その4 - 東京薬科大学 生命科学部

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Transcript その4 - 東京薬科大学 生命科学部

4 研究とは何か:研究倫理
Research Ethics
生命科学とは何か
特許の始まり
• 特許は最初イギリスから。印刷技術を導入
する引き替えに専売権を与えた。
• 目的は技術の公開。これがさらに技術を発
展させる。
• 技術発展の障害とならないよう期限をつけ
る
• 1985年、レーガン政権下のアメリカは「強
いアメリカ」を取り戻すため」知的所有権の
保護と強化、多くの法律が成立
特許の条件
• 1.産業上利用できる発明である:特許制度の目
的は産業の発展
• 2.新規性のある発明である:学会発表に留意
• 3.進歩性のある発明である:材料を変えてみた
だけ、形状が変わっただけ
• 4.先願の発明である:アメリカは違う(今後、日
米欧間で調整される)
• 5.不特許事由に該当しない発明である:風俗、
公衆衛生を害するような発明
知的財産権の種類
出願手続
弁理士
出願料
特許料、外国特
許は高額
ゲノムと特許
• 1990 国際ヒトゲノム計画開始、当初は技術開発
• 1999 Celera Genomics社が参入し特許申請、Bill
Clinton/Tony Blairが公開を決める。1999.12以降、
配列だけでは特許が申請できなくなった。
• 2001.2 セルラ社と国際チームが妥協(この時点で
90%完了) 2003.4の完了宣言につながった。
• 機能や有用性のないDNA断片は特許を認めない。
• 配列が違っても相同性が高いDNA断片は新規で
ない。
• 日本は企業が86%、アメリカは大学等が84%
タンパクと特許
タンパク質も同様、構造だけでは特許はとれ
ない。 有用性を明らかにする必要がある。
特許の問題点
• 日米欧間で制度が違う アメリカは先発
明主義、日欧は先願
• 学会発表に関し、日本のみ新規性喪失の
例外規定 外国出願には適用されない
• 卒論発表会は例外規定が受けられない
• 出願が多すぎて十分な審査ができていな
い
• バイオは進歩が早く審査員が理解できな
い
2 学会
• 成果の認知が必要:特許と矛盾
• 学会は任意団体:いくらでも作れる(日本学術会
議の認定には会員数、印刷物の刊行など一定
の条件が定められている)
• 年会費を払うと会員になれる:昔は推薦や資格
審査があった。
• 多くの学会は「年会」を開催し、「学会誌」を刊行
している→研究成果の発表=認知
3 論文
• 論文には原著論文Original paperと総説
Review articleがある
• 共に審査を経るのが普通:無審査の場合は
論文数に数えない
• 論文に関わる倫理はWriting Ethics(連名の
著者は誰にするか、誰が筆頭著者か等)
論文審査
• 担当編集委員がざっと読んで、2人の論文審査
員(refereeまたはreviewerという)を決める。審査
員は独立に意見を述べる。ポイントは新規性、波
及性、先導性
• 判定は担当編集委員が独断で行う。運が左右す
る
• 採択、小修正(担当編集委員のみが再度審査)
大修正(また審査員を決めて審査) 却下
• 却下に対し異議を述べることは可能、しかし悪い
印象を与えることが多い
• 審査に伴う盗作の問題
論文の形式
• 雑誌ごとに形式が決まっている(特に文献)
• カバーレター:概要、審査員の候補、審査されたく
ない競争関係にある研究者名
• 以下の順に書く
• Title 題名、Authors 発表者、Affiliation 所属
ここまで表紙
• Abstract/Summary 要約
• Introduction 序文=目的と背景
• Materials and Methods 実験方法 再現できるよ
うに詳しく
論文の形式(続)
•
•
•
•
•
•
•
•
Results 結果
Discussion 検討 結果と一緒にまとめてもよい
Acknowlegdements 謝辞 表紙に書くこともある、
学位論文では一番最後
References 文献 書き方が決まっている
Tables 表
Figure Legends 図の説明 表紙からここまでは
通しのページ番号
Figures 図
学位論文などでは図、表は適宜、本文中に挿入
論文に関する問題点
• 著者は全員が内容について責任をとるべ
きだがーーー。
• 審査の途中で内容が盗まれるーー科学者
の世界ではアイディアを尊重する風潮は消
滅してしまったようだ
• 重複投稿;例同じ図は別の論文には使え
ない、図を表に書き換えても許されない
4 研究費
現代科学の問題点と研究費
