米国のリテール金融:クレジットカードとアセットバック証券
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Transcript 米国のリテール金融:クレジットカードとアセットバック証券
米国のリテール金融:
クレジットカードと
アセットバック証券
金融庁金融研究研修センター
外国金融制度研究ワークショップ
2004年3月23日
松山大学 掛下達郎
1
報告の概要
1.
アメリカの学会状況
2.
アメリカのクレジット・カード,銀行系カード
3.
アメリカのアセット・バック証券(ABSs)市場
4.
日本の銀行系カード,ABSs市場
2
AEA 2004(アメリカ経済学会)
NICHOLAS SOULELES(University of
Pennsylvania)を座長とする2つのセッション
Personal Bankruptcy Laws, Consumer
Behavior and Aggregate Economy
Consumer Credit and Consumption
3
Personal Bankruptcy Laws, Consumer
Behavior and Aggregate Economy
MAKOTO NAKAJIMA and JOSE RIOS-RULL, University of
Pennsylvania--Default and Aggregate Fluctuations in Storage
Economies
AHMET AKYOL, York University, and KATRIK ATHREYA, Federal
Reserve Bank of Richmond--Entrepreneurship, Personal Bankruptcy
and the Wealth Distribution
SUMIT AGARWAL, SOUPHALA CHOMSISENGPHET, and RONEL
ELUL, University of Pennsylvania--Personal Bankruptcy Exemptions
and Mortgage Default
SONG HAN, and WENLI LI, Federal Reserve Board--Labor Supply
and Personal Bankruptcy
4
Consumer Credit and Consumption
SUMIT AGARWAL, CHUNLIN LIU, FleetBoston Financial, and
NICHOLAS S. SOULELES, University of Pennsylvania and NBER-The Responses of Consumer Spending and Debt to Tax Rebates
CHARLES GRANT, University College London and European
University Institute--Consumer Bankruptcy Law, Credit Constraints
and Insurance: Some Empirics
BRADLEY HEIM, Duke University--Consumer Response to Tax
Rebates: "Jesse Checks" as a Natural Experiment
WENDY EDELBERG, Federal Reserve Board--Risk-Based Pricing
of Interest Rates in Consumer Loan Markets
5
図1 消費者信用市場における貸し手のシェア 1945-2003年
(年末 単位:%)
商業銀行
50
1946年
40
2001年
↓企業
30
ABSs発行者↓
ファイナンス・カンパニー
20
10
信用組合↓
↑貯蓄金融機関
0
1945
1950
1955
1960
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
注)消費者信用に,ホーム・エクイティ・ローンは含まれていない。
(Board of Governors of the Federal Reserve System (2004a, 2004b, 2004c, 2004d, 2004e,
2004f): 88, table L.222.)
6
図2 住宅モーゲイジ市場における貸し手のシェア 1945-2003年
(年末 単位:%)
60
50
連邦関連モーゲイジ・プール
貯蓄金融機関
40
30
20
1951年 ↓生命保険会社
1965年
商業銀行
1982年
1993年
ABSs発行者↓
10
↓政府関連機関
0
1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000
注)消費者信用に,ホーム・エクイティ・ローンは含まれていない。
(Board of Governors of the Federal Reserve System (2004a, 2004b, 2004c, 2004d, 2004e,
2004f): 88, table L.222.)
7
アメリカの銀行系カード 導入期
1951年から中小銀行がカード業務に参入
1958年に Bank of America と Chase Manhattan
がクレジット・カード業務に参入
①リボルビング機能の提供開始
②1960年代後半
2大インターチェンジ・システムの創設
Bank of America等のVISA
City Bank等のMasterCard
③リテール業務の全米展開
→ユニット・バンキング・システムを越えて
8
アメリカの銀行系カード 成長期
1970年代の金利計算の変更
調整残高法から平均日掛残高法へ
1980年から年会費徴収を始める
1990年前後に商業銀行のリボルビングが自動
車ローンを抜いて消費者信用の最大項目へ
1992~94年初めの金利引下げ競争(約3%)
コンビニエンス・ユーザーとリボルバー
9
図3 リボルビング市場における貸し手のシェア 1977-2004年
(月末残高 単位:%)
60
1978年6月
証券化プール
商業銀行
50
40
30
1997年9月
企業
20
10
0
↓ファイナンス・カンパニー
貯蓄金融機関
↑信用組合
1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003
(Federal Reserve Statistical Release G.19.)
10
表1
10大クレジット・カード発行者のクレジット・カード・ローン
1992年末と99年末
カード発行者
1992年末の順位
1
...
4
2
3
n.a.
6
n.a.
...
n.a.
