Transcript ディグレーダー
Establishment of a Versatile Method for Systematic Studies of High-Spin and LongLived Excited States in Nuclei around Double Magic Nucleus 56Ni (56Ni周辺核の高スピン・長寿命励起状態 を研究するための効率的な方法の確立) 下田研究室 伊藤 洋介 見目 庸 菅原 啓 目次 目的と動機 実験場所と検出器 実験手順と結果 解析 まとめ 今後の課題 実験目的・動機 さまざまな励起状態の原子核の構造はどうなっているのか? 不安定な原子核は放射線を出して安定な原子核に崩壊する。 ⇒今回は特に、アイソマーとよばれる 特異な状態に着目する。 52Fe γ線 これらの放射線を測定して 原子核の構造を探る! アイソマーとは? 長い寿命を持った核の励起状態のこと 普通の励起状態の寿命→10-13~-15秒 アイソマーの寿命→10-9秒 ~ 数秒 ~ 数時間のものもある!! 動機 二重閉核56Ni周辺の原子核では高スピンで長い寿命 を持つ状態(アイソマー)が観測されている。 特に52Feは半減期46s、スピン・パリティが12+という高 スピンのアイソマーが確認されているが、それよりスピン の大きい状態はまだ知られていない。 これをクーロン励起させればアイソマーより上のスピンの 大きい準位を測定し、核構造についての議論が可能と なる。 今回の実験では、 56Ni周辺核の高スピンアイソマービームをつくる。 ⇒今回は特に52Feを見る。 高スピンアイソマービームを、強度・純度を高く、収束を 良く輸送する。 反応過程 反応生成物 4455 Sc 50V 52 Fe 56 50Co 54 48Cr MnFe 40Ar+natMg→64Zn* Fe γ線 n 40Ar p Pb 核融合 52Fe natMg 64Zn α γ γ線 Ge検出器 一次ビームのエネルギーを決める CASCADEというシミュレーションソフトで計算 52Feの生成量、S/Nが大きくなるエネルギーを選択 (MeV/u) 核融合反応の生成物 適切な反応を選んでも様々な核種が生成する。 52Feの反応断面積はわずか0.139%。 CASCADEの計算結果による 生成核種の見積もり Z 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 0.1~1.0mb 20 1.0~10mb 21 10~100mb 22 23 24 N 25 26 27 28 29 30 31 多くの核種の中から アイソマーだけを選び出し、 さらにS/Nよく目的の核種の γ線を検出してやる必要がある。 実験場所 大阪大学核物理研究センター(吹田キャンパス) →RCNP (Research Center for Nuclear Physics) 東実験室のENコース(二次ビームコース) 加速器: AVFサイクロトロン 東実験室 AVFサイクロトロン ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 Q3 Q2 Q1 F1 F0 反応 40Arビーム 飛行距離:16m 飛行速度:~0.07c 飛行時間:~700ns D2 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 F2 γ線測定 Pbキャッチャー 寿命の長い生成核からの 放射線のみ測定できる S/Nよくアイソマーからのγ線を観測できる。 ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 Q3 Q2 Q1 F0 F1 D2 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 40Arビーム 双極電磁石 磁場をかけてビームを曲げることで 52FeとBrが異なる粒子を分離する。 ここで1次ビームをきる。 F2 Pbキャッチャー ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 Q3 Q2 Q1 F0 F1 40Arビーム D2 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 F2 Pbキャッチャー Alディグレーダー エネルギー損失のE,Z依存性を利用して 粒子のBrを変え、D2で分離できるようにする 二次ビームのエネルギーを調整する ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 Q3 Q2 Q1 F0 F1 D2 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 40Arビーム 双極電磁石 磁場をかけてビームを曲げることで 52FeとBrが異なる粒子を分離する F2 Pbキャッチャー 双極電磁石とディグレーダー 双極電磁石 ⇒Brの違いで粒子を分ける p p: 運動量 Br q q: 価数 ディグレーダー B:磁場 D1 r: 曲率半径 D2 Bρが違う その他の 粒子 52Fe ディグレーダー ⇒エネルギー損失がEとZに依存 2 Z: 陽子数 MZ E M: 粒子の質量 E ディグレーダーで目的核の電荷も分布しS/Nは上がるが強度が減ってしまう。 