QGP相転移? - 高エネルギー原子核実験グループ

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Transcript QGP相転移? - 高エネルギー原子核実験グループ

粒子加速器を用いた極初期宇宙の探求
高エネルギー原子核衝突を用いたクォーク・グルオンプラズマの研究
筑波大学・数理物質科学研究科・
物理学専攻 三明康郎
http://utkhii.px.tsukuba.ac.jp/
1
ビッグバン宇宙論
QGP→ハドロンガス
• ビッグバン宇宙論
Heなどの元素合成
QuickTimeý Dz
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プラズマ→中性原子
「宇宙の晴れ上がり」
電離状態から
中性に変化し、
光が散乱され
なくなった
原始銀河の形成
– 約140億年前に大爆発ととも
に私たちの宇宙が発生
– 想像もつかない高温・高密度状
態から膨張し、膨張と共に温度
が低下してきた
• 宇宙の進化を遡る研究
• (10億年)遠方銀河の赤方偏移
– Hubble則
• (30万年)宇宙の晴れ上がり
– 宇宙背景放射
• (3min)元素合成
– 元素の存在比
– →ビッグバン宇宙論を
支持する証拠
2
宇宙背景放射観測によるビッグバンの研究
• WMAP観測衛星による
宇宙背景放射の精密測定
– 宇宙進化の様子が明快に
– 「宇宙の晴れ上がり」時の
スナップショット
• 「宇宙の晴れ上がり」より前
の高温・高密度状態を再現し、
極初期宇宙まで遡ろう
高エネルギー原子核・
原子核衝突実験
(リトルバン)
3
物質の階層構造
• 原子
– 原子核と電子
– 〜10−10 m
陽子
中性子
クォーク
• 原子核
– 陽子と中性子の集まり
– 〜 10−14 m (~10 fm)
• 陽子・中性子
– クォーク3個からなる複合粒子
– 〜 10−15 m ( ~1 fm )
• 中間子
– クォーク・反クォークからなる
複合粒子
– 〜 10−15 m ( ~1 fm )
• 量子色力学(QCD)の世界
4
クォーク・グルオンプラズマ
• ハドロンの多重発生
– ハドロン(陽子、中性子や中間
子)は、1fm程度の大きさを持ち
クォークと媒介粒子グルオンから
構成されている。
– 大きさを持つハドロンを狭い空間
に多重発生させると(高温・高密
度状態)、ハドロンが連結した状
態が出来る?
クォーク・グルオン
プラズマ(QGP)
5
クォーク・グルオンプラズマ相転移
• QGP
ハドロン
状態
– 物質の存在の仕方として全く未知
– クォークとグルオンが比較的大き
な体積を自由に飛び回り、その振
る舞いを統計力学的に取り扱うこ
とが出来る
– 相転移
QGP
状態
6
巨視的連結による一次相転移
巨視的連結(Percolation)
• 巨視的連結(Percolation)
– ランダムに粒子が分布してい
るときの大域的な結合
• 巨視的連結が起こる確率
– 粒子密度に対し一次相転移
巨
視
的
連
結
の
起
こ
る
頻
度
Toy Model
• ハドロンの多重発生による
巨視的連結がQGP
QGP相転移は一次相転移?
粒子密度
7
Lattice QCDによるQGP相転移
筑波大学・計算物理学センター
CP-PACS
F. Karsch, Lect. Notes Phys. 583 (2002) 209.
ハドロン質量の計算
• 1次相転移かも!?
– εc〜 0.6 - 1.2 GeV/fm3
8
QGP相転移?
宇宙論とQGP
• ビッグバン直後の宇宙
– ビッグバンから10マイクロ秒後にQGP
相からハドロン相への相転移
– 1次の相転移であれば以降の宇宙の進化
に影響か
• クォーク星?
– Chandra X線観測衛星とハッブル観測衛
星による観測から発見か?
– 中性子星とブラックホールの間を埋める
存在
• QGPの性質の解明は根元的課題
9
高エネルギー原子核・原子核衝突
• 高エネルギー粒子の衝突
– より高エネルギー衝突ほど多数の
ハドロン粒子(主にπ中間子)が発
生する
– ビームの運動エネルギーの一部が
ハドロンの質量エネルギーに転化
• 原子核と原子核を衝突させると原
子核程度の大きさに多数のハドロ
ン粒子を発生
– 多重発生密度が十分高いと
QGP生成が可能
ローレンツ
収縮した原
子核
QGP
• 相対論的高エネルギー原子核同士
の衝突によりQGPを生成し、そ
の物理的性質を解明しよう
10
「ビッグバン」と「リトルバン」
Big Bang
Little Bang
• ビッグバン
– 宇宙
– 3次元的膨張
– 再現不可能
• リトルバン
KEK homepageより
Machine
Beam+Targe
t
Ecm [GeV]
1987 -
AGS
Si+Au
5A
1987 -
SPS
S + Pb
20A
1992 -
AGS
Au + Au
4A
1994 -
SPS
Pb + Pb
17A
2000 -
BNL•RHIC
Au + Au
200A
2007 -
CERN•SPS
Pb + Pb
6300A
– 高エネルギー原子核・
原子核衝突
– 1次元的膨張
– 実験可能
• 1987年以来〜5年ごと
に新しい加速器建設
– 急速に発展している
研究分野
11
Relativistic Heavy Ion Collider (RHIC)
• 1周約3.8km
• 右回り用と左回り用それぞ
れのビームライン
• 計864個の電磁石
• 実験室中央で右回りと左回
りのビームが衝突
12
複合加速器RHIC(加速と衝突の様子)
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H.264 êLí£ÉvÉç ÉOÉâÉÄ
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Animation made by J. Mitchell
• 互いに反対方向に廻る原子核ビームが実験室の真ん中で衝突を起こす
– 衝突型加速器
13
衝突型加速器におけるPHENIX実験
• (衝突検出器)+(電磁石)+(飛跡検出器)+(粒子識別装置)
14
PHENIX実験(写真)
15
多国籍国際協力研究PHENIX
• 11ヶ国
• 440名余の研究者
16
高エネルギー原子核・原子核衝突の様子
理論模型によるシミュレーション
• シミュレーションと実際に観測
された衝突の様子
– 数千個の粒子発生
– QGPの発生?
観測結果
• 衝突の極めて短時間の間に何が
起こっているのかを実験結果か
ら明らかにしたい
17
リトルバンにおける晴れ上がり
Minkowski空間図
t
固有時間τ
“晴れ上がり”
z
• 「宇宙の晴れ上が
り」と同様に、十分
多くの粒子が発生す
れば、ハドロンの”晴
れ上がり”が起こる!
18
QGP生成の傍証1;エネルギー密度
• Bjorkenの描像
t
y
1
2
ln(
E  pl
E  pl
)
E  m t  cosh y

