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波動工学特論
Advanced Wave Engineering
コヒーレント光とその応用
H22年 7/27開講
山田 博仁
講義内容
講義の目的
光の波動的性質、特に光のコヒーレンスについて理解し、コヒーレント光の
応用について学習する。
主な講義内容
・ 光の波動的性質とコヒーレント光
・ コヒーレント光通信
・ 光のコヒーレンスを応用する各種計測
- 光ファイバージャイロ
- レーザ測距計
・ 光コヒーレンス トモグラフィー(OCT)
成績評価
レポート
参考書
・ 伊藤弘昌 編著、フォトニクス基礎、朝倉書店
・ 大越 孝敬、菊池和朗共著、コヒーレント光通信工学、オーム社
講義資料のダウンロード: http://www5a.biglobe.ne.jp/~babe
質問等は: E-mail: [email protected]
はじめに
1960年、人類は初めてレーザ光を目にした
レーザは、20世紀最大の発明の一つ
今年は、レーザが発明されてから50周年
この半世紀、レーザの応用が大きく広がった
21世紀は、フォトニクスが大きく花開く世紀
光の波動的性質とコヒーレント光
各種電磁波の波長と周波数
可視光域
光も電磁波の一種 !!
光の伝搬速度:
真空中では約30万km/秒
屈折率nの媒質中では、
真空中の1/nの速度
偏光
振動面
電界の波
磁界の波
直線偏光
光の進行方向
偏光面
光の進行方向と磁界ベクトルを含む面を光の偏りの面又は偏光面、
また、光の進行方向と電場ベクトルを含む面を振動面と呼ぶ
偏光面が回転しながら伝搬する光もあり、楕円偏光や円偏光と呼ばれている
電界の波
左旋性円偏光
光のコヒーレンス
参) 霜田光一、矢島達夫編著、量子エレクトロニクス 上巻、裳華房
光の可干渉性を表す指標としてコヒーレンスがある。つまり、コヒーレント光とは、干渉性
の強い光のことを言い、逆に干渉性の弱い光をインコヒーレント光という。
コヒーレントな性質には、時間的コヒーレンスと空間的コヒーレンスがある。
時間的コヒーレンスとは、ある点 r に到達する光において、異なる時刻の光の間での干
渉の度合いを表す
t1 Δt t2
t1 Δt t2
点 r での
光
光
の
の
t
t
電
電
界
界
時間的にコヒーレントな光
時間的にインコヒーレントな光
空間的コヒーレンスとは、ある時刻 t において、異なる場所の光の間で干渉の度合いを
表す
r1
r1
Δr
Δr
r2
r2
空間的にコヒーレントな光
空間的にインコヒーレントな光
コヒーレンスとは
r1, r2の位置にある2つのスリットを通過する光を干渉させるヤングの干渉実験を考える。
r1
光源 S
スクリーン
s1
Δr
r2
干渉縞
Q
s2
2つのスリットの位置での光の電界を E(r1, t  s1 / c), E(r2 , t  s2 / c) とすると、
これらの光は時刻 t において点Qで干渉を起こす。ただし、スリットからスクリーン上の
点Qまでの距離を、各々s1, s2 、光速度を c としている。
このとき点Qでの光強度 I(r)は、
I (r )  I1 (r1 )  I 2 (r2 )  2 I1 (r1 ) I 2 (r2 ) Re (r1 , r2 ,  )
ただし、 (r1 , r2 ,  ) 
E* (r1 , t ) E(r2 , t   )
E(r1 , t )
2
E(r2 , t )
2
と書ける。
ここで、 I1(r1), I2 (r2 ) は各々 r1, r2 にだけスリットがある場合のQ点での光強度を、
τ = (s1-s2)/c,
は時間平均を表す。
コヒーレンスとは
γ(r1, r2, τ)を1次の規格化相関関数と言い、その絶対値を1次のコヒーレンスと言う。
|γ(r1, r2, τ)|は0から1までの値をとるが、時間的空間的に異なる光波の位相がどのくらい
相関を持っているのかを表す指標である。
Q点での時間平均強度 I(r)の最大値と最小値を各々 Imax(r), Imin(r)とすると、
Imax(r)  I1(r1)  I2 (r2 )  2 I1(r1)I2 (r2 )  (r1, r2 ,  )
Imin(r)  I1 (r1)  I2 (r2 )  2 I1 (r1 )I 2 (r2 )  (r1, r2 ,  )
である。
さらに、干渉縞の鮮明度(visibility)を表す指標として、
I max(r )  I min(r ) 2 I1 (r1 )I 2 (r2 )  (r1, r2 ,  )
V (r ) 