ディグレーダーが無い場合の光学系と比較する必要がある ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 Q3 Q2 Q1 F0 F1 D2 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 F2 40Arビーム Pbキャッチャー 四重極電磁石 レンズのような働きをし、ビームを収束させる ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 D2 Q3 Q2 Q1 F0 F1 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 F2 40Arビーム F2チェンバー Pbキャッチャー SSD PPAC 位置感応型ガス検出器PPAC、 半導体検出器SSDが入っている。 ディグレーダー ENコース natMg ターゲット D1 SX1 SX2 Q4 Q3 Q2 Q1 F0 F1 D2 Ge検出器 Q5 Q6 Q7 SX3 F2 40Arビーム Pbキャッチャー 二次ターゲット位置 Pbキャッチャーを設置しアイソマービームを止める。 周りにはGe検出器を配置。 Ge検出器(ゲルマニウム検出器) 高いエネルギー分解能を誇る検出器。 生成核からのγ線を測定する。 合計10台Ge検出器を使用。 うち6台BGOアンチコンプトンシールド付 全検出効率=0.8%(@1333keV) Ge検出器 F2 Pbキャッチャー 実験手順 ①52Feが増えるように双極電磁石の磁場を調整した。 ②2次ビームの収束を良くするため、 四重極電磁石の磁場を調整した。 ③ディグレーダーを入れる場合と 入れない場合をTOF-Eとγ線測定により比較した。 ⇒最もよい条件を確定し、その条件でγ線を測定した。 ①一次ビームを双極電磁石で切る 一次ビームは質量が軽く、natMgでのエネルギー損失 が低いため高エネルギーでBρ値も高い。 これを利用してD1の双極電磁石で一次ビームを切る。 一次ビーム 二次ビーム 双極電磁石の磁場の調整 52Feが増えるように双極電磁石の磁場を調整する。 散乱された一次ビーム 目的のエネルギー領域 3000 2000 1500 1000 500 2次ビームのエネルギー(MeV) 0 50 100 200 150 2次ビームのエネルギー(MeV) 双極電磁石の調整 双極電磁石の磁場を7点振った。 予測される52Feのエネルギーのカウントレートが最も多く なった磁場にセット。 このBρ値に設定した。 (T・m) ②四重極電磁石の磁場の調整 四重極電磁石を調整し、ビームが最も収束する値を選んだ。 PPACでビーム像を確認しながら調節した。 ③粒子識別 飛行時間TOF-二次ビームのエネルギーEをプロット 核種の質量数を識別することが可能。 LISEによる ディグレーダーなしの粒子識別 斜線状の模様が出来なかった。 ⇒粒子を分離することができず、粒子識別することができなかった。 ディグレーダーありの場合 ディグレーダーで1次ビームが切れた。 S/Nが上がりTOF-Eの粒子識別が可能になった。 ⇒TOF-Eを用いて目的とする粒子が最も多くなるような 条件をさがすことができる。 49Sc15+12+ 49V18+15+,50V18+15+ 49V17+14+ 44Sc15+12+ ディグレーダー有無の比較 F1にAl 9μmのディグレーダーを設置したときのGe検出器のスペクトル ディグレーダーあり 測定時間 1時間 counts ディグレーダーなし 測定時間 8時間 ch γ線測定の条件の決定 双極電磁石 ⇒ 52Feが最も多くなる値に設定。 四重極電磁石 ⇒ 2次ビームが最も収束する値に設定。 ディグレーダー ⇒ 今回は52Feの収量を重視し、 ディグレーダーは入れないこととした。 ⇒ この条件の下、γ線を8時間測定した。 γ線解析 Ge検出器のスペクトル 今回の実験で決定した条件において、8時間測定したγ線のスペクトル 54Fe 54Fe 53Fe 54Fe 54Fe 500 1000 1500 2000 Energy (keV) 2500 3000 3500 counts 52Fe 43Sc 52Fe 54Fe 52Fe 52Fe 53Fe 50Mn 43Sc 50Mn 53Fe 44Sc ⇒ 多くのアイソマーからのγ線が見えている!! 54mFe 3432 146 counts 500 1000 1500 2000 Energy (keV) 2500 3000 3500 52mFe 869 2037 counts 1200 1400 1600 Energy (keV) 1800 2000 生成したisomer 7+ 12+ 5+ 19/2+ 10+ 2+ 3+ γ崩壊するisomer β崩壊するisomer 7+ 19/2+ 6+ β崩壊する方向 isomerの強度 寿命 42mSc 43mSc 44mSc 46mV 50mMn 52mFe 52mMn 53mFe 54mCo 54mFe 7+ 19/23/2+ 6+ 3+ 5+ 12+ 2+ 19/2+ (7)+ 10+ β-decay γ-decay γ-decay γ-decay γ-decay β-decay β-decay