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10章
短期の経済分析(2)
10.2
総供給
生産活動の水準は
長期・・・生産要素の存在量が決定的に重要な役割を果たし、物価の
影響を受けない。
短期・・・市場の調整が遅く、経済でどれだけ生産が行われるかにつ
いて物価は大きな影響を与える。
これにはいくつかの理由が考えられる。
10.2.1 価格支配力:マークアップ原理
第1の理由は、企業の独占力の行使。
例えば、自動車企業は製鉄業では少数の企業が市場に財を供給してお
り,大きな企業は価格を自ら設定することができる。
このような企業は利潤を確保するために費用に一定率をかけて収益を
確保できるように価格を設定する。
収入≡財の価格×生産量=(1+m)×費用
この上乗せ比率mをマークアップ比率と呼ぶ。
企業が生産量を増やそうとするときに限界生産力は逓減
する。(4章参照)
企業が生産量を増やそうとすると、生産量の増加を上回
るペースで生産要素を投入しなければならない。
結果、費用の増加>生産量の増加となってしまう。
価格が一定のままでは費用の増加に収入の増加が追いつ
かないから、利潤が減ってしまう。
したがって、企業は生産量の増加とともに価格を引き上
げる。
10.2.2
錯覚
企業や労働者が持っている情報が不完全である場合に
物価水準の上昇は企業の生産水準を増加させる。
ある1つの企業を考えよう。
この企業の経営者
は自分が生産している財・サービ
スの生産量について完全な情報をもっている。
経営者
しかし、他の企業の生産物について多くの情報を持っているわけではない。
したがって経済全体で物価水準が上昇していることに気付くことなく、個々の企
業は自分の製品価格のみから情報を得る。
が購入して生産に投入している他の企業が生産する財の価格についての
情報は遅れてやってくる。 そこで、企業の投入している財の購入価格の上昇も
起こっていないと判断。
は自分達の得ている利潤が上昇したと考える。
は生産水準を上げよう!とする。
このような事態は
だけでなくすべての企業に共通しているため、
物価水準の上昇により経済全体での生産水準は上昇する。
労働者たちが情報を得るのが遅れてしまうことも物価の上昇
が企業の生産水準を上昇させる要因になる。
企業は自分の製品の価格上昇は知っているので、より多くの
労働者を雇おうとする。このとき、労働者をより多く雇用する
ためには名目賃金を上げなければならない。
ここで、労働者たちが物価の上昇に気付いていれば、この名
目賃金の上昇は実質的には上がっていない!と気がつく。
労働供給を増やそうとしない。
しかし、労働者たちが物価の上昇に気がついていないとする
と、この名目賃金の上昇を実質賃金の上昇と錯覚してしま
う。
労働供給を増やす。
企業は生産を増やすことができる。この場合も物価水準の上
昇により経済全体での生産水準は上昇する。
10.2.3
名目賃金の下方硬直性
名目賃金が短期には容易に変更できない。
名目賃金が短期的に固定されている理由・・・賃金契約の制約
企業は業績が良いときには高い賃金契約を結んでも構わないと考え
る。逆に業績が不振のときには支払う賃金を下げたいと考える。
このように賃金支払いが行われると、賃金契約は経済の生産の
活動水準によって大きく変動してしまい、労働者の多くは
この大きな変動を嫌う。
そこで、労働者は経済の浮き沈みに左右されないような
賃金契約を企業と結ぼうとする。
企業は経済の変動リスクを避ける手段を持っているので、
このような労働者の意向を考慮して賃金契約を結ぶ用意がある。
このような賃金契約を結ぶ例・・・プロ野球選手の契約
また、ケインズは相対賃金仮説を示した。
他人との賃金を比べて行動するとどのようなことが起こるだ
ろうか。
企業は業績が不振であるときは労働者の賃金を引き下げた
いと思う。
しかし、賃金を引き下げようとしたとき、労働者たちは他の企
業の労働者が得ている賃金と比較して自分たちの賃金が下
がってしまうことを嫌い、賃金の引き下げに反対する。
このような労働者の抵抗のために名目賃金がなかなか下が
らないことになる。
これを名目賃金の下方硬直性という。
このように賃金契約や相対的な賃金水準の維持という理由によって名目賃金の
水準が固定されると、物価の変動が企業の生産決定に大きな影響を与える。
物価が上がったときには、企業の生産物の価格は上がるが名目賃金は固定さ
れているから企業の利潤は増加する。
物価水準が下がったときには、この逆のことが起きる。
情報の不完全性ケースと同様、物価水準が上昇したとき企業の経営者は生産
水準を上げるように行動する。
したがってこのケースでも物価水準の上昇は経済の生産水準を引き上げる。
いずれのケースにおいても物価水準の上昇は経済活動の水準、総供給を増加
させることになる。これを示したのが次のグラフ。
物価水準(P)
AS
YF
0
実質GDP(Y)
したがって、Y F より右側
では相対賃金仮説によ
る名目賃金の下方硬直
性は受けない。逆に、短
期でも名目賃金は上昇
しやすくなる。
