排出権取引がZARAのサプライチェーン・ネットワークに及ぼす影響

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Transcript 排出権取引がZARAのサプライチェーン・ネットワークに及ぼす影響

排出権取引がZARAのサプ
ライチェーン・ネットワークに
及ぼす影響に関する研究
海運ロジスティクス専攻
0755018 南 洋
指導教員 黒川 久幸
1
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
2
•
1.
2.
3.
研究背景
地球温暖化問題及び取り組み
アパレル業界の環境問題
排出権取引について
3
1.
地球温暖化問題及び取り組み
4
地球温暖化―京都議定書

1997年に地球温暖化防止会議が京都で開催さ
れた。CO2など温室効果ガスを削減するため京
都議定書を定めた。
5
2.アパレル業界の環境問題
アパレル企業
物流におけるCO2の排出
川上
(原糸・原綿)
川中
(織物・編物・染色)
川下
(小売店・百貨店)
6
大手企業の輸送例

アパレル業界大手企業の一つ
ZARAは航空機を用いた製品の
空輸を行っており、店舗への配
送におけるCO2排出量が多く
なっている。このため、排出規制
が強くなれば、ZARAは工場や
物流センターの立地を見直す必
要が出てくると考えられる。
7
3.排出権取引

国や企業ごとに温室効果ガスの排出枠(キャップ)を割り当て、枠
を超えて排出した国(企業)と余っている国(企業)との間で排出量
を取引(トレード)する制度。
8
排出権取引市場




1EUA=CO2排出量1トン
価格:2005年~2007年の間、15ユーロから36ユーロの間に変動してい
る。
罰金:05~07年 40ユーロ/ton
08~12年 100ユーロ/ton
罰金を払っても、排出枠の超過分の削減義務が消失する訳ではない。つ
まり、100ユーロは上限ではない。CO2排出量の規制が益々厳しくなる。 9
排出権取引が輸送会社、荷主に与える影響

排出権取引がCO2に費用を掛かるため、輸送
会社及び荷主は排出権取引を積極的に対応し、
自社のCO2排出量を削減しなければならない。

排出権取引が輸送会社に与える影響
排出権取引が荷主に与える影響

10
排出権取引が輸送会社に与える影響
環境を益々重視している現
在、各産業に対し、CO2排
出量を減少する要求が強
まっている。
 2006年、CO2を最も排出し
た産業部門の排出量が
1990年と比べ、3200万トン
を減少したことに対し、輸送
輸送部門のCO2削減要求が強まっている
部門のCO2排出量は3700
万を増えた。したがって、輸
送部門に対する排ガス規
制が厳しくなっている。

11
排出権取引が荷主に与える影響



輸送会社にCO2削減の要求が強まっている同
時に、荷主としても環境を重視しなければならず。
重視しない荷主に対し、「罰則」などのペナル
ティーが実施される可能性も高まっている。
その他、輸送会社から運賃の値上げ要求も対応
すべき。
貨物
排出権取引の効果
輸送会社
運賃値上
げ要求
荷主
12
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
13
•研究目的

本研究では、規制が益々厳しくなっている現在、
排出権取引がZARAのサプライチェーン・ネット
ワークに与える影響を検討することとする。
14
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
15
•ZARAの紹介


スペインにあるZARAはアパレル業界において
最も大手企業の一つである。2007年の売上高
は94.35億ユーロであり、営業利益率が17.5%
と高水準になっている。
ZARAの店舗数は逐年600店舗を増加し、世
界へ積極的に進出が行っている。
16
ZARAの配送図
ZARA`s Global Map
17
ZARAのサプライチェーン・ネットワーク
産地1
工場1
船便
物流センター
トラック
工場2
産地2
トラック
EU店舗
空輸
EU以外店舗
原材料
製品
18
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
19
•モデル定式化
ZARAの総費用及びCO2の排出量を定式化し
た。
 求める各項目は原材料費用、調達費用/CO2
物流センター費用/CO2、横もち費用/CO2、生産
費用/CO2、配送費用/CO2、店舗費用/CO2であ
る。

20
目的関数の説明

費用


C1:原材料単価(ユーロ・枚/年)
C4:物流センター費用単価(ユーロ・枚/年)
C7:生産費用(ユーロ/枚)
C10:店舗保管費用単価(ユーロ/枚)

CO2

g2:調達CO2排出量 (トン・枚/Mm)
g5:横持ちCO2排出量(トン・枚/Mm)
g8:配送CO2排出量 (トン・枚/Mm)
g3,g6,g9:固定CO2排出量(トン)





