5.6 漏話・雑音など - 計算問題で制す!電気通信技術の基礎

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第5章 伝送理論と伝送技術
5.1 電気通信設備の概要
5.2 アナログ伝送方式
5.3 ディジタル伝送方式
5.4 データ伝送方式
5.5 伝送線路
5.6 漏話・雑音など
5.6 漏話・雑音など
5.6.1
5.6.2
5.6.3
5.6.4
5.6.5
漏話
鳴音
雑音
ひずみ
レベル変動・反響
5.6.1 漏話
ある導線とアース間に電圧がある場合,
別の導線との間の静電容量を介して,
電圧が伝達される現象.
(1)結合と漏話
静電結合
電圧を伝える側を起誘導線,
電圧が伝達された側を被誘導線と呼ぶ.
静電結合のモデルと等価回路
起誘導線
被誘導線
C12
等価回路
C12
C1
V0
VN
C2
R
V0
C1
C2
R
j C12V0
1/1/ j (C12  C2 ) 1/ R
j C12V0 R

j R(C12  C2 )  1
Vn 
VN
低周波と高周波
R が小さい場合
逆に,R が大きい場合
または低周波の場合,
または高周波の場合,
R ≪ { 1 / jω(C 12+C 2)}
R ≫ { 1 / j ω(C 12+C 2)}
すなわち
すなわち
1/R ≫1/ { 1 / jω(C 12+C 2)}
1/R ≪1/ { 1 / j ω(C 12+C 2)}
とすることができるので,
とすることができるので,
V N = C 12/(C 12+C 2)
V N = j ωR C 12 V 0
と近似でき,周波数に比例すると考えてよい。
のように定数になると考えてよい.
VN
VN =
VN =
C12V0
C12+C2
ω
1
= R(C +C )
12
2
ω
jωRC12V0
起誘導回路に流れる電流によって発生した磁束が,
被誘導回路に鎖状に交わることによって,電圧を誘起する現象.
いわゆるファラデーの電磁誘導法則による。
電磁結合
誘起電圧は,磁界の時間変動が激しいほど,
共有する磁界のループ面積が広いほど,
さらに両回路が接近するほど大きくなる.
電磁誘導の大きさは起誘導回路の電流の大きさ,周波数に比例する
I
M
1
R
V
0
R
V
0
N
2
R
N
2
1
R
M
R
等価回路
V
V
.
1
R
Vn  j  M I1
(2)近端漏話と遠端漏話
通信ケーブルは集合して設置されるので,静電結合や電磁結合によって
起誘導回線から別の回線に電流が誘起されることがある.これを漏話という。
被誘導回線上で元の信号と同一方向に伝搬する漏話信号を遠端漏話
逆方向に伝搬する漏話信号を近端漏話と呼ぶ.
起誘導回線
近端漏話
遠端漏話
被誘導回線
静電結合と漏話の関係
通信線路の抵抗は小さいので,静電結合による電圧伝搬は周波数と抵抗に
比例するものと考えてよい.また伝搬された電圧によって電流が生じる.
被誘導回線の電流iは,起誘導回線側電圧 V ,静電容量 C ,また周波数に
比例する定数 p を用いて,I = p C V のように表現することができる.
この電流は,左右インピーダンスが等しいものとすれば,
I の半分ずつ左右に分流する.
V
回線1
I
I/2
I = pCV
C
I/2
回線2
[注意]静電結合は,対象回線間の他の導体による遮蔽効果により,結合度合いが著しく減少するので,
多対ケーブルでは相隣り合う対間で生ずるものが大きい.市内ケーブルは,主に低周波の音声
周波数で使用されるので,静電結合が特に問題となる.
電磁結合と漏話の関係
電磁誘導による起電圧は起誘導回路の電流と周波数に比例する.
さらに左右のインピーダンス Z が等しければ,還流電流iは,起電圧を V として
I = V /(2 Z ) なお,ここで V = j ω M I である
とすることができる.
なお,電磁結合は,同一のケーブル内すべての対に及ぶので,
全体を異なったピッチにして,その相互位置を十分に検討する必要がある.
I
Z
M
V=jw MI,I=V/(2Z)
V
I
Z
(3)漏話減衰量
漏話減衰量 = 10 log10
送端電力(誘導回線)
漏話電力(被誘導回線)
これを漏話減衰量(単位dB/km)という。
また,両インピーダンスが等しければ,電力は電圧の二乗に比例するので,
漏話減衰量 = 20 log10
送端電圧(誘導回線)
漏話電圧(被誘導回線)
漏話減衰量の値が大きいほど,漏話が少ないことを示す.
(3)漏話減衰量
数kHzからMHzのオーダの範囲における電磁結合,静電結合による
漏話減衰量は,ほぼ以下の式で求めることができる.
① 近端漏話
 M CZ 
N nxt  20  log

