聖隷三方原病院ホスピスにおける使用経験(福田かおり

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Transcript 聖隷三方原病院ホスピスにおける使用経験(福田かおり

第33回 日本死の臨床研究会
ワークショップ
LCP日本語版の使用方法
2008年11月8日
聖隷三方原病院 ホスピス
緩和ケア認定看護師
福田かおり
ホスピス 看護課長
清原恵美
事例に沿って実際の使い方を説明します。
なお、事例は仮想事例です。
事例紹介
A氏 60歳代 女性
疾患 大腸がん 肝転移 腹膜転移
家族背景
両親:他界 夫:死別 子供:娘1人(既婚 別世帯 孫2人)
兄妹:兄と妹が近隣に在住 関係良好
キーパーソン:娘
疾病の経過
200X年 大腸がん(横行結腸がん)と診断。
診断時すでに、肝転移・腹膜転移が認められ、Ope適応なし。
化学療法施行後自宅で一人暮らししてきた。
200X+1年 腹痛、ADL低下、食欲低下にて、自宅療養困難と
なり入院。血液データ上 低アルブミン血症、肝機能 腎機能低
下 腫瘍マーカー高値 電解質異常・・・等々 認められた。
入院後の経過
入院後、補液1500ml/日。疼痛緩和目的にてフェンタニルパッチ
開始され腹痛は緩和。食事も楽しみ程度の摂取は可能となり、お
孫さんの訪問を楽しみに待つ姿が見られた。
入院後2週間が経過。次第に病状進行による変化が見られ始める。
終日傾眠傾向、ADL低下、食欲低下が顕著となった。
意識の低下、終日臥床、経口摂取低下を認める。
チームで予後数日と判断。
LCP開始
セクション1
初期アセスメントの項目に沿って・・(1)
身体症状
苦痛症状: フェンタニルパッチ貼付中、苦痛増強なし。
呼吸器症状: 呼吸困難なし。喘鳴なし。痰がらみなし。
消化器症状: 嘔気・嘔吐なし。嚥下困難なし。
意識の状態: 終日傾眠傾向 呼名反応かろうじてあり。
明瞭な会話困難。家族の認識はできる。
排泄: 便秘なし。便意尿意なく、おむつ内失禁。
その他の症状: 四肢の浮腫あり。
安楽の評価
投薬方法:末梢静脈ルート 貼付剤 一部内服薬あり。
頓用薬の支持:疼痛時・発熱時オーダー いずれも内服指示
治療・検査のオーダー:定期採血(3日毎)
看護ケアの内容:2時間毎PC バイタル4時間毎
シリンジポンプの準備:病棟に常備あり。
セクション1
初期アセスメントの項目に沿って・・(2)
精神面/病状認識
日本語の理解:本人家族とも問題なし
病状認識:本人・家族ともに病名告知あり。予後告知なし。
宗教
宗教に関すること:本人・家族、仏教で特別な慣習はない。
家族/関係者とのコミュニケーション
家族他との連絡:何かあれば常時連絡(病院まで車で20分)
つながらないときの連絡先は未確認
施設案内:オリエンテーション用紙あり
まとめ
ケア計画の開示:必要時パンフレットなど用いて
セクション2
患者の問題点の各項目に沿って・・・
*初期アセスメント:身体症状の項目は前述を参考にチェック
口腔ケア
経口摂取なし。口腔乾燥著明。
褥創ケア
骨突出部に可逆性発赤あり。除圧マットレス使用
自力体動なし。体位交換2時間おき
気持ちのケア
患者への声かけは丁寧に意識しておこなっている。
家族への日単位の面談はまだ。
宗教:前述に情報あり
家族/関係者のケア
キーパーソン娘。家庭・子供があり付添したいが困難。
家族の可能な範囲でのお見舞いを把握している。
初期アセスメント・患者の問題(セクション1・2)のバリアンス
抽出によって変更された治療とケア
変更された治療
投薬方法 →内服薬中止。
頓用薬の支持 →内服指示からSp 皮下注射へ変更
治療・検査のオーダー →定期採血中止
変更されたケア
本人
2時間毎体位交換/骨突出の発赤 → Airマットへ
バイタル4時間毎 → 必要時適宜(家族とも確認)
口腔乾燥 → 口腔ケアの方法 保湿剤 頻度など見直し
家族
病状認識:予後告知なし→ 病状説明の面談セッティング
家族他との連絡:→ 必ずつながる連絡先を確認
開始後2日目
患者の状態
終日傾眠傾向さらに強まっている。呼名にも明確に反応しない
ことも多くなる。しかし、疼痛増強したのか苦顔みられる。レス
キュー投与してみるが表情の変化はない。 →疼痛:バリアンス
また、咽頭喘鳴みられ、効果的な喀痰もできず、吸引してもすぐ
湧き上がってくる状態となる。 →気道分泌:バリアンス
他の症状は見られない。
口腔内は、清潔が保たれている。
排泄は、排便排尿とも失禁。(排泄にともなう苦痛はない)
新たな皮膚トラブルの発生なし。
家族の状態
家族面談後、病状が看取りであることを理解し家族間で娘が側
にいられるようサポートされている。医療者にも不安なことや自
身の気持ち(悲しさ)を話すことができている。
患者の問題(セクション2)のバリアンス抽出によって
変更された治療とケア
変更された治療とケア
疼痛増強?(苦顔)明確な評価困難
→ 家族とともに苦痛の程度を評価し、オピオイド増量した。
咽頭喘鳴=死前喘鳴? 非効果的な対処(吸引)
→ 気道分泌の状態を評価し(感染? 水分過多徴候?)