Citibank
Bank One/First USA
MBNA
Discover
Chase Manhattan
American Express
Bank of America
Providian
Capital One
Fleet
計
残 高
(10億ドル)
$
$
$
$
$
$
$
$
$
$
$
74.2
69.4
63.1
38.0
33.6
23.4
20.9
18.7
16.4
14.3
372.0
市場シェア
括弧内は92年
口座数
(100万)
販売額
(10億ドル)
15.4%(18.3%)
14.4%
13.1% ( 4.8%)
7.9% ( 8.4%)
7.0% ( 5.0%)
4.8%
4.3% ( 4.2%)
3.9%
3.4%
3.0%
77.0%(56.9%)
40.6
43.1
28.9
38.5
20.5
23.5
21.0
15.2
22.0
8.5
262超
$ 162.3
$ 142.7
$ 102.8
$ 70.6
$ 53.8
$ 186.4
$ 50.3
$ 20.3
$ 32.6
$ 17.0
$ 838.8
(U.S. General Accounting Office (1994): 27, table 2.1; CardWeb (2000): 1.
原資料はCardData(www.carddata.com) ; RAM Research Corporation.)
11
図4 FDIC保険商業銀行のクレジット・カード・
ローン貸倒償却率と個人破産 1984-2003年
破産数(1,000件)
償却率(%)
8
400
個人破産数
7
350
6
300
5
4
250
貸倒償却率
200
3
150
2
100
1
50
1984
1986
1988
1990
1992
1994
1996
1998
2000
2002
(Administrative Office of the United States Courts; FDIC Quarterly Banking Profile 各号;
FDIC Quarterly Banking Profile Graph Book, Third Quarter 2002, p. 19. 貸倒償却率の原資
12
料はFDIC Commercial Bank Call Reports.)
収益
図5 貸倒償却率とクレジット・カード収益 1986年
(クレジット・カード平均残高にたいする割合%)
20
19.3
19
18
17.4
16.9
17
16.2
16
15
14.9
14
1未満
1.0~1.9
2.0~2.9
3.0~3.9
4.0~8.9
貸倒償却率
(Watro (1988), chart 3. 原資料は,サンプルされた大銀行148行のFDIC Call Reports.)
13
表2
銀行系カードの収益構造
1991年(単位 年間平均残高比%)
VISA・MasterCard発行銀行1)
FCA銀行2)
クレジット・カード
割
賦
不 動 産
モーゲイジ
商 業
その他
収益
利子
その他
20.2
15.4
4.73)
26.0
14.9
11.03)
11.9
11.5
0.4
10.7
10.2
0.5
10.3
10.0
0.3
費用
営業費
貸倒損失
資金コスト
16.8
4.4
4.9
7.4
22.8
13.1
3.5
6.2
10.3
3.4
0.7
6.2
8.0
1.4
0.3
6.3
9.1
2.1
0.8
6.2
税引前純利益
3.4
3.1
1.7
2.7
1.1
注1)FCA銀行よりも,大規模な銀行が多い。
2)Functional Cost Analysisに参加している銀行で,総資産10億ドル未満の中小銀行が圧倒的に多い。
3)加盟店手数料,延滞・キャッシング手数料等を含む。
4)四捨五入によって,合計が合わないことがある。
(Canner and Luckett (1992): 658-659, table 2, table 3. 原資料はFederal Reserve Banks, “Functional
Cost Analysis: 1991 National Average Report”; HSN Consultants Inc., Nilson Report, No. 511,
November 1991.)
14
アメリカのABSs市場
モーゲイジ担保証券(MBSs )
自動車ローン担保証券(CARs)
SBA保証ローン担保証券
商業モーゲイジ担保証券(CMBSs)
クレジットカード・ローン担保証券
(CARDs)
1989年~ ホーム・エクイティ・ローン担保証券
1991年~ 農務省保証ローン担保証券
1970年~
1985年~
1985年~
1985年~
1986年~
15
図6 ABSsの年間発行額 1985-92年 (単位 10億ドル)
50
自動車
クレジット・カード
ホーム・エクイティ
その他
40
30
20
10
0
1985
1986
1987
1988
1989
1990
1991
1992
注1)公開取引のみ。
2)Hull (1989a) によると,CARs発行額は,1986年には100億ドル以上,87年には99億ドル,
88年には15億ドルとやや異なった数字になる(p. 22)。
16
(U.S. Congress, House (1993b): 79.)
