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激変星の進化問題について最
近の話題
植村
080121@雑誌会
今日の話
• 激変星の進化問題とはなにか
– 特に「Period minimum問題」について
• Period minimumについて、最近の研究
– Willems, et al., 2005, ApJ, 635, 1263
– Pretorius,et al., 2007, MNRAS, 374, 1495
– Pretorius, et al., 2008, astro-ph/0801.1070
• 自前の結果
激変星の進化問題とは何か
• レビューとしては King 1988, QJRAS, 29, 1 が
秀逸
Period minimumについて、最近の研
究
• 激変星の軌道周期分布の特徴
– Period gap : 2-3時間の間に天体が少ない
– Period minimum : 80分の最少周期が存在する
• 何故このような分布をとるのか
→ 激変星(というか低質量連星系)の進化で
説明できる (e.g. Paczynski 1981)
そもそも激変星の進化を進めているも
のは何か?
• それは連星系からの角運動量の抜き取り
連星系全体がもつ角運動量
片方がロッシュローブを満たしている場合
さらにその星が主系列星の場合
(質量ー半径の関係を利用)
角運動量の変化と、距離・周期の関係
• M2/M1 < 4/3 で安定した質量輸送
• M2/M1 > 4/3 で不安定な質量輸送
では、連星系から角運動量を抜く物理
は何か?
• gravitational radiation
– 長周期の系の明るい絶対等級を説明できない
• magnetic (stellar wind) braking
– 伴星の磁場の共回転(元々は太陽の研究から)
– でもダイナモ理論の不完全さからよくわかってい
ない
激変星の進化は定性的にこう説明で
きる
• Period gapまでは magnetic braking、period gap 以降は gravitational
radiation が効く
• 伴星が縮退すると、質量輸送に伴って半径が大きくなる → 進化は逆
方向へ
連星のpopulation
synthesisで観測さ
れる分布を再現し
よう!
• 例:Barker & Kolb,
2003
全然上手くはいかない。。。
• Period minimum周辺の問題
– 観測される値~80分、理論値~70分
• どうやっても、差を埋められない、と問題に。
– ほとんどの系は period minimumを通過している
はずで、分布はperiod minimum付近に集中する
はずである。
• 当初は一般相対論を疑う声も。
• 現在は重力波以外の角運動量抜き取りを考えるのが
主流
Period minimumについて、
最近の研究
&
自前の結果
別の角運動量抜き取りや、その他の
効果を考えてみよう
• e.g. Willems et al., 2005, ApJ, 635, 1263
– Circumbinary disk による角運動量抜き取り
– 新星爆発による質量放出の効果
– 短周期で激変星になった系の効果
かなり合う
観測サンプルと理論の比較
• ファインチューニングで合ってしまった
– 面白くもなんともない。。。
• でも。。。
– 比較に使われる観測サンプルは様々なサーベイや
発見プロセスで見つかったものの混合
– 矮新星は毎年新しい天体がアウトバーストしている
のが発見される
– 特にPeriod minimum付近は WZ Sge型という非常に
recurrence timeの長い天体が存在
– そういえば、最近やたら WZ Sgeばっかり見つかって
いる気がする。。。。
前の年会での発表
激変星の中で最短の連星周期をもつ
天体 OT J055718+683226の観測
植村誠(広島大学)
新井彰、大杉節、山下卓也、川端弘治、永江修、保田知則、宮本久嗣、上原岳士、
笹田真人、田中祐行、松井理紗子、深沢泰司、水野恒史、
片桐秀明、高橋弘充 (広島大学)、吉田道利、沖田喜一、柳澤顕史
(国立天文台)、佐藤修二、木野勝(名古屋大学)、定金晃三(大阪教育大学)、
加藤太一、野上大作、今田明、 久保田香織、杉保圭、森谷友由希、前原裕之
(京都大学)、面高俊宏、大泉尚太(鹿児島大学)
最近発見される天体は短周期の系が多い
• Ritter & Kolb カタログの
軌道周期に対する個数分布(更新年度ごと)
新
旧
J0557(?)
