変動する資源における漁獲割当とその取引制度の検討

Download Report

Transcript 変動する資源における漁獲割当とその取引制度の検討

資源管理手法としてのIQ/ITQ
松田裕之(横浜国大・環境情報)
WWFジャパン 自然保護委員
日本水産学会 水産政策委員
日本生態学会 生態系管理専門委員
Pew Marine Conservation Fellow 2007
1
IQ/ITQへの期待
漁獲量枠の個別割当方式(IQ)
譲渡性個別割当て方式(ITQ)
• 漁業経営に安定性をもたらす効果
– 資源を価値の高い状態で有効に利用
• 資源管理に有効に作用する・・・
• (沿岸)漁業権制度と矛盾しない・・・
2
規制改革*を巡る主な漁業の論点
•
•
•
•
•
•
•
•
海から魚がいなくなるか?
日本の漁業管理は失敗の歴史か?
TACは科学的に決められるか?
漁業権制度は見直すべきか?
日本の零細漁業を「守る」べきか?
NZ漁業管理はうまく行っているか?
監視費用は莫大なのか?
日本の自主的IQ/ITQは育てるべきか?
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_06.pdf
*2008.7 内閣府規制改革会議中間とりまとめ
3
海から魚がいなくなるか?
• もともと少なく減る北大西洋、
• 増える中西部太平洋
北西大西洋
底魚
貝類
中西部太平洋
浮魚
軟体動物
蝦蟹
その他
4
(FAO, SOFIA2006)
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/
勝川俊雄さん09.3.27
「魚のいない海」(NTT出版)
監訳者まえがき
• ・・・しかし、多くの海産魚、特に大型の高
級魚が激減しているのは、専門家の間で
は周知の事実である。一部の科学者や資
源保護団体が、話題作りのために大騒ぎ
をしているわけではない。日本を含む世界
中の海で、水産資源は着実に減少してい
るのだ。
5
海洋生態系への懸念
(Myers & Worm 2003 Nature)
• マグロ類などの100針あた
り漁獲量(CPUE)は過去半
世紀で90%激減している
• CPUEは資源量に比例する
• これは大型捕食者の資源
量の激減を意味する
6
第5回世界水産学会議 Meryl Williams(CoML運営委員)の招待講演
“Marine ecosystem services and fishing: agreements and disagreements between
fisheries scientists and ecologists” 2008年10月21日パシフィコ横浜
Counter-view 5: FAO
Maguire, Sissenwine, Csirke,
Grainger, Garcia 2006
Tuna commissions’ reports
FAOマグロ委員会報告:
• Overexploited & depleted
• 乱獲と資源の減少率
– 30% of tuna & like spp stocks
•
••
••
––
––
>50%
highly migratory sharks
マグロ等は3割
rds straddling, highs seas stocks
2/3
高回遊性サメ類は5割以上
Worse
state than EEZ stocks
– 公海・国際資源は2/3
But
90% decline not supported
EEZ沖合資源より悪い減少
“professional
scientific advocates’
しかし、9割減ではない
• 専門科学者の主張
7
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2006/Clover04.html
不都合な真実 Inconvenient truth
都合のよい仮説 Convenient story
• Myers教授は「悪いニュースは、いつの世にも歓
迎されない」とあるが(P114)、今はそうではな
い。・・・その転機は、グランドバンクス漁場での
大惨事のあと、研究資金を政府でなく、自然保護
団体から得る科学者が増えたことにある(P115)。
日本政府(捕鯨班)
Newsweek 2003.7.14号
「海は死につつあるか?」
世界からSUSHIが消える日
8
第5回世界水産学会議 Meryl Williams(CoML運営委員)の招待講演
2008年10月21日パシフィコ横浜
Lessons Learned
1.
2.
3.
4.
5.