C2:調達単価(ユーロ・枚/Mm)
C5: 横もち単価(ユーロ・枚/Mm)
C8:配送単価(ユーロ・枚/Mm)
C3,C6,C9:固定費用(百万ユーロ)
g4:物流センターCO2排出量(トン・枚/年)
g7:製品生産CO2排出量(トン・枚/年)
g10: 製品保管CO2排出量(トン/枚)
各項目の意味を示す
X
Y
TT
SKY
SKX
STY
原材料(枚)
S
製品(枚)
B
時間(年)
DEM
工場製品在庫回転期間(日)
工場原材料在庫回転期間(日)
店舗製品在庫回転期間(日)
サプライヤー T
物流センター K
店舗需要(枚) DIS
SBY
SBX
(物)
店舗
工場
距離(Mm)
(物)製品在庫回転期間(日)
(物)原材料在庫回転期間(日)
物流センターを示す
21
1.費用の定式化
c1   xsb  TTsb  xsb 
原材料費用
sS bB
c2   xsb  DISsb
調達輸送費用
sS bB
物流センター費用
(入出庫のみ考慮)
①原材料
固定費
②製品

 c3b  c 4 b

bB 
保管費


   x sb   xbk  TTbk  xbk  
kK
 sS





c
3

c
4

y

y

TT

y




b
b
kb
bt
bt
bt 
bB 
kK
tT

c5   xbk  DISbk  y kb  DISkb 
横持ち費用
固定費
bB kK
生産コスト
生産費用




c
6

c
7

y

TT

y

SKY

y



k
k
kb
kb
kb
kb 
kK 
bB

配送費用
c8   ybt  DISbt
bB tT
店舗費用
(入庫のみ考慮)


c
9

c
10

y



bt 
tT 
bB

生産量
22
2.CO2排出量及び費用の定式化
調達輸送 CO2
g2   xsb  DISsb
sS bB
物流センターCO2
①原材料







g
3

g
4

x

x

TT

x




b
sb
bk
bk
bk  
 b
bB 
kK
 sS

②製品




g
3

g
4

y

y

TT

y



b
b  kb
bt
bt
bt 
bB 
kK
tT

横持ち CO2
g5   xbk  DISbk  y kb  DISkb 
bB kK
生産 CO2

  g 6
kK
配送 CO2
k

 g 7 k    y kb  TTkb  y kb  SKY  y kb 
bB

g8   ybt  DISbt
bB tT
店舗 CO2

  g9  g10   y
tT
CO2 費用
bB
bt



c13 (CO2排出量-排出枠)
23
制約条件
y
bt
bB
y
kb
  ybt  SBY   ybt   TTbt  ybt , b  B
bk
  ykb  SKY   ykb  SKX   ykb   TTkb  ykb , k  K
kK
x
bB
x
sS
 DEMt  STY  DEMt , t  T
sb
tT
tT
bB
bB
kK
kK
tT
bB
bB
  xbk  SBX   xbk   TTbk  xbk , b  B
kK
x, y  0
在庫を重視する
24
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
25
•検討及び考察

この研究は下記の検討を行った
①空輸による高速・高頻度配送の理
由解明
②排出権取引がネットワークに与える
影響
26
①空輸を利用する原因
航空機
運賃
高い
配
送
時
間
短い
船舶
在庫回
転期間
短い
運賃
安い
配
送
時
間
短い
在庫回
転期間
長い
27
航空機・船舶による費用の比較

パラメーターの設定
配送単価
ユーロ/枚
0.4 在庫回転期間(日)
0.9
1.4
1.9
2.4
5
10
15
20
25
28
航空機による高速・高頻度配送の理由解明
空輸運賃 Es
航空機と船舶輸送費用の比較
0.39
0.38
0.37
0.36
0.35
0.34
0.33
0.32
0.31
船舶
航空機
航空機・船舶による費用差が0
0
5
10
15
20
在庫回転期間(日)
25
30
店舗における在庫回転期間が短ければ、配送に掛かる費用が高くても総費
用を低減できることが分かる。
29
航空機・船舶による在庫量の比較
航空機・船舶による在庫量の比較
600
在庫量 万枚
500
400
空輸の場合
300
200
100
0
0
5
10
15
20
25
30
在庫回転期間(日)
在庫回転期間が短ければ、在庫量が少なくこの在庫に掛かる費用の差が、
配送費用の上昇を補っていることが分かる。
30
配送時間と総費用の関係

