Transcript 2013 jiji

全国的にみた 今後の社会福祉士実習のあり方

社団法人日本社会福祉士養成校協会・実習教育委員会による

相談援助実習ガイドライン ・評価表(案)

(平成 25 年 5 月版)

を考える

中部学院大学人間福祉学部 准教授 宮嶋 淳

趣 旨

1.

本学の社会福祉士実習評価の枠組みと、こ のほど提案された日本社会福祉士養成校 協会の実習評価の枠組み(案)とを比較検 討することにより、今後の社会福祉士実習 における評価のあり方を、実習生の送り出 し側並びに受け入れ側とが合同で協議し、 岐阜県に根ざした評価のあり方を検討する。 2.

そのため、社養協(案)の到達点を紹介し、 吟味してもらう機会とする。

目指されていること

• 国が示した「 社会福祉士に求められる役割 」 を獲得する • 「 求められる役割 」を獲得するための養成教 育の中での実習のあり方を向上させる • 実習内容が向上したことを証明するために、 実習の評価の標準化 をはかる

これまでの流れ

• 指導者の質の保証 – 社会福祉士実習指導者講習会 • ( 2012 年度までの修了者数約 15,000 名) – 『相談援助実習指導・現場実習教員テキスト』 • (中央法規出版 2009 年) • 評価表の標準化作業 – 日本社会福祉士養成校協会・実習教育委員会 • ( 2011 年度にガイドライン(第 1 次案 )

基本的な考え方

• 実習は、実習生の「個別な体験」であるが、学生の 就職先は多様であり、将来に役立つ必要がある。 • 課 題 – 到達点は、一般的なソーシャルワーク技術の体得であら ねばならない。 – 「特定な場」における「個別な体験」を通して、一般性・普 遍性を学ぶ=変換を必要とする。 – 事後指導での「体験と理論との統合」が重要になる。

相談援助実習・実習指導の構造と内容

養成教育 ■講義による理論学習 ■演習による練習 ■実習指導(実習前)によ る「ジェネリック」から「スペ シフィック」への変換 ■実習指導(実習後) による「スペシフィック」か ら「ジェネリック」への再変 換と知識・技術の定着 相談援助 実習 現場実践 ■分野・領域・種別の違い ■ソーシャルワーク表出 の仕方の違い ■ソーシャルワークの無 意識(非社会福祉士配置) ■ジェネリックを意識した 実習プログラミング・実習 体験の提供 ■ミクロ・メゾ・マクロソー シャルワーク体験 ■個人アセスメント・地域 アセスメントを中心に 社養協・実習教育委員会提供資料より

相談援助実習教育の展開 ~実習指導におけるジェネリックSW・スペシフィックSWの変換~ 実 習 中 事 後 学 習 事 前 学 習 ジ ェ ネ リッ ク からスペシフ ィ ッ ク への変換 具体的に現場で使われているツールやシートの理解、実習先分野・種 別・施設のニーズ、利用者像、援助内容、業務、運営、地域等の理解 スペシフ ィ ッ ク な 体験 その施設・機関の新任研修ではないので、指導者もジェネリックを意識 した実習プログラムを作成し、普遍的・基礎的SW体験を極力提供 スペシフ ィ ッ ク からジ ェ ネ リッ ク への変換 個別振り返り、評価表を活用した指導、異分野・異施設実習生同士のG W、実習総括レポート作成、実習報告会の準備などを通じて振り返りつ つ再変換、学んだ知識・技術の定着化、専門職への動機付け それまでの 講義演習は ジェネリック SWの学び 指導者との 意思疎通・ 共通認識下 で実習展開 ジレンマ解 消・SW職へ の動機付け 強化 卒業後、違う分野・領域でSWになっても、実習での学びが原体験として発揮 1 社養協・実習教育委員会提供資料より

社養協の実習ガイドラインの考え方

• 国が示した基準を読み解き、解釈したもの • 実習生の「達成度評価」の尺度 – 実習先や実習内容を評価するものではない • 社会福祉士養成における 実習教育の最低基 準(ミニマム) にしたい – 「上乗せ」「横だし」は各校の状況による