More accurate, but less media-worthy information
How the journals operate
BorisWorm
Fisheries scientists should publish more widely
Discipline boundaries are permeable 2006.6 Reykjavik 松田撮影
Fisheries resource status information
should be more accessible
• E.g., www.nmfs.noaa.gov/fishwatch/
Conclusion
RansomMyers Meryl Williams
マグロ激減説は
1. Studies do not support the 2 key conclusions 支持されない
2. But failed to return clear alternative conclusions
3. Myers, Worm and colleagues produced clear and
compelling narratives
9
90
82
80
70
67
60
50
47
49
44
41
40
37
32
30
28
26
28
34
29
25
22
18
20
18
10
10
6
10
6
7
4
0
森
林
伐
採
人
工
林
へ
の
転
換
湖
沼
沿
岸
・ の
河 開
川 発
・
湿
原
の
開
発
草
地
の
開
発
都
市
開
発
ゴ
ル
フ
場
・
ス
キ
ー
場
の
造
成
観
光
開
発
道
路
建
設
ダ
ム
建
設
園
芸
狩
猟
森
林
・ ・ の
観 漁 管
賞 獲 理
放
・
薬
棄
用
の
捕
獲
採
取
草
地
の
管
理
放
棄
耕
作
放
棄
狩
猟
圧
の
低
下
動
物
に
よ
る
食
害
外
来
生
物
の
影
響
農
薬
水
質
・ 汚
化 濁
学
物
質
に
よ
る
汚
染
窒
素
の
蓄
積
地
球
温
暖
化
そ
の
他
要
因
(
環・
境負
省荷
指
・
自標
然に
研関
、す
一
五る
〇有
人識
分者
、ア
5ン
択ケ
)ー
10
ト
Reduction of natural coasts
estuary
artificial
Draft by 堀正和氏、JWRC/MoE
Natural
Seminatural
11
Catch of clam decreased
ハマグリは日本の砂浜に生息する重要な漁業資源である。ハマグリ類の漁獲量は1963年にピー
クを迎えた後に急激に減少し、近年ではピーク時の3%にまで減少した。特にハマグリ類に含まれ
る種のうち、ハマグリは各地で絶滅が危ぶまれている。
ハマグリ類の漁獲量
35,000
30,000
ハ
マ
グ
リ
の
漁
獲
量
(
ト
ン
)
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
<出典>農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報
※ハマグリ類にはハマグリ、チョウセンハマグリ、シナハマグリが含まれる
12
注:本資料は、議論のたたき台とするため、現時点の作業結果をもとに内容や表現の妥当性にこだわらず作成したもので、今後の検討により大幅な
変更がありうる。
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/
日本の漁業管理は失敗の歴史か?
• 規制改革会議
(スケトウダラ、キチジ、アマダイ、タチウオ、
マサバ、マダラの6種の1971年からの漁獲量を示し) 「我が国の水産
資源の状況は危機的状況といっても過言ではない」
• 桜本和美さん「操業水域が違う(スケトウダラ4系
群は1/13でなく 1/3への減少)」「決して好ましい状況
ではないが、見方を変えれば、半数以上の系群が中
位(32系群)または高位(15系群)」(下位は43系群)
• 勝川俊雄さん「終戦直後の自然に近い水準と比
較すれば、ほとんどの資源が低位」「(低位
>>高位)日本近海資源が全体としての減
13
少傾向にあることは明らかだ。 」
日本の漁獲物の平均栄養段階の推移
14
(井嶋・松田・勝川、未発表)
漁業崩落Fishing down説
(MA2005)
漁
獲
物
平
均
栄
養
段
階
海洋全体
沿岸のみ
• 世界の漁獲物の平均栄養段階は
最近下がっている。これは上位捕
食者の枯渇を示唆する
• Pauly et al 2002 Nature 418, 689–695
北大西洋
15
漁業の現状
農林水産統計より
1977年以後の漁獲量の幾何平均より高いものを豊漁、半分以下を不漁、中
間を並漁とし、各年ごとの種数を集計。下位の魚種が増え続けている。サケ
類、カタクチイワシ、ブリ、ホッケ、サワラ、ハタハタ、スズキ類、イセエビ、ホタ
テ貝、ウバ貝などが最近高位であり、その一部は資源管理成功と種苗生産の
結果である。最近減少している魚種にマイワシ、スケトウダラ、メヌケ類、キチジ、ハ
モ、クルマエビ、タラバガニ、ハマグリ類、アサリ類、コンブ類、テングサ類などがある。
本来はEEZ海域内だけの漁獲量で長期的に解析すべきである。
不漁
並漁
豊漁
生物多様性総合評価指標案
16
漁業権制度は見直すべきか?