 [dB/km]
 2Z 8 
② 遠端漏話
N fxt  20  log
M CZ

2Z 8
[dB/km]
ここで,ω:2πf , f :周波数(Hz),C :静電結合( F /m),
M :電磁結合(H/Km),Z :インピーダンス(Ω)である.
なお,音声周波数域では,インピーダンスが大きいので
2Z ≫ ω M
とみなし,静電結合だけを漏話の要因とみなすことができる.
(4)間接(二次)漏話
間接的な漏話を総称して間接漏話または二次漏話と呼ぶ.
① 反射近端漏話
線路の中間あるいは端末等にインピーダンス不整合点があり,
そこで反射した信号が近端漏話結合を介して遠端漏話となること.
② 第3回線経由漏話
周波数が高くなり,起誘導・被誘導2回線以外を経由してくる漏話.
第3の回線で近端漏話し,それがさらに近端漏話することで
結果的に遠端漏話になる場合,反射近端漏話が二重に起きた場合などがある.
③ 回り込み漏話
第3回線経由漏話のうち中継器出力が中継器のない回線や
逆向き中継器藤を経由して,同一地点の他の中継器の入力側に入り込む漏話.
(5)漏話の軽減
静電結合や電磁結合を小さくすることに尽きる。
[対策]
A. 結合を小さくするための製造過程での配慮
①
②
③
カッドごとに撚りピッチを異なるようにする。
カッド内の心線の幾何学的配置の均質化。
静電容量の大きい絶縁材の使用
B.線路設計時にカッドを適当に選んで試験接続を行う.
回線1
A
I S1
Z
VS1
IS2
回線2
C
(6)計算例①
Z
C13
C14
C23
C24
VS 2
Z
B
Z
D
IF 2
VF 2
2つの回線間の静電結合は,以下の式で表される。
K  C13C23  C14  C24
I F 2  0 であり,このとき K  0
C13C23  C14  C24  0
D の端末で漏話が発生しないとき
とすることができる。遠端漏話の漏話減衰量は以下の式となる。
VS1I S1
VS1
VF 2
  10 log10
, I S1 
, IF2 
VF 2 I F 2
Z
Z
,すなわち
(6)計算例②
特性インピーダンスが同じだから
VS21
VS1
  10 log10 2  20 log10
VF 2
VF 2
とすることもできる。今,線路の静電結合 K が 100 [pF],特性インピーダンス Z が
 K Z VS1 ,各周波数 が 8,000 [rad/s] であり,
1,000[Ω],漏話電圧 VF 2 
8
線路の減衰量を考慮しないものとすると
8
8
  20 log10
 20 log10
KZ
8,0001001012 1,000
 20 log10 104  80 [dB]
5.6.2 鳴音
電気的・音響的な結合やインピーダンス不整合などにより,
電気通信回路設備から端末設備に入力される信号が減衰されず,
あるいは逆に増幅されて電気通信回線設備に反射され,
正帰還ループが形成され発振状態になる現象
(1)鳴音とは
このループ内の利得合計が損失合計を
上回ると一種の発信状態になる。
4線
2線
2線・4線
変換器
中継増幅器
4線
発振に至らなくても,それに近い状態になり,
ひずんだり,こもった音声になることを準鳴音という。
2線・4線
変換器
2線
(2)法規上の取り扱い
① 鳴音が発生すると,他の回線に漏洩して他の利用者に迷惑がかかる。
②伝送路設備や交換設備に過大な負担がかかる。
総務大臣告示により
電気通信回線から端末設備に入力される信号に対し,
端末設備がこれを反射する信号電力の減衰量を定め,
正帰還ループができないようにしている。
5.6.3 雑音
(1)雑音の種類
雑音の種類
回線雑音 熱雑音
ショット雑音
漏話雑音
準漏話雑音
干渉雑音