企業はこのコスト上昇
に対して価格を上げ
る。このため、ここでは
より曲線が急勾配にな
る。
図9-2 総供給曲線
完全雇用GDP(Y )の水準を表す。名目賃金率の調整が
スムーズに行われたときに達成される経済活動レベル。
生産水準がこの完全雇用GDPを超えると名目賃金は下
がる圧力を受けない。
F
10.3 短期の経済活動水準の決定
AS
物価水準(P)
P
短期での経済
の生産活動の
水準が決まる。
ただし・・・
E
*
AD
0
Y
*
YF
実質GDP(Y)
図10-3 短期の均衡
注意!!総需要と総供給が一致しているときに、生産要素がうまく使われて
いるとは限らない。
Y F が失業者や遊休資本が存在しないときの実質GDPで、点Eに対応する短
期の経済活動水準 Y * はこの完全雇用GDPを下回っているため、失業者や
遊休資本が存在する。
このような経済状況を不況という。
10.4
経済の市場調整:短期から長期へ
10.4.1 不況からの脱出
短期的には不況が発生することもある→時間と共に状
況は変化する。
失業の存在
企業はパートタイマーやフリーターの雇用によって安い労働者を
手に入れることができる。
労働者たちは名目賃金の引き下げに反対し続けることはできない
名目賃金の引き下げが行われる。
また、長期においては賃金契約も見直されることになり、
不況下では企業の業績が良くない限り名目賃金の引き下げが行われ
る。
このような名目賃金の引き下げが実行されてゆく
企業の業績は改善→企業は生産量を増やそうとする。
AS1
物価水準(P)
AS2
AS3
P
経済の均衡
はここで落ち
着く
E1
*
E3
AD
0
Y
*
YF
実質GDP(Y)
図10-4 完全雇用の回復プロセス
以上のような変化は、これまでと同じ物価水準でも経済の生産活動水準を上昇
させることになるので、総供給曲線を右にシフトさせる。このようなシフトは経済
の生産活動の水準が完全雇用の水準に一致するまで続く。
つまり市場の調整が時間の経過とともに働く。
10.4.2
デフレ・スパイラル
不況からの脱出プロセスで調整過程では総需要の面に
は何も変化が起こらないと仮定されている。
総需要曲線は変化しないものとしている。
しかし、物価や名目賃金が減少していくプロセスで企業
の経営者はどのように判断するだろうか。
物価水準が減少し、自分の製品の価格も減少している。
これを見た経営者は将来に対して悲観的になる可能性
がある→経営者は投資を減らすかもしれない。
したがってグラフは次のようになる。
AS1
AS2
物価水準(P)
AS3
E1
P
E3
*
AD1
E3
AD2
AD3
0
Y
*
YF
実質GDP(Y)
図10-5 デフレ・スパイラル
総需要が減少して、総需要曲線は左にシフトする。
経営者の見通しが非常に悲観的であれば、
総需要曲線のシフトが総供給曲線のシフトを
打ち消してしまう可能性
E3へ
このようなプロセスをデフレ・スパイラルという。
デフレ・スパイラルが発生すると、経済の完全雇用を回復するのが遅れ
てしまう。
このようなプロセスが長期的につづくと経済は破綻してしまう。これまで
このような破綻は観察されていないので、デフレ・スパイラルが発生して
もどこかでストップしていると考えたほうが自然。
政府や日本銀行がここで果たしている役割も無視できない。
10.4.3
景気の過熱
逆に完全雇用の水準を上回るところで短期の経済活
動水準が決まっている場合はどのような調整が起き
るのだろうか。
次ページのグラフを見ながら考えてみよう。
完全雇用の水準を上回る生産が行われている
資本も正常な水準を超えて使用されている。
残業が多い。
労働者も資本も酷使されている。
このような状態を景気が過熱しているという。
このようなときには不況期とは逆に労働者は企業の経営者に対
して非常に強い立場にあるので、名目賃金の上昇を賃金契約の
改定時点に行うことができる。他の企業の労働者に比べて賃金
が下がるという心配も少ない。
AS6
AS5
物価水準(P)
AS4
図10-7 完全雇用の回復のプロセス
E6
P
E4
*
AD1
0
YF
Y
*
実質GDP(Y)
このような賃金の改定は企業の業績を悪化させため、企業の生産意欲
は減退する。これは、これまでと同じ物価水準でも経済の生産活動水
準を減少させることになる
総供給曲線は左シフトする。このシフトは完全雇用の水準に一
致するまで続き、AS6にシフトするまで続く。
経済の均衡は点E6に落着く。
ここでも市場の調整が時間の経過とともに働く。
10.5
経済変動Ⅰ:総需要の変動
経済の変動を左右する要因の第1は総需要の変動で
ある。ではどのような要因が総需要を変化させるのだ
ろうか。政府や日本銀行のような政策主体が原因に
なる場合がある。
10.5.1 財政政策
政府の政策が総需要を変化させるもの
1.政府支出の増加
2.減税政策・・・減税を行うと家計の手元に残る所得
(可処分所得)が増える→家計の消費需要が強まる。
また、企業の投資減税を行うと企業の投資意欲が強まる。
このような政策をまとめて財政政策という。
政府の政策

