フェーズドアレイ気象レーダーの概念検討

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フェーズドアレイ気象レーダーの概念検討
佐藤晋介、安井元昭、村山泰啓、井口俊夫、熊谷博 (NICT)
1.はじめに
<背景>
・ 日本の気象災害による被害は、社会基盤の整備や気象
情報の高度化などにより以前より減少しているが、例えば
2004年には台風23号や新潟、福島豪雨などにより全国各
地で激甚な水害が多発し、死者・行方不明者は11年ぶり
に 300人を越えた。 2005年末から2006年にかけては、突
風による羽越線脱線事故、延岡竜巻、佐呂間竜巻が相次
いで発生し、甚大な被害がもたらされた。
集中豪雨
日本の気象災害による死者・行方不明者数の経年変化
(気象庁「異常気象レポート2005」より)
過去10年間の水害被害額等の水位 (「平成19年度水害統計調査」より)
竜巻・突風
・ 安心・安全な社会の実現のために、気象災害(風水害、土
砂災害等)の予測および被害軽減に対する社会的ニーズ
は大きく、特に近年頻発している突発的局所的現象(集中
豪雨、竜巻突風等)に対する対策が求められている。
10秒以内の3次元スキャン
格子間隔 100 m
・ 気象災害を引き起こすような突発的局所的現象は降水を
伴うことが多いため、それらを直接観測できる気象レー
ダーの果たす役割は大きい。
突風による羽越線脱線事故
<本研究の目的>
・ 現状の気象レーダー観測の課題と問題点を整理して、突
発的局所的現象の観測に必要な気象レーダーの概念検
討を行う。
フェーズドアレイ気象レーダー観測のイメージ
延岡竜巻による列車横転
2.日本の気象レーダーの現状と課題
佐呂間町の竜巻(F3)
3.フェーズドアレイレーダーの検討
<現状>
4.アレイ素子数に関する検討
3.1 フェーズドアレイ方式の検討
周波数
波長
・ 日本における気象レーダー観測は、気象庁の現業レーダー
20台(2007年度中に11台がドップラー化)および国土交通省
のレーダ雨量計26台が日本全国をカバーしている。
・ 空港ドップラーレーダーや大学・研究機関による研究用の
マルチパラメータレーダー観測など。
<課題>
パッシブ・アレイレーダー
① 5~10分かけて行われる3次元ボリュームスキャンでは
時間分解能が不十分
・ 汎用の大電力送信管
が使えるが送信機が
故障するとレーダーが
機能停止する。
・ 従来のパラボラアンテ
ナを用いたレーダーに
比べてコストを低減る
のが困難。
アクティブ・アレイレーダー
・ 各素子の送信電力は小さく
ても構わないので、固体素
子の送信機が使用できる。
・ いくつかの送受信機が故障
してもレーダー全体の影響
は小さい。
・ アクティブ・フェーズドアレイ
を実現するには、素子数に
比例してコストが増大する。
デジタルビームフォーミング
(DBF)
・ アンテナのパターン形成を
デジタル処理で実現するた
め、同時に複数のアンテナ
パターンが形成できる。
・ アクティブ・フェーズドアレイ
と組み合わせることが多い
が、更にコスト増となる。
・ バイスタティックレーダーで
はDBF受信局として利用で
きる。
いずれのフェーズドアレイ方式でも、観測可能な角度は±45°~±60°程度
なので、従来の360°スキャンする気象レーダーと同じ観測を行うためには、3
~4面のアンテナ面が必要となり、更にコスト増となる。
沖縄偏波降雨レーダ(COBRA)
SPY-1A on NWRT, OK
Parabolic Antenna
Phased Array Radar
⇒ 電子的アンテナスキャンを行うフェーズドアレイレーダー
360度観
測するの
に必要な 走査範囲
アンテナ
数
± 0.0 °
12
± 15.0 °
8
± 22.5 °
6
± 30.0 °
4
± 45.0 °
3
± 60.0 °
2
± 90.0 °
9 . 6 0 0 GHz
3.123 cm
Grating Lobeが
発生しない
素子間隔の最大
1.000
0.794
0.723
0.667
0.586
0.536
0.500
λ
λ
λ
λ
λ
λ
λ
2.6 °
1.6 °
ビーム幅
3.123
2.481
2.259
2.082
1.829
1.674
1.561
アンテナ径 1.00 m
cm
cm
cm
cm
cm
cm
cm
32
40
44
48
55
60
64
個
個
個
個
個
個
個
1.7 °
1.1 °
1.50 m
48
60
66
72
82
90
96
1.3 °
0.8 °
1.0 ° cos2 (πx/2)
0.6 ° 一様励振
2.00 m
2.50 m
64
81
89
96
109
120
128
80
101
111
120
137
149
160
個
個
個
個
個
個
個
個
個
個
個
個
個
個
グレーティング・ローブが発生しない条件における素子数
⇒ AZ方向±45°、EL方向±15°にスキャン
できる Φ2m の2Dフェーズドアレイ場合、
109 x 81 = 8829個の素子が必要となる。
5.時間・空間分解能に関する検討
竜巻を直接観測するためには、
・ 空間分解能: 竜巻の直径=数10m~数100m ⇒ 10~100 m
・ 時間分解能: 竜巻の寿命=数10秒~数10分 ⇒ 10~100 sec
3.2 低コストなフェーズドアレイレーダーの例
10秒以下の時間分解能はフェーズドアレイでは実現可能だが、
100m以下の空間分解能(ビーム幅方向)の実現は容易でない。
