Transcript 公営事業負債
経済学研究 「日本の財務再構築」 連載 第5回： 政府セクターの問題点と解決の選択肢 九州大学経済学研究院 財務担当教授 村藤 功 2006年9月23日 目次 ５－１．政府貸借対照表の構成、定義 ５－２．政府財務報告書の構成、定義 ５－３．現金主義／単式簿記から発生主義／複式簿記へ ５－４．政府価値推移 ５－５．一般政府セクターの資本構成推移 ５－６．所得支出勘定 歳入推移 ５－７．所得支出勘定 歳出と貯蓄推移 ５－８．資本調達勘定推移 ５－９．政府セクターの財務悪化要因 ５－１０．財務最適化のフレームワーク ５－１１．行政評価の方向性例 ５－１２．予算、決算制度の問題点と改革の方向性 ５－１３．政府財務再構築のロードマップイメージ ５－１４．小さな政府とネットの資金配分 ５－１５．公営事業の民営化 ５－１６．不要な投融資の処分 ５－１７．社会福祉と政治の対立軸 ５－１８．年金の構造改革 ５－１９．医療制度改革 ５－２０．地方交付税と地方債の改革 ５－２１．基礎自治体と広域行政 ５－１．政府貸借対照表の構成・定義 通常のバランスシート ④現預金 ＋基金 ④有利子 負債 ③投融資 負 ②公営 事業資産 資 債 産 ②公営事業 負債 ①行政負債 ①行政 資産 純資産 ④純資産 組替 政府財務評価用のバランスシート ②公営 事業負債 ②公営 事業 資産 ①行政 資産 ①行政負債 政府財務評価用のバランスシートの構成 ④現預金 ＋基金 ③投融資 ③投融資 ②純 公営 事業 資産 ④純 有利子 負債 ①純 行政 資産 ④少数 持分 ④純資産 ④有利子 負債 政 府 価 値 ②公営 事業 価値 ①行政 価値 ④純 有利子 負債 ④少数 持分 ④純資産 ５－２．政府財務報告書の構成・定義 ①行政の部 財務業績報告書（注） 行政収入 行政収入 事業収益 事業収益 －その他 －その他 －減価償却 －減価償却 －消耗品費その他 －消耗品費その他 －給与 －給与 －補助金 －補助金 －減価償却費 －減価償却費 －消耗品費その他 －消耗品費その他 経常活動からの余剰金・損失 経常活動からの余剰金・損失 金 金 特別損益項目 特別損益項目 －民営化の利得 －民営化の利得 －物的資産売却利得 －物的資産売却利得 特別項目後純剰余金・損失金 特別項目後純剰余金・損失金 純剰余金・損失金の少数持分 純剰余金・損失金の少数持分 当期純余剰金・損失金 当期純余剰金・損失金 投融資 行政活動からの余剰金・損失金 行政活動からの余剰金・損失金 ②公営事業の部 事業活動からの余剰金・損失 事業活動からの余剰金・損失 金 金 －借入費用 －借入費用 投融資 －給与 －給与 －補助金 －補助金 事業費用 事業費用 －金利・配当収入 －金利・配当収入 －持分損益 －持分損益 ③ 行政費用 行政費用 －その他 －その他 非事業活動からの余剰金・損 非事業活動からの余剰金・損 失金 失金 価値評価用バランスシート －税金 －税金 －手数料 －手数料 －税金 －税金 －手数料 －手数料 －事業収入 －事業収入 公営事業収入 公営事業収入 組 替 －事業収入 －事業収入 －補助金等公的支援 －補助金等公的支援 －その他 －その他 ② 公営事業費用 公営事業費用 公 営 事 業 価 値 純公営 事業 資産 公営事業損益 公営事業損益 ③ ④ 金融の部 ① 行 政 価 値 ④ 資金調達 構成 －給与 －給与 －減価償却費 －減価償却費 －消耗品費その他 －消耗品費その他 純有利子 負債 純行政 資産 少数 持分 純資産 金融収入＜③ 金融収入 投融資 金融収入 －金利・配当収入 －金利・配当収入 －持分損益 －持分損益 金融費用＜④ 金融費用 資金調達 金融費用 －借入費用 －借入費用 純金融損益 純金融損益 当期純余剰金・損失金＜④資金調達 （注）公会計原則「公開草案」と比較して次の点を変更。