政府が財・サービス市場の総需要を刺
激する政策
(1)政府支出の増加
財政政策
(2)減税政策
家計の所得減税
家計の可処分所得が増えるので、
消費需要が増える。
企業の投資減税
企業の投資需要が高ま
る。
C
↑
I ↑
総需要
D
Y 2 (G 2 )
e
Y2
E2
財政政策
Gの増加
(1)政府支出の増加
D
Y1 ( G 1 )
Y1
e
E1
G1からG2へ増加
45°
Y1
r
e
利子率はrのままであるとする
Y
e
Y2
LM
①
E3
総需要:Y1DからY2Dに上シフト
財・サービス市場の均衡
r
E1
E1
Y1
IS2
IS1
Y1
e
e
Y2
Y
②
e
E2
e
Y2
IS曲線が右シフト
r
LM
E3
r
E1
IS1
P
Y1
e
e
Y3
財・サービス市場と貨幣
市場の同時均衡は
IS2
Y
e
Y2
E1
Y1
P
A1
Y1
e
e
Y3
<
e
Y3
政府支出の増加や減税は
総需要曲線を右シフトさせ
短期の実質GDP及び物価水準を
上昇させる.
A2
AD1
e
E3
AD2
Y
物価水準(P)
AS
E
P
*
AD2
AD1
0
実質GDP(Y)
図10-8 総需要の拡大
Y
*
政府支出の増加や減税は上のグラフのように総需要曲線
をAD1からAD2のように右シフトさせて短期の経済活動水
準を上昇させ物価を上昇させる。
10.5.2 家計の予想
減税が総需要を拡大させる効果については議論が必要。
教科書図10-9を参照。1990年代に家計の消費が横ばいの後に落ち込んでい
る。当時、定率減税のような大規模な減税も実施された.しかし、家計の消費需
要は拡大しなかった。
なぜだろう??
家計の予算制約式(5章)を思い出そう。家計の消費や貯蓄に影響を与えるの
は現在の所得だけではなく、将来の所得も含めた生涯に得られるであろう所得
である。
では、減税政策が行われていたとき家計はどのようなことを考えていたのだろう
か??
現在減税されても、この減税によって生じた財政赤字を埋め合わせるために,
将来増税が行われると予想していたと思われる。すると家計の考える生涯所得
は増加しないので、家計は消費を増加させない。
このように家計が将来の政策をどのように予想するかということが大切!!
これは政府支出についても同様。
政府が政府支出を増加させて総需要を喚起しようとしても、それが将来の増税を
家計に予期させるならば、政府支出の増加が総需要を増加させる効果は帳消し
にされる可能性もある。
10.5.3
金融政策
中央銀行の行う政策も総需要に影響を与える。
中央銀行の行う金融政策
債券の買いオペレーション通じて貨幣量を増やす。
債券の売りオペレーション通じて貨幣量を減らす。
中央銀行が行う政策