17
http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/68722f52048ec3a33bf6621ff0926f47
[朝日社説] 魚と生態系―
海を空っぽにするな (2008年9月14日抜粋)
• 各国は海洋法条約にもとづき、200カイリ水域で魚種ごとに漁獲枠を設
定。ところが、(日本では)大半の魚種で許容量を超える漁獲枠が慢性的
に設定。政府が乱獲を容認する。
• 漁船ごとに漁獲枠を:今の制度は総量だけを規制。早い者勝ちなので小
さな魚までとってしまう。 主要漁業国では日本だけ。ノルウェー政府は
漁船ごとにあらかじめ漁獲枠を割り振る制度を導入。さらに漁獲枠を売
買できる制度に注目。
• 漁業者が自ら禁漁区を設けたり、減船したりする自
主管理型漁業。北海道・知床では、ユネスコの審査
にあたって、「生態系を守るための持続可能な漁業」
と評価された。
• 新たな日本型モデルを:内外の好例を生かす知恵
をしぼり、日本が新たな近海漁業のモデルを築き、
同じように多様な魚種を抱えるアジア太平洋地域で
先導役を担うこともできる。
18
IUCN知床調査報告書
知床の取り組みを賞賛したIUCN
Modified dam on Iwaubetsu River
(28)調査団は、知床世界遺産の保護について、特に2005年の世界遺産委
員会とIUCN(国際自然保護連合)技術評価書からの勧告に対し、日本は良
好な進捗を遂げている旨確認した。調査団は、特に(知床遺産の)全ての
レベルの関係者が遺産の顕著で普遍的な価値を確実
に維持し、次の世代へとそのままの形で引き継ごうと
する強い責任感に感銘を受けた。これは、北海道知事、斜里町
長、羅臼町長が2005年10月に署名した「世界の宝、しれとこ宣言」によくあら
われている(別添C参照)。また、調査団は、地域コミュニティや関
係者の参画を通したボトムアップアプローチによる管
理、科学委員会や個々の(具体的目的に沿った)ワーキンググループ
の設置を通して、科学的知識を遺産管理に効果的に
応用していることを賞賛する。これらは、他の世界自
然遺産地域の管理のための素晴らしいモデルを提示
19
している。http://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/080605.html
Catch of fisheries resources
in Shiretoko WNH
Catch of sardine, anchovy, red king crab,No Fishing Down
Sebastes and herring substantially decreased by
>96%. Greenling decreased their catch by 70%
and the fish price by 64%
3.6
Mean trophiclevel
3.55
North Atlantic
3.5
3.45
3.4
Global coastal
3.35
3.3
3.25
3.2
1950
1960
1970
1980
1990
2000
Year
20
北海道、水産現勢より
NZ漁業管理はうまく行っているか?
21
日本の自主的IQ/ITQ
は育てるべきか?
22
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/
勝川俊雄さん09.2.27
監視費用はいくらかかるのか
• 水産庁資料「監視費用は300億円」
• 勝川氏試算「監視費用は5億円業界負担」
– 費用対効果の高いVMS(衛星による漁船監
視システム)の導入を
– (VMSは機材がUS$1000-US$5800で、ランニ
ングコストも1日US$1-US$5)
日本は自主管理推奨。それなら欧米より
さらに金はかからないはずだ
23
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/
勝川俊雄さん09.2.27
虚偽報告や投棄
NZでは、
• 漁獲物の海上投棄は違法、厳しい罰則
– 25万円($5000)-1250万円の罰金、
+魚、漁船、漁獲枠の没収、刑務所行き
• 漁獲枠保持者にも罰則
• 投棄船は漁獲組成が違うはず
– 被疑船に監視員が乗船
日本では、
• 投棄自体を禁止していない・・・
国として管理責任を放棄している
24
日本の零細漁業を「守る」べきか?
