知的財産権講義 主として特許法の理解のために

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Transcript 知的財産権講義 主として特許法の理解のために

知的財産権講義(2)
主として特許法の理解のために
平成15年12月22日
高エネルギー加速器研究機構
素粒子原子核研究所
池田 博一
第1回目の設問の解説
設問【1】
特許に関し国際的な条約が締結されたのは、国際間の貿易摩擦が
顕在化してきてからのことである。
工業所所有権の保護に関するパリ条約は1883年に締
結されました。
一方、設問における貿易摩擦は、WTOが解決しようとし
ている課題と理解することができます。
WTO及びTRIPS協定については、
http://organization.at.infoseek.co.jp/wto/wto-jpn.htm
http://organization.at.infoseek.co.jp/wto/trip/tripj0.htm
において、全文を参照することができます。
国際貿易機関を設立する条約
この協定の締約国は、貿易及び経済の分野における締約国間の関係が、生活水準を
高め、完全雇用並びに高水準の実質所得及び有効需要並びにこれらの着実な増加を
確保し並びに物品及びサービスの生産及び貿易を拡大する方向に向けられるべきで
あることを認め、他方において、経済開発の水準が異なるそれぞれの締約国のニーズ
及び関心に沿って環境を保護し及び保全し並びにそのための手段を拡充することに努
めつつ、持続可能な開発の目的に従って世界の資源を最も適当な形で利用することを
考慮し、さらに、成長する国際貿易において開発途上国特に後発開発途上国がその
経済開発のニーズに応じた貿易量を確保することを保証するため、積極的に努力する
必要があることを認め、関税その他の貿易障害を実質的に軽減し及び国際貿易関係
における差別待遇を廃止するための相互的かつ互恵的な取極を締結することにより、
前記の目的の達成に寄与することを希望し、よって、関税及び貿易に関する一般協定、
過去の貿易自由化の努力の結果及びウルグァイ・ラウンドの多角的貿易交渉のすべ
ての結果に立脚する統合された一層永続性のある多角的貿易体制を発展させること
を決意し、この多角的貿易体制の基礎を成す基本原則を維持し及び同体制の基本目
的を達成することを決意して、次のとおり協定する。
設問【2】
著作権については、明治時代から国際的な保護条約が存在した。
文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約
は、1886年に締結されています。
設問【3】
科学的発見が、「知的所有権」の対象として明文で掲げ
られたことはない。
知的所有権機関(WIPO)を設立する条約第2条(iii)にお
ける「知的所有権」の定義には、科学的発見が掲げられ
ています。
設問【4】
工業所有権の語を、農業又は採取産業の分野において用いることは
何ら不適切ではない。
パリ条約2条(3)には、「工業所有権の語は、最も広義に
解釈するものとし、本来の工業及び商業のみならず、農
業及び採取産業の分野並びに製造した又は天然のすべ
ての産品(例えば、ぶどう酒、穀物、たばこの葉、果実、
家畜、好物、鉱水、ビール、花、穀粉)についても用いら
れる。」とあります。
設問【5】
特許法は、産業の発達に寄与することを主目的とし、併せて
科学技術の進歩に貢献することを目的としている。
特許法の目的(1条)には、科学技術の進歩が直接的に
目的とされているわけではありません。
もっとも、技術の累積的進歩は手段として促進・奨励さ
れているものと解することができます。
設問【6】
特許法における「発明の保護」とは、独占権の付与にはとどまらない。
独占権による保護以外にも、
1)特許を受ける権利による保護
2)手続的保護(拒絶理由の限定列挙、意見書、補正書、
出願の単一性、分割・変更、国内優先、審判制度、訴
訟)を掲げることができます。
設問【7】
特許法における「発明の利用」とは、専ら他人の特許につき
その許諾を受けて実施することをいう。
1)発明の開示による利用:出願公開等
2)発明の実施による利用
①特許権者の実施
②実施権者の実施
③自由実施
等を掲げることができます。
設問【8】
永久機関の発明、及び明らかに実施不能な発明に特許を付与する
ことは、なんら第三者に不利益を及ぼすものではない場合であって
も、これに独占権を付与することはできない。
形式的には、特許法がそのように定めていないからです
が、立法論的には、特許の信頼性を害するからと考える
ことができます。
設問【9】
プログラムに関する発明は、著作権法の保護対象ではあっても、
未だに特許法上の保護対象とはなっていない。
特許法第2条第3項に物の発明として「プログラム」が掲
げられています。一方、著作権法10条第1項9号には、
プログラムの著作物が掲げられています。
したがって、「プログラム」は、自然法則を利用した技術
的思想の創作として、また、思想感情を創作的に表現し
たものとして保護されることになります。
設問【10】
実用新案法の保護対象には、材料、組成物等、その形態が一定の
作用効果と連関しないものは含まれない。
実用新案法の保護対象である考案は、自然法則を利用
した技術的思想の創作のうち、物品の形状、構造又は組
合せに係るものされています(実1条、2条1項)。
第2回目講義の設問
設問【1】
法人は、社会的活動の主体であるから、法人も発明者とな
ることがあり得る。
自然人?
