Transcript 講演 OHP
設計理論・設計手法・設計道具
- 基礎境界ソサエティ分野への期待 -
創価大学
渡部 和
温故知新
歴史を振り返って未来を展望する
設計理論・設計手法・設計道具
- 基礎境界ソサエティ分野への期待 -
渡部 和 (創価大学)
工学の究極の目標は設計法の確立にある. 設計法は設計理論・設計手
法・設計道具の3つの要素が互いに緊密に結びついて実現するもので
ある. 今日では複雑なシステムを短期間に次々と開発し世に提供しな
ければならない状況にあり, その設計はとかく場当たり的 (ad hoc) に
行われれがちである. そうならないためには信頼できる設計理論とそ
れに基いた明確な設計手法が確立されなければならない. しかしそれ
にもまして理論と手法が実を結ぶための設計道具 (ツール) の構築が
不可欠である. これらの関係を回路とシステム技術者としての約 50
年の体験から検証し, 基礎境界分野への期待を述べたい.
九ツ子の魂七十まで
-情報通信技術の発展と共に-
渡 部 和
◎1930年に島根県で生まれる.
◎少年時代 科学技術への憧れ
鉱石ラジオ→同調回路の不思議→2階微分方程式の面白さ→数学への興味
[電 気 回 路]
[回 路 網 理 論]
◎1953年 NECに入社.(意に反して)濾波器設計業務を命ぜられる.
設計の困難さ(理論未成熟,計算困難)の壁に衝突
その克服のため回路網理論の研究とともに電子式自動計算機の開発に没頭
(三つの顔)
濾波器設計
[設 計]
回路網理論研究
計算機開発
[理 論]
[道 具]
◎1960年代 ICのCAD開拓
回路動作シミュレータ[設計道具]の重要性を痛感し開発に努力.
◎1970年代以降 小型コンピュータ事業,
◎1990年代以降 情報ネットワークの基礎研究(創価大学)
設計を支える理論・手法・道具
設 計
社会
設計理論を基礎とし
設計道具を駆使して
具体的な設計を実行
する手順と方法
産業
設
計
手
法
企業
設
計
道
具
与えられた入力に対
し既定の操作を実行
し出力を産出する機
能を有する存在
(物)
基礎境界
ソサエティ
(回路と設 計 理 論 システム)
対象とする設計課題を一般化して抽象
モデルを抽出創造し、その論理構造,
基本性質,動作原理を体系化した理論
理論・手法・道具が設計を支えた1950年代(実例)
設
計
[電気濾波器の設計]
社会
与えられた伝達特性を有
するLC4端子網の構造
と素子値を決定する手法
[動作パラメータ設計
法]
産業
設
計
手
法
企業
設
計
道
具
与えられた数値入力に既
定の計算操作を実行し数
値出力を算出する機能
[電子式自動計算機]
基礎境界
ソサエティ
設 計 理 論
(回路と
システム)
電気回路の抽象モデル(グラフ,回路)の論
理構造,基本性質,動作原理の体系化理論
[回路網理論]
1950年代の濾波器設計の場合
設計理論:
回路網理論:正実関数論,S行列論,回路実現論
伝達関数近似理論: 任意複素減衰極をもつ準Tchebycheff特性論
回路合成理論: (低域/帯域通過型)正素子リアクタンス2ポート回路合成論
設計手法:
動作パラメータ濾波器設計法,各種伝送回路設計法
設計理論に基づいて正確に設計するには(絶望的に)膨大な数値計算が必要
(10進十数桁精度の繰り返し計算,高次代数方程式の求根)
設計道具:
浮動少数点高精度計算用電子式自動計算機
内部共通バス幅: 48ビット
レジスタ幅: 40 + 8 ビット
演算レジスタ:仮数部 40ビット×2組,指数部 8ビット×2組
(仮数部80ビットの浮動小数点演算機能)
濾波器設計道具 (NAC 1103)
仮数部80ビットの浮動小数点演算機能つき高精度電子式自動計算機
データ転送
B-BOX
制御系統
IST-CNT
MEM
IN
INST-R
IST ADR
IST
DEC
ADR
BUS
EX1
8
EX2
8
R1U
EALU
40
8
R2U
40
Inst
4
Adr
16
40
40
40
ALU2
40
4
R2L
40
ALU1
CNTL
TRP
(40 + 8)
R1L
40
40
OUT
40
Exponent
8
Mantissa
40
理論・手法・道具が設計を支えた1960年代(実例)
設 計
トランジスタ論理回路
社会
与えられた動作特性を
有するトランジスタ回
路の構造と素子値を決
定する手順と方法
産業
設
計
手
法
企業
設
計
道
具
与えられた波形入力に
対し波形出力を算出す
る応用プログラム
NECTOR,SPICE等
基礎境界
ソサエティ