中央銀行は公開市場操作で貨幣量を
調節する。
債券の買いオペレーション
債券
中央銀行
金融市場
貨幣量↑
貨幣
貨幣の需要・供給
貨幣の需要(r)
E2
M2
買いオペ
M1
E1
金融政策
中央銀行の買いオペ
=貨幣供給量の増加
貨幣供給量がM1からM2へ増加
Y1
r
e
Y
e
Y2
LM2
LM1
貨幣市場の均衡
E1
E1
r
E3
Y1
IS
Y1
利子率はrのままであるとする
e
e
Y2
e
E2
<
e
Y2
LM曲線が右シフト
Y
r
LM1
LM2
E1
E3
財・サービス市場と貨幣
市場の同時均衡は
IS
P
P
Y1
e
e
Y3
A1
e
Y2
e
Y
A2
e
Y3
Y1
e
E3
<
e
Y3
貨幣供給量の増加は
総需要曲線を右シフトさせ
短期の実質GDP及び物価水準を
上昇させる.
AD1 AD2
Y1
E1
Y
貨幣供給量が総需要を増加させ
るのはなぜ?
E1
r
LM1
LM2
E3
IS
Y1
e
実質利子率↓
実質利子率の低下は企
業の投資意欲を強め、
総需要を引き上げる。
E1
r↓
E3
e
Y3
e
Y2
Y
日本銀行のゼロ金利政策・量的
緩和政策
1999年2月 ゼロ金利政策 日本銀行が貨幣を大量に供給し、
2001年3月 量的緩和政策 名目利子率をほぼゼロにする政策
日本銀行
インフレ率が安定的にプラスにな
るまで量的緩和政策を続ける。
アナウンスメント
企業
これからもゼロ金利が続くなら、思い
切って設備投資をしようかな。
予想形成
したがって日本銀行が量的緩和政策にコミットするというアナウンスが信頼を
得れば企業の投資を刺激して総需要曲線を右にシフトすることが可能にな
る。
図10-8参照
10.6 経済変動Ⅱ:総供給の変動
総供給の変動も短期の経済活動を引き起こす重要な要因である。
供給サイドに大きな影響を与えるものとして、災害、戦争、石油価格の急上昇
(石油ショック)といったものがある。
これらは企業のコストを大きく引き上げ供給そのものを困難にしてしまう。
AS2
物価水準(P)
AS1
P
E
*
AD
0
Y
*
YF
実質GDP(Y)
図10-10 供給ショック(スタグフレーションの発生)
このようなショックが発生すると、企業にとっては今までと同じだけの供
給が不可能になるから、AS1からAS2へと総供給曲線は左にシフトす
る。
均衡はE点になり物価の上昇と生産水準の低下が同時に発生する。
このような経済状況をスタグフレーションという。
10.7
経済の安定化
スタグフレーションが発生したときには経済活動水準が低下する。
雇用量は減少して失業が発生。遊休
資本が存在。=労働者も企業もうれしい状態ではない。しかし、長期
的には時間の経過とともに市場の調整が進むので失業や遊休資本はな
くなってゆく。
ところがこの調整プロセスでは失業や遊休資本は持続的に存在し、特
に所得のそれほど高くない労働者にとって厳しい状況が続く。
このような事態を緩和するために政府は財政政策を、日本銀行は金融
政策を使うことができる。
AS2
物価水準(P)
AS1
E
P
*
AD2
AD1
*
0
YF
Y
図10-11 総需要拡大政策
実質GDP(Y)
政府は政府支出を増やし減税を行うことで総需要曲線を右にシフトさせて完
全雇用を実現することが可能。
日本銀行は債権の買いオペを行い経済の貨幣量を増加させて実質利子率を低
下させることにより企業の投資を引き上げて総需要を増やしてやることができる。
(これを金融緩和という)
財政政策や金融政策によって需要曲線をAD1からAD2へと右シフトさせてい
る。
しかし、財政政策は家計の予想を変化させてしまい、その効果を発揮できな
いかもしれない。
また総需要の水準が非常に高く経済の状態が図10-6の点Eのようになってい
るときはどうだろうか。このような状況では、労働者にとっては自分が働きた
いと思っている以上に働かされてしまい、企業の生産設備は過剰に酷使され
ているので損耗も激しい。 この状態が続くと物価も上昇してくるだろうから
インフレ発生の恐れもある。
この場合には政府は政府支出を削減したり、日本銀行は売りオペにより経済
の中の貨幣量を減少させて投資を抑えることで(これを金融引き締めという)、
総需要を抑えて経済を完全雇用の水準に引き戻すことができる。
さて、経済を安定化させる方法としては財政政策と金融政策は同じ効果を持
つが、企業の投資に与える影響はまったく逆になっていることに注意!
日本銀行の金融政策・・・貨幣供給の増加に伴い利子率を低下させて
投資を増やしている。
財政政策・・・財政政策そのものに利子率を変化させる効果は無い。
直接的に総需要を引き上げる。
⇒経済の生産水準が高まり実質GDPと名目GDPが増加する。
⇒名目GDPの増加は取引に必要な貨幣の量を増やすので人々の貨幣需要
が増加する。
⇒人々は高い利子率であっても貨幣保有を欲するので利子率は上昇する。
⇒企業の投資は減少する。
このように、財政政策の結果、政府による需要創出効果によって企業の投資
需要が押しのけられることをクラウディング・アウトという。
金融政策と財政政策は失業や遊休資本をなくすという点においては2つの政策
は同じ効果を持つ。
ではどちらを用いてもいいのだろうか??どちらかが優れているのだろうか??
「経済の安定化には金融政策を用いるべきである」
経済学の答え:
理由:
財政政策の変更は政府の予算の変更によって初めて可能となる。これには予算
の審議を国会で行い、予算案を国会で通過させることが前提。税率の変更は経
済全体を考えるといっそう困難である。
金融政策は国会の審議を経る必要はなく機動的に経済の変動に対処することが
可能。さらに日本銀行は政府から独立している。
小泉内閣の「構造改革」を総需要・総供給のフレームワークで考えてみ
よう。
郵政民営化や規制緩和・・・財・サービスの供給を増やすという目的。
短期の総供給曲線を右にシフトさせる。
経済の完全雇用時の経済活動水準を引き上げ
る。
AS1からAS2にシフトさせ、長期における生産水準をY F 1 からY F 2 に引き上
げる。
AS1
物価水準(P)
AS2
E2
P
E1
*
A
E1
*
E2
AD1
*
AD2
0
Y
*
2
Y
*
1
YF1 YF 2
図10-12 構造改革と総需要・総供給