I max(r )  I min(r )
I1 (r1 )  I 2 (r2 )
がある。
I1(r1) = I2(r2)のとき、 V(r)=|γ(r1, r2, τ)|となることからも、|γ(r1, r2, τ)|は干渉縞の鮮明度を
表すことが分かる。
従って、|γ(r1, r2, τ)|=1の場合を完全コヒーレント、 |γ(r1, r2, τ)|=0の場合をインコヒーレント、
0<|γ(r1, r2, τ)|<1の場合を部分的コヒーレントと言う。
時間的コヒーレンス
it
光が単一波長(周波数)成分のみを有する(単色光)場合、 E(r, t )  E0 (r )e
と置くと、
i
同じ場所 (r1 = r2)に関しての相関関数は  (r1, r2 ,  )  e
となり、
 (r1, r2 ,  )  1 となるから完全コヒーレントである。
これに対して、光の振動数が単一ではなく幅を持つ場合、その相関関数は、

E* (r, t )E(r, t  )   S (r, )ei d と表される。 (Wiener-Khinchineの定理)

ここで S(r, ω)は光のパワースペクトルであり、相関関数 γ(r, τ) は、

 (r,  )   S (r, )e
光
の
電
界
i
t
d



S (r, )d となり、これが時間的コヒーレンスを表す。
ス
ペ
ク
ト
ル
ν 又は λ
時間的にコヒーレントな光
光
の
電
界
t
ス
ペ
ク
ト
ル
Δν
ν 又は λ
時間的にインコヒーレントな光
時間的コヒーレンス
時間的コヒーレンスとは、光が到達しているある点において、異なる時刻の光の間で
干渉が起こるかどうかを表す指標
通常の自然放出による発光では、個々の原子がランダムに発光するため、発光スペク
トル線幅で決まる短い時間の間だけ光電界の位相が連続となり、干渉が可能。
・ コヒーレンス時間: tcoh
・ コヒーレンス長: lcoh
(縦コヒーレンス長)
1

c
lcoh  ctcoh 

tcoh 
Δν : 光源の振動数スペクトル線幅
c : 光速度
eg. He-Neレーザーで lcoh ≈100m
励起準位
l < lcoh
基底準位
干渉可能
l > lcoh
干渉不可
空間的コヒーレンス
空間的コヒーレンスとは、空間的に異なる点における光の干渉性を表す指標
点光源から等しい距離にあるスリットを通過した光は良く干渉し、鮮明な干渉縞を作る。
従って、このような光は空間的にコヒーレントな光と言える。
一方、空間的に広がりのある光源から出た光がスリットを通過する場合、スリット間の距
離が長いと干渉しにくくなる。従って、このような光は空間的にインコヒーレントな光である。
横コヒーレンス長: r1, r2 から等しい距離にある点Qにおいて干渉縞が観測される r1, r2
間の最大距離
干渉縞
r1
点光源
干渉縞
広がりのある
光源
r1
Δr
Δr
r2
r2
空間的にコヒーレントな光
空間的にインコヒーレントな光
レンズ焦点でのビームスポット径
空間的コヒーレントな光は、波長程度のビームスポット径にまで絞ることができる
レンズの開口数 (Numerical Aperture: NA)
a
2wf
f
2w0
NA n sin 

f
波面
n
θf < θ
焦点でのビーム径
2wf 
2
n sin  f
f : 焦点距離
a : レンズの有効半径
n : 媒質の屈折率 (空気中の場合は1)
Ex.) 波長1μmのレーザー光を、NA=0.5のレンズの有効径を
フルに活用して絞った場合、どの程度まで絞れるか?
答 直径約1.3μm
光ビームの広がり角
空間的コヒーレントな光は、光ビームの広がり角度を小さくできる
ガウスビーム波
2
2
強度分布 I (r)  I (0) exp(r / w0 )
w0: ビームウエストサイズ
ガウスビーム波の広がり角
2w0
λ: 光の波長
 

