Transcript ppt - 金茶会
高エネルギー極限のQCD
からみたRHICの物理
素核研・理論
板倉 数記
2008年6月6日 金茶会
解題1
高エネルギー極限のQCDとは?
「全散乱エネルギー」 ≫ 「反応における典型的運動量スケール」
例)ハドロン・ハドロン散乱
a
c
s
重心系散乱エネルギーの二乗
s=(pa+pb)2
運動量移行の二乗
b
t
d
t=(pa - pc)2
s >> |t|
高エネルギー極限では、ハドロンに対する「常識」が成り立たない
陽子は単純な3つのクォークではなくなる!
CGC
陽子
=3つのクォーク
グルオンが増殖
グルオン飽和
=「カラーグラス凝縮(CGC)」
グルオンだらけ
「真っ黒」で「拡大」する陽子!
解題2
RHICとは?
相対論的重イオン衝突加速器
(Relativistic Heavy-Ion Collider)
@ Brookhaven National Laboratory in NY
RHIC
2つの重イオン(Au-Au, Cu-Cu)の衝突
「クォーク・グルオン プラズマ」の生成が本務
核子・核子衝突当りのエネルギーは最大200GeV
クォーク・グルオン プラズマ(QGP)
ハドロン内のクォークとグルオンが束縛から
解放された「熱平衡状態」
温
度
ハドロン
バリオン化学ポテンシャル(密度)
Nuclear/particle
Theory group
高エネルギー極限で現れる「カラーグラス
凝縮」に注目して、それがRHICの物理に
どう反映するのかを議論する
QGPの初期条件の物理
QGPを理解する上で不可欠の要素
重イオン衝突
• 観測されるのはハドロンやレプトン
• 多くの異なるステップを経由する
QGPの検証の難しさ
5. 個々のハドロン
運動学的凍結
4. ハドロンガス
膨張冷却
3. クォーク・グルオン プラズマ
熱平衡化
2. 高エネルギー密度の非平衡状態
衝突
1. ハドロン(原子核)
高エネルギーから低エネルギーへの経過
(摂動的)
(非摂動的)
素粒子ではなく、「状態」の情報を得たい
有限の領域にエネルギーを分配
1.
2.
3.
4.
5.
重イオン衝突
非常に難しい逆問題
終状態の何千個ものハドロン(中間子、
バリオン)の情報から、如何にして途
中で生成したQGPの物理を引き出す
か
可変パラメータ
衝突エネルギー
√s
衝突させる核種
A
大きさ
衝突径数
b
形
温度
衝突のパターン AA, dA, pp
QGP/nuclear effect
の switch on/off
A = nucleus (Au, Cu)
d = deuteron
Big bang vs Little bang
RHIC実験の成果
1.高エネルギー密度の状態(≠ハドロン)が生成
素朴に期待されたQGPとは異なるものが見つかった! “sQGP”
強い「ジェット抑制」効果、
強い集団運動(楕円流れ, elliptic flow)
楕円流れの解析は、熱平衡状態のQGPが
* 小さな「ずり粘性」をもつ
弦理論との関係(AdS/CFT)
* 衝突直後、非常に早く生成する 0.6 fm/c 「熱平衡化」の問題
ことを示唆
2.高密度グルオン状態(カラーグラス凝縮)が見えた
QGPが存在しない過程(重陽子・金衝突)でも「ジェット抑制」が観測
RHIC実験の成果
http://www.aip.org/pnu/2004/split/669-2.html QM’04でのCGC検出の報告
高エネルギー極限でのハドロン
Q:なぜグルオンだらけになるか?
A:高エネルギーでは揺らぎの寿命が延びるから
Q:なぜ飽和するのか?
A:グルオンの3点相互作用が効くから
p ( p, 0 , p)
k ( Ek , ki , k z xp)
揺らぎの寿命 t ~
(xp >> kt のとき)
1
1
2x(1 x) p
~
E Ek Epk p
k2
• 親パートンのエネルギー(運動量)大 xp ≫ kt
揺らぎが長寿命化
• 子供のパートンが十分長寿命ならば、「孫」を産む 多重生成 (グルオン3点相互作用)
• グルオン密度の上昇 生成グルオンの再結合
飽和 (グルオン3点相互作用)
高エネルギー散乱ではグルオンの
多重生成とその飽和が重要
「カラーグラス凝縮」
人口問題 を知っておこう
1798年 T.R.Malthus (マルサス)の 『人口論』 “An essay on the principle of
population as it affects the future improvement of society”
「人口は、制限されなければ幾何級数的に増加する。」
d
N (t ) N (t ) N (t) N0et
dt
人口爆発!
