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ART(Anti-Retroviral Therapy)について
<はじめに>
抗HIV療法(ART)によって、エイズによる死亡数およびエイズ関連疾患の発現頻度を著しく減少させることが可能と
なった。その結果、HIV感染患者もおそらく天寿をまっとうでき得る水準まで予後が改善しており、免疫能破綻による
日和見感染やエイズ関連の癌、臓器障害による死亡は減少し、生活習慣病等に起因した心血管系疾患や癌による
死亡が増加している背景がある。
<ARTとは>
HIVは変異を起こしやすく、薬剤耐性を獲得しやすい。そのため、原則3剤(以上)を併用する。HAART(Highly
Active Antiretroviral Therapy)とも言うが同義である。
http://www.iwakimu.ac.jp/BioSC/data/NEWS-AH-1.htmlより改変
フュージョン/
エントリー阻害剤
<ARTに用いられる抗HIV薬>
HIVがCD4陽性T細胞(CD4)へ感染・増殖するサイクルに
おいて、必須となる過程を特異的に阻害する(右図)。
•フュージョン/エントリー阻害剤
•逆転写酵素阻害剤…核酸系逆転写酵素阻害剤(NRTI)と
非核酸系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)がある。
•インテグラーゼ阻害剤(INSTI)
•プロテアーゼ阻害剤(PI)
逆転写酵素阻害剤
インテグラーゼ阻害剤
プロテアーゼ阻害剤
上記薬剤の併用により、血中HIV量を検出限界以下(TaqMan法)に抑えCD4を上げる(>350/mm3が望ましい1) )こ
とが、 ARTの数値的な目標であり指標となる。この事は、患者の免疫能および臨床症状の回復、ひいては予後改善
やHIV二次感染予防につながる。これが、ART全体を通した目標と言える。
<実際の診療について >
ART開始の基準は、CD4<350でただちに治療開始だが、それ以上では明確ではなく~500では開始を推奨、 >500
は個々の患者により検討という傾向にある 1,2) 。ただし、妊婦やHIV腎症では全例、HBV重複感染者で肝炎治療を
必要とする患者では、CD4値に関わらず治療開始が推奨されている2) 。
治療開始前の重要なチェックポイントとして、患者の金銭(助成制度)や病識(アドヒアランスの重要性)に関する問題
の解決、薬剤選択に必要となる情報収集(基礎疾患、感染症検査、妊娠検査、薬剤耐性検査)が挙げられる 。
抗HIV薬3剤の組み合わせは、キードラッグ1剤(NNRTI, PI or INSTI)とバックボーン(NRTI)2剤の併用が基本である。
初回療法として推奨されるARTと1日投与剤数は下の表を参照2) 。その他、注意すべきポイントは以下の通り。
薬物相互作用の問題
併用禁忌や併用注意となる薬の組み合わせは多岐にわたる。必ず
投与前や薬剤変更時には最新の情報(ガイドライン改訂は日進月
歩)をチェックする必要がある。
特に注意が必要となるケース1,2,3)
妊婦…推奨薬は、LPV/r/AZT/3TC。催奇形性のあるEFVおよび
薬効が保障できなくなるとされるNFVは使用を避ける。母子感染は、
RTV点滴、新生児へのRTV投与で予防する。
HBV感染例…重複感染が多く、重症化しやすい。HIV、HBVともに
有効な薬(TDF/FTC, TDF/3TC, ETV, ADV)があり、併用の仕方に
よっては耐性を誘導しやすいため、注意する。
その他、結核(TB)や悪性腫瘍の合併例、思春期・青年期、肝/腎
機能低下、心血管系疾患のリスク高い例にも注意が必要。
抗HIV薬の副作用、合併症について1,2)
様々な副作用がある。高血糖・糖尿病・出血傾向(PI) 、乳酸アシ
ドーシス・脂肪肝・ギラン・バレー症候群症状(NRTI)、肝・腎機能障
害、心血管系疾患、精神神経症状、脂質異常症、発疹など。HIV感
染患者の余命が伸びた今日、副作用による長期の非感染性合併
症(生活習慣病や認知障害、うつなど)にも注意が必要がある。
ARTの効果判定について、HIV量が減らない場合は、まずアドヒアランスの低下を疑う。ブリップ(ウィルス量が1次的
に増加する)でなければ、耐性を考慮し薬剤耐性検査を行う。
HIV量が減少しているにも関わらず、 CD4が増えない場合は、服用している薬の副作用(骨髄抑制)を疑う。
<参考文献> 1) 抗HIV/エイズ薬の考え方,使い方, そして飲み方 岩田健太郎著 中外医学社、 2) HIV感染症『治療の手引き』 <第15版> HIV感染治
療研究会、 3) HIV感染症治療ガイドライン The Department of Health and Human Services (DHHS)