2w0
r
rad
2Δθ
Ex.) 波長1μmのレーザー光を、直径1mのビームにして月に送った
場合、月面でのビーム径はどのくらいになるか?
ただし、月までの距離は約38万kmである 答 直径約 240m
自由空間伝搬による光通信
http://www.icsa.gr.jp/system/index_03.htm
ビル間光通信
レーザ光通信システム (Canon)
大学キャンパス内
衛星間光通信
実験衛星「きらり」による衛星間光通信実験に成功 (H18年3月)
NICT 小金井本部の光地上局
レーザーとコヒーレント光
自然界に存在する光は全てインコヒーレントまたは部分的にコヒーレントな光
例: 太陽光、炎から出る光、蛍の光、白熱電球、蛍光灯、LED
それは、発光体を構成する物質の個々の原子や分子がランダムに発光しているから
時間的・空間的コヒーレントな光を得るにはレーザーを用いる
今年は、1960年に初めてレーザーが発振してから、50周年
レーザーのしくみや発生原理に関しては、本講義では詳しくは扱わないが、レーザー
では誘導放出というメカニズムによって、発光体の原子が協調して光を放出する
電磁波を用いて効率的に通信を行うためには、コヒーレントな電磁波が望ましい
光通信ならば、コヒーレント光が望ましい
物質と光との相互作用
物質(原子系)と光との相互作用 以下の3つの課程が同時に起きている
電子など
E2
減衰
入射光
出射光
増幅
入射光
発光
出射光
E1
二準位系
(原子など)
光の吸収
誘導放出
熱平衡状態ではMaxwell-Boltzmann分布
E
k: ボルツマン定数
E2
T: 媒質の温度
P( E)  e

自然放出
n2: 励起状態の原子数
E
kT
誘導放出
正味では減衰
E1
P(E)
熱平衡状態では、励起準位の原子数
は基底準位の原子数よりも少ない n1> n2
吸収
吸収
吸収
n1: 基底状態の原子数
光増幅のメカニズム
自然放出の起きる確率 = An2
A: アインシュタインのA係数
吸収の起きる確率 = Bn1 I
B: アインシュタインのB係数
誘導放出の起きる確率 = Bn2 I
熱平衡状態では、
I: 入射光の強度
Bn1 I > Bn2 I
熱平衡状態では、吸収の確率 > 誘導放出の確率となり、入射光は減衰して出てくる
反転分布 Tが負(負温度状態)
E
n2: 励起状態の原子数
E2
P( E)  e

E
kT
誘導放出 誘導放出
E1
P(E)
励起準位の原子数が基底準位の原
子数よりも多い状態を反転分布という
n1< n2
誘導放出
吸収
正味では増幅
n1: 基底状態の原子数
レーザの原理
反転分布では、
Bn1 I < Bn2 I
反転分布では、誘導放出の確率 > 吸収の確率となり、入射光は増幅されて出てくる
広義のレーザは、何らかの方法で反転分布を作り出し、放射の誘導放出(Stimulated
emission)を用いて光を増幅する装置
狭義のレーザは、光増幅媒体を光共振器内に配置し、光の増幅に光の正帰還がか
かり発振するようにしたもの。つまり、光の発振器
光の正帰還回路
光増幅媒体
正帰還回路
+ Amp.
鏡
レーザー
電気の発振器
レーザの発振スペクトル線幅
外部から加わる種々の雑音(温度変動や電源ノイズ)の影響が無視でき、自然
放出過程によってのみ発振スペクトル線幅が決まっているとき、閾値よりも十
分に高い励起状態であればレーザのスペクトルはローレンツ型形状となる。
この場合、発振スペクトル線幅の半値全幅(FWHM)は、以下のSchawlowTownesの式で与えられる。
( )S T 
 h (f )2 nsp
P0
ここで、ν はレーザの発振周波数、hはプランク定数、Δf は光共振器帯域幅、
P0は全出力パワー、またnsp は自然放出係数を表す
半導体レーザー
半導体レーザー (Laser Diode: LD) 光を増幅する媒体が半導体からなり、
pn接合への電流注入により、電子の反転分布状態を作り出せる
特徴: ・ コンパクト (チップ本体は0.3mm角程度)
・ 取り扱い容易 (乾電池2本程度で動作可能)
・ 直接変調で数Gbpsの高速変調が可能
・ 高信頼性 (通信用のInGaAsPレーザは100万時間以上の寿命に)
・ 安価 (FTTH用LDはチップコストで数百円、CD用LDは数十円に)
電子
へき開面(鏡面)
ホール
n型
p型
チップの構造
出展: www.phlab.ecl.ntt.co.jp/master/04_module/002.html
半導体レーザの発振特性
Fabry-Perot (FP)共振器レーザー
2枚の平行に向き合った鏡によるFP型光共振器
によって正帰還が得られ発振するレーザー
発振波長間隔
 
20
縦多モード発振
Δλ
2neff L
λ0 : 発振波長の中心値
neff : 実効屈折率
L : 素子長
λ0
発振スペクトル

へき開面(鏡面)
FPレーザーの構造
回折格子
分布帰還(DFB)型レーザー
回折格子によるBragg反射により、光の分布帰還
が得られ、 Bragg波長近傍の単一波長で発振
発振波長
単一縦モード発振
  2neff 
Λ : 回折格子の周期
neff : 実効屈折率
発振スペクトル