適切な治療を行う。(輸液量の検討、分泌抑制剤の開始)
ケアの目標と意味を家族と共有し、対処方法を検討する。
(吸引のメリット/デメリット、薬物療法の効果、ケアの工夫
家族にできることなど)
死が近づいていることについて話し合い共有する。
看取り~その後
患者の状態
苦痛や喘鳴への対処後、苦痛症状を感じている様子もなく、
喘鳴も消失。穏やかな表情となり2日間を過ごす。娘、孫、兄妹
に見守られ最期を迎えた。
家族の状態
看取りまで、娘が中心となり付き添う。娘はしばらく側を離れる
ことができない様子が見られた。時間を十分にとった後、
声をかけて死後のケアを娘、妹と行った。その経過の中、次第に
娘の表情も和らぎ、本人への感謝の言葉を伝える姿がみられた。
死亡診断(セクション3)のバリアンス抽出によって
変更されたケア
娘の悲嘆→娘の気持ちに配慮して、十分な時間を提供した。
また、死後のケアを娘の希望に応じてともに行うことで、喪失
の悲嘆への支援を行った。
まとめ
・LCPを活用することによって、看取りの時期の認識が
主観(個々の感覚的判断)によるのではなく、客観的
指標によってチームで判断され共有できる。
・看取りの時期に今行われている治療やケアの見直し、
今後必要となる看取りの支援がチームによって系統的に
共通の目標を持ち行うことができる。
・看取りのケアがこう変わる?可能性がある。
・医療者が看取りである認識を持つことが出来る。
・タイムリーに見落としなく見直しが出来る。
・患者の苦痛がいち早く緩和される。
・家族のケアが不足なく行われる。
(附録) 聖隷の工夫
LCP導入の準備
運用方法
1、開始基準
2、初期アセスメント(セクション1)記入方法
3、患者の問題点(セクション2)記入方法
聖隷での使用上の問題点
LCP導入の準備
事前準備
・LCPの資料集
≪ファイリング≫
・手順書作成
≪担当でのプレテスト+YHCからの情報≫
・全スタッフに対してのオリエンテーションスケジュールの決定
≪病棟会でLCP開発/導入の経緯を説明。昼の
カンファレンスで、全スタッフに運用方法を説明≫
・困ったときの連絡先を明らかにしておく
・ スタート(最初はまず一例・日常業務の負担にならない配慮)
運用方法
1、開始基準
開始と終了について
・開始は日単位~時間単位が推測できる状態(死亡2~3日前 前後)で、
主治医と担当Ns(+リーダーNs) がLCPの開始を判断する。
・開始は平日(祝日は除く)の日勤帯
(情報を総合的に把握している医師・看護師による評価)
・終了は死亡時と、一旦は状況が悪化したが、看取りの状況からはリカバー
したと判断した時点で、主治医が中止する。
LCPが運用されている患者の掲示
・開始時医師が付箋に “○/○~LCP開始” と貼付する≪電子カルテ≫
・LCP導入者は申し送りでメンバーへ告知する
2、初期アセスメント(セクション1)記入方法
診断&Demographics
身体症状
←開始の判断とともに医師が記入
安楽の評価(目標1~3) ←開始の判断とともに医師が記入
安楽の評価(目標3a~)
← Nsが記入
* P3の署名は記入した医師 Ns両者がサイン
3、患者の問題点(セクション2 )
観察時間
(4hチェック) 2:00 6:00 10:00 14:00 18:00 22:00
(12hチェック)
10:00
22:00
・定時のチェックをとばした場合も、そのまま継続。(理由記入)
・時間厳守ではないのでその付近での観察でよい。
A:達成 V:バリアンス について
・STAS 0~1=A STAS 2~4=V を目安
排尿 口腔 褥瘡 排便のケアの項
チェック時間毎に確認という意味ではない
4、死亡診断(セクション3 )
死亡日・時間 ← Nsが記入
目標12.→全例 “はい” 目標18.→ 全例 “いいえ” にチェック
(院内のシステムがあるため)
その他
・深夜2時のチェック時から新しいシートに更新→ センターテーブルに置く
・運用中のLCPの置き場所は センターテーブル上に作成。
・記入しにくい 迷う 等あれば、バリアンス記入の用紙の裏に記入。
聖隷での使用上の問題点≪一部≫
・意識障害(せん妄 認知症 意識障害 他)で元々 コミュ
ニケーションや理解力に問題がある場合の、患者の病
状説明・認識の判断が難しい。
・現疾患による特徴的な症状(口腔内腫瘍など)のとき口
腔内の清潔や快は(ケアしていても)常にバリアンスとな
るのか?
・バリアンスとして抽出された内容についての評価を時系
列でどのように追うか?
・時間のチェックから外れた時点のレスキューの記載はど
うするのか?