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環境評価のためのフォトニックセンシングシステム開発
Photonic sensing system for environmental evaluation
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笹口 健志(Takeshi Sasaguchi) 志村 和樹(Kazuki Shimura)
ヴィオレッタ マジャロバ(Violeta Madjarova) 門野 博史(Hirofumi Kadono)
埼玉県環境科学国際センター(Center for Environmental Science in Saitama)
株式会社東洋精機製作所(ToyoSeiki Ltd)
森林総合研究所(Forestry and Forest Products Research Institute)
近年の急速な工業の発展により、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など人間を含む動植物を取り巻く環境は著しく
悪化している。したがって、環境が生物の生長に与える影響を正確に計測する技術の確立が望まれる。従来、植物
の生長量は寸法測定や乾燥重量の測定から見積もられるが、従来法はいずれも長期間にわたる積分値でしかない。
しかし、実際には生長過程は動的な複雑な過程であると考えられるので、従来法では不十分である。本研究では当
研究室で開発された超高感度な統計干渉法を植物の生長計測に応用し、秒オーダーの時間スケールで植物の生
長応答をサブナノメータ(10-10m)の精度で計測する装置を実用化し、生育条件や大気汚染などの環境条件が植物
の生長に与える影響を評価可能なシステムを開発するものである。
本プロジェクトでは、民間会社(株式会社 東洋精機製作所)での計測装置の試作およびフィールドでの実証試験
研究(埼玉県環境科学国際センター、森林総合研究所)をおこなう。具体的には、松の幹の直径を測定することで松
枯れが進行する時の変化を高精度でモニタリングしたり、イネの生長が光化学オキシダントの主成分であるオゾン
によってどの程度阻害されているのかを調査していく。
Recently, industry development has caused air pollution, water and soil contamination. Therefore, it is very important
to establish a technique that can measure the effects of the environmental pollutions on plant growth. The existing
methods that measure plant growth with accuracy in the range of one millimeter and several weeks is not enough to
monitor the immediate response of plants to environmental stress. In this project, a system based on Statistical
interferometry (STI) was developed in cooperation with ToyoSeiki Ltd. STI is a novel optical interferometric
technique that uses the complete randomness of a fully developed speckle field as a standard in the determination of
object phase. STI has an extremely high sensitivity that permits the growth measurement of plants with subnanometeric accuracy and in a few seconds.
The validity of the system is to be confirmed in practice for the measurement of environmental stress of plants in
Center for Environmental Science in Saitama and Forestry and Forest Products Research Institute. In the field
experiments, variations of the diameter of the pine was measured to monitor the influence of Bursaphelenchus
xylophilus Nickle, and influence of ozone stress on the rice plant growth was measured by using STI.
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0
10
-1
10
-2
10
-3
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-1
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-5
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-5
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-6
10
-6
昼間
夜間
PZT
LD
660nm
a.u. (log)
sample
・測定精度はスペックルデータ点数
のみに依存
=高精度化が容易
(3万点=サブナノオーダー)
・一般的な粗面物体に利用可能
・光学系が単純
a.u. (log)
Mirror
◆統計干渉法
十分発達したスペックル場の
位相が完全にランダムである
ことを統計的な意味で位相決
定の基準とした原理的に全く
新しい干渉計測法
昼間
夜間
CCD
Interference filter
0
0.2
0.4
0.6
Frequency (Hz)
0.8
1
0
0.2
0.4
0.6
Frequency (Hz)
0.8
1
マツノザイセンチュウ接種後のマツの生長計測を行なったところ、枯れていくと樹径は細くなり、夜間の成長率の
