Transcript uemura
AGNジェットの可視光観測
ブレーザーの可視偏光観測
~VSOP-2 偏光マップとの共同研究のために~
植村誠 (広島大学)
VSOP-2 Workshop 2009
広島大学 東広島天文台
2006年開所
1.5-m かなた望遠鏡
TRISPEC
可視ー近赤外同時撮像・分光・偏光
名古屋大学Z研が開発
本講演の内容
(目的)電波と可視で「偏光」をキーワード
に共同研究して、ブレーザーの変動機構に迫
りたい
ブレーザーの偏光観測:問題点の整理
VSOP-2と可視観測
ブレーザーの可視偏光観測
新たなアプローチの提案
「かなた」データとその解析
まとめ
ブレーザーSED
BL Lac : Ravasio et al. (2002)
電波ー可視
ジェットからのシンク
ロトロン放射が卓越
One-zone? Multi-zone?
ブレーザーのVLBI偏光マップ
VLBAによるブレーザーのVLBI偏光マップ
Marscher et al.
(2002)
コアの周りにも
強い偏光成分
(ノット)
コア内部でも複
数の偏光成分
VSOP-2ではさら
に高い分解能
1 mas
可視域の偏光観測
「かなた/TRISPEC」の場合
半波長板(o.0, 22,5, 45.0, 67.5度で回転)+ウォ
ラストンプリズムで、常光・異常光それぞれ
検出器上で結像
ストークスパラメータ I, q(=Q/I), u(=U/I) (線偏
光)が観測から直接得られる
検出器上での角度分解能は 0.7 arcsec/pixel
大気の乱流によるシーイングは ~1-2 arcsec
かなた望遠鏡の偏光撮像画像の例(QSO B0133+47)
問題点1:角分解能の差
分解能がケタ違い
電波コア内はもちろん、コア周辺の強い偏光成分
も混じって観測
卓越した1成分があると仮定して、観測される偏光
方位角を電波の成分と比較
Ex: OJ 287 : Francesca, et al. (2009)、他
ブレーザー可視偏光観測のこれまで
偏光パラメータと光度
or色などとの相関関係
だいたいは明らかな相
関なし、とされる
Moore et al. (1982), Jones
et al. (1985, 1988), その他
たくさん
「QU平面上をランダ
ムに動く」とされる
“erratic” variation
BL Lacの1週間のQU平面上での動き
(Moore et al. 1982)
ブレーザー可視偏光観測のこれまで
ただし、光度曲線や色と
相関する例もいくつか
Smith et al., (1986), Tosti et al.
(1998), Efimov &
Shakhovskoy (1998), Fan et al.
(2000), Cellone et al. (2007)
Random motionだけでなく、
系統的な変動がある、とい
う証拠
現状の問題点
特に数日~数週間というス
ケールの密な継続観測が少
ない
本当にランダムなのか?
法則性が見落とされていな
いか?
偏光度と光度が相関した例
3C 345 (Smith et al. 1986)
「かなた/TRISPEC」による
ブレーザー多色偏光撮像モニタープロジェクト
「かなた/TRISPEC」によるブ
レーザー多色偏光撮像モニ
タープロジェクト
TRISPECだと色変化も同時に測
れるので最適
できればシンプルで普遍的
な、”erratic”でない観測的特徴
をとらえたい
キャンペーン期間:昨年秋~
2009年3月
40天体ほど?
いくつかの天体は2007年から順
次モニター開始していた
「かなた」データの例
光度と偏光度が相関してる short flareもあれば、そうでないのもあり。。。
• AO 0235+164:相関してるのもあるが、多少タイムラグがあるものもあるような。
一方で全く相関してないのも。(笹田、他、天文学会)
• PKS 1749+096:同じような時期、同じような振幅のフレアで相関してるのと、して
ないのと。
「かなた」データの例(続)
BL Lacともあろうものが。。。
やはり、short flareには多少の反応がありそうだが。。。。。
というか、光度曲線に比べて偏光度がバタバタし過ぎ???
