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生物学
第7回 エネルギー代謝
和田 勝
1
筋収縮による運動
2
鞭毛による精子の運動
精子の頭部を固定し、尾部の鞭毛
運動を観察している
3
ホタルの発光
4
エネルギーの必要性
筋収縮や鞭毛・繊毛による運動は、モ
ータータンパク質の相互作用でおこり、
エネルギーが必要です。
ヌクレオチドの伸長、リボソームにおけ
る翻訳など、細胞の中でおこるあらゆる
反応にもエネルギーが必要です。
それでは細胞はどのようにして必要な
エネルギーを得ているのでしょうか。
5
エネルギーとは
ある系が潜在的に持っている、外部
に対して行うことができる仕事量の
ことを言います。
力学的エネルギー
運動エネルギー
位置エネルギー
化学的エネルギー
熱エネルギー・光エネルギー
6
化学エネルギー
生物は、食物の持つ化学エネルギ
ーを取り出して、利用しています。
7
生体内での化学反応
異化(catabolism)
代謝(metabolism)
同化(anabolism)
異化:食物を分解し、材料とエネルギー
を得る
同化:材料からエネルギーを使って細
胞構築用の分子を合成
8
生体内での化学反応
代謝というと、食べたものがどのように
変わっていくかというイメージが強いと
思いますが、生体の中では、物質代謝
とエネルギー代謝は常にカップルしてい
ます。
何をするにもエネルギーが必要だから
です。
9
代謝経路
分子A
分子B
酵素A
●
分子C
酵素B
酵素C
●
●
●
●
●
のように表すこともできる
このような経路を代謝経路(metabolic
pathway)と言います。
10
細胞内の
代謝経路の
全体像
太線がこれから
学ぶ部分
11
お話の舞台
サイトゾール
ミトコドリア
12
ミトコンドリア
内膜
膜間腔
基質
外膜
クリステ
クリステ
実際の形は糸状から棍棒状まで様々です。
13
エネルギー代謝
化学エネルギーをどう取り出すか、
というのが最大の問題です。
結論から言ってしまえば、糖ある
いは脂肪の持っている化学エネル
ギーを、生体にとって取り扱いや
すいATPという分子の化学エネル
ギーに置き換え、これをエネルギ
ーの必要なすべての過程で利用し
ています。
14
エネルギー代謝
生体の中の化学反応にはエネルギ
ーを放出する発エルゴン反応とエネ
ルギーの供給を受ける必要がある
吸エルゴン反応があります。
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発エルゴン反応
酵素はこの
活性化エネ
ルギーを小
さくする
(b-c)のエネルギーを発生
(a-b)の活性化エネルギーが必要
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吸エルゴン反応
(a-c)のエネルギーを供給する必要
がある。同化はこちらの過程。
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共役反応
そこで吸エルゴン反応を進行させるた
めに、エネルギーを供給する反応を
共役させて、エネルギー収支をあわ
せています。
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エネルギー供給分子
アデノシン三リン酸(ATP)
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ATPの役割
ATP→ADP+Pi+エネルギー
BOH+ATP→BO-リン酸+ADP
BOH
ATP
BO-リン酸
ADP
AH+BO-リン酸→AB+Pi
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共役反応の例
ヌクレオチド
伸長の場合
5’
3’
21
電子(とプロトン)の運搬
脱水素酵素
ここに電子が
2個ある
→還元
酸化←
したがって基質は脱水素により酸化
されます。
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その他の活性型運搬体分子
リン酸基、電子(プロトン)以外にも、
代謝反応には、多くの活性型運搬体
分子が登場します。
アセチル基、カルボキシル基、メチ
ル基などの運搬体があります。
アセチル基は、アセチルCoAが運搬
します。
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エネルギー獲得のかたち
ふつうは燃焼=急激な酸化反応
●
生体内ではこの方式はとりえない。
●
生体内では脱水素による酸化。しか
も徐々におこる。
●
脱水素による酸化がおこる場所と実
際に使う場所とは異なっている。
●
その間をとりもっているのがATP。
●
24
グルコースの酸化
燃焼
●
C6H12O6+6O2→6CO2+6H2O+熱
●生体内
C6H12O6+2NAD+ →
2ピルビン酸+2NADH+2H+
2ピルビン酸+8NAD++2FAD+6H2O
→6CO2 +8NADH+8H++2FADH2
10NADH+10H++2FADH2+6O2
→10NAD++2FAD+12H
2O
25
生体内での酸化と燃焼
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消化により原料を(第一段階)
タンパク質
アミノ酸
多糖類
単糖類
脂肪
脂肪酸と
グリセロール
消化
細胞へ
吸収
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第二段階(解糖glycolysis)
アミノ酸
単糖
脂肪酸
ピルビン酸
ブドウ糖(グルコース)の場合は解糖
という過程で。サイトゾールで進行し
酸素はいらない。
このとき少量のATPとNADHが生成
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第三段階
ピルビン酸はアセチルCoAになり完
全に酸化されて水と二酸化炭素に。
この過程はすべてミトコンドリア内で
第三段階は、TCA回路と電子伝達系
・酸化的リン酸化から構成される。
この過程で大量のNADHが生成し、
これがATPの大量生成に使われる。
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第二段階と第三段階まとめ
それでは第二段階から順を追って
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解糖(glycolysis):1
グルコース
グルコース
6-リン酸
ATP
フルクトース
6-リン酸
ジヒドロキシア
セトンリン酸+
グリセルアル
デヒド3-リン酸
フルクトース
1,6-ビスリン酸
ATP
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解糖(glycolysis):2
グリセルアル
デヒド3-リン酸
NAD++Pi
3-ホスホグリセ
リン酸
1,3-ビスホスホ