示された項目の意味

• 国が示した、実習生が経験するべき 「実習の 内容」 に沿っている。 • 示された 「実習の内容」 を「項目」に分解 • 最終的な評価では 「達成度合いを総合」

中項目 と 小項目

• 中項目を、スキル獲得(= 「~できる」レベル ) に変換したものが小項目 – 実習生には、小項目を体験させる。 – 体験させたことの積上げが「できる」というスキル の獲得(=到達点) – 体験させる=実際に「させてみる」の他に、 • レポート、テスト、ディスカッション、プレゼンテーション 等でも評価測定できる

想定される教育と実習の連動

• 前提: ガイドラインには国が示した基準に準拠した 最低限必須な内容が盛り込まれている。 • 大学の教育で「させている、させてみた」ことが、実 習先の「体験させる」プログラムと連動 • 実習先と大学とが事前に十分協議すること – – – 教育の内容と到達点を大学は実習先に示す 実習プログラムを共同で開発する 一定の力量を持つ学生を実習生として送り出す

実習実施における留意点

• 実習生は組織の一員として、可能な限り実際 の支援等に携われるようにする。 – 実習生の社会的マナーや態度などソーシャルス キル一般は、当然に学内で教育するもの • 「職場・職種・ソーシャルワーク」という三段階 は枠組みであり、時間数や日数を規制しない。

相談援助実習評価表(案)

• 評価項目は、国の基準に対応 • 評価尺度は、

A

D

4

段階 • 総合評価は、達成度。プロセス評価も重視。 • 教育的配慮としての「評価項目所見」 • 実習生に対する総評 – 高く評価できる点や今後の学習課題となる点など

《評価尺度と評価基準》

A :小項目の課題を達成し、さらにそれを上回る成果を収 めた(達成度が90%以上の場合) B :小項目の課題を、ほとんど達成した(達成度が80% 以上90%未満の場合) C :小項目の課題を、ある程度達成した(達成度が60% 以上80%未満の場合) D :小項目の課題を、あまり達成できなかった(達成度が 60%未満の場合) NA:該当しない・体験していない

評価表(案)に対する質疑

Q .これまでの講習会で学んだことと、新しいガ イドラインの共有の方法は? A .今後、改訂版のテキストが出版される。 Q .評価表の項目は、どれほどの拘束力がある のか? A .あくまで「社会福祉士養成における実習教育の 最低基準(ミニマム)を示すもの」

Q .三段階実習プログラムが定着してきた。そ のような中で、ソーシャルワーク実習の内容 をより充実させるには時間と検討が必要? A .枠組みに囚われず柔軟に対応して頂ければよ い。 Q .領域別・種別毎の評価表が例示されても良 いのではないか。とくに社協や行政、施設毎。 A .種別毎のガイドラインについては、今後の検討 課題。

Q

.社会人としてのマナーは実習前の課題とし ても、援助者としてとるべき適切な態度、その ような自己を振り返る自己覚知は、実習でこ そ体験的に学ぶべき内容ではないか? A .相談援助実習ガイドライン「ア 利用者やその関 係者、施設・事業者・機関・団体等の職員、地域 住民やボランティア等との基本的なコミュニケー ションや人との付き合い方などの円滑な人間関 係の形成」の中で評価してもらいたい。

Q .ガイドライン及び評価表の統合・簡潔化をし てもよいか。 A .相談援助実習・実習指導の教育内容に含むべ き事項は、本協会のこれまでの方針や国の検討 報告書等で想定されている社会福祉士像を到達 目標としている。 各養成校において、これらの項目を参考にしつつ 教育を行うことによって、全国的な実習教育の標 準化が図れる。 180 時間という限られた実習時間ではあるものの、 時間的制約を理由として、実習教育に含むべき 事項を統合・簡潔化すべきものではない。

