創傷被覆材による 急性創傷治療の実際

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Transcript 創傷被覆材による 急性創傷治療の実際

治療の実際

擦過創,皮膚損傷の治療

泥,砂で汚れていなければ,血液などを拭 き取り,アルギン酸塩被覆材を貼付し,フィ ルム材で密封。 創面を洗う必要はない。 翌日,フィルムと被覆材を除去し,患部,周 囲の皮膚をよく洗う。

擦過創,皮膚損傷の治療 2

ドレッシング材をデュオアクティブ ET かプラスモイストにする。 以後,一日一度はドレッシングを交換 交換の際は創周囲の皮膚をよく洗い ,皮膚についた滲出液を洗い流す。 滲出液が出なくなったら治療終了。

擦過創,皮膚損傷の治療 3

上皮化が完了したら,顔面などの露出部 では遮光クリーム,茶色の絆創膏などで遮 光させる。 遮光は 3 ヶ月くらい必要。 肥厚性瘢痕,ケロイドを気にする患者の場 合にはトラニラスト(リザベン ® )内服。

擦過創,皮膚損傷の治療 4

創面を洗うのでなく,創周囲の皮膚を洗 うことが重要。 皮膚は不感蒸泄を出す排泄器官 皮膚を密封すると機能障害を起こす 一日一回は皮膚を良く洗い乾燥させ る(皮膚に一息ついてもらう)。

受傷翌日の状態 受傷時の状態

受傷 5 日後

5 日目 9 日目

異物が付着している擦過創

局所麻酔下に歯ブラシでブラッシング し,アルギン酸塩被覆材を貼付。 局麻ができない乳幼児,受傷範囲が 広い場合,キシロカインゼリーを創面 に塗布してフィルムかラップで密封し, 5 分以上放置すると無痛になる。 十分に時間を置くのがコツ。

局所麻酔のコツ

キシロカイン単独では出血が多くなり,指 の麻酔以外はエピネフリン入りを使用。 痛くなく麻酔しよう  細い針でゆっくりと麻酔。  創面から注射し,皮膚を刺さない

受傷 2 日後の状態 14 日後の状態

頭皮内擦過創・挫創の治療

白色ワセリンの頻回塗布が有効。 「創面が乾燥させない」ことが目的。塗 布回数は季節,頭髪の状態に応じて 変化する。 出血がある場合は圧迫止血か,アル ギン酸塩被覆材貼付で止血。止血が 得られてからワセリンを塗布する。

口唇挫創・眼瞼挫創の治療

口唇の場合は口内炎軟膏,眼瞼の場 合は眼軟膏を頻回に塗布させる。 口内炎軟膏,眼軟膏の基剤は高純度 のワセリン。 塗布回数は創部が乾燥しないのに必 要な回数と考える。

膝蓋部挫創

キシロカインゼリーを塗布 フィルム材で密封

ブラッシング中 この後,アルギン酸貼付

翌日の状態 翌日よりプラスモイストに

肛門部,外陰部の潰瘍

白色ワセリンの頻回塗布。 紙オムツ(生理用ナプキン)の患部が 当たる部分にフィルム材を貼付。患部 にワセリンを塗布して,このオムツを 当てる。 排便などで汚れたら取り替える。

裂創の治療

3.

4.

5.

1.

2.

創周囲の汚れを拭き取る。創内洗浄は 不要。 創内が汚染されている場合は,局所麻酔 下に洗浄,ブラッシング,デブリードマン。 創内も創周囲も消毒は不要。 局所麻酔は創面から針を刺入。 縫合の手袋は未滅菌でよい。

裂創の治療 2

創が深い場合,出血している場合は 開放式ドレーンを創口より挿入して留 置。 血腫予防のために圧迫。 手指の場合は,患肢挙上するように 説明。 翌日は必ず診察。圧痛,発赤などが あったら迷わずに抜糸して開放する。

裂創の治療 3

顔面では 5-0 か 6-0 ,その他の部位は 5-0 か 4-0 のモノフィラメント・ナイロン糸で縫合。 抜糸は顔面では 4 , 5 日頃 それ以外の部位では 6 , 7 日目頃。 抜糸後は瘢痕が開大しないように,傷に直 角にテーピング。毎日張り替え, 3 ヶ月続け る。

顔面裂傷の治療

マットレス縫合は絶対にしない。 深い裂創でも表面を細かく合わせ,圧迫す るだけできれいに治る。 縫合の技術がなければ無理に縫合を行わ ない。テーピングと圧迫だけでも裂創は治 療できる。

2

週間後

5

日後

小児の頭皮裂創

圧迫止血 創縁両側の 毛髪数十本を 両手で持つ 創が閉じるように 毛髪を引き寄せる ヘアドライヤーで 固める 毛髪の交叉部に ノベクタンスプレー を噴霧 数回繰り返す

