
胞体ストレス反応の低下
小胞体ストレス反応を
低下させるXBP1多型
39
XBP1 -116C/G多型と精神疾患の関連研究
40
双極性障害における小胞体ストレスに対する
XBP1反応の低下とXBP1多型の影響
So et al, Biol Psychiatry (2007)
遺伝子多型
中間表現型
疾患
41
XBP1は神経可塑性関連
転写因子か?
Unspliced form
Spliced XBP1
ERストレス
ER
IRE1
polyribosome
mRNA
XBP1
活性型転写因子
神経可塑性関連標的遺伝子
神経可塑的変化=
蛋白合成亢進
42
本日のテーマ
1)
2)
3)
4)
5)
双極性障害の研究目標
ミトコンドリア仮説のいきさつ
ミトコンドリア仮説の検証
一卵性双生児における研究
双極性障害における脳の異常とは?
注: ここから先は、今後の研究の方向性を示
したもので、まだ証明されていない仮説です!
43
双極性障害と関連が見られた遺伝子の
特異性
ミトコンドリア
• POLG変異 (パーキンソン病、糖尿病)
• mtDNA 10398多型 (パーキンソン病、寿命)
• mtDNA 3644変異 (パーキンソン病、糖尿病)
• mtDNA 3243変異 (糖尿病)
• NDUFV2多型 (パーキンソン病)
小胞体
共通のキーワード
• XBP1 (糖尿病)
:細胞死?
• WFS1 (糖尿病)
44
ミトコンドリア機能障害の意義
• ミトコンドリア糖尿病 (Kadowaki: NEJM 1994)
膵臓ランゲルハンス島の過負荷?
• パーキンソン病
ドーパミン産生細胞は、ドーパミン代謝、
鉄により、活性酸素産生↑、細胞死に脆弱
• 双極性障害ではどのような神経系が障害
されるのか?
45
双極性障害の経過
• 初期は8年位の病相間隔
• 病相を繰り返す毎に間隔が短くなる
→急速交代型(Rapid Cycling)(年に4回以上)
治療抵抗性に
細胞死?
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鍋島 俊隆 野田 幸裕 毛利 彰宏 尾崎 紀夫 稲田 俊也
理研BSI
宮脇 敦史 永井 健治 吉川 武男 山田 和男
東京都老人研
田中 雅嗣
福井医大 杏林大 信州大 昭和大学
米田 誠 田島 治 鷲塚 伸介 巽 雅彦
NTT病院
秋山 剛
東京大学
加藤 進昌 佐々木司 栃木衛 幸田和久 梅影 忠
女子医大
坂元 薫 福永 貴子
帝京大
南光 進一郎
精神神経センター
功刀 浩 田所 和幸 飯嶋 良味
藤田保衛大
岩田 仲生 鈴木 竜世 北島 剛司
浜松医科大
森 則夫 三辺 義雄 中村 和彦
共同研究者
(敬称略)
47
謝辞
研究にご協力いただいた患者の皆様
Stanley Foundation Brain Bank
E. Fuller Torrey
Marie Webster
Robert Yolken
Michael Knable
48
謝辞(研究費)
•
•
•
•
•
理化学研究所脳科学総合研究センター研究費
文部科学省 科学研究費
厚生労働省 こころの健康科学研究費
ヒューマンサイエンス財団
National Alliance for Research on Schizophrenia
and Depression (NARSAD)
• Stanley Foundation
49
理研BSI精神疾患動態研究チーム
Mitochondria
Maternal Behavior
ER Stress
笠原和起 PhD
黒田公美 MD, PhD
垣内千尋 MD
窪田美恵 PhD
林 朗子 MD, PhD Technical Staff
宗像可枝 MD, PhD Epigenetics
文東美紀 PhD/石
福家 聡 PhD
渡みずほ/亀谷瑞
岩本和也 PhD
数野安亜 MS
枝/宮内妙子/上田
倉富剛 MS
栃木 衛 MD
順子MS/磯野蕗子
50