R out - クォーク物理学研究室

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Space-time evolution of hot and dense matter
probed by Bose-Einstein correlation
in Au+Au collisions at sqrt(sNN) = 200 GeV
二粒子量子干渉効果により測定した
核子対当り200 GeV金+金衝突における
高温高密度物質の時空発展
広島大学大学院理学研究科 博士課程後期
物理科学専攻 (クォーク物理学研究室)
榎園 昭智
2004/9/16 学位論文公聴会
1
発表の概要
原子核衝突実験の目的
 原子核衝突における系の時空発展


本研究の目的
同種二粒子の統計的な干渉効果
 3次元解析

PHENIX検出器による粒子識別
 測定結果

3次元相関関数の測定結果
 衝突中心度、二粒子運動量、及び衝突エネルギー依存性
 流体モデルの予言値との比較


まとめと考察
2
量子色力学的相転移
• 原子核を構成する核子(陽子、中性子)は素粒
子である3つのクォークからできている。
• 量子色力学(QCD)によると、 カラー荷を持った
クォーク(反クォーク)は、通常我々の世界におい
ては強い相互作用を媒介するグルーオンにより
中性カラーのハドロン(バリオン、メソン)内に閉じ
込められている。
• 高温高密度状態においてクォークとグルーオン
はその束縛から解かれ、自由に振舞うことが予
測されている。
“クォーク・グルーオン・
プラズマ”(QGP)
Nuclear matter
3
宇宙空間の発展
15by
1by
Birth of life : present
Galaxy and Star Formation
1012s
Formation of Atoms
102s
Nucleosynthesis
10-6s
Confinement of quarks
Disappearance of anti-quarks
Creation of quarks
10-35s
the Inflationary Era
0.00s
The Big-Bang
4
高エネルギー原子核衝突実験
• 核物質(ハドロン相)は約17
0~200MeVの温度でQGP相
へ相転移することが格子QCD
理論の計算で予言されている。
RHIC
SPS
AGS
数百MeV以上の高温and/or
高密度状態は高エネルギー
原子核衝突実験によって作
り出すことが可能である。
SIS
• RHIC加速器を用いた原子核衝突実験において、QGPが
生成されたかどうかを確認し、その性質を調べる。
• 高温高密度状態での物質の振る舞いを記述する「格子
QCD理論」や「流体モデル」の検証。
5
RHIC (Relativistic Heavy-Ion Collider)
円周3.83Km、2つのリング:

120 bunches/ring
106 ns bunch crossing time
衝突核種

Au-Au (polarized) p+p, d+Au
最高衝突エネルギー:

sqrt(sNN) = 200 GeV (金+金)
ルミノシティ-:

2 x 1026 cm-2 s-1 (金+金)
6
原子核衝突における系の時空発展
Hadron phase

Kinetic freeze-out
ρηωφ
Time
e μ
γ
Jet
(high-p
hadrons)
π K
p
Mixed Phase(?)

Chemical freeze-out
QGP phase
pre-equilibrium
Pre-collision
Space
Au
Au
 ジェット、光子、レプトンは直接的なQGPの情報を与える。
 低い運動量のハドロンは系の時間・空間発展の情報を与える
(本研究は、この領域で非常に有用な測定法である。)
7
相転移を伴った時空発展
 原子核衝突でQGPが生成された
場合、自由度の増加により、より高
いエントロピー密度になる。
エントロピーはソースの時間発展
の間は保存される。
時間
QGPからハドロン相への1次相転移を
仮定すると、状態方程式の軟化により、
•ハドロン凍結時のソースサイズ
•ソースの寿命
•粒子放出時間
の増大を予測されている。
(Slowly-burning QGP)
寿命10fm/c (hadron gas)
 >50fm/c (w/ phase transition)
空間
S. Pratt, Physics Review D33 1314 (1985)
原子核衝突において、ハドロン凍結時のソースサイズや寿命
の測定は、QGP-ハドロン相転移の様相を調べることができる。
8
本研究の目的
√sNN= 200 GeV の金+金衝突実験(RHIC-Run2)にお
いてPHENIX検出器で識別された荷電π中間子対を用
い、3次元二粒子相関測定を行う。
3次元相関の衝突中心度依存性。
系の始状態と終状態の関係性
3次元相関の二粒子運動量依存性
 ソース半径(Rgeom)、寿命(τ0) 、粒子放出の持続時間(Δτ)
過去の測定結果(AGS-SPS実験)との比較
Rgeom、τ0、Δτ の衝突エネルギー依存性(√sNN ~ 2–200 GeV)
QGP相-ハドロン相間の一次相転移(Slowly-burning
QGP) によるRgeom、τ0、Δτ の増大はあるか?
9
二粒子干渉測定
統計的な二粒子量子干渉効果 (HBT効果)