量子化雑音
局内雑音 交換機雑音
登算パルス雑音
電源雑音
誘導雑音
主な発生箇所
端局,中継装置
端局,中継装置
多対ケーブル
端局,中継装置
空中線系
PCM端局装置
トランク,スイッチ
Kトランク
電源回路
伝送線路
(2)雑音の形態・性質
① ランダム雑音
●通常回線に定常的に発生する雑音
●伝送系の各装置からの熱雑音
●多対ケーブルにおける漏話雑音
●非直線性ひずみ(後述)による非漏話雑音
② インパルス性雑音
●瞬間的に発生する雑音
●発生間隔や振幅が不規則であるため単純評価不能
●実態をつかみずらいので補償することが困難
●電気信号の場合は雑音,データ伝送では誤り率の増加,
画像信号では解像度の低下として現れる。
(3)色々な雑音
(A)回線雑音(その1)
① 熱雑音
[発生機構]
回路素子中の自由電子の熱的じょう乱運動による
[主な発生箇所] 端局,中継装置
[雑音の性質]
周波数スペクトラムは均一で,電力和で相加する。
② ショット雑音
[発生機構]
電子管やトランジスタ内の荷電粒子の発生箇所のばらつき
[主な発生箇所] 端局,中継装置
[雑音の性質]
接合電流の平方根に比例し,温度に依存しない
③漏話雑音
[発生機構]
多対ケーブルの漏話が重なったり,
ダイヤル信号や電信電話などの漏えい
[主な発生箇所] 多対ケーブル
[雑音の性質]
バブル雑音とも呼ばれ,トラヒック密度に関連する
インパルス性雑音である。
(A)回線雑音(その2)
④ 準漏話雑音
[発生機構]
回線または回路特性の非直線性
[主な発生箇所] 端局,中継装置
[雑音の性質]
非了解性。二次ひずみ電力和,三次ひずみは電圧和相加。
⑤ 干渉雑音
[発生機構]
不要搬送周波数および異なる通信方式等からの干渉
[主な発生箇所] 空中線系
[雑音の性質]
変動性が高い
⑥ 量子化雑音
[発生機構]
PCMにおける量子化による波形ひずみ
[主な発生箇所] PCM端局装置
[雑音の性質]
音声の波形ひずみであるため,通話中のみに発生
(B)局内雑音
① 交換機雑音
[発生機構]
主な発生箇所スイッチの機械振動による接触不良,
接点の伝導不良
[主な発生箇所] トランク,スイッチ
[雑音の性質]
衝撃性
② 登算パルス雑音
[発生機構]
交換機内の直流素子回路によって登算パルスが微分されて
生じる雑音と,登算パルスで生じるリレー類の磁束変動から
通話回路に誘導して発生する雑音がある。
[主な発生箇所] Kトランク
[雑音の性質]
衝撃性
③ 電源雑音
[発生機構]
電源回路で発生するハム雑音
[主な発生箇所] 電源回路
[雑音の性質]
低周波
(C)誘導雑音
①誘導雑音
[発生機構]
強電流施設からの静電結合,電磁的結合による
[主な発生箇所] 伝送線路
[雑音の種類]
商用電源周波数またはその高周波
(4)雑音指数
雑音指数
:
入力側SN比に対して出力側SN比がどれだけ劣化するか
F
Si Ni
So N o
あるいはデシベル表示して
NF  10log10Si / Ni  10log10So / No 
(5)特に熱雑音について
数 10 kHz 以下の周波数帯域では,単位周波数あたりのパワー密度が一定
白色雑音と呼ばれることもある
Johnson によって詳細に実験され,
共同研究者の Nyquist が理論的解釈を行ったので,
ジョンソンノイズ, ナイキストノイズと呼ばれることもある
[熱雑音の原因]
● 抵抗により発生した荷電粒子のブラウン運動
● 絶対温度0度でない限り,電流が流れれば雑音は必ず発生する。
熱雑音の電力と雑音指数
kT であるから時間 t
これを帯域幅で積分すると雑音電力 Ni は,
荷電粒子の運動エネルギーの総和は
Ni  kTB ここで, k
Si