Q .「達成度は低かったが、実習は終わった」と いう状態を、どのように考えるのか。 「終われば良い」ということでないとするなら ば、「この水準以上での遂行がクリアのライ ン」というものが必要ではないか。 Q .評価表案の「各項目の所見欄記載」は、実 習指導者への負担感が増すことが懸念され る。総合的な所見で良いのではないか。 A .現段階では、各養成校教員と実習指導者との 検討によって設定して頂くことになる。

Q .評価項目は 21 に分類されており、現状の実 習時間では NA 項目が多くなることが予測さ れる。 A .実習プログラム作成段階で、 NA が多く付きそう な場合には、教員、学生、実習指導者の三者に よって、プログラムの再検討をお願いしたい。 Q . 「実習記録ノート」に関する評価が必要では ないか。 A .ガイドラインのキの( 18 )の小項目に「③実習記 録ノートを適切に記入し管理することができる」を 設け、学生による管理を徹底している。

厚労省「相談援助実習の目標」

①相談援助実習を通して、相談援助に係る知識と技 術について具体的かつ実際的に理解し実践的な技 術等を体得する。 ②社会福祉士として求められる資質、技能、倫理、自 己に求められる課題把握等、総合的に対応できる 能力を習得する。 ③関連分野の専門職との連携のあり方及びその具体 的内容を実践的に理解する。

厚労省「相談援助実習の内容」

ア イ ウ エ オ カ キ ク 利用者やその関係者、施設・事業者・機関・団体等の職員、地 域住民やボランティア等との基本的なコミュニケーションや人と の付き合い方などの円滑な人間関係の形成 利用者理解とその需要の把握及び支援計画の作成 利用者やその関係者(家族・親族・友人等)との援助関係形成 利用者やその関係者(家族・親族・友人等)への権利擁護及び 支援(エンパワメントを含む。)とその評価 際 多職種連携をはじめとする支援におけるチームアプローチの実 社会福祉士としての職業倫理、施設・事業者・機関・団体等の 職員の就業などに関する規定への理解と組織の一員としての役割 と責任への理解 施設・事業者・機関・団体等の経営やサービス管理運営の実際 当該実習先が地域社会の中の施設・事業者・機関・団体等であ ることへの理解と具体的な地域社会への働きかけとしてのアウト リーチ、ネットワーキング、社会資源の活用・調整・開発に関す る理解

国の基準 国の基準に即 して、習得すべ きこと できるようにさせること =評価すべきこと 評価すべきこと =体験させること

中項目に対応 評価尺度と基準 各々 A ~ D 、 NA を 記入

ア 利用者やその関係者、施設・事業者・機関・ 団体等の職員、地域住民やボランティア等との基 本的なコミュニケーションや人との付き合い方な どの円滑な人間関係の形成 • • • • 職員、利用者、地域住民等様々な人たちと、あらゆる出会い の場面において挨拶、自己紹介など適切な対応をする 利用者とのかかわりを通して、一人ひとりに求められる言語 コミュニケーション、非言語コミュニケーションの種類や内容 を整理し、職員に説明する 対応が困難な利用者への関わり方について実習指導者や 職員にスーパービジョンを求める 不特定の利用者と会話をしたり寄り添ったりするなど、その 人に合った関係形成の方法を学ぶ

イ 利用者理解とその需要の把握及び支援計画の作成 • 利用者の理解の方法に関するスーパービジョンを受ける • 実習指導者や職員の利用者理解の実践を観察する • 利用者理解の要点や配慮すべき点等を説明する • 学習した内容について整理し、実習指導者に説明する • 現在または過去の利用者のアセスメント・シートを用い て、アセスメント・シートの構造や使用方法を学ぶ • 現在または過去の事例記録から数例を選択し、アセスメ ントのポイント、手順等を整理する • 担当するケースを決めてアセスメントを実施する(利用 者の状況や実習生の状況により、実習指導者が決める) • アセスメントの結果について適宜スーパービジョンを実 施する • アセスメントをするための面接機会を設ける • 支援目標・支援計画についてスーパービジョンを行う (抜粋)

