創傷被覆材による 急性創傷治療の実際

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Transcript 創傷被覆材による 急性創傷治療の実際

軟部組織欠損の湿潤治療

-保存的治療に限界はあるのか?-

石岡第一病院 傷の治療センター 夏井 睦

1 歳男児。 熱湯による足 背熱傷で,某 大学形成外科 で 2 週間入院 治療 植皮をしないと 治らない,植皮 をしないと歩け なくなると説明 を受けた 56 日後

保存療法(湿潤治療)の原則

消毒をしない,消毒薬を使わない 創面の乾燥を防ぐ ⇒ 創傷被覆材を使用 創面破壊薬を使用しない(例:ゲーベン,ア クトシン,カデックス,ユーパスタなど) 創感染に対しては,感染源の除去(デブリ ードマン,ドレナージ)で対応する

創傷被覆材など

アルギン酸塩被覆材(アルゴダーム ® ,ソー ブサン ® など)  出血している創面。 ハイドロコロイド被覆材(デュオアクティブ ® )  指尖部損傷,顔面の皮膚欠損創。 プラスモイスト P ®  四肢,体幹の皮膚欠損創。膿痂疹。慢性湿疹。 「穴あきポリ袋+紙おむつ」  浸出液の多い皮膚欠損創。感染創。

電動カンナによる指尖部損傷

20 歳男性 電動カンナで作業中に右 示指指尖部損傷 末節骨遠位部は欠損し, 骨断端は創面に露出

アルギン酸塩被覆材で被覆 し,直ちに止血が得られる 翌日の状態

11 日目 28 日目 42 日目

7 日目の状態 翌日からはプラスモイストのみ貼付

20 日目の状態

33 日目の状態

64 日目の状態

20 歳男性 作業中に右小指を 機械に巻き込まれて 受傷 直ちにアルギン酸塩 被覆材を貼付し,フ ィルム材で密封 翌日からはプラスモ イストで被覆

受傷翌日 10 日目 15 日目

25 日目 30 日目 57 日目

犬咬傷による手背の広範囲皮膚欠損

受傷時 72 歳女性 自宅の飼い犬に右手背 を咬み取られる 小指固有伸筋腱が露出 していたため当科を紹 介された 創洗浄後,アルギン酸 塩被覆材とフィルム材で 被覆

翌日からポリウレタンフォーム被覆材で被 覆し,患部を安静にせずよく使うよう指導

3日後 11 日後 17 日後

24 日後 42 日後でほぼ治癒。 関節拘縮なし。

86 歳男性 転倒して右手背に裂 挫創を受傷。 創縫合したが皮膚は 極めて脆弱で薄く,剥 離した部分の皮膚の 血流はなかった。

縫合直後の状態 プラスモイストで被覆 9 日目:皮膚は全て壊死した

14 日目 20 日目

30 日目 37 日目

43 日目:手・指を普通に使っている。

手術終了時 68 歳女性 交通事故で左下腿 開放骨折。受傷時, 既に皮膚は高度に 圧挫されていた。 主治医は手術終了 時より乾燥を防ぐた めにワセリンを塗布 したラップで患部を 被覆

19 日後 プレートと脛骨が見える

直ちにデブリードマン 25 日後 27 日後

34 日後 41 日後 62 日後

90 日後:退院した 以後は週 1 回の通院 111 日後

146 日後 入浴は自由とし,温 泉も許可。 抗生剤は使用しな い。 ラップで覆うのみ この状態で骨癒合 を待ち, 3 ヵ月後に プレートを抜去。創 部も問題なく治癒し た。

プレートが露出している ドレナージが効いている 感染しない プレートが露出していると安全

75 歳女性 10 日前に下腿を打 撲。腫脹はあったが 傷がないため放置。 3 日前より疼痛が出 現。 2 日前より皮膚 が黒変し発熱。 壊死組織下に大量 の血腫あり。