So
Si
F
So
kTt ,
: ボルツマン定数(= 1.38×10-23)
T:
B:
雑音指数 F
で
絶対温度(摂氏温度-273度)
帯域幅
Ni において利得
G  So Si であるから
No
Ni So G kTB
No


No
So No
GkTB
出力雑音 N 0 は熱雑音
Ni
が利得 G で増幅され,かつ内部で発生する雑音 N a
を加えたものであるから
F
Na  GkTB
GkTB
(6)計算例
[例1]
信号レベルが-15 dBm で到着する回線端で
雑音電力が 10-8 だったときの SN 比
雑音電力 P N = 10-8 W = 10-5 mW だから N =10 log10 P N [dBm]
に代入して,
N = 10 log10 10-5 = -50 [dBm]
信号レベルが-15 dBm であるからSN比は,-15-(-50)=35
[別の方法]
P N = 10-5 mW, S =10 log10 P S=-15 だから
log10 P S = -1.5 → P S =10-1.5
S N比は,
10 log10(P S /P N)=10 log 10(10-1.5/10-5)
= 10 log 10(10 3.5)=10×3.5=35
[例2]
伝送損失が15 dB の受端雑音レベルが-70 dBm だったとき
回線の送端でSN比が 50 dB だったときの送端に送った信号レベル
受端の雑音レベルが-70 dBm で,SN比 50 dBなので
受端の信号レベルは,
-70 [dBm]+ 50 [dB] = -20 [dBm]
伝送損失 15 [dB] だから,送端の信号レベルは
-20 [dBm]+15[dBm] = - 5 [dBm]
ちなみに,伝送損失 L [dB](相対デシベル)は
10 log10 L = 15 → L = 10 1.5 = 31.6
である。送受端の電力は,
10 log10 PS = -5 → PS =10-0.5 ≒ 0.316 mW
10 log10 PR = -20 → PR=10-2=0.01 mW
となり,受端の電力は送端のそれに比べて1/31.6 になっていることを
確認できる。
5.6.4 ひずみ
(1)ひずみの種類
①非線形ひずみ(または準漏話ひずみ)
高調波や各種周波数成分の組合せによるひずみ
②直線ひずみ
減衰ひずみや位相ひずみ
伝送される周波数によって減衰量に差があること
①
②
③
④
⑤
(2)減衰ひずみ
通信システムの減衰量が周波数に対して一定でないために生じる。
各種ろ波器やモデム等,伝送路に通話路変換装置が介在すると
その特性の影響を受ける。
音声では,人間の聴覚が減衰ひずみに敏感なことから,
明瞭度やラウンドネス等に影響が大きい。
データ伝送では,符号の立上がり,立下りの変換点が乱れて,
受信側で波形再生ができないために符号誤りが発生する原因になる。
画像通信では,画面が乱れるなどの現象がおきる。
6
減衰量 3
0
-1
300 500
2000 8000
周波数[Hz]
受信等価
例えば,同軸ケーブルの伝送損失は,周波数の平方根に比例して大きくなる。
そこで,伝送媒体の特質に合わせて,その損失特性を打ち消すような増幅を行う。
増
幅
器
の
利
得
周波数
補
正
後
の
信
号
周波数
周波数
この方法は,受信した信号に対して等化を行うので,受信等化と呼ばれる。
伝送後の信号品質を直接観測できない欠点はあるが,
高音部の振幅を大きくすることなく信号を伝送できるため
放射電磁雑音(EMI:electromagnetic interference)を小さくでき,
受信側で増加させる電圧レベル(ブーストレベル)を設定できる利点を持っている。
なお,無線等で受信電波を増幅する機器をブースタ(booster)と呼ぶ。
プリエンファシス
(pre-emphasis)
高音部の減衰量に対して,送信前に高温部を強調(プリエンファシス)して送信し,
受信後,劣化分を差し引いた分を減衰(ディエンファシス:de-emphasis)させることで,
元の信号に戻す方法。この方法により高音部のSN比を改善することができる。
一般にFM放送やテレビ放送の音声信号に用いられる。
プリエンファシスの特性は,
時定数(テレビ放送の音声では75μ秒,FM放送では50μ秒)を用い,
次のように定められている。
F    1   0 2 ,  0  1 0
最も簡単な回路例
E
プリエンファシスの回路例
(pre-emphasis)
C
Rout
R
入力電圧
v
v
E と出力電圧 v の関係
Rout
1
 Rout
1 R  jC
E
R  jC  
1 1 R  jC  0
非常に高い周波数のとき 1
すなわち
 0
のとき,すなわち直流のとき
Rout
v
E
R  Rout
高周波のとき
vE
絶対値を求めるために
入出力電圧の関係式を変形する
v
この部分に着目。
途中経過は
各自確認すること。
Rout
プリエンファシスの特性(1)
Rout1  jCR
E