KS検定を用いた調査
• 軌道周期に対する分布は統計的に有意に変化してきて
いる
2003年6月のカタログと比較
カタログ
同じ分布である確率
新天体のみ
カタログ全体
2003年12月
0.462
1.000
2004年6月
0.313
1.000
2004年12月
0.582
1.000
2005年6月
0.219
0.999
2005年12月
0.122
0.969
2006年9月
0.021
0.955
2007年6月
0.052
0.845
このままいくと分布が変わる
10年後に期待される分布
(過去4年で見つかった新天体の分布を仮定
して、10年間分を外挿)
2003年6月時点での分布
Willems et al. 2005
むしろ、理論予測に近づく?
未知の短周期の系がたくさん存在する
• 短周期の矮新星は爆発頻度が低い
– WZ Sge型;数年ー数十年
– 未発見の天体が数多く存在?
• Population synthesisの結果と観測を比較する
際にはバイアスの見積もりが重要になる
– モデルでは selection effectとして、静穏時の降着
円盤の光度(短周期ほど暗い)のみを補正するこ
とが多い
前の年会の発表終わり。
観測サンプルを見直す動きは他にも
• Pretorius, et al., 2007, MNRAS, 374, 1495
• これまで使われてきたごちゃまぜのサンプル
は比較に適さないと指摘
• Palomar-Green(PG) Surveyの激変星サンプル
で考える
– カラーで激変星(候補)を抜き出す
– 厳密な magnitude-limited sample
– Selection effects (矮新星の爆発頻度など)を考慮
従来よりひどい矛盾
結論:どのようなselection effectを考えても、period minimum問題は存在する
左:PGサンプル
右:理論予想
これまでのごちゃまぜカタログ
(Ritter & Kolb カタログ)
左: V > 16.5
右: V < 16.5
もう1つ最近の研究例
• Pretorius & Knigge, 2008, arXiv:0801.1070
• SHS (SuperCOSMOS Hα Survey)から、色とHα
強度から激変星(候補)を抜き出して、分光
フォローアップして、17天体を得る
• やはり、単一の観測プロセスによって、激変
星の分布を再評価してやろう、という研究の
一環
やはり長周期の系の割合がやたら高
い
基本的には先の PG Survey の傾向と
同じ。
理論的には大量にあるべき
period minimum 付近にほとんど無く、
むしろ半分以上が長周期の天体。
理論とのずれの差がより激しい。
しかし、WZ Sge型のように、非常に
増光間隔の長い天体の発見確率の
効果は考慮されていない
(大量の未発見天体があるかも)
ようするに、
• これまでは、population synthesis の結果を「観測
サンプル」に合わせるようチューニングする方向
で研究が進んできた。
– それなりに合わせられるようになった
• しかし、「観測サンプル」は実はいいかげんな混
合サンプル。
– 実際に年々「観測サンプル」の分布が変化してきてい
ることを証明(前の年会)
– 単一の観測サンプルで selection effect を熟慮して比
較すべき(Pretoriusたちの最近の仕事)
最近自分がやっていること
• 前の年会の内容で論文を書いていたが、京
都から「もっと突っ込んだ議論をせよ」とク
レームが付き、現在再解析中
• お題は「観測されているサンプルを説明する
のに最ももっともらしい(本来の)分布を推定
する」
最尤法かベイズ法で分布を推定(検定)する
• 観測サンプルは「ここXX年間でアウトバース
トが観測された矮新星」
– 時間によらず一定(のはず)
• 分布を適当にパラメータ化
f (P)  P
a
exp(  b / P )
P  Porb  Pmin
– a,b,P_minの推定
• あるパラメータセットθの場合に、{P_i}が観測
される尤度
L ( | P )  Obs  ( P )  Process ( P )  f  ( P )
– 最尤法?尤度比検定?
• 適当な事前分布をおいて、パラメータの事後
分布を推定(ベイズ法)
現在試行錯誤中
試しに、ごちゃまぜデータで計算してみた
尤度関数。緑が2003年までに見つかってい
たサンプルで、赤がそれ以降に発見された
サンプル。赤のピークの方が大きいのは、
分布が短周期に集中していることを示唆す
る。
試しに、ごちゃまぜデータで計算して
みたパラメータ”a”の事後分布。あん
まりきれいに収束してくれない。。。
モデルが悪い(たぶん)。