DFBレーザーの構造
出展: www.matsuoka-lab.imr.tohoku.ac.jp/purposes.html
半導体レーザの発振スペクトル線幅
半導体レーザのスペクトル線幅は、Schawlow-Townesの式で与えられる線幅(Δν)S-T
よりも以下の係数分だけ太くなる
  (1  2 )( )ST

n'
n"
α: 線幅増大係数
Δn’: 半導体レーザ活性層内でのキャリヤ密度変化による屈折率の実部の変化
Δn”:
虚部の変化
半導体レーザのスペクトル線幅は、より具体的には以下の式で与えられる
h  c  
1  1 
  0   l L  ln  ln nsp (1   2 )
8P0  nL  
R  R 
2
h: プランク定数
ν0: 発振周波数
P0: レーザ出力
c: 光速度
n: 半導体光導波路の屈折率
αl: 半導体光導波路の伝搬損失
L: 光共振器長
R: 光共振器の端面反射率
nsp: 自然放出光係数 (通常1~2)
α: 線幅増大係数
この他、レーザ出力P0に依存しない1/f 雑音の存在も知られており、これも高出力時
に実現されるレーザの最小スペクトル線幅を決める要因ともなつている
コヒーレント光通信
インコヒーレントな電波を用いた初期の無線通信
インコヒーレントな電磁波を用いた初期の通信 電磁ノイズによる通信
1887年ヘルツは誘導コイルによる火花放電式電磁波発生器を発明
1896年マルコーニ(Marconi)は、ヘルツの電磁波発生器にアンテナとアースを
付けて2.5kmの無線電信に成功
出展: http://www.geocities.jp/hiroyuki0620785/intercomp/wireless/transatrananticexp.htm
1905年日本海海戦において、ロシア・バルチック艦隊の発見が「敵艦見ユ」と無線
電信で通報され、日露戦争の勝利を導く糸口となった
軍艦三笠に搭載の三六式無線電信機は明治36年(1903)旧制二高の木村駿吉教
授が開発。送信機は火花放電、受信機はコヒラー検波器を使ってコイル駆動で記
録紙に出力するもので、80海里以上の通信到達距離を達成
出展: http://blog.zaq.ne.jp/rootakashi/article/163/
その後真空管が発明されて、コヒーレントで強力な電磁波が発生できるようになり、
通信距離が比較的に延びることとなる
インコヒーレント通信とコヒーレント通信の違い
インコヒーレント通信
コヒーレント通信
変調周波数 > 搬送波のスペクトル線幅
変調周波数 << 搬送波のスペクトル線幅
数Hz
搬送波スペクトル
搬送波スペクトル
単一周波数による振幅変調
変調後のスペクトル
(殆ど変化していない)
変調後のスペクトル
通信には何故コヒーレントな電磁波が望ましいのか
コヒーレントな電磁波を用いる利点
コヒーレントな電磁波はスペクトル純度が高い(つまり、単一周波数)ので、受信
機において、周波数同調(選択)を行い、狭帯域の信号増幅を行うことにより、微
弱な信号でも受信できる。(長距離伝送が可能)
スペクトル純度が高い(単一周波数)ので、狭帯域の指向性アンテナなどを用い
ることができ、特定の方向にのみ強く信号を送ることができる。つまり、伝送の指
向性が高い。(長距離伝送が可能)
スペクトル純度が高く搬送波の位相が揃っているので、より早い速度での変調
が可能。また、位相や周波数を変調することも可能となり、高い伝送レートでの
信号伝送が可能。(送れる情報量が多い)
スペクトル純度が高く、占有スペクトル幅が不必要に広がらないので、同一周波
数帯を多くのチャンネルで共用できる。(周波数利用効率が高い)
このように、コヒーレントな電磁波を用いる通信は、インコヒーレントな電磁波を用い
る場合に比べて多くの利点を有している。
無線受信器の構成
アンテナ
fS
検波器
前置増幅器
(高周波増幅)
スピーカー
ベースバンド
増幅器
(低周波増幅)
等価器
(a) 直接検波型
アンテナ
fS
前置増幅器
(高周波増幅)
fIF 中間周波
混合器
増幅器
fLO
局部発振器
検波器
スピーカー
ベースバンド
増幅器
(低周波増幅)
等価器
fIF=|fS-fLO|
(b) ヘテロダイン検波型
アンテナ
fS
前置増幅器
(高周波増幅)
スピーカー
混合器
位相検出
PLL回路
fLO
局部発振器
ベースバンド
増幅器
(低周波増幅)
fS=fLO
(c) ホモダイン検波(ダイレクトコンバージョン)型
等価器
ヘテロダイン検波による受信感度の改善
今、受信信号、局部発振器の(角)周波数を各々ωS, ωLO、位相をϕS, ϕLO とし、各信号
電圧を、
VS (t)  VS sin(S t  S )
VLO (t)  VLO sin(LOt  LO ) で表すとする。
それらを混合することによる混合出力電力Pmix は、
Pm ix(t )  VS sin(S t  S )  VLO sin(LOt  LO )
2
 VS2 sin 2 (S t  S )  VLO2 sin 2 (LOt  LO )
 VSVLO cos(S  LO )t  S  LO  VSVLO cos(S  LO )t  S  LO  となる。
ここで、右辺第3項と第4項は、受信信号と局部発振信号との差周波と和周波である。
ここで、右辺第3項の差周波を中間周波数として取り出せば、その電力は受信信号と
局部発振器からの信号電圧の積に比例するので、局部発振信号を大きくすれば大