 pl  m t  sinh y
y 
z
y
1
2
1 l
ln(
1
2
1 l
ln(
t z
tz
l 
)
)
(
l 
pl
• 到達エネルギー密度
E
z
t
)
t    cosh y

z    sinh y
πR2
dtdz   d  dy
dz   d 
dz
(
– ローレンツ収縮のために原
子核衝突は短時間の間に起
こり、その短時間にハドロ
ンの多重発生が起こるが、
固有時τ以後、それらは自由
粒子として飛び出す。
– 到達エネルギー密度の推定
t   @ y  0)
– QGP生成に十分な値
 Bj 
1
1 dE T
 R c  0 dy
2
 4.6GeV/fm
3
  c  0.6  1.2GeV/fm
3
19
QGPから生成される様々なハドロン
ハドロン
• 衝突で生成されたQGPは
断熱膨張により急激に温度
が下がり、多数のハドロン
が発生する。
– 様々な種類のハドロンの生成
比
• QGPであれば、クォーク
の統計力学で生成比が記述
できるはず!
– クォークレベルの統計力学的
記述の成否が重要
QGP
20
QGP生成の傍証2;クォークの化学平衡
• クォークの化学平
衡を仮定した統計
模型と測定データ
が良い一致
– 化学平衡時の温度
(~180MeV)は
予想される相転移
点付近
21
(anti-) Proton / Ratio
Surprise! (Baryon Anomaly)
PHENIX: PRL 91, 172301 (2003), PRC 69, 034909 (2004)
Central
Peripheral
• 他の高エネルギー粒子衝突反応に比べて、多くの陽子や反陽子が
生成されることを発見!
– 全く異なるハドロン生成メカニズム
• 中條達也氏(現筑波大・講師);原子核談話会新人賞受賞
22
クォーク融合反応(Quark Coalescence)
• QGP特有のハドロン生成
メカニズム?
ハドロン
中間子の運動量分布(2q);
W M pt   C M  w (
2
pt
2
)
陽子の運動量分布(3q);
W B pt   C B  w (
3

pt
3
)
w(pt);
QGP
ユニバーサルな

クォークの
運動量分布
{急激な減少を
示す分布形}
23
注目される方位角異方性測定
• 反応関与部と非関与部
– 核子の運動量に比べビーム
運動量が圧倒的に大きい
– 相対論的効果により極めて
短い衝突時間
反応面
• 方位角異方性とは
アーモンド型の
反応関与部
N    N 0 1  2v 2 cos( 2  )
反応面に対する方位角
– 非中心衝突における反応関
与部は衝突軸に対し異方性
– アーモンド型!
• 放出粒子の運動量の方位
角異方性を測定
• 座標空間の方位角異方性
が生成粒子の運動量空間
異方性に転換
24
楕円率に比例した方位角異方性
x y
2
 ecc 
x  y
2
2
px  py
2
2
v2 
p  p
2
x
2
2
y
Phenix; PRL 89(2002)212301