グリセリン酸
NADH+H+ ADP ATP
2-ホスホグリセ
リン酸
ピルビン酸
ホスホエノール
ピルビン酸
ADP32ATP
解糖全体
33
解糖とNADH、ATP
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解糖からTCA回路へ
酸素が
あると
右側へ
進める
酸素が
無いと
左側へ
進む
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酸素が無い場合
解糖の過程を進めつづけるために
は、NAD+が必要。
NADHがNAD+に再生される必要
がある。
ピルビン酸から乳酸(乳酸発酵)、
あるいはアセトアルデヒドを経てエ
タノール(アルコール発酵)が生成
される過程でNAD+が再生する。
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酸素が
無い場合
NADH
↓↑
NAD+
のリサイ
クル
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酸素があると
ピルビン酸はミトコンドリア基質で
アセチルCoAへ
この過程で二酸化
炭素とNADHが
それぞれ1分子生成
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TCA回路
1.二酸化炭素が
2分子生成
2.基質レベルの
リン酸化で
GTPが1分子
生成
オキザル酢酸
リンゴ酸
クエン酸
イソクエン酸
フマル酸
3.NADHが3分子
生成
コハク酸
αケトグルタル酸
スクシニルCoA
4.FADH2が1分子
生成
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TCA回路と
NADH、ATP
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ミトコンドリア内膜
ミトコンドリア内膜にはたくさんの
タンパク質が埋め込まれている。
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電子伝達系
膜間腔
ミトコンドリ
ア・マトリッ
クス
活性電子のはたらきで、プロトンが
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膜間腔へ汲み出される。
ATP合成酵素(ATPsynthase)
膜間腔
内膜
a1b2c12
基質
α3β3γ1δ1ε1
43
aからεは、
いずれもポ
リペプチド鎖
ATP合成酵素は回転する
回転の可視化
http://www.res.titech.ac.jp/~seibutu/main_.html
44
ATP合成酵素(ATPsynthase)
膜間腔
内膜
a1b2c12
基質
α3β3γ1δ1ε1
45
回転によってATPが合成
ADP+Pi → ATP
↑
回転の力
46
回転によってATPが合成
回転によるATP合成のモデル
47
電子伝達系とATP生成のまとめ
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ATP生成のキモ
生体膜を挟んでプロトンの勾配を
作る。
この勾配を利用して、プロトンを特
殊なタンパク質(ATPase)を通過さ
せ、回転力を得る。
この回転のエネルギーを利用して、
アデノシン二リン酸にリン酸を付加
する。
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まとめ
ここまでで細胞が生きていくため
に必要なエネルギーを、どのように
得ているかを学びました。
それでは、グルコースはどのよう
に作られるのでしょうか。
50
グルコースの合成
合成反応(仮想的で、ありえないが)
●
6CO2+6H2O+熱→ C6H12O6+6O2
●生体内
12H2O+12NADP++光エネルギー
→12NADPH+12H++6O2
6CO2 +12NADPH+12H+
→ 2グリセルアルデヒド-3-リン酸
+12NADP + +6H2O
2グリセルアルデヒド-3-リン酸
→C6H12O651
電子(とプロトン)の運搬
水素添加酵素
(→還元)
酸化←
アデニンのリボースにリン酸付加
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ここに電子が
2個ある
葉緑体
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第一段階(光合成電子伝達系)
チラコイド膜にクロロフィル。
クロロフィルが光エネルギーを受け
て、電子を活性化する。
光化学系Ⅱで、チラコイド膜を挟ん
でプロトンの偏りを起こす。
このプロトン勾配を利用してATPを生
成(ミトコンドリア内膜の場合と同じ)
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ATP合成酵素(ATPsynthase)
チラコイド内腔
チラコイド膜
a1b2c12
α3β3γ1δ1ε1
ストロマ
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aからεは、
いずれもポ
リペプチド鎖
第一段階(光合成電子伝達系)
電子は水から供給される。ここで酸
素が発生する。
電子は光化学系Ⅰに渡され、再び
光エネルギーで活性化される。
この電子を使ってNADP+にH+を付
加してNADPHを生成
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光電子伝達系のまとめ
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光電子伝達系のまとめ
光エネルギーを使って電子を活性
化し、電子を受け渡して次の2つの
ことをする。
1)ATPの合成
2)NADPHの生成(還元力)
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第二段階(炭酸同化反応)
ストロマにカルビン・ベンソン回路
この回路に二酸化炭素が入り、こ
れを第一段階で生成したNADP
の水素とATPのエネルギーを使っ
て還元する。
生成するのはグリセルアルデヒド-3リン酸。これから糖が合成される。
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炭酸同化反応
60
光合成のまとめ
61
エネルギーの流れと炭素循環
植物
太陽エネルギー
糖+O2
動物
NAD+→NADH
CO2とH2O の発生
チラコイド膜両側の
プロトンの偏り
宇宙船地球号
ミトコンドリア内膜両側の
ADP+Pi → ATP
NADP+→NADPH
プロトンの偏り
H2O+CO2 →糖+O2
62
ADP+Pi → ATP
生きるための
エネルギー
エネルギーの流れと炭素循環
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