Transcript メディア理論5
主題4:ケータイ文化の理論 JEカッツ/MAオークス編『絶え間なき交信の時代』 2003 Perpetual Contact : Movile Communication, Private Talk, Public Performance. 2002 ■構成 世界12ケ国の研究者による携帯電話に関する論文集 第1部 国ごとの比較研究 第2部 個人間やミクロ・レベルでのコミュニケーション 第3部 携帯電話の特性や公的場面での役割 ■経歴 ジェームス・エヴェレット・カッツ…1948年生まれ テクノロジーと社会に関係する研究 『接続…米国生活における電話の社会的・文化的研究』(1999) マーク・アラン・オークス…1964年生まれ 1999年12月9日〜10日まで開催された ロジャース大学でのモバイル・コミュニケーションに関するワークショップ での報告 ■引用 ガーゲン 「アイデンティティがますます立場的、暫定的、そして任意的であるよう な文化的状況へと我々は移行するのである。」197頁 カッツ・オークスの結論 絶え間なき交信の論理 絶え間ない交信は、通信技術のソシオ-ロジックである。ソシオ-ロジック は、…時間を越えて一緒に考え行動する人々のコミュニケーションから 生まれた「社会的に発展した意味での実践的論拠である。絶え間ない 交信の注目すべきイメージは、純粋コミュニケーションのイメージである。 それはピーターズが述べているように、身体的な制約なしに生まれる天 使の会話のように、誰かと心を共有するという期待に身を任せたコミュ ニケーションの理想化である。純粋コミュニケーションは、…絶え間ない 交信の論理の何か具現化されるイメージである。 ■日本での携帯電話研究 富田英典・藤本憲一・岡田朋之・松田美佐・高広伯彦『ポケベル・ケー タイ主義』1997 川浦康至・松田美佐『現代のエスプリ 携帯電話と社会生活』2001 岡田朋之・松田美佐『ケータイ学入門』2002 ラインゴールド『スマートモブス』2003=2003、Smart Mobs Ito. M, D . Okabe and M. Matsuda (eds), 2005, Personal, Portable, Pedestrian: Mobile Phones in Japanese Life. MIT Press. 松田美佐・岡部大介・伊藤端子『ケータイのある風景』2006 水越伸編著『コミュナルなケータイ』2007 小林哲生ほか『モバイル社会の現状と行方』2007 ■何が、新しい経験なのか? 20世紀:複製メディア経験〜21世紀:テレコミュニケーション経験 オング/口承 声 電話:二次的声のメディア経験 ラジオパーソナリティ:声による詐術と絆のテクノロジー ポスター/ネット 文字 文字通信のメディア経験 カッツ/ケータイ 場所 マクルーハンやオング 声・アンチ活字 メディアの文法を意識・本源的メディア人間 吉見ほか 電話 声と関係性 距離からの解放 同期性の限界 ポスターほか ネット 文字と関係性 非同期→時差通信 →情報の共有 カッツほか ケータイ 場所と関係性 同期・非同期自在 →常時性・即時性 ●場所からの解放 8 ●電話=距離(スペース)からの解放 =顔からの解放 ●携帯電話=場所(社会的居場所)からの解放 2015/9/25 ●場所(スペースとプレイス) 9 ◆場所その1:スペース/空間/……公共空間 ◆場所その2: 社会的場所=プレイス1=家庭・学校・職場 ◆場所その3: 個人所有→個的・私的場所(=自分だけにとっての 居場所)=ほんとうの場所=プレイス2 2015/9/25 ●ケータイ人間論の原型 10 ○原像1:個室人間論 ①カプセル人間 ②繭こもり人間(コクーン) ○原像2:ホモ・モーベンス(黒川紀章) 個人の自由や多様性をもった社会 離脱と再結合の社会関係 ※ホモ・サピエンス(知的動物)/ホモ・エコノミクス(経済動物) ホモ・ソシオロジクス(社会=役割動物) ホモ・ルーデンス(遊び動物) 