実質GDP(Y)
次に、小さな政府を目指すという構造改革の目的はどのような影響を経済に与
えるのだろうか。
無駄な公共事業を減らし、公務員を削減する。これはすべて政府支出の削減だ
から、総需要の減少要因である。
総需要曲線をAD1からAD2のように左にシフトさせる。
図11-3を参照すると、構造改革が始まる時点ですでに経済は完全雇用の状
態になく、点 E 1 のような均衡にいたと思われる。経済の生産水準は完全雇用
の水準 Y F 1 を下回るY * 1 にある。
構造改革の結果、経済の均衡は短期的にどこになるのだろうか。政策実行
以前の均衡は E 1 。短期的には価格が変化しないので、経済の均衡は E 2 に
変化する。
しかし同時に経済の短期的な供給能力はAS2のところまである。よって、E 2 A
の長さに対応する供給と需要のギャップが存在してしまう。
つまり供給が需要を上回るので、それだけ物価下落の圧力、デフレ圧力が高ま
ることになる。
生産水準は
なる。
Y
*
2
まで落ち込むので多くの資本は遊休し、失業者も増加することに
小泉首相の発言である「米百俵」の精神、「痛みを伴う構造改革」はこのような
事態をさす。
しかしこのような発言は家計の消費意欲を衰退させる効果を持つので、小さな
政府を目指すということで生じる総需要の減少をさらに加速させ、デフレ圧力を
より強力なものにしてしまう可能性がある。実際に小泉内閣発足の後、最初は
失業率が悪化している。
ここで、政府支出の増加はクラウディング・アウト効果を弱めて企業の投資を活
発にさせるという可能性がある。
しかし、最近の投資の活発化はクラウディング・アウト効果の弱まりというより
も、1990年代に落ち込んだ投資により企業は設備の更新ができず設備は老朽
化したため企業は設備の更新のために自発的に設備投資を強めたという事実
に説得力がある。
*
もちろん経済の調整が進めば経済の均衡は新しい総需要曲線AD2に沿ってE 2
まで進み、経済の生産水準はY F 2 というより大きな生産水準を達成できる。これ
は構造改革、規制緩和は長期的には経済にプラスの影響を受けるということを
示している。
しかし、首相の「痛みを伴う構造改革」という発言は企業や家計の投資意欲や
消費意欲をそいでしまった可能性は十分にある。
では、構造改革のほかに道はなかったのだろうか。
「総需要を財政政策によって増やす」
無駄な公共事業を増やすという批判があるため、これは世論の反対が強い。も
ちろん公共事業のタイプを変更し、公共投資が不足する大都市に重点的に投
資することは可能。その他効率的な公共投資が可能な余地はあるかもしれない
が、いずれにしても政府は総需要を増やしもしないが減少させるという行動もし
ないとする。
*
AD1にそって E 1 から E 1 へと進む。そこでは労働や資
本といった生産要素は完全に雇用されている。
このように進んだ方がはるかに痛みは少ないことがわかる。
このようにして完全雇用を回復した後に構造改革や規制緩和を行えばよりス
ムーズに改革が行われるのではないだろうか。完全雇用は達成されているの
で構造改革や規制緩和による供給能力の拡大は、ある産業で失業者が発生
しても他の産業で吸収してくれるだろう。
金融政策の出番はなかったのだろうか。
日本銀行が金利をゼロに貼り付けるという政策を行なっている限り利子率を
通じたルートは遮断されてしまっているので、この時期に金融政策を通じて積
極的に経済に働きかけるということは困難になっていた。
11章
失業
11.1
11.1.1
失業の定義
失業率の定義
労働力人口:15歳以上人口のうち就業者と完全失業者を合わせた
もの。次の2つから構成される。
①就業者(従業者+休業者)
従業者:調査期間中に収入を伴う仕事を1時間以上した者。
②完全失業者:仕事が無くて調査期間中に仕事を少しもしな
かった者のうち、就業が可能でこれを希望し、仕事を探して
いた者および仕事に就ける状態で過去に行なった求職活動の
結果を待っている者。
注意!!したがって、求職活動をしない、働く意思もないもの
は労働力人口にも完全失業者にも入っていない。
( 完全)失業率=
完全失業者
労働力人口
 100
最近の雇用状況を見てみよう。
2004年の日本の雇用状況
15歳以上人口=10990万人(男5318万人、女5672万人)
労働力人口=6642万人(男3905万人、女2737万人)
完全失業者=313万人(男192万人、女121万人)
離職理由(非自発的118万人、自己都合106万人)
失業率=313÷6642≒0.047
完全失業率の推移は教科書図11-1を参照。
・ここ10年は「失われた10年」という状況を明確に示している。
・失業率は毎年変動するものの、ある基準となる値の範を変動している
ようにみえる。この基準になるような失業率を「自然失業率」という。日
本では80年代までは自然失業率は2%強の水準であった。
11.1.2 失業率のパラドックス
失業率は経済状況を示す1つの指標の役割を果たす。
しかし、注意が必要!
実際には不況は深刻なままであるにもかかわらず、完全失業率は低下
する場合があるから。
例)労働人口100人、就業者80人、完全失業者20人
とする。完全失業率=20÷100×100=20%
ここで不況が継続したとする。完全失業者のうち10人が職に就くのを
あきらめ、求職活動をしないとすると、
労働力人口は90人になり、完全失業者は10人になり。
完全失業率=10÷90×100≒11.1%
最初の20%よりも減少しているではないか!!
経済状況は改善していないのに、失業率は改善するという現象が起こ
る。
このパラドックスが示すもの・・・
失業の中身を次の2点から注意深く見ることが大切☆
①長期にわたって失業している人がどれくらいいるのか
②世帯主が失業している家計はどれくらいいるか
11.2 失業の原因と調整が遅れる理由
では、常にいくらかの失業者が存在するのはなぜだろうか??=失業率が0%に
ならないのはなんで??
いくつかの理由を考えてゆこう。
11.2.1
総需要の不足と総供給ショック
総需要の水準が低い場合・総供給ショック
が下回る。(10章参照)
完全雇用GDPの水準を生産レベル
このとき、労働者の失業や遊休資本が発生。
しかし、名目賃金の調整が速やかであれば、労働者の失業は解消してゆく。(4章