きな中間周波数信号を得ることができる。つまり、周波数混合によって増幅利得を稼
ぐことができる。
従って通常は、 VS VLO となるようにして、大きな利得を稼いでいる。
このように、ヘテロダイン(ホモダインも同様)検波では受信感度を改善できる。
各受信方式の特徴
(a) 直接検波方式
・ 構成が簡単
・ あまり感度はとれない (高い周波数の信号増幅は難しい)
・ 周波数選択性は悪い (高い周波数での狭帯域の同調回路は難しい)
(b) ヘテロダイン検波方式
・ 直接検波方式に比べて高感度 (周波数混合による利得が稼げる。信号を
より周波数の低い中間周波数に変換して増幅するので、増幅し易い。)
・ 周波数選択性に優れる (低い中間周波数なら狭帯域の同調回路が作れる)
・ 構成が複雑
(c) ホモダイン検波(ダイレクトコンバージョン)方式
・ヘテロダイン検波に比べてさらに高感度
・ 周波数選択性に優れる
・ 構成が非常に複雑
コヒーレントな電磁波の発生法
電磁波の呼び名
電
波
光
周波数
低周波
~ 数十kHz
長波
数十kHz ~ 数百kHz
中波
数百kHz ~ 数MHz
短波
数十MHz ~ 数百MHz
マイクロ波
数百MHz ~ 数GHz
ミリ波
数十GHz
THz波
数百GHz ~ 1013 Hz
赤外光
1013 Hz ~ 3.8×1014 Hz
可視光
3.8×1014 Hz
~ 8×1014 Hz
8×1014 Hz ~ 1018 Hz
X線
真空管やトランジスタによる発振器
数MHz ~ 数十MHz
超短波
紫外光
コヒーレント電磁波の発生法
1018 Hz ~
Gunnダイオード
クライストロン、マグネトロン
メーザー
パラメトリック発振器
量子カスケードレーザー
各種レーザー
SOR (synchrotron orbital radiation)
光(ファイバー)通信受信器の構成
(PD or APD)
光ファイバー等
λS
受光器
光増幅器
ベースバンド
増幅器
等価器
(光ファイバー増幅器
またはSOA)
(a) 直接検波型
λS
PD
光増幅器
fIF 中間周波 検波器 ベースバンド
光混合器
増幅器
増幅器
λLO
局部発振器
レーザー
fIF=|fS-fLO|
(b) 光ヘテロダイン検波型
等価器
光(ファイバー)通信受信器の構成
λS
PD
光増幅器
光混合器
位相検出
PLL回路
ベースバンド
増幅器
等価器
λLO
局部発振器
レーザー
λLO=λS
(c) 光ホモダイン検波型
光ホモダイン検波方式は原理的には可能であり、光ヘテロダイン検波方式に比べて
受信感度やS/N比が改善されるメリットがあるが、信号光と局部発振光を周波数の
みならず位相までも完全に同期しなければならないため、技術的には非常に難しい。
光PLL技術が必須となる。
初期の光通信
光源
変調
伝送路
復調
1960年代
He-Ne 気体レーザなど AO, MO光変調器など レンズ導波路
PD, フォトTr
1970年代
半導体レーザ直接変調
1970年に室温連続発振が得られたが、
当時はコヒーレンシーが悪かった
光ファイバー
伝搬損失が0.2dB/km
にまで下がった
PD, APD
強度変調-直接検波光通信方式
強度変調-直接検波 (Intensity Modulation - Direct Detection: IM-DD)方式
現在の光通信で広く用いられている方式。光のコヒーレンス性はあまり利用していない
変調信号
(電気)
LD
PD
光ファイバー
検波出力信号(電気)
PDによる直接検波
LDのI-L特性
光
出
力
光信号
電流
変調信号(電気)
LDの強度変調
1970年当時、半導体レーザ(LD)の
モード安定性は非常に悪かったし、
スペクトル線幅は数十~数百MHz
以上もあった。
それに対して、変調周波数は高々
数MHz程度
光ヘテロダイン検波方式
合波器(BS)
受光器(PD)
IFアンプ/
フィルター
信号光
ベースバンド
復調器
局部発振光
LD
周波数弁別器
光ヘテロダイン検波回路のブロック図
LDからの局部発振光は、信号光と偏波を一致させて受光素子に入れる必要あり
LD出力光の偏波は光安定であるが、光ファイバーを伝搬してきた光の偏波状態は
時々刻々と変化しているため、何らかの偏波制御機構が必要
通常、LDの発振波長(周波数)は揺らいでいるため、LDからの局部発振光と信号
光との周波数差(中間周波数)をモニターし、局部発振LDにフィードバックをかける
光ヘテロダイン検波における偏波制御
1. 偏波保持(PANDA)光ファイバーはあるが、価格や伝搬損失の面で長距離伝送
には不向き
2. 受信側で偏波状態を常にモニターし、光学的に補償する(直線偏波にする)手法
楕円偏光
変換
直線偏光
変換
直線偏光
異なる任意の方向に変換可能
λ/4板
λ/2板
3. 偏波ダイバシティ
2つの直交する偏光成分の光信号を別々の光回路で処理して、合成する手法
偏波ダイバシティ
信号光の二つの直交偏波成分
信号光
上段の回路はこの方向の偏波成分の信号を処理
受光器
IFアンプ/
フィルター
復調器
IFアンプ/
フィルター
復調器
偏光BS
波長板
局部発振光
電
気
的
に
合
成
下段の回路はこの方向の偏波成分の信号を処理
局部発振光の偏波状態
ヘテロダイン方式検波による受信感度改善
ヘテロダイン(含ホモダイン)検波を用いれば、ショット雑音限界に近い受信感度を
実現可能
直接検波方式
