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道徳教育(他学部)
7月31日(金)4限
第十四回「人間の幸福とは何か?-すばらしい新世界-」
道徳教育の目的としての幸福
• 道徳教育の目的って何でしょうか?
• 色々な考え方があるわけですが、今回は「子ども
個人の幸福とともに人々が幸福に生きることので
きる社会を創ること」であると考えてみたいと思
います。
• では、幸福とは何でしょうか?
• 今回はこのことについて考えてみたいと思います。
グループワーク①
• 幸福って何でしょう?
• 全ての人が幸せな社会を創ることはできると思
いますか?
• 3~4人のグループで話し合ってみて下さい。
人間の幸福とは何か?
• 今日の題材であるオルダス・ハクスリーの『すばら
しい新世界』という小説は、人間の幸福とそれを実
現するための教育や社会建設の方法について、一つ
の「答え」を定めて、ユートピア社会を描いていま
す。
• この小説の中で示される「答え」はある意味で完璧
であり、人々は(この世界の定義によれば)幸福に
暮らすことができているにもかかわらず、とても薄
気味悪く、人間らしさを失った世界であるように見
えます。
• 「この世界の何が問題なのか?」、「ここから私た
ちが学べることは何なのか?」、といったことを考
えながら今日の話を聞いてもらえればと思います。
『すばらしい新世界』
• オルダス・ハクスリーによるSF小説。
• 第一次世界大戦と第二次世界大戦の間にあたる1932年
に書かれた。
• 当時はドイツでヒトラーを中心とするナチズムの勢力が躍
進し、イタリアではムッソリーニを中心とするファシスト
の独裁体制が確立した。また、旧ソ連では工業化社会と農
業集団化による社会主義国家建設を目指してスターリンが
第一次五カ年計画に着手し始めていた。
• ハクスリーはこのように世界各国で科学技術を最大限に利
用しながら、個人としての人間の価値を無視した全体主義
社会が生まれ始めていることに危機感を覚え、風刺的な意
味合いを込めてこの小説を書いたと言われている。
舞台設定
幸福とは快楽である
• 時代は西暦2500年頃
• この世界(以下、「世界」と呼ぶ)では、大量生
産、大量消費による社会の経済的な繁栄と安定、
人々の幸福が目指されている。
• ここで言う、「幸福」とは肉体的、精神的な「快
楽」のことです。つまり、肉体的、精神的に快適
で苦痛のない状態を指している。
• こうした目的を達成するため、「世界」では未来
の科学技術の力を最大限に発揮しながら社会の秩
序を完璧に統制し、予定調和的な楽園を創り上げ
ている。
人工授精と階級分け①
• 「世界」では子どもは女性から生まれない。全ての
子どもが人工孵化所と呼ばれる工場で人工授精によ
り、管理されて生まれてくる。
• 女性は生まず女として子どもが生めない体で生まれ
る。人工授精のための卵子を提供する少数の生まず
女ではない女性もいるが、避妊訓練を受ける。
• なぜこんなことをするのか?それは生まれてくる子
どもの知能や体格を管理するためである。
人工授精と階級分け②
• 「世界」では卵子を分裂させたり、生後の酸素供給
量に差を設けるなどして、人々はアルファ、ベータ、
ガンマ、デルタ、エプシロンという知的、肉体的な
優劣に基づく階級分けをされて生まれる。
• 将来的に高い階級の人間は複雑な知的労働に、低い
階級の人間は単純な肉体労働をすることになる。
• 「世界」では完全な分業制が敷かれ、少数の支配者
層以外は自分の仕事以外の社会の全体像がほとんど
理解できないようにコントロールされている。つま
り、人々から社会に対する疑問が生まれないように
して社会の安定を図っている。
条件反射教育①
• 子どもは条件反射教育によって、社会の秩序や自
分の階級の生き方に疑問を抱かないように完璧に
支配される。
• 条件反射教育とは何かを信じさせるために同じフ
レーズを繰り返し聞かせたり、何かを好きにさせ
たり嫌いにさせるために肉体的な刺激を利用する
教育(いわゆる洗脳)。
• 条件反射教育によって子どもは自分の運命を受け
入れてそれを幸福だと考えるようになる。
条件反射教育②
• 例えば、熱帯で鉱夫や鉄鋼工などになる予定の子
どもには胎児の段階から暑いトンネルと冷たいト
