理財工学のすすめ~ポートフォリオ理論
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理財工学のすすめ
ポートフォリオ理論
~リスクとリターン~
投資を行うにあたって誰もが考えるのが、そこから得られ
る収益率である。これは「一定の期間の投資から得られ
る純益を投資金額で割ったもの」と定義される。
例えば千株70万円で買ったA社の株が1年後に90万円
に値上がりし、またこの期間に1万円の配当があったとす
ると、その年間収益率は(手数料を無視すると)
(90-70+1)/70=30%
となる。投資戦略の良し悪しは、この収益率の大きさで決
まる。
従って、投資家たちはこの値が大きな銘柄を探そうとするが、
株価や配当に与える要因はゴマンとあるし、それらが将来ど
う動くか確実にわからない。
こんなときにどんな基準で投資プランを立てるのがよいのか
数学的に定式化したのがマーコビッツ教授である
マーコビッツの基準
投資のリスクのものさしとして収益率の標
準偏差を採用
平均収益率は大きいほど望ましい
収益率の標準偏差は小さいほど望ましい
平均・分散モデル
市場でn種の資産sj(j=1,...,N)が取引されているもの
とし、sjの単位期間あたりの収益率をrjとする。ただし、rj
はある確率分布に従う確率変数であるとする。
いま、sjへの投資比率xjとし、ベクトル
X=(x1,…,xn)
(4.1)
をポートフォリオと呼ぶことにしよう。ポートフォリオxは
n
Σxj=1
(4.2)
j=1
x≧0、 j=1,…,n
の2条件を満足するものとする。
(4.3)
ポートフォリオxから得られる収益率をR(x)と書くと、前節
の説明からも明らかな通り
n
R(x)=ΣRjxj
(4.4)
j=1
と書ける。
そこで次に、R(x)の期待値E[R(x)]を一定に保った上で
R(x)の分散を最小化する問題
最小化
V[R(x)]
条件
E[R(x)]=r
(4.5)
x∈X
を考えよう。ここでrはある実数で
n
X=x={(x1,…,xn)|Σxj=1,xj≧0,j=1,…,n} (4.6)
j=1
この問題(4.5)の最適解をx(r)と書き、x(r)に対応する
収益率の分散を
ν(r)=V[R(x(r))]
(4.7)
としよう。また
σ(r)=√ν(r)
と書くことにする。
右の図はσ(r)を図示したもの
である。投資家はマコービッツ
の基準に従う限り、曲線σ(r)
上のポートフォリオx(r)を選択
するはずである。
σ(r)とx(r)はそれぞれ効率的
フロンティア、効率的ポートフォリオと呼ばれている。
投資家の効用はrが大きいほど大きく、σが小さいほど大
きいはずなので、投資家は効用が最大値を取るσ®上の
点Qに対応する比率で投資する。
実務上は、ポートフォリオ xには色々な制約が加わる。
例えば、どの株式も10%以上は投資しないとか、日立に
投資しないなら東芝にも投資しない、と言った制約である。
前者は
xj≦0.1,j=1、…,n
後者は
x日立≧x東芝
という式で表すことができる。
平均・分散モデルと2次計画法
問題(4.5)をより具体的に表現する。(4.4)より
n
R(x)=ΣRjxj
j=1
であったから
n
E[R(x)]=E[ΣRjxj]
j=1
n
=E[ΣRj]xj=Σrjxj
j=1
(4.9)
n
n
V[R(x)]=E[{ΣRjxj-E[ ΣRjxj]}2
j=1
n
j=1
=E[{Σ(Rj-rj)xj}] 2
j=1
n n
=E[ΣΣ(Rj-rj)(Rk-rk)xjxk]
j=1 k=1
n n
=ΣΣE[(Rj-rj)(Rk-rk)]xjxk
j=1 k=1
(4.10)
σjk=E[(Rj-rj)(Rk-rk)]
とおくと、(4.5)は
n n
最小化
f(x)=ΣΣσjkxjxk
j=1 k=1
n
条件
Σrjxj=r
j=1
n
Σxj=1,xj≧0,j=1,…,n
j=1
(4.11)
という形にことができる。
(4.12)
この問題は凸2次計画問題と呼ばれる問
題でnが小さいときはシンプレックス法と似
た方法で解くことができる。
しかし目的関数の係数の数が多くなるので
nが1000を超えると解くのが難しい。
大型2次計画問題のコンパクト分解
a.ファクター・モデル