2015/9/25 ●近代の装身小道具 11 もっとも普遍化が進んだ コミュニケーション・メディア ★近代の装身小道具= コミュニケーションの共通基盤が出来てくる道筋 =普遍化の道具・ユビキタス ①財布→だれとも交換できる ②腕時計→だれとも会える ③ケータイ(ユビキタス) 2015/9/25 ●ケータイというメディア経験 12 ◎モバイル経験=ほんとうの居場所を持ち歩く 家電→個電→移動電 (個室を持ち歩くようなもの) ◎常時接続経験:絶え間なき交信 Contact Perputual 2015/9/25 ●空間と居場所のズレ 13 物的な空間と、心がつながっている空間とのズレ 公共スペース ズレ プレイス2 ほんとうの居場所 コミュニケーション空間 プレスト1 社会的居場所 制度的空間 2015/9/25 ●マナー問題の発生 14 ◎スペース(現前空間)とほんとうの居場所(意味空 間)のズレ 現前空間とコミュニケーション空間 →マナー問題 ・目の前の社会が風景/環境と化す。 ・最初の社会問題のひとつであり、世界共通の問題 だった。 →①場所的規制=ルール →②機能開発(マナーモード) 2015/9/25 ●ケータイ電話研究 15 ○気楽な用件電話:用件の変質 ○ワン切りに体現されていたスタイル 多様なコミュニケーション・モード ○番号通知と選択的コミットメント 選択的人間関係=ザッピング・メディア 2015/9/25 ●単に選択的?→自分都合 16 選択的よりも ▼ 「自己都合型コミュニケーションの装置」 モノローグ型/コントロール感 ケータイが自分? ※メディア=自己を仮託する装置 2015/9/25 ●ケータイ感覚〜自己都合度? 17 ?:ラジオのような、ながらメディアなの? ?:なぜ、授業中・会議中にケータイができる? ?:なぜ、友人とコミュニケーション中にケータイができる? ?:なぜ、は他にも?、、 2015/9/25 ●ケータイと関係性 18 ●コンタクト(接合)のメディア 誰と、どのようにコンタクトしている? 既存縁 新しい縁 2015/9/25 ●場所と関係性:既縁と新縁 19 (1)既存縁の調整…ケータイ感覚によるゆらぎ 例:ケータイを忘れる。ケータイで仲直りする。 例:ケータイの軽さを対面の重さで償う。 (2)新縁の獲得…第四空間論/離脱論 時空間のように見えて、制度からの離脱 幻想・妄想の世界への離脱と解放 2015/9/25 ●新縁=出会いメディアの装置化 20 ●電話風俗研究の系譜〜どこの誰からの「離脱論」 第四空間論のインパクト 偶発的で、匿名(仮名)の他者との接合(コンタクト) 出会い事業の社会的装置化(1985〜) 親密性/純粋関係/スピリチュアル 〜 犯罪の共存 インティメイト × ストレンジャー 2015/9/25 日本人とケータイ文化(1) 21 (1)インターネットサービス(第三世代) (2)メール利用の突出 (3)ケータイ社会の日常化 ただ、ケータイのコミュニケーションは、ごく当たり前の使い方しかしていな い。 ◎極私圏:おしゃべりやメール交換 ◎商業圏:ネットを介したサービスの売買・交換 2015/9/25 日本人とケータイ文化(2) 22 ◎個人との相互作用の強さ=自己の拡張としての ケータイ 個人に特化・身体化・・・単なるコミュニケーショ ン・ツールではなく・・・各自の潜在的な欲望を増幅し、 顕在化される装置 現代人の特徴、そしてメディアがそれを増幅する傾 向: 自己の拡張/他者の縮小 ◎〈世間〉としてのケータイ 互恵的な贈答の応酬/贈与の交換 2015/9/25 ■携帯電話物語づくりという試み 2001年度から実施 ラジオ作品 シナリオだけ 映像作品 ラジオ作品については、「アウラ・ステーション」サ イトで、公開されている。