法人?
設問【2】
法人でない社団又は、財団は、代表者又は管理人の定め
があったとしても出願人とはなりえない。
法人でない社団、財団?
今の職員組合みたいなもの?
自治会?
個人商店?
設問【3】
未成年は、法定代理人(親権者)によらなくても特許出願を
することができる場合がある。
未成年でも発明をすることはある。
親から独立しているということか?
設問【4】
特許権は譲渡の対象であるが、特許を受ける権利は一身
専属であって、特に法律の規定がある場合でなければ譲
渡することができない。
特許を受ける権利といっても不安定なものだが。
この機構では、職務発明につきどのように処理
しているだろうか?
設問【5】
発明を先に完成させたとしても、同一の発明を独立に完成
させた他人が先に出願した場合には特許を受けることがで
きる場合はない。
先願主義(39条)が原則
設問【6】
意匠登録出願された物品に表された外観と、同一の外観
を有する装置に関する発明は、特許を受けることができる
場合はない。
意匠は、先行技術となるのか?
保護対象は?
設問【7】
発明者でない者を共同発明者として特許出願しても拒絶
査定を受けることはない。
拒絶理由は限定列挙のはず。
設問【8】
発明者であるにもかかわらず、発明者として表示されない
まま特許出願されたとき、発明者として願書に記載すべき
旨を出願人に請求することができる。
発明者の名誉?
設問【9】
特許を受ける権利は、未だ権利以前の権利であって、相続
の対象とはならない。
譲渡できるのであれば相続も?
設問【10】
職務発明に対する相当の対価は、裁判所の判断に服する
との判例がある。
相当の対価の規定が、職務発明規定に書いてある場合
には、それが事例に応じて妥当でない場合でも有効か?
第2回目の講義の内容(1)
主題:特許を受ける権利
第2回目の講義の内容(2)
主題:特許を受ける権利
第2回目の講義の内容(3)
主題:特許を受ける権利
権利能力(1)
権利能力(2)
権利能力(3)
権利能力(4)
非居住者
在外者には特許法8条
の適用があります。
居住者
無国籍人 外国人
平等主義
相互主義
外国法人 条約の定め
営業所有
営業所無
日本人
日本法人
国際出願法における
外国人による出願
日本国で出願できなければ別の国において出願すればよいだけのこと。
パリ条約における取扱い
内国民待遇、最恵国待遇
特許を受ける権利(1)
特許を受ける権利(2)
特許を受ける権利(3)
特許を受ける権利(4)
出願が第三者対抗要件:二重譲渡の場合は先に出願した者
がその権利を主張することができる。
特許を受ける権利の共有(1)
民法249条
以下の適用
1)共同発明の場合
2)着想者と着想を具体化した者による共有
3)一部移転・譲渡
4)共同相続
特許を受ける権利の共有(2)
特許を受ける権利の共有(3)
当業者:その発明の分野における通常の知識を有する者。
通常の知識:当該技術分野の技術常識を知識として有し、研究開
発のための通常の技術手段を用いることができ、材料の選択や設
計変更などの通常の創作能力を発揮することができる者。
特許を受ける権利の共有(4)
共有
特許を受ける権利の共有(5)
質権の目的とすることができない理由(学
説)
• 特許を受ける権利は確定的なものではなく、このような権
利を質権の目的とすることは、第三者に不測の損害を与
えるおそれがある。
• 特許を受ける権利は不確定なものであるから、発明者は
発明を安価で資本家に奪取されるおそれがある。
• 質権の実行に際し、競売により権利が公開され、権利自
体が毀損される。
それにしも、その立法趣旨は必ずしも明確ではなく、合理性が
ないという批判があります。
特許を受ける権利の共有(6)
職務発明(1)
職務発明(2)
職務発明(3)
職務発明(4)
職務発明(5)
職務発明(6)
職務発明(7)
職務発明(8)
判例研究(1)
書誌的事項
管轄裁判所:東京地裁
事件:特許権持分確認等請求事件(民事訴訟)
原告:中村修二
被告:日亜科学工業株式会社
判決の種類:中間判決
中間判決とは、訴訟の進行過程において、当事者間で争点となった訴訟法上・
実体法上の事項につき、審理の途中で判断を示して終局判決を容易にするた
めに準備するための判決をいいます。中間判決は、その審理限りにおいて拘束
力を持つに留まります。
判例研究(2)
事案の概要
(1) 被告は,蛍光体や電子工業製品の部品・素材の製造販売及び
研究開発等を目的とする株式会社である。
原告は,被告会社の元従業員であり,現在,カリフォルニア大学
サンタバーバラ校の教授である。原告は,昭和54年3月,
被告会社に入社し,平成11年末に退社するまで,被告会社で