まず、株式に影響を及ぼすと考えられるいくつかのファク
ターF1,…,Fkを選択する。
K個のファクターと収益率との間に
Rj=αj+ΣβjkFk+εj
(4.13)
という関係が成立すると想定する。εj、Fkはすべて独立
な確率変数で
E[εj]=0, V[εj]=τj2
E[Fk]=0, V[Fk]=νk2
νrs=E[Fr.Fs]
はすべて既知であるとする。このもとで、回帰分析を用い
て定数αj、βjを決めてやる。これが決まると
σj2=E[(Rj-E[Rj])2]
K
=E[{ΣβjkFk+εj} 2 ]
k=1
K
=E[(ΣβjkFk) 2 ]+τ 2
k=1
K K
=ΣΣβjrβjs+τj2
r=1 s=1
σij=E[(Ri-E[Ri]) (Rj-E[Rj])]
K
=E[(ΣβikFk+εi)(ΣβjkFk+εj)]
k=1
K
k=1
K
=ΣΣβirβjsνrs
K
=E[(ΣβikFk)(ΣβjkFk)]
k=1
K
=E[(ΣβikFk+ε)(ΣβjkFk+εj)]
k=1
K K
K
k=1
i≠j
r=1 s=1
となる。したがって(4.12)のf(x)は
n n
n
ΣΣσijxixj=Σσj 2 xj 2
j=1j=1
j=1
n n k
+ΣΣΣΣβirβjsνrsxixj
となるから
y=Σβirxi,
(4.17)
i=1j=1r=1s=1
k
r=1,…,K (4.18)
とおくと、
n n
n
K K
ΣΣσijxixj=Σσi 2 xi 2 +ΣΣνrsyrys (4.19)
i=1j=1
と書ける.この結果(4.12)は
i=1
r=1s=1
n
最小化 Σσi 2 xi 2 +ΣΣνrsyrys
n
j=1 k=1
I=1
K K
-Σβirxi+yr=0,
r=1,…,K
i=1
n
Σrjxj=r
j=1
n
Σxj=1,xj≧0,j=1,…,n
j=1
となる。
(4.20)
とくにK=1の場合、(4.20)はシャープの1-ファクターモ
デルと呼ばれ、80年代半ばまで平均・分散モデルの近似
解法として広く利用されてきた。
この問題は変数をn+K個含んでいるが、0でない目的関
数の係数はn+K2個。なのでνが1000個以上でも解け
る。
しかし、問題もある。ファクターの選び方にコツがいること。
そして、ファクターが少ないと、関係式(4.13)のあてはま
りが悪くなる一方、多すぎるとαj,βjkの推定に時間がかか
る.
b.2次計画問題のコンパクト分解
一組の確率変数(Rj,Rk)の独立な実現値(rjt,rkt),t=1,
…,tが与えられたとき、σijとして標本分散
sjk=Σ(rjt-rj)(rkt-rk)/T
(4.21)
を使用する.ここでrjはRjの期待値である.そこで
rj=Σrjt/T
(4.22)
とおいてσjkのかわりにsjkを使うと
n n
n
n
ΣΣσjkxjxk=ΣΣsjkxjxk
j=1 k=1
j=1 k=1
n n
T
=ΣΣΣ(rjt-rj)(rkt-rk)xjxk/T
i=1j=1t=1
T n
=ΣΣ{(rjt-rj)xj}2/T
t=1j=1
(4.23)
従って
yt=Σ(rjt-rj)xj、
t=1,…,T
(4.24)
とおくと
n n
ΣΣσjkxjxk=Σyt2/T
j=1k=1
と書けることわかる
(4.25)
したがって平均・分散モデル(4.12)は
T
最小化
t=1
n
Σyt2/T
条件
yt-Σ(rjt-rj)xj=0、
j=1
n
Σrjxj=r
t=1,…,T
j=1
n
Σxj=1, xj≧0 j=1,…,n (4.26)
j=1
というこんぱくとなかたちに表現することができる
問題
(4.12)
(4.20)
(4.26)
変数
n
n+K
n+T
制約式
2
K+2
T+2
非ゼロ係数
n2+2n
(n+1)K+K 2+3n
(n+2)T+2n
上の表は、三つのモデルの変数、制約式、およびモデル
に含まれる非ゼロ係数の個数を表している。
平均・絶対偏差モデル
平均・絶対偏差モデルでは、R(x)の絶対偏差
w=[R(x)]=E[|R(x)]|]
(4.27)
すなわち、R(x)のその平均値E[R(x)]からのずれの大
きさの絶対値の平均値を採用し、問題(4.5)の代わりに
最小化
w[R(x)]
条件
E[R(x)]=r