異常損益項目は特別 損益項目とした。非事業活動からの余剰金・損失金項目であった「民営化の 利得」、「物的資産売却利得」は特別損益項目とした。 ５－３．現金主義／単式簿記から発生主義／複式簿記へ 住民自治 お上が楽 発生主義／複式簿記 期間対応考える 経常／資本収支の区別あり 現金主義／単式簿記 期間対応考えない 経常／資本収支区別しない 資産 建物購入 １億円 購入時に予算必要だが後 は維持費のみ Ｏ 歳入歳出決算書 Ｘ 貸借対照表： 資産負債正味資産不明 Ｘ 経常収支計算書： 期毎の収支不明 経常 収支 建物 １億円 現金 １億円 減価償却費 １千万円 減価償却累計１ 千万円 Ｏ 歳入歳出決算書 Ｏ 貸借対照表 Ｏ 経常収支計算書 資本 収支 ５－４．政府価値推移 一般政府セクター政府価値推移 400 300 兆円 200 100 0 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 投融資 行政運転資金 固定資産 土地 ５－５．一般政府の資金調達構成推移 一般政府の資金調達構成推移 1000 500 0 -500 -1000 86 88 90 92 94 政府価値 借入 年金債務調整後正味資産 96 98 0 2 国債地方債等 年金債務調整前正味資産 4 ５－６．所得支出勘定： 歳入推移 70 60 50 40 兆円 30 20 10 0 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 所得富等への経常税 1993 1994 受取生産輸入品税 1995 1996 1997 社会保障関係受取合計 1998 1999 財産所得合計 2000 2001 2002 2003 2004 ５－７．所得支出勘定推移： 歳出と貯蓄 60 50 40 30 兆円 20 10 0 -10 -20 -30 1986 1987 1988 1989 現実最終消費 1990 1991 固定資本減耗 1992 1993 1994 社会保障給付合計 1995 1996 1997 1998 現物社会移転支払合計 1999 補助金 2000 2001 財産支出 2002 貯蓄 2003 2004 ５－８．資本調達勘定推移 一般政府セクターのキャッシュフロー推移 80 60 40 兆円 20 0 -20 -40 1986 1987 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 貯蓄＋固定資産減耗 土地の購入 純受取資本移転 金融資産純増合計 行政運転資金増加合計 有利子負債純増合計 総固定資本形成 正味資産純増合計 ５－９．政府セクターの財務悪化要因 政府財務の悪化要因 600 400 358 329 357 221 236 200 69 0 兆円 -200 1990 -77 -196 2004 -194 -400 -600 -800 -649 固定資産 金融資産 債券 借入 正味資産 ５－１０．