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国際比較法制論A 第4回授業 2006 年5月11日 阿川尚之

司法審査の誕生と発展

1:合衆国最高裁判所の誕生

1:合衆国最高裁判所の誕生 ( 1/2 )   連邦議会の発足と1789年司法権法 (the Judiciary Act of 1789) の制定 合衆国憲法第 3 章 1 節の規定  合衆国最高裁判所(1)  合衆国巡回裁判所(3)  合衆国地区裁判所(13)

1:合衆国最高裁判所の誕生 ( 2/2 ) 最高裁判所開廷( 1790 年 2 月)  ニューヨーク市ロイヤル・エクスチェンジ・ビ ル  判事の定員は六人  そのうち2人が欠席  初代首席判事:ジョン・ジェイ

2:初期の合衆国最高裁判所

2:初期の合衆国最高裁判所 ( 1/3 ) その①:存在感のなさ  事件のなさ  1801 年までに 55 回判決を下す  巡回裁判所での仕事   最高裁判事は巡回裁判所の判事を兼任 最高裁判所の建物は 1930 年代まで存在 せず

2:初期の合衆国最高裁判所 ( 2/3 ) その②:首席判事の交代  ジョン・ジェイは外交官に転進、   その後ニューヨーク州知事 (ジョン・ラトリッジ → 上院が承認を拒否) 第 2 代首席判事 オリバー・エルズワース (ジョン・ジェイ、再任を拒否)

2:初期の合衆国最高裁判所 ( 3/3 )    その③:初期のケース チゾム対ジョージア事件( 1793 年)と修正11条 大統領への助言拒否( 1793 年) 事件性の要件 その④: ジョン・マーシャル首席判事  の登場 1800 年 1 月就任

3:マーベリー対マディソン事件 ①事件背景

3:マーベリー対マディソン事件 事件背景( 1/5 )  連邦党政権の敗北と共和党新政権の発足   第 2 代ジョン・アダムズ大統領 第 3 代トマス・ジェファーソン大統領  議会上下院も連邦党から共和党へ

3:マーベリー対マディソン事件 事件背景( 2/5 )  連邦党による影響力残存の試み  1801 年司法権法の制定  連邦裁判所判事の大量任命

3:マーベリー対マディソン事件 事件背景( 3/5 )  アダムズ大統領と国務長官マーシャルに よる深夜の任命作業  大統領による新判事の指名  議会上院の助言と承認  大統領による任命

3:マーベリー対マディソン事件 事件背景 ( 4/5 )  アダムズ大統領と国務長官マーシャルに よる深夜の任命作業  マーベリー他の治安判事への任命状署名   マーシャル国務長官による任命状封印と発送 (ミッドナイト・ジャッジズ) マーベリー他数名の任命状発送せず ← これ が事件の引き金

3:マーベリー対マディソン事件 事件背景( 5/5 )  ジェファーソン大統領とマディソン国務長官 の任命状発送拒否  新大統領の就任( 1801 年 3 月 2 日)  任命状の発見と無視  マーベリーらによる執行命令発出を求めて の訴訟提起 → 事件となる!!

4:マーベリー対マディソン事件 ②3つの争点

4:マーベリー対マディソン事件 3つの焦点 ( 1/1 )  1.マーベリーの任命は有効か  2.マーベリーは法的救済を求める権利を 有するか  3.最高裁は救済のために職務執行命令 を発出しうるか

4:マーベリー対マディソン事件 ③答え

4:マーベリー対マディソン事件 答え( 1/1 )  1.イエス  2.イエス  3.ノー

4:マーベリー対マディソン事件 ④理由

4:マーベリー対マディソン事件 理由 ( 1/2 ) 1:任命は大統領の署名によって完了 2:任命は法的権利で当然 法的救済を与られるべき 3:職務執行命令を出す権利を定めた 1789 年司法権法は憲法に照らして無効

4:マーベリー対マディソン事件 理由 ( 2/2 )  1789 年司法権法第13条は  執行命令発出を最高裁に許可している。 しかし、憲法は第 1 審管轄権に 執行命令発出を含まない。  そのため、憲法と法の内容が矛盾した 場合は、憲法の規定が優越。  また、法の解釈は裁判所の専権事項、 よって憲法解釈も最高裁の任務である。

5:マーベリー事件の意義(1)

5:マーベリー事件の意義(1) ( 1/1 )  マーシャルの政治的勝利  職務執行命令を出せば拒否される -司法の権威失墜  出さなければ行政に屈服したことになる - 司法の権威の失墜  違憲を理由に出さないことにより、 行政の顔を立て同時に司法の優位を主張

5:マーベリー事件の意義(2)

5:マーベリー事件の意義(2) ( 1/1 )  違憲立法審査権の確立  憲法を法として扱い法的強制力をもたせた  憲法の解釈をすることによって憲法解釈にお ける司法の役割を明確に   連邦政府内における司法の地位を確立 日本国憲法81条への影響

5:マーベリー事件の意義(3)

5:マーベリー事件の意義(3) ( 1/1 )  残った疑問     違憲立法審査権の根拠は? 多数決主義との矛盾は? 州法の審査と連邦法の審査は違う? 憲法の解釈は裁判所の専一事項か?  どのような基準にもとづいて判断をするの か?

6:マーベリー事件の余波

6:マーベリー事件の余波 ( 1/2 )  サミュエル・チェイス判事の弾劾裁判 ( 1805 年)  マーシャルの覚悟  政権・議会と最高裁の衝突

6:マーベリー事件の余波 ( 2/2 )   州に対する司法審査  フレッチャー対ペック( 1810 年)  (合衆国は州法を無効にできる) マーティン対ハンターズ・レシー事件( 1816 年)  (連邦最高裁は州最高裁の判決を覆せる) コーヘン対ヴァージニア事件( 1821 年) 最高裁の権威確立

7:今日の司法審査

7:今日の司法審査 ( 1/4 )  活発な司法審査  1960 年代の進歩的判決  (上:アール・ウォレン首席判事) 1970 年代からの変化 (下:ウォレン・バーガー首席判事)

7:今日の司法審査  1990 年代の保守的判決  (右:レンクイスト首席判事) 2005 年以降の最高裁 (左:ロバーツ首席判事) ( 2/4 )

7:今日の司法審査 ( 3/4 )   いくつかの劇的な司法審査     ブラウン対教育委員会事件 ロー対ウェード事件 ニクソン対合衆国事件 ブッシュ対ゴア事件 司法審査の正統性に関する論争  立憲主義と民主主義(多数決主義)のあいだ の緊張

7:今日の司法審査 ( 4/4 )  日本国憲法への影響(憲法第 81 条) → 「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則 又は処分が憲法に適合するかしないかを 決定する権限を有する終審裁判所であ る。」