R  Rout 

R  Rout 1 jC
R  Rout 


R  Rout 

Rout1  jCR1  jC
R  Rout 


E

R  Rout 
R  Rout 




R  Rout 1 jC
1  jC


R  Rout 
R  Rout 

1
 Rout
1 R  jC
2

R
 Rout 
1  
2 2
2

  jCR 
 
Rout 1   C
R  Rout 

 R  Rout  


E
2




R

Rout
2
2
 
R  Rout 1  C 
R  Rout  



E
プリエンファシスの特性(2)
絶対値は
さらに
Rout
v
R  Rout
1   2C 2 R2
 R  Rout 

1   C 
 R  Rout 
2
2
E
2
 0  CR  1 0 , 1  CR  Rout R  Rout   1 1
Rout
1   0 2
v
E
2
R  Rout 1   1 
特性関数は
1  0 2
1  1 2
とおいて
プリエンファシスの特性(3)
特性関数
1  0 2
1  1 2
は,プリエンファシスの特性関数
1   0 
2
と若干異なるが,ある程度低周波領域では近似的に同一とみなすことができる。
40
dB
応
答
(
30
20 log 1  ( / 0 )2
1  0.5 sec
 0  50 sec
1  5 sec
20
)
1   0 2
20 log
1   1 2
10
0.01
0.1
1
10
100
1,000
周波数 [kHz]
10,000
100,000 1,000,000
(3)位相ひずみ
各周波数が受端に到着する時間がまちまちであることによるひずみ。
ただし,一定遅延時間で同時に受信端に現れれば問題ない。
(みんなで遅れるのであれば構わない)
[用語]
群伝播時間: 周波数の所要伝送時間
位相ひずみ: 各周波数の群伝播時間差(遅延ひずみともいう)
群
伝
播
時
間
位相
ひずみ
0.3 kHz
周波数
3.4 kHz
位相ひずみの影響と補償
① 人間の聴覚には,位相ひずみ検出能力はほとんどないので,
音声には相当量のひずみが許される。
② データ伝送や画像通信の場合,品質低下に大きな影響を及ぼす。
③ 位相ひずみは中継伝送路やろ波器で発生するので,
群遅延速度をあらかじめ測定しておき,遅延等価器で補償する。
(4)非直線性ひずみ
非直線性ひずみとは
入力電圧に対して出力電圧が完全に比例しないこと。
入力電圧 V in,出力電圧 V out としたとき,
V out=a 1V in+a 2V in2+a 3V in3+・・・
(1)
のa k ≠ 0(ただしk≠1)となることを示す。
これらのうち特に
① a 2 (一般には偶数項)は,V out 軸に対して非対称
② a 3 はV out 軸に対して反対称(符号反転対称)
それぞれ非対称非直線性,反対称非直線性歪と呼ばれる。
[反対称非線形ひずみの分類]
非直線性ひずみの種類
① 飽和型反対称非線形歪
a 3 が負のとき入力電圧の絶対値の増加率に対して
出力電圧の絶対値の増加率が鈍化する。
② 発散型反対称非線形歪
a 3 (一般には奇数項)が正のとき入力電圧の絶対値の増加率に対して
出力電圧の絶対値の増加率がさらに大きくなる。
出力電圧
出力電圧
入力電圧
非対称非直線性
出力電圧
入力電圧
発散型反対称非直線性
入力電圧
飽和型反対称非直線性
反対称非直線性
