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Network Economics (8)
ネット外部性(後)
京都大学 経済学研究科
依田高典
1
2つのネット外部性
• 直接的ネット外部性
電気通信ネットワーク
社会的互換性の過少誘因
• 間接的ネット外部性
ソフトウェア/ハードウェア・パラダイム
ロックインとチッピング
例:QWERTYとDVORAK
2
ネット外部性と企業戦略
• Besen&Farrell(1994)
ケース1 (a11>a21, a12>a22, b12>b11, b22>b21) :双方の企業が自社
の技術を採用。例:パソコンのOS競争(OS/2、Windows) 。4つの戦略。
(1)既得基盤の構築、過剰慣性の利用。(2) 補完財の品揃えと多様性。
(3) プレアナウンスメント。(4)長期的な低価格。
ケース2 (a11>a21, a22>a12, b11>b12, b22>b21) :A社の技術が業界
標準となるか、B社の技術が業界標準となるか。第一の戦略「コミット
メント(Commitment)」。(1)交渉を続ける一方で既得基盤を形成したり、
(2)交渉がまとまった時に品質と生産能力で競争できるように投資。第
二の戦略「コンセッション(Concession)」。(1)低費用ライセンシング、
(2)ハイブリッド標準、(3)将来の共同開発、(4)第三者機関への委託、
(5)情報相互提供。
ケース3 (a11>a21, a22>a12, b12>b11, b21>b22) :企業Bが既得基
盤を確立した支配的企業で、企業Aがその標準にあやかろうと
している参入企業。均衡は存在しない。企業Bは知的財産権保
護を主張、頻繁に技術変更、企業Aの互換性を妨げるような戦
略。
3
図 2: Besen and Farrell (1994)モデル
企業 B
A 社の技術 B 社の技術
A 社の技術 a11, b11
a12, b12
企業 A
B 社の技術 a21, b21
a22, b22
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標準化の経済学
• 産業界の意識の高まり(Mansel1995)
(1)製品設計初期における標準化の役割、(2)プレ標準化段階における
技術設計の知的財産権をめぐる軋轢、(3)市場の独占化のための技
術設計の戦略的価値。
• 公共財としての標準化(Kindleberger1983)
(1)標準を利用するメンバー間の便益を分割することができず(非分割
性)、(2)全てのメンバーが標準を等しく利用することが可能 (排除
不能性)。ただ乗り問題のような市場の失敗が発生。
• 標準化の市場の失敗(Besen1995)
(1) 多大な年数を要する。(2) 非標準技術を採用するユーザー群を孤立
させる。(3) 社会的に非効率な技術を採用するかもしれない。
• 標準化の政策(Repussard 1995)
(1) 政府の参加、(2) 金融的支援、(3)教育と奨励、(4)技術的標準を促
進するための研究開発基金の分配、(5)技術法令における参照制度
の創設。
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標準の類型化
• 「標準」:暗黙あるいは公的合意の結果、生産者によって支持
される技術仕様の集合。例えば、レファレンス、最低品質、イ
ンターフェース、互換性に関する共通仕様のこと
• 標準の類型化(David1995)
(1)「スポンサー無し標準」:特定の創業者あるいはそれに準ずるものが財
産権を有するわけではないが、社会的に良く典拠付けられた形式で存在し
ている標準。
(2)「スポンサー付き標準」:単一ないし複数のスポンサーが間接あるいは
直接の財産権を有し、他企業に対して採用を推奨する標準。
(3)「合意標準 」:米国国立標準協会(ANSI)に所属する組織のような自主的
な標準設定機関によって制定される標準。
(4)「強制的標準」:規制権限を持っている政府機関によって制定される標
準。
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• 「デファクト(事実上の)標準」:(1)と(2)のタイプの標準は市場競争
を経て形成されるもの。 (1)の例:QWERTY配列、(2)の例:VTRのVHSやパ
ソコンOSのWindows。
• 「デジュリ(公的)標準」:(3)と(4)のタイプの標準は標準制定委員会の
裁量や法令の制定を経て形成されるもの。(3)の例:国際標準化機構(ISO)の
定める標準シリーズ、(4)の例:工場設備の一酸化窒素等有害物質の排出制