図7 ABSsの残高シェア 1995-2003年
100%
モービル・ホーム
設備リース
学生ローン
80%
60%
その他
自動車
CBOs/CDOs
40%
20%
0%
1995
ホーム・エクイティ
クレジット・カード
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003:Q3
注)CBOsはcollateralized bond obligationsの,CDOsはcollateralized debt obligations
の略である。
(Bond Market Association, www.bondmarkets.com/Research/absos.shtml)
17
ABSsにみられる金融技術
パーティシィペイション形式
証券化プール
パス・スルー証券
政府系・民間の保険・保証
リコース(償還請求権)付きから
ノン・リコース(償還請求権なし)へ
18
ノン・リコースのメリット(売手側)
最終的貸手(ABSsの買手)は当該資産にだ
けリコースでき,借手にはリコースできない
→ デフォルト・リスクをABSsの買手に転嫁
銀行が資産をリコース付きで売却すれば,一
般に資産が銀行帳簿に残って自己資本が必
要とされ,さらに売却額は預金とみなされ準
備金を積み増す必要がある(レギュレーションD)
ノン・リコースで売却すると,これらの自己資
本規制と預金準備規制を回避できる
19
表3
ABSsにおけるリコース(償還請求権)と政府系・民間の保証・保険
ターム・ローン1)
商業モーゲイジ貸付の証券化
時 期
リコースの種類等
19世紀~
1934年~
1944年~
1971年~
1972年~
1980年代~
貸借関係の譲渡
連邦準備とRFCの協調融資
VAが元本の50%まで保証
SBAが元本の90%まで保証
リミテッド・リコース
ノン・リコース
1980年代~
ノン・リコース
農業モーゲイジ貸付
1980年代~
証券化 1990年~
農務省が元本の90%まで保証
FAMCが元本と利子を保証
住宅モーゲイジ貸付
1934年~
1944年~
証券化 1970年~
FHAが元本を保険
VAが元本の60%まで保証
GNMAが元本と利子を保証
自動車ローンの証券化
1985年~
売却銀行が損失の10%を保証
ホーム・エクイティ・ローンの証券化 1989年~
第2順位でリコース
1990年代後半~ 民間の保険
クレジット・カード・ローンの証券化 1984年2)~
1987年~
リコース
ノン・リコース
注1)ターム・ローンは証券化されておらずABSsは発行されていないが,ここでもリコースから
ノン・リコースへの動きや政府系の保証がみられるので参考までに表に含めている。 20
2)1984年には,証券化ではなく,クレジット・カード勘定が売却されている。
クレジットカード・ローン担保証券
(CARDs)の事例
クレジット・カード勘定が18%の収益を生む
6%が証券投資家
7%が損失保険
2%がその勘定の維持(すなわち顧客)
合計15%
3%が発行機関,過剰なサービス・コスト
21
都銀 カード業務へ参入
UFJ銀行
2003年11月 日本信販と戦略的提携発表
2005年 3月 日本信販を連結子会社化へ
クレジットカード最大手のJCBとの事務・シ
ステム分野の共同化を検討中
東京三菱銀行
2004年度中 多機能ICカードを
銀行本体で発行へ
22
三井住友銀行
三井住友カードと共同でキャッシュカード・ク
レジットカード一体型ICカードの発行を開始
りそなグループ
2004年1月末
クレディ・セゾンとグループ傘下カード会社と
の戦略的資本・業務提携へ
みずほ銀行
ユーシーカード(UC)とキャッシュカード・クレ
ジットカード一体型ICカードの発行を検討中
23
銀行本体のカード業務の歴史的経緯
1981年銀行法改正 銀行本体でのクレジット
カードの発行が可能になる
1983年 地銀バンクカードが業務開始
―この間,関連カード会社にのみリボルビング
方式・分割方式が認められる―
2004年4月
銀行本体のリボルビング方式・分割方式の
クレジットカードの発行が解禁される
24
日本のカード業界の問題点
アメリカ(カード発行会社)
利子収入85%
加盟店手数料・年会費15%
(売上げの1.9%)
日本(銀行系カード会社)
利子収入15%
加盟店手数料・年会費85%
(売上げの5~6%)
25
日本のABSs市場
1990年代後半から急成長
最大手を除く大手・中堅業者の積極的参入
1998年9月 日本リース倒産
2001年9月 大手スーパー,マイカル倒産
初めてのABSsデフォルト
マイカル北海道がマイカルに差し入れた入
居保証金の返済請求権を担保ー特殊ケース
26
消費者金融会社,アエル倒産
2003年9月
初めてのABSsオリジネーターである消費者
金融会社の倒産
消費者金融の借手はいつでも再度借りられ
るという便宜性を求めている―消費者金融業
界特有の貸出構造
返済余力のある上顧客は他社へ移り,問題
のある債務者ばかりが残り,裏付資産の質
が劣化すると予測→ ABSsの格下げ検討
27
参考文献
浅見 淳(2004), 「UFJ銀行・日本信販の戦略的提携の意味を読み
解く」, 『月刊消費者信用』3月。
掛下達郎(2002a), 『管理通貨制度の機構分析:アメリカ編』,松山大
学総合研究所所報第39号。
(2002b) 「アセット・バック証券の歴史的展開 ―アメリカ商
業銀行を中心に―」,『証券経済学会年報』第37号,5月。
前川裕志(2003),「アエル倒産で露呈したABS市場の欠陥:市場拡
大には商品性の情報開示徹底が不可欠」,『金融財政事情』11月
17日。
リチャード・チャン(2003),「なぜ日本人はクレジットカードを使わない
のか:他のアジア諸国に比べても日本は劣位にある」, 『月刊消費
者信用』5月。
佐藤理郎(2002),「消費者ローンABS市場の広がり:調達手段として
の意義と今後の展望」, 『月刊消費者信用』3月。
高田 創(2003), 「貸出市場の代替として拡大する資産担保証券 」,
『金融財政事情』9月8日。
28