• アジアには多くの零細漁業者がいる
• 欧米では、IQ/ITQ制度は割当量の遵守を
監視するなどの管理費用が高い
• 大型漁船では監視員を配置できるが、小
規模漁業に適用するのは困難
• したがって、漁獲量が多い沖合漁業に適
用することが期待される。
25
26
新たな論点
• 既に導入された自主的IQを育てるか
否か
– みなみまぐろ、べにずわい、まさば
• 漁業種間の配分をどうするか
(TAC制度自身の問題)
• TAC対象魚種を増やすべきか
27
Catch in numbers (billion)
漁獲尾数(10億尾)
日本のマサバ資源管理は
うまく行っている?
4
0
1
2
3
4
5
6+
3
2
d
1
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
28
http://www.ices.dk/marineworld/fishmap/ices/pdf/mackerel.pdf
未成魚乱獲の日本のマサバと成魚中心
の大西洋マサバの漁獲物年齢組成
大西洋マサバ漁業
=個別漁獲割当IQ
日本=「オリンピック方式」
ドーナツの内側から
北大西洋2000-2004
日本1970
日本1995
2007.2 日本経済調査協議会「魚食をまもる水産業の戦略的な抜本改革を急げ」
2008.7 内閣府規制改革会議中間とりまとめ
29
松田加筆
わが国の漁業のあり方
漁業増産
環
境
重
視
生態的モザイク
グローバル競争
沿岸漁業の多面的機能
沖合は自主的ITQ
漁業利潤最大化
漁業権制度見直し
アジア型漁業
統合的海洋政策
食糧安保・雇用重視
養殖振興
海面の多面的利用
漁業権制度見直し
輸入促進
収
益
重
視
30
マイワシの加入無しは1988-91年
それ以後は自然減少といえない
31
http://abchan.job.affrc.go.jp/digests15/details/1503.pdf
マイワシのABC,TAC,漁獲量
•
•
資
源
は
減
り
続
け
て
い
る
B 90
C年
を代
超低
過水
し準
た
漁期
獲で
は
A32
ABC、TAC、採捕実績の関係
33
H20.6水産庁資料有識者懇談会「TAC制度の現状と課題」
ABC:生物学的許容漁獲量
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/
TAC:漁獲可能量
TACは科学的に決められるか?
• 規制改革会議「科学的根拠に社会経済的
要因を加味することは、科学的根拠をない
がしろにし、それ故、水産資源の悪化と乱
獲(過剰漁獲)の悪循環を助長している」
• 桜本さん「社会的・経済的要因を加味し
TACを決定すべきことはTAC法にも明記」
• 勝川さん「科学的根拠を遵守するというの
は、TACをABC以下に抑えると言うことで
あり、サンマ・・・のTACは問題はない。」 34
35
実際の運用:留保分を活用する??
• 知事許可=漁獲が好調な場合には、留保
枠から追加配分を行っている
• 資源量が急増した場合、沖合漁業の配分
比率が固定化されていると、経営の安定
や市況の急落防止に一定の効果がある
– 資源が減少期にはより配分量の多いセクター
からより多く削減することが必要ではない
か?・・・
36
TAC設定のあり方
37
H20.6水産庁資料有識者懇談会「TAC制度の現状と課題」
ABCとTACを一致させるには
• TACがABCを超えて設定される理由
– 来遊量の地域差
– 漁獲枠を早く消化する地域と消化できない地
域があるので、結果としてABC以下になる
– 卓越年級群発生時に獲り尽し、資源回復の芽
を摘んでいる
• 枠の取引が可能な制度にして、ABCを
TACに合致させればよい
– 大臣許可と知事許可の間の配分をどうするか38
松田の意見1
• 知事許可のうち、定置網などに優先的に
配分する(過去の実績からの比例配分で
はない)
• 知事許可にも漁業により効率(魚価、管
理)の良し悪しがある
• 魚価、燃油などを含めた効率評価を行い、
「環境に優しい漁業」を重視する
• 高水準期にはまき網漁業が配分枠を買う
39
漁獲枠配分は実績で
なく、全体を考えて
40
松田の意見2
• 各漁業の得る利益は漁獲枠の配分
方法に依存
• 譲渡額を適当に選べば、純利益の総
和は最適配分に一致
• 異なる漁業間での漁獲枠配分比を固定す
る制度は純利益を最大にする上で効率的
な制度とは言えない
– 漁獲枠の取引を認めればよい
41
42
京都ズワイガニ漁業
43
日本とNZの漁業者数
44