限規制。
• 「自主的標準」:(1)から(3)までのタイプの標準は産業内の利害関係の
調整を促進するための合意。ISOは91ヶ国の国家品質機構から構成され、グ
ローバルな規格を討議・調整するための国際的なフォーラム。例:ANSIは
ISOの米国調印者、米国における多くの自主的標準の開発の調整。
• 「技術規制(Technical Regulations)」:(4)のタイプの標準は多くの
場合法令化。拘束力の強い条約(Treaty)と拘束力の弱い推奨
(Recommendation)の2種類。
7
表 1: 標準の類型化
スポンサー無し標準
スポンサー付き標準
合意標準
強制的標準
デファ ク ト 標準
デジュリ 標準
自主的標準
技術規制
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デファクト標準の重要性
• デファクト標準の意義:
(1)消費者への製品認知度の向上、(2)規模の経済性による費用
メリットの享受、(3)周辺装置とソフトウェアのような補完
的製品の増加。
• デファクト標準とデジュリ標準の長所・短所(山田
(1997)
•
VTRvs.Beta(柴田1992)
VTR:米国のTV局の業務用ニーズ、1970年のU-matic(テープ幅3/4インチ、記録時間30分)
はソニー・松下・日本ビクターの統一規格。やがて、それが家庭用VTRとして発展、
普及する鍵は「1/2インチで2時間記録」
1975年他社に先駆けてソニーがBetamax1号機(1/2インチ、1時間記録)を発売。1976年 1
年遅れてビクターがVHS1号機(1/2インチ、2時間記録)を発売。ソニー規格は当初2時
間録画の条件を満たしていなかったが、1977年 2時間録画のBetamaxを発売。
しかし、既に松下・ビクターはOEMやライセンスの供与で強力なVHS陣営を確立。1978
年にVHSがVTRの50%のシェアを獲得すると、一度もシェアの再逆転は起こることな
く、1988年ソニーがVHSを発売するに至ってVTR規格競争は終止符。
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表 2: デファ ク ト 標準と デジュ リ 標準の比較
デファ ク ト 標準
・ 迅速な標準化が可能
・ 標準化と 製品化の同時進行
・ 開発者に多大なロ イ ヤリ ティ 収入
デジュ リ 標準
長所
・ 標準化メ リ ッ ト の共有
・ 標準内容が明確でオープン
・ 制定、 改訂の手続が明確
・ メ ンバーシッ プがオープン
問題点 ・ 標準化メ リ ッ ト の私物化
・ 標準化に要する 長い時間
・ 情報の公開が不完全
・ 多様な標準ニーズと のミ ス マッ チ
・ 制定、 改訂の手続き が不透明
・ 標準化と 製品化のタ イ ムラ グ
・ メ ン バーシッ プが限ら れる 場合が多 ・ 各社が知的財産権を 主張し すぎる と 禁
い
止的な使用料になる 可能性
・ 負けた規格の製品を 購入し た初期購 ・ 技術革新の進展と 標準化のタ イ ミ ング
入者の存在
の難し さ
・「 使われない標準」 を生む可能性
(出所: 山田 1997 表 2)
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新しい標準化の枠組み
• デファクトとデジュリの境界の曖昧化
(1)いずれの標準にせよ、多数勢力を獲得すべきコンソーシアムの形成が必要。
(2)デジュリ標準の開発段階からの先取り標準化の進展。
(3)いずれの方式とも言えないような標準化方式の増大。
• デファクト標準の区分(山田1997)
「結果的デファクト標準」 (VHS・
MS-DOS・PC/AT・TCP/IPのよう
に市場競争において圧倒的なシェアを獲得すること)
「戦略的デファクト標準」(X/OPEN・DVD・DAVICのように仕様設計時にお
いて多数派になるためのコンソーシアムを形成すること)
• 「自発的標準」の提唱(Besen&Saloner1989)
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図 4: 代替的標準の類型化
私的イ ンセンティ ブ
一致
技術の選好
不一致
大
純粋調整
(自発的標準)
コンフリ ク ト
(デファ ク ト 標準)
小
公共財
(デジュリ 標準)
私的財
(標準なし )
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DVDの事例
•
DVDの開発には二つの規格が存在