光度変化はさほどでもないのに、突然偏光度があがったり。
OJ49は数か月のトレンドに偏光度が相関してな
い。。。。。。。
光度と偏光度の相関関係
めちゃ
くちゃ
なぜ偏光の変動はめちゃくちゃなのか?
3つの仮説
多様性が圧倒的に大きい
無数の(ランダムな)細かいフレアの重ね合わせ
フレアが、磁場の揃った(or amplifyされた)ところで起こることもあれば、
揃ってないところで起こることもあるし、揃ってるところで起こったとして
も途中で磁場の向きが変わることもあれば、あまり変わらないこともある。
色や偏光を観測しても普遍的な描像には届かない。。。
→せっかく観測してきたのに、この結論は避けたい。。。
1つ1つのフレアは固有の偏光成分をもつ
Moore et al. (1982), Impey et al. (1988), Jones et al. (1985, 1988)
→まだマシだけど、「ランダム」だとたいていの観測結果は「たまたま」で
説明できてしまうので。。。
フレアに付随する偏光成分とそうでない成分の2成分があって、観測
値はその2つが重なって見えている
常に偏光度の大きいような天体だと明らかに重要
Long term成分の推定が問題
→もしこの可能性があるのなら、そのような解の推定には意味があるだろう。
例えば BL Lac の場合
かなたで撮られた BL LacのQU平面上の変化
(先本、他、日本天文学会2009、春季年会)
原点から見て常
に一方向に集中
長期成分と短期
フレア成分の2
つが存在?
VSOP-2と可視偏光観測の連携
現状の問題点まとめ
空間分解能の差
複数の偏光成分
• 複数の成分があ
る場合、直接の
比較が困難
• 偏光パラメータ
の挙動が一見ラ
ンダムに(?)
可視も
「分解」
したい
新しいアプローチ
ベイズモデルを用いた
可視偏光成分の分離
観測値から long-term trend を推定する
本質的に決定はできない
Long-term trend とフレア成分は観測では縮
退している。
U
(Qobs ,U obs ) (Q0 Qflare,U 0 U flare )
Long-term trendを特定の関数で近似する
例:全体の平均で近似。期間毎の平均で近
似。
BL Lacの研究(先本、他、天文学会2009春
年会)
→ 相関らしいのが見えたり、見えなかった
り。
→ long-term trendの推定がまずいから???
特定の関数に依存しないやり方
事前情報はそれなりにある
Q
Total flux
Short-term フレアは固有の偏光成分をもつ
(仮説)
→ 光度曲線と相関するように long-term
trendを推定
→ ただし、それだけだと一意には決まら
ない
Long-term trendはフレアと比較して「ゆっ
くり」「滑らかに」変化している
t
Long-term trendをベイズ統計的に推定
ベイズの定理
p ( | y )
L( y | ) ( )
L( y | ) ( )
p ( | y ) :
L( y | ) :
( )
:
事後分布
尤度関数
事前分布
• 今回の場合
p (Q0 ,U 0 | f , Qobs ,U obs )
L( f , Qobs ,U obs | Q0 ,U 0 ) (Q0 ,U 0 )
C
L( f , Qobs ,U obs | Q0 ,U 0 )
:尤度関数は、(正規化した)光度曲線を「モデル」
と考えて、(差分を取ってさらに正規化した)偏光フ
ラックスの値と観測誤差から計算する。
→光度曲線と偏光フラックスが(正の)相関するとき
に、尤度が最大になるイメージ。
(Q0 ,U 0 )
:事前分布はQ0,U0が「滑らかな線」を描く時に確
率最大になるようにすることで、long-term trendを
表現する。具体的には1階階差が平均0、分散wの
正規分布を満たすように取る。すなわち、
(Q0 )
C
(Q0,i Q0,i 1 ) 2
exp
2
2
2
w
2w
1
:積分項は定数。実際はマルコフ連鎖モンテカル
ロ (Markov-Chain Monte Carlo : MCMC)で解く。
今回のベイズモデルは結局何をやっているか
観測された偏光ベクトルが2成分に分離できる
と仮定して、
p (Q0 , U 0 | f , Qobs , U obs )