金城学院・椙山女学園の ラジオドラマ集 ■加藤晴明の論文 「日本の若者におけるケータイをめぐる想像力」 加藤晴明@中京大学 1節:はじめに:ケータイの先駆的利用者モデルとしての若者 2節:「二世界問題」というフレーム 対面対メディア空間/制度的空間対非制度的空間 3節:「ケータイをめぐる物語制作」という教育プログラム ●パターン1:対面回帰の物語 ●パターン2:メディア空間による対面空間の幸福化物語…新縁の獲得の 物語 ●パターン3:メディア空間による対面空間への侵略物語 ●パターン4:対面空間の調整の物語 4説:物語のパターン 5節:欠落の彼方へ:道具としてのメディアと心のためのメディア ■物語のパターン ◆物語形式1:既存縁の調整 「ケータイがコミュニケーションのギャップを解消する」 ◆物語形式2:対面神話の物語=ケータイ外し物語 例「ケータイではつたわらない〜会わなきゃわかんないよ〜」 例「ケータイをとりあげる」物語形式 例「待ち合わせが成り立たない」→ケータイの功罪と警鐘 ◆物語形式3:新縁の獲得 「ケータイが新しいコミュニケーションをひらく」 ◆物語のパターン:続 ◆「ケータイのコミュニケーション力」系の物語 A:道具としてのケータイ(パソコン) B:“こころ”のコミュニケーションツールとしてのケータイ(パソコン) ◆「二世界問題」系の物語 α:日常生活の拡張の物語 β:アナザーランドの物語…黄泉・別世界との交信 ■物語のパターン:続 ◆ケータイの人格化系の物語 ケータイが自律した人格性(人工知能・ロボット化)をもって、人とのコ ミュニケーションする。 ▼ 自己論の関わらせたメディア論の物語が必要… 「メディアとは自己を仮託する装置」 ●二世界問題の次ステップ? 28 ◎安易な対面神話(説明にならない) ▼ ◎育成ケータイ物語: ケータイとのコミュニケーションに固有の陣地を もたせるストーリー ・ほかの展開は? 2015/9/25 ●ケータイ感覚の本音はどっち? 29 ケータイ電話物語の定番 ◎対面神話(会わなきゃ)=◎依存批判 と ◎ケータイが身体の一部感覚=この錯覚の意味? この間にあるものは何?どっちがほんとう? 2015/9/25 ■自己としてのケータイ 3 自己を仮託する装置としてのケータイ 2000年代に入り、電話の主役は、電話が携帯電話になり、さら に①常時接続化、②メールマシン化、③インターネットとの融合 化が進みました。 いつでも・誰とでも繋がることによって、まず場所が無意味化す ると同時に目の前の公的な空間と通話している私的な空間とが 同居し混在しマナー問題が生じました。また通話やメールのデー タが残ることで関係性が可視化し人間関係への拘束力が強まる ことになりました。 加藤晴明(2010)「電話文化の変貌」、井上俊・長谷正人編著 『文化社会学入門』 ミネルヴァ書房 自己としてのケータイ 携帯電話は、いまや通話によるコミュニケーションだけではなく、イ ンターネット・サービスと融合することでさまざまな情報サービスや人 間交流のプラットホームとなりつつあります。携帯電話は、①情報閲 覧(インフォメーション)、②物販ビジネス(トランザクション)、③交流 (コミュニケーション)を統合するケータイという独自の情報装置=メ ディアとなったのです。 1 電話に託された夢 2 仕事メディア・おしゃべりメディア・出会いメディア 3 自己を仮託する装置としてのケータイ ■自己としてのケータイ とりわけ日本のケータイは、北欧などのケータイ先進国に比べて メール利用が高いのが特徴です。日本では、携帯電話は単なる通話 装置ではなく、メールマシンであり、アドレス・メール・スケジュールと いった、さまざまな私的情報が詰まったケータイという独自のメディア となってきたのです。 ケータイを、人間関係を強化する装置と考えるよりも、自己の延長・ 自己の分身と感じる人の割合も高いのです。自己の都合にあわせて 他者や情報世界と関われるケータイは、まさに自己の分身というより も、自己そのものといえます。自己がケータイを通じて実現している ともいえ、いまやケータイは、単なる道具ではなく、自己そのものを仮 託する装置化しつつあるといえます。 加藤晴明「電話文化の変貌」 『文化社会学入門◆テーマとツール◆』2010 ミネルヴァ書房