その後の処置

出血がなければドレッシングは不要。 翌日診察し,異常がなければその日 の夜から洗髪可能。 以後は通院不要。

小児の顔面裂創はテーピングで 血腫予防のために 必ず圧迫する 圧迫止血する

翌日からの処置

圧迫した絆創膏,ガーゼを除去し,テーピ ングも傷が開かないように丁寧に除去。 きれいに洗う。 圧痛,出血がなければほぼ大丈夫。 再度テーピングと圧迫。 これを 2 ~ 3 日続ける。

4 日後の状態 外科医でなくて も治療できる。 治療が痛くない。 親の評判が良 い。 処置の時に押え つける必要がな い。

指の麻酔

MP 関節掌側の手掌指節 皮線正中。 キシロカイン(エピネフリ ンなし): 1.5

~ 2.0ml

深さは脂肪層。 注射後は数分待つ。 掌側全体,背側遠位部 が麻酔される。

縫合前の止血

小児の手・指裂傷

2 歳女児。傘の金 具で手掌裂傷。 アルギン酸塩被覆材と フィルム材を貼付。

翌日 45 日後 ハイドロコロイド貼付

指尖部損傷

消毒,創洗浄は不要。創が汚染されている 場合は,局所麻酔をして洗浄,ブラッシン グ。 アルギン酸塩被覆材を貼付してフィルム材 で密封。 環指挙上するように指導。 抗生剤は通常不要。

電動カンナによる指尖部損傷 受傷時の状態 翌日の状態

11 日目 28 日目 42 日目

6

日後 25日後

31

日後

爪甲剥離

爪甲剥離

初診時 直ちにアルギン酸 で被覆

ポリウレタンで被覆 7 日目 14 日目

爪根部脱臼,爪甲断裂

爪 根 部 脱 臼

爪根部脱臼,爪甲断裂

爪根部脱臼,爪甲断 裂では末節骨骨折 が必発 基本病態は末節骨 の開放骨折である 開放骨折の治療が 必要 抜爪して爪床裂創を吸収糸で縫合し アルギン酸塩被覆材を貼付。 シーネで外固定。

爪下血腫

局所麻酔下に爪半月部の爪甲に 18G 針で 穴を開け,鋏で穴を拡げる。 3-0 ナイロン糸数本を爪下の近位方向に挿 入。 ナイロン糸を絆創膏固定。 ハイドロサイトを貼付。

動物咬傷

咬まれて牙が刺さった場合  真皮までの深さならハイドロサイトかプラスモ イスト貼付のみ。  脂肪層に達しているなら 3-0 ナイロン糸 5 本ほ どを創内に挿入し,ハイドロサイトかプラスモ イストで覆う。 皮膚軟部組織欠損の場合  局所麻酔下に創内をブラッシングし,アルギン 酸塩被覆材を貼付し,プラスモイストで覆う。

2

ヵ月後

犬咬傷による手背の広範囲皮膚欠損 受傷時 3日後

患部を安静にせずよく使うよう指導 田植えをしたい 11 日後 17 日後

24 日後 42 日後でほぼ治癒。 関節拘縮なし。

前腕部全層皮膚欠損

30 代女性。 作業中の事故で前腕遠位尺側に 8 × 5 セン チの全層皮膚欠損受傷。 初診時はアルギン酸塩被覆材貼付。その 後はプラスモイスト貼付。 保存的治療で完治したが,運動障害など の機能障害なし。

5

日後

27

日後

49

日後

70

日後

83

日後

104

日後

初診時

140

日後

下肢の裂挫創

他院が消毒してから紹介。 ドレーンを留置し縫合。

10 日後 21 日後 ナイロン糸ドレナージ

28 日後 64 日後 38 日後

ドレーンを入れるか入れないか 迷ったら入れる 迷ったら面倒 な方を選ぶ

入れて起こるトラ ブルはないが,入 れずに起こるトラ ブルはある。

下腿の広範囲皮膚壊死

80 代女性。 10 日前に左下腿外側を打撲し血腫形成。 皮膚の損傷なし。 3 日前から皮膚が暗紫色となり,昨日から 皮膚壊死に。 初診時,直ちに壊死皮膚を切除し,「穴あ きポリ袋+紙おむつ」で被覆。 通院は 1 週間に一度。

デブリードマン後

5

日後

19

日後

35

日後

64

日後

89

日後

103

日後

熱傷局所治療

患部の冷却は 5 分程度で十分。 水疱ができていたら水疱膜をすべて 除去。 ワセリンを塗布したラップで貼付し, ガーゼを当てて包帯を巻く。 暑い時期は一日数回,寒い時期は一 日一回,ドレッシング交換。 創周囲の皮膚をよく洗う。

3

日後

15

日後

50 代女性。 2 日前に衣服に引火して顔面熱傷。 糖尿病+腎不全,人工透析中(週 3 回)。

プラスモイストで被覆 受傷後 46 日目 受傷後 15 日目

受傷後 60 日目 受傷後 86 日目 受傷後 165 日目

受傷後 165 日目。開瞼・閉瞼は自然に行え, つっぱり感などはない。

3 日目。洗っても痛くない。

7 日目 22 日目

36 日目 47 日目

まだ角化していない上皮 角化が完了した上皮 34 日目 40 日目

低温熱傷の治療

受傷直後(初診時)には変化がなく, 1 週間 目頃,突然皮膚が壊死することが多い。 初期から正しい治療をしても,皮膚壊死は 防げない。 壊死が起きたら速やかに壊死組織を切除 その後は湿潤治療で自然に上皮化させる