x∈X
を解こうというものである
前節同様、Rjの独立な実現値rjt,t=1,…,Tを用いて上
の問題を書き直してみよう
T
rj=E[Rj]=Σrjt/T
t=1
(4.29)
とすると
n
n
w[R(x)]=E[|ΣRjxj-E[ΣRjxj]|]
j=1
j=1
=E[|Σ(Rj-rj)xj|] (4.30)
となるが、前節同様Rj=rjtとなる確率を1/Tであるとし
て
w[R(x)]=Σ|Σrjt-rj)xj|/T (4.31)
となる。これにより(4.28)は
T
最小化
t=1
n
条件
ut=Σ(rjt-rj)xj,
t=1,…,T
j=1
n
Σrjxj=r
j=1
n
Σxj=1, xj≧0, j=1,…,n
j=1
Σ|ut|/T
と書ける
そこで以下では、この問題が線形計画問題に変換できる
ことを示そう。まず、任意の実数の二つの非負実数の差
としてかけることを利用して
ut=yt-zt, yt≧0, zt≧0, ytzt=0, t=1,…,T
とおくと
|ut|=yt+zt, t=1,…,T
と表現できる。したがって(4.32)は
T
最小化
Σyt+Σzt
t=1
条件
T
t=1
n
yt-zt-Σ(rjt-rj)xj=0、
t=1,…,T
j=1
n
Σrjxj=r
j=1
n
Σxj=1, xj≧0, j=1,…,T
j=1
yt≧0,zt≧0,ytzt=0, t=1,…,T
(4.33)
と等価になる
定理4.1 問題(4.32)で条件ytzt=0, t
=1,…Tを削除した線形計画問題をシン
プレックス法で解くと、その最適解はytzt=
0、t=1,…,Tを満たす。
ここでさらにΣut=0になる関係を用いると、
問題(4.32)の最適解は次の線形計画問
題を解くことによって求められる
T
最小化
2Σyt/T
t=1
n
条件
yt≧Σ(rjt-rj)xj,
t=1,…,T
j=1
n
Σrjxj=r
j=1
n
Σxj=1
j=1
xj≧0,
yt≧0,
j=1,…,n
t=1,…,T
(4.34)
線形計画問題(4.34)と前節で導いた問題
(4.26)は大変良く似た形になっている。し
かし、せんけいけいかくもんだい(4.34)は
2次計画問題(4.20)または(4.26)より解き
やすい問題なので、平均絶対偏差モデル
(MADモデル)は平均分散モデル(MVモデ
ル)より大規模な問題を扱うことができるも
のと考えられる。
種々のモデルの比較
実際の株式データを用いて、MVモデル(4.
26)、MADモデル(4.34)、1-ファクター・モ
デル((4.20)でk=1とおいたもの)を比較
検討してみよう。用いたデータは、東京証
券市場を代表する日系225銘柄からNTT
株を取り除いた224銘柄に関する1982年1
月から1986年12月までの5年間の月次収
益率である。また1-ファクター・モデルの
ファクターとしては、GNPを採用した。
ポートフォリオに含まれる銘柄と投資比率の順位
銘柄
P2
P1
P2(1)
銘柄
P2
極洋
23
日電装
帝石
13
25
湯浅電
佐藤工
12
13
19 トヨタ
飛鳥建
4
13
3 ニコン
フジタ
25
1
リコー
鉄建
14
24
シチズン
森永
17
16 ヤマハ
合同酒
7
21
9 松坂屋
山之内
15
8
18 第一勧銀
大日薬
8
14
東銀
東燃
9
全日空
ガイシ
20
東ガス
日本電工
24
22 松竹
三井金
10
30 東宝
住友鉱
22
15
日活
日電気
19
11
P1
1
17
9
5
18
16
11
20
6
2
3
21
P2(1)
23
5
1
6
3
26
16
22
2
12
4
2
7
18
10
7
4
表は1月あたりの期待収益率rを2.5%に固定してMVモ
デル、MADモデル、1-ファクター・モデルを解いて得ら
れるポートフォリオにおいて投資比率xjが正の値をとる銘
柄名と、投資比率を大きい順にランキング結果を表して
いる。MVポートフォリオP2とMADポートフォリオP1はど
ちらも25~26銘柄で構成されており、投資比率の大きい
ほうからベストテンを取ると、そのうちの9銘柄が一致して
いる。これに比べると1-ファクター・モデルはほかの二
つとは大きく違っている。リスクはMVオートフォリオの2倍
に達する.