β-decay β-decay β-decay γ-decay 61.7s 470ns 438μs 58.6h 1.02m 1.75m 46s 21.1m 2.58m 1.48m 364ns 強度 27.4 pps 数10 pps 4350 pps 86.5 pps 124 pps 29.0 pps 261.8 pps 395.4 pps 329.6 pps 274.8 pps Isomerの強度 1000pps~ 100~1000pps ~100pps ディグレーダーによるアイソマー強度の変化 53mFe 2338 1011 1000 counts 701 1328 1500 2000 Energy (keV) γ線強度比 701keVと同時計測されたγ線スペクトル 1011 counts 2338 Energy (keV) 実験値 γ線強度比 文献値 1011keV 3.5 6.6 2338keV 1 1 アイソマー探し 検出器1 γ1 γ2 検出器2 普通の崩壊 γ1 検出器の時間差=検出器1-検出器2 γ2 検出器の時間差スペクトル ⇒②に見える。 counts 検出器2 同時 が遅い 検出器2 が早い アイソマーの崩壊 γ1 ① ② ③ アイソマー γ2 - 0 時間差 + ⇒①に見える。 ⇒ ①の領域にアイソマーのγ線が見える可能性がある。 γ-γの時間差スペクトル counts 10000 counts 時間差スペクトル この領域のγ 線をみる。 1000 -8000 -460 -200 0 200 時間差(ns) 460ns ~ 8μs遅れて観測されたγ線を見る。 460 8000 460ns ~ 8μs遅れて観測されたγ線スペクトル 1434keV 460ns ~ 8μs遅れて見えた γ線のスペクトル 35 15 -5 Counts 1434keV 時間差-200ns~+200ns の領域のγ線スペクトル ⇒52Cr 1300 1400 1500 1500 1600 Energy(keV) 1700 1800 52Mnのアイソマーからのβ崩壊 ア イ ソ マ ー は い な い 52Mnの基底状態からのβ崩壊 ア イ ソ マ ー は い な い 数百ns ~ 数μsのアイソマーはいない。 ⇒数μsの新たなアイソマーの可能性 まとめ 用いた反応は40Ar+natMg→64Zn* ENコースを用いて質量数42~54領域9種の高スピンアイソ マーを生成した。 目的とした52mFeを30pps、54mFeを270pps、 44mScを4×103pps生成した。 53Feの2338keVと1011keVの新しい強度比の結果が出た。 新しいアイソマー発見の可能性。 今後の課題 2次ビームとしてクーロン励起では103個、核融合で104 ~105個の強度が必要。 粒子識別により、さらにS/Nを向上させより適切な磁場 の値を求める。 新しく見つけられたアイソマーの核種の同定。 おわり PPAC Delay Line方式によるもので~105[cps]耐えられる。 charge division型では~104[cps]しか耐えられない。 Delay Line方式の方が位置分解能が良い。 エネルギー損失が少なく低エネルギーでも扱いやすい。 DSSD 全体で50mm四方のSSDを縦と横にそれぞれ16分割 した物を2枚重ね合わせたもの。 50÷16≒3[mm]の位置分解能で粒子を検出できる CASCADEによる計算 52Feが多く生成される一次ビームのエネルギーを CASCADEというシミュレーションプログラムから求めた 。 6.5[MeV/u]が妥当だがそれだと二次ビームがPPACを 貫通しないので9.0[MeV/u]にした。 ISOMER強度の見積もり方 強度(pps)=カウント数÷Efficiency÷分岐比÷live time 補正 寿命による補正 Ge TFA CF D Amp delay AD C Discri Ratemeter Fin/out scaler veto coincidence TDC STOP start G.G. stop O.R. scaler BGO preAm p Amp delay delay VME TDC START Fin/out Discri TDC STOP Att LEMOFlat Ratemete r FERA(QD C) scaler NIMECL start G.G. start G.G. Level adopter start G.G. I.R. stop G.G. start veto TDC START R. F. BGO QDC GATE ADC GATE Discri Sampling scaler coincidence NIMECL Discri VME TDC STOP CAMAC TDC STOP BGO COMPTON SUPPRESSION BGOをGeの周りに配置。 GeとBGOが同時にγ線を検出したデータ取り除く。 60Coでコンプトン事象が0.33倍、ピークが0.89倍。 