(回路と設 計 理 論 システム)
回路網理論
トランジスタの回路モデル,非線型回路,
微分方程式の数値積分の体系的解析理論
[トランジスタ回路解析理論]
理論・手法・道具が設計を支えた1970年代(実例)
設 計
LSI回路設計
社会
与えられた論理動作を
行うLSI論理回路の構造
配置,配線を決定する
手順と方法
産業
設
計
手
法
企業
設
計
道
具
論理回路の動作を解析
する論理シミュレータ.
グラフ理論による
LAYOUTパッケージ群.
基礎境界
ソサエティ
(回路と設 計 理 論 システム)
グラフ理論,組み合せ数学、
論理回路動作解析理論,
[LSI 回路設計理論]
理論・手法・道具が設計を支えた1980年代(実例)
設 計
論理回路設計
社会
与えられた論理動作を実
現する論理回路の構造を
決定する手順と方法
産業
設
計
手
法
企業
設
計
道
具
論理回路の解析/ 合成の
ための機能パッケージ
ESPRESSO, SIS,
Design Compiler
基礎境界
ソサエティ
(回路と設 計 理 論 システム)
組み合せ数学,オートマトン理論,
論理合成理論,
[論理回路設計理論]
理論・手法・道具が設計を支えた1990年代
設 計
電子システム設計
社会
与えられた仕様(自然言
語)を満たす異種融合シ
ステムの構成と各構成要
素の実装を決定する手順
と方法
産業
設
計
手
法
企業
設
計
道
具
各応用分野別の電子シス
テム動作シミュレータ群,
高位合成ツールなど
基礎境界
ソサエティ
(回路と設 計 理 論 システム)
計算モデル理論,コンパイラ理論,
高位合成理論,分野別電子システム設計理論
[電子システム設計理論]
理論・手法・道具が支える21世紀のシステム設計
デバイス
通
信
設設設
計計計
情報社会を支える
中核システムの設計
社会
設計理論を基礎とし設
計道具を駆使した革新
的設計手法
[統合システム設計法]
産業
設
計
手
法
情 報
企業
設
計
道
具
高度な知的入力に対
し適切な操作を実行
し知的出力を産み出
す知的設計道具
[統合システムシミュレータ]
基礎境界
ソサエティ
(回路と設 計 理 論 システム)
革新的システム課題について一般化抽象化モ
デルを抽出創造し、その論理構造,基本性質,
動作原理を体系化した[統合システム理論]
基礎・境界ソサエティの役割と使命(1)
社会・産業・企業
通
デバイス
信
情 報
システム設計課題
設
計
手
法
設
計
道
具
設 計 理 論
基礎境界ソサエティ
(回路とシステム)
基礎・境界ソサエティの役割と使命(2)
設計理論: 具体 →抽象
◎対象とする設計課題を一般化して抽象モデルを創造
◎抽象モデルの論理構造,動作原理を体系化
設計道具: メタ設計,メタ製品
◎一定の入力に対し特定の出力を産出する機構
◎論理動作/アルゴリズムのパッケージ
(各種シミュレータ)
設計手法: 抽象 →具体
◎設計理論を具体的設計対象に適用
◎具体的な設計仕様を満足するシステムの実現
設計・実装・製造
システム理論の進化(個別から統合)
個 別 理 論
統 合 理 論
実数
n次元ベクトル空間
Lorentz
収縮理論
関数
無限次元ベクトル空間
Einstein,
汎関数
関数(ヒルベルト)空間
Minkowski
共変性原理
Einstein
時空4次元ユークリッド空間
時空4次元リーマン空間
Plank
Bohr
Shroedinger
Heisenberg
量子論
原子理論
波動力学
行列力学
Stainmetz
Campbell, Wagner
交流理論
電気濾波器
Foster
リアクタンス定理
Cauer, Brune,
Belevitch, Oono
4端子網,正実関数, 回路合成,
Black
Nyquist
負帰還増幅
安定判別論
Nyquist,
Hartley
波形伝達論
情報の量
回路理論
グラフ理論
信号理論
制御理論
論理回路理論
オートマトン理論
情報理論
---
Darlington
Bode
n端子網
Liapunov
負帰還増幅器理論 制御理論
Wiener
サイバネティクス
Shannon
通信の数学理論
統合システム理論
異種融合システム,情報ネットワークシス
テム,アナログ・デジタル混在システム,
電子・機械融合システム,
人間・機械協調システム
The science without the art is likely to be
ineffective; the art without the science is
certain to be inaccurate.