政府財務最適化のフレームワーク 現状の問題 • コア行政ポートフォリオのVision不在 • コア行政ポートフォリオのVision・マニフェスト作成 • 行政部分と民営化可能部分の混在 • Netの行政ポートフォリオへ移行 • 厚生労働／文部科学サービス等の聖域化 • 小さな政府へ向けた行財政改革 • 連結局毎の財務諸表の定期的把握 • 管理連結システム導入 • ハコモノ資産をはじめとする過剰使用資金 • プロファイ、証券化、コントラクト・アウト等の活用 • 現金主義、単式簿記による不透明な財務 • 発生主義、複式簿記による財務諸表作成 • 組織別法人別管理 • 連結行政管理制度の導入 • 行政財産の処分規制（地自治法237・8条） • 行政財産処分の自由化 • 過剰規制 • 規制緩和 • 非効率な事務の残存 • ＢＰＲとＥ政府化 • 行政サービスレベルの計測不能 • 行政サービス／正味資産 基準の導入 公営事業ポー トフォリオ 最適化 • 民営化可能事業を税金や財投資金を使う 公営事業として継続してきた • 民営化(Privatization)、民間業務委託等による民 間移行 • 民間部分と行政部分の混在 • 民間部分は民営化、行政部分は補助金へ移行 • 補助金の不透明性 • アウトカムのモニタリング強化 公営事業運営 の効率化 • 地域独占・規制 • 規制緩和、競争原理の導入 • 内部監査、財務諸表の信頼性 • 外部監査導入 ③不要 投融資処分 • 不良資産の増加 • 時価評価による引当実施、売却 • ３セク投融資、遊休不動産の存在 • 不要投融資、不動産売却 ④資金調達 構成最適化 • 過剰有利子負債 • 有利子負債比率目標設定と進捗管理 • 正味資産の不足 • 民間移行による有利子負債返済と正味資産充実 行政ポートフォ リオ最適化 ①純行政 資産 Corporatization 行政運営の効 率化 (法人化) Privatization 政府の 財務最適化 ②純公営 事業資産 金融部分 の最適化 問題解決施策例 ５－１１．行政評価の方向性例 行 政 サ ー ビ ス の 評 価 測 定 行 政 サ ー ビ ス の 金 額 変 換 福祉 衛生 介護 1. 老人ﾎｰﾑ入居待機期間 A:0-1 B:2-3 C4-5年 2. ホームヘルパー １人あた り寝たきり老人 A:10人未満 B:10人超20 人未満 C20人超 上下水道 1. 下水道普及率 A:×× B:×× C：×× ２．水道料金 Ａ：ｘｘ Ｂ：ｘｘ Ｃ：ｘｘ 保育 1. 待機児童比率 教育 学校 1. １クラスあたり児童数 A:×× B:×× C： ×× 図書館 1. １児童あたり図書館数 A:×× B:×× C： ×× 2. 図書館平均蔵書数 A:×× B:×× ＜ C行政価値評価用 財務業績報告書 ＞ 行政サービス価値 －教育 －福祉 行政費用 －給与 行政サービス のNetの価値 －補助金 －減価償却費 －消耗品費その他 福祉 介護 1. A:7億円 B：5億円 0億円 2. A:3億円 B：2億円 1億円 純住民受益 衛生 上下水道 C： 1. 普及率 A:×億円 B：×億円 C： C： ×億円 保育 1. A:×億円 B：×億円 C： ×億円 ２．水道料金 A: ｘ億円 B：ｘ億円 C ：ｘ億円 教育 学校 1. A:×億円 B：×億円 C： ×億円 図書館 1. A:×千万円 B：×千万円 C：×千万円 2. A:×千万円 B：×千万円 C：×千万円 純住民受益 正味資産 住民としては少な い使用資金で高い サービスを期待して おり、この指標は高 いほうが効率的 行政サービス価値集計明細 福祉 ・・・××億円 衛生 ・・・××億円 教育 ・・・××億円 今後の行政評価指標の方向性 ５－１２．予算、決算制度の問題点と改革の方向性 ９／１ ４／１ ９／３１ ２／２８ ３／３１ 平１８年度 平19年度予算編成 予算 ５／３１ １７決算 １２／１ ２ヶ月 ３ヶ月 出納整理期間 決算調整 １２／３１ 決算公表 何故決算を 公表する前 に予算を 作成する？ 17年度決算ドラフト議員へ １８決算 平１８年度上半期 18年度上半期決算公表（目標） ５－１３．