ンネルを通り、冷たいトンネルには強いエキス光
線による不快感が伴うようにする。このことで寒
さを嫌いにさせ、暑さを好きにさせる。
• 条件反射教育には死に対する不安を取り除く教育
も含まれる。幼児は皆、危篤者病院で週二日午前
中を過ごし、死亡者が出る日にはチョコレート・
クリームがもらえるようになっている。
• 人々の死に対する不安を取り除くことで、社会の
安定が乱れないようにしている。
幸福(快楽)の完全な保障①
• 人々は社会の安定のために奉仕させられるだけではなく、
社会から快楽という形での幸福を完全に保障されている。
• 子どもは人工授精によって生まれるため、家族はなく、
男女の恋愛とセックスは快楽のためだけに存在する。
• 「万人は万人のものである」という条件反射教育で植え
付けられた道徳により、一人の相手とだけ行う恋愛が戒
められ、毎晩相手を変えて楽しむことがよしとされる。
• 一対一の恋愛は個人主義を助長し、妻や子どもや恋人と
いった激しい感情の種は社会の安定を乱すと「世界」で
は考えるのである。
• 恋愛の快楽だけでなく、触感映画(観るだけでなく、体
の感覚も引き起こす映画)や電磁気ゴルフ、エスカレー
ター式テニスなど、最新技術による娯楽には事欠かない。
幸福(快楽)の完全な保障②
• 「世界」では精神的な快楽も保障されている。「世界」での
精神的な快楽とは不安がないことである。
• 憂鬱な気分になったときのためにソーマと呼ばれる麻薬が用
意され、飲むことで全ての不安や憂鬱を忘れることができる。
ソーマは肉体に苦痛を与える副作用もない。
• また、「世界」でも寿命はあるものの、人が肉体的に老いな
いようになっている。肉体的に健康な老人は若者と同じよう
な生活を送り、快楽を楽しむ。
• このことで老人は物事を深く考え込む暇がなくなり、精神的
にも年を取らない。(快楽を求めて刹那的に生きる)
• あらゆる苦痛が取り除かれ、快楽が完全に保障された人々は
「今では全ての人は幸福である」(条件反射教育で植え付け
られた言葉)と心から信じ込んでいて、「世界」の社会秩序
に疑いを挟むことはない。
あらすじ①
• バーナード・マルクスはアルファ階級に属しているものの、
アルファ階級の標準から背丈が7㎝近くも低く、体つきも
細いために、人工孵化所で血液大溶液にアルコールが混入
してしまったという噂を持たれて周囲からからかわれてい
た。
• そのため、彼は「世界」の中で疎外感を感じ、「世界」の
社会規範に対しても疑問を抱くようになった。彼は自由を
求めており、社会機構の歯車とならずに独立した存在であ
りたいと考えていた。
• 一方、マルクスの友人であるヘルムホルツ・ワトソンは情
緒科学大学の講師を務め、知的に並はずれた才能ゆえに世
間一般からの孤立感を深めていた。そして、やはりマルク
スのように「世界」の秩序に対して疑問を抱くに至った。
あらすじ②
• ある日、マルクスは想いを寄せるレーニナ・クラ
ウンという女性を誘って、ニューメキシコにある
野蛮人保護地区を見物しに行く。
• 野蛮人保護地区とは、インディアンや混血児の住
む地域。ここでは女性から子どもが生まれ、人々
は家族を持つ。また、「世界」の中では例外的に
宗教が残されている。
• いわば野蛮人は現在の私たちの世界と同じような
生活をしているわけなのだが、「世界」の人びと
にとっては気味が悪く、動物園に動物を見に行く
ような気持ちで行く所。
• そこでマルクスとレーニナは白人の青年ジョンに
会う。
あらすじ③
• ジョンはリンダという昔は「世界」の中心都市であるロンド
ンで働いていたベータ階級の女性の子どもである。
• リンダはマルサス式避妊訓練を受けていたにもかかわらず、
妊娠をしてしまった。ジョンが生まれる前にジョンの父親と
野蛮人保護地区に旅行に出かけ、そこで事故に会って帰れな
くなってしまった。野蛮地区には人口流産所もなく、ジョン
を生まざるをえなかった。
• ジョンは母親のリンダから「世界」の話を聞かされ、村の老
人からは宗教的な世界観について聞かされて育った。
• また、ジョンはリンダの愛人ポぺが持ってきた「シェイクス
ピア全集」(芸術作品は「世界」では発禁処分を受けてい
る)を手に取り、読む機会を得た。
• シェイクスピアの言葉の一つひとつが彼に大きな影響を与え、
