第2回講義の内容 - 東京医科歯科大学

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生物学基礎
第2回 生物の多様性と進化
細胞の発見へ
和田 勝
東京医科歯科大学教養部
生物学の基本的な枠組み
1.生物多様性
この地球上には、およそ150万種
の生物が生息している。
多様な生物を分類して
整理する方法を確立し
た。それが神の栄光を
実証する方法だと信じ
て。
生物の多様性
生物多様性(biodiversity)という語を
よく目にするようになった。
この地球上には
150万種の生物
おそらく1億種を超える種がいるだろ
うと推定されている。
生物の多様性を整理する
多様な生物をどのように区別し、整理
しているのだろうか。
●区別して認識するのは生物の生来
の性質である
●たとえば餌か餌でないかの区別や
敵か味方かの区別
生物の多様性を整理する
ヒトは特にこの能力がすぐれているの
だろう。
上の写真は哺乳類で、鳥や爬虫類だ
と思う人はいないだろう。
生物の多様性を整理する
こうした能力に基づいて、物を区別し
てグループに分ける作業が分類
(classification)である。
生物を区別してグループに分ける作
業をする学問を分類学(taxonomy)と
言う。
冒頭のスライドにあったリンネがこれ
を大成した。
リンネ以前
アリストテレスから始まる
植物
無血動物
動物
軟体類、軟殻類、殻皮類、有節類、
植物に近い動物、
雑(どこに入れたらいいかわからないもの)
有血動物
人類、胎生四足類、卵生四足類、
鳥類、魚類、鯨類
リンネ以前
ラテン語で命名することはおこなわ
れていたが、混乱していた。
ある研究者はRosa sylvestris inodora seu caninaとし、
別の研究者はRosa sylvestris alba cum rubore, folio glabro
リンネ以前
さらにヨーロッパ以外の地域からも
たらされた、新しい種類の生物が
混乱に拍車をかけた。
アリストテレスの人為分類が使われ
ていたが、もっとよい分類体系があ
るはずだと考えられるようになる。
リンネ以前
花が生殖器官であることが発見さ
れる( Nehemiah Grew、1641-1711
or 1712)。
神の創造物である生物を集め、そ
れを正しく分類すれば、神の英知と
秩序を窺い知ることができること、
それが博物学者の使命だ(John
Ray 1627-1705)。
リンネの自然の体系
リンネ(1707-1778)はこのような背景
の下に登場した。
リンネは植物を集め、生殖器官であ
る花の構造をもとに植物を分類した。
その成果は『自然の体系』として出版
した。
リンネの自然の体系
リンネも神の栄光を実証しようとして
分類を極めようと考えていた。
ただし、それだけではなかった。
リンネは、
1)それまでの本草学(役に立つ植物
を記載する)の観点から離れて、よ
り広く植物を集めて記載した
2)種(species)を基本として、それを
まとめて次第に大きなカテゴリーと
していった(界、門、綱、目はリンネ
の考案)
3)二名法(binominal nomenclature)
によってそれまでの種名の混乱を
整理できた
こうして、多様な生物を分類する基準
ができ、以来これにしたがって、生物
の分類がおこなわれている。
分類学の基礎
基本となる種の同定
種とは何か
「種とは、実際的にも、可能性に
おいても、互いに交配しうる自然
集団である。それは他の集団か
らは生殖の面で隔離されている」
(マイヤによる定義)
分類学の基礎
階級
Rank
界
Kingdom
門
Phylum
綱
Class
目
Order
科
Family
属
Genus
種
Species
分類学の基礎
リンネは動物と植物の二界
→ 現在では五界
動物界
植物界
菌界
原生動物界
モネラ界
分類学の基礎
ちなみにヒトは
動物界(Animal kingdom)
脊椎動物門(Phylum Vertebrata)
哺乳綱(Class Mammalia)
サル(霊長)目(Order Primates)