L( f , Qobs ,U obs | Q0 , U 0 ) (Q0 ,U 0 )
C
残りの成分は
光度曲線と相
関するように
(尤度関数)
(Q_0,U_0)を推定している
1つはゆっく
り変動するよ
うに
(事前分布)
シミュレーションデータを使ったテスト
シミュレーションデータ
(Q_0,U_0)は適当な関数を仮定
ここでは三角関数
フレア成分は、フレア発生のタイミングと、フ
レア固有の偏光方位角はランダム
フレアの振幅(光度と偏光フラックス)は一定
時間、光度、Q、Uの次元は任意
幾何的に分離できるかどうかのテスト
物理は考えない
ベイズ的に推定されたlong-term trend(1)
うまくいってる場合
フレア頻度低い
フレアが重なってるところもまあまあOK
シミュレーションデータ
上:光度曲線(赤)と偏光度(緑)
下:QU平面
推定結果
上:光度曲線(赤)と補正された偏光度(青)
下:QU平面。緑が推定された長期変動成分。
仮定したものとほぼ一致。
ベイズ的に推定されたlong-term trend(2)
(1)の場合よりもフレア頻度が高い場合。
フレアは重なってるがそれなりにうまくいってる。
相関関数も期待通りの結果に。
光度と偏光度の相関関数。シミュ
レーションデータのそのもの
(赤)と補正されたもの(青)。
補正した結果、正の強い相関が見
られて、期待通りの結果に。
MCMCの収束具合
テストでは 10^7 ステップ計算。
最初 2x10^5ステップは捨てて、以
降 100ステップ毎にサンプリング
サンプルの中央値と68.3%信頼区間
を抽出
上図:尤度x事
前分布の対数
10^5ステップく
らいで収束
左図:ステップ
毎のQ,U。
ケース(3)の場合。
ベイズ的に推定されたlong-term tren(4)
Trendがなく、QU平面上でほぼrandom motionの場合。
解は(一応)収束するが、相関係数は低い。
良く相関するようtrendを決めると、trendがもはや long-termではなくなるし、
trendのsmoothnessを優先させると、相関係数はますます低くなる。
→ 「光度とPDは相関する」という仮説の検定手段として一応成り立っている
このベイズモデルの問題点
•
統計モデルとしての問題点
•
事前分布のハイパーパラメータ ”w” に結果が強く依存する
•
•
•
周辺尤度最大化でwを推定すると、長期変動成分が複雑な挙動を示し、もはや「ゆっくり動く成分」ではな
くなる
“w”は「短時間変動成分と比べて本当に『ゆっくり』動いているか」で制限をつけることにする
今回採択した事前分布は、おそらく真にふさわしいものではない
•
•
長期成分が存在しなくても、何かしらの解がでてくる
•
•
•
本来は「本当にゆっくり動いているか」まで含めた事前分布にすべき
収束しやすさ、複数サンプルでの収束具合、折れ曲がりの多い複雑な挙動、あたりが目安。
「2成分が存在」の「証拠」にはなり得ない。「このような2成分に分離して考えるとシンプルな描像で説
明できますね」がせいぜい。VSOP-2で高解像度の偏光マップが撮られれば、2成分見えるかも(?)
物理モデルとしての問題点
–
「ゆっくり変動成分(Q_0,U_0)」のtotal flux(I_0)の時間変動を無視している
•
つまり、偏光ベクトルは2成分に分けるが、光度曲線は分けていない
–
•
•
–
両方を同時に解くのは困難なので
解析上は、光度曲線も差分偏光成分も正規化しているので影響は薄いはず
ただし、得られた結果は常に「I_0一定のまま(Q_0,U_0)だけが変化する」ことを意味する
(Q/I, U/I)は分離できない
•
•
•
両成分の偏光度が小さいとは限らないため
なので、得られた解が「偏光度と光度曲線が相関する」ような解かどうかは決定できない
ただし、「偏光度」の観測値は 下式の左辺のようになり、今回の解析では(上記のように)I_0の時間変化を
無視しているので、右辺第二項の成分が光度曲線と相関するとして両成分を分離することはできる。
実際のデータを使ってやってみた
サンプルは、OJ 287, S5 0716+714, S2
0109+224 の3つ
見かけが明るくて、偏光度の変動が激しいも
の
OJ287の場合
長期成分は一定の角度内を振動
補正すれば偏光フラックスと光
度曲線はよく相関
2成分モデルの理想的な例
S2 0109+224の場合
2つの長期成分?