コヒーレント方式
コヒーレント光通信方式
時間的コヒーレンス
用いない
用いる
インコヒーレント
コヒーレント
IM-DD方式
?
用いない
空
間
的
コ
ヒ
ー
レ
ン
ス
非ヘテロダイン
直接検波方式
用いる
ヘテロダイン方式
ホモダイン方式
ASK方式
OOK方式
FSK方式
PSK方式
光変調方式
光ファイバー通信で用いられる変調方式
変調対象
デジタル変調
アナログ変調
多値
二値 (バイナリ)
AM (IM)
Q
ASK (OOK)
振幅変調
I
1
0
FM
1
QASK
0
FSK
Q
01
11
周波数変調
I
00
0
1
PM
0
1
10
QPSK
Q
PSK
位相変調
I
y
0
1
0
0
1
0
y
偏波変調
x
x
16QAM
Q
デジタル変調方式
OOKの場合、
I 位相は関係無い
つまり、時間的コヒーレントでなくても良いQ
Q
OOK : on-off keying
ASK : amplitude-shift keying
e e(t) = Em sin (t + j)
t
j
I
t
I 0
o
constellation map
Em
-Em
Q
QASK : quadrature amplitude-shift keying
I
FSK : frequency-shift keying
QASK
PSK : phase-shift keying
Q
Q
QPSK : quadrature phase-shift keying
1
I
DPSK : differential phase-shift keying
10
001
000
110
I
00
101
100
11
01
0
Q
I
010
111
011
BPSK
QAM : quadrature amplitude modulation
QPSK
Q
8PSK
Q
I
4QAM
(QPSK)
I
16QAM
光源
光ファイバーレーザ
アセチレン分子の吸収線に発振波長を
ロックし安定化
線幅: 6kHz
高安定で狭線幅であるが、装置としては
大型
中沢研がアドバンテスト研究所と共同開発した
波長1.5μm帯周波数安定化ファイバーレーザ
半導体レーザ
通常の設計では、DFBレーザの線幅は数MHz以上あるが、長共振器化することで
5kHzの狭線幅を得ているものもある。(アイウェーブなどがFOE2010で展示)
外部共振器型半導体レーザ
狭い帯域幅(Δ f )を有する外部共振器と
組み合わせることにより、数kHz程度の
非常に狭い線幅を得た例もある
光変調器
電界吸収(EA)型
半導体に電界を印加することにより光吸収係数が変化する効果(Franz−Keldysh
効果)などを用いて、光の強度変調を行うもの
位相変調型
電気光学(EO)効果を有する光学結晶や半導体を用いて光の位相変調を行う
通常は、干渉計と組み合わせることにより強度変調に変換して使用
入力
位相変調器
出力
Mach-Zehnder(MZ)干渉計
MZ干渉計では、光入力信号を2つに分け、
上下のブランチに位相差を付けて再び合波
して出力するもの。上下のブランチの位相
差が2πの整数倍の時は同相で合波される
ため出力されるが、位相差がπの2n+1倍(n
は整数)の時は逆相となるため出力されない。
デジタル光変調器
Data1
π/2位相シフタ
Data1
Data2
Data2
QPSK光変調器の構造
富士通が開発した100Gbps光ネットワーク用DP-QPSK LN変調器
DP-QPSK: Dual Polarization Differential Quadrature Phase Shift Keying
http://jp.fujitsu.com/group/foc/news/090914.html
デジタル光変調器
16QAM変調器
http://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h19/071107/071107.html
デジタル光受信器
I
X偏波
PBS
信号光
XI
ADC
XI
XQ
ADC
XQ
90度ハイブリッド
ミキサー
Q
DSP
局部発振
光源
Y偏波
BS
I
YI
ADC
YI
YQ
ADC
YQ
90度ハイブリッド
ミキサー
Q
デジタル コヒーレント光受信器の構成
デジタル光受信器
高橋 浩他、
PLC技術を用いたDQPSK用変調器
と復調器, NTT技術ジャーナル, p.52,
2007年11月号
石英光導波路(PLC)を用いた90度ハイブリッドミキサーの構造
デジタル光受信器
シリコンフォトニクスにより作製した90度ハイブリッドとPD
Monolithic Si coherent receiver, (Bell Lab. Alcatel-Lucent)
古典的な光の電界
a1 sinωt
古典的な光の電界は、二つの直交
位相成分の振幅の和として、
a1
E(t)  a1 sin t  a2 cost
o
ωt
a2
t
0
と書ける。
a1 とa2 は勿論一義的に確定できる
ので、E(t)は図に示すような正弦関
数として表せる。
+
a2
ωt
a1
o
a2 cosωt
0
t
a2
二つの直交位相成分の振幅
座標上の点として表せる
a1
E(t)
0
t
量子論的な光の扱い
しかし、量子論的には光のエネルギーは
量子化されており、二つの直交位相成分
の振幅a1 とa2 は非可換量であり、以下の
不確定性関係がある。
a1, a2   i
2