② 数10km以上の観測レンジでは空間分解能が不十分
で地球の曲率による低層の不可視領域が生じる
※ レンジ方向の空間分解能は、パルス圧縮によって容易に小さくできる。
PARの主要パラメータの例
ビーム
の広がり
案1: 1次元フェーズドアレイ
+ AZ方向回転
低層観測
ギャップ
レンジ30km
レンジに対するビームの広がり
BW[deg]
0.9
1.2
EL [deg]
0.0
1.0
10
157
209
20
314
419
30
471
628
40
628
838
50
785
1047
60
943
1257
70
1100
1466
80
1257
1676
90
1414
1885
100
1571
2095
110
1728
2304
120 range[km]
1885 [m]
2514 [m]
レンジに対する下層の観測ギャップの高度(4/3等価地球半径、レーダ高度=0m)
6
180
24
373
53
577
94
792
147
1020
212
1259
288
1510
377
1773
477
2047
588
2333
712
2631
847
2941
[m]
[m]
⇒多数の中距離気象レーダーによるネットワーク観測
案2: ファンビーム送信
+ 2次元DBF受信
・ 仰角(EL)方向のみ電子スキャンを行い、
方位角(AZ)方向には機械的に回転させ
る。
・ 図ではTRMM/PR、GPM/DPRで実績の
ある導波管スロットアレイアンテナ(+固
体化送信機)を想定しているが、一次放
射器をフェーズドアレイにしたオフセット
パラボラなどの利用も考えられる。
・ 駆動部分があるため、運用・保守コスト
の極端な低コスト化は難しい。
③ 気象レーダーの導入および運用・保守コストの削減
⇒ 固体化送信機、汎用部品(通信用など)の利用など
④ 周波数割当および混信低減の問題
・ 方位角(AZ)方向にブロードなファンビー
ムをトーラスアンテナで送信し、2次元
のプレーナアレイのDBFアンテナで受信
する。
・ DBF受信局を別の場所にも設置するこ
とで、バイスタティック・ドップラーネット
ワーク観測が可能となる。
・ 駆動部分はないが、方位角~90°の
範囲の観測に限られる。
・ 2次元DBF受信機の低コスト化が課題。
Bistatic Rx site with
2-face 2D-DBF antennas
on a bldg. wall
108-face (36-AZ &
3-EL) Tx Antennas
with 4-face 2D-DBF
Rx antennas
Dual-Doppler lobes
⇒ 信号処理、アレイアンテナのルヌ点調整など
⑦ エンドユーザーが必要とする適切なレーダー観測
データの提供(情報のインテリジェンス化) ⇒ see 6.
~60 km
案3: 108面アンテナ送信+バイスタティック2次元DBF受信
・ ビーム幅 10°のホーンアンテナをEL方向に3段、AZ方向に36列ならべて
ランダムな順番で連続的に数百倍の伸長パルスを送信する(位相制御は
行わない)。 受信は、 1°以下のビームを形成できる2次元DBFバイスタ
ティックアンテナで行い、パルス圧縮で感度を確保する。
・ 駆動部分なしで、AZ=0~360°EL=0~30°のスキャンが可能であり、
2次元DBFアンテナによるバイスタティック・ドップラーネットワーク
(dual-Doppler) 観測も可能となる。
・ 108面送信アンテナと(上図では12台の)2次元DBF受信局の製造コストが鍵。
~500 m
(Beam Width =1 deg)
30 km
・ ビーム幅方向へ5倍程度のオーバーサンプル
・ レーダーエコーのデコンボリューション技術開発
10秒間の観測シーケンスとすると、
・ 送受パルス毎切替の場合 ⇒ 積分数 8
・ EL方向同時送受信の場合 ⇒ 積分数 240
--> 5倍オーバーサンプルでも十分積分数がとれる
6.レーダー観測データの高度化
<ユーザーニーズ(例)>
・ 一般市民、マスコミ
フェーズドアレイ気象レーダ網観網による
将来の竜巻・突風予報のイメージ
一目でわかる危険地域
短時間予測情報、など
リアルタイムの雨量・風情報
地図に重ねた詳細マップ
正確な積算雨量情報、など
⑤ 地表面クラッタなど不要エコーの除去
⇒ 二重偏波レーダー、ネットワークによる異なる方向
からの観測など
・ PRI = 400us & 533 us (2.5 kHz & 1.9 kHz)
--> Rmax = 60 km, Vmax (hold) = 105 m/s
・ Pulse Width = 50us (0.5us x 100 compress)
・ AZ = 0-90 deg, EL = 0-30 deg (1.0deg int.)
--> 2700 sectors
・ 災害対策部署
⇒ パルス変調方式、GPS時刻による時空間シェアーなど
⑥ 正確な降雨量の推定 (降雨減衰の補正、および
降水種別、粒径分布(Z-R関係)の推定など)
個
個
個
個
個
個
個
10%
50%
80%★
T
10%
50%
MC
80%
・ 気象庁・民間気象会社
リアルタイムの詳細情報
数値モデルへ同化できる情報
・ 研究機関
連続した観測データアーカイブ
30min
GF
20min
10min
T:竜巻検知、MC:メソサイクロン(竜巻親雲)、GF:突風前線
ユーザによって必要とする情報が異なることを踏まえて、
観測データを適切な形に変換する自動解析処理および
リアルタイム配信システムの開発が重要。