標準偏差が極端に低くなる期間があることがわかった。 7月23日~24日(接種8~9日後)と7月26日~27日(接種
11~13日後)に注目すると、昼間の成長率の標準偏差はともに8.24nm/mm secとなったが、夜間はそれぞれ
0.9nm/mm sec、5.48nm/mm secとなっており、約6倍の差があった。
実験:マツ枯れによる樹径測定
成長ゆらぎの周波数スペクトル解析を行った。健康なマツと比べて、線虫を接種したマツは接種後から0.8Hz付
森林総合研究所にて、2009年7月16日からマツノザイセンチュウの接種したマツを35日間、統計干渉法の実験装置 近でスペクトル密度が増加している現象が現れている。このような現象は2週間続き徐々に上昇は少なくなり線虫
接種後24日以降現れなくなる。この現象は健康なマツの生長測定では見られなかったもので興味深い現象である。
とひずみゲージを使用し、計測を行なった。計測位置は、マツノザイセンチュウを接種するために、傷をつけた約
今後、マツ枯れとの関係について調査していく必要がある。
15cm上にひずみゲージを取り付け、統計干渉法の実験装置はさらに5cm上に取り付
けた。
森林総合研究所(つくば)
実験:アクアポリン阻害実験
◆植物サンプル :マツ ◆測定領域 :2光束間の距離3mm
◆測定位置
:幹中央部 ◆照明:太陽光
-3500
成長のナノメートル揺らぎの生理学的起源を解明するため、植物の細胞膜において水の輸送を制御しているタ
ンパク質であるアクアポリンに着目した。アクアポリンの活性を阻害する塩化第二水銀をニラの根に吸収させた際
のナノメータゆらぎ変化の計測を行なった。
500
-統計干渉システム
-ひずみゲージ
-4000
0
-1500
Aquaporin
◆植物サンプル :ニラ
◆測定位置 :葉の先端から 2cm
◆塩化第二水銀:0.1mM、0.2mM
-6500
-2000
-7000
6
7/21
8
7/23
60
6
-2500
4
7/19
Growth[μm]
-7500
◆測定領域 :2光束間の距離 3mm
◆照明:ハロゲン光源 (200μmol/s・cm2)
7/25 12
7/27 14
7/29 16
7/31 18
8/2 20
8/4 22
8/6 24
8/8 8/10
8/16 34
8/18 36
8/20
10
26 8/12
28 8/14
30 32
接種経過日数
統計干渉法(青)とひずみゲージ(赤)ともに縮んでいるが、縮み方に大きな差がある。ひずみゲージを使
用した同様な実験を複数回行なった結果、1日の温度変化に対応して大きく揺らぎながら縮んでいる。
統計干渉法では、レーザを照射している2点間(ビーム間隔3mm)の局所的な伸縮を測定しているのに対
して、ひずみゲージは幹の直径の伸縮を測定するためだと考えられる。また、ひずみゲージを使用する
際には幹の表皮とその内部に直接接触して計測しているために一部相関が失われた可能性が考えられ
る。しかし幹の伸縮の傾向としては同じ動きを捉えることができた。
4
2
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-2
0
2
1
2
3
Time[h]
4
Sd=0.26
5
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0.24
1
0
-1
-2
0
1
2
ゆらぎ低下率[%]
Growth rate [nm/mmsec]
Growth[μm]
-1000
-6000
3
Time[h]
4
5
6
Growth rate [nm/mmsec]
-5500
H 2O
細胞膜に存在する細孔を持った主要なタンパク質
水の透過孔を形成し、水分子のみを選択的に透過させる
樹径変化(μm)
-500
-5000
変位 (μm)
Cell
membrane
アクアポリンとは…
-4500
40
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0
0
1
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Sd=0.47
2
3
Time[h]
4
5
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5
6
0.24
2
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0
1
2
3
Time[h]
4
160
140
120
100
― 0.1mM
― 0.2mM
80
60
40
20
0
0
1
2
3
4
5
6
時間[h]
5
30
Growth rate [nm/mmsec]
夜間
Growth[μm]
0
-5
-10
-15
-20
-25
-30
0
4
8
12
Time[h]
16
20
24
測定開始から2時間は根に水を浸している状態で計測を行ない、2時間からは塩化第二水銀を根に曝露した
状態で計測を行なった。濃度0.1mMの塩化第二水銀を曝露した場合、ナノメータゆらぎの標準偏差が7.7%低下
したが、条件を変化させなくとも10%程度の変動が起きるため阻害剤の影響はないと考えられる。また、濃度
0.2mMの塩化第二水銀を曝露した場合、ナノメータゆらぎの標準偏差が48.9%低下した。同様の実験を各濃度
で3回づつ行なったところ、アクアポリン阻害剤の濃度を上げるとナノメータゆらぎの標準偏差の低下率が大きく
なった。
夜間
20
10
今後の予定
0
植物のナノオーダーでの生長挙動がどのような生理現象によるものなのかを突き止める為にアクアポリンの阻
害実験を引き続き統計干渉法を使用して行なっていくのと平行して、光合成速度測定器を使い光合成速度の計測
を行なう。また他に、呼吸阻害剤を使用し植物の気孔の開閉を止めて生長計測を行なうことなどして従来の生長
挙動の測定データと比較していく。
当研究室での、オゾンに対するイネとアカマツの影響評価の実験を引き続き行ない、埼玉県環境科学国際セン
ターの人工気象室内で、同様の実験を平行して行なっていく。また、新た製作した統計干渉法の実験装置を使用
して、フィールド実験を埼玉県環境科学国際センターにて行なう予定である。
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4
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Time[h]
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