低温熱傷の経過

受傷翌日 5 日後 デブリから 5 日後

デブリードマン直後 7 日目の状態 プラスモイスト貼付

デブリから1 9 日後 40 日後 50 日後

低温熱傷で蜂窩織炎

デブリードマンの翌 日。発赤は消滞。

熱傷,褥瘡に使っていけない軟膏 ゲーベンクリーム(基剤がクリーム) ユーパスタ(基材が高浸透圧,消毒薬) カデックス軟膏(基材が高浸透圧,消毒薬) イソジンゲル(消毒薬) オルセノン軟膏(基剤がクリーム) アクトシン軟膏(基材が高浸透圧多糖体) ブロメライン軟膏(同 上) オロナイン H 軟膏(クリーム+消毒薬)

ゲーベンクリームは傷を深くする

正常な皮膚 角層破壊後

人体実験:ゲーベン連日塗布

3 日後

アクトシンも傷を破壊する

正常な皮膚 角層破壊後

人体実験:アクトシン連日塗布

実験開始

術後創の離開・感染

縫合糸を抜去して十分に開放する。 創部と創周囲の皮膚はシャワーで洗 う。 滲出液・膿汁が多い場合は紙オムツ を直に貼付,少なくなってきたら「穴あ きポリ袋+紙おむつ」で被覆。 非吸収性の筋膜縫合糸は術後 3 週を 経過したら抜去可能。

術後縫合創離開の治療

初診時(術後 14 日目)。前日に 全抜糸している。 筋膜縫合糸を 抜糸した。 入浴後,「穴あ きポリ袋+紙お むつ」で被覆。

術後 15 日目。退 院となり週 2 回の 外来通院へ。 術後 36 日目 術後 42 日目

術後 70 日目 術後 84 日目 中心部を除い て上皮化した。 術後 118 日目

80

代女性の術後創離開

6 日後 14 日後

20 日後 34 日後 42 日後

治療開始時 48 日後。他院に転院

項部術後離開創

70 代後半の女性。頚髄症の術後。

2 週間目 3 週間目 4 週間目

初診時 5 週間目

骨折固定プレートが露出したら

皮弁手術などで創を閉鎖すると感染必発 金属プレートが露出し,ドレナージが確保 されていれば感染しない。 創が閉じないようにドレーンを留置する。 骨折が治癒するまでプレート露出を維持し て,骨折治癒したらプレートを抜去。 入浴は普通にさせる。清潔操作も不要。消 毒薬は厳禁。

手術終了時 19 日後

22 日後 25 日後 27 日後

34 日後 41 日後 62 日後

90 日後 111 日後 146 日後

陥入爪の治療

爪が湾曲しているから痛みが出るわ けでない。 深爪するから化膿する。 爪が伸びきってしまえば感染も痛みも 起こらない。 爪ヤスリとテーピングで根治可能 。

テーピング終了時の状態

接触性皮膚炎の治療例 皮膚が傷ついている

痒い 掻くと 皮膚が傷つく 掻いてしまう

傷を治せば痒みは止まる? ワセリンを塗布 した食品包装用 フィルムで覆う 痒みがなくなった !

初診時 3 ヶ月目

手荒れ,主婦手湿疹の治療

① 小さじ半分の白色ワセリンを手に取 り,指,手掌,手背に時間をかけて 揉み込む。 ② ③ 乾いたペーパータオルなどでべたつ きをふき取る(車のワックスがけの要 領)。 一日に数回,手のワックスがけ

女児の手荒れの例

初診時 13 日後

初診時 13 日後

尿素クリームは ヒビ・アカギレ,乾燥肌を悪化させる 正常皮膚 角化層損傷皮膚

尿素クリームは肌荒れを悪化させる 尿素クリーム: 20 時間後 ワセリン: 20 時間後

尿素含有クリームとは何か

クリーム =界面活性剤=細胞障害性あり ⇒ クリームは正常皮膚にしか使えない ⇒ 皮膚に必要な皮脂を融解・除去する 20%尿素 は実験では細胞膜破壊薬 尿素 は角質のペプチド結合を破壊するこ とで角質(=皮膚)を破壊

ヒポクラテスの誓い

I will prescribe regimen for the good of my patients according to my ability and my judgment and

never do harm to anyone

.

私は能力と判断の限り患者に利益すると 思う養生法をとり, 悪くて有害と知る方 法を決してとらない 。

この講演で使用したスライドは 皆様に進呈します。 無断使用・無断改変, コピー配布大歓迎! スライドファイルは http://www.wound-treatment.jp/ ronbun-pdf/slide からダウンロードできます。