Hanbury Brown & Richard Twiss


二光子の強度相関より星の角直径を求めた。(1950年代はじめ)
Goldhaber, Goldhaber, Lee, Pais

陽子+反陽子衝突実験において反応領域の大きさを測定(1960年)

ボソン(フェルミオン)の波動関数の対称性(反対称性)による相関項
2 (p1, p2 ) 
r1

1 ip1 (x1 r1 ) ip2 (x2 r2 ) ip1 ( x1 r2 ) ip2 (x2 r1 )
e
e
e
e
2
p1

x1
ΔR
r2
p2
x2
P2 (p1,p2 )
2
C2 (p1,p2 ) 
 1  (q)
P(p1 )P(p2 )
(q=p1-p2)

 1   exp R 2q2

q (=p1-p2)
10
3次元相関測定 (side-out-long変数)
ビーム軸に対してCylindricalなソースで、CM系(pz1 = pz2)を仮定

2
2
2 2
2
2
C2  1  exp Rside
qside
 Rout
qout  Rlong
qlong
Rside
Rout
ビーム軸
Rlong
Au

Rout
Rside
Au
Rlong = 縦(ビーム軸)方向のHBT半径
Rside = 横方向のHBT半径
Rout = 横方向のHBT半径
ビーム軸
もし有限な放出時間
が存在する場合、
粒子放出時間
2
2
  ROUT
 RSIDE
T
+粒子放出時間
11
粒子飛行時間による粒子識別
全統計
π+ ~45M, π- ~51M

Beam-Beam counter
衝突点(Z-vertex), 衝突時刻(T0)

0.2 GeV/c < p < 2.0 GeV/c
Drift chamber, Pad chamber
荷電粒子の3次元飛跡

Electro-magnetic calorimeter (as TOF)
粒子の到達時刻(TEMC)、到達位置

Tracking model w/ magnetic field
3次元運動量 (p), 飛行距離 (L)
12
P(p1 , p2 )
C2 
P(p1 )P(p2 )
QSignal (q)