政府財務再構築のロードマップイメージ ホップ 2007－8年から ステップ 2009-10年から ジャンプ 2010-11年から 普通会計に発生主義 複式簿記を導入し、Ｂ Ｓを含む財務諸表作成 特殊法人等外郭団体の財務 を連結し、中央省庁別、都道 府県別、部局別に財務諸表 を国民や住民に開示 決算日程の早期化 民営化施策の進捗 管理と戦略、施策計 画の修正 全ての連結対象外郭団 体に企業会計や外部監 査を導入 国家戦略、省庁別戦略、部 局別戦略を前提に数値の 業績評価基準を決定 責任者の評価と 責任追及 民営化施策の企画と実行 ５－１４．小さな政府とネットの最適資金配分 大きな政府 小さな政府 グロスの資金配分 期間対応考えない 経常／資本収支区別しない • • • • • • 公団、自治体による土地購入、造成、公団住宅 住宅ローンの提供 道路公団による高速道路建設 公的保育園、公的介護施設 国民全員のための確定給付年金 規制と国公立教育中心主義 ｅｔｃ． 公営事業や投融資継続には財政投融 資を含む大きな資金を必要とし、財 政再建のためには今後は維持が困難 ネットの資金配分 期間対応考える 経常／資本収支の区別あり • • • • • • 民間企業の土地購入造成支援、家計の住宅購入支援 全金利損金算入／家計の減価償却制度 ＰＦＩに対する補助金 民間保育園、民間介護施設に対する支援 民間確定拠出年金と国の最低保証年金 規制緩和と民間教育支援 etc. 民間がやらないネットの部分だけで 毎期の行政サービスのポートフォリ オを構成 ５－１５．公営事業の民営化 公営事業ストック（勘定科目） 公営事業資産 公営事業負債 公営事業フロー 公営事業収入 通常の民間企業との違い （流動資産） （流動負債） －事業収入 －売上債権 －公営事業仕入債務 －補助金等公的支援（注） －棚卸資産 －その他公営事業流動 負債 －その他 －その他公営事業流 動資産 （固定資産） －公営事業建物 －公営事業土地 （固定負債） －退職給付債務（（公営 事業） －その他公営事業固定 負債 －その他公営事業有 形固定資産 純公営事業 －その他公営事業無 形固定資産 資産 純公営事業資産に対するフロー BS右サイドの資本構成から切り離されてい るため、資本構成の変化による影響を受け ずに公営事業の事業効率を計ることができ る。 公営事業費用 －給与 －減価償却 －消耗品費その他 公営事業損益 （注)補助金等公的支援には補助金以外自治 体からの支援（出資、融資等）によるものを全 て合算したものとして記載 公営事業損益 純公営事業資産 民間企業の営業利益に相 当するもの ５－１６．不要投融資の処分 金融ストック 金融フロー 金融資産 金融負債 現預金 有利子負債 投融資 （流動資産） （流動負債） （流動資産） －現金及び預金 －短期借入金 －流動有価証券 －減債基金 投融資 （流動資産） －流動有価証券 －短期貸付金 －借入費用 －長期貸付金 －地方債 －遊休不動産 －長期貸付金 －遊休不動産 （注)投融資には公的金融機関の預金、貸付 金や、遊休不動産含む －持分損益 （非流動資産） －社債 －投資有価証券 －金利・配当収入 金融費用 －投資有価証券 －長期借入金 （有利子負債－現 預金） 金融収入 －短期貸付金 （非流動負債） （非流動資産） 純有利子 負債 純金融損益 ５－１７．