Ge検出器 ここを減らす BGO F1 SSD preAm p AD C CF D AD C CF D AD C CF D Amp TFA F2U SSD preAm p Amp TFA F2D SSD preAm p TFA DSS D Amp ADC Amp F2PPAC Anode F2PPAC XR YU XL YD F1PPA C Att Amp B A Fin/out coincidence veto A coincidence B Fin/out TDC STOP delay Fin/out ADC Fin/out C Discri ECLNIM F1P L start G.G. start G.G. stop I.R. veto Fin/out Discri O.R. R.F. Ratemeter CFD start Fin/out Splitter delay delay Discri LEMO-Flat Cable FER A delay TDC STOP G.G. delay start G.G. Level adopter CAMAC ADC GATE NIMTDC ECL START VME ADC GATE NIMECL FERA GATE TDC STOP 輸送される核種の見積もり ディグレーダーなし Z 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 1~10pps 20 10~100pps 21 100~1000pps 22 1000~10000pps 23 24 25 N 26 27 28 29 30 31 52mFe 54mFe 4.7×102pps 1.4×104pps 輸送される核種の見積もり ディグレーダーあり Z 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 1~10pps 20 10~100pps 21 100~1000pps 23 24 25 N 26 27 28 29 30 31 52mFe 54mFe 3.5×101pps 1.2×103pps ディグレーダーによる強度の変化 ディグレーダーなし 42mSc 43mSc 44mSc 46mV 50mMn 52mFe 52mMn 53mFe 54mCo 54mFe 27.4 pps 数10 pps 4350 pps 86.5 pps 124 pps 29.0 pps 261.8 pps 395.4 pps 329.6 pps 274.8 pps ディグレーダーあり * * 2700 pps * 18.4 pps * 18.9 pps 16.0 pps 13.6 pps 10.4 pps 62×10-2 14×10-2 7.2×10-2 4.0×10-2 4.1×10-2 3.7×10-2 倍率 なぜアイソマーになるのか? 通常はスピンの差が小さい準位に遷移し易い。 スピンの差が4で大きいため崩壊確率が下がる。 寿命が長くなる。 ⇒これがスピンギャップアイソマー 52FeのLevel scheme→ 反跳核捕獲法 実験場所と検出器 強度の計算 •Isomer強度[pps] = カウント数÷Live Time ÷ γ線強度比÷検出効率 さらにこれに寿命による補正を入れる。 アイソマー探し 検出器1 γ1 γ2 検出器2 普通の崩壊 γ1 検出器の時間差=検出器1-検出器2 γ2 検出器の時間差スペクトル ⇒②に見える。 counts 検出器2 同時 が遅い 検出器2 が早い アイソマーの崩壊 γ1 ① ② ③ アイソマー γ2 - 0 時間差 + ⇒①に見える。 ⇒ ①の領域にアイソマーのγ線が見える可能性がある。 γ-γの時間差スペクトル counts 10000 counts 時間差スペクトル この領域のγ 線をみる。 1000 -8000 -460 -200 0 200 時間差(ns) 460ns ~ 8μs遅れて観測されたγ線を見る。 460 8000 counts 10000 counts 時間差スペクトル この領域のγ 線をみる。 1000 -8000 -460 -200 0 200 時間差(ns) 460 8000 counts 10000 counts 時間差スペクトル この領域は この領域のγ 線をみる。 アクシデンタル。 1000 -8000 -460 Ⅰ -200 0 200 時間差(ns) 8000 460 Ⅱ 460ns ~ 8μs遅れて観測されたγ線スペクトル 1434keV 35 Ⅰ-Ⅱのγ線スペクトル (460ns ~ 8μs遅れて見えたγ線) 15 -5 Counts 1434keV 時間差-200ns~+200ns の領域のγ線スペクトル ⇒52Cr 1300 1400 1500 1500 1600 Energy(keV) 1700 1800 52Mnのアイソマーからのβ崩壊 ア イ ソ マ ー は い な い 52Mnの基底状態からのβ崩壊 ア イ ソ マ ー は い な い 数百ns ~ 数μsのアイソマーはいない。 ⇒数μsの新たなアイソマーの可能性 (πf7/2-2 νf7/2-1)19/2- (νp3/2)3/2- 54mFe 3432 146 counts 500 1000 1500 2000 Energy (keV) 2500 3000 3500 (πf7/2-2 νf7/2-2)12+ 52mFe 869 2037 counts 1200 1400 1600 Energy (keV) 1800 2000 (πf7/2-2 νf7/2-1)19/2+ 53mFe 2338 1011 1000 counts 701 1328 1500 2000 Energy (keV)