1 日後 4 日後 19 日後

49 日後 70 日後 103 日後

40 歳男性 作業中に機械 に右下腿を挟ま れて裂挫創を受 傷。 直ちに縫合を行 ったが,血腫形 成のため創感 染を起こし,開 放創とした。

15 日後 プラスモイスト貼付 22 日後

50 日後 85 日後 137 日後

83 歳,男性 20 年前より糖尿病で 治療中。 5 年前より腎 不全。車椅子生活。 アキレス腱部の挫創 が治らず,アキレス腱 が露出したため受診。 壊死した腱を少しずつ 切除し,プラスモイスト で被覆。

28 日後 61 日後 82 日後

166 日後 238 日後 348 日後

38 歳男性 3 週間前,交通事 故で右殿部の裂挫 創を受傷。近医に て創縫合を受ける が,皮膚が壊死し 遊離筋皮弁移植が 必要といわれた。 インターネットで検 索し,当科を受診。

直ちにデブリードマン 穴あきポリ袋で被覆 5 日後 皮膚壊死はその後も進行

12 日後 18 日目に退院 以後は自分でドレッシング交換

70 日後 患者家族が撮影 以後はメールで状態 連絡してもらった。 近医も受診していな い。 「穴あきポリ袋+紙お むつ」で被覆 退院後,仕事に復帰 したが,特に困ったこ とはなかったとのこと ゴルフもしている

90 日後 患者家族が撮影 仕事は普通にし ている。 温泉にも入って いる。 スポーツには全く 支障なし。 全経過を通じ,感 染は起きなかっ た。

会陰部ガス壊疽(フルニエ壊疽)

69 歳男性 数日前から食思不振があり, 8 月 6 日,突 然の高熱で当院受診。 会陰部~殿部に高度腫脹 直ちに切開し,黒色の膿汁が大量に流出 陰嚢部皮膚が壊死し,両側睾丸が露出

初診から 16 日目。 創部は「穴あきポリ袋+紙おむつ」で被覆。 ゲーベンなどの抗菌剤軟膏類は使用せず。

27 日目 54 日目 133 日目

140 日目 154 日目

210 日目

2 度熱傷, 3 度熱傷 241 例中,湿潤治療で 治療できなかったのは 1 例のみ  未治療の糖尿病。下腿熱傷で急激に動脈閉 塞をきたし,下腿遠位が全壊死した症例  他院(大学病院,熱傷センターなど)で植 皮が必要と説明された症例で,湿潤治療 で治癒しなかった例は皆無。  瘢痕拘縮も皆無。 肥厚性瘢痕はないか,あってもごく軽度。

湿潤治療に限界はあるのか?

2 度熱傷, 3 度熱傷 241 例中,湿潤治療で 治療できなかったのは 1 例のみ  未治療の糖尿病。下腿熱傷で急激に動脈閉 塞をきたし,下腿遠位が全壊死した症例 他院(大学病院,熱傷センターなど)で植 皮が必要と説明された症例で,湿潤治療 で治癒しなかった例は皆無。 瘢痕拘縮:ほぼゼロ 肥厚性瘢痕:ないか,あってもごく軽度。

湿潤治療に限界はあるのか?

肩甲骨,頭蓋骨,脛骨,指節骨露出は全 例湿潤治療で治癒した。 骨露出例,骨髄露出例で創感染,骨髄炎 を起こした例はない。 寝たきり患者で第1趾背側壊死から MTP 関節面が露出した症例も保存的に治癒し た。 上皮化に長期間を要しても瘢痕拘縮は起 きない。

湿潤治療に限界はあるのか?

四肢軟部組織欠損で瘢痕拘縮,関節拘縮 を起こした症例はない。 指切断で断端に深指屈筋腱が露出してい れば腱を短くする必要があるが,実際には 「指詰め」症例以外になかった。 手背伸筋腱露出は問題なく治癒。 手掌屈筋腱全長露出は治療経験なし。