ウ 利用者やその関係者との援助関係の形成 • • • • • • • 援助関係を形成する際のポイントや配慮を説明する 面接、アセスメント、支援計画作成、説明の過程を通じて援 助関係形成に取り組む ケースワークの原則や傾聴・要約・解釈・明確化・促し・沈 黙・繰り返し・共感等を意識した実習指導者または職員によ る面接を観察する 同様の面接を実施する 利用者と家族の面会場面への同席、家族会への参加、送迎 時の場面や会話を観察する 家族・親族・友人等との面接を行う 利用者の家族ケース記録、家族会の議事録等を閲覧する (抜粋)

エ 利用者やその関係者(家族・親族・友人等)への権 利擁護及び支援(エンパワメントを含む。)とその評価 • 実習機関・施設で実施している権利擁護、苦情解決の取り 組みを通して権利擁護活動を説明する • 第三者評価を通して利用者の権利擁護の取り組みを理解す る • 成年後見制度、未成年後見制度、権利ノートについて説明 する • エンパワメントの観点から支援を分析し、実習機関・施設 の取り組みを抽出する • 一人の利用者に着目し、必要な支援に対するモニタリング を体験する • 支援内容や計画を評価する目的や方法に関する指導を受け、 実際に評価する (抜粋)

オ 多職種連携・支援チームアプローチの実際 • • • • • • • • • • • 組織内の各部署および他職種の業務について、それぞれの担当 者から説明を受ける/担当者への聞き取りを行う 組織内の各部署および他職種の業務を同席・同行・見学する チームで取り組んでいる事例の紹介と説明を受ける カンファレンスや地域ケア会議等に同席し、他職種によるチームア プローチの実際を観察する 職員会議・委員会・事例検討会など組織内で開催される会議に同 席する 他機関との合同会議、住民参加の会議など組織外で開催される 会議に同席する 参加・同席した会議の記録を作成する 会議における司会進行者及びメンバーの動きを観察する 関連する機関・施設を見学し、役割・業務の説明を受ける 関連する専門職の役割・業務の説明を受ける 事例検討会・ケースカンファレンス等に同席する

カ 社会福祉士としての職業倫理、施設・事業者・機 関・団体等の職員の就業などに関する規定への理解 と組織の一員としての役割と責任への理解 • • • • 実習指導者業務のタイム・スタディを行い、利用者との関わり 場面、計画作成・支援過程、チームアプローチ場面等におけ る倫理判断に基づく行為を発見・抽出し、説明する ケースカンファレンス等において、利用者への支援内容や方 向性を検討する 個人情報保護のための取り組みについて説明を受ける 実習機関・施設の就業に関する規定について説明を受ける

キ 施設・事業者・機関・団体等の経営やサービスの 管理運営の実際 • • • • • • • 実習機関・施設の意思決定過程の説明を受ける 各種委員会に同席する 実習機関・施設の法的根拠が記載されている文書の説明を 受ける 事前学習で調べた事業報告書及び決算書に関する説明を 聞き、不明な点を質問する 作成された文書について説明を受ける 文書を媒介した情報共有・連携について説明を受ける 業務日誌・ケース記録等の書き方について説明を受ける

ク 当該実習先が地域社会の中の施設・事業者・機 関・団体等であることへの理解と具体的な地域社会へ の働きかけとしてのアウトリーチ、ネットワーキング、 社会資源の活用・調整・開発に関する理解 • • • • • • • • • 事前学習で調べた地域アセスメントの内容を指導者に説明・発表 する 事前学習で調べた内容を説明・発表する 関係機関や住民組織が参加する会議や行事に参加する 地域福祉計画・地域福祉活動計画を閲覧する 分野別の諸計画を閲覧する 地域住民への働きかけの取り組み(地域組織化・当事者組織化・ ボランティア組織化や事業企画実施等)について説明を受ける 地域アセスメントの方法に関するスーパービジョンを受け実際に行 う 関係機関や住民組織がかかわる会議や行事に参加する 地域住民や当事者の組織の会議や行事に参加する