v2

• 中心衝突から周辺
衝突まで様々な楕
円率に対して方位
角異方性を測定
• 楕円率に比例した
方位角異方性
– 確かに座標空間
から運動量空間の
異方性に転換され
た
25
QGP生成の証拠3;方位角異方性
• 粘性がない完全流体理
論模型と良い一致
– 衝突後0.6fm/cで熱化
– 20 GeV/fm3
• 衝突後0.6 fm/cで熱化
出来るメカニズムは?
– QGP!
26
QGP生成の証拠4;
クォーク数則
• クォーク融合反応の証拠
中間子の運動量分布(2q);
dN M
2
2
 w  (1  2v 2,q cos 2  )
d
 (1  4 v 2,q cos 2  )

陽子の運動量分布(3q);
dN B
3
3
 w  (1  2v 2,q cos 2  )
d
 (1  6v 2,q cos 2  )
w;クォークの方位角分布
w  (1  2v 2,q cos 2  )

27
QGP生成の証拠5;ジェット正反相関の消失
pedestal and flow
subtracted
• 金・金衝突では正反対方向に期待されるジェットが消失した。
– 高密度物質生成の証拠
28
今後の研究の展開
• 現在
QGP
状態
– QGP生成を示す多くの発見
– クォークレベルの統計力学が明らか
に
• →QGP生成が確認された
• これから
–
–
–
–
QGPの性質の解明
相転移の性質の解明
相転移点の探索
RHICからLHCへ
• 200GeVから5600GeVへ
• 2007年開始予定
29
大活躍する大学院生
30
大学院生向けのQGPの教科書が出ます!
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31
参考資料
32
QCDとBag Model
• QCDの2大特徴
– Asymptotic Freedom (漸近的自由);1fm
以下で自由粒子
– Confinement (閉じ込め)
• 他の力と全く異なった性質の起源を真空に
求める
– 真空は一定のエネルギー密度Bを持ち、ハド
ロン粒子は真空中に出来た特殊な空間(Ba
g)に閉じ込められた状態と記述。
• ハドロンのエネルギー=(Bag内での運
動エネルギー) +(真空のエネルギー)
– 第一項;基底状態では不確定性原理(△p・
△x〜h)により零点エネルギーε=p〜1/
R
– 第二項;体積に比例
• 安定点;dE/dR=0
33
Bag ModelによるQGP相転移
μ、m=0の理想フェルミ、ボーズ気体の場合
Toy Model

37 
4
T  B
 QGP 
30

2
37 
4
p

T  B
 QGP

90
2
P


4
T
  
10

2 4
p

T
 

30
2
ε
εQGP
PQGP
Pπ
επ
B
ーB
T
T
T
Tc
c
•
•
•
相転移点では温度、圧力が等しくなる
低温ではハドロンガス状態、高温ではQGP状態
潜熱の発生
–
☞1次相転移
34
高横運動量抑制効果の発見
荷電粒子
中性パイ中間子
• 荷電粒子、中性パイ中
間子共に高横運動量で
抑制
• 周辺衝突(60-80%);
– Nbinaryで規格化したpp
衝突の結果と良い一
致
• 中心衝突(<10%);
– Nbinaryで規格化したpp
衝突より全般的に小
さい
– 特に>3GeV/c
• 陽子・陽子衝突に比べ
て高横運動量領域で粒
子生成が少ない!
• 今まで全く見られな
かった現象!
Phys.Rev.Lett.88,022301(2002)
35
高運動量領域の粒子生成
•
高横運動量領域では指数関数からず
れた成分が現れる
– 陽子・陽子衝突ではπー より多くのπ+
– Valence Quark散乱のLeading Particle
• 高エネルギーの衝突ではより顕著に
– Phase Space の制限が効かなくなる
• 2成分;
– 第1項;Exponential;Soft Component
– 第2項; Power Law ; Hard Component
• Perturbative QCD
d 
3
E
dp
3
 C 0 exp( 
mt
T0
)
C1
( pt  p 0 )
n
36

ジェット・クエンチとは
+Ze

dE Bohr
dx

Ne

2

ln(    )
2
• 高速荷電粒子が物質中を通過す
る際に、原子電子とのクーロン

相互作用によってエネルギー損
失
– Bethe-Bloch Formula
– 物質の電子数密度に比例した
エネルギー損失
dE
GLV
dx
•

Ng
f (E )
ln(
E

)
パートンがQGPなど高密度物
質中を通過する際に、グルオン
放射によりエネルギー損失
– グルオンの数密度に比例した
損失
37
高横運動量抑制
エネルギー損失が無い場合の予想
R AA 
 AA
N binary   pp
d+金衝突
金+金衝突
• 金・金衝突では高横運動量領域で抑制
• 重陽子・金原子核衝突では抑制効果が見られなかった
– 金・金衝突で出来た高密度物質をパートンが通過する際のエネルギー
損失によるもの
38