QBackground (q)
Num. of Pair
実験的な相関関数の導出
QSignal (q)
QBackground (q)
シグナル・ペアに含まれる干渉効果以外の寄与の補正
• 荷電π中間子対に掛かるクーロン効果の補正
• 検出器内で荷電π中間子対が互いに近い所をヒットした時
の検出効率の補正(検出器シミュレーション)
13
結果: 3次元相関関数
シグナル・ペア 全統計
PHENIX (sNN=200GeV) π-π-
λ = 0.341  0.008
Rside = 4.14  0.07
Rout = 4.39  0.07 [fm]
Rlong = 4.50  0.08
π+π+ : ~110M pairs
π-π- :~140M pairs
14
衝突中心度依存性
Au
b
Au
 前方、及び中心ラピディティ-
における観測粒子多重度
 グラウバー・モデル
 検出器シミュレーション
Npart : 衝突関与核子数
Npart ~ 衝突時のソースの体積
15
衝突初期と終状態での体積
Ri(Npart) = 0.5 fm + a×Npartb でフィッ
ト
a [fm]
b
χ2/dof
Rside : 0.61  0.11 0.32  0.03 3.1/7
Rout : 0.61  0.11 0.33  0.03 5.7/7
Rlong : 0.58  0.11 0.34  0.03 5.8/7
HBT半径はNpartの3分
の1乗にスケールする。
Cylindrical sourceを仮定しているので
Vfinal~ Const.×Rside2×Rlong  Npart
ハドロン凍結時のソースの体積は、
原子核衝突時の体積の大きさに
比例している。
16
3次元HBT半径の衝突エネルギー依存性
• E895, E866 (sNN~ 2.1-4.9GeV)
• NA44 (sNN~ 17.3GeV)
• PHENIX, STAR (sNN= 130GeV)
• PHENIX sNN= 200GeV
これらの結果はAu+Au
(NA44はPb+Pb)のTop
~10% 中心衝突で測定
 横方向HBT半径(Rside )は衝突エ
ネルギーが~4GeVから200GeVまで、
エラーの範囲内で不変。
 縦方向HBT半径(Rlong)は衝突エ
ネルギーに依存してやや増加傾向に
ある。
17
二粒子運動量依存性:集団的膨張する系
kT  (pT1  pT2 )/2
観測者
Rgeom = 7.1  0.1 fm (χ2/dof =5.6/8)
(T0=120MeV βf=0.7 at PHENIX 200GeV)
τ0 = 8.7  0.2 fm/c (χ2/dof =9.4/8)
(T0=120MeV, at PHENIX 200GeV)
18
ソース半径(Rgeom)の衝突エネルギー依存性
Rgeom = ハドロン凍結時のソース
横方向の半径(RMS幅)
Rgeomは金原子核のサイズ
(3.07 fm)の2倍以上大きい。
Rgeomは衝突エネルギーに
依存して、AGS-RHIC間で
~2fm大きくなっている。
19
寿命(τ0)の衝突エネルギー依存性
ハドロン凍結までの寿
命は衝突エネルギーに
依存して増大している。
AGS(4GeV)と比較する
と~3fm、SPS(17GeV)
からは約1fmの増大。
20
粒子放出時間
Rout/Rsideは観測したkT及びNpart領域でエラーの範囲内で常
に1であり、過去の観測結果もほぼ同様に1である。
(Rout/Rside ~ 1  Δτ~ 0)
21
流体モデルによる再現
T. Hirano, Y. Nara, nucl-th/0404039
流体モデルは原子核衝突における様々な観測量を
非常によく再現できる!
22
流体モデルのHBT予言値との比較
PHENIX 200GeV (pi+pi+)
PHENIX 200GeV (pi-pi-)
STAR 200 GeV (2pi, 5-10%)
3D Hydro (Hirano)
3D Hydro (Hirano)
Scaled to Npart=281
Hydro + URQMD (Soff)
流体モデルは未だ
HBT測定結果(特に
Rout/Rside~1)を再現
できない。
23
まとめ
sNN= 200GeVの金+金衝突において観測した荷電π中間子用い、
3次元HBT半径を衝突関与核子数(Npart)、及び横方向の二粒
子運動量 (kT)の関数で詳細に観測した。

HBT半径はNpart1/3に線形比例する。


HBT半径のkT依存性をモデルフィットし、Rgeom(横方向の
ソースサイズ)とτ0を(寿命)見積もった。


ハドロン凍結時のソースの体積は、衝突初期のサイズに比例する。
Rgeomは7 fmで、τ0は9 fm/c。
Rout/Rside は実験誤差の範囲で1である。

粒子放出時間は非常に短時間である。
24
考察

ハドロン凍結時のソースの体積は、衝突初期のサイズに対
して常に同様な比例関係にある。


ハドロン凍結時のソースサイズや寿命はAGSでの結果と比
較して約2~3fmの増加であり、粒子放出時間は衝突エネ
ルギーによらず、常に短時間である。


周辺衝突(QGP非生成)と中心衝突(QGP生成)を比較しても有意
なソース半径の増大はない。
AGS領域ではQGP非生成で、RHIC領域ではQGP生成と仮定すると、
その増加量は(1次相転移の期待からは)非常に小さい。
QGPからハドロンへの1次相転移に基づいた流体モデルの
計算は、様々な実験結果を再現するが、HBT測定結果だけ
は再現できない。
RHICエネルギー領域でのHBT測定結果は、1次相転
移による“Slowly burning QGP”の描像を支持しない。
25