a12  a1  a1
a12 a22 

2
1
16
E(t)
t
0
であり、a1の分散
従って、a1 とa2 は一義的には決まらない。
a2
理想的なレーザーが発する光は、 a1 とa2 の不確
定さが共に等しく1/4であり、最小不確定状態にあ
る。(上の不等式の等号を満足している)
二つの直交位相成分の振幅座標上ではこのように
表せる (ショット雑音が顕著な場合など)
このような状態にある光をコヒーレント状態という。
a1
スクイズド状態
不確定性関係を満たす範囲で光の状態を変えることは可能。スクイズド状態という
E(t)
E(t)
t
0
E(t)
t
0
a2
a2
t
0
a2
a1
a1
a1
光子数確定状態
n,    i

n2  2 
1
4
n2  0,
 2  
70Tbps 240km伝送実験
1本の光ファイバーで69.1Tbpsのデータを240km伝送させることに成功。16QAM変調
方式と偏波多重方式を組み合わせ、1波長につき171Gbpsの信号を生成。これを432
波長多重させている。171Gbpsという伝送速度には、160Gbpsの信号を収容する場
合を想定して、誤り訂正符号と波長多重管理用オーバーヘッドバイトが含まれる。
NTT OFC2010で発表
各種コヒーレント光応用計測
光ジャイロ
リング共振器レーザが回転すると、
右回りと左回りに発振しているモー
ド間でドップラーシフトによる発振
周波数差(ビート)が生じる。従って、
ビート周波数を検出すれば、回転
角速度が分かる。
巻かれた光ファイバーを互いに逆方向
に周回する光がある場合、周回方向
に回転すると、相対論的効果によって
光に光路差が生じる(Sagnac効果)。
この光路差により二つの光の間には
位相差が生じ、これを検出することに
より、回転角速度が分かる。
ミラー
レーザ媒体
ω
ミラー
ミラー
リングレーザ ジャイロ
光ファイバー ジャイロ
光ファイバー ジャイロの原理
Sagnac効果
慣性系に対しては光速度一定というアインシュタインの特殊相対性原理より、
角速度Ωで回転する光ファイバーの回転方向と同一方向に周回する光波に対して、
光ファイバーを1周する時間 t+ は、
ct  2R  Rt  t 
2R
c  R
光ファイバーの回転方向とは反対方向に
周回する光波に対して、光ファイバーを1
周する時間 t- は、
ct  2R  Rt  t 
2R
c  R
従って、回転によって生じる光路差ΔLは、
4R2
L  c(t  t ) 
c
位相差Δϕは、
  2
L