これらの中で通信においては,特に飽和型反対称非直線性が重要である。
V out=a 1V in+a 2V in2+a 3V in3+ ・・・ (1)
高周波ひずみと混合変調
入力電圧がVin=Acos ω1t+Bcos ω2tで表現される混合余弦波であるとして,
簡単化のために k = 2 までの項だけを計算すると,
次のように書き直すことができる。
Vout= C0+
C1cosω1t+C1’cosω2t+
C2cos2ω1t+C2’cos2ω2t+
C3cos3ω1t+C3’cos3ω2t+
C4cos(ω1-ω2)t+C4’cos(ω1+ω2)t+
C5cos(2ω1-ω2)t+C5’cos(2ω1+ω2)t+
C6cos(ω1-2ω2)t+C6’cos(ω1+2ω2)t
(2a)
(2b)
(2c)
(2d)
(2e)
(2f)
ここで,C0=a2・(A2+B2)/2,
C1=a1A+3a3A3/4+2a3AB2/3,C1’=a1B+3a3B3/4+2a3BA2/3,
C2=a2A2/2,C2’=a2B2/2,C3=a3A3/4,C3’=a3B3/4,
C4=C4’=a2AB,C5=C5’=3a3A2B/2,C6=C6’=3a3AB2/2
である。
(2g)
式から分かること①
[着目する部分]
C1cosω1t+C1’cosω2t+
(2b)
C1=a1 A+3a3 A3/4+2a3 AB2/3
C1’=a1 B+3a3 B3/4+2a3 BA2/3
C1,C1’におけるa3に着目すると,
反対称非直線性があれば
基本波の出力振幅が互いに影響しあう。
これを狭い意味の混合変調ひずみと呼ぶ
式から分かること②
[着目する部分]
C2cos2ω1t+C2’cos2ω2t+
C3cos3ω1t+C3’cos3ω2t+
(2c)
(2d)
Vinの2次項から周波数2倍の高調波が生じ,
3次項から周波数3倍の高調波が生じる。
これを高調波ひずみと呼ぶ
式から分かること③
[着目する部分]
C4cos(ω1-ω2)t+C4’cos(ω1+ω2)t+
C5cos(2ω1-ω2)t+C5’cos(2ω1+ω2)t+
C6cos(ω1-2ω2)t+C6’cos(ω1+2ω2)t
(2e)
(2f)
(2g)
相互の周波数同士を演算した形の周波数成分が発生する
この周波数 mf1+nf2 成分の波を相互変調ひずみ
と呼ぶ。
式から分かること④
[着目する部分]
C1=a1A+3a3A3/4+2a3AB2/3
C1’=a1B+3a3B3/4+2a3BA2/3
C1/A,C1’/B,すなわちそれぞれの信号の増幅率を計算して差をとると,
C1/A-C1’/B =3a3(A2-B2)/4
となり,A>Bのとき必ず正となるので
C1/A > C1’/B
大信号に比べて小信号の増幅率は小さくなる。
これを小信号抑圧効果と呼ぶ。
非線形ひずみへの対応
① 中継器の伝送容量を下げ中継器の動作点を直線領域で使用する。た
だし,特に衛星では搭載されている中継器の電力を効率良く使用す
るため,増幅器を非線形領域で動作させざるを得ないため,線形動
作する領域に抑えることは困難である。
② 共通的に増幅する搬送波の数を減らす。
③ 衛星通信のように個々の通信路が単一の回線で構成(これをSCPC:
Single Channel Per Carrierと呼ぶ)される場合,音声にしきい値を
設定し,しきい値を越えない時間は音声通信が行われていないもの
とみなし,その間は送信搬送波を切ってしまうボイスアクティベー
