研究活動と知的財産(2)

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本資料の利用について
本資料は、「平成24年度特許庁大学知財研究推進事業」において、特許庁の委託
を受けた国立大学法人大阪大学 知的財産センターが開発したものであり、著作者
人格権は国立大学法人大阪大学に、著作財産権は特許庁に帰属しています。
本資料は、著作権法上認められる利用のほか、非営利目的に限り、改変・引用・
複製・頒布を行うことができますが、これらの行為及びその内容に関する責任は利
用者自身が負うものとします。
本資料は、正確を期して開発したものですが、不正確な情報や、古くなった情報を
含んでいる可能性があります。
本資料を利用したことから生じるあらゆる損害・損失について、国立大学法人大阪
大学及び特許庁は、一切の責任を負いません。
営利目的での利用、翻訳の希望その他、不明な点がありましたら、以下へご連絡く
ださい。
特許庁 企画調査課 活用企画班 03-3581-1101 (内線)2165
第4時限 研究活動と知的財産(2)
◇発明は誰のものか
◇秘密情報の管理
◇共同・受託研究においての留意点
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第4時限 目次
4-1 発明は誰のものか
4-1-1 概要
4-1-2 特許を受けることができる者(職務発明))
4-1-3 (補論)職務著作
4-2 秘密情報管理
4-2-1 秘密情報管理
4-2-2 研究発表と秘密情報
4-3 共同・受託研究において留意すべきこと
4-3-1
4-3-2
4-3-3
4-3-4
共同・受託研究において留意すべきこと
秘密保持契約を結ぶ理由
秘密保持契約の中身
MTA(Material Transfer Agreement)
(研究材料提供協約)について
3
4-1-1
概要
着想
研究
発明
出願
権利発生
誰が考えたか
誰が開発したか
誰が完成させたか
誰を発明者として出願するか
(★誰が「発明者」となるか)
誰が権利者となるか
★着想~発明まで、複数の人間がかかわるとき、
いったい誰が「発明した」といえるかが問題となる。
※研究活動は企業や大学等の団体内で行われることが多
い。各団体は研究活動に巨額の投資をしており、投下資本
の回収のために、「職務発明」の制度が設けられ、また就
業規則等による事前の取り決めなどがなされる。
4
4-1-2
発明者とは
発明
特許を受ける権利を取得する発明者
→抽象的には「発明の成立に創作的な貢献をした」者、あるいは「技術的思想を当業者
が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成する創作活動に関与した者」
*ただし、実際は個別具体的な判断になりがち。
・具体的着想を示さず単に通常のテーマを与えた者、又は発明の過程にお
いて単に一般的な助言・指導を与えた者(単なる管理者)
・研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者又は実験を行った者(単な
る補助者)
・発明者に資金を提供したり、設備利用の便宜を与えることにより、発明の
完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)
→発明者には該当しない
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4-1-2
特許を受けることができる者
(発明は誰のものか)
発明の完成
=「特許を受ける権利」
の発生
「特許を受ける権利」は
発明者が持つ
研究・開発に業務として従事する、企業
や大学等の研究者の場合
Q. 職務発明(特許法35条)
にあたるか
※「特許を受ける権利」は
譲り渡すことができる。
・従業者等が権利を取得する。
・使用者等は特許を利用する権
利(通常実施権)を取得する。
NO
NO
YES
職務発明
原則
発明者が出願し、
権利者となる
Q. 特許を受ける権利の使用者等
への承継に関する定めがあるか
(例:職務発明規程、就業規則等)
※大学と雇用関係のない学生は
職務発明にはあたらない
YES
・使用者等が権利を取得で
きる。
・従業者等は、使用者等に
対し、相当の対価を請求で
きる。
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4-1-2
職務発明となるには
①従業員がした発明
②会社の業務範囲に属する発明
③従業員の職務に属する(または属した)発明
具体例
薬品会社C社で働くDさんがC社研究所で新たな薬品物質を発明
①発明したのはDさん
②薬品の開発は薬品会社Cの業務範囲
③Dさんは研究所勤務なので薬品開発はDさんの職務範囲
職務発明
7
4-1-2
職務発明規程・就業規則
大学・企業内
研究・開発
発明の完成
→特許を受ける権利の発生
使用者は一方的に権利の取
得を規定できる。
↕
従業者は対価の取得
職務発明規程
就業規則
その
帰属が問題となる
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4-1-3
補論:職務著作
著作者とは、著作物を創作したものをいう
原則、創作したものが著作者となる。
例外として、 職務著作 (企業内創作に顕著)の場合、企業等が著作者となる。
要件①