制約条件
y
kK
在庫量に
よる費用
が不同
kb
  ybt  SBY   ybt  TTbt  ybt ,b  B
tT
物流センター
店舗
tT
tT
工場
店舗
31
•検討及び考察

この研究は下記の検討を行った
①空輸による高速・高頻度配送の理
由解明
②排出権取引がネットワークに与える
影響
32
現状・分散ネットワーク
産地1
工場1
物流センター
産地2
工場2
現状ネットワーク
EU店舗
EU以外店舗
原材料
店舗
製品
工場
工場
店舗
物流センター
物流センター
産地1
産地2
工場
物流センター
店舗
店舗
分散ネットワーク
EU
AM
ASIA
工場
33
パラメーターの設定
現状の配送単価
トラック:0.17(ユーロ・枚/Mm)
航空機:0.35(ユーロ・枚/Mm)
分散の生産コスト
ユーロ/枚
China
0.9 Mexico
1.2 Spain
2
34
現状・分散費用及びCO2排出量の比較
費用百万ユーロ 現状
分散
CO2排出量 T
現状
分散
原材料費用
960
940
調達輸送費用
464
413 調達輸送CO2
108382
100449
物流センター費用
891
875 物流センターCO2
83604
78616
横もち費用
184
193 横もちCO2
84623
118096
生産費用
2524
2529 生産CO2
83862
87963
配送費用
309
172 配送CO2
248319
140355
店舗費用
2716
2719 店舗CO2
372633
373007
設備
212
合計
8049
8054 合計
981423
898485
差
-5
差
82938
現状費用<分散費用
現状CO2>分散CO2
35
②
排出権取引がネットワークに
与える影響
CO2費用=CO2価格*(CO2排出
量-排出枠)
CO2価格
排出枠
36
CO2費用が総費用に与える影響

排出権取引市場の取引価格:2005年から2008年にかけて、
1トン当たりCO2単価は15ユーロから36ユーロの間で変動
している。最近は増えている傾向が見える。
CO2単価の設定
CO2単価
ユーロ/トン
20
60
30
70
40
80
50
90
37
CO2単価と総費用の関係
企業費用 MEs
CO2価格と費用の関係
8150
8140
8130
8120
8110
8100
8090
8080
8070
8060
現状
分散
60ユーロ時、逆転
0
20
40
60
CO2単価 Es
80
100
取引価格の上昇に伴って分散の場合の総費用が安くなることが分かる
38
排出枠と費用の関係
CO2の排出量が排出枠を超えた場合、CO2に費用を掛かる
CO2
現状
分散
排出枠の設定
排出枠
万トン
0
89.85
75
90
万トン
98.14
89.85
80
95
85
98.14
1、排出枠を最も厳しい0の場合
2、現状と分散両方CO2に費用を掛かる場合(75-89.85万トン)
3、現状にCO2費用を掛かる、分散にCO2費用を掛からない場合(89.85-
98.14万トン)
4、枠の設定が非常に大きい場合(98.14を超えた場合)
39
排出枠を変化させた場合の影響
現状・分散による総費用の比較図
180
CO2単価 ユーロ
160
153
140
分散
120
現状
100
80
現状・分散総費用が等しい
60
59
58
57.93512
40
20
75
80
85
90
95
100
排出枠 万トン
排出枠の変化により、現状と分散の総費用等しい取引価格の変化すること
が分かった。
40
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
41
•結論

本研究では、ZARAにおける空輸を用い
た高速・高頻度の配送理由について解明
するとともに、排出権取引がZARAのサプ
ライチェーン・ネットワークに与える影響に
ついて検討した。
42
•結論1

店舗における在庫回転期間を短縮できれ
ば、配送費用が上昇しても総費用を安く
できることが分かった。
43
結論2


排出権取引が導入されて厳しい排出枠が企
業に課せられ、取引価格が上昇すれば、
ZARAは物流センター等の配置を見直す必要
があることが分かった。
具体的には分散型のサプライチェーン・ネット
ワークを再構築する必要に迫られることが分
かった。
44
目次







研究背景
研究目的
ZARAの紹介
モデル定式化
検討及び考察
結論
今後の課題
45
•今後の課題
1.実際のデータを用い、厳密な結果を検討す
る。
2.生産スケールの視点から検討する。
46
ご清聴ありがとうございました
47
EU-ETS