参照)
しかし、いくつかの理由により名目賃金の調整が遅くなる可能性がある。
以下ではそれを見てゆこう。
11.2.2 最低賃金法
労働者の賃金が非常に低い水準に押し下げられてしまうことがないように
最低賃金法という法律がある。
名目賃金率
失業
W
L
S
L
0
図11-2
D
雇用量
労働市場が均衡する水準よりも高い水準に最低賃金が決
められると、失業が発生する。
しかし、現実にはこのようなことはあまり無く、未熟練の労
働者が雇用されるような市場においてのみ成り立つ。
最低賃金についての事件
2005年4月、釧路のあるタクシー会社が最低賃金を払えないために営業停止に
追い込まれた。3月まで最低賃金を保証していなかったが、労働基準監督署は最
低賃金を保証するように指導した。これを受けてこのタクシー会社は一部の労働
者の解雇を進めた。
最低賃金がもらえないどころか、解雇までされるなんて・・・
これは最低賃金の存在が失業を生み出す典型的な例。
注意!!図11-2は何らかの理由により、労働市場の均衡賃金水準よりも高い賃
金が支払われているときに、失業が発生するということを示している。
では、均衡賃金水準よりも高い賃金が支払われることになるいくつかの理由をみ
てゆこう。
11.2.3 労働組合
労働組合の役割・・・労働者が統一して、賃金をはじめさまざまな労
働条件について企業と交渉する。そのために就業拒否(ストライキ)
を行使したりする。
労働組合に属する労働者は団体交渉により高い賃金を獲
得することが可能。
均衡賃金率よりも高い賃金率で給料が支払われる
ことになる。
労働供給が上昇する一方で労働需要が減少して失業が
発生する可能性がある。
一方、労働組合に属さない者(アウトサイダー)は労働組合
に入っていないために高い賃金機会に恵まれない。
このため労働組合に属する労働者たち(インサイダー)と労
働組合に属さない労働者たち(アウトサイダー)の間に賃金
格差や生活条件の差が発生。
労働組合に属していないアウトサイダーたちは、本当はもっ
と低い賃金でも働きたいにもかかわらず希望するような職種
に就けない。
これも一種の「失業」と考えることが可能。
このようにインサイダーとアウトサイダーの2種類に労働者
が分断されると次のような履歴効果(ヒステレシス)が発生す
る可能性がある。
例えば・・・
ある数の労働者たちがいったん企業に雇用されて正社員となりインサイ
ダーになったとする。
このとき、インサイダーとなった労働者たちもこれから何かショックが企業
に発生したら企業から解雇されてしまうリスクを持つ。
インサイダーたちが企業との交渉に当たって関心があること。
1.受け取る賃金の高さ
2.企業にショックが発生してもインサイダーとして雇用関係を継続していた
いという希望
この2つを念頭に企業と交渉を進める。
このとき雇用を確保するために賃金率の引き下げをも受け入れると思われ
る。しかし、大きなショックが起きると企業は賃金を引き下げて、さらに雇用
も減少させる。
ここで解雇されなかったインサイダーたちは、解雇された労働者たちの雇
用を犠牲にすることで次のメリットを得る。
大きなショックの後ショックが回復したときに企業は解雇されずに残った
インサイダーを雇用しなければならないが、多くの労働者が解雇された
ので残っているインサイダーの数は少ない状態になっている。
少ないインサイダーたちによる労働供給は当然少ないので彼らは大きな
交渉力を持つことになる。
高い賃金を要求することが可能になり企業はショックが回復しても多くの
労働者を雇用することが困難になる。
このように大きな負のショックのときに一度インサイダーを解雇し、多くの
失業者を生み出してしまうと、ショックの回復後も企業の雇用は回復せ
ず高い失業率が続いてしまう。
このような履歴効果はヨーロッパでの高い失業率が比較的長い期間続
いている事態を説明している。
またこのように長く続く高い失業率は更なるダメージを経済に与える可能性があ
る。
・労働者は長い間失業しているとその労働意欲を失い、労働力人口から出て行っ
てしまうこともある。
・また、長い期間労働者として現場にいないとその労働者が持っている能力が時
代遅れのものになってしまい、失業している人は雇ってもらえない可能性が高ま
る。
これも高い失業率をよりいっそう長引かせてしまうことにつながる。
11.2.4
効率賃金理論
企業は自発的に自ら進んで賃金を上昇させることがある。
企業が労働者に対して、労働市場を均衡させる均衡賃金率以上の賃金を
払うことにより企業の生産効率や経営効率が改善することが考えられる
ため。
その理由として以下のようなものが考えられる。
1.高い賃金を得ることができれば労働者はその消費を増やすことができ、
栄養状態を改善することができる。
これは労働者の健康にとってプラスであり、労働者の生産効率を高めて
企業の収益にも改善をもたらす可能性がある。
これは発展途上国にあてはまる説明。(コラム11.3参照)
2.高い賃金を労働者に払うことで労働者の努力向上を図ることも可能となる。労
働者は怠けているのが発見されると、解雇されてしまう。すると、均衡賃金よりも
高い賃金を犠牲にしてしまうので、労働者の努力する意欲が増す。
3.労働者に高い賃金を払っていると労働者の離職を防止することが可能になる。
高い賃金を払っていると、離職後に他の企業で得られると期待できる賃金が低い
可能性があるので、離職する誘因を減らすことができる。したがって、企業は新し
い労働者を再教育するコストを下げることができる。これは企業の収益が低いか
らといって賃金を下げてしまうとそれが優秀な労働者の離職を招いてしまう可能
性を生みかねないということを示す。
4.高い賃金を払っていると労働者の質を高めることにも貢献する可能性がある。
企業が他の企業よりも高い賃金を払うことにより優秀な労働者が来る確率が高く
なる。時間がたてば、他の企業も同じことを考えるだろうから長期的には労働市
場の均衡賃金よりも高い賃金率が成立する可能性がある。
12章 財政赤字はどこまで続けられるか
12.1
日本の財政赤字
戦後日本の財政赤字の推移について振り返ってみよう。
図12-1・・・2003年までの国債発行額の推移
図12-2・・・2003年までの発行済みの国債残高(国が抱える借金を示