法人等の発意に基づく
要件②
法人等の業務に従事する者
要件③
職務上作成
要件④
法人等が自己の著作の名義の下に公表する
Ex
新聞社が記者に記事の執筆を指示した場合
①新聞社が指示したことから、新聞社の発意といえる。
②記者は新聞社に雇用されている
③記者の職務は記事執筆
④新聞記事は新聞社の名義で公表される
(プログラムの場合④は不要)
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4-1-3
補論:職務著作
職務発明
職務著作
対象
発明
著作物
要件
従業者が発明
使用者の業務範囲
従業者の職務範囲
法人等の発意
従事者が職務上作成
会社の名義で公表(プログラ
ムを除く)
発明者・著作者
従業員
会社
就業規則等の定
め
相当の対価
必要
不要
必要
不要
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第4時限 目次
4-1 発明は誰のものか
4-1-1 概要
4-1-2 特許を受けることができる者(職務発明))
4-1-3 (補論)職務著作
4-2 秘密情報管理
4-2-1 秘密情報管理
4-2-2 研究発表と秘密情報
4-3 共同・受託研究において留意すべきこと
4-3-1
4-3-2
4-3-3
4-3-4
共同・受託研究において留意すべきこと
秘密保持契約を結ぶ理由
秘密保持契約の中身
MTA(Material Transfer Agreement)
(研究材料提供協約)について
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4-2-1
秘密情報管理
①情報管理の重要性
新しい物理・化学法則
研究
開発
新しい情報を取得
実験データ
データ取得のノウハウ
新しい技術的なアイディア
新規の物質
秘密として管理
する必要あり
秘密とは・・・・
守秘義務のない他人に内容を理解できる程度に知られるおそれがないこと
知られるおそれがあると「新規性」喪失により特許されなくなる。
※通常、研究者には、その所属する企業や機関から守秘義務が課されている
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4-2-1
秘密情報管理
①情報管理の重要性
情報が秘密でなくなると・・・
守秘義務違反
経営上の秘密を他社に知られることで営業上企業が重大な損害
を被るおそれがある。故意または過失によって秘密を漏らした研
究者は契約違反であり、損害賠償責任を負う。
特許されない
その発明については、新規性がなくなり特許を取得することがで
きなくなる。その結果、得られるはずだった独占利益やライセンス
収入も得られない。契約違反とは別に考えること。
他の研究者に
発表される
研究の成果を漏らすと、それを他の研究者が見た場合、先に学
会に発表されるなど、研究成果を横取りされるおそれがある。
秘密情報を漏らすと重大な損失のおそれ
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4-2-1
秘密情報管理
②特許にする情報としない情報(秘密維持が必要な期間)
NO
発明
企業秘密
営業
秘密
NO
学会等での
発表可能
YES
YES
特許
出願
NO
秘密として
管理
企業秘密である限り
永久に秘密として
管理する
YES
出願まで
秘密状態を維持
具体例
出願するか否かの判断
特許出願 → 出願から20年間特許権によって独占可能
企業秘密 → 期限はないが情報漏えい時の保護は弱い
医薬品(出願)→特許権満了後に低価格の後発品が出る(ジェネリック)
食品会社のレシピ(企業秘密)→厳重に管理すれば長年優位性を保てる
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4-2-1
秘密情報管理
☆守秘義務に違反しないために
所属する機関の情報管理ルールに従う
※ルールの一例(組織等により異なる)
・資料の持ち出し禁止
・カメラ(カメラ付携帯)持ち込み禁止
・社内からのメール発信禁止
・オンラインPCへのデータ入力の禁止
・USBメモリの持ち込み禁止
・ファイル交換ソフトのインストール禁止
☆守秘義務違反になるかどうかの判断要素
=
相手
不用意な情報漏えいが多発している。
細かいルールから遵守することが肝要。
※下記の要素の組み合わせで、守秘義
務違反となるかどうか考えてみよう。
• 家族
• 友人、恋人
• 研究者
• 同僚
• 共同開発の研究者
• ライバル会社の人
×
内容
• 研究テーマ
• 進み具合
• 具体的な内容
×
場所
•
•
•
•
•
・家で
・研究室(大学)で
・研究室(企業)で
・道端で
・トイレ(大学・企業)
で
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4-2-2
研究発表と秘密情報
①研究成果の二つの側面
学術的側面
営利的側面
論文を学会誌等に掲載する、
学会で発表するなど、先に
発表した者の成果とされる
特許出願まで、または企業
秘密として管理する限り秘
密として管理しなければなら
ない
情報管理には、このように相反する二つの側面を考慮する必要がある
組織の性格上
大学は学術的側面を、企業は営利的側面を重視する傾向がある
相手の立場を理解したうえで情報の管理をする必要がある。