8
A
c
各種光学測距装置
マイケルソン干渉計を用いた
光波測距儀
変調法による光波測距儀
ヘテロダイン検波レーザレーダー
小林他, 信学技報, OQE74-68 (1974)
光コヒーレンス トモグラフィー(OCT)
OCTとは
広スペクトル(時間的インコヒーレント)な光源の干渉を利用し、被測定物の内部からの
後方散乱光の強度プロファイルを検出し、高い空間分解能で可視化する技術。眼球
などの生体組織の測定に実用化されており、他の分野への応用も期待されている。
低コヒーレンス光源
コリメートレンズ
参照ミラー
光検出器
BS
対物レンズ
測定対象試料
OCTの構成
可動
原理
時間的にインコヒーレントな光
源からの光をレンズで平行光線
にし、ビームスプリッター(BS)で
2つに分け、その一方を対物レ
ンズを通して被測定物に入射さ
せて、試料内部からの後方散乱
光を対物レンズで拾い光検出器
へと導く、もう一方の光は、可動
ミラーで反射させて、光検出器
へと導く。この時、試料からの後
方散乱光と参照ミラーでの反射
光の光路長が一致した時にの
み干渉が起こり、低コヒーレンス
のため光路長が僅かでも異なる
と干渉しなくなる。これにより高
い空間分解能が得られる。
OCTの空間分解能
OCTでは、試料からの微弱な後方散乱光と可動ミラーで反射してきた参照光を同時に
光検出器に入射させ、その干渉信号を取り出している。従って、両者の光路長が光源
のコヒーレンス長の範囲内で一致している場合のみ干渉信号が得られる。
干渉信号が受かるように可動ミラーの位置を調整すれば、その位置から散乱光が生じ
た試料内部の深さが分かる。
従って、試料の深さ方向の空間分解能は光源のコヒーレンス長によって決まる。
中心波長が λ、スペクトル幅が Δλのガウス型スペクトルの光源の場合、試料深さ方向
の空間分解能は、
2 ln 2 2
z 
 
で与えられる。
一方、横方向での空間分解能は、空間的コヒーレンスの良い光であれば、対物レンズ
で集光した光ビームのウエストサイズで決まる。空間的コヒーレンスが悪いと、レンズ
で絞ってもビームウエストサイズまでは絞れず、結像してしまう。
従って、空間的コヒーレンスの良い光の場合、横方向の空間分解能は、
x 
4 f
d
で与えられる。
d: 対物レンズへの入射ビーム径
f:対物レンズの焦点距離
OCT測定システム
従ってOCTでは、スペクトル幅が広い、つまり時間的コヒーレンスが悪い光ほど高い深
さ方向の空間分解能が得られるが、横方向の空間分解能を得るためには、空間的コ
ヒーレンスの良い光が求められる。
そのような光源としては、スーパールミネッセント ダイオード(SLD)が用いられ、中心波
長0.8μm, スペクトル幅17nm, コヒーレンス長33 μm, 出力2mW程度のものが市販されて
いる。
実際の測定システムとしては、可動ミラーを一定の速度 vで動かしながら、後方散乱光
信号とヘテロダイン検波を行い、ドップラーシフトによる差周波数 f =(2v/λ)を信号として
取り出している。後方散乱光は試料深さ方向の局所的な屈折率差により生じるので、
試料深さ方向の屈折率分布が得られる。また横方向にも2次元的に試料または光学系
を動かして、最終的に3次元イメージを得ている。
OCTシステムにも各種方式があるが、上に述べたものは最も基本的なタイムドメイン点
計測型のものである。
レポート課題
以下の設問について、A4用紙2枚以内にまとめよ
1. 時間的にコヒーレントであるが空間的にインコヒーレントな光とはどのよ
うなものか?どのようにすれば実現できるのか?またその逆に、空間的
にコヒーレントであるが時間的にインコヒーレントな光とはどのようなも
のか?どのようにすれば実現できるのか?
2. 光学測定に光ヘテロダイン検波の特徴と利点について述べよ。
3. 光ファイバージャイロにおいて、光源としてのレーザのコヒーレンスは
測定にどのような影響を及ぼすのか?
〆切:8月10日(火)17:00
提出先:電子情報システム・応物系教務係(電話: 022-795-7186)
ご聴講ありがとうございました