「世界」にはない世界観を抱くようになった。
あらすじ④
• マルクスは元々は「世界」に住んでいたジョンとリ
ンダをロンドンに連れ帰ることにする。
• 野蛮人集落で育った文明人の子どもとしてジョンは
科学の興味の対象となり、世間の注目を集めた。
• しかし、ジョンは「世界」に対して全く馴染むこと
ができずにいた。人間とは思えない不完全な容姿の
デルタ、エプシロン階級が働く工場を見学して嘔吐
し、触感映画などの娯楽は低級にしか感じなかった。
• また、ジョンはレーニナに想いを寄せていたが、
シェイクスピアの世界のような恋愛観をもつジョン
にとって、恋愛に快楽だけを求めるレーニナのアプ
ローチはあまりに不道徳であり、お互いに噛み合わ
ずに困惑していた。
あらすじ⑤
• そんな中、ジョンの母親のリンダが亡くなる。
• 「世界」に対して積もっていた嫌悪感と母を亡くした悲
しみでジョンはパニック状態に陥る。
• すると、ジョンはソーマの配給を求める下層階級の人々
の群れに遭遇する。この不快な光景に我慢ができなく
なったジョンは、「君たちは自由に人間らしくなりたく
ないのか!」と叫んで配給用のソーマを投げ捨て、人々
と乱闘騒ぎを起こす。
• 駆けつけたマルクスとワトソンとともに逮捕されたジョ
ンは、「世界」の西欧駐在総統のムスタファ・モンド
(以下、総統と呼ぶ)の書斎に呼び出される。ここから
物語のクライマックスシーンであるジョンと総統との会
話が展開される。
総統との会話①
• ジョンは「世界」に対する疑問を総統に対してぶつ
ける。
• まずは、人工授精で好きなように人間を生み出せる
なら、なぜ全てアルファ階級の人間を作らないのか
ということを総統に問いただす。
• この疑問は総統によって一笑に付される。アルファ
の人間がエプシロン階級のような単純な仕事をしな
ければならないとすれば、気が狂ってしまうという。
総統との会話②
• 逆にエプシロン階級は知能が抑えられているから、自
分たちがみじめな仕事をしているという自覚がない。
むしろ簡単で楽な仕事を気に入っている。ほどよい労
働と、たっぷりの快楽を与えられて、満足しているの
である。
• 実は「世界」ができるまでの歴史の中で、小さな島を
使ってアルファ階級だけの社会をつくる実験が行われ
ていた。
• しかし、より高級な仕事を巡る争いと陰謀の末に内乱
が起き、ほとんどの人間が殺されてしまった。
• 残った人々はついにあきらめて世界総統たちに島の統
治をもう一度やり直してほしいとお願いしたのである。
総統との会話③
• 次にジョンは「世界」ではなぜ人間らしい文化が禁
止してしまうのか(例えばシェイクスピアの『オセ
ロ』が発禁処分になっている)、総統に問いかける。
• 実は、総統は「世界」で禁止されている芸術や、宗
教についてもジョンよりはるかに教養があり、昔は
物理学者として研究をしていた。
• しかし、そんな総統が「世界」における安定と幸福
(快楽)のために芸術や宗教を禁止し、科学さえ制
限することにしたのである。
総統との会話④
• 芸術によって激しい感情を引き起こされたり、宗教
によって現世以外の価値を追い求めるようになるこ
とは社会に対する不安を高め、「世界」の安定と両
立しない。
• また、科学における真理の追究も、科学が生み出す
技術が「世界」の繁栄に役立つ内はよいが、真理の
追究自体が目的となると世界の安定を脅かす恐れが
あるという。
• 自由や、芸術、宗教、真理を求める心など、総統は
およそ人間らしいものをあえて犠牲にして、幸福と
安定を求める「世界」を創りだしたのである。
総統との会話⑤
• このように、「世界」の仕組みは総統のような条件反
射教育も受けていない、とても頭がよく、知識も豊富
な人たちによって考え抜かれたものだった。
• 「世界」ができる前までは、人々は階級分けも条件反
射教育もなく、私たちと同じように暮らしていた。
• しかし、9年戦争と呼ばれる大きな戦争で人類滅亡の
危機に陥り、暴力のない安定した社会をつくるために
「世界」の仕組みが考えられたのだった。
• 「世界」は総統の私利私欲のためにつくられたわけで
もなかった。総統は本来科学者として自由に自分の意
志で研究を続けたかったのに、「人々の幸福のため
に」あえてこのような「世界」づくりに奉仕している
のである。