特に共同研究開発では、立場の異なるものが研究に関わるので注意する
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4-2-2
研究発表と秘密情報
②特許出願と研究発表(出願を先にするのが原則)
研究発表により新規性がなくなると、原則として、特許を取得することができない
特許出願は、研究発表の前にできるように出来るだけ早く
研究発表は、特許出願がなされるまで待つ
共同研究の場合、企業は大学側研究者の発表の意向を確認し、発
表する場合には、優先的に出願手続きをする必要がある。
大学側は、研究発表の希望、発表の時期について、企業側に
承認を得る必要がある。実際に発表する場合は、出願手続き
が完了していることを確認する
実際、大学と企業の
共同契約では、成
果を公表する際は、
事前に相手方の同
意を得るという取り
決めがなされるのが
通常である。
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4-2-2
研究発表と秘密情報
②特許出願と研究発表(新規性喪失の例外)
特許を受ける権利を有する者の行為に起因して新規性を喪失するに
至った発明は、所定の手続きを踏むことによって、例外的に、新規性
を喪失していないとみなされる(特許法30条2項)
所定の手続き
・発表の日から6月以内に出願すること
・出願時に例外の適用を受けようとすることを願書に記載すること
・出願から30日以内に例外を受けられることを証明する書面を提出すること
留意事項
・共同研究で相手方が手続をする場合など、期間制限に留意する
・学会発表の場合、学会当日ではなく、予稿集公開の日が発表の日である
・外国出願する場合には、このような制度がない場合がある
あくまで例外であることを考慮し、発表の前に出願をするようにし、
共同研究者との情報共有をしっかりすることが重要
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第4時限 目次
4-1 発明は誰のものか
4-1-1 概要
4-1-2 特許を受けることができる者(職務発明))
4-1-3 (補論)職務著作
4-2 秘密情報管理
4-2-1 秘密情報管理
4-2-2 研究発表と秘密情報
4-3 共同・受託研究において留意すべきこと
4-3-1
4-3-2
4-3-3
4-3-4
共同・受託研究において留意すべきこと
秘密保持契約を結ぶ理由
秘密保持契約の中身
MTA(Material Transfer Agreement)
(研究材料提供協約)について
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4-3-1
共同・受託研究契約の際に留意すべきこと
着想
研究
発明
出願
権利発生
誰が考えたか
誰が開発したか
誰が完成させた
か
誰を発明者として出願するか
(★誰が「発明者」となるか)
誰が権利者となるか
発生した秘密・機密をどのように扱うか。
(秘密保持契約、就業規則、ガイドライン)
MTA(Material Transfer Agreement、研究材料
提供協約等)
※いかに予防的に解決するかが重要
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4-3-2
秘密保持契約を結ぶ理由
自社にない技術があるA社と共同研究したい。
その技術が本当に自社の事業に役立つか詳細な情報が必要
秘密保持契約を締結
秘密保持誓約書
に署名
秘密を守る義務
が発生!
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4-3-3
秘密保持契約の中身
●守るべき秘密(秘密情報)とは?
研究遂行上知り得た又は取得
した大学及び共同研究する企
業のあらゆる契約対象の情報
●漏洩に該当する行為とは?
秘密情報を、大学の承諾
なく外部に持ち出すこと。
秘密情報を、第三者(正
当な権限を有しない大学
の教職員等を含む。)に
対して漏洩、開示するこ
と。
• コンピューターデータ、フロッピーディスク、
文書、テープその他いかなる媒体による
ものかを問わない。
• 有形、無形も問わない
秘密情報を、業務遂行の
目的以外で使用、流用す
ること。
秘密情報を、方法の如何
にかかわらず複製・複写
すること。
※漏洩すると損害賠償責任が発生!
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4-3-4
MTA
(Material Transfer Agreement)
(研究材料提供協約)について
共同研究契約
研究
成果
+研究材料の移転
(貸借、分譲、譲渡
など)に関する合意
研究材料、物
質の取扱いに
関する事項
研究の成果物
の取扱いに関
する事項
成果
論文、知的財
産権の取扱い
に関する事項
MTA
共同研究等の際、研究機関間で研究材料となる物質の移転(貸借、分譲、譲渡など)を行う際に、機関間で
取り交わされる契約のことをいう。
物質自体の扱いに関する条項の他、研究の成果として得られた論文や知的財産権の取扱い及び帰属など
が定められる。
例えば生物学・医学の分野においては、マウスなどの実験動物、遺伝子、培養細胞(細胞株)など様々な対
象の移転に際して契約が交わされる。
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