光度曲線との相関は有意
に改善
S5 0716+714の場合
長期成分は抽出されるが、
erraticな変動
光度曲線との相関は有意に
改善しない
偏光ベイズモデルの応用
可視データ単独では「2成分」の証明にはな
らない
モデルを仮定して解を推定しているだけ
可視の偏光成分は電波でも見えているかも
可視で分離された short- or long-term 成分と同じ
時間変動するものがVLBI偏光マップで見えるかも
問題解決、となるか?
空間分解能の差
複数の偏光成分
• 複数の成分がある
場合、直接の比較
が困難
• 偏光パラメータの
挙動が一見ランダ
ムに(?)
可視も
「分解」
したい
偏光を使った • 成分ごとの電波ー可
ベイズ的成分 視の研究を初めて可
能に
分離
まとめ
可視撮像の空間分解能が低いので、VSOP-2偏光
マップと直接比較はできない
可視偏光の挙動は”erratic”。ただし系統的な変化
が見られるものも。→複数成分の重ね合わせ
か?
偏光と光度変動のデータから、偏光成分を短時
間変動と長時間変動に分離するベイズモデルを
開発
「VSOP-2 & 可視偏光」の1つの武器になれば
Backup slides
ベイズ的に推定されたlong-term trend
(2)
(1)の場合で、観測頻度が5割の場合。
それなりにOK。
特定の関数に依存していないので、非均一サンプリングや端の点の推定には強
い。
QUの成分分離
OJ 287
S5 0716+714
Wが大きいと(尤度を上げ
ようとして)長期成分は
複雑な挙動になる
S2 0109+224
W=0.10
W=0.25
W=0.50
Q/I,U/Iの成分分離
OJ 287
S5 0716+714
Wが小さいと、(Q,U)の場
合と同様の挙動をする長
期成分が分離される
S2 0109+224
W=0.10
W=0.25
W=0.50
時系列で
OJ 287
S5 0716+714
S2 0109+224
光度曲線
偏光度(観測値)
偏光フラックス(観測値)
偏光方位角(観測値)
短時間変動成分の
偏光フラックス(推定値)
短時間変動成分の
偏光方位角(推定値)
長時間変動成分の
偏光フラックス(推定値)
長時間変動成分の
偏光方位角(推定値)
天体毎に結果をまとめると
OJ 287
(Q,U)も(Q/I,U/I)も、w=0.1では同様の結果
長期成分の偏光成分は、ゆっくり滑らかに回転しながら、フラックスは20%ほど変動
短時間変動する偏光成分は光度とよく相関するようになり、フレアの偏光方位角には偏りが
ある?
数か所の決まった場所でのフレア源?
最も典型的な「2成分モデルを示唆する」ケース
S5 0716+714
全てのケースで長期成分は複雑な挙動を示す
補正した後でも光度と偏光フラックス(or 偏光度)の相関は低い
最も典型的な「2成分モデルでは説明できない」ケース
放射源の見かけの角度が変化か?
多数の偏光成分がランダムに明滅している描像に近いか?
S2 0109+224
全てのケースでQU平面上を直線に移動するシンプルな長期成分が推定
長期成分は方位角一定のまま強くなっていく、と示唆される
OJ 287と同様、短時間変動成分の方位角には偏りがある?
ただし、OJ 287と違って、長期成分は偏光フラックスの変動が大きいため、「長期成分から
のtotal fluxの変化は小さくて無視できる」というモデルの仮定にひっかかる。Total fluxは一
定で、偏光度だけ変われば良いのだけれど、だいぶ都合がいい状況になる。
最近のトピックス:偏光ベクトルの回転
Marsher et al. (2008) Nature