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環境評価のための
フォトニックセンシングシステム開発
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Photonic sensing system for environmental evaluation
笹口 健志(Takeshi Sasaguchi) 志村 和樹(Kazuki Shimura)
ヴィオレッタ マジャロバ(Violeta Madjarova) 門野 博史(Hirofumi Kadono)
埼玉県環境科学国際センター(Center for Environmental Science in Saitama)
株式会社東洋精機製作所(ToyoSeiki Ltd)
森林総合研究所(Forestry and Forest Products Research Institute)
プロジェクト概要
近年の急速な工業の発展により、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など
人間を含む動植物を取り巻く環境は著しく悪化している。したがって、環
境が生物の生長に与える影響を正確に計測する技術の確立が望まれ
る。従来、植物の生長量は寸法測定や乾燥重量の測定から見積もられ
るが、従来法はいずれも長期間にわたる積分値でしかない。しかし、実
際には生長過程は動的な複雑な過程であると考えられるので、従来法
では不十分である。本研究では当研究室で開発された超高感度な統計
干渉法を植物の生長計測に応用し、秒オーダーの時間スケールで植物
の生長応答をサブナノメータ(10-10m)の精度で計測する装置を実用化
し、生育条件や大気汚染などの環境条件が植物の生長に与える影響を
評価可能なシステムを開発するものである。
本プロジェクトでは、民間会社(株式会社 東洋精機製作所)での計測
装置の試作およびフィールドでの実証試験研究(埼玉県環境科学国際
センター、森林総合研究所)をおこなう。具体的には、松の幹の直径を
測定することで松枯れが進行する時の変化を高精度でモニタリングした
り、イネの生長が光化学オキシダントの主成分であるオゾンによってど
の程度阻害されているのかを調査していく。
◆統計干渉法
Mirror
PZT
LD
660nm
sample
Growth rate
[nm/mmsec]
0
4
8
Light on
1.51
0
-3500
-5500
ひずみ(ue)
-500
-4500
Interference filter
Fig.1 Optical system of statistical
interferometry
-1000
-6500
-1500
-7500
Light off
0.62
Light on
1.41
12 16 20 24 28 32 36 40 44 48
Time [h]
Fig.2 Growth rate of the leaf of the Chinese chives
under white light illumination
照明時は無照明時
に比べゆらぎの標
準偏差が約2.5倍に
その原因は植物の
どのような生理現象
によるものなのか
森林総合研究所植物生態研究領域の石田研究員と実験データについてディス
カッションを行い、まず植物の細胞膜において水の輸送を制御しているタンパク
質であるアクアポリンに着目した。アクアポリンの活性が高いほど細胞膜内外に
おける水分子輸送速度 を増大させる。その結果が葉の伸縮の積分値として現
れているのではないかと考え、アクアポリンの活性を阻害する物質を植物に吸収
させた際のナノメータゆらぎの変化を計測する実験を行っている。
Cell
membrane
H 2O
統計干渉法
計測器
Chinese chives
statistical
interferometry
水耕栽培している植物の葉
の微小生長を計測する途中
でアクアポリン阻害剤の塩化
水銀(Ⅱ)溶液を根から吸収
させる
Fig.3 Aquaporin
塩化水銀( HgCl2 )
Aquaporin
Photo.1 Discussion in Forestry
and Forest Products Research
Institute
森林総合研究所にて、7月16日からマツノザイセンチュウを接種したマツ幹の
径の変化を35日間、統計干渉法の実験装置とひずみゲージを使用して計測を
行なった。計測位置は、マツノザイセンチュウを接種するために傷をつけた約
15cm上にひずみゲージを取り付けた。統計干渉法の実験装置はさらに5cm上
に取り付けた。
CCD
統計干渉法を用いたこれまでの実験において、白色蛍光灯を植物の葉に照明
した場合にしていない場合と比べて成長速度のゆらぎ(ナノメータゆらぎ)の大き
さが増大するという結果が得られている。つまり葉は一定のスピードで生長して
るのではなく数十秒の周期で伸縮を繰り返しながらトータルとして伸びており、そ
の伸縮の大きさが照明条件によって異なるということである。そこで現在はその
ナノメータゆらぎが植物のどのような生理現象に基づくものなのかを解明するた
めの実験を行っている。
Light off
σ=0.60
森林総合研究所(つくば)
500
アクアポリン阻害実験
15
10
5
0
-5
-10
Recently, industral development has caused air pollution, water and soil
contamination. Therefore, it is very important to establish a technique that can
measure the effects of the environmental pollutions on plant growth. The existing
methods that measure plant growth with accuracy in the range of one millimeter
and several weeks is not enough to monitor the short-term response of plants to
environmental stress. In this project, a system based on Statistical interferometry
(STI) was developed in cooperation with ToyoSeiki Ltd. STI is a novel optical
interferometric technique that uses the complete randomness of a fully developed
speckle field as a standard in the determination of object phase. STI has an
extremely high sensitivity that permits the growth measurement of plants with subnanometeric accuracy and in a few seconds.
The validity of the system is to be confirmed in practice for the measurement of
environmental stress of plants in Center for Environmental Science in Saitama and
Forestry and Forest Products Research Institute. Variation of the diameter of the
pine is measured to monitor the growth behavior when the pine dies. We also
evaluate the effect of ozone stress on the rice growth by using STI.
変位(μm)
十分発達したスペックル場の
位相が完全にランダムである
ことを統計的な意味で位相決
定の基準とした原理的に全く
新しい干渉計測法
・測定精度はスペックルデータ点
数
のみに依存
=高精度化が容易
(3万点=サブナノオーダー)
・一般的な粗面物体に利用可能
・光学系が単純
Summary
水溶液0.1mM
-2000
-8500
day
7/19(接種4日目)
Fig.4 Diameter of pine using statistical interferometry
and strain gauge
8/19(35日目)
統計干渉法(青)とひずみゲージ(赤)ともに縮んでいるが、縮み方に大きな
差がある。ひずみゲージを使用した同様な実験を複数回行なった結果、1日
の温度変化に対応して大きく揺らぎながら縮んでいる。統計干渉法では、レー
ザを照射している2点間(ビーム間隔3mm)の局所的な伸縮を測定しているの
に対して、ひずみゲージは幹の直径の伸縮を測定するためだと考えられる。
また、ひずみゲージを使用する際には幹の表皮とその内部に直接接触して計
測しているために一部相関が失われた可能性が考えられる。しかし幹の伸縮
の傾向としては同じ動きを捉えており、現在までに、マツノザイセンチュウを接
種してから約20日程度経過したときにマツに自己振動が観測されることがわ
かっており、その期間のデータ解析を進めている。
Photo.2 Before inoculation
Photo.3 Inoculation site
Photo.4 Inoculation site
今後の予定
植物のナノオーダーでの生長挙動がどのような生理現象によるも
のなのかを突き止める為にアクアポリンを阻害する以外に、呼吸阻
害剤を使用し植物の気孔の開閉を止めて生長計測を行なうことな
どして従来の生長挙動の測定データと比較していく。
当研究室での、オゾンに対するイネとアカマツの影響評価の実験
を引き続き行ない、埼玉県環境科学国際センターの人工気象室内
で、同様の実験を平行して行なっていく。またフィールド実験の為に
統計干渉法の実験装置を新たに製作する準備を行なっている。そ
の装置は環境科学国際センターにて使用する予定である。