している)
・戦後直後の日本経済
企業の生産性も低く政府は多額の補助金を企業に出していた。
政府が定めた公定価格を企業のコストが上回る場合
その差額を企業に支給。
このため政府の支出は大きく膨らんだが、税収は不足したので巨額の財政
赤字が生じた。
当時日本は連合軍の占領下であったので、アメリカはこ
の事態に対して、デトロイト銀行頭取のジョセフ・ドッジ
を派遣し、財政構造にメスを入れた。これをドッジ・ライ
ンという。
これは均衡財政主義ともいえる厳しいものだった。つま
り政府のすべての予算にわたって支出と収入を一致さ
せるというもので、彼の行った改革により財政赤字はな
くなった。
・昭和30年代(1995年以降)~高度経済成長時代
高速道路の建設、東海道新幹線の開通、東京オリン
ピックの開催など大きな公共事業が相次いだが、高い
経済成長のおかげで税収も膨らみ均衡財政を維持する
ことができた。
しかし、昭和40年(1965年)に均衡財政は終わりを告げ
る。この年オリンピックの終了の反動で不況が始まる。
これに対して国債の発行による政府支出の増加という
景気対策が採られた。
北京オリ
ンピックが
終ったら
どうなるん
だろ・・・
財政特例法により国債が発行されたが、このときの発行額は2500億円だった。
このときに発行された国債は建設国債というもので、公共事業などを中心にま
かなうものだった。つまり将来への投資という色合いが強かった。
・1970年代
石油ショックの発生。これは第4次中東戦争のときに、石油輸出国が原油価格
を大幅に値上げしたことに起因。
この原油価格の上昇は石油に頼る日本経済に大きな打撃を与えた。(この場合
の理論的帰結は10.6節を参照)
スタグフレーションと呼ばれる物価の上昇と生産水準の低下、それに伴う失業
の増加が起こった。
これに対して政府は1975年に初めて赤字国債を発行することになった。
建設国債と異なり政府の経常的な出費(社会保障費や人件費など)をまかなう
ために発行するもの。
これ以降、財政赤字は拡大を続け、国債の発行も加速する。
・1980年代
財政再建を行うように政策が転換する。
当初は1978年に起こった第2次石油ショックにより財政再建は難航。
1983年度から1987年度まで政府は政府支出を削減し続ける。
1980年代後半はバブル景気ともいわれるように経済活動は活発になったため
に税収も伸び財政再建を達成する。建設国債への依存は続くが、赤字国債への
依存からは脱却した。
・1990年代
事態は一変する。1980年代後半のバブル期に急上昇した地価や株価のような
資産価格を押さえ込むための政策が採られた。
*土地に対する税を強化して地価税を導入。
*不動産融資の総量規制と呼ばれる金融機関に対する政策を実施。
*金融機関の土地に対する融資を制限。
そのため不動産価格は下落していった。土地を担保にして融資を行っていた銀
行は貸し出した資金を回収できなくなり、銀行は多額の不良債権を抱えることに
なった。
これらが引き金となり1991年以降の長い不況へと突入してゆく。
このような不況に対処するために1994年に再び赤字国債が発行された。
1996年に景気の回復が始まり、それを受けて1996年に財政構造改革法が施
行され財政再建が再び試みられようとした。
一方、このときに政府は消費税率を3%から5%へと上昇させた。その結果、景
気は再び落ち込み多数の金融機関が破綻する。そのため政府は再び国債の
発行を進めてゆくことになってしまう。
現在の政府はその方針として、国債の発行額を30兆以下に押さえ込むことを
目標にし、財政赤字を2010年代には黒字化することを目指す。
12.2
政府の予算制約
政府の予算制約はどのように表せるだろうか。
まず初めに政府がどれほどの借金をする必要があるか見てみよう。
基本となるのは財政赤字で、次のように定義される。
(第1次的)財政赤字=政府支出-税収
プライマリーバランスまたは基礎的財政収支という。
しかし、政府が借金をしていれば利子の返済もしなければならない。
また借金には以下のように異なる返済の期限がある。
1年の政府短期証券
2,3,4,5年の中期国債
6,10,15,20年の長期国債
もちろん、満期が来たら償還しなければいけない!
このようないろいろな満期の公債を一度に考えるのはメンドーなので、公債は1年で
償還されるものとする。
つまり満期が1年。この償還のための資金も必要。結果、政府はこれらの必要な資金
(償還費)+(利払い)+(第1次的財政赤字)
を新たに公債を発行して調達する必要がある。
昨年発行して今年存在している公債を償還するものだから、
今年の公債額に等しくなる。
現在存在している公債に対する利払いであるから、
(名目利子率)×(今年の公債残高)となる。
よって新たに発行する必要のある公債額は次のようになる。
(新規の公債発行額)≡(来年の公債残高)
=(今年の公債残高)+(名目利子率)×(今年の公債残高)+(第1次的財政赤字)
=(1+名目利子率)×(今年の公債残高)+(第1次的財政赤字)
注意!!今年に新規発行した公債は来年に存在する公債残高に等しい。
簡単化のために第1次的財政赤字がなかったとする。 すると公債の変化は次の
ようになる。
(来年の公債残高)=(1+名目利子率)×(今年の公債残高)
すなわち、公債残高は年々(1+名目利子率)倍に増えてゆく!
つまり財政赤字をなくしたとしても年々公債の残高は増えてゆくことになってしま
う。公債残高を減らすためには財政赤字をなくすだけではだめで財政を黒字の状
態にしなければならないことを示している。
では財政赤字がなくならない状況では、公債残高は増え続けて借金財政はなくな
らずいつか国家財政は破綻してしまうのだろうか??
政府には寿命が無い!ので、借金の返済をし続けても、公債残高と国の所得の
比率が大きくなりすぎない限り国が借金によって破産することはないのだ。
では国の所得って何だろうか??・・・・・・名目GDPのこと。
と、公債も名目値で評価されているから。
なぜ名目かという
名目GDPはどのように変化してゆくだろうか??
(名目GDP)=(GDPデフレーター)×(実質GDP)
名目GDPの増える比率は次のようになっている。
(来年の
=
今年の名目 GDP (今年の
GDP デフレーター)