• 産業化・軍事化 特定の研
究に研究費が集中する
• 巨大化 生命科学の研究で
さえ巨額の施設が必要
• 過度の競争 研究のための
研究費か研究費のための
研究か
研究費はどこから来るか
• 生命科学の研究室でも一人当たり年間数百万円
は最低限必要
• 大部分は国の研究費=税金:これで趣味的な研
究をしてよいのか
• 日本では文部科学省「科学研究費補助金(略称
科研費)」、経済産業省、厚生労働省、農林水産
省と多技にわたる このため重複申請、重複受領
の問題が生じる アメリカでもNIH、NSF
• さらに同じ文部科学省からでも日本学術振興会と
科学技術振興機構(JST)がある:トップダウンと
ボトムアップ、研究者個人対象と機関対象
• 民間企業からの寄付金 実は税金と変わらな
い?、使いやすい 額は理学系は少ない
研究費はどこから来るか 続き
• 東薬大生命科学部の場合
• 大学から ソースは授業料と税金
• 文部科学省から 科学研究費補助金
そのほかの基金、特に私学振興事業団が主 文
部科学省は学術振興会、科学技術振興機構を
通しても研究費を出している
• 他省庁の研究助成金(例 経産省)
• 民間企業からの寄付金 実は税金と変わらな
い?、使いやすい 額は理学系は少ない
平成20年度の科学研究費補助金
• 予算案総額 193,200,000千円
• 前年比 1,900,000 千円増
• ーーーーーー
主な研究助成財団2006年の実績
• ゲイツ財団 110,000,000 千円
• ハワードヒューズ財団 86,000,000 千円
• ラマシオッティ財団(オーストラリア)
1,400,000 千円
日本の科学研究助成財団の功績
• 厳格なPeer Reviewが実施され、褒賞の性
格があり、次の補助金の呼び水の役を果
たしている
• 純粋研究を支援し、応用の成果を要求さ
れない
• 使い勝手がよい(研究者は善人)
研究費の獲得法
• 大部分は公募申請、ごく少数はトップダウン
• 審査はPeer Review 仲間内審査
• 審査の内容:1 計画に独創性はあるか
2 実績はあるかー過去の研究実績の乏
しい人は採択されない
3 要求している経費は適正か
Peer Review審査の問題点
• 革新的な研究計画が低く評価される傾向がな
いか
• 同じように長期にわたる雄大な研究は採択さ
れ難い
• 審査員は適正か?
• 適正な採択率か 基盤的な科研費では採択
率は20-25%、CRESTの基盤的領域では5%、
民間財団の助成金は10-15%が多い
5 研究評価
• 評価委員会 これもpeer review
• 公募、評価、任期制
• 弊害は伝統が育たない
• 評価項目 論文の質と量、 研究費獲得実
績、教育の実績(何人の博士を輩出した
か)、学部、大学(研究所)への貢献、 学
会や社会への貢献
Impact factor被引用率
広く使われているが、多くの問題がある
•
•
•
•
•
•
•
Cell 36.2
Nature 26.6
Mol Cell 25.6
Trends Cell Biol 14.1
EMBO J 13.9
Nat Str Biol 13.5
J Cell Biol 12.9
• J.Biochem 2.2
基礎研究のアウトリーチ
• 研究費獲得にも後継者養成にも役立つ
• 一般への説明=科学者のアカウンタビリテ
ィ
• 必要な条件は 1やさしい言葉 2面白さ
3意味ある内容
6 研究室とは何か
研究室を選ぶ
研究室を選ぶ
研究室を選ぶ2
研究室を選ぶ3
研究室を会社と思うと分かり易い
研究室を選ぶ4
7 研究テーマの選び方
研究テーマの選び方2
研究テーマ選択の問題点
• 社会的な制約と内的な好奇心の葛藤
• 好奇心を捨てては科学の本質を損なう
• 好奇心の質的な変化が求められている 科学の
ための科学から社会のための科学
• 基礎研究のための研究費が公的資金であること
は世界共通の事実 なぜ?
8 大学院の問題点
• 1991→2000年で倍増以上→レベルの低下
• 職がない
• 教員もレベル低下、「大学院生はどの教授が有
能かを驚くほど知らない」白楽
• 大学院教育をしていない
• 院生側の問題
• 1)やる気がないー研究室にいない
• 2)自分で考える能力がない
• 3)もともと社会的に不能力者がいくから
• 4)生命科学研究者としての資質を欠いていな
いか?
大学院の問題点 2
• 奨学金 博士課程院生の生活費の平均は
授業料を含め月平均21万円。博士課程3年
間の経済的損失は12,600,000円(文科省調
べ)
• COEに採択された学部では院生に「給費」
を払っている
• 論文博士:海外にはない。過去の統計では
課程博士とほぼ同数だが減少の傾向。大
学院をスポイル?