in 1974 Turing Award Lecture, Donald Knuth
Science: #ラテン語 scientia [knowledge] が語源
“Organization of knowledge in such way that it commands more of the
hidden potential in nature” (from “Science and Human Value” by Jacob
Bronowski)
1a [U] (体系化された知識としての)科学; (特に)自然科学; 理科
b [U] [具体的には[C]] (細分された個々の)科学, …学:basic [applied,
practical] ~ 基礎[応用, 実用]科学/medical ~ 医学.
2 [U] (競技・料理などの訓練による)わざ, 術:the ~ of cooking 料理術
Art:#ラテン語 Arsおよび Artis [skill, technique] が語源
1 [U]
a 芸術:a work of ~ 芸術品/~ and letters 文芸
b [集合的に] 芸術作品.
2.a [U] [しばしば複数形で] 美術:⇒fine art
2.b [U] [集合的に] 美術作品:a museum of modern ~ 近代美術館.
3a [U] (何かをする)技巧, 術, わざ; 熟練, 腕:
b [C] (専門の)技術, (特殊な)技芸:the healing ~ 医術/the industrial
[practical] ~s 工芸/the ~ of building [war] 建築[戦]術.
基礎・境界ソサエティの役割と使命(3)
設計理論の研究
基礎システム研究(横) か個別システム研究(縦)か
横断的システム基礎研究の重要性
専門分野別固有研究のみにとらわれていないか
個別システム毎の共通概念と異質概念の交錯→新しいシステム概念
情報社会が解決を望む中核技術課題の基礎理論を目指す
研究の容易さ:× 課題の重要さ:◎
研究の成果:△ 問題設定と解の本質:〇
具体的設計課題を抽象的基礎理論から挑戦
創造こそ最大の価値
研究評価ポイント
創造性: ◎ 有用性: △
小さな創造も積み重なって大きな革新を産む
論文査読の視点(基礎・境界分野における特殊性)
基礎・境界ソサエティの役割と使命(4)
設計道具の開発
有用な設計道具の実現は技術的成果
優秀な設計道具の開発の奨励,学術的成果として顕彰
学界/業界の境界を超越した設計道具開発協力体制
重要設計道具開発の課題提案,開発協力体制,性能評価,ベンチマーク設定
基礎・境界ソサエティの使命
技術分野,産学の組織を越えた切磋琢磨の場を実現
B, C, D 分野にとらわれない共通な中核基礎技術に関する抽象理論
企業,大学,国籍を超えた学問的交流/切磋琢磨が図れる空間を形成
世代間の経験共有相互啓発の場を構築
大学院生(20代)・若手研究者(30~40代)・熟年研究者(50代~ )
の3世代が自由平等に相互啓発出来る場を提供
(設計・生産方法)
基礎境界ソサエティ
(回路とシステム)
の役割と使命
(科 学 技 術)