ションという手法が用いられることもある。この方法は,効率が良
いが,多数の搬送波が共通増幅されるので,相互変調積による影響
が大きくなる。
中継増幅器における入出力特性
中継増幅器では,一般に入力電圧の正負に対して
出力電圧も対称的に正負になり,
負荷の絶対値に対して飽和する形の非線形歪みを受ける。
したがって
入出力特性は,奇関数であり,偶数次項の係数は0となる。
そこで
入出力特性を次のように表現する。
Vout=a1Vin+a3Vin3+a5Vin5 ・・・
=Σa2i+1Vin2i+1
相互変調積の影響①
Vout=a1Vin+a3Vin3+a5Vin5 ・・・
=Σa2i+1Vin2i+1
(1)
この中継増幅器に対して
次のような等振幅無変調波が入力されたものとする。
Vin=Acos2πf1t+Acos2πf2t+・・・+Acos2πfnt
(2)
全入力電圧は,
Pin=n A2/2
である。
(3)
相互変調積の影響②
Vout=a1Vin+a3Vin3+a5Vin5 ・・・
=Σa2i+1Vin2i+1
Vin=Acos2πf1t+Acos2πf2t+・・・+Acos2πfnt
Pin=n A2/2
(1)
(2)
(3)
n=1のとき式(1)に代入して,
Vout(1) = AΣa2 i +1・(2 i +1)!/( i +1)!・Pini cos2πf1t
(4)
また,n = ∞のとき,
Vout(∞) = AΣa2 i +1・(2 i +1)!/i !(Pin /2) i cos2πfi t (5)
となる。
nが無限大になると元の信号に比べて増幅率は小さくなる。
相互変調積の影響③
Vout=a1Vin+a3Vin3+a5Vin5 ・・・
=Σa2i+1Vin2i+1
Vin=Acos2πf1t+Acos2πf2t+・・・+Acos2πfnt
Pin=n A2/2
Vout(1) = AΣa2 i +1・(2 i +1)!/( i +1)!・Pini cos2πf1t
Vout(∞) = AΣa2 i +1・(2 i +1)!/i !(Pin /2) i cos2πfi t
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
入力信号の振幅が等振幅であるため出力信号の出力も
等振幅であると考えてよいから,出力電力の総和は
Pout=n(V(n))2/2
となる。
入力される信号数によって入力信号の電力総和と
出力信号の電力総和の比は異なる。
(6)
相互変調積の影響④
入力される信号数による電力総和の比
全出力
電力
[dB]
飽和レベル
単一波入力
のとき
出力
バックオフ
複数波入力
のとき
入力
バックオフ
全入力電力[dB]
相互変調積の影響⑤
複数波の全出力電力が単一波のそれに比べて
少なくなる理由
=
相互変調積が発生し,
信号と異なる周波数帯に
散逸してしまう
相互変調積で問題となる周波数
入力信号の周波数をf1,f2,・・・,fn,とすると,
発生する相互変調積の周波数は,次のように表現することができる。
fIM=m1f1+m2f2+・・・+mnfn,
ここで,mk (k=1~n)は整数である。
① 相互変調積の高次項になるほど,その成分の絶対値は小さくなるので,
特に問題になるのは,低い次数,すなわち3次と5次の項である。
② 特に,上記 fIM の値が信号の周波数と同じか,近い場合に
干渉して信号劣化の原因となる。
振幅変動による相互変調ひずみ