研究者に向かない人(白楽)
•
•
•
•
•
学者になることがステータスと思っている学生
自分は頭脳明晰と過信している学生
緻密さに欠けずぼらでルーズな学生
研究室に憧れてただいるだけで満足な学生
他人の畑がよく見えて、自分の研究は下らない
テーマと思っている学生
• 怠け者
• 論理的な思考ができない学生
• 本当に頭脳が極端に劣る学生
博士研究員=ポスドク=
Postdoctoral fellow
• 欧米では大学院→ポスドク→助教授など
アカデミック・ポジション
• 1996文部省(当時)がポスドク1万人計画
を実施
• 自分の研究ができない
• 後の職がない
9 研究における不正行為
Spy & Misconduct
• スパイは益しない
不正行為
• 税金であるから犯罪である
• 科学の社会的信用を失墜させる
• 3種ありFFPということがある
Fabrication でっち上げ
Falsification 変造
Plagiarism 盗作
• 米NSFの調査では年3件=0.01%
Spyの実態
動機
• 1 金
2 思想的
3 恋
4 冒険心
スパイは益するか
• 基礎研究を推進する意欲を減退させ、損
失のほうが大きい
• しかし、時には一時的に益することもある
CaseStudy
• Racker ATPaseの研究で多大な功績があ
ったーSpencer事件で失脚、失意のうちに
逝去
• Imanishi-Kari事件
• Baltimore 1975ノーベル賞
• Imanishi-Kariは日本生まれ、欧州で学位
• 1981 MIT Baltimoreのもとへ
• 1986.4.25 Cellへ論文
• 1985 Imanishi-Kariはタフト大へ
• 1986 後任のMargaot O’Tooleがねつ造と
訴える MITの調査はシロ Margoto去る
• 1988 プロが取り上げBaltimoreが訂正
• 1989 米議会が聴聞会
•
Baltimore「科学を破壊している」
• 1990 シークレットサービスが乗り出す
•
NIHはImanishiへの研究費を停止
• 1991 NIHは2ヶ所にねつ造と報告し、
Baltimoreは謝罪
• 今はねつ造はなかったと結論
不正の源:独創的な研究
• 「科学は真理を追究する」は科学の一面
• 例 なぜ「よい」雑誌に発表したがるの
か?真実はどの雑誌でも変わらないのに
• 科学研究には2種類ある 後追いの研究と
先駆けの研究
• 真理はあり得るか?多くの場合、多数派の
意見が真理でないか?Ribozymeのケース、
「真理」は証明より論争により決定されてい
る
よく見られる不正行為
• 仲間がデータの改ざんなど不正をしている
のを見逃した
• 自分の過去のデータと矛盾したデータが出
たが、それ以上追求していない
• 他人のアイディアを利用したが、それを断
っていない
• データの改ざんまたはねつ造、Photoshop
などソフトを使って加工した図を含む論文
は採択しない
• 再現性のないデータを発表
よく見られる不正行為ーその2
• 研究に関する記録が不十分
• 同じ研究の結果を2つ以上の論文に重複
して記載した
• 提案書、研究計画書に詳細を書かなかっ
た
問題点
• 立証が困難、疑義を払うことはもっと困難
• 疑われると科学者は生命を絶つー保護がない
• どこまでが不正か境界が曖昧ーセミナーでヒント
を得た:これは不正か
• 論文に肝心のコツを書かないーこれは不正
• 投稿論文は普段より遅く掲載されたー1週間後、
雑誌の審査員の一人の研究室から類似論文が
出た???
• 実験科学者は過ちを犯すと不正なのかーNIHは
損害が生じたときは犯罪としているー誤りは実験
科学の属性でないか
解決法
• Misconductをしない
• 思い通りの結果の時気をつけるーピルトダ
ウン事件
• 実験ノートを正確に、丁寧に書く
企業でも同じ
•
•
•
•
•
•
•
自己診断(ロッキード・マーチン社)
*あなたの行為は合法ですか
*あなたは正直ですか
*あなたの行為は時の試練に耐えられますか
*自分に対しどんな気持ちでいますか
*子供が同じことをしたら親としてどうですか
*あなたの行為を家族が知ったらどうですか
不正に対処するには
• 公益目的の内部告発は法律により保護さ
れている(奨励?)
• 1 第三者を含む委員会による調査
• 2 速やかな公表
• 3 再発防止策をたてる
9 生命科学とは何か
• 生命の研究は、近代自然科学から取り残さ
れ「博物誌(史)」であった
• やがて総合的な研究が必要となった
• 生命科学とは:
• 1 生命を貫く一般則を明らかにする 物理
科学の一員であり総合科学である
• 2 その上でヒトの特性を明らかにする
• 3 その上でヒトがヒトらしく生きる道を探る