一つはソニー・Philipsが提唱する厚さ1.2mmディスク単盤・片面3.7GBのMMCD(Multi
Media CD)規格、
もう一つは東芝が提唱する厚さ0.6mmディスク張合わせ構造・5GBのSD(Super Density)
規格。
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•
•
光ディスクの基本特許を持つソニー・PhilipsはCD資産の継承を強調す
る戦略。特許料の継続的支払いに不満を持った東芝は独自規格支持の
ための多数派工作に努力。
劣勢のソニーは苦しい立場。両規格の統一を望むテクニカル・ワーキ
ング・グループ(TWG)の仲裁を受け、東芝とソニーは1995年9月よう
やく規格統一の基本合意に到達。
DVD規格統一に合意した10社が規格策定のための作業組織「DVDフォ
ーラム」(1997年4月DVDコンソーシアムから改称)を設定。しかし、そ
の後のDVDの規格統一過程をみると、極めて多難な道のり。
DVDは市場競争の結果というデファクト標準ではなく、日本工業規格
(JIS)のような公的標準機関が策定したデジュリ標準でもない。DVDの
紛争を教訓に1996年通産省は「標準情報制度」を新設。
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ネットの反トラスト政策
• ネット外部性の反トラスト政策 (Rubinfeld 1998)。
(1)チッピングのある市場に対する適切な反トラスト政策は早期に実施される
べき。市場の趨勢が確定した後では、反トラスト上の介入政策の成功は困
難。
(2)一つのシステムが優越的地位を占めている時、その優越性が偶然や反競争
的慣行の結果ではなくて優れた技術革新の結果と判断される場合、反トラ
スト上の介入政策は長期的に有害。
• ネットワーク市場の知的財産権技術革新の誘因(Farrell and Katz
1998)
(1)革新的企業の市場独占力が価格競争を弱めるという静学的理由
(2)革新的企業は技術ライセンスを反競争的戦略として用いて他のライバル達
の技術革新を阻害するかもしれないという動学的理由
によって相殺される。
さらに、ネットワーク市場では、ネットワーク外部性と互換性という新しい問
題によって技術革新と知的財産権の問題は一層複雑になる。実際、知的財
産権は互換性を推進することもあり得れば、阻害することもあり得る。
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• Microsoft裁判の事例(Sheremata 1997) :
1998年米国司法省(DOJ)は、 (1)前訴(MS-DOSをコンピューター・メーカーに
OEMライセンスする際それをインストールしているしていないにかかわら
ずライセンス料を課していた事件)の1995年の同意審決が遵守されていない
疑いと(2) Windows98においてOSとインターネット閲覧ソフトを抱き合わ
せている疑いに関して、OS市場で90%の市場シェアを持つMicrosoftを再提
訴。
Microsoft裁判は典型的なネットワーク外部性をめぐる反トラスト裁判 。
第一に、Windowsを用いるユーザーが増えれば増えるほど、より多くの
ユーザーと情報を共有することが可能になり、付加的な努力が必要な
くなる(直接的ネットワーク外部性)。
第二に、より多くのユーザーがWindowsを用いれば用いるほど、より多
くのソフトがより低廉な料金で利用可能になる(間接的ネットワーク外
部性)。
これらネットワーク外部性は需要側の規模の経済性を意味し、大きな既
得基盤を持ったOSがより大きな市場支配力を持つという市場の独り勝
ち化を引き起こす。伝統的な反トラスト政策と最近のネットワーク外
部性の二つの視点から、MicrosoftのWindowsのデファクト標準化が参
入障壁を形成し、社会厚生向上の阻害要因になっているとDOJは主張
している。
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むすび:
ネットエコンから複雑系へ
「ネットワーク市場の特徴が意味するところは、互換性の
ない製品間の競争が単なる僅かに品質の良い製品とか、
僅かに安い費用とか、僅かに高い利潤とかいった問題で
はないということである。むしろ、知覚や現実上の小さな
差異が、幾つかの企業が極端に大きな利潤を獲得したり、
優越的地位が変化しなくなるような過程において、拡大さ
れ得ることだ。」(cf. Besen and Farrell 1994 p.119)
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