(来年の実質
GDP )
GDP デフレーター)

(今年の実質
GDP )
来年の名目 GDP

(来年の
GDP デフレーター)
=
 今年の GDP デフレーター
  来年の実質 GDP  

   今年の実質 GDP  
GDPデフレーターの増え方は、年々GDPデフレーターが
何倍になるかを表すものだから、
1+インフレ率 の比率で増えてゆく。
実質GDPの増え方は経済で生産されているものの
年々の増え方であるから、
1+経済成長率 の比率で増えてゆく。
したがって名目GDPの年々の増え方は、
(1+インフレ率)×(1+経済成長率)
さて公債の増え方と名目GDPの増え方を比較しよう。
名目GDPの伸び率が公債残高の伸び率を上回れば国の借金が国の
収入(名目GDP)に占める割合は減ってゆく。
(名目GDPの伸び率)=(1+インフレ率π)×(1+経済成長率g)
>(1+名目利子率i)=(公債残高の伸び率)
この不等式の両辺を(1+インフレ率π)で割ると、
1+経済成長率g>1+名目利子率i
1+インフレ率π
フィッシャー方程式を思い出そう。
右辺は1+実質利子率 r である
つまりこの不等式は、
(経済成長率g)>(実質利子率r )
という関係を示す。
経済の成長が早ければ国の借金(公債残高)が国の収入(名目GDP)に占め
る割合が減る。
したがって、財政赤字を減少させるだけでは問題は解決せず、経済の成長を
促進させ実質利子率を低下させることが大切。
最近の日本経済・・・
日本銀行のゼロ金利政策およびそれに続く量的緩和政策により名目利子率
は低く抑えられているが、インフレ率はマイナスでデフレが起きている。した
がって、実質利子率は低くない。またこの10年間、日本経済は非常に低い成
長率だったため、この条件は満たされていない。
図12-3 国債残高と国内総生産(GDP)、国民総所得の比率1990年代前半ま
ではこの比率は安定的に推移。 1990年代後半からその比率は急上昇。
第2章の図2-2 1990年代後半には名目GDPは低下。つまり公債残高と名目
DPの比率の上昇は、日本の経済成長率が大きく低下していることに原因があ
る。またこの時代には公共事業費の伸びなど財政赤字が拡大する要因もあっ
た。
財政赤字が存在する場合はどうだろうか。
後の補論を見てみよう!
やはり経済成長率が実質利子率を上回れば公債残高は国の収入に対して
膨らんでゆかない。 →プライマリー・バランスを政府支出の削減や増税を行
なって無理に均衡させる必要はない。
では、財政赤字の規模がまったく問題を起こさないかというとそうではない。
分析の簡単化のためにおいた仮定の吟味が必要。
ここでは利子率が一定、経済成長率が一定であるという仮定をおいた。
この2つは公債残高と無縁のものではない。特に、公債残高が膨らんでくると
名目利子率は高くなる傾向がある。しかしこれまでの研究で共通して分かっ
ていることは、あまりに大きな財政赤字は維持可能ではないということ。
ただし、先ほどから述べているように、財政赤字をなくしてしまう必要はない。
また、実質利子率を低下させる以外に、インフレ率を上昇させるという方法も
ある。では政府がインフレを引き起こすにはどのような方法があるだろうか。
日本銀行を利用することで可能!
政府がその発行する公債を日本銀行に購入させる(公債の中央銀行引き受
け)。
政府は日本銀行から手に入れた貨幣を用いて政府支出を行うことができる。
貨幣鋳造益(シニョレッジ)を得た。
政府支出を行なったので政府から民間へ貨幣が移ってゆくため、経済の中の
貨幣量が増えたことになる。
物価の上昇、インフレーションが起こる。
ただし、このような公債の中央銀行引き受けは法律によって禁止されている。
これを国債の市中消化の原則と呼ぶ。
このように定められている理由は、中央銀行が政府の発行する国債を無制
限に引き受けていると、インフレーションが発生してしまうため。しかし、政府
の発行する国債をいったん家計や企業に売って、それを日本銀行が市場か
ら買いオペにより購入すれば、中央銀行引き受けと同じになる。
補論
財政赤字のある場合の公債残高の変化
政府の予算制約式
(来年の公債残高)
=(1+名目利子率)×(今年の公債残高)+(第1次的財政字)
この式の両辺を今年の名目GDPで割る。
来年の公債残高 
=(
今年の名目 GDP 
1  i)
今年の公債残高  第 1次的財政赤字 
+
今年の名目 GDP  今年の名目 GDP 
この式を次のように変形。
来年の公債残高  来年の名目 GDP 
来年の名目 GDP  今年の名目 GDP 
今年の公債残高  第 1次的財政赤字 
=( 1  i )
+
今年の名目 GDP  今年の名目 GDP 
ここで名目GDPの伸び率を次のように定義する。
来年の名目
今年の名目
GDP
GDP

=1+(名目

GDP の成長g
n
)
すると先の式は次のようになる。
来年の公債残高 
(1  g n )
来年の名目 GDP 
今年の公債残高  第 1次的財政赤字 
=( 1  i )
+
今年の名目 GDP  今年の名目 GDP 
したがって次のようになる。
来年の公債残高  1  i 今年の公債残高 
第 1次的財政赤字 

+
来年の名目 GDP  1  g n 今年の名目 GDP  1  g n 今年の名目 GDP 
この式の第
1項の係数
また次のように記号を
1 i
1 gn
を簡単化のために
決める。
来年の公債残高 
来年の名目 GDP 
今年の公債残高 
b=
今年の名目 GDP 
第 1次的財政赤字 
d=
1  g n 今年の名目 GDP 
b =
x と置く。
すると予算制約式を次
のように記号で簡単に
表記できる。
を引く。すると次のよ
うになる。
b   xb  d
d
この式の両辺から
b 
d
1 x
1 x
 xb  d 
 xb 
1  x   1
1 

 xb   1 
d
 d  xb 
1 x
1

x
1

x


d
 x
1 x
d  xb 
したがって、予算制約
b 
d 

d  x b 

1 x
1 x 

x
式は次のようになるこ
とが判明。
d 

 x b 

1 x
1

x


d
したがって、
x が 1より小さければ
x が 1より小さいことは名目
つまり名目
b
d
1 x
は年々小さくなってゆ
利子率が名目成長率よ
GDP に対する公債残高が爆
くことがわかる。
り低いことを意味して
発的に増えてゆくこと
いる。
がないことが分かる。
お疲れ様でした。
これで、マクロ経済学入門の授業はおしまいです。
この授業はこれから皆さんが学んでいく経済学の土台にな
る部分!!しっかり勉強しておいて損はしないはず☆
がんばってテストに挑んでください。
それではまたどこかで・・・