半導体発光素子等の研究・開発に従事した。
(2) 原告は,平成2年9月ころ,窒素化合物半導体結晶膜の成長方法
に関する発明である,本件発明を発明した。
判例研究(3)
複数の請求
主位的請求
予備的請求(その1)
予備的請求(その2)
・本件特許権の一部移転
・不当利得返還請求(含延滞損害金)
・発明の相当対価としての
本件特許権の一部転
・延滞損害金
・発明の相当の対価
・延滞遅延金
予備的請求:主位的請求が容認されない場合に
備えて、もし主位的請求が容認されれば不要と
なる二次的な請求をいいます。
判例研究(4)
職務発明であるか否か
原告の主張:
本件発明は,被告会社社長の青色
発光ダイオードの研究を中止して高
電子移動度トランジスタの研究をす
るようにとの業務命令に反して,原
告が行ったものであるから,職務発
明に該当しない。
被告の主張:
本件発明は,被告会社の業務範囲
に属し,原告が被告会社における職
務に属する行為として発明したもの
である。
判例研究(5)
職務発明規定に基づ権利帰属
原告の主張:
被告会社在職当時、被告会社も,
原告を含む従業員も,他の従業員
と同様に原告も,職務発明につい
ての特許を受ける権利が原始的に
会社ではなく従業員発明者に帰属
することを知らなかった。
被告の主張:
本件発明についての特許を受け
権利は,この昭和60年改正社
規第17号の適用を受けるもので
ある。
判例研究(6)
停止条件付譲渡契約の成否
原告の主張:
被告の主張する職務発明につ
いて特許を受ける権利の停止
条件付譲渡契約は,労働条件
の明示を義務付けた強行規定
である労働基準法15条に違反
するものであるから,無効であ
る。
被告の主張:
昭和60年改正社規第17号(乙7の
1)施行の前後を通じて,従業員と被
告会社との間に,従業員が発明を完
成した場合に発明の完成と同時に当
該発明についての特許を受ける権利
が被告会社に移転する旨の暗黙の
了解(法律的には停止条件付き譲渡
契約)が成立していた
停止条件:法律効果の発生を妨げている事情をいいます。「入学した
ら時計をやる」という契約では「入学してないこと」が停止条件です。
判例研究(7)
権利譲渡の成否
原告の主張:
本件においては,確定的契約
締結意思の存在が認められ
ないから,特許を受ける権利
の譲渡契約の成立は認めら
れない。
その他、民法93条但書(心裡
留保)、原告被告双方の共通
錯誤、動機の錯誤の主張等。
被告の主張:
本件においては,原告による個
の譲渡行為として,本件発明につ
いての特許を受ける権利を被告会
社へ譲渡する行為が存在する
民93条:意思表示は、表意者がその真意にあら
ざることを知りてこれをなしたるためにその効力を
妨げられることなし。ただし、相手方が表意者の真
意を知り又はこれを知り得べかりしときはその意
思表示は無効とす。
民95条:意思表示は、法律行為の要素に錯誤あり
たるときは無効とす。ただし、表意者に重大なる過
失ありたるときは、表意者自らその無効を主張する
ことを得ず。
判例研究(8)
裁判所の判断
1)原告は,原告の被告会社における勤務時間中に,被告会社の施設内に
おいて,被告会社の設備を用い,また,被告会社従業員である補助者の労
力等をも用いて,本件発明を発明したのであるから,本件発明は職務発明に
該当すると認めることができる。
2)昭和60年改正社規第17号は,特許法35条にいう「勤務規則その他の
定」に該当するものということができる。本件発明は,同社規の条項が適用さ
れた結果,本件発明についての特許を受ける権利は,被告会社に承継され
たものというべきである。
3)また、本件発明がされる前までには,従業員と被告会社との間で,職務発
明については特許を受ける権利が被告会社に承継される旨の黙示の合意
(停止条件付き譲渡契約)が成立していたと認めるのが相当である。
4)原告と被告会社との間の個別の譲渡契約に基づいても,本件発明につい
ての特許を受ける権利は,被告会社に承継されたものと認めることができる。
判例研究(9)
裁判所の結論
本件発明についての特許を受ける権利が被告会社に承継
されていないことを前提として,本件特許権の持分の移転登
録と1億円及び遅延損害金の支払を求める主位的請求(前
記第1の1)は,理由がないこととなるので,引き続いて,本
件発明についての特許を受ける権利が被告会社に承継さ
れ,本件特許権が有効に被告会社に帰属していることを前
提として,特許法35条3項,4項に基づいて相当対価を請
求する予備的請求(前記第1の2,3)についての審理を行う
べきものである。
第2回目の講義は以上です。
第3回目の講義は、年明け1月6日
10:00-12:00です。
良いお年をお迎え下さい。