• ジョンと総統の考え方は完全に相容れず、決別する。
ジョンと総統の決別
総統 「われわれは物事を愉快にやるのが好きなんだよ」
ジョン「ところが、私は愉快なのがきらいなんです、私は神を
欲します、詩を、真の危険を、自由を、善良さを欲し
ます。私は罪を欲するのです」
総統 「それじゃ、全く、君は不幸になる権利を要求しているわ
けだ」
ジョン「それならそれで結構ですよ。私は不幸になる権利を求
めてるんです」
総統 「それじゃ、いうまでもなく、年をとって醜くよぼよぼに
なる権利、梅毒や癌になる権利、食べ物が足りなくなる
権利、シラミだらけになる権利、明日は何が起こるかも
しれぬ絶えざる不安に生きる権利、チブスにかかる権利、
あらゆる種類の言いようもない苦悩にさいなまれる権利もだ
な」
ジョン「私はそれらのすべてを要求します」
総統 「じゃあ、どうぞお好きに」
物語の結末①
• マルクスとワトソンは、総統によって「島」に送
られる。
• 「島」では彼らのように何かの具合で、「世界」
に適応できず、自分自身の独立した思想をもつよ
うになった人間(つまりは我々の社会でいう普通
の人間)が「世界」から隔離されて暮らしている。
「世界」に適応できず、孤独を感じる彼らにとっ
て、ある意味ではこれは幸せなことと言える。
• しかし、ジョンは野蛮人地区育ちの文明人に対す
る研究を続けるために、「島」に行くことを総統
に許してもらえない。
物語の結末②
• ジョンは実験材料にされることを嫌って、文明か
ら遠く離れた地へと逃げ出し、そこで一人、ひっ
そりと生活を送る。
• しかし、「世界」のジャーナリズムはジョンを
放っておかず、住み家を発見されてしまう。
• 再びジョンは世間の好奇の目にさらされ、大勢の
見物客に見舞われる。ジョンは文明を捨てた野蛮
人として、狂人のような扱いを受ける。
• 「世界」に居場所を見いだせなくなったジョンは
一人、自殺を遂げる。
グループワーク②
• 総統は条件反射教育を受けていない普通の、しかも知
識も教養も極めて高い人間です。
• その総統が人々の幸福のために、社会のレベルでは経
済的繁栄と安定を、個人のレベルでは快楽を追求した
結果が「世界」でした。
• では、「世界」の人々は幸福だと言えるでしょうか?
この「世界」に間違ったところがあるとすればそれは
何なのでしょう?
• 「世界」とは違う幸福を考えられますか?
• もしそれを可能にするための技術があったならば、人
は「世界」のような生き方を求めるのでしょうか?皆
さんはどう考えますか?
• その他、考えたこと、疑問に思ったことなど、自由に
話し合ってみて下さい。
感想シート
• 今日の授業の中で考えたこと、疑問や質問、グループワーク
の中で話し合ったこと、授業に対する要望、なんでもかまい
ません。
• 感想の紹介は匿名で行いますが、プライベートなことにかか
わるなど、どうしても次回の授業で紹介してほしくない部分
などがあればその旨を記してください。
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ログを利用してください。
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HP http://moral-education.seesaa.net/
ユーザー名 moral-education
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参考文献
• オルダス・ハクスリー 『すばらしい新世界』 (講談社文庫、光
文社古典新訳文庫など、複数の訳あり)
ハクスリーに興味をもった人のために・・
• オルダス・ハクスリー 『素晴らしい新世界ふたたび』(高橋衛右
訳)
近代文芸社
小説ではなく、『すばらしい新世界』から30年近く経った現実の世
界についての評論
• オルダス・ハクスリー 『知覚の扉』(河村錠一郎 訳) 平凡社
ライブラリー
ハクスリー自身が実験として麻薬を服用し、そこから見えた世界につ
いて語っている
その他、小説では『恋愛対位法』、『ガザに盲いて』などが有名。
補講
• 8月7日(金) 4限・5限にそれぞれ行い
ます。
• 出席できない理由のある人は吉國まで
メールを下さい。
• 成績をつける際には考慮します。