EU-ETS(背景・内容)
EU-ETSが受けた恩恵
EU-ETSの強化
EU-ETSが日系企業に与える影響
48
地球規模の温室効果が排出量の推移
10億トンCO2換算/年
出典:「IPCC第4次評価
報告書統合報告書政策
決定者向け要約(仮
訳)」、文部科学省・経済
産業省・気象庁・環境省、
2007
49
世界および先進国の温室効果ガス排出状況(2005)
出自:環境省
50
先進国の温室効果ガス排出量の推移
排出量増加:スペイン
(53%)、ポルトガル(43%)、
ギリシャ(27%)、豪州
(26%)、カナダ(25%)、米
国(16%)、イタリア(12%)、
日本(6.9%)など
旧先進西側国
先進国合計
経済移行国
排出量減少:デンマーク(7%)、スウェーデン(-7%)、
英国(-15%)、ドイツ(-18%)、
チェコ(-26%)、ポーランド(32%)、ハンガリー(-31%)、
ロシア(-29%)、ウクライナ
(-55%)など
出自:UNFCCC,2007
51
EUの地球温暖化対策 EU-ETS
EU-ETS:2050年までに
各国の排出量を
1990年比べ60~80%
削減する目標を設定した
52
EU各国のNAP排出枠
24.3%
53
EU域内排出権取引制度の概要
項目
制度の内容
取引期間
第1期間:2005年~2007年
第2期間:2008年~2012年
EU27ヶ国CO2排出総量の約50%をカバー
第1期間の
目標
CO2排出枠 第1期間の割当量:22.985億t/年
の総割当量 第2期間の割当量:20.809億t/年
未達成時の 第1期間:40ユーロ/t;
措置
第2期間以後:100ユーロ/t
域外連携
協定締結により域外と排出枠と交換できる
54
EU-ETSの成果
第1期間
2005
2006
2007
CO2 トン
3億
11億
22億
排出権取引高(第1期間)
排出権取引金額シェア
25%
35%
EU域外
EU
65%
EU域外
EU
75%
55
EUが受ける恩恵

温室効果ガスの排出量削減は、地球規模の気温変動
による大きな被害を防ぐことに加え、広範な恩恵をEU
にもたらすと予想されている。
1、エネルギー安全保障の向上
2、大気汚染の緩和と医療費の削減
3、雇用の増加
56
エネルギー安全保障の向上




「従来のとおり」:
エネルギー依存度:現在50%から2030年65%へ上昇する
特に、輸入ガス依存度:現在57%から2030年の84%へ上昇
する
石油に関しては:現在82%から93%へ上昇する。
措置を実施した場合:石油及びガスの輸入量を約20%を削減
できる。
措置を実施しない場合:資源が乏しくなるにつれて、価格変動
と国際紛争のリスクが高まる。
57
大気汚染の緩和と医療費の削減


欧州ではいまだに大気汚染が原因で毎年37万
人が若くして亡くなっているが、温室効果ガス排
出量の削減はこの大気汚染を減らすことにもな
る。
CO2排出量を2020年までに10%削減するだけ
で、毎年最大で270億ユーロの医療費が節約さ
れる。
58
雇用の増加


環境産業は、欧州経済において最も活気のある分野の一つ
であり、グリーン技術・製品及びサービスに対する世界的な
需要に応じて、年率で約5%の成長を維持している。
その雇用数はすでに200万人を超えている。
雇用機会を生み出す:バイオマス及びバイオ燃料の利用
を増やすことで、EU全体で30万の新規雇用を創出するこ
とが可能である。
59
EU-ETSの強化:輸送機関の排出制限

EUでは製造活動、エネルギー及び廃棄物から発生する温
室効果ガス排出量の削減が順調に進む一方で、輸送機関
から発生する排出量は増加している。この傾向を食い止めな
ければならない。
航空機:航空機に対する法案が審議されている。
自動車:2012年までにCO2平均排出量を1KMあたり
120グラムに削減する目標を設定した。
60
EU-ETSが日系企業に与える影響
CO2価格の上昇や超過した量が増えれば、数千万・数億円の対策費が必要!
10%を超過した場合,1社当たり年間7万
8,909ユーロと想定(1000万円)
(20ユーロ/トン)
61
EU-ETSに対する対策



排出量の管理
排出購入費の管理
EU-ETSの制度情報に対する情報収集
EU-ETSに対する日系企業の対応は、欧州企業に比べて
遅れている印象は否めない。今後はEU-ETSへの対策が
投資コストの重要な要因となることが予想されるため、応
酬で事業展開する日系企業の対応に注目が集まってい
る。
62