社会福祉と政治の対立軸 政府が全部やる 大きな政府 結果の平等 最大政府 日本の現状 自民抵抗勢力 労働組合 不公平 あまりない 社会福祉 全員加入 社会福祉 一部加入 年金、健康保険、介 護、失業保険等の政 府の社会福祉サービ スは全員加入でない 少子高齢化で 維持不能 アメリカ・ 中国等 機会の平等 小さな政府の対立軸 アメリカ 共和党 全員加入だ が最小限 アメリカ 民主党 最小政府 政府は最小限しかやらない小 さな政府：民間と役割分担 小泉自民党と 前原民主党 ５－１８．年金の構造改革 ０４年度末 厚生年金1200兆円＋国民年金120兆円 ＝合計1320兆円 将来掛金 のＰＶ 厚生年金500兆円＋国民年金160兆円 年金 ＝合計660兆円 債務 厚生年金1710兆円＋国民年金280兆円 ＝合計1990兆円 将来給付 のＰＶ 年金資産 不足分 厚生年金340兆円＋国民年金150兆円 ＝合計490兆円 ０４年度末 政府年金債務 660兆円（政府負担分） 政府年金資産 170兆円＝厚生年金160兆円＋国民年金10兆円 不足分 490兆円 積立方式 賦課方式 政府 政府 掛金 税金 税金 高齢者 積立 若者 高齢者 若者 通常高齢者 一部高齢者 ５－１９．医療制度改革 規制緩和 と民営化 少子高齢化 現行制度：世代間賦課 医療制度改革法（2006年6月成立） 70歳以上（寝たきり65歳以上） 老人保険制度 退職者医療制度 1-2割負担 2002年で約7兆円の 老人保健供出金 （保険料の半分） 自助が原則 70歳以上で現役並み所得： 2割負担＞3割負担 年収520万以上かどうか 2002年で約1兆2千億円 の退職者給付供出金 健保組合・政管健保・国保：合計収入20兆円程 度 保険料約14兆円＋国保支出金約4.2兆円＋その 他 市町村国保を中心 70歳以上で現役より少ない所得： 1割負担＞2割負 担 後期高齢者医療制度（2008年度予定） （７５歳以上、現在1千万人程度）：寝たきり、栄 養・摂食障害、入院受療率の増加、在院期間の長期 化 74歳以下の医療制度（現役若手世代） 保険で実施する 健保組合、政管健保、市町村国保 ５ー２０．地方交付税と地方債の改革 これまでの地方交付税 これまでの地方債 基準財政需要額：公共投資、地方債金利元本償還含む 4自治体： － 基準財政収入額：地方税、国庫支出金含む 地方交付税額 個別交渉方式 東京都、神奈川県、横浜市、名古屋市 34自治体： 統一条件交渉方式 総務省が交渉して個別自治体の財務 状況に関わらず同じ金利条件で発行 骨太の方針2006 新型地方交付税 算定根拠を人口と面積だけとする 2006年9月から：個別交渉方式 財務の状況により金利変化 2007年度に導入して段階的に拡大予定 財務諸表作成、開示、審査必 要 ５－２１．基礎自治体と広域行政 組織イメージ 役割例 ① ② ③ ④ 人口； 1億2-3千万人程度 傘下： 10-12広域自治体程度 時間距離： 1.5時間程度 中心： 東京 ① ② ③ ④ 人口； 700-1000万人程度 傘下： 20-30市程度 高速時間距離： 1.5時間程度 中心： 政令指定都市 ① 市 ② 村 ③ ④ 人口； 30万人程度 ｘ 国 広域自治体 300 市の規模： 現在の10-30市町 高速時間距離： 30分以内 中心： 大き目の市 基礎自治体 ① 対外関係： 国防、外交、エネルギー対策等 ② 全国共通ルール： 通貨金融、司法、治安維持 ③ 全国一律社会福祉： 年金、健康保険等の企画 ① ② ③ ④ 生活の安全； 警察、消防、災害復旧 広域インフラ： 河川、道路、空港、港湾の企画 地域経済振興： 産業振興の企画 高等教育： 大学、大学院の企画 ① 地域社会保障： 生活保護、保育園、老人介護企 画 ② 地域保健衛生： 医療、保健所企画 ③ 地域インフラ： 公園、街路、都市計画、公害対 策等の企画 ④ 初等・中等教育； 幼稚園、小学校、中学校、高 校等の企画