サル(真猿類)亜目(Suborder Anthropoidea)
ヒト類上科(Superfamily Hominoidea)
ヒト科(Family Hominidae)
ヒト属(Homo)
ヒト(sapiens)
Homo sapiensと表記する。
種の保全
生物多様性と種の保全
(Biodiversity and conservation)
ここでは、多様な生物種との共存
が豊かな世界を保障するという
一言だけにする。
生物多様性の起源
このような生物多様性はどのように
して生じたのだろう。
リンネの時代には種の普遍性を疑
うものはいなかった。ただしリンネ
は、交配実験から雑種ができること
を認識していた。
生物学の基本的な枠組み
2.進化
神が創ったとする矛盾が拡大して
きた。
生物は神ではなく、自然
選択によって進化してき
たのだ。遺伝する変異と
子を残す期待値の差が
重要。
進化という考え
地質学、古生物学、比較解剖学の
成立と知識の集積。
●化石生物と現生生物の類似性
●形態の相同(homology)
●痕跡器官(vestigial
organ)
進化という考え
前肢の骨の相同
別々に創ったと考えるより、共通の祖先から進化した
と考えたほうが自然
ダーウィンの登場
ダーウィンは1831年、22歳
のとき、ビーグル号による
世界一周の航海に出た。
船長の話し相手兼
博物学者として乗
船。
ビーグル号の航海
航海は5年かかった。この間、多くの生物を観
察し、種が不変でないことを確信。
自然選択による進化
どのようにして進化が起こったのか、
すぐには解決がつかなかった。
マルサスの人口論に触発され、限られ
た資源では競争が起こることを納得。
ハトの品種改良を調べ、人為選択に
よって品種ができることを研究。
自然選択による進化
ウォーレスの手紙に押されるように
1858年リンネ学会で発表
1859年には、それまで書
き溜めていたノートの内
容をまとめて、『種の起
源』を出版した。
自然選択による進化
1)生物の集団には変異(variations)
が存在する
2)変異は親から子に伝わる
3)すべての子が、生まれ出た生息環
境で生き残ることはできない
4)生き残る可能性は、変異による差
がある
進化の実証
ダーウィンは、進化は長い時間をか
けて徐々におこると考えていた。
現在では、場合によってはかなり速
いスピードで起こることがわかってい
る。
有名なダーウィンフィンチを使った研
究がある。
ダーウィンフィンチ
ガラパゴス諸島に生
息するダーウィンフ
ィンチは14種類いて
、姿かたちは似てい
るが、嘴の形が異な
る。これは食性を反
映している。
変異の存在
この変異は遺伝する
環境の収容力<繁殖力
エルニーニョ現
象による旱魃に
よって、種子を
付ける植物に変
化が起きた(乾
燥に強い果皮の
厚い植物が残る
)。
環境に適合したものが子を
残せる
自然選択による進化
自然選択によって進化が起こって、
生物多様性が生まれたことを疑うヒ
トはいない。
自然選択のもとになる変異は、遺伝
子DNA分子の突然変異によって生
じる。
細胞説の前夜
細胞説の成立を話すためには、顕
微鏡の歴史について語らないわけ
にはいかない。
複式顕微鏡は、17世紀の初頭にオ
ランダのヤンセン親子が発明したと
いう。
フックによる細胞の発見
イギリスのフックが
複式顕微鏡を使って
動物や植物の微細
構造を図版にした本
「Micrographia」を出
版。
フックによる細胞の発見
この本の中で、コルクの顕微鏡像があ
り、その空所を細胞(cell)と名づけた。
レーウェンフックの観察
オランダの織物職人だったレーウェ
ンフックは、独特な単式顕微鏡を作
製して微生物などを観察。
レーウェンフックの町
Vermeerの描いたDelftの景色
レーウェンフックの観察
彼は原生生物、細菌、淡水性の藻
類などを観察し、王立科学アカデミ
ーへレターとして報告し続ける。
ヒトの精子も発見している。
顕微鏡の改良
複式では避けられなかった色収差の
問題を、異なる材料で作ったレンズを
張り合わせることで克服できることが
発見される。
染色法などの改良。
細胞説が生まれる素地ができていく。