入力信号の振幅変動(AM)により
出力信号の位相変動(PM)が
生じることがある。
これをAM-PM変換と呼ぶ。
この現象も相互変調ひずみの原因となる。
相互変調ひずみの影響緩和
① 入力バックオフを大きくして非線形性の影響を少なくする。
しかし,あまりバックオフを大きくすると中継器の電力利用効率を
低下させ,ひとつの中継器に割り当てる回線数が少なくなる。
② 信号に割り当てる周波数を選択して相互変調積の影響を軽減する。
ただし,3次,5次の相互変調積を完全に避けるためには,
周波数帯域幅をかなり広くとる必要がある。
③ 中継増幅器の非線形特性と逆の特性の回路(リニアライザ)を利用して
非線形増幅特性の影響を少なくする。
リニアライザも等化回路のひとつである。
自動利得調整装置
AGC:Automatic Gain Control Equipment)
① 伝送媒体の損失や中継器事態の利得変動を自動的に調整し,
その変動を常に一定限度内に調整する装置。
② 一般に中継器の一部に組み込まれ,中継器の出力が変化したとき,
変化量を抑えるよう制御する。
③ 制御には,温度による抵抗値変化が大きいサーミスタが使用される。
[AGCの種類]
① P-AGC(パイロットAGC) :
② T-AGC(温度AGC)
:
増幅部の出力側パイロット電流で制御する。
中継器の周囲温度で制御する。
(5)その他のひずみ
① 温度変化
伝送媒体は,周囲の温度変化により抵抗が変化して,
伝送損失が変動し,極端なときは,
通話中に声の大きさが変動することもある。
したがって,この温度変化も一定限度内に抑える必要がある。
② 帯域外放射
増幅器の非線形増幅により相互変調積や高周波が発生し,
使用可能帯域外に影響を及ぼすことがある。
この現象は,特に無線の場合,問題が大きいので
対策を講じる必要がある。
通常は,出力側に帯域通過フイルタを挿入して不要波を除去する。
5.6.5 レベル変動・反響
(1)レベル変動
①何らかの外部要因によって信号レベルが変動すること。
②1秒以下の瞬間的変動~季節的な変動
③信号伝送に影響を及ぼさない~重大な影響を及ぼす程
度の変動幅
電話の場合,時間の短いレベル変動は影響が少ないが,
データ伝送や画像通信の場合は影響が大きい。
[用語]
瞬断 : レベル低下6 dB 以上1 ms ~ 1s
(10 log10 Ps=6 ∴ Ps=10 0.6 ≒ 3.98)
すなわち,振幅が1/4以下になってしまうときである。
季節的なレベル変動
季節的なレベル変動は,温度の影響が大きい。
① 温度変化による伝送損失の変化
② 温度による屋外設備部品の伸縮
③ 屋外設備部品の凍結・凍土
④ 材料の高温・低温による特性劣化
伝送路の温度変化を制御情報として用いることが多い。
(2)反響
① 送話者反響
送話者の通話電流が相手側で反射され,時間的に遅れて
送話者に戻ってしまい通話の邪魔になること。
② 受話者反響
送話者反響がさらに反射されて受話者に達すること。
受話者反響
受話者
送話者
2線・4線
変換器
鳴音ループ
2線・4線
変換器
送話者反響
2線
4線
2線
(3)伝送遅延
信号伝播に要する時間および回線中に通信情報が一時的に蓄えられるため
に生じ,反響により通話に悪影響を与える。衛星通信の場合480msもかかる。
エコーキャンセラ等により反響を防止する。
送話側
地球局
戻ってくるまでに
480 ms かかる
送話側から送信した後
240 ms 後に反射
受話側
地球局