BFKL方程式
N(t) : (規格化された) 人口密度
1838年 P.F. Verhulst (ベルハルスト)が「新しい」モデルを考案
BK方程式
人口増加率κは人口が多くなるにつれて減少する κ κ(1 N)
ロジスティック方程式
非線形
飽和
d
N (t ) ( N (t ) N (t )2 )
人口
dt
密度
N(t)
普遍的
急な増加
時間 t
カラーグラス凝縮
• 高エネルギー散乱で出現する「普遍的」な状態
• 高密度のグルオンが、飽和した状態
• 特徴的なセミハードスケール: 飽和運動量 QS (x,A)
グルオンが原子核の横平面を覆い尽くしている時の、典型的なサイズ(の逆数)
QS2 (x, A) ∝ A 1/3 (1/x)λ
λ~ 0.3, x: Bjorken x
原子核では、より低いエネルギーでCGCになる
高エネルギーで増大:より弱結合へ
• 基礎方程式: QCD発展方程式(散乱エネルギーの増加によるグルオン数の変化を記述)
BFKL 方程式 (1975~) 線形
BK 方程式 (1999~) 非線形
Y ~ ln s
早い増加 ユニタリ性の破れ
飽和
ユニタリ性の回復
「ラピディティー」を時間と同一視すれば、人口問題と似ている
RHIC以外での証拠
幾何的スケーリング
[Stasto,Kwiecinski,Golec-Biernat 2001]
陽子の内部構造
各パートンの分布関数
(深非弾性散乱 @ HERA, DESY)
パートンの持つ運動量比
x
小さなx (高エネルギー散乱)における
グルオン数の著しい増加
Q2/QS2(x)
CGCに特有なスケールQs の存在を保証
高エネルギー重イオン衝突
HERAのQSと
RHICのQSは
同じ程度(~ 1GeV)
RHICでもCGC
の効果が期待される
5. 個々のハドロン
運動学的凍結
4. ハドロンガス
膨張冷却
3. クォーク・グルオン プラズマ
熱平衡化
2. 高エネルギー密度の非平衡状態
衝突
1. ハドロン(原子核)
CGC グラズマ
1.
2.
3.
4.
5.
グラズマ
CGC
CGC @ RHIC ?
• CGCは重イオン衝突の「初期条件」を提供する
• その情報が効率よく残るのは何処か?
1. Qsより小さな縦運動量を持つハドロン(ほとんど全て) multiplicity
2.運動学的に、ターゲット原子核の小さな x が寄与する領域 前方
3.QGPに汚されず、初期状態の情報がそのままスペクトルに反映する
重陽子・金衝突
2と3 「重陽子・金衝突」の「前方」を見るのが理想的
Forward in dAu
原子核A1とA2の高エネルギー散乱 → 各原子核中の「パートン」の散乱
d ~ f A1(x1)dx1 f A2 (x2 )dx2 ˆ (1 2 something)
A1
A2
pt h
x1
e
s
pt h
x2
e
s
x1, x2 : 各パートンの原子核運動量に対する比
“Bjorken変数”に相当
pt
: 生成粒子の持つ横運動量
h
: ラピディティー
1 E pz
h ln
2 E pz
h > 0 前方 (forward)
h < 0 後方 (backward)
前方h > 0 に行くと、ターゲットA2の小さな x が反応に寄与する
pt h
x2
e ~ 4 104 for pt 2GeV, h 3,
s
s 200GeV
Forward in dAu
Nuclear modification factor
1 dNd Au / d 2 pt dh
RdAu
Ncoll dN p p / d 2 pt dh
RdAu=1 なら、d-Au は pp 散乱の
インコヒーレントな重ね合わせ
STAR: PRL 97 (’06) 152302
BRAHMS: PRL 93 (’04) 242303
荷電粒子の増大 @ h = 0
および 抑制 @ h = 3.2
理論計算
(Kharzeev-Kovchegov-Tuchin)
• mid-rapidity (Cronin effect) forward (suppression)が
p0 の強い抑制 @ h = 4
CGCの効果を取り入れて自然に説明できる
(Iancu-KI-Triantafyllopoulos)
• Mid-rapidityでは多重散乱がCronin効果を与える
• 原子核のグルオン増加が、陽子のそれより「遅い」(飽和効果)ために、結果的に「抑制」される
熱平衡化の問題
• 衝突直後はCGCで与えられる強いグルオン場が存在する。
それがどのようにQGPへ変化するか?
• グラズマ: CGCとQGPの間の非平衡状態(Glass+Plasma)
衝突直後のフラックスチューブ描像
カラー電場、磁場の両方のフラックスチューブが可能
問題: 高エネルギーの極限では、CGCは進行方向に垂直な2次元上で
記述され、そのため衝突後の場も、2次元的自由度しか持たない
(ブースト不変な解)。これでは、等方的な分布は不可能。
グラズマ不安定性
H.Fujii, KI, arXiv:0803.0410
(Nucl. Phys. A に掲載予定)
進行方向の依存性をもつ揺らぎが、カラー磁場のもとで
不安定になる(Nielsen-Olesen不安定性の膨張系バージョン)
1/Qs
最低ランダウ準位
非常に早い熱平衡化に寄与すると期待
Qs ~ 1 GeV なら 1/Qs ~ 0.2 fm/cで
不安定性が発現
その他の物理
1. Energy dependence of multiplicities
95%以上の粒子が Qs ~ 1GeV よりも小さな運動量を持つので、バルクな
物理量にCGCの影響が見られるのは自然
2. Ridge
ジェット周辺の粒子分布がラピディティー方向に
引き伸ばされている現象
3. Long range correlation
前方と後方の粒子分布に相関があるという現象
などなど
まとめ
• 高エネルギー散乱では、ハドロンは「カラーグラス凝縮」と
呼ばれる、高密度で飽和したグルオン状態になる
• 高エネルギー重イオン衝突の初期条件は、カラーグラス凝
縮で与えられる
• その効果は、重陽子・金衝突の前方の生成粒子スペクトル
で検証され、QGPの非常に早い熱平衡化にも寄与すると
期待される
• 高エネルギー散乱